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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1120037
審判番号 不服2003-6734  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-07-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-21 
確定日 2005-07-13 
事件の表示 平成 6年特許願第340369号「基板の回転塗布方法及び基板の回転塗布装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 7月16日出願公開、特開平 8-186072〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、出願日が平成6年12月28日である特願平6-340369号であって、平成15年3月17日付で拒絶査定がなされ、これに対し平成15年4月21日に審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。
なお、平成14年9月17日付の手続補正は平成15年3月17日付の補正の却下の決定により却下されている。

2.平成15年4月21日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年4月21日付の手続補正を却下する。
[理由]
2-1.目的制限要件違反
本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項5及び6は以下のとおりである。
【請求項5】
「基板を基板保持機構に保持した状態で基板への液状物質の回転塗布を行う基板回転塗布方法において、
前記基板は該基板の被保持面よりも小さい面積の基板保持機構により保持されることにより該基板には基板保持機構が接している領域とそうでない領域とが生じており、
更に回転塗布中の基板の温度に基づいて雰囲気温度の制御を行う構成とするとともに、
前記液状物質は薄膜反射防止膜形成用の低粘度材料であり、
該低粘度材料は溶媒が多いためにその気化熱が膜厚に影響し、
前記基板の前記基板保持機構が接している領域とそうでない領域とで該溶剤蒸発に伴う温度低下及び溶剤の蒸発速度に差が生じることで膜厚分布が影響を受けるものであり、
前記回転塗布中の基板の温度は基板周辺に設けられた温度センサーによって検知し、
該検知データは切り替え装置に送られ、
該切り替え装置は塗布中に前記基板周辺に供給される空気を第1の温度制御装置から第2の温度制御装置に切り替える構成とすることにより、
前記基板周辺の温度を上昇させるとともに基板中心付近と該基板周辺との境界は前記基板保持機構の端付近とすることを特徴とする基板の回転塗布方法。」
【請求項6】
「基板を基板保持機構に保持した状態で基板への液状物質の回転塗布を行う基板回転塗布方法において、
前記基板は該基板の被保持面よりも小さい面積の基板保持機構により保持されることにより該基板には基板保持機構が接している領域とそうでない領域とが生じており、
回転塗布中の基板の塗布膜厚のデータに基づいて雰囲気湿度の制御を行う構成とするとともに、
前記液状物質は薄膜反射防止膜形成用の低粘度材料であり、
該低粘度材料は溶媒が多いためにその気化熱が膜厚に影響し、
前記基板の前記基板保持機構が接している領域とそうでない領域とで該溶剤蒸発に伴う温度低下及び溶剤の蒸発速度に差が生じることで膜厚分布が影響を受けるものであり、
前記回転塗布中の基板の塗布膜厚は基板周辺に設けられた膜厚センサーによって検知し、
該検知データは切り替え装置に送られ、
該切り替え装置は塗布中に前記基板周辺に供給される空気を第1の湿度制御装置から第2の湿度制御装置に切り替える構成とし、かつ基板中心付近と該基板周辺との境界は前記基板保持機構の端付近とすることにより、
前記基板周辺の湿度を制御することを特徴とする基板の回転塗布方法。」
補正後の請求項5,6は、
i)平成15年4月21日付審判請求書に記載された、平成15年4月21日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項5及び6と、(補正却下された)平成14年9月17日付補正書の特許請求の範囲の請求項5及び6との関係、及び
ii)平成14年9月17日付意見書に記載された、(補正却下された)平成14年9月17日付補正書の特許請求の範囲の請求項5及び6と、平成14年4月22日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項9との関係、
から補正前の請求項9を補正したものと言える。
さて上記補正においては、請求項5及び6のいずれについても、「基板中心付近と該基板周辺との境界は前記基板保持機構の端付近とする」とされている。しかし平成14年4月22日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項9および同請求項を引用している請求項10、11の記載までみても、基板「中心付近」、基板「周辺」およびそれらの間の「境界」に関した事項の記載が無く、当該補正は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものとは言えず、特許請求の範囲の減縮に該当しない。
また、当該補正が、請求項の削除、誤記の訂正、または明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。したがって、平成15年4月21日付の手続補正書による補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第3項の規定を満たしておらず、同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

2-2.独立特許要件違反
本件補正は上記のように却下されるべきものであるが、仮に全体として特許法第17条の2第4項第2号の限定的減縮に該当するものであるとした場合、本件補正後の請求項2に記載された下記の発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。
【請求項2】
「基板を基板保持機構に保持した状態で基板への液状物質の回転塗布を行う基板回転塗布装置において、
前記基板は該基板の被保持面よりも小さい面積の基板保持機構により保持されることにより該基板には基板保持機構が接している領域とそうでない領域とが生じており、
更に異なる温度に設定された2台以上の雰囲気温度制御装置を有し、基板中心付近には第1の温度制御装置からの空気を、基板周辺には第2の温度制御装置からの空気を主に供給する構成とするとともに、
前記液状物質は薄膜反射防止膜形成用の低粘度材料であり、
該低粘度材料は溶媒が多いためにその気化熱が膜厚に影響し、
前記基板の前記基板保持機構が接している領域とそうでない領域とで該溶剤蒸発に伴う温度低下及び溶剤の蒸発速度に差が生じることで膜厚分布が影響を受けるものであり、
前記基板周辺の温度は前記第2の温度制御装置によって基板中心付近より高めに保持されるとともにその境界は前記基板保持機構の端付近とすることにより該基板周辺の塗布膜厚が薄くなり過ぎることを防止したことを特徴とする基板の回転塗布装置。」

(1)刊行物
本願出願前に頒布された特開平6-224113号公報には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア)「【0002】【従来の技術】一般に、半導体ウエハ等の被処理体を回転させて、これにフォトレジスト液等の処理液を塗布する塗布装置として、例えば図8に示すようなレジスト塗布装置が知られている。この塗布装置は、被処理体、例えば半導体ウエハWを水平に吸着保持して高速回転する回転保持手段であるスピンチャック2・・・を有している。
【0003】・・・チャック2の直径はウエハWの直径よりも小さく設定されている。・・・
【0004】【発明が解決しようとする課題】ところで、処理液である例えばレジスト液は、温度に対して比較的敏感であり、そして、チャックに接触するウエハ中心部分と接しないウエハ部分、例えばウエハ周縁部との間では温度差或いは周速度の相異等に起因して全体的に膜厚が均一にならず、例えばチャックと接触するウエハ部分の膜厚が厚くなる或いは薄くなるという改善点を有していた。例えば、レジスト液の回転塗布時にあっては、レジスト液中の溶剤の蒸発によりウエハ周縁部に過度の温度低下が生じてしまい、これに起因して均一な膜厚が得られなかった。・・・ 本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明の目的は、被処理体の周縁部の温度制御を行うことができる塗布装置を提供することにある。」(【0002】-【0004】段落)

イ)「【0013】また、上記スピンチャック44の外周側には、本発明の特長とする温度制御手段64が上下方向に昇降可能に設けられる。具体的にはこの温度制御手段64は、ウエハWの外周側にこれと近接可能に配置されるリング状の温度制御体66と(図3参照)、この制御体66の温度制御を行う例えばマイクロコンピュータ等よりなる温度制御部68とにより主に構成される。・・・」(【0013】段落)

ウ)「【0023】更に、上記実施例にあっては、温度制御体66の発熱・吸熱素子として半導体素子よりなるサーモモジュール70A〜70Cを用いるようにしたが、これに限定されず、例えば図6に示すようにサーモモジュールに代えて温水や冷水等の熱媒体を流通させるための媒体通路90A、90B、90Cを埋め込んで、これに温度制御部92からそれぞれ温度の異なる温水などの熱媒体を供給することにより各温度制御ユニット68A〜68Cの温度を制御するようにしてもよい。」(【0023】段落)

エ)「【0025】・・・尚、本発明においては被処理体として半導体ウエハを用いた場合について説明したが、これに限定されず例えばプリント基板、LCD基板等にも適用することができ、また、本発明はレジスト塗布装置のみならず、現像液塗布装置、エッチング液塗布装置、磁性液塗布装置、洗浄装置等にも適用することができる。」(【0025】段落)

オ)また、第1図には、温度制御手段によって温度制御される基板周辺と、基板中心付近との境界はチャックの端付近であることが記載されている。

これらの記載及び第1図を参照すると、引用例1には次の発明が記載されている。(以下、「引用例1発明」とする。)
「基板をチャックに保持した状態で基板への処理液の回転塗布を行う回転塗布装置において、
前記基板は該基板の被保持面よりも小さい直径のチャックにより保持されることにより、該基板にはチャックが接している領域とそうでない領域とが生じており、
温度制御体を有し、基板周辺に温度制御体からの熱媒体を供給する構成とするとともに、
前記処理液はその気化熱が膜厚に影響し、
前記基板の前記チャックが接している領域とそうでない領域とで該溶剤蒸発に伴う温度低下に差が生じることで膜厚分布が影響を受けるものであり、
前記基板周辺の温度は前記温度制御体によって基板中心付近より高めに保持されるとともにその境界は前記チャックの端付近とすることにより該基板周辺の塗布膜厚が全体的に均一にならないことを防止したことを特徴とする基板の回転塗布装置。」

また、本願出願前に頒布された特開平5-166712号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
カ)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、半導体ウエハ、液晶表示装置用ガラス基板、光ディスク用ガラス基板、フォトマスク用ガラス基板といった各種の基板に、フォトレジスト材、SOG材、ド-パント材といった塗布液を塗布する回転塗布方法に関し、特に、基板の上方から清浄な空気等の気流を供給して薄膜の厚さを均一にする回転塗布方法に関する。」(【0001】段落)

キ)「【0014】・・・この回転塗布装置は、塗布装置本体20と気流供給ダクト装置30とから主に構成されている。」(【0014】段落)

ク)「【0016】一方、塗布装置本体20の上方には、ウエハ1の上面に気流を複数に分割して供給する気流供給ダクト装置30が設けられている。この気流供給ダクト装置30は、ウエハ1の表面上の比較的中心部に気流を供給する円筒状の中心部気流供給ダクト9と、この中心部気流供給ダクト9の外側に同心円状に形成されていると共にウエハ1の表面上の比較的周辺部に気流を供給する周辺部気流供給ダクト11とを備えている。
【0017】中央部気流供給ダクト9は、第1温度・湿度調整ユニット7に連通されており、このユニット9で空調された気流は、パンチングプレート8を通過して第1給気口10から主にウエハ1の中心部に向かって供給される。・・・また、周辺部気流供給ダクト11は、第2温度・湿度調整ユニット12に連通されており、上記の第1温度・湿度調整ユニット7で空調された気流とは温度と湿度の双方が異なるように気流を空調している。そして、この空調された気流は、スリット13を通過して第2給気口14から主にウエハ1の周辺部に向かって供給される。・・・。」(【0016】-【0017】段落)

また、本願出願前に頒布された実願平2-31401号(実開平3-123574号)のマイクロフィルム(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。
ケ)「この考案は液体の塗布装置、例えば半導体ウエハの表面にレジストを回転塗布するスピンコータに関するものである。」(明細書第1頁13-15行)

コ)「裏面中心部はチャックからの熱伝導により熱が流入するが、この熱量は外周部のそれより大きい。このことにより、そこでは早く溶媒が蒸発し・・・」(明細書第3頁12-15行)

また、本願出願前に頒布された特開平5-182905号公報(以下、「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。
サ)「【特許請求の範囲】【請求項1】基板上に、波長248nmの光に対する吸収係数が0.8μ-1以下であるレジストを形成する工程と、前記レジスト上に、少なくともオルガノポリラダーシロキサンを含有する表面反射防止膜を形成する工程を含むことを特徴とするレジストパターン形成方法。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)

シ)「【0006】そこで、IBMのブルンナーらは、上層にARC(反射防止)材料をコーティングする技術を創案し、報告している(T.A.Brunner“Optimization of optical properties of resist processes”参照)。」(【0006】段落)

ス)「【0015】図1(a)に、上記のようにして得た、基板1上にホトレジスト2が膜形成された構造を略示する。
【0016】この上に、ポリラダーシロキサン樹脂として、TSIR105(東レダウコーティングシリコーン社、波長248nmの光に対する屈折率1.41)を0.0344μmの膜厚になるように回転塗布した。・・・
【0017】これにより、図1(b)に略示するように、レジスト2上に反射防止膜3を有する構造を得る。」(【0015】-【0017】段落)

(2)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、引用例1発明の「チャック」は本願補正発明の「基板保持機構」に、「処理液」は「液状物質」に、基板の被保持面よりも「小さい直径のチャック」は基板の被保持面よりも「小さい面積の基板保持機構」に、「温度制御体」は「温度制御装置」に相当し、また引用例1発明の「熱媒体」、「基板周辺の塗布膜厚が全体的に均一にならないこと」は本願補正発明の「空気」、「基板周辺の塗布膜厚が薄くなり過ぎること」を包含する上位概念であるので、
両発明は、
「基板を基板保持機構に保持した状態で基板への液状物質の回転塗布を行う基板回転塗布装置において、
前記基板は該基板の被保持面よりも小さい面積の基板保持機構により保持されることにより該基板には基板保持機構が接している領域とそうでない領域とが生じており、
温度制御装置を有し、基板周辺に温度制御装置からの熱媒体を供給する構成とするとともに、
前記液状物質はその気化熱が膜厚に影響し、
前記基板の前記基板保持機構が接している領域とそうでない領域とで該溶剤蒸発に伴う温度低下に差が生じることで膜厚分布が影響を受けるものであり、
前記基板周辺の温度は前記温度制御装置によって基板中心付近より高めに保持されるとともにその境界は前記基板保持機構の端付近とすることにより該基板周辺の塗布膜厚が全体的に均一にならないことを防止したことを特徴とする基板の回転塗布装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1:本願補正発明では「異なる温度に設定された2台以上の雰囲気温度制御装置を有し、基板中心付近には第1の温度制御装置からの空気を、基板周辺には第2の温度制御装置からの空気を主に供給する」のに対し、引用例1発明では基板中心付近の温度制御装置についての記載が無く、また温度制御装置についても「雰囲気」温度制御装置という記載はなく供給される熱媒体も「空気」についての記載は無い点。

相違点2:本願補正発明では「基板の前記基板保持機構が接している領域とそうでない領域とで該溶剤蒸発に伴う温度低下及び溶剤の蒸発速度に差が生じることで膜厚分布が影響を受けるもの」であるのに対し、引用例1発明では「溶剤蒸発に伴う温度低下」に差が生じる点については記載されているが、「溶剤の蒸発速度」に差が生じる点については具体的記載が無い点。

相違点3:本願補正発明では回転塗布する「液状物質」について「薄膜反射防止膜形成用の低粘度材料」と限定し、液状物質の気化熱が膜厚に影響し、基板の前記基板保持機構が接している領域とそうでない領域とで該溶剤蒸発に伴う温度低下及び溶剤の蒸発速度に差が生じることで膜厚分布が影響を受ける点について「該低粘度材料は溶媒が多いため」としているのに対し、引用例1発明では回転塗布する液状物質については「レジスト液」または「現像液」、「エッチング液」、「磁性液」等とされ「薄膜反射防止膜形成用の低粘度材料」についての記載は無い点。

相違点4:本願補正発明では「基板周辺の塗布膜厚が薄くなり過ぎることを防止した」と限定しているのに対し、引用例1発明では膜厚が全体的に均一にならないことを防止する、すなわち膜厚が薄くなることに加え「厚くなる」ことも防止するものである点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
まず相違点1については、引用例2には上記(1)カ)、キ)、ク)で摘記したように、温度が異なるように調整された2つの「温度・湿度調整ユニット」を有し、一方の「温度・湿度調整ユニット」で空調された気流を「主にウエハ1の中心部に向かって供給」し、もう一方の「温度・湿度調整ユニット」で空調された気流を「主にウエハ1の周辺部に向かって供給」する構成が開示されており、該構成を適用して相違点1にかかる構成となすことは当業者にとり容易である。

次に相違点2については、引用例1発明において「溶剤蒸発に伴う温度低下」に差が生じている条件下では「溶剤の蒸発速度」も均一にならないであろうことは当業者ならば容易に推測できることであり、加えて引用例3に、上記(1)ケ)、コ)で摘記したように、チャックに接している領域とそうでない領域とで溶剤の蒸発速度に差が生じることが記載されており、よって溶剤蒸発に伴う温度低下「及び溶剤の蒸発速度」に差が生じるとすることは当業者にとり容易に想到できることである。

次に相違点3については、引用例1発明では、「液状物質」について「レジスト液」または「現像液」、「エッチング液」、「磁性液」等回転塗布される種々のものが対象に成り得ることが示唆されているところ、反射防止膜についてこれが回転塗布により形成されることは上記(1)サ)、シ)、ス)で摘記したように引用例4に開示されており、してみれば回転塗布する液状物質を「薄膜反射防止膜形成用材料」と限定することは当業者にとり格別の発明力を要することではない。また本願補正発明では液状物質を「薄膜反射防止膜形成用材料」に限定して「溶媒が多いため」にその気化熱が膜厚に影響し、膜厚分布が影響を受けるとしているが、引用例1には「溶剤の蒸発によりウエハ周縁部に過度の温度低下が生じてしまい、これに起因して均一な膜厚が得られなかった」(上記(1)ア))と明記されているように引用例1発明は溶剤(溶媒)の蒸発による気化熱の問題に注目するものであり、溶媒の多い液状物質をその対象とすることは当業者にとり格別の発明力を要することではない。
さらに本願補正発明においては「反射防止膜形成材料」を「低粘度」であり「反射防止膜」を「薄膜」と限定していることについては、引用例4に開示された薄膜反射防止膜も薄膜(「0.0344μm」)であり、かつまた薄膜のものを回転塗布で形成するのであれば、それに応じてその材料も相応に低粘度であろうことは当業者ならば容易に想到できることである。なおここで、「低」粘度および「薄」膜とはどの程度の範囲のものを指すのかについて、本願の明細書及び図面を参照してもその範囲について具体的記載がないことを指摘しておく。

次に、相違点4については、引用例1発明において、基板周辺の膜厚が薄くなり過ぎることに加え厚くなることについても記載されているのは、本願補正発明のように薄くなり過ぎるケースを想定していないためではなく、薄くなるケースも問題として明記しそれに加え厚くなるケースも問題として解決すべき課題に包含し解決せんとしているものであり、当業者ならば引用例1から基板周辺の膜厚が薄くなり過ぎるという問題点を抽出することに困難性はない。

また、本願補正発明の作用効果も、引用例1-4に記載された事項から当業者が予測できる範囲のものである。よって本願補正発明は、上記引用例1-4に記載された発明に基づき当業者が容易に想到することができたものである。したがって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものとは認められない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成6年法改正前の特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項の規定で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成15年4月21日付の手続補正は上記のとおり目的制限要件違反もしくは独立特許要件違反により却下されたので、本願の請求項1にかかる発明は、平成14年4月22日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載から見て、特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
【請求項1】
「基板を基板保持機構に保持した状態で基板への液状物質の回転塗布を行う基板回転塗布方法において、
塗布雰囲気の温度、及び/または湿度を時間的及び/または位置的に、連続的及び/または段階的に変化させることにより基板の温度分布を改善する構成としたことを特徴とする基板の回転塗布方法。」

4.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平4-253320号公報(以下「引用例A」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、半導体装置の製造工程においてウエハの表面にレジストや現像液等の塗布液を塗布するための回転塗布装置に関する。」(【0001】段落)

(2)「【0007】【実施例】・・・円盤状の回転テーブル4はモータ5によって回転駆動され、その回転テーブル4上にウエハ1が真空吸着によって保持される。・・・
【0008】上記回転テーブル4は、その径方向における温度が調節可能に構成されている。即ち、回転テーブル4の内部には複数本、例えば4本のヒータ10a、10b、10c、10dが同心円状に埋設されている。ここで、中心部のヒータ10aから外周部のヒータ10dへ行くほど温度が上昇するように設定されており、これによって回転テーブル4には径方向における温度勾配が付与される。・・・」(【0007】-【0008】段落)

(3)「【0011】このように、グラフBに示すようなウエハ1の温度勾配に対して、グラフCに示すような逆の温度勾配が回転テーブル4に付与されているので、ウエハ1の径方向の各位置における温度差が補正されて、グラフDに示すようにウエハ1の全体の温度が均一になる。従って、ウエハ1の表面に広がるレジストに粘度差が発生しないので、その結果、グラフEに示すようにウエハ1の表面全体における塗布膜3の膜厚が均一となる。」(【0011】段落)

(4)「【0016】次に、図5は第3実施例における回転塗布装置の概略図である。回転テーブル4の下方に複数本、例えば4本のノズル20a、20b、20c、20dが径方向に沿って配設されており、これら各ノズル20a〜20dからそれぞれ流体21a、21b、21c、21dが回転テーブル4の下面に吹き付けられる。ここで、中心部の流体21aから外周部の流体21dへ行くほど温度が上昇するように設定されており、これによって回転テーブル4には径方向における温度勾配が付与される。」(【0016】段落)

(5)「【0018】・・・温調手段として、第1及び第2実施例ではヒータを回転テーブルの内部に埋設したが、ヒータを回転テーブルの下方に近接配置して回転テーブルを間接的に加熱してもよく、・・・」(【0018】段落)

これら記載より、引用例Aには次の発明が記載されている。(以下、「引用例A発明」という。)
「ウエハを回転テーブルに保持した状態でウエハへの塗布液の回転塗布を行うウエハ回転塗布方法において、
回転テーブルの温度を、径方向に、外周部へ行くほど温度が上昇するように温度勾配を付与することによりウエハ全体の温度を均一にする構成としたことを特徴とする基板の回転塗布方法。」

5.対比
本願発明と引用例A発明とを比較すると、引用例A発明の「ウエハ」は本願発明の「基板」に相当し、「回転テーブル」は「基板保持機構」に、「塗布液」は「液状物質」に、「径方向に、外周部へ行くほど温度が上昇するように温度勾配を付与すること」は「温度(、及び/または湿度)を(時間的及び/または)位置的に、連続的及び/または段階的に変化させる」ことに、「ウエハ全体の温度を均一にする」ことは「基板の温度分布を改善する」ことに相当するので、両発明は、
「基板を基板保持機構に保持した状態で基板への液状物質の回転塗布を行う基板回転塗布方法において、
温度、及び/または湿度を時間的及び/または位置的に、連続的及び/または段階的に変化させることにより基板の温度分布を改善する構成としたことを特徴とする基板の回転塗布方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点a:本願発明では、「塗布雰囲気」の温度、及び/または湿度を時間的及び/または位置的に、連続的及び/または段階的に変化させることにより基板の温度分布を改善するとしているのに対し、引用例A発明では基板を保持する回転テーブルの温度を変化させることにより基板の温度分布を改善している点。

6.判断
上記相違点aについて検討すると、引用例Aには、回転テーブルの温度を直接的にその内部に設けたヒータで変化させる構成だけでなく、上記4.(4)で摘記したように、回転テーブルに流体を吹き付ける、あるいは(5)で摘記したように、回転テーブルから少し離間したところに設けた(「下方に近接配置」)ヒータで回転テーブルを間接的に加熱することが記載されており、なおまた回転塗布を行うにあたり塗布雰囲気の温度・湿度を制御する装置を設けることも当業者にとり周知(原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-134349号公報に開示)であるところ、相違点aに係る本願発明の構成は当業者が容易に想到し得たものである。

また、本願補正発明の作用効果も、引用例Aに記載された事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。よって本願補正発明は、上記引用例Aに記載された発明及び周知技術に基づき当業者が容易に想到することができたものである

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例Aに記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-26 
結審通知日 2005-05-10 
審決日 2005-05-24 
出願番号 特願平6-340369
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新井 重雄谷山 稔男大熊 靖夫  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 前川 慎喜
上野 信
発明の名称 基板の回転塗布方法及び基板の回転塗布装置  
代理人 高月 亨  
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