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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A47K
審判 全部無効 2項進歩性  A47K
管理番号 1120272
審判番号 無効2004-80240  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-10-20 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-11-30 
確定日 2005-07-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第3521217号発明「洗顔用泡立てネット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
出願(特願平9-122755号) 平成 9年 4月 8日
特許権の設定登録(特許第3521217号) 平成16年 2月20日
本件審判の請求(無効2004-80240号) 平成16年11月30日
答弁書 平成17年 2月10日
弁駁書 平成17年 3月31日


第2.請求人の主張及び提出した証拠方法
請求の趣旨は、本件特許第3521217号についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めるものであり、その理由の要点は、次のとおりである。
無効理由1:本件特許の請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項に規定する発明に該当し、本件特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
無効理由2:本件特許明細書における発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、本件特許は同法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきものである。

証拠方法
甲第1号証:特開平8-126588号公報
甲第2号証:実願昭56-64616号(実開昭57-175693号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実願昭55-127366号(実開昭57-50294号)のマイクロフィルム
甲第4号証:実願昭55-168592号(実開昭57-90690号)のマイクロフィルム
甲第5号証:国際公開96/23439号パンフレット(平成8年8月8日国際公開、その全訳文としての特表平10-513075号公報を添付)
甲第6号証:実願昭46-87179号(実開昭48-42768号)のマイクロフィルム
甲第7号証:実願昭52-145755号(実開昭54-77141号)のマイクロフィルム


第3.被請求人の主張
被請求人は、答弁書において、概略、以下の反論を行っている。
本件発明は特許法第29条第2項に規定する発明に該当するものではなく、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしており、本件特許は無効とされるべきものではない。


第4.当審の判断
1.本件発明
本件特許第3521217号の請求項1〜3に係る発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】洗顔料を泡立たせるために用いる洗顔用泡立てネットであって、縦横にそれぞれ数ミリ程度の細かい編み目を有し、伸縮性が少ない筒状のプラスチックネットの上下端を一纏めにして固定し、当該固定した箇所の少なくとも一つに指挿通用リングを取り付け、かつ、前記纏められて絞り込まれた端から放射状に壁が広がるように形成し、両手の中でもんだりこすったりして、前記ネットの編み目と対向する編み目の壁がこすり合わされるように構成されていることを特徴とする洗顔用泡立てネット。
【請求項2】洗顔料を泡立たせるために用いる洗顔用泡立てネットであって、縦横にそれぞれ数ミリ程度の細かい編み目を有し、伸縮性が少ないプラスチックネットで直径100〜200mm程度の球体を形成し、任意の箇所に指挿通リングを取り付け、両手の中でもんだりこすったりして、前記ネットの編み目と対向する編み目の壁がこすり合わされるように構成されていることを特徴とする洗顔用泡立てネット。
【請求項3】前記プラスチックネットはポリエチレンを原料とするプラスチックネットであることを特徴とする請求項1又は2記載の洗顔用泡立てネット。」
(以下、「本件発明1〜3」という)

2.刊行物に記載された事項
請求人が提出した甲第1号証には、「洗浄用具」に関して、以下の技術事項が図面とともに記載されている。
(1)「本発明は、洗浄用具に関する。更に詳しくは、洗浄剤を用いて身体を洗浄する際の泡立ちを大きく高めることができる洗浄用具に関する。」(段落【0001】)
(2)「本発明はこのような従来技術の課題を解決しようとするものであり、任意の洗浄剤の泡立ちを十分に高めることができる洗浄用具を提供することを目的とする。」(段落【0004】)
(3)「本発明者は、合成樹脂製のネット材料からなる筒状長帯片をひだ折にし、その中央部を縛ってボール状に束ねたものにより上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。」(段落【0005】)
(4)「したがって、洗浄用具に洗浄剤をつけ、軽く揉むことにより、洗浄用具内部で洗浄剤と空気とが十分に接触し、多量の泡が形成されるようになる。しかも、本発明の洗浄用具は、従来のタオルやスポンジに比して粗い目のネット材料で構成されているため、形成された泡が洗浄用具の内部から表面に容易に押し出される。よって、洗浄剤の泡立ち性が大きく高まり、少量の洗浄剤で多くの泡を形成することが可能となる。」(段落【0008】)
(5)「図1は実施例の洗浄用具1の全体図とその構成部材の説明図である。同図に示したように、この実施例の洗浄用具1は、合成樹脂製のネット材料からなる筒状長帯片2が幅方向の折れ線mをもつように複数回ひだ折し(図1(a))、そのひだ折した筒状長帯片2の中央部を紐状部材3で堅く縛ったものである(図1(b))。なお、本発明において、筒状長帯片2が幅方向の折れ線mをもつようにひだ折りするということは、ひだ折りするときの折り方向を、筒状長帯片2の略幅方向とするということを表しており、ひだ折りした後の筒状長帯片2が明確な直線状の折れ線mをもつことを限定したものではない。このようにひだ折した筒状長帯片2を紐状部材3で縛ることにより、筒状長帯片2は自ずとボール状になり、実施例の洗浄用具1が得られる(図1(c))。
この実施例のように全体形状がボール状となるように本発明の洗浄用具を形成すると、洗浄用具1は内部に多量の空気を保持し、洗浄剤の泡立ち性を大きく高めることができ、また使用感も向上するので好ましい」(段落【0011】〜【0013】)
(6)「また、筒状長帯片2の大きさとしては、ひだ折りにしてその中央部を縛った場合に、洗浄用具1の全体形状がボール状となる程度に幅L1 や長さL2 を適宜定めることが好ましい。通常、幅L1 を5〜25cm、長さL2 を200〜400cmとすることが好ましい」(段落【0015】)
(7)「筒状長帯片2を構成するネット材料の網構造については特に制限はないが、柔軟性、伸縮性等の点から、例えば、図4に示したような、構成糸を熱により融着させることにより形成した略ひし形ネットを好ましく使用することができる。…また、この略ひし形ネットを構成する個々の略ひし形ABCDの1辺ABは2〜8mmが好ましく、4〜6mmがより好ましい。この範囲とすることにより泡立ちがより良好となり、また肌触りもなめらかとなる。」(段落【0018】)
(8)「ネット材料の素材としては、熱可塑性合成樹脂素材、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン等を使用することができる。…」(段落【0019】)
(9)「さらに、本発明の洗浄用具には、使用後の水きりや保管の便宜上、図1に示したようにつるし紐4をつけてもよい。つるし紐4は、筒状長帯片2を縛った紐状部材3の残部で構成してもよく、紐状部材3で縛った筒状長帯片2の中央部に別個に設けてもよい。」(段落【0021】)
(10)「本発明の洗浄用具によれば、泡立ちの低い洗浄剤の泡立ちも十分に高めることができる。」(段落【0022】)

これらを含む明細書全体の記載および図面並びに当業者の技術常識によれば、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認める。かっこ内は、対応する甲第1号証における構成・用語である。
「洗顔料(任意の洗浄剤)を泡立たせるために用いる洗顔用(任意の洗浄用)泡立てネット(洗浄用具)であって、縦横にそれぞれ数ミリ(2〜8mm)程度の細かい編み目を有し、筒状のプラスチックネットの長帯片をひだ折にし、その中央部を紐状部材で堅く縛り、当該中央部につるし紐を取り付け、
両手の中でもんだりこすったりして、前記ネットの編み目と対向する編み目の壁がこすり合わされるように構成されている洗顔用泡立てネット。」(以下、「甲第1号証発明1」という)
「洗顔料(任意の洗浄剤)を泡立たせるために用いる洗顔用(任意の洗浄用)泡立てネット(洗浄用具)であって、縦横にそれぞれ数ミリ(2〜8mm)程度の細かい編み目を有し、プラスチックネットで直径100〜200mm(50〜250mm)程度の球体(ボール)を形成し、当該中央部につるし紐を取り付け、両手の中でもんだりこすったりして、前記ネットの編み目と対向する編み目の壁がこすり合わされるように構成されている洗顔用泡立てネット。」(以下、「甲第1号証発明2」という)

同じく、請求人が提出した甲第2号証には、「泡立て網付石けん入れ」に関して 、
(11)「この実用新案は、あみ袋の一端に数枚のあみを袋状にし付けた泡立て網付石けん入れに関するものである。」(801頁16〜18行)
(12)「これも幾重に袋状に重ねているのであみの間に適当な空気の層が出き、表面まではとけた石けんがいかず、あみ(2)(3)(4)のいずれかのあみで受けているので、あみ(2)(3)(4)をこすることによって泡になり、1個の石けんが有効に使える。」(802頁末行〜803頁5行)
等の記載がある。

同じく、請求人が提出した甲第3号証には、「つり下げる石けん箱」に関して 、
(13)「(イ)(鍔の偏が月という漢字)付き中空軸(4)に石けん(5)を入れたネット(6)を通し、石けん箱(1)に入れ上部より引き出し、止め具(7)で止める。(ロ)(鍔の偏が月という漢字)付き中空軸(8)に石けん(5)を入れたネット(6)を通し、石けん箱(1)に入れ上部より引き出し、ヒモ(9)を鉤(10)に止める。以上の如く構成された、つり下げる石けん箱」(実用新案登録請求の範囲(1))
等の記載がある。

同じく、請求人が提出した甲第4号証には、「つり下げ型せっけん入れ」に関して 、
(14)「網で作った袋1の中にせっけん2を入れ,袋1の開口部側の端末部分の網目に,ひも3を交互に通して,その端末にリング3-1を形成する。このひも3の他の端末を,このリング3-1に通して引っぱれば,袋1の開口部は閉じた状態となる。このひも3を,下部に開口部を有する化粧カバー5の上部に設けた穴5-1に下から通して,その端末にストッパーを兼ねたつまみ4を取り付ける。」(明細書3頁6〜13行)
等の記載がある。

同じく、請求人が提出した甲第5号証には、「編み物のチューブを用いた身体洗浄用具とその製造方法」に関して 、全訳文としての上記公報を用いて示せば、
(15)「1.ほぼ長方形の疎水性バットを有し、前記バットは、編み機直径当たり32本ないし64本の針のセッティングを有する編み機により、押し出し成形のプラスチックモノフィラメントを編んで作った編み物のチューブ片であり、前記モノフィラメントは、0.003インチから0.015インチまでの範囲の直径のほぼ円形の断面を有し、前記編み物のチューブ片は、長手方向の軸を持っており、また、前記編み物のチューブ片は、前記長手方向の軸に沿って測定した場合に、一般に1インチ当たり約6個ないし約9個の編み目を有し、また、前記編み物のチューブ片は、前記長手方向の軸に沿って少なくとも1回は前記チューブ片自体の上に折れ重なるように裏返されて、複数のチューブ同心層を形成し、該同心層の各層は、類似の長さを有して前記複数の層とほぼ重なり、前記バットは、前記編み物のチューブ片が自分自身の上に折れ重なるように裏返されて、前記長手方向の軸に対して垂直方向に平にされたときに、頂面と底面と二つの開放端とを有し、前記頂面と前記底面とは、前記バットをほぼ平に維持するように接合手段によって前記二つの開放端で接合されていることを特徴とする身体洗浄用具。
2.前記身体洗浄用具を吊り下げるための手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の身体洗浄用具。
3.前記押し出し成形によるプラスチックモノフィラメントが直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1または2記載の身体洗浄用具。
4.前記接合手段が熱接合であることを特徴とする請求項1、2または3記載の身体洗浄用具。
5.前記接合手段が縫い合わせであることを特徴とする請求項1、2または3記載の身体洗浄用具。」(特許請求の範囲)
(16)「本発明は、身体の洗浄のために使う手持ち式用具に関するもので、より詳しくは、疎水性のモノフィラメントを編んで作った、こすり洗い面を有する用具に係わるものである。」(4頁4〜6行)
(17)「図4および5は、二度に裏返された、開放端22、24を有する編み物の構造体を示す。また、図5は、チューブ10が平にされて、頂面28と底面30を有する8層のバット26になっている状態を示す。バット26は、両端部22、24を閉じることによってほぼ平に維持される。両端部の閉じは、当技術分野で周知の縫い合わせ、または熱接合法によって達成される。」(10頁3〜7行)
(18)「つなぎ紐36をバット26に取り付けることが望ましい。これは図6および7に示される。つなぎ紐36は、縫目の内側に、且つ、用具の隅の近くに配置するのが好ましい。」(10頁13〜15行)
等の記載がある。

同じく、請求人が提出した甲第6号証には、「石けん袋」に関して 、
(19)「本考案による石けん入れは、図において全体的に10で示すような石けん袋の形態を取る。この石けん袋10は、適当な材料(例えば、ビニール)の細糸で編んだ網状の袋体11を包含する。この袋体は、少なくとも石けんを1個収容するに十分な大きさを有し、1端に石けんを入れるための入口12を有する。この入口のまわりには、伸縮自在の紐13が縫着等によって取り付けられており、この入口12を常に絞っている。従って、石けん14を袋体11内に入れる際には、その入口12を押し広げ、石けん14を入れた後手を離せば自動的にこの入口12が閉じるようになる。紐13は、この実施例においては、延長部15を有し、この延長部は、輪になっていて釘16等に袋体11を吊り下げるための引掛部分となる。」(明細書2頁15行〜3頁11行)
等の記載がある。

同じく、請求人が提出した甲第7号証には、「固形石けん釣りさげ袋」に関して 、
(20)「網状の袋(3)、の中に固形石けん(4)を内包し、釣りひも(2)および取付固定部(1)で洗面所または風呂場の所定の位置へ取付けるもので、」(明細書2頁2〜5行)
等の記載がある。

3.対比・判断
(無効理由1に対して)
ここで、本件発明における「筒状のプラスチックネットの上下端を一纏めにして固定し」の解釈について考察すると、上下端を一箇所に接近させて一纏めにして固定することと、上端は上端で下端は下端でそれぞれ一纏めにして固定することが考えられるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌すれば、「筒状のプラスチックネットの上下端をそれぞれ一纏めにして固定し」と解すべきものとする。これについては、請求人も認めるところである(弁駁書3頁(3)、(4)参照)。

本件発明1と甲第1号証発明1を対比すると、両者は、
「洗顔料を泡立たせるために用いる洗顔用泡立てネットであって、縦横にそれぞれ数ミリ程度の細かい編み目を有する、筒状のプラスチックネットへ加工を施し、両手の中でもんだりこすったりして、前記ネットの編み目と対向する編み目の壁がこすり合わされるように構成されている洗顔用泡立てネット。」である点で一致し、次の点で相違している。

相違点1:本件発明1においては、筒状のプラスチックネットは伸縮性が少ないとするのに対し、甲第1号証発明1においては、伸縮性については不明である点。
相違点2:筒状のプラスチックネットへの加工が、本件発明1においては、筒状のプラスチックネットの上下端を一纏めにして固定するのに対し、甲第1号証発明1においては、筒状のプラスチックネットの長帯片をひだ折にし、その中央部を紐状部材で堅く縛る点。
相違点3:本件発明1においては、当該固定した箇所の少なくとも一つに指挿通用リングを取り付けるとして、指挿通用リングが存在するのに対し、甲第1号証発明1においては、当該中央部につるし紐を取り付けるとし、指挿通用リングは存在しない点。
相違点4:本件発明1においては、前記纏められて絞り込まれた端から放射状に壁が広がるように形成しているのに対し、甲第1号証発明1においては、そのようになっていない点。

そこで、相違点3から検討すると、
本件発明1における指挿通用リングは、本件特許明細書の段落【0012】に
「また、本発明の洗顔溶泡立てネットは筒状のネットの両端をそれぞれ一纏めして紐その他の締着具または熱溶着によって固定したものを内側に折り返し、一点に絞り込まれた端縁から放射状に壁が広がるようにしたので、両手を合わせてネットを押し込んだときに中央部で円盤状となり、このため、次に両手を広げるときに周りから空気を取り込みながら棒状になるときに洗剤と混合し簡単に泡を形成することが出来る。この時、ネットの一端に取り付けたリングに指を挿通しているのでネットを広げたり縮めたりする作業が極めて容易であり、また、洗顔が終わった際にはこのリングをフックに掛けて乾燥するのに極めて便利であり、かつ、衛生的である。」
とあるように、洗顔が終わった際にこのリングをフックに掛けて乾燥するのに極めて便利である他に、泡を形成する時、ネットの一端に取り付けたリングに指を挿通してネットを広げたり縮めたりできるという機能を有するものである。
ところで、甲第1号証には上記2.(9)のとおり、使用後の水きりや保管用のつるし紐4に関する記載があるが、つるし紐4と指挿通用リングは形状・材質・機能を異とするものであり、つるし紐4から指挿通用リングを想到することが当業者にとって容易であるとは言えない。
甲第2〜7号証にも「ヒモ(9)」、「ひも3」、「つなぎ紐36」、「紐13」、「釣りひも(2)」等の記載はあるが、本件発明1における指挿通用リングに該当するものは何も記載されていない。
そして本件発明1は、相違点3に係る構成を有することにより、本件特許明細書の段落【0015】に記載の「ネットの一端に指挿通用のリングを取り付けたのでリングに指を挿通してネットを広げたり縮めたりする作業が極めて容易であり」という甲第1〜7号証に記載された発明が有しない、格別な効果を奏するものと認める。

次に、相違点4を検討すると、
甲第2〜7号証にも、本件発明1の相違点4に係る構成に該当するものは何も記載されていない。
そして本件発明1は、相違点4に係る構成を有することにより、本件特許明細書の段落【0016】に記載の「ネットの端縁を果物のりんごの上端のように絞り込んだ一点から放射状に広がるようにしたので、両手を合わせるようにするとネットは徐々に球形となり、更に押しつけ完全に両手が合わさった時には中央部が円盤状となり、ネットの中の空気が洗剤と混ざりながら余分なものが外に排出され次の工程で両手を左右に開き始めると再び外部から空気が入り込み洗剤と混合する。ネットの編み目の形状が極めて小さいのでこの繰り返しを数回するだけでがきめ細かな小さな泡を簡単に作ることが出来る。」という甲第1〜7号証に記載された発明が有しない、格別な効果を奏するものと認める。

従って、相違点1,2について検討するまでもなく、本件発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

次に、本件発明2と甲第1号証発明2を対比すると、両者間には少なくとも
相違点5:本件発明2においては、任意の箇所に指挿通リングを取り付けるとして、指挿通リングが存在するのに対し、甲第1号証発明2においては、当該中央部につるし紐を取り付けるとし、指挿通リングは存在しない点。
があり、相違点3に関して本件発明1に対してした判断に同じく、本件発明2は甲第1〜7号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

更に、本件発明3は本件発明1,2を引用するものであり、甲第1号証発明1,2との対比において少なくとも上記相違点3又は5が存在し、本件発明1,2に対してした判断に同じく、本件発明3は甲第1〜7号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(無効理由2に対して)
請求人は、本件特許明細書における発明の詳細な説明の段落【0014】の記載は、当業者が本件発明1〜3を実施できる程度に明確かつ十分ではないとして、両端をそれぞれ一纏めにして固定した筒状のネットの両端縁部をそれぞれ内方へ折り返し、筒状のネットの両端末が一点から放射状に拡がったような形状(りんごの上部のような形状)にすることは不可能であると主張する。
より具体的には、
(1)「内方へ折り返す」を「裏返す」の意味に解した場合:一纏めにして固定した後の筒状のネットの両端縁部を双方ともに裏返すことは不可能である。
(2)「内方へ折り返す」を「内方へ押し込む」の意味に解した場合:一纏めにして固定した筒状のネットの両端縁部をそれぞれ内方へ押し込めても、ネットの材質が高反発力を有するものであれば、筒状のネットの両端末が一点から放射状に拡がったような形状(りんごの上部のような形状)は保持し得ない。
と言うものである。

そこで、検討するに、「内方へ折り返す」を「裏返す」の意味に解さねばならない特段の必然性も無く、単に「内方へ押し込む」の意味に解することに何らの無理は無いものである。
ただし、その場合、内方へ押し込んだ筒状のネットの両端末が一点から放射状に拡がったような形状(りんごの上部のような形状)を保持するために、例えばネットの編み目から糸等を通して折り返し部分を繋ぎ止めるような工夫が必要であると思料されるが、このような工夫をなすことは当業者にとって自明な事項にすぎないものである。
よって、本件特許明細書における発明の詳細な説明の記載は、段落【0014】の記載も含めて、当業者が本件発明1〜3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものと認める。


第5.むすび
以上、請求人の主張する理由および提出した証拠によっては、本件発明の特許を無効とすることができない。
また他に、本件発明の特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-05-17 
結審通知日 2005-05-19 
審決日 2005-06-08 
出願番号 特願平9-122755
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A47K)
P 1 113・ 536- Y (A47K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大森 伸一  
特許庁審判長 安藤 勝治
特許庁審判官 木原 裕
▲高▼橋 祐介
登録日 2004-02-20 
登録番号 特許第3521217号(P3521217)
発明の名称 洗顔用泡立てネット  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 芹沢 繁  
代理人 北村 行夫  
代理人 乾 祐介  
代理人 亀井 弘泰  
代理人 相原 正  
代理人 樋口 盛之助  
代理人 柿内 瑞絵  

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