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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1120162
審判番号 不服2003-6604  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-17 
確定日 2005-07-14 
事件の表示 特願2000-167192「半導体レーザ装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月26日出願公開、特開2001- 24278〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成4年4月24日に出願された特願平4-106508号の一部を平成12年6月5日に平成5年改正前特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願としたものであって、原審において平成14年7月11日付けで通知された拒絶理由通知書に対して、平成14年9月20日付けで手続補正がなされた後、平成15年3月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年4月17日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成15年5月19日付けで手続補正がなされたものである。
そして、本願の請求項1に係る発明は、手続補正がなされた明細書及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「半導体レーザ装置の製造方法において、
活性層上にp型ドーパントがドーピングされた層を含む半導体薄膜を基板上に形成し、このp型ドーパントがドーピングされた層の少なくとも一部を露出させる工程と、
前記露出された層のp型ドーパント金属の有機金属化合物の気体を供給しながら、基板温度を昇温させる工程と、
前記露出された層を含む前記半導体薄膜の上に、直接又はp型エッチングストップ層を介してn型ブロック層を再成長する工程と、を含んでなることを特徴とする半導体レーザ装置の製造方法。」(以下、本願発明という。)

2.引用刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭63-166285号公報(以下「引用例1」という。)には、半導体発光装置の製造方法について、次の事項が記載されている。
(a)「この種の半導体レーザにあっては次のような問題があった。即ち、p型クラッド層53に蒸気圧の高いZnをドープしているため、光導波路層55以降の再成長層を成長する昇温過程で、クラッド層53のストライプ部から成長炉雰囲気(水素ガス)へZnが蒸発してしまう。このため、ストライプ部分のアクセプタ濃度が低くなったり、最悪の場合はp型からn型へ転換してしまう。そして、ストライプ部分のアクセプタ濃度が低下すると、半導体レーザの電圧-電流特性が悪くなり、素子特性の劣化や寿命の低下を招くことになる。」(第2頁左下欄2-13行)
(b)「本願発明の骨子は、再成長層形成の際におけるアクセプタ濃度の低下を防止するために、再成長層の成長開始前及び成長後にも基板温度が高い時にはp型不純物を供給状態にしておくことにある。」(第3頁左上欄7-10行)
(c)「成長炉内に基板を挿入したのち昇温以前からZnの原料であるジエチル亜鉛(DEZn)を水素ガスと共に流す。」(第3頁右上欄3-6行)
(d)「第1図は本発明の一実施例に係わる半導体レーザの概略構造を示す断面図である。図中10はn-GaAs基板(Siドープ:2×1018cm-3)であり、この基板10上にMOCVD法により、厚さ1.5μmのn-Ga0.6Al0.4Asクラッド層11(Seドープ:5×1017cm-3)、厚さ0.05μmのアンドープGa0.94Al0.06As活性層12、厚さ0.5μmのp-Ga0.6Al0.4Asクラッド層13(Znドープ:2×1018cm-3)及び厚さ1.5μmのn-Ga0.6Al0.4As電流ブロック層14(Seドープ:7×1017cm-3)が連続成長されている。」(第3頁左下欄6-17行)
(e)「まず、第3図(a)に示す如く、n-GaAs基板10上に電流ブロック層14まで連続成長した後、同図(b)に示す如くホトリソグラフィ技術を利用し、ストライプ幅2μmの溝21を硫酸系エッチャント(8H2SO4+H2O2+H2O:20℃)で形成する。なお、このエッチングに際しては、クラッド層13を0.2μm残すまでエッチングする。
次いで、第3図(b)に示す加工基板をMOCVD結晶成長炉内に挿入し、第4図に示す成長温度プログラムと、成長ガス流量シーケンスに基づいて再成長層を成長する。DEZn及びアルシン(以下、AsH3)は昇温前5分から流す。成長条件は成長温度750℃、常圧、V/III比(V族とIII族のモル比)=20、成長速度(GaAs)=0.2μm/分、水素全流量10l/分である。DEZnは最初3×10-2/III族(モル比)流した。この流量はクラッド層13の成長の際のDEZn流量の1.5倍である。750℃で25分間表面の酸化膜のクリーニングを行う。
次いで、DEZn流量を1.5×10-2/III族として、第3図(c)に示す如く、光導波路層15及びクラッド層16を成長させる。」(第4頁左上欄2行-右上欄4行)
(f)「また、半導体レーザの構造は前記第1図に限るものではなく、ダブルへテロ接合部を形成したのちに、再成長層の形成が必要なものに適用することができる。」(第4頁右下欄13-16行)
(g)更に、第4図を参酌すると「DEZnを供給しながら、基板温度を昇温させる工程」が見て取れる。

したがって、上記(d),(e),(g)の記載事項からみて、引用例1には以下の発明が記載されていると認められる。
「半導体レーザの製造方法において、
n-GaAs基板上に、アンドープGa0.94Al0.06As活性層12、p-Ga0.6Al0.4Asクラッド層13(Znドープ:2×1018cm-3)、n-Ga0.6Al0.4As電流ブロック層14を連続成長させる工程、
クラッド層13を0.2μm残すまで、ストライプ幅2μmの溝21をエッチングにより形成する工程、
DEZnを供給しながら、加工基板温度を昇温させる工程、
DEZn流量を1.5×10-2/III族として、光導波路層15及びクラッド層16を再成長させる工程、を含む半導体レーザの製造方法。」

3.対比
次に、本願発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、
(1)引用例1に記載された発明における「半導体レーザ」、「n-GaAs基板」、「アンドープGa0.94Al0.06As活性層12」、「p-Ga0.6Al0.4Asクラッド層13(Znドープ:2×1018cm-3)」、「p-Ga0.6Al0.4Asクラッド層13(Znドープ:2×1018cm-3)及びn-Ga0.6Al0.4As電流ブロック層14」、「DEZn(ジエチル亜鉛)」は、本願発明における「半導体レーザ装置」、「基板」、「活性層」、「p型ドーパントがドーピングされた層」、「p型ドーパントがドーピングされた層を含む半導体薄膜」、「p型ドーパント金属の有機金属化合物」に相当する。
(2)引用例1に記載された発明は、n-GaAs基板10上に電流ブロック層14まで連続成長した後に、クラッド層13を0.2μm残すまでストライプ幅2μmの溝21をエッチングにより形成する工程を有しており、斯かる「エッチング」が「クラッド層13を露出させる工程」であることは明らかであるから、当該工程は本願発明における「活性層上にp型ドーパントがドーピングされた層を含む半導体薄膜を基板上に形成し、このp型ドーパントがドーピングされた層の少なくとも一部を露出させる工程」に相当する。
(3)上記(2)に記載のとおり引用例1に記載された発明における「クラッド層13」は本願発明における「露出された層」に相当し、「クラッド層13」はZnがドープされた層であるから、「DEZn」は「露出された層のp型ドーパント金属の有機金属化合物」に相当する。
よって、引用例1に記載された発明における「DEZnを供給しながら、基板温度を昇温させる工程」は本願発明における「露出された層のp型ドーパント金属の有機金属化合物の気体を供給しながら、基板温度を昇温させる工程」に相当する。
(4)引用例1に記載された発明における「DEZn流量を1.5×10-2/III族として、光導波路層15及びクラッド層16を再成長させる工程」により再成長させた層は、クラッド層13(露出された層)上に再成長されているから、両者は「露出された層を含む半導体薄膜の上に再成長層を再成長する工程」を有する点で一致している。
したがって、本願発明と引用例1に記載された発明は、
「半導体レーザ装置の製造方法において、
活性層上にp型ドーパントがドーピングされた層を含む半導体薄膜を基板上に形成し、このp型ドーパントがドーピングされた層の少なくとも一部を露出させる工程と、
前記露出された層のp型ドーパント金属の有機金属化合物の気体を供給しながら、基板温度を昇温させる工程と、
前記露出された層を含む前記半導体薄膜の上に層を再成長する工程と、を含んでなることを特徴とする半導体レーザ装置の製造方法」である点で一致し、次の点で相違している。
[相違点]
本願発明では、再成長する工程により形成された層が、n型ブロック層又はp型エッチングストップ層を介して成長させたn型ブロック層、であるのに対し、引用例1に記載された発明では、上記層が、光導波路層15又は光導波路層15を介して成長させたクラッド層16であって、光導波路層15及びクラッド層16がZnがドープされたp型層である点。

4.判断
上記(a),(b)の記載からみて、再成長層を成長する昇温過程でのp型ドーパント(Zn)の蒸発を防止するために、p型ドーパントを供給した状態で昇温過程を行うという技術思想が開示されており、上記(f)の記載からみて、当該技術思想を適用する対象は、引用例1の実施例に記載された積層構造の半導体レーザ装置のみに限られるものではない点が示唆されていることは明らかである。
そして、露出された層を含む半導体薄膜の上にn型ブロック層又はp型エッチングストップ層を介して成長させたn型ブロック層を再成長させる構成は、下記(ア),(イ)の刊行物にも見られるように、いずれも半導体レーザ装置の構造として周知な構成である。
(ア)本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平2-206191号公報:「第7図(f)に示す如くSiO2膜21をマスクとして用い、化学エッチングによりp-クラッド層15を回折格子が露出するまでエッチングし、幅3μmのストライプ状のリッジを形成した。次いで、トリメチルガリウムとアルシンを原料とした減圧MOCVD法により、第7図(g)に示す如くn-GaAs電流阻止層16(Siドープ、5×1018cm-3)を厚さ0.5μm成長した。」(第5頁右下欄11-19行)
なお、明細書記載の番号と第7図記載の番号とが対応していないが、明らかな誤記であり、開示された構成は明確である。
(イ)本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭63-73683号公報:「半導体基板10上には、MOCVD法にて形成されたn型InPからなるクラッド層11、ノンドープGaInAsP(λg=1.3μm)からなる活性層12及びp型InPからなる中間層13が順次積層されている。中間層13の主面には、He-Cdレーザ或いはArレーザを用いた干渉露光法及びKKI 121エッチング液(2CH3COOH:HCl:H2O2)等を用いた化学エッチングにより、ピッチ1(=λ/2neff;λは発振波長であり1.3μm,neffは活性領域の等価的な屈折率)〜2000Åの回折格子が形成されている。中間層13上には、p型GaInAsP(λg=1.1μm)からなるエッチング停止層14、n型InPからなる電流阻止層15、p型InPからなる電流阻止層16が順次積層されている。」(第2頁右下欄1-15行)

そこで、上記周知な構成を引用例1に記載された発明に適用することが容易であるかを検討すると、引用例1に記載された発明の再成長層が、p型光導波路層又はp型光導波路層を介して成長させたp型クラッド層、である点は、単に、実施例の半導体レーザ装置がSAS型であることに基づく構成の差異に過ぎず、また上記(f)に記載のように、引用例1に他の周知の半導体レーザ装置への適用も示唆されている。
したがって、引用例1に記載された発明において、再成長層を周知の構成である、n型ブロック層又はp型エッチングストップ層を介して成長させたn型ブロック層とすることにより、本願発明となすことは当業者にとって何ら困難なことではない。
それゆえ、前記相違点である再成長層を「n型ブロック層又はp型エッチングストップ層を介して成長させたn型ブロック層」とする技術事項は、当業者が所望の半導体レーザ装置の構造に応じて適宜なし得る設計変更である。

なお、請求人は審判請求書において「半導体レーザの製造方法において、活性層上にわずかに残された(または形成された)p層上に、n型ブロック層を再成長することにより、『n型層のキャリア濃度の低下、p層のn型反転、p層の薄層化、pn接合位置の変化または消滅、電流狭窄機能の低下または消滅』という新たな課題が生じます。」と主張しているが、指摘の現象は、再成長層成長前の昇温工程において、露出しているp型層のアクセプタ濃度が低下することにより生じる現象であり、引用例1に記載された課題(上記(a)参照)から予想し得る事項である。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-26 
結審通知日 2005-05-10 
審決日 2005-06-01 
出願番号 特願2000-167192(P2000-167192)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 道祖土 新吾  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 吉野 三寛
町田 光信
発明の名称 半導体レーザ装置の製造方法  
代理人 山崎 宏  
代理人 河宮 治  
代理人 青山 葆  

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