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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08K 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C08K 審判 全部申し立て 出願日、優先日、請求日 C08K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08K 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08K |
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管理番号 | 1119452 |
異議申立番号 | 異議2003-70936 |
総通号数 | 68 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-05-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-04-09 |
確定日 | 2005-06-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3364250号「色調の改良された赤リン難燃剤及びこれを含むガラス繊維強化難燃性プラスチック組成物」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3364250号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 |
理由 |
[1].手続きの経緯 特許第3364250号に係る発明についての出願は、平成4年10月15日に特許出願され、平成14年10月25日に特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 日本化学工業株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立がなされ、平成16年3月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年6月4日に特許異議意見書及び訂正請求書が提出され、平成17年1月11日付けで訂正拒絶理由が通知されたところ、その指定期間内に特許権者からは何らの応答もなされなかったものである。 [2].本件の出願日 本件の審査過程において平成14年6月10日付けで提出された手続補正書により、特許請求の範囲の 「【請求項1】硫化亜鉛を含有した熱硬化性樹脂により被覆されたことを特徴とする赤リン難燃剤、及び該赤リンを5〜25重量部、熱可塑性プラスチック100重量部、ガラス繊維30〜200重量部よりなる難燃性プラスチック組成物。」が 「【請求項1】酸化亜鉛を含有した熱硬化性樹脂により被覆されたことを特徴とする赤リン難燃剤。 【請求項2】上記赤リンを5〜25重量部、熱可塑性プラスチック100重量部、ガラス繊維30〜200重量部よりなる難燃性プラスチック組成物。」 と補正されたが、本件出願の願書に最初に添付した明細書には、硫化亜鉛を含有した熱硬化性樹脂により赤リン難燃剤を被覆することは記載されているものの、酸化亜鉛を含有した熱硬化性樹脂により赤リン難燃剤を被覆することは全く記載されておらず、このことは、自明の技術的事項でもない。 したがって、取消理由通知書で指摘したとおり、当該補正は明細書の要旨を変更するものであるから、特許法(平成2年法)第40条の規定により、本件の特許出願は、その補正について手続補正書が提出された平成14年6月10日にしたものとみなす。 [3].訂正の適否についての判断 ア.訂正の内容 特許権者が求めた訂正の内容は以下のとおりである。 訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の「酸化亜鉛」を「硫化亜鉛」と訂正する。 イ.訂正を認めることができない理由 (1)訂正の目的について 訂正前の特許明細書の発明の詳細な説明には、「【課題を解決するための手段】 以下に本発明に係わる赤リン難燃剤の構成を具体的に説明すると,その要旨は,赤リンを硫化亜鉛を含む熱硬化性樹脂で被覆することを特徴とする赤リン難燃剤である。」(段落【0004】)、「【作用】 本発明は赤リンを硫化亜鉛を含む熱硬化性樹脂で被覆することにより,特有の暗赤色を隠蔽し,外殻用成形品としても使用可能な難燃性プラスチックを可能にし,而もガラス繊維強化材料に対しても物性を損なうことのない赤リン難燃剤を提供するものであり,その産業上の価値は大きい。」(段落【0008】)及び「【実施例】 平均粒子径10μmの赤リン100重量部を硫化亜鉛30重量%を含有したフェノ-ル樹脂50重量部で被覆した白色被覆赤リン10重量部,ナイロン6樹脂90重量部,ガラス繊維70重量部を混合し,40mmφ単軸押出機によりペレットを作成した。」(段落【0009】)と、「硫化亜鉛」についての記載がなされている。 訂正前の明細書には請求項1における「酸化亜鉛」と発明の詳細な説明における上記「硫化亜鉛」とが一致していないという記載不備があるとしても、訂正前の請求項1に記載された「酸化亜鉛」はそれ自体明りょうな技術用語であって、「酸化亜鉛」のままで請求項1の記載は十分意味が通じるものであり、該明細書の記載からは、「硫化亜鉛」が正しく「酸化亜鉛」が誤りであると認定することはできないから、この記載不備を解消すべく「酸化亜鉛」を「硫化亜鉛」とすることが「誤記」を訂正することになるということはできず、当該訂正が誤記の訂正を目的とするものとは認められない。 更に、この訂正により、特許請求の範囲が減縮されるとも、「酸化亜鉛」が明りょうになるとも認められないので、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的とするものとはいえない。 (2)特許請求の範囲の実質的変更について 特許権者が主張する本件の審査過程における補正の内容、及び、訂正前の明細書中には「硫化亜鉛」が10カ所に記載されているのに対して「酸化亜鉛」は請求項1以外には記載されていない点等の事情を勘案して、仮に、訂正前の請求項1に記載された「酸化亜鉛」は「硫化亜鉛」の誤記であり、当該訂正はこの誤記の訂正を目的とするものと認められたとしても、「酸化亜鉛」を技術的に明確に異なる「硫化亜鉛」に換えることによって特許請求の範囲の技術内容は全く異なるものとなるので、このような訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものといわざるを得ない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、当該訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書及び第3項において準用する特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。 [4].本件発明 上記のように、平成16年6月4日付け訂正請求書による訂正が認められない結果、本件請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 酸化亜鉛を含有した熱硬化性樹脂により被覆されたことを特徴とする赤リン難燃剤。 【請求項2】 請求項1に記載の赤リン難燃剤を5〜25重量部、熱可塑性プラスチック100重量部、ガラス繊維30〜200重量部よりなる難燃性プラスチック組成物。」 [5].特許異議の申立についての判断 1.特許異議申立人の主張 特許異議申立人は特許異議申立書に添付して甲第1号証及び参考資料1を提出して、以下のように主張している。 (1)本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)本件特許明細書の記載には不備があり、本件特許出願は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない。 2.取消理由通知の概要 当審において平成15年5月29日付けで通知した取消理由通知の概要は、「本件の特許出願は、明細書の要旨を変更する手続補正がなされた平成14年6月10日にしたものとみなす」とした上で、請求項1及び2に係る発明についての特許は、次の(i)〜(iii)の理由によって取り消すべきものであるというものであり、引用した刊行物は下記のとおりである。 (i)本件請求項1に係る発明は刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (ii)本件請求項2に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。 (iii)本件特許明細書の記載には不備があるから、本件特許出願は、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定された要件を満たしていない。 <刊行物> 刊行物1:特開平4-130007号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証) 刊行物2:特開平6-128413号公報(本件の公開公報) 3.特許法第29条第1項(第3号に該当)ないし同条第2項違反について 3-1.刊行物1及び2の記載事項 刊行物1 (1-1)「赤リンの粒子表面に、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタンから選ばれた少なくとも一種以上の実質的に無水の金属酸化物と熱硬化性樹脂の複合皮膜を形成してなることを特徴とする安定化赤リン。」(特許請求の範囲の請求項1) (1-2)「ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、含水無機質充填剤20〜200重量部および請求項1記載の安定化赤リンを0.1〜50重量部配合してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物」(特許請求の範囲の請求項2) (1-3)「本発明において、安定化赤リンを各種可燃性ポリオレフィン樹脂に対する難燃剤として使用する場合、安定化赤リンはポリオレフィン樹脂100重量部に対し該安定化赤リンを0.1〜50重量部配合するが、好ましくは、0.5〜30重量部の範囲が好適である。約0.1重量部未満では充分な難燃効果が得られず、約50重量部を越えると樹脂特性を損なう。」(第4頁右上欄第7〜14行) (1-4)「前記の安定化赤リンと共に含水無機充填剤、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム又は水酸化ジルコニウム等を用いる。該充填剤は、安定化赤リンと併用することにより赤リンの難燃効果を相乗的に高め、単独では得られない高い難燃効果を付与することができる。」(第4頁右上欄第15行〜同頁左下欄第1行) 刊行物2 (2-1)「硫化亜鉛を含有した熱硬化性樹脂により被覆されたことを特徴とする赤リン難燃剤,及び該赤リンを5〜25重量部,熱可塑性プラスチック100重量部,ガラス繊維30〜200重量部よりなる難燃性プラスチック組成物」(特許請求の範囲) 3-2.特許法第29条第1項(第3号に該当)違反について 刊行物1には、「赤リンの粒子表面に、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタンから選ばれた少なくとも一種以上の実質的に無水の金属酸化物と熱硬化性樹脂の複合皮膜を形成してなることを特徴とする安定化赤リン」(摘示記載(1-1)))が記載されており、この安定化赤リンをポリオレフィン系樹脂に配合して難燃性樹脂組成物(摘示記載(1-2))とすることも記載されているところからみて、該安定化赤リンは難燃性を付与する機能を有する薬剤、即ち「難燃剤」と称すべきものであるということができる。 そうすると、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、ともに「酸化亜鉛を含有した熱硬化性樹脂により被覆されたことを特徴とする赤リン難燃剤」に係るものであるから、本件発明1は刊行物1に記載された発明である。 3-3.特許法第29条第2項違反について 本件発明2は、本件発明1の赤リン難燃剤を5〜25重量部、熱可塑性プラスチック100重量部、ガラス繊維30〜200重量部よりなる難燃性プラスチック組成物に係るものである。 上記のとおり、刊行物1の請求項1には、本件発明1の赤リン難燃性剤が記載されており、また、請求項2には、「ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、含水無機質充填剤20〜200重量部および請求項1記載の安定化赤リンを0.1〜50重量部配合してなる難燃性樹脂組成物」(摘示記載(2-2))が記載されている。この「難燃性樹脂組成物」は含水無機質充填剤を配合したものであるが、同刊行物には、「本発明において、安定化赤リンを各種可燃性ポリオレフィン樹脂に対する難燃剤として使用する場合、安定化赤リンはポリオレフィン樹脂100重量部に対し該安定化赤リンを0.1〜50重量部配合するが、好ましくは、0.5〜30重量部の範囲が好適である。」(摘示記載(1-3))、及び、「前記の安定化赤リンと共に含水無機充填剤、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム又は水酸化ジルコニウム等を用いる。該充填剤は、安定化赤リンと併用することにより赤リンの難燃効果を相乗的に高め、単独では得られない高い難燃効果を付与することができる。」(摘示記載(1-4))と記載されており、含水無機質充填剤は「安定化赤リンと併用することにより赤リンの難燃効果を相乗的に高め」るために付加的にポリオレフィン樹脂に配合されるものであるから、同刊行物には、含水無機質充填剤を配合しない「ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し請求項1記載の安定化赤リンを0.1〜50重量部配合してなる難燃性樹脂組成物」も実質的に記載されているものというべきである。 そして、「請求項1記載の安定化赤リン」とは上記のとおり本件発明1の赤リン難燃剤と一致するものであり、「ポリオレフィン系樹脂」が熱可塑性樹脂に属する樹脂であることは当業者間に周知であるから、刊行物1には、本件発明1の赤リン難燃剤を熱可塑性樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部の範囲で配合した難燃性樹脂組成物が開示されているということができ、この配合量範囲は、本件発明2における熱可塑性プラスチックに対する赤リン難燃剤の配合量範囲と重複している。 刊行物1には、このような難燃性樹脂組成物にガラス繊維を配合することは記載されていないが、樹脂被覆された赤リン難燃剤を含有する熱可塑性樹脂組成物において、樹脂100重量部に対して30〜200重量部のガラス繊維を配合することは刊行物2に記載されたところであり、刊行物1に記載された上記難燃性樹脂組成物においてこの程度の量のガラス繊維を配合することは、当業者が容易になし得たものというべきである。 したがって、本件発明2は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.特許法第36条第4項及び同条第6項第1号違反について 本件特許明細書の特許請求の範囲には、 「【請求項1】酸化亜鉛を含有した熱硬化性樹脂により被覆されたことを特徴とする赤リン難燃剤。 【請求項2】上記赤リンを5〜25重量部、熱可塑性プラスチック100重量部、ガラス繊維30〜200重量部よりなる難燃性プラスチック組成物。」 と記載されているが、発明の詳細な説明には、硫化亜鉛を含有した熱硬化性樹脂についての記載はあるが、酸化亜鉛を含有した熱硬化性樹脂についての記載は全くない。 したがって、発明の詳細な説明には、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているものということはできず、また、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるということもできない。 [6].むすび 以上のとおりであるから、本件発明1についての特許は特許法第29条第1項(第3号に該当)の規定に違反してされたものであり、本件発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 更に、本件発明1及び2の特許は、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定された要件を満たしていない特許出願についてされたものである。 したがって、本件発明1及び2についての特許は、特許法第113条第1項第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2005-04-12 |
出願番号 | 特願平4-304728 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
ZB
(C08K)
P 1 651・ 121- ZB (C08K) P 1 651・ 853- ZB (C08K) P 1 651・ 03- ZB (C08K) P 1 651・ 537- ZB (C08K) P 1 651・ 536- ZB (C08K) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 藤本 保 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
船岡 嘉彦 石井 あき子 |
登録日 | 2002-10-25 |
登録番号 | 特許第3364250号(P3364250) |
権利者 | 岸本産業株式会社 |
発明の名称 | 色調の改良された赤リン難燃剤及びこれを含むガラス繊維強化難燃性プラスチック組成物 |
代理人 | 大前 要 |