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審決分類 審判 判定 審理一般(別表) 属さない(申立て成立) E04H
管理番号 1119491
判定請求番号 判定2005-60019  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1998-06-23 
種別 判定 
判定請求日 2005-03-29 
確定日 2005-07-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3538289号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「制震装置」は、特許第3538289号の請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明のいずれの技術的範囲にも属しない。 
理由 【1】請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号写真及びイ号図面並びにイ号説明書に示す「制震装置」(以下、「イ号物件」という。)が、特許第3538289号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明のいずれの技術的範囲にも属さない、との判定を求めるものである。

【2】本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「柱と梁で構築された架構内に配置され構造物の振動を抑えるトグル機構を用いた振動制御装置において、前記架構の上階梁に一端が回転可能に取付けられた短ブレース材と、前記架構の下階梁に一端が回転可能に取付けられた長ブレース材と、前記短ブレース材と前記長ブレース材の自由端の連結部が回転可能に連結され、構造物にエネルギーが入力されていない状態で、短ブレース材の前記一端と長ブレース材の前記一端を結ぶ線より前記下階梁側に位置し、前記上階梁と前記下階梁が相対変形することで大きく移動して建物の振動を抑制するエネルギー低減吸収手段と、を有することを特徴とするトグル機構を用いた振動制御装置。」

そして、本件発明1の構成は、次のように分説される。
A.柱と梁で構築された架構内に配置され構造物の振動を抑えるトグル機構を用いた振動制御装置において、
B.前記架構の上階梁に一端が回転可能に取付けられた短ブレース材と、前記架構の下階梁に一端が回転可能に取付けられた長ブレース材と、
C.前記短ブレース材と前記長ブレース材の自由端の連結部が回転可能に連結され、構造物にエネルギーが入力されていない状態で、短ブレース材の前記一端と長ブレース材の前記一端を結ぶ線より前記下階梁側に位置し、前記上階梁と前記下階梁が相対変形することで大きく移動して建物の振動を抑制するエネルギー低減吸収手段と、
D.を有することを特徴とするトグル機構を用いた振動制御装置。
(以下、上記A〜Dを本件発明1の「構成要件A」等という。)

本件特許の請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という。)は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項2に記載された次のとおりのものである。
「柱と梁で構築された架構内に配置され構造物の振動を抑えるトグル機構を用いた振動制御装置において、前記架構の上階梁に一端が回転可能に取付けられた長ブレース材と、前記架構の下階梁に一端が回転可能に取付けられた短ブレース材と、前記短ブレース材と前記長ブレース材の自由端の連結部が回転可能に連結され、構造物にエネルギーが入力されていない状態で、短ブレース材の前記一端と長ブレース材の前記一端を結ぶ線より前記上階梁側に位置し、前記上階梁と前記下階梁が相対変形することで大きく移動して建物の振動を抑制するエネルギー低減吸収手段と、を有することを特徴とするトグル機構を用いた振動制御装置。」

そして、本件発明2の構成は、次のように分説される。
E.柱と梁で構築された架構内に配置され構造物の振動を抑えるトグル機構を用いた振動制御装置において、
F.前記架構の上階梁に一端が回転可能に取付けられた長ブレース材と、前記架構の下階梁に一端が回転可能に取付けられた短ブレース材と、
G.前記短ブレース材と前記長ブレース材の自由端の連結部が回転可能に連結され、構造物にエネルギーが入力されていない状態で、短ブレース材の前記一端と長ブレース材の前記一端を結ぶ線より前記上階梁側に位置し、前記上階梁と前記下階梁が相対変形することで大きく移動して建物の振動を抑制するエネルギー低減吸収手段と、
H.を有することを特徴とするトグル機構を用いた振動制御装置。
(以下、上記E〜Hを本件発明2の「構成要件E」等という。)

【3】イ号物件
請求人が提出した判定請求書に添付したイ号写真及びイ号図面並びにイ号説明書の記載からみて、イ号物件は、次のように特定される。
a.柱と梁で構築された建物に配置された、ある角度で接合された2本のブレース部材一対で建物の振動を抑える制震装置であって、
b.それぞれのブレース部材の対は、柱・梁のコーナー部に取付けられたガセットプレートに、コーナークレビスをピンシャフトにより結合されたブレース部材1と、前記コーナー部と対向する梁の中央に取付けられたガセットプレートにコーナークレビスをピンシャフトにより結合されたブレース部材2により構成され、
c.前記ブレース部材1とブレース部材2のそれぞれの中央クレビスが中央ピンシャフトにより接合され、2本のブレース部材は、ある角度をもって接続され、2本のブレース部材の接合部にダンパー中央クレビスが接合され、上下間の層間変位よりも大きな変位が作用して振動エネルギーを吸収するオイルダンパー部材と、
d.を有する、ある角度で接合された2本のブレース部材一対で建物の振動を抑える制震装置。
(以下、上記a〜dをイ号物件の「構成a」等という。)

【4】当事者の主張
本件発明1及び2が、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものであって、その構成が、上記【2】のとおりであることについて、請求人及び被請求人の間に争いはない。
また、イ号物件について、その構成が、上記【3】のとおりであることについて、請求人及び被請求人の間に争いはない。
そして、イ号物件が、それぞれ本件発明1の構成要件Aと構成要件Dを充足し、本件発明2の構成要件Eと構成要件Hを充足していることについて、請求人及び被請求人の間に争いはない。
本件発明1の構成要件B及び本件発明2の構成要件Fと、イ号物件の構成bの関係についての、請求人及び被請求人の主張は、以下のとおりである。

〔1〕請求人の主張の概要
1.「短ブレース材」と「長ブレース材」について
出願当初の明細書においては、特許請求の範囲の記載には、2つのブレース材について、「第1ブレース材」及び「第2ブレース材」と表現されており、「短ブレース材」及び「長ブレース材」とは記載されておらず、それらは、平成15年6月25日付け手続補正書によって補正されたものであり、2つのブレース材を「短ブレース材」及び「長ブレース材」と補正したことは、単に2つのブレース材を区別するためではなく、2つのブレース材が短いブレース材と長いブレース材で構成されていることを特定したものと理解するのが自然であり、本件発明1及び2の「短ブレース材」及び「長ブレース材」が同じ長さのブレース材を含むものとする余地はない。
よって、イ号物件の2つのブレース部材は、本件発明1の構成要件B又は本件発明2の構成要件Fの「短ブレース材」と「長ブレース材」には相当せず、イ号物件は構成要件B及び構成要件Fを充足しない。

2.ブレース材の取付位置について
出願当初の明細書においては、特許請求の範囲の記載には、ブレース材の取付位置は特定されておらず、「第1ブレース材」を架構の上階梁に取付け、「第2ブレース材」を架構の下階梁に取付けるとの限定は、平成15年1月6日付け手続補正書によってされたものである。そして、その技術的意義は、想定以上の外力が建物に作用し、終局状態に至っても、柱が崩壊する前に梁が崩壊するような位置にブレース材を取付けるということにある。そして、ブレース材を、柱・梁のコーナー部に取付けたときは、梁と共に、柱にも力が加わるので、柱が崩壊する前に、梁が崩壊するとは一概にいえないことから、本件発明1及び2のブレース材の取付位置は、柱・梁のコーナー部を含まない「上階梁」、「下階梁」の部分を意味すると解される。
よって、イ号物件のブレース部材1及びブレース部材2は、一方がガセットプレートを介して柱・梁のコーナー部に取付けられるから、柱が崩壊する前に梁が崩壊する位置ということはできず、イ号物件は構成要件B及び構成要件Fを充足しない。

3.公知技術からの構成要件B及び構成要件Fの解釈
本件発明2の「短ブレース材」及び「長ブレース材」が実質的に同一の長さであるものを含むと解し、また、「上階梁」及び「下階梁」が柱・梁のコーナー部も含むものと解すると、本件発明2は、本件特許に係る明細書に従来技術として引用された特開平5-256045号公報(甲第8号証)に記載されていることになり、特許法第29条第1項の特許を受けることができない発明となる。したがって、本件発明2の「短ブレース材」及び「長ブレース材」が実質的に同一の長さであるものを含み、かつ、「上階梁」及び「下階梁」が柱・梁のコーナー部も含むものと解する余地はない。本件発明1についても同様である。
よって、イ号物件は、構成要件B及び構成要件Fを充足しない。

〔2〕被請求人の主張の概要
1.「短ブレース材」と「長ブレース材」について
「第1ブレース材」と「第2ブレース材」を「短ブレース材」と「長ブレース材」に補正したのは、発明を明確にしたに過ぎない。出願経過から見ても、第1ブレース材(短ブレース材)と第2ブレース材(長ブレース材)が同じ長さの構成を含むものであり、特許請求の範囲から2つのブレース材の長さが同じものを意識的に除外したものではない。

2.ブレース材の取付位置について
本件特許明細書の段落0014に、「相対変形を生じる所であれば、取付場所は限定されず」と記載されていることから、本件特許の短ブレース材と長ブレース材の取付位置は、「上階梁」と「下階梁」だけに特定されるものではなく、「上階梁」の一部であるコーナー部、「下階梁」の一部であるコーナー部も当然に含まれる。
また、梁の一部であって相対変形を生じる所であればよいのであり、ブレースの取付位置がコーナー部付近かコーナー部かは本件特許発明の本質的部分ではなく、ブレース材の取付位置を梁からコーナー部に置き換えたとしても、本件特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏する。
通常、ブレース材は、コーナー部に設けたブラケットに取付けられるもので、ブレース材をコーナー部に取付けることは公知技術であり、通常の知識を有する者が容易に想到できる。
さらに、出願経過において、ブレース材がコーナー部に取付けられる構成を意識的に除外したこともない。
したがって、イ号物件のブレース部材をコーナー部に取付けることは、本件特許発明の技術的範囲と均等といえる。
判定請求人は、「終局状態に至っても、柱が崩壊する前に梁が崩壊するような位置にブレース材を取付けるということになる」を根拠として、ブレース材が取付けられる位置はコーナー部を含まないと主張する。しかし、コーナー部の一部は梁であり、イ号物件においても、梁が先に崩壊したとき、コーナー部に取り付けられたブレース部材はガセットプレートを介して梁に取り付いて地震等のエネルギーを吸収する構造となっている。
また、イ号物件の一方のブレース部材の取付位置は、イ号図面に示すように、上梁の中央部に設けられたガセットプレートであり、柱が崩壊する前に梁が崩壊する位置ということになる。

3.公知技術からの構成要件B及び構成要件Fの解釈
甲第8号証と本件特許発明とは基本構成が異なる。したがって、前提となる構成が相違する甲第8号証を参酌して、本件発明が特許を受けることができなかったとは言えないし、これをもって、本件特許の短ブレース材と長ブレース材は等しい長さのブレース材を含まず、上階梁と下階梁が、コーナー部を含まないとはいえない。

【5】判断
1.争いの無い点について
(1)構成要件A及び構成要件Eの充足性
イ号物件の構成aは、2本のブレース部材の接続部が両端の変位を増幅しているから、トグル機構を構成し、また、このブレース部材は、柱・梁のコーナー部又は梁の中央部に接合されることから、柱と梁で構築された架構内に配置されることとなり、構成要件A及び構成要件Eをそれぞれ充足する。

(2)構成要件D及び構成要件Hの充足性
イ号物件の構成dは、本件発明1の構成要件A及び本件発明2の構成要件Eをそれぞれ充足するから、本件発明1の構成要件D及び本件発明2の構成要件Hもそれぞれ充足する。

2.争点1(構成要件C及び構成要件Gの充足性)について
イ号物件の2本のブレース部材は、ある角度をもって接続されているから、中央クレビスの位置は、ブレース部材のコーナークレビスが接合されるガセットプレートが取付けられた柱・梁のコーナー部及び梁の中央部を結ぶ直線に対して、下梁側又は上梁側に変位するように位置する。そして、ブレース部材の中央クレビスに接合されたオイルダンパー部材は、2つのブレース部材が取付けられた柱・梁の上下間の相対変位よりも大きな変位により、振動エネルギーを吸収して減衰力を発生させるものである。
ここにおいて、イ号物件の2本のブレース部材が、それぞれ「短ブレース材」及び「長ブレース材」に相当するか否かを検討する。
本件特許明細書の段落0014には、「また、短ブレース材及び長ブレース材の長さ或いは自由端の交角度を変えることにより、増幅倍率を任意に設定することができる。さらに、相対変形を生じる所であれば、取付場所は限定されず、短ブレース材と長ブレース材の長さを調整することでトグル機構を効率よく構築できる。」と記載されていることから、この記載自体から、短ブレース材及び長ブレース材の長さが等しいものを排除しているとは解されず、また、同、段落0054における「なお、本形態では、短ブレース材23と長ブレース材27との長さを相違させたが、同じ長さでも、本発明の効果を奏することができる。」との記載からは、本件発明1及び2は、短ブレース材及び長ブレース材とを同じ長さとしたものを含むと解される。
しかしながら、「短ブレース材」及び「長ブレース材」との用語からは、短ブレース材よりも長ブレース材の方が長いと解するのが自然であり、その解釈にあたって、明細書の詳細な説明を参酌すべきことが当然であるとはいえない。
また、本件発明1が、「上階梁に短ブレース材を、下階梁に長ブレース材を取付け、連結部が下階梁側に位置している」のに対し、本件発明2では、「上階梁に長ブレース材を、下階梁に短ブレース材を取付け、連結部が上階梁側に位置している」のは、本件特許明細書の段落0043、0066、0082及び0105に記載されているように、短ブレース材を柱の長さより短くして、架構が大きく変形しても、回転摩擦ダンパーが下階梁或いは上階梁と接触しないとの作用効果を奏するような構成を意図しているとも解される。そして、2本のブレース材が同じ長さでこの作用効果を奏するには、架構の形状が制限され、さらに、前記各ブレース材が同じ長さであれば、連結部の位置を下階梁側或いは上階梁側と特定することに意味は無いから、前記2本のブレース材は、意図的に「短ブレース材」及び「長ブレース材」としていると推認できる。
したがって、イ号物件の2本のブレース部材は、「短ブレース材」及び「長ブレース材」に相当するとは認められず、イ号物件の構成cは、構成要件C及び構成要件Gを充足するとはいえない。

3.争点2(構成要件B及び構成要件Fの充足性)について
イ号物件の構成bが構成要件B及び構成要件Fを充足するか否かを検討するにあたって、ブレース材の取付位置について検討する。
出願経過を検討すると、出願当初の明細書に記載された特許請求の範囲の請求項1及び請求項2には、第1ブレース材及び第2ブレース材の取付位置が、「架構の上階梁」又は「架構の下階梁」であるという限定はなく、それらは請求項15に記載されたものであって、それらの限定は、平成15年1月6日付け手続補正書によって請求項1及び請求項2に取り入れられたものである。
そして、被請求人は、平成14年3月26日付けで通知された出願当初の明細書に記載された特許請求の範囲の請求項15に対する拒絶理由に引用された特開平1-318629号公報(刊行物2)について、平成14年6月3日付け意見書において、『また、刊行物2のブレース3は、明細書の第2頁左下欄に「斜材9は、その一端が柱・梁の接合部Cに取り付けられたガセットプレート10にピン接合され」と記載されているように、請求項15の上階梁と下階梁には接合されていない。従って、刊行物2では、請求項15のように、柱が崩壊する前に梁を崩壊させて地震等のエネルギーを吸収するという効果を奏さない。』(5頁3〜8行)と主張しており、本件発明1及び2のように補正した主旨は、刊行物2に記載された、ブレース材の取付位置を柱・梁のコーナー部とした構成を回避し、その相違点を明確にするためであると認められるから、本件発明1及び2のブレース材の取付位置は、柱・梁のコーナー部を含まない「上階梁」、「下階梁」の部分であると認められ、イ号物件のように、ブレース部材をガセットプレートを用いてコーナー部に取付ける構成は、構成要件B及び構成要件Fを充足していないと解すのが相当である。
そして、イ号物件の一方のブレース部材の取付位置は、本件発明1又は本件発明2の「上階梁」に相当する上梁の中央部であるが、他方のブレース部材の取付位置は、柱・梁のコーナー部に取付けられているものであり、たとえ一方のブレース部材の取付位置が「架構の上階梁」であっても、2本のブレース部材の取付位置を、「架構の上階梁」及び「架構の下階梁」であると明確に限定している構成要件B及び構成要件Fを充足するものではない。
また、被請求人の『刊行物2のブレース3は、明細書の第2頁左下欄に「斜材9は、その一端が柱・梁の接合部Cに取り付けられたガセットプレート10にピン接合され」と記載されているように、請求項15の上階梁と下階梁には接合されていない。』との主張は、通常は、本件発明では上階梁と下階梁にはコーナー部は含まれないとの主張と解されるところ、被請求人は答弁書において「出願経過において、ブレース材がコーナー部に取付けられる構成を意識的に除外したこともない。」と主張しているから、コーナー部を意識的に除外したものでないとすると、斜材9はガセットプレート10に接合されていることから、ガセットプレート10を介して梁に間接的に接合されたのであって、梁に直接接合されているのではないと解するほかはない。
一方、被請求人は、平成15年6月25日付けの意見書において、(2)補正の説明(請求項1、2の補正)中で、「なお、長ブレース材の一端が上階梁に取り付く位置と、短ブレース材の一端が下階梁に取り付く位置は、例えば、図2に示す梁と柱の接合部分に特定されるものではない。」と主張しており、この主張は、接合部分を含むがそれに特定されないとも解されるし、本件特許明細書の段落0014には取付場所を限定しない旨が記載されている。
しかしながら、柱が崩壊する前に梁を崩壊させて地震等のエネルギーを吸収するという効果を奏するためには、「上階梁」及び「下階梁」が、仮にコーナー部を含むとしても、コーナー部をコーナーを含む部分と解釈した上で、該コーナー部の梁の部分(図2の取付部)に直接ブレース材を取り付けることが必要である。
したがって、コーナー部に取り付けられた部材を介して接合するものは上記の作用効果を奏しないから、ブレース部材がガセットプレートに接合されているイ号物件は、構成要件B及び構成要件Fを充足しないことに変わりはない。

4.均等の判断
最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日)は、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、以下の五つの要件をすべて満たす場合には、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、対象製品等は特許発明の技術的範囲に属するものとするのが相当であると判示している。
「(積極的要件)
(1)相違部分が特許発明の本質的部分でなく、
(2)相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(3)右のように置き換えることに、当業者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
(消極的要件)
(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものでなく、かつ、
(5)対象製品等が、特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情もない。」
上記各要件について検討するにあたって、まず、(1)について検討すると、本件発明1及び2は、一方のブレース材を「架構の上階梁に一端が回転可能に取付けられた」構成を有し、且つ、他方のブレース材を「架構の下階梁に一端が回転可能に取付けられた」構成を有することにより、柱が崩壊する前に梁を崩壊させて地震等のエネルギーを吸収するという効果を奏するものであることから、ブレース材の取付位置を「上階梁」及び「下階梁」としたことは、発明の本質的部分であると認められる。
また、(2)について検討すると、上記3.でも指摘したように、被請求人は、第1ブレース部材及び第2ブレース部材の端部が柱・梁の接合部に取り付けられたガセットプレートに接合されたものは、柱が崩壊する前に梁を崩壊させて地震等のエネルギーを吸収するという効果を奏さない旨を主張していることから、相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができるとも、同一の作用効果を奏するものとも認められない。
さらに、(5)について検討するにあたって、出願手続を参照すると、本件発明1及び本件発明2の、各ブレース材の取付位置が「架構の上階梁」又は「架構の下階梁」であるという限定は、平成15年1月6日付け手続補正書によって請求項1及び請求項2に取り入れられたものであって、刊行物2に記載された発明との相違点を明確にするために、特許請求の範囲から意識的に除外されたと認められる。
したがって、イ号物件は、均等の判断に当たっての上記要件(1)、(2)及び(5)を満たさないので、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された構成と均等なものとして本件発明1及び本件発明2の技術範囲に属するともいえない。

【6】むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は本件発明1及び本件発明2の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2005-06-29 
出願番号 特願平8-327289
審決分類 P 1 2・ 0- ZA (E04H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山田 忠夫  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 高橋 祐介
安藤 勝治
登録日 2004-03-26 
登録番号 特許第3538289号(P3538289)
発明の名称 トグル機構を用いた振動制御装置  
代理人 福田 浩志  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 西元 勝一  
代理人 小林 武  
代理人 中島 淳  
代理人 西元 勝一  
代理人 西元 勝一  
代理人 加藤 和詳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  

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