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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L |
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管理番号 | 1119425 |
異議申立番号 | 異議2003-70220 |
総通号数 | 68 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-06-20 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-01-23 |
確定日 | 2005-04-25 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3307036号「被膜用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物、塗料もしくはゲルコート剤、及び成形材料」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3307036号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 特許第3307036号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、特願平5-303941号として、平成5年12月3日に出願され、平成14年5月17日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、株式会社日本触媒(以下、「特許異議申立人」という。)により請求項1ないし4に係る特許について特許異議の申立てがなされ、平成15年6月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年8月14日に特許異議意見書と訂正請求書が提出され、平成15年12月10日に特許異議申立人より上申書が提出され、平成16年10月8日及び平成16年12月22日に特許権者より上申書が提出されたものである。 2.訂正の適否 2-1.訂正の内容 訂正明細書の記載からみて、特許権者の求める訂正の内容は、以下のとおりのものと認める。 訂正事項a 請求項1の 「脂環族系飽和酸(但し、トリシクロデカン以上の脂肪族多環骨格を有するものを除く)、」を 「シクロヘキサンカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステルの単独あるいは2種類以上併用してなる脂環族系飽和酸、」と訂正する。 訂正事項b 「脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールであるアルコール(A-2)」を 「脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールを単独あるいは併用で使用されるアルコール(A-2)」と訂正する。 訂正事項c 請求項2の 「請求項1の樹脂組成物を主成分とする塗料もしくはゲルコート剤。」を 「請求項1の被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物を主成分とする塗料もしくはゲルコート剤。」と訂正する。 訂正事項d 請求項3の 「請求項1の不飽和ポリエステル樹脂組成物、補強材(D)及び/または充填材(E)からなることを特徴とする被覆用不飽和ポリエステル樹脂組成物。」を 「請求項1の被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物、補強材(D)及び/または充填材(E)からなることを特徴とする被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物。」と訂正する。 訂正事項e 請求項4の 「請求項1の被覆用不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなる成形品。」を 「請求項1の被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて被覆された成形品。」と訂正する。 訂正事項f 【発明の名称】の欄の 「着色不飽和ポリエステル樹脂組成物及び塗料もしくはゲルコート剤、成形材料」を 「被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物、塗料もしくはゲルコート剤、及び成形品」と訂正する。 訂正事項g 段落【0001】の 「本発明は、耐候性、耐熱水性優れた着色された不飽和ポリエステル樹脂組成物及び塗料、ゲルコート剤、その他FRP成形材料に関するものである。」を 「本発明は、耐候性、耐熱水性に優れた着色された被覆用不飽和ポリエステル樹脂組成物、塗料もしくはゲルコート剤、及びそのFRP成形品に関するものである。」と訂正する。 訂正事項h 段落【0007】の 「即ち、本発明は、脂環族系飽和酸(但し、トリシクロデカン以上の脂肪族多環骨格を有するものを除く)、脂肪族系不飽和酸(A-1)及び、脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールであるアルコール(A-2)からなる不飽和ポリエステル(A)、重合性ビニル単量体(B)と顔料(C)からなることを特徴とする被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供するものである。更に、樹脂組成物を主成分とする塗料もしくはゲルコート剤。更に、補強材(D)及び/または充填材(E)からなる被覆用不飽和ポリエステル樹脂組成物及びこれを用いた成形品を提供するものである。」を 「即ち、本発明は、シクロヘキサンカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステルの単独あるいは2種類以上併用してなる脂環族系飽和酸、脂肪族系不飽和酸(A-1)及び、脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールを単独あるいは併用で使用されるアルコール(A-2)からなる不飽和ポリエステル(A)、重合性ビニル単量体(B)と顔料(C)からなることを特徴とする被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供するものである。更に、前記樹脂組成物を主成分とする塗料もしくはゲルコート剤。更に、前記樹脂組成物と補強材(D)及び/または充填材(E)からなる被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物及び被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて被覆された成形品を提供するものである。」と訂正する。 訂正事項i 段落【0009】の 「必須成分の脂環族飽和一塩基酸としては、例えば、シクロヘキサンカルボン酸、脂環族飽和二塩基酸(但し、トリシクロデカン以上の脂肪族多環骨格を有するもの[例えばジカルボキシトリシクロデカン等]を除く)としては、例えばヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステル等が挙げられる。これらは、それぞれ単独でも2種類以上併用しても良い。」を 「必須成分の脂環族飽和一塩基酸としては、シクロヘキサンカルボン酸、脂環族飽和二塩基酸としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸 及びこれらのエステルの単独あるいは2種類以上併用である。」と訂正する。 訂正事項j 段落【0012】の 「本発明での不飽和ポリエステルの原料であるアルコール類(A-2)としては、脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールであり、」を「本発明での不飽和ポリエステルの原料であるアルコール(A-2)としては、脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールの単独あるいは併用で使用されるもので、」と訂正し、「その他アルコール等が挙げられ、単独あるいは併用で使用される。」を「その他アルコール等が挙げられる。」と訂正する。 訂正事項k 段落【0016】の 「本発明の樹脂組成物は、好ましくは不飽和ポリエステル(A)20〜90重量部と重合性単量体(B)80〜10重量部とを溶解したも100重量部に対し、顔料(C)を1〜50重量部分散させ組成物を形成する。」を 「本発明の樹脂組成物は、好ましくは不飽和ポリエステル(A)20〜90重量部と重合性単量体(B)80〜10重量部とを溶解したもの100重量部に対し、顔料(C)を1〜50重量部分散させ組成物を形成する。」と訂正する。 訂正事項l 段落【0026】の 「また文章中「部」とあるのは、重量部を示すものでる。」を 「また文章中「部」とあるのは、重量部を示すものである。」と訂正する。 訂正事項m 段落【0038】の 「5部」を「10部」と訂正する。 訂正事項n 段落【0045】の表4の着色顔料の欄の 「10部」を「5部」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求に範囲の拡張・変更の存否 訂正事項aは、請求項1における「脂環族系飽和酸(但し、トリシクロデカン以上の脂肪族多環骨格を有するものを除く)」を、願書に添付した明細書(「以下、「特許明細書」という。)の段落【0009】の記載に基づいて、特定の脂環族系飽和酸及びそれらのエステルの単独あるいは2種類以上の併用に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項bは、請求項1においては「脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールであるアルコール」と、アルコールが脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールであることのみが規定されていたが、特許明細書の段落【0012】の記載に基づいて、脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールが単独あるいは併用で使用されることを明記するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項c〜eは、請求項2〜4の記載を請求項1の記載と整合させるためのもので明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項f〜jは発明の名称の欄及び発明の詳細な説明の項の記載を、特許請求の範囲の記載と整合させるための訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項k及びlは、誤記の訂正を目的とするものである。 訂正事項mは、段落【0038】のチタンイエローの量の「5部」を特許明細書の段落【0044】の表3の着色顔料の量に基づいて「10部」に訂正するものであって、誤記の訂正を目的とするものである。 訂正事項nは、段落【0045】の表4の着色顔料の欄の「10部」を特許明細書の段落【0039】の欄の「5部」に基づいて訂正するものであって、誤記の訂正を目的とするものである。 そして、これらの訂正は、いずれも特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。 2-3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下、「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件発明 上記の結果、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】シクロヘキサンカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステルの単独あるいは2種類以上併用してなる脂環族系飽和酸、脂肪族系不飽和酸(A-1)及び、脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールを単独あるいは併用で使用されるアルコール(A-2)からなる不飽和ポリエステル(A)、重合性ビニル単量体(B)と顔料(C)からなることを特徴とする被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物。 【請求項2】請求項1の被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物を主成分とする塗料もしくはゲルコート剤。 【請求項3】請求項1の被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物、補強材(D)及び/または充填材(E)からなることを特徴とする被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物。 【請求項4】請求項1の被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて被覆された成形品。」 4.特許異議の申立についての判断 4-1.特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、甲第1〜4号証を提出して、概略、次のように主張している。 (1)本件請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)本件請求項1に係る発明は、甲第4号証を参酌すると、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (3)本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 4-2.判断 4-2-1.取消理由 当審において、平成15年6月5日付けで、次の(1)及び(2)の取消理由を通知した。引用した刊行物等は以下のとおりである。 (1)本件請求項1、2に係る発明は、実験報告書1を参酌すると、刊行物1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に違反して、特許されたものである。 (2)本件請求項1〜4に係る発明は、実験報告書1を参酌すると、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して、特許されたものである。 (註:上記4-1.及び4-2-1.の「請求項」とは訂正前のものを指す。) <刊行物等> 刊行物1:技術パンフレット(Eastman CHEMICALS Publication No.GN-307B)EASTMAN CHEMICAL PRODUCTS社、1984年11月発行(特許異議申立人が提出した甲第1号証) 刊行物2:特開平3-24122号公報(同、甲第2号証) 刊行物3:英国特許第786,926号明細書(同、甲第3号証) 実験報告書1:株式会社日本触媒 樹脂事業部技術開発グループ 富永喜一郎作成の実験報告書(同、甲第4号証) 4-2-2.刊行物1〜3の記載事項 刊行物1 (1-1)「DMCD(ジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレート)はエステルであるが、二塩基酸としてグリコールとトランスエステル化反応によりポリエステルを形成する。DMCDに基づく不飽和ポリエステル樹脂は優れたスチレン溶解性を有する。これらの樹脂から製造された透明な注型品は優れた引き裂き強度及び伸びを示し、顕著な耐候性を有する。これらの性質はDMCDに基づく樹脂を多くの強化プラスチック(RS)用途に用いるための選択候補とする。」(第2頁第2〜7行) (1-2)「略語 NPGグリコール - 2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール DMCD - ジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレート MA - 無水マレイン酸 IPA - イソフタル酸 PG - プロピレングリコール EG - エチレングリコール CHDM-S - 1,4-シクロヘキサンジメタノールのメタノール溶液」(第3頁の表1の下第1〜8行) (1-3)「試験はDMCDは不飽和ポリエステルに優れた耐候性を与えることを示した。促進耐候性試験及びフロリダにおける戸外での耐候性試験の両方において、DMCDに基づくゲルコートはほんの僅かの黄色化とともに優れた光沢保持を示した。WR-17-1DA(PG/DMCD/MA)樹脂を用いて製造されたゲルコートは対照のPG/IPA/MAゲルコートよりも遙かに優れた耐候性を有した。WR-17-1DA樹脂に基づくゲルコートはフロリダ試験の1年後又はアトラス型XW-Rカーボン-アーク ウェザオメーターで600時間暴露後にほんの少々劣化した。WR-17-2DA(NPGグリコール/DMCD/MA)樹脂から製造されたゲルコートの耐候性は、NPGグリコール/IPA/MA配合に基づく高品質ゲルコートに匹敵する。着色ゲルコートの耐候性試験の結果を、汚染試験の結果とともに表2に示す。充填材のない注型品の耐候性試験もDMCDに基づく樹脂の顕著な耐久性を示した。これらの結果を表3に示す。」(第3頁下から第12〜末行) (1-4) 「市販の汎用の積層用樹脂とともに、DMCD樹脂(表5および6)に基づく着色ゲルコートを用いて、ゲルコートした積層体を製造した。」(第5頁第1〜2行) (1-5) 表2(記載内容は略) (第4頁上段) (1-6) 表3(記載内容は略) (第4頁下段) (1-7) 「 表4 着色DMCDゲルコート配合物 組成 Wt% 顔料粉砕物 二酸化チタン R-902a 20.0 ポリエステル樹脂(スチレン中60%) 13.3 媒質ブレンド ポリエステル樹脂(スチレン中60%) 64.2 Cab-O-Sil M-5 シリカb 2.0 オクタン酸コバルト(コバルト金属6%) 0.5 100.0 メチルエチルケトンパーオキサイド 1.0 (60%ジメチルフタレート溶液) 硬化サイクル:室温で4時間硬化;150°F(66℃)で2時間後硬化。」(第5頁第13〜26行) 刊行物2 (2-1)「改良されたゲルコートにおいて使用するのに適した熱硬化性樹脂組成物であって、 (a)(i)不飽和ジカルボン酸成分の反復単位; (ii)飽和ジカルボン酸成分の反復単位; および (iii)ジオールの反復単位; から成る不飽和ポリエステルであって、不飽和ジカルボン酸成分:飽和ジカルボン酸成分のモル比が約1:2〜2:1であり、ジオール:全カルボン酸成分のモル比が約0.90〜1.30であり、ジオールの約10〜100モル%が2-メチル-1,3-プロパンジオールであり、そして合計した酸/ヒドロキシル価が不飽和ポリエステル1gあたり水酸化カリウム約30〜150mgであるもの; (b)ビニルモノマー; (c)触媒の不在下で室温での樹脂組成物のゲル化を抑制するのに効果的な量の防止剤;および (d)厚さ約5〜50ミルのフィルムとして塗布したときの樹脂組成物の垂れを実質的に抑制するのに効果的な量のチキソトロープ剤; を含み、不飽和ポリエステル:ビニルモノマーの重量比が約25:75〜90:10である上記の熱硬化性樹脂組成物。」(請求項7) (2-2)「顔料をさらに含む、請求項7記載の熱硬化性樹脂組成物。」(請求項8) (2-3)「不飽和ジカルボン酸成分はマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、アコニット酸、およびこれらの混合物より成る群から選ばれる、請求項7記載の熱硬化性樹脂組成物。」(請求項12) (2-4)「〔発明が解決しようとする課題〕 明らかに、薄い色調で、ビニルモノマーに高度に溶解性で、しかも物理的性質(強度、可撓性、および耐候性など)が増強された硬化ゲルコートを与える、改良された不飽和ポリエステルの必要性が存在している。」(第5頁右下欄第13〜18行) (2-5)「飽和ジカルボン酸成分は、遊離基付加重合によってビニルモノマーと反応する二重結合を含まないジカルボン酸または誘導体(酸無水物、エステル、酸ハロゲン化物など)でありうる。適当な飽和ジカルボン酸の例はフタル酸、・・・、ハロゲン化フタル酸(・・・)、水素化フタル酸(例、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸):環状共役ジオレフィンと不飽和ジカルボン酸とのディールス-アルダー(・・・)付加物、・・・線状脂肪族ジカルボン酸、・・・である。・・・オルトフタル酸(例えば、無水フタル酸から)とイソフタル酸が好適な飽和ジカルボン酸成分である。」(第6頁左下欄第10行〜同頁右下欄下から10行) 刊行物3 (3-1)「本発明は耐光性ポリエステル樹脂の製造における改良およびそれから得られた製品に関する。」(第1頁第12〜14行) (3-2)「我々は、マレイン酸、好ましくは無水物と、ヘキサヒドロフタル酸、好ましくは無水物とをモル比で、それぞれ0.6:0.4から0.4:0.6で、エチレングリコール、プロピレングリコールまたはジエチレングリコールのようなグリコールと、組み合わされた酸または無水物の各モル当たり約1モルで、170-210℃で加熱することによりアルキッドを調製することができることを見いだした。スチレンやビニルトルエン(o、mまたはp-、ならびにこれらの混合物)などの共重合可能なエチレン性不飽和化合物とともに架橋(共重合)することで、得られた硬化樹脂は、光による黄変に対して極めて高い抵抗性を有する。」(第1頁第30〜45行) (3-3)「表1に示す全ての不飽和アルキッドはプロピレングリコール(2.14モル)とヘキサヒドロフタル酸無水物(0.8-1.2モル)との混合物を、二酸化炭素雰囲気で撹拌しながら100℃まで加熱して調製された。その時点で、マレイン酸無水物(1.2-0.8モル)が加えられた。温度が170-180℃まで上昇され、1時間保持された後、酸価が10-60、好ましくは45-50の範囲に低下するまで、190-200℃で反応が続けられた。反応液は120℃まで冷却されたあと、ハイドロキノン(樹脂に対して100ppm)が添加された。温度は95-105℃になり、最終組成物に対して30重量%を占める量のスチレンが加えられた。混合は、二酸化炭素雰囲気で撹拌しながら行われた。」(第1頁第49〜66行) (3-4)「マレイン酸-ヘキサヒドロフタル酸の比率が0.6:0.4-0.4:0.6の範囲外である樹脂は、最大限の有用性を提供するのに存在すべき1以上の性質を欠くことは明らかであろう。マレイン酸が0.7モルまで増加すると、変色が望ましくない。マレイン酸が0.3モルに減少すると樹脂の引き裂き強度が低下する。」(第2頁左欄第12〜20行) 4-2-3.対比・判断 (1)本件発明1及び2について (1)-1. 特許法29条第1項第3項について 刊行物1には、酸成分としてジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレート(DMCD)と無水マレイン酸、アルコール成分として、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、プロピレングリコールまたはエチレングリコールを反応させて得られた不飽和ポリエステル、スチレン及び二酸化チタンを含むゲルコート用着色ポリエステル樹脂組成物が記載されている(摘示記載(1-2)、(1-3)、(1-4)、(1-5)、(1-7))。ここで、ジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレートは脂環式カルボン酸のエステル、無水マレイン酸は脂肪族系不飽和脂肪酸であり、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール及びエチレングリコールは脂肪族系アルコール、スチレンは重合性ビニル単量体で、二酸化チタンは顔料であり、ゲルコート用という用途は被覆用という上位概念の用途に含まれることは明らかである。そこで、本件発明1及び2と、刊行物1に記載された発明を対比すると、本件発明1及び2と、刊行物1に記載された発明とは、脂環族系飽和酸、脂肪族系不飽和酸及び脂肪族系アルコールからなる不飽和ポリエステル、重合性ビニル単量体と顔料からなることを特徴とする被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物またはそれを主成分とするゲルコート剤の点で一致し、本件発明1及び2では、不飽和ポリエステルの構成成分である脂環族系飽和酸が、シクロヘキサンカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステルの単独あるいは2種類以上であるのに対し、刊行物1に記載された発明では、ジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレートであるから、本件発明1及び2と、刊行物1に記載された発明は、用いられる脂環族系飽和酸において明確に異なるものである(以下、「相違点(あ)」という。)。 したがって、本件発明1及び2は、刊行物1に記載された発明ということはできない。 (1)-2. 特許法第29条第2項について (1)-2-1. 刊行物1に記載された発明に基づく容易性について 特許異議申立人は、本件発明1及び2は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができた旨主張するので、先ず、刊行物1に記載された発明に基づく容易性について判断する。 上記相違点(あ)について検討する。 刊行物1には、ジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレート(DMCD)が不飽和ポリエステルに優れた耐候性を与えることが記載されており、また、顔料で着色されたDMCDに基づくゲルコートも黄色化がほんの僅かであり、優れた光沢保持を示したことが記載されている(摘示記載(1-1)、(1-3))が、耐熱水性については何ら記載がない上、ジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレート以外の脂環族系飽和酸を用いた不飽和ポリエステルについて何ら記載がない。そして、本件発明1及び2は、脂環族系飽和酸として、シクロヘキサンカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステルの単独あるいは2種類以上併用してなる、顔料を含む不飽和ポリエステル樹脂組成物を被覆用あるいはゲルコート剤として用いることにより、耐候性、耐熱水性に優れるという本件訂正明細書に記載の効果を奏し得たものであるから、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものということはできない。 なお、特許異議申立人は、実験報告書1を提出して、訂正前の本件明細書の実施例1、7および比較例13の追試実験を試み、その結果、本件明細書に記載された、耐候性のうち、光沢に関する測定データは技術的に信頼が置き難いものであるので、刊行物1に記載された光沢劣化についての測定データが、本件明細書に記載された測定データと技術的に一致していなくても、本件発明の効果は実質的に刊行物1に記載されているか、刊行物1に記載された事項から当業者が容易に推測できるものである旨主張する。しかしながら、実験報告書1の追試実験においては、不飽和ポリエステル樹脂の製造方法や、耐候試験用FRP板の調製方法において、本件訂正明細書記載の実施例1、7及び比較例13と相違するところがあり、実験報告書1に記載された実験が、実施例1、7及び比較例13の完全な追試実験であるとは言い難い。そして、特許権者が平成16年10月8日に提出した上申書に添付された実験成績証明書によれば、同一の不飽和ポリエステルを用い、耐候試験用FRP板の調製において、特許異議申立人が実験報告書1に記載した実験において用いた積層用不飽和ポリエステル樹脂に相当する製品(特許異議申立人が使用した不飽和ポリエステル樹脂は、その製造会社の不飽和ポリエステル樹脂事業部門と他の会社の不飽和ポリエステル樹脂事業部門が合弁会社を設立したことにより入手困難となったため、該合弁会社の製造する相当する製品)を用いた、実験報告書1に記載された追試実験の再現実験、及び本件明細書の実施例1の再現実験の何れにおいても、変色度、光沢値ともに1000時間の耐候性促進試験後においても良好であるから、本件訂正明細書に記載された、耐候性のうち、光沢に関する測定データが技術的に信頼が置き難いものともいうことができない。 したがって、特許異議申立人の実験報告書1に基づく主張は採用できない。 (1)-2-2. 刊行物2、1及び3に記載された発明に基づく容易性について 刊行物2には、飽和ジカルボン酸、脂肪族系不飽和ジカルボン酸およびジオールの約10〜100モル%が2-メチル-1,3-プロパンジオールである脂肪族アルコールから成る不飽和ポリエステル、ビニルモノマーおよび顔料を含んで成る、ゲルコートを形成するのに適した不飽和ポリエステル樹脂組成物が記載されている(摘示記載(2-1)、(2-2)、(2-3))。 そこで本件発明1及び2と、刊行物2に記載された発明とを対比すると、本件発明1及び2と、刊行物2に記載された発明とは、脂肪族系不飽和酸及び脂肪族系アルコールを含有する不飽和ポリエステル、重合性ビニル単量体及び顔料からなる被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物あるいはそれを主成分とするゲルコート剤の点で一致し、さらに本件発明1および2では、不飽和ポリエステルの構成成分として、シクロヘキサンカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステルの単独あるいは2種類以上を併用してなる脂環族系飽和酸を用いるのに対し、刊行物2に記載された発明においては、飽和酸を用いる点で相違する(以下、「相違点(い)」という。) 上記相違点(い)について検討すると、刊行物2には、飽和酸として、脂環族系飽和酸である水素化フタル酸(ヘキサヒドロフタル酸、即ち、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸)も例示されている(摘示記載(2-5)。しかしながら、刊行物2に記載された発明においてはゲルコートに適した不飽和ポリエステル樹脂を得るために、特にアルコール成分として2-メチル-1,3-プロパンジオールを用いることを特徴としており、フタル酸などの芳香族系飽和酸、水素化フタル酸(ヘキサヒドロフタル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸)などの脂環族系飽和酸、アジピン酸などの脂肪族系飽和酸等の例示されている数多くの飽和酸の中から、特にヘキサヒドロフタル酸、即ち、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸を選択使用することについては何ら記載がない。そして、上記のように刊行物1には、ジメチル1,4-シクロヘキサンジカルボキシレートを用いることが記載されているだけで他の脂環族飽和酸を用いることについては何ら記載がなく、また、刊行物3においては、シクロヘキサンカルボン酸と無水マレイン酸を併用した不飽和ポリエステル樹脂組成物とエチレン性不飽和化合物とのコポリマーは耐光性がよいことが記載されているものの、刊行物3には顔料を添加した不飽和ポリエステル樹脂とエチレン性不飽和化合物とのコポリマーについても、耐熱水性についても何ら記載がない。 そうしてみると、刊行物1及び3に記載された発明を参照しても、刊行物2に記載された発明において、例示された飽和酸の中から、ヘキサヒドロフタル酸、即ち、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸を選択して用いることは当業者に容易になし得ることとはいうことができない。 そして、本件発明1及び2は、不飽和ポリエステルの構成成分として、シクロヘキサンカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステルの単独あるいは2種類以上を併用してなる、顔料を含む不飽和ポリエステル樹脂組成物を被覆用あるいはゲルコート剤として用いることにより、耐候性、耐熱水性に優れるという本件訂正明細書に記載の効果を奏し得たものであるから、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものということはできない。 (2)本件発明3について 本件発明3は、本件発明1の被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物に、さらに補強材及び/または充填材を含有する被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物に関する発明であり、(1)-2-1及び(1)-2-2に記載した、本件発明1及び2についての判断と同様の理由により、本件発明4は刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。 (3 本件発明4について 本件発明4は、本件発明1の被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて被覆された成形品に関する発明であり、(1)-2-1及び(1)-2-2に記載した、本件発明1及び2についての判断と同様の理由により、本件発明4は刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠、並びに取消理由によっては、本件発明1〜4についての特許を取り消すことができない。 また、他に本件発明1〜4についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件発明1〜4についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。 よって、平成6年改正法附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物、塗料もしくはゲルコート剤、及び成形品 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 シクロヘキサンカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステルの単独あるいは2種類以上併用してなる脂環族系飽和酸、脂肪族系不飽和酸(A-1)及び、脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールを単独あるいは併用で使用されるアルコール(A-2)からなる不飽和ポリエステル(A)、重合性ビニル単量体(B)と顔料(C)からなることを特徴とする被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物。 【請求項2】 請求項1の被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物を主成分とする塗料もしくはゲルコート剤。 【請求項3】 請求項1の被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物、補強材(D)及び/または充填材(E)からなることを特徴とする被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物。 【請求項4】 請求項1の被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて被覆された成形品。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、耐候性、耐熱水性に優れた着色された被覆用不飽和ポリエステル樹脂組成物、塗料もしくはゲルコ-ト剤、及びそのFRP成形品に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 従来、不飽和ポリエステル樹脂に顔料を添加したゲルコート塗料は、その優れた意匠性や、成形性、化学的、物理的、機械的、電気的特性を有するため各種用途に利用されている。その主な用途は、浴槽、ユニットバス、ボ-ト、漁船、タンク、車両、ハウジング等のFRPや、注型、塗料、レジンコンクリ-ト等の非FRP用である。一方、要求される重要性能に耐候性、耐熱水性が挙げられる。 【0003】 従来使用されているゲルコート塗料用不飽和ポリエステル樹脂は、機械特性、耐熱水性のバランスを考慮し、飽和酸としてフタル酸等の芳香族多塩基酸を用いた物がほとんどで有り、長期の屋外暴露により黄変等の変色や表面光沢の著しい低下が起こり耐候性が悪く問題となっている。これらの性能向上は、顔料組成の検討や紫外線吸収剤の添加、その他の方法で対応されている。しかし、根本的な解決策とはなっていない。 【0004】 そこで、試みとして常乾非架橋フッソ樹脂によるインモールドコーティングの併用が提案されている。(特開平4-12829号公報参照)しかし、この様なフッソ塗料は、耐候性は極めて優秀だが、耐熱水性が劣る。また、非常に高価でしかも成形工程を増やす事になり、経済的にも容易に受け入れられるものでもない。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、着色不飽和ポリエステル樹脂組成物により得られる硬化物の耐熱水性を損なうことなく、耐光、耐候性を改善することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、上記課題を解決すべく、不飽和ポリエステル樹脂組成を鋭意研究した結果、顔料を添加した時の特定の不飽和ポリエステル樹脂が、耐光、耐候性に優れ、かつ耐熱水性も良好なことを見い出し、本発明を完成するに至った。 【0007】 即ち、本発明は、シクロヘキサンカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステルの単独あるいは2種類以上併用してなる脂環族系飽和酸、脂肪族系不飽和酸(A-1)及び、脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールを単独あるいは併用で使用されるアルコ-ル(A-2)からなる不飽和ポリエステル(A)、重合性ビニル単量体(B)と顔料(C)からなることを特徴とする被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供するものである。更に、前記樹脂組成物を主成分とする塗料もしくはゲルコート剤。更に、前記樹脂組成物と補強材(D)及び/または充填材(E)からなる被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物及び被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて被覆された成形品を提供するものである。 【0008】 (構成) 脂環族系飽和酸、脂肪族系不飽和酸(A-1)とは、具体的には、脂環族系飽和一又は二塩基酸と、脂肪族不飽和二塩基酸等のことである。 【0009】 必須成分の脂環族飽和一塩基酸としては、シクロヘキサンカルボン酸、脂環族飽和二塩基酸としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸 及びこれらのエステルの単独あるいは2種類以上併用である。 【0010】 更に用途に応じて耐候、耐熱水性を低下させない範囲内で脂肪族系飽和二塩基酸を併用することも可能である。例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸及びこれらのエステル等がある。これらは、変性剤として必須成分と併用しても良い。 【0011】 脂肪族系不飽和二塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びそれらのエステル類である。好ましくは、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸である。これらは、それぞれ単独でも2種類以上併用しても良い。 【0012】 本発明での不飽和ポリエステルの原料であるアルコ-ル(A-2)としては、脂肪族系アルコール、脂環族系アルコールの単独あるいは併用で使用されるもので、例えば、エチレングリコ-ル、プロピレングリコ-ル、ジエチレングリコ-ル、ジプロピレングリコ-ル、1,3-ブタンジオ-ル、1,4-ブタンジオ-ル、2-メチルプロパン-1,3-ジオ-ル、ネオペンチルグリコ-ル、トリエチレングリコ-ル、テトラエチレングリコ-ル、1,5-ペンタンジオ-ル、1,6-ヘキサンジオ-ル、1,4-シクロヘキサンジメタノ-ル、水素化ビスフェノ-ルA、エチレングリコ-ルカ-ボネ-ト、等のグリコ-ルやその他アルコ-ル等が挙げられる。 【0013】 本発明に使用されるビニル重合性単量体(B)としては、分子内に1個以上の重合性二重結合を有するもので、特に限定されるものではなく、通常不飽和ポリエステル樹脂に使用される例えば、スチレン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ジビニルベンゼン、t-ブチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、ジアリルフタレ-ト、トリアリルシアヌレ-ト、さらにアクリル酸エステルメタクリル酸エステル等があり、それらとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、エチレングリコ-ルジメタクリレ-ト、ジエチレングリコ-ルジメタクリレ-ト、トリエチレングリコ-ルジメタクリレ-ト、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレ-ト、トリメチロ-ルプロパントリ(メタ)アクリレ-ト、ペンタエリスリト-ルテトラ(メタ)アクリレ-ト、ジペンタエリスリト-ルペンタ(メタ)アクリレ-ト、ジペンタエリスリト-ルヘキサ(メタ)アクリレ-ト等が挙げられる。 【0014】 これらビニル重合性単量体(B)は、2種類以上組み合わせ使用しても良い。 【0015】 本発明に使用される顔料(C)としては、好ましくは着色に使用されるもので、例えばチタンホワイト、ベンガラ、縮合アゾレッド、チタニウムイエロー、コバルトブルー、キナクリドンレッド、カーボンブラック、鉄黒、ウルトラマリングリーン、ブルー、ペリノン、紺青、イソインドリノン、クロームグリーン、シアニンブルー、グリーン等が挙げられる。紫外線安定性に優れ、ポリエステル樹脂の硬化を妨げない物が選択され、色調に応じて配合される。これらの着色用顔料は、ポリエステル樹脂に直接混合分散させるか、耐候性、耐熱水性を低下させない範囲で飽和、不飽和ポリエステル樹脂ソリッドと予め混練したカラートナーとして添加することもできる。 【0016】 本発明の樹脂組成物は、好ましくは不飽和ポリエステル(A)20〜90重量部と重合性単量体(B)80〜10重量部とを溶解したもの100重量部に対し、顔料(C)を1〜50重量部分散させ組成物を形成する。 【0017】 本発明の脂環族系不飽和ポリエステル樹脂は、脂環族飽和二塩基酸と不飽和二塩基酸、グリコ-ル又は/及び、必要に応じ脂肪族二塩基酸、加え、エステル化した反応物を重合性単量体に溶解させ、さらに顔料を分散させて組成物を得る。 【0018】 本発明の樹脂組成物には、重合禁止剤を添加するのが好ましく、重合禁止剤としては、例えば、トルハイドロキノン、ハイドロキノン、1,4-ナフトキノン、パラベンゾキノン、トリハイドロキノン、p-tert-ブチルカテコ-ル、2,6-tert-ブチル-4-メチルフェノ-ル等が挙げられる。また、それは30〜1000ppm添加し得るものである。 【0019】 また、本発明の組成物には、通常硬化促進剤が使用される。硬化促進剤としては、金属化合物を必要に応じ添加するもので、かかる金属化合物としては、例えば、コバルトナフトネ-ト、コバルトオクトネ-ト、2価のアセチルアセトンコバルト、3価のアセチルアセトンコバルト、カリウムヘキソエ-ト、ジルコニウムナフトネ-ト、ジルコニウムアセチルアセトナ-ト、バナジウムナフトネ-ト、バナジウムオクトネ-ト、バナジウムアセチルアセトナ-ト、バナジルアセチルアセトナ-ト、リチウムアセチルアセトナ-ト等不飽和ポリエステル樹脂に一般に用いられる金属化合物促進剤が用いられこれらを組み合わせて使用しても良く、また、他の促進剤例えばアミン系、含リン化合物、β-ジケトン類等公知の促進剤と組み合わせても良い。 【0020】 本発明の樹脂組成物は、通常硬化剤を添加して硬化する。添加し得る硬化剤とは、電子線硬化剤、熱硬化剤等から選択される1種類以上のものである。 【0021】 電子線硬化剤とは、例えば、ハロゲン化アルキルベンゼン、ジサルファイド、アセトフェノン、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、チオキサントン系化合物等が挙げられる。 【0022】 熱硬化剤とは、有機過酸化物が挙げられ、例えばジアシルパ-オキサイド系、パ-オキシエステル系、ハイドロパ-オキサイド系、ジアルキルパ-オキサイド系、ケトンパ-オキサイド系、パ-オキシケタ-ル系、アルキルパ-エステル系、パ-カ-ボネ-ト系等の公知の物が使用され、具体的には、メチルエチルケトンパ-オキサイド、ベンゾイルパ-オキサイド等が挙げられる。またこれらの硬化剤は混練条件、養生温度等で適宜選択される。 【0023】 さらに本発明の組成物に用いられる補強材(D)としては、例えばガラス繊維(チョップドストランドマット、ガラスロ-ビングクロス等)、炭素繊維、有機繊維(ビニロン、ポリエステル、フェノ-ル等)、金属繊維等が挙げられ、10〜70重量%併用しFRPとすることができる。 【0024】 また本発明の組成物に用いられる充填材(E)としては、例えば炭酸カルシウム、タルク、マイカ、クレ-、シリカパウダ-、コロイダルシリカ、アスベスト粉、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、ガラス粉、アルミナ粉、硅石粉、ガラスビ-ズ、砕砂等が挙げられ、これらを配合してパテ、シ-リング剤や被覆材として使用することができる。また布、クラフト紙等への含浸補強する材料としても有効である。 【0025】 本発明の樹脂組成物は、被覆用途、例えば、塗料、ゲルコ-ト剤、ライニング材等として用いられる。そうした場合、必要によりさらに、難燃剤、紫外線安定剤等の添加剤を入れても良い。特にさらに耐候性を向上させる添加剤で紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系化合物が挙げられ、紫外線安定剤としては、ヒンダートアミン系が挙げられ適宜選択され使用される。 【0026】 【実施例】 以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また文章中「部」とあるのは、重量部を示すものである。 【0027】 製造例1 脂環族不飽和ポリエステル (H-1)の製造 温度計、撹拌器、不活性ガス導入口、及び還流冷却器を備えた1Lの4つ口フラスコにネオペンチルグリコール208部、プロピレングリコール88部、ヘキサヒドロ無水フタル酸192部、無水マレイン酸171部を仕込み、210℃まで昇温し、エステル化反応を行い、15時間反応後、スチレンモノマ-400部、 ハイドロキノン0.1部を加え、不揮発分60%、酸価10、粘度4.5ポイズの不飽和ポリエステル樹脂組成物を得た。 【0028】 製造例2 脂環族不飽和ポリエステル (H-2)の製造 製造例1と同様にして1Lフラスコにヘキサヒドロ無水フタル酸の替わりに1,3シクロヘキサンジカルボン酸を215部仕込み同様に反応させた。 不揮発分60%、酸価8、粘度4.6ポイズの樹脂組成物を得た。 【0029】 製造例3 脂環族不飽和ポリエステル (H-3)の製造 製造例1と同様にして1Lフラスコにヘキサヒドロ無水フタル酸の替わりに1,4シクロヘキサンジカルボン酸を215部仕込み同様に反応させた。 不揮発分60%、酸価7、粘度4.6ポイズの樹脂組成物を得た。 【0030】 製造例4 芳香族不飽和ポリエステル (P-1)の製造 製造例1と同様にして1Lフラスコにヘキサヒドロ無水フタル酸の替わりに無水フタル酸を185部仕込み同様に反応させた。 不揮発分60%、酸価12、粘度5.0ポイズの樹脂組成物を得た。 【0031】 製造例5 芳香族不飽和ポリエステル (P-2)の製造 製造例1と同様にして1Lのフラスコにネオペンチルグリコール208部、プロピレングリコール88部、イソフタル酸207部を仕込み、210℃で酸価10まで反応した。150℃まで冷却し無水マレイン酸171部を仕込み、210℃まで昇温し、エステル化反応を行い、15時間反応後、スチレンモノマ-400部、ハイドロキノン0.1部を加え、不揮発分60%、酸価7、粘度5.5ポイズの不飽和ポリエステル樹脂組成物を得た。 【0032】 製造例6 芳香族不飽和ポリエステル (P-3)の製造 製造例1と同様にして1Lのフラスコにネオペンチルグリコール208部、プロピレングリコール88部、テレフタル酸207部、ジブチル錫オキシド0.5部を仕込み、210℃で酸価5まで反応した。150℃まで冷却し無水マレイン酸171部を仕込み、210℃まで昇温し、エステル化反応を行い、15時間反応後、スチレンモノマ-400部、ハイドロキノン0.1部を加え、不揮発分60%、酸価7、粘度5.8ポイズの不飽和ポリエステル樹脂を得た。 【0033】 実施例1〜3及び比較例1〜3 上記製造例で製造した脂環族系不飽和ポリエステル(H-1〜3)と芳香族系不飽和ポリエステル(P-1〜3)を用いて下記に示した配合で着色樹脂組成物を得た。 【0034】 (着色ゲルコート試験配合) 不飽和ポリエステル樹脂 15部 チタンホワイト(CR-90、石原産業(株)製) 10部 を三本ロールで混練し良く分散させる。更に 不飽和ポリエステル樹脂 65部 微粉末シリカ(#200、日本アエロジール(株)製) 2部 ナフテン酸Co溶液(Co濃度:6重量%) 0.5部 スチレンモノマー(粘度調節用) 5〜8部 を配合しロールで良く混練させた。 【0035】 粘度を20〜24ps、揺変度5〜6に調整した。この様にして得られた着色ゲルコートを用いて下記の試験を行い、結果を表1に示した。 【0036】 実施例4〜6及び比較例4〜6 上記製造例で製造した脂環族系不飽和ポリエステル(H-1〜3)と芳香族系不飽和ポリエステル(P-1〜3)を用いて下記に示した配合で着色樹脂組成物を得た。 【0037】 (着色ゲルコート試験配合) 不飽和ポリエステル樹脂 15部 キナクリドンレッド系顔料(大日本インキ化学(株)製) 5部 を三本ロールで混練し良く分散させる。更に 不飽和ポリエステル樹脂 70部 微粉末シリカ(#200、日本アエロジール(株)製) 2部 ナフテン酸Co溶液(Co濃度:6重量%) 0.5部 スチレンモノマー(粘度調節用) 5〜8部 を配合しロールで良く混練させた。 粘度を20〜24ps、揺変度5〜6に調整した。この様にして得られた着色ゲルコートを用いて下記の試験を行い、結果を表2に示した。 【0038】 実施例7〜9及び比較例7〜9 上記実施、比較例と同様にして、上記製造例で製造した樹脂と顔料はチタンイエロー(TY-55、石原産業(株)製) 10部 を用いて着色樹脂組成物を得た。得られた着色ゲルコートを用いて下記の試験を行い、結果を表3に示した。 【0039】 実施例10〜12及び比較例10〜12 上記実施、比較例と同様にして、上記製造例で製造した樹脂と顔料はシアニンブルー系顔料(大日本インキ化学(株)製) 5部 を用いて着色樹脂組成物を得た。得られた着色ゲルコートを用いて下記の試験を行い、結果を表4に示した。 【0040】 比較例13〜18 上記製造例で製造した脂環族系不飽和ポリエステル(H-1〜3)と芳香族系不飽和ポリエステル(P-1〜3)を用いて下記に示した配合で透明樹脂組成物を得た。 【0041】 (透明ゲルコート試験配合) 不飽和ポリエステル樹脂 85部 微粉末シリカ(#200、日本アエロジール(株)製) 2部 を三本ロールで混練し良く分散させる。更に ナフテン酸Co溶液(Co濃度:6重量%) 0.5部 スチレンモノマー(粘度調節用) 10〜13部 を配合しロールで良く混練させた。 粘度を20〜24ps、揺変度5〜6に調整した。この様にして得られた透明ゲルコートを用いて下記の試験を行い、結果を表5に示した。 【0042】 【表1】 【0043】 【表2】 【0044】 【表3】 【0045】 【表4】 【0046】 【表5】 【0047】 1)耐候、耐水試験用FRP板の調製法 実施例、比較例で得られたゲルコートに55%メチルエチルケトンパ-オキサイド1.0%を添加して撹拌し、均一分散後、離型剤(フリコートFRP、FREKOTE社)を塗布したガラス板上にスプレー塗布し、その後常温で1時間放置後、60℃で30分更に硬化させ、膜厚約0.5mmのゲルコート層を得た。冷却後、得られた塗膜に、サーフェイスマット(S)、450g/m2ガラスチョップストランドマット(M)、570g/m2ガラスロ-ビングクロス(R)に積層用樹脂(商品名ポリライトFH-286、大日本インキ化学工業(株)製)を用い(S)+(M)+(R)+(M)の構成でL型コ-ナ-部で重なり合うように一度に成形した。なおこの時、6%ナフテン酸コバルト0.2部、55%メチルエチルケトンパ-オキサイド1.0部を用いた。そして、常温で2時間放置した後、更に50℃で3時間後硬化させた。冷却後ガラス板よりFRP成形品を剥離し試験片とした。 【0048】 2)耐候性試験方法 1)で得た試験板から50mm×50mmの試験片を切り出し、耐候試験片を作製した。耐候試験法としては、サンシャインウエザオメ-タ-(スガ試験機(株)製WEL-SUN-HCH-B型)を用いて促進耐候試験を行った。 【0049】 試験条件:温度 63±3℃ サイクル 120分中18分降雨 時間 1500h 3)耐候性の評価 ・試験後の試験片の色差を測定した。測定機器は、色差計(日本電色工業(株)製 Σ80型)を使用した。なお、色差の数字は、小さければ小さいほど、変色の度合いが少ないことを示している。 ・試験後の試験片の光沢を測定し、三段階評価を行った。測定機器は、光沢計((株)村上色彩技術研究所製 GM-5型)を使用した。測定角は、60度で行った。判定は、下記の基準で三段階評価した。 【0050】 なお、目視で確認し光沢が著しく低下した物は、試験は1000時間で中止した。 【0051】 【0052】 4)耐熱水試験 1)で得た試験板から100mm×100mmの試験片を切り出し、直径70mmの丸い窓の開いた片面煮沸装置に試験片を取付け、耐熱水試験を行った。 【0053】 試験条件:温度 80±3℃ 時間100h 【0054】 5)耐熱水性の評価 試験後の試験片の表面状態を目視により判定した。 ほとんど変化無し ○ ふくれが発生している。 △ ふくれが発生し、光沢も無い × 【0055】 【発明の効果】 本発明の樹脂組成物は、硬化物の耐光、耐候性に優れかつ、耐熱水性能を有するため、各種用途のFRP成形品や被覆用樹脂として使用できる。 【0056】 本発明の組成物は、顔料を添加しない時耐候性が悪いことから、顔料を添加した時、不飽和ポリエステル樹脂と顔料成分とが光化学反応において増感作用が極めて低く、顔料界面から起こる樹脂の分解が少ないため、耐光、耐候性に優れ、かつ耐熱水性も良好であるものと考えられる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-04-07 |
出願番号 | 特願平5-303941 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 森川 聡 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
佐野 整博 船岡 嘉彦 |
登録日 | 2002-05-17 |
登録番号 | 特許第3307036号(P3307036) |
権利者 | 大日本インキ化学工業株式会社 |
発明の名称 | 被覆用着色不飽和ポリエステル樹脂組成物、塗料もしくはゲルコート剤、及び成形品 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 青山 正和 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 松本 武彦 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 高橋 勝利 |
代理人 | 西 和哉 |
代理人 | 高橋 勝利 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 青山 正和 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 西 和哉 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 村山 靖彦 |