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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B22C
審判 全部無効 発明同一  B22C
管理番号 1120273
審判番号 無効2004-80210  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-10-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-11-01 
確定日 2005-07-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3407879号発明「鋳物砂の充填圧縮方法およびその装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯の概要
本件特許第3407879号に係る出願は、平成12年4月13日に特許出願され、平成15年3月14日に請求項1〜4に係る発明について特許権の設定の登録がなされた。その後、平成16年11月1日に木村群司(以下「請求人」という。)より、請求項1〜4に係る特許について本件特許無効の審判請求がなされ、平成17年1月24日付けで被請求人より答弁書が提出され、平成17年4月21日に口頭審理がなされるとともに、同日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、平成17年4月25日付けで被請求人より上申書が提出されたものである。

II.請求人の主張及び証拠方法
請求人は、請求書に添付して甲第1〜6号証を提示して、本件特許の請求項1〜4に係る特許を無効とするとの審決を求め、その理由として、本件特許の請求項1、2及び4に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であり、請求項3に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、これら請求項1〜4に係る発明は特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであり、また、本件特許の請求項1及び4に係る発明は、甲第5号証に係る特許出願の出願当初の明細書又は図面に記載された発明と同一であって特許法第29条の2の規定に違反して特許を受けたものであるので、これら請求項1〜4に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきものである、と主張している。

III.被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、上記請求人の主張に対して、本件特許無効の審判請求は成り立たない旨主張している。

IV.本件発明
本件特許の請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、明細書及び図面の記載から見て、明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定されるとおりの、次のものと認める。
「【請求項1】水平状にして固定された模型板と;この模型板に上下摺動自在に環装されて昇降可能に配設された下補助枠と;この下補助枠の上方に昇降可能に配設された鋳枠と;この鋳枠の上方に昇降可能に配設された上補助枠と;前記鋳枠の上方に昇降可能に配設され下部が前記上補助枠に上下摺動自在に貫装された圧縮手段と;によって画成された鋳型造型空間に鋳物砂を充填し圧縮する方法であって、前記鋳型造型空間に鋳物砂を充填する工程と、少なくとも前記下補助枠が下降不可能な状態の下に前記圧縮手段を下降させて前記鋳型造型空間の鋳物砂を圧縮する第1圧縮工程と、前記上・下補助枠および前記鋳枠が下降可能な状態の下に前記圧縮手段を下降させて前記鋳型造型空間の鋳物砂をさらに圧縮する第2圧縮工程と、を有することを特徴とする鋳物砂の充填圧縮方法。
【請求項2】請求項1に記載の鋳物砂の充填圧縮方法において、前記第2圧縮工程における前記圧縮手段による圧縮力が、前記第1圧縮工程のときよりも大きいことを特徴とする鋳物砂の充填圧縮方法。
【請求項3】請求項1および2に記載の鋳物砂の充填圧縮方法において、相互に独立して下降可能な複数の圧縮部材または背面に圧力流体が作用する可撓性膜を備えた圧縮手段によって前記鋳型造型空間の鋳物砂を圧縮することを特徴とする鋳物砂の充填圧縮方法。
【請求項4】模型板と、鋳枠と、補助枠と、圧縮手段とで画成した鋳型造型空間に鋳物砂を充填した後2段階にわたって圧縮する装置であって、水平状にして固定された模型板と;この模型板に上下摺動自在に環装されて昇降可能に配設された下補助枠と;この下補助枠の上方に昇降可能に配設された鋳枠と;この鋳枠の上方に昇降可能に配設された上補助枠と;前記鋳枠の上方に昇降可能に配設され下部が前記上補助枠に上下摺動自在に貫装された圧縮手段と;を備えたことを特徴とする鋳物砂の充填圧縮装置。」

V.証拠の記載事実
(V-1)請求人の提出した証拠
(1)甲第1号証(特公平7-29181号公報)
(1-1)「【請求項1】下補助枠の上面に鋳枠を載置し、前記下補助枠と前記鋳枠の内側面に沿って該下補助枠と該鋳枠に対し相対的に上下に可動に嵌装された下加圧ヘッドの上面に模型定盤を固定し、該模型定盤の盤面を前記下補助枠と鋳枠の内側面に沿った所定高さの位置に保持した状態で、前記下補助枠の内側面と、前記鋳枠の内側面と、前記模型定盤の上面とによって形成された空間内に鋳物砂を充填し、かつこの鋳物砂を上方、下方の少なくとも一方からスクイズし、スクイズ終了時における前記模型定盤の盤面の位置に対応して、前記スクイズされた鋳物砂の下面を前記下補助枠と前記鋳枠の内側面に沿った所望高さの位置に形成させることからなる鋳型造型方法。
【請求項2】請求項1に記載の方法により、前記スクイズ終了時における前記模型定盤の盤面の位置を前記鋳枠の下面から所定寸法だけ前記下補助枠内へ突出させることによって造型した一方の鋳型と、また請求項1に記載の方法により、前記スクイズ終了時における前記模型定盤の盤面の位置を前記鋳枠の下面から前記所定寸法だけ該鋳枠内へ侵入させることによって造型した他方の鋳型とを1組として型合わせすることからなる鋳型造型方法。
【請求項3】下補助枠と、この下補助枠の上面に載置された鋳枠と、前記下補助枠と前記鋳枠の内側面に沿って該下補助枠と該鋳枠に対し相対的に上下に可動に嵌装された下加圧ヘッドと、この下加圧ヘッドの上面に固定された模型定盤と、前記鋳枠の上方に位置する上加圧ヘッドとを備えた鋳型造型装置であって、前記下補助枠の内側面と、前記鋳枠の内側面と、前記模型定盤の上面とによって形成された空間内に充填し、かつ前記上下の加圧ヘッドにより上方、下方の少なくとも一方からスクイズされた鋳物砂の下面を、スクイズ終了時における前記模型定盤の盤面の位置に対応して、前記下補助枠と前記鋳枠の内側面に沿った所望高さの位置に形成させることからなる鋳型造型装置。」(特許請求の範囲)
(1-2)「図1において、本発明の鋳型造型装置は、下補助枠1と、下補助枠1の上面に重ねて載置された鋳枠2と、鋳枠2の上面に重ねて載置された上補助枠3と、下補助枠1と鋳枠2の内側面に沿って上下に昇降可能に嵌装された下加圧ヘッド4と、下加圧ヘッド4の上面に固定された模型定盤5と、上補助枠3の上方に位置し上下に昇降可能な上加圧ヘッド6とを備えている。下補助枠1の内側面と、鋳枠2の内側面と、上補助枠3の内側面と、模型定盤5の上面とによって形成された空間には、鋳型を構成する鋳物砂9が充填され、特に上補助枠3は充填された鋳物砂の下方への圧縮代を確保する作用を有する。下補助枠1は、図示しない架台に固定されており、充填される鋳物砂9の上方への圧縮代を確保し、かつ鋳物砂の下面10を鋳枠2の下面から突出した位置で形成させることを可能にする。」(段落【0010】)
(1-3)「下加圧ヘッド4及び上加圧ヘッド6の加圧力、加圧順序、停止位置、固定位置、上昇量、下降量等は、それぞれ予め設定されたプログラムに従って、図示しない自動制御手段によって自動制御することができる。」(段落【0010】)
(1-4)「図1及び2は、充填された鋳物砂9の下面10、すなわち模型定盤5側の面を、鋳枠2の下面から所定寸法だけ下補助枠1内へ突出させる場合(突出鋳型)の造型工程を順に示す。図1は、下加圧ヘッド4の上昇により模型定盤5の盤面を下補助枠1内の所定の位置に停止させた状態で、前記空間に鋳物砂9を充填して、鋳物砂充填工程が終わった状態を示す。なお、この場合の模型定盤5の盤面の位置は、鋳物砂の下面10の下補助枠1内への所望の突出寸法と、後の第2次スクイズ工程によって生じる鋳物砂9の圧縮代を考慮して決定する。図2(a)は、下加圧ヘッド4の位置を図1の位置に固定した状態で、鋳物砂9をその上面から上加圧ヘッド6の下降によりスクイズする第1次スクイズ工程が終わった状態を示す。図2(b)は、上加圧ヘッド6の位置を図2(a)の位置に固定した状態で、模型定盤5の盤面が鋳枠2の下面から所定寸法だけ下補助枠1内へ突出した位置まで、鋳物砂9を下加圧ヘッド4の上昇により下方からスクイズする第2次スクイズ工程が終わった状態を示す。図2(c)は、下加圧ヘッド4の位置を図2(b)の位置に固定した状態で、鋳物砂9をその上面から鋳物砂9の上面が鋳枠2の上面と一致するまで、上加圧ヘッド6の下降によりスクイズする第3次スクイズ工程の終わった状態を示す。図2(d)は、上加圧ヘッド6を上昇させ、下加圧ヘッド4を下降させることによる抜型工程が終わった状態を示す。」(段落【0011】)
(1-5)「以上の説明における上補助枠3は、場合によっては省略することができる。また、上下の加圧ヘッド4,6のいずれか一方は適宜の架台に固定して、上下に昇降しないものとすることもできる。上加圧ヘッド6を上下に昇降可能とし、下加圧ヘッド4を固定した場合には、下補助枠1をシリンダ等によって上下に昇降可能とすることによって、模型定盤5の盤面の下補助枠1と鋳枠2に対する相対的位置の変更、その位置での保持、固定、上方、下方からのスクイズ及び抜型を行うことができる。」(段落【0014】)
(1-6)「本発明の鋳型造型装置及び方法によれば、手持ちの鋳枠を用い、広い範囲の製品形状に対応して、鋳型の合わせ面の位置を、鋳枠端面から突出させ、又は鋳枠内に侵入させることによって鋳枠端面と関係なく自由に設定することができる。このため、上下の鋳型の模型上に充填される鋳物砂の砂付きを均衡化することができ、鋳物砂の層厚の不均一に起因する、製品の欠陥の発生、回収砂の性質の不均一化等を効果的に防止することができる。」(段落【0015】)

(2)甲第2号証(特開昭56-1245号公報)
(2-1)「1.鋳物砂を充填した型箱中へ上方から過剰砂を圧入することにより型箱中の鋳物砂を圧縮する方法において、型箱中の鋳物砂を上方から圧縮する前に下方から圧縮し、その際過剰砂の量を、下方からの圧縮の終結後なお型箱の上方に過剰の鋳物砂が存在し、引続き上方から圧縮する際に少なくとも部分的に型箱中へ圧縮されるように定めることを特徴とする型箱中の鋳物砂を圧縮する方法。
2.垂直に運動する圧縮台、これと結合せる模型板、模型を取り囲み上部充填枠を有する型箱および定置の圧縮板を有し、該圧縮板に向って型が圧縮台により移動し圧縮板が上部充填枠中へ進入する造型機において、
a)圧縮台(4)と型箱(13)との間に、その内横断面が模型板(7)の輪郭よりも僅かに大きい下部充填枠(10)が配置され、
b)充填位置(第2図)で型が閉じた場合上部充填枠(6)は圧縮板(3)に対して、下部充填枠(10)は模型板(7)に対して、圧縮板(3)、模型板(7)、型箱(13)および双方の充填枠(6,10)により囲まれるキャビティが必要な砂堆積に一致し、
c)キャビティを鋳物砂で充填した後に圧縮台(4)が模型板(7)を、
dd)まず上部充填枠(6)が封鎖されると、模型(2)の分割面が型箱(13)の下縁と整合するまで、鋳物砂を下部充填枠(10)から型箱(13)中へ排出しながら上方へ動かし、
ee)引続き上部充填枠(6)の封鎖が解除されると、下部充填枠(10)、型箱(13)および上部充填枠(6)を連行して圧縮板(3)に向って移動させ、その際鋳物砂は上部充填枠(6)から型箱(13)中へ排出され、
f)引続き出来上った型が両充填枠(6,10)から分離され、
造型機から取除かれるような位置に配置されていることを特徴とする造型機。」(特許請求の範囲1、2)
(2-2)「下方から圧縮する間模型の範囲内の鋳物砂が予備圧縮され、従ってここで輪郭鮮明な型取りが配慮されるという利点が得られる。引続き上方から圧縮する場合に、模型の上方で鋳物砂の最終圧縮が行なわれるので、型は双方の圧縮行程の終結後に良好かつ単一な圧縮度を有する。」(第3頁左下欄第1〜7行)
(2-3)「上部充填枠は圧縮板に対して、駆動装置により調節可能で、充填しかつ下方から圧縮する間封鎖可能である。同様に、下部充填枠は模型板ないしは圧縮台に対して、駆動装置により調節可能かつ充填の間封鎖可能でありうるとともに、下方ならびに上方から圧縮する際に型箱の下縁と接触状態に保持されている。上部および下部充填枠を調節するための駆動装置としては、水圧もしくは空気力式シリンダが用いられる。
本発明のもう1つの実施例によれば、下部充填枠は模型板もしくは圧縮台に、その締付け力が圧縮力よりも小さいクランプ装置により保持されている。」(第4頁右上欄第18行〜左下欄第11行)
(2-4)「図面に示した造型機は、機械ハウジング2中の定置のショットボックス1およびショットボックス1の下側に配置された射出および圧縮板3を有するショット・圧縮の組合せ造型機である。さらに、該機械は、例えば工程ピストンによって駆動されている昇降可能な圧縮台4を有する。射出および圧縮板3は詳細に図示されない穿孔を有し、該孔を通してショットボックス1から鋳物砂を衝撃的に型キャビティ中へ射出することができる。
機械ハウジング2には、上部充填枠6有する水圧シリンダ5が配置されている。
圧縮台4上には模型8を有する模型板7が固定されている。」(第5頁左上欄第15行〜右上欄第8行)
(2-5)「模型板7ないしは圧縮台4には下部充填枠10が配されていて、該充填枠はクランプ装置11により圧縮台4ないしは模型板7に保持されている。」(第5頁右上欄第14〜17行)
(2-6)「第1図に示された出発位置から、充填枠10は水圧ピストンによりまず、模型板7から上方へ突出しているような位置にもたらされる(第5図参照)。この位置で、下部充填枠10は水圧ピストンによりまず、該充填枠が模型板7から上方へ突出しているような位置(第5図参照)にもたらされる。・・・
この準備位置(第5図)から圧縮台は、下部充填枠10がその上縁で型箱13の下縁に突当ってこの型箱をローラコンベア14から持上げるまで上方へ移動する。・・・最後に、第2図に示された充填位置、つまり射出および圧縮板3、模型板7、双方の充填枠6および10、および型箱13の間に、必要な砂堆積に一致するような容積が気密に囲まれる位置に到達する。
第2図に示された充填位置から、圧縮台は模型板と一緒にさらに上方へ移動し、その際クランプ装置の棒20がクランプジョー21を滑り抜ける。この場合、模型8を有する模型板7は、模型の分割面と合致する模型板の上縁が型箱13の下縁と整合するまで、下部充填枠を移動する。この下方からの圧縮行程において、鋳物砂は、第3図に示したように、模型に近接する範囲で圧縮される。この最初の圧縮行程の間、上部充填枠6は水圧シリンダ5によって封鎖され、従って射出および圧縮板3に対するその相対位置を維持する。さらに、型箱はこの作業相中下部充填枠10によってクランプ装置11によって指示される。
模型の分離面が型箱13の下縁と整合する(第3図)と直ちに、調節可能の連行体22が充填枠の下縁と接触する。これによって、模型板ないしは圧縮台は下部充填枠10に対してもはや移動しえず、むしろこれは型箱13と一緒に連行される。あらかじめ水圧シリンダは封鎖解除されていて、その結果上部充填枠も圧縮台4の工程運動を一緒に行ない、射出および圧縮板3はその上部充填枠6中へ深く進入することができ、その際該充填枠に含まれている鋳物砂を型箱13中へ圧縮する。」(第5頁右下欄第4行〜第6頁右上欄第10行)

(3)甲第3号証(特開平4-143043号公報)
「鋳型の造型方法及び装置」(第1頁左下欄第3行:発明の名称)について、以下の記載がある。
(3-1)「受圧装置3は複数のブロックUとそれを昇降するシリンダ23とから成り、シリンダ12,13を介して制御部4と連通するように設ける。」(第3頁第8〜10行)

(4)甲第4号証(特公昭47-35650号公報)
「砂型成形プレス」(第1欄第1行:発明の名称)について、以下の記載がある。
(4-1)「プレスヘッド10は流体を詰めた室11を有し、室11は型枠側において薄膜12によって密閉され」(第4欄第22〜24行)

(5)甲第5号証(特願平11-124913の出願当初の明細書及び図面:特開2000-317579号公報(甲第6号証)参照。)
(5-1)「【請求項1】盛枠と、この盛枠の内側面に沿った内側面を有し該盛枠の上面に載置された鋳枠と、前記盛枠と前記鋳枠の内側面に沿って該盛枠と該鋳枠に対し相対的に上下に可動に嵌装された基台と、この基台の上面に固定された模型定盤と、該基台を下方から支持する下加圧ヘッドと、前記鋳枠の上方に位置する上加圧ヘッドとを備えた鋳型造型装置であって、前記基台はストッパ部を有し、前記盛枠の下端は前記ストッパ部の上面と当接可能な底面を形成し、かつ該盛枠はロッド部とこのロッド部の下端に形成されたヘッド部とを有するピン部材を備えるが、該ロッド部は上端が該盛枠に固定され下方に伸びて前記基台のストッパ部を貫通して、該ヘッド部が該ストッパ部の下面と係合し、さらに前記盛枠と前記基台のストッパ部の上面との間に介在させた圧縮性弾性部材を備えたことを特徴とする鋳型造型装置。
【請求項2】前記下加圧ヘツドと前記上加圧ヘッドのうち、少なくとも一方が上下に可動であることを特徴とする請求項1に記載の鋳型造型装置。
【請求項3】前記圧縮性弾性部材が圧縮コイルばねであることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳型造型装置。
【請求項4】前記ピン部材のロッド部をコイルの中心軸として前記圧縮コイルばねが配置されていることを特徴とする請求項3に記載の鋳型造型装置。
【請求項5】前記模型定盤の盤面と前記鋳枠の下端面との間の上下方向の距離を、前記盛枠の底面と前記基台のストッパ部の上面との間の上下方向の距離に等しくして保持した状態で、前記鋳枠の内側面と前記盛枠の内側面と前記模型定盤の上面とによって形成された空間内に鋳物砂を充填し、かつ前記模型定盤の盤面の位置が前記鋳枠の下端面の位置と上下方向で一致するまで、前記上加圧ヘッドの下降、又は前記下加圧ヘッドの上昇、又は該上加圧ヘッドの下降と該下加圧ヘッドの上昇によって、前記鋳物砂を前記模型定盤の盤面側からスクイズすることを特徴とする請求項1ないし4に記載の鋳型造型装置を使用する鋳型造型方法。
【請求項6】前記ピン部材のロッド部の長さを調節することによって、前記模型定盤の盤面側からのスクイズの際の前記鋳物砂の圧縮代を調節することを特徴とする請求項5に記載の鋳型造型方法。
【請求項7】前記ピン部材のロッド部の長さが、前記模型定盤の盤面側からのスクイズの際の圧縮代と該鋳型造型装置によって定められた長さとの和であることを特徴とする請求項6に記載の鋳型造型方法。」(特許請求の範囲)
(5-2)「本発明による鋳型造型装置は、図1に示すように、盛枠1と、盛枠1の内側面に沿った内側面を有し盛枠1の上縁を形成する支承部1aの上面に載置された鋳枠2と、盛枠1と鋳枠2の内側面に沿って盛枠1と鋳枠2に対し相対的に上下に可動に嵌装された基台3と、基台3の上面に固定された模型定盤4と、基台3を下方から支持する下加圧ヘッド5と、鋳枠2の上方に位置する上加圧ヘッド6とを備えている。
下加圧ヘッド5は、油圧によって上下に作動するスクイズシリンダ7によって下方から支持されている。」(段落【0009】〜【0010】)
(5-3)「本鋳型造型装置による造型工程を図2に基づいて説明する。図2(イ)は第1の工程で、鋳物砂13を鋳枠2内に装入する。この工程の装置は、上記のとおり、盛枠1の底面1bと基台3のストッパ部3aの上面との間の距離を、模型面側からのスクイズの際の圧縮代に等しくしてHという値に保持してある。この状態の装置に対して、鋳枠2の内側面と盛枠1の内側面と模型定盤4の上面とによって形成された空間内に鋳物砂13を充填する。この場合に、充填される鋳物砂13は、次の工程である背面側からのスクイズによる圧縮代に相当する分も含めて盛り上げられている。
図2(ロ)は第2の工程で、背面側からのスクイズが行われる。すなわち、油圧切り換え弁10を開き、ストッパシリンダ8のシリンダ部8aの上側の室を開放状態として、スクイズシリンダ7を上昇させ、下加圧ヘッド5によって鋳物砂13を上加圧ヘッド6に向けて圧縮することによって、背面側からのスクイズを行う。この場合に、ストッパシリンダ8のピストン8bの下端は、鋳枠2の上縁部2aの上面と当接している。
図2(ハ)は第3の工程で、模型面側からのスクイズが行われる。すなわち、油圧切り換え弁10を閉じて、ストツパシリンダ8のピストン8bの位置を固定状態として、スクイズシリンダ7をさらに距離Hだけ上昇させると、鋳枠2の位置は固定されているので盛枠1は動かず、基台3が盛枠1に対して上昇し、基台3のストッパ部3aの上面が盛枠1の底面1bと当接して基台3の上昇が停止される。この際に、模型定盤4の盤面4aは盛枠1に対して同様に距離Hだけ上昇する。かくして、模型定盤4の盤面4aと鋳枠2の下縁部2bの下面とが同一水準となって、圧縮代Hの模型面側からのスクイズが終わる。」(段落【0013】〜【0015】)
(5-4)「前記形態においては、背面側からのスクイズも模型面側からのスクイズも上加圧ヘッド6の位置を固定しておいて下加圧ヘッド5を上昇させることによって行ったが、両面側からのスクイズを下加圧ヘッド5の位置を固定しておいて、上下に可動とした上加圧ヘッド6を下降させることによっても行うことができ、さらに背面側からのスクイズを上加圧ヘッド6を下降させ、かつ模型面側からのスクイズを下加圧ヘッド5を上昇させることによっても行うことができる。」(段落【0017】)
(5-5)「本発明は、圧縮コイルばね等の圧縮性弾性部材とピン部材とを備えた極めて簡単な鋳型造型装置によって、背面と模型面との両面側からのスクイズを行うことができる。」(段落【0021】)

VI.対比・判断
以下、請求人が主張する無効理由について検討する。
(VI-1)特許法第29条第2項の規定に係る理由について
(1)本件発明1について
本件発明1と、甲第1号証に記載されたものとを対比すると、甲第1号証には、下補助枠の上面に鋳枠を載置し、前記下補助枠と前記鋳枠の内側面に沿って該下補助枠と該鋳枠に対し相対的に上下に可動に嵌装された下加圧ヘッドの上面に模型定盤を固定し、該模型定盤の盤面を前記下補助枠と鋳枠の内側面に沿った所定高さの位置に保持した状態で、前記下補助枠の内側面と、前記鋳枠の内側面と、前記模型定盤の上面とによって形成された空間内に鋳物砂を充填し、かつこの鋳物砂を上方、下方の少なくとも一方からスクイズし、スクイズ終了時における前記模型定盤の盤面の位置に対応して、前記スクイズされた鋳物砂の下面を前記下補助枠と前記鋳枠の内側面に沿った所望高さの位置に形成させることからなる鋳型造型方法(摘記1-1:請求項1)に係る発明が記載されている。
併せて、甲第1号証には、上下の加圧ヘッド4,6のいずれか一方は適宜の架台に固定して、上下に昇降しないものとすることもでき、上加圧ヘッド6を上下に昇降可能とし、下加圧ヘッド4を固定した場合には、下補助枠1をシリンダ等によって上下に昇降可能とすることによって、模型定盤5の盤面の下補助枠1と鋳枠2に対する相対的位置の変更、その位置での保持、固定、上方、下方からのスクイズ及び抜型を行うことができること(摘記1-5)が記載されており、下加圧ヘッドを固定する場合が記載されているので、甲第1号証には本件発明1の「水平状にして固定された模型板」が記載されているといえる。また、同上摘記事項において、下補助枠1をシリンダ等によって上下に昇降可能とすることによって、模型定盤5の盤面の下補助枠1と鋳枠2に対する相対的位置の変更を行うことができることが記載されていることからすると、甲第1号証には、下補助枠1、鋳枠2及びその上部の上補助枠3を、昇降可能に配設することが記載されているといえる。
そして、本件発明1の「模型板に上下摺動自在に環装された下補助枠」は甲第1号証の下補助枠(1)に相当し、本件発明1の「下補助枠の上方に配設された鋳枠」は甲第1号証の鋳枠(2)に相当し、本件発明1の「鋳枠の上方に昇降可能に配設された上補助枠」は甲第1号証の上補助枠(3)に相当し、本件発明1の「鋳枠の上方に昇降可能に配設され下部が前記上補助枠に上下摺動自在に貫装された圧縮手段」は甲第1号証の上加圧ヘッド(6)に相当し、また両者は「画成された鋳型造型空間に鋳物砂を充填し圧縮する方法」である点、及び「鋳型造型空間に鋳物砂を充填する工程」を有する点で一致している。
また、甲第1号証には、下加圧ヘッド4の位置を図1の位置に固定した状態で、鋳物砂9をその上面から上加圧ヘッド6の下降によりスクイズする第1次スクイズ工程(摘記1-4:図2(a)参照。)が記載されており、このとき下補助枠(1)は固定されていると認められるので、甲第1号証には、本件発明1の「少なくとも前記下補助枠が下降不可能な状態の下に前記圧縮手段を下降させて前記鋳型造型空間の鋳物砂を圧縮する第1圧縮工程」が記載されているといえる。

してみれば、甲第1号証には、“水平状にして固定された模型板と;この模型板に上下摺動自在に環装されて昇降可能に配設された下補助枠と;この下補助枠の上方に昇降可能に配設された鋳枠と;この鋳枠の上方に昇降可能に配設された上補助枠と;前記鋳枠の上方に昇降可能に配設され下部が前記上補助枠に上下摺動自在に貫装された圧縮手段と;によって画成された鋳型造型空間に鋳物砂を充填し圧縮する方法であって、前記鋳型造型空間に鋳物砂を充填する工程と、少なくとも前記下補助枠が下降不可能な状態の下に前記圧縮手段を下降させて前記鋳型造型空間の鋳物砂を圧縮する第1圧縮工程と、を有することを特徴とする鋳物砂の充填圧縮方法。”の発明が記載されているといえ、この点で、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と一致している。そして一方、
(イ)本件発明1では、上記第1圧縮工程の後に、“上・下補助枠および前記鋳枠が下降可能な状態の下に前記圧縮手段を下降させて前記鋳型造型空間の鋳物砂をさらに圧縮する第2圧縮工程”を有するのに対して、甲第1号証には当該第2圧縮行程の記載が見あたらない点で、本件発明1は甲第1号証に記載された発明と相違している。

なお請求人は、本件発明1の第2圧縮行程には、甲第1号証における、上加圧ヘッド6の位置を図2(a)の位置に固定した状態で、模型定盤5の盤面が鋳枠2の下面から所定寸法だけ下補助枠1内へ突出した位置まで、鋳物砂9を下加圧ヘッド4の上昇により下方からスクイズする図2(b)の第2次スクイズ工程が対応すると主張し、また、上・下補助枠3、1及び鋳枠2が下加圧ヘッド6に対し相対的に下降可能な状態の下に上加圧ヘッド6の位置を固定して下加圧ヘッド4を上昇させて下方からスクイズするので、構成要件(H)と(h)は実質的に同一であると主張する。
しかし、甲第1号証の当該第2次スクイズ工程は、下加圧ヘッドの上昇により下からスクイズするものであって、鋳枠が下降可能な状態の下に前記圧縮手段を上から下降させる本件発明1の第2圧縮行程とはその構成が異なるものであり、また、その構成の相違に基づき、本件発明1のように模型面に向かって上から圧縮する場合と、甲第1号証のように下から上に向かって模型面側で圧縮する場合とでは、鋳物砂に対する圧縮力のかかり方が異なるので、鋳物砂に対する充填圧縮作用は両者で同じであると認めることはできない。よって、請求人の上記主張は採用できない。

そこで、上記相違点(イ)について、以下検討する。
甲第2号証には、鋳物砂を充填した型箱中へ上方から過剰砂を圧入することにより型箱中の鋳物砂を圧縮する方法において、型箱中の鋳物砂を上方から圧縮する前に下方から圧縮し、その際過剰砂の量を、下方からの圧縮の終結後なお型箱の上方に過剰の鋳物砂が存在し、引続き上方から圧縮する際に少なくとも部分的に型箱中へ圧縮されるように定めることを特徴とする型箱中の鋳物砂を圧縮する方法(摘記2-1)に係る発明が記載され、下方からの圧縮の後、上方から圧縮することが記載されている。
しかし、甲第2号証に記載のものは、上記のとおり、上方から圧縮する前に下方から圧縮するものであって、具体的には、模型板下に配設した圧縮台を用いたもの(摘記2-4〜2-6、第7頁図1〜5)であるのに対して、本件発明1では、模型板を底面とする鋳型造型空間を画成した後、”下補助枠が下降不可能な状態の下に前記圧縮手段を下降させて前記鋳型造型空間の鋳物砂を圧縮する第1圧縮工程”の後に、“上・下補助枠および前記鋳枠が下降可能な状態の下に前記圧縮手段を下降させて前記鋳型造型空間の鋳物砂をさらに圧縮する第2圧縮工程”を行い、模型面に向かって上から下に向かって行う圧縮手段の下降を2度行うものであるので、両者の圧縮方法は相違する。
そして、この圧縮方法の相違に基づき、模型板側から上に向かって行う甲第2号証の圧縮行程と、圧縮手段を下降させて鋳型造型空間の鋳物砂を模型面に向かって上から圧縮する本件発明1の第1、第2圧縮工程とでは圧縮方向が異なり、そしてその相違に基き、鋳物砂に対する圧縮力のかかり方が異なるので、鋳物砂の充填圧縮作用は両者で同じとはいえない。

そして本件発明1は、これら相違点(イ)の点を含む前記認定の特定事項を具備することにより、鋳型造型空間に充填された鋳物砂を、ピットを必要とする模型板昇降用の大型の油圧シリンダを設けることなく、鋳型造型空間内の鋳物砂をほぼ全体にわたって所要の硬度に圧縮することができる(段落【0015】)という、明細書に記載された効果を奏したと認めることができる。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできず、また、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということもできない。

(2)本件発明2、3について
本件発明2は、請求項1を引用して「前記第2圧縮工程における前記圧縮手段による圧縮力が、前記第1圧縮工程のときよりも大きい」として本件発明1をさらに限定した発明であり、また、本件発明3は、請求項1、2を引用して、「相互に独立して下降可能な複数の圧縮部材または背面に圧力流体が作用する可撓性膜を備えた圧縮手段によって前記鋳型造型空間の鋳物砂を圧縮する」として本件発明1又は2をさらに限定した発明である。
そして、甲第3号証には受圧装置3は複数のブロックUとそれを昇降するシリンダ23とから成り、シリンダ12,13を介して制御部4と連通するように設けること(摘記3-1)が記載され、甲第4号証には、プレスヘッド10は流体を詰めた室11を有し、室11は型枠側において薄膜12によって密閉されること(摘記4-1)が記載されているが、上記相違点(イ)〜(ニ)を開示する記載は見あたらない。
したがって、本件発明2及び3については、上記「(1)本件発明1について」の欄で本件発明1について記載したと同様、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできない。

(3)本件発明4について
本件発明4と、甲第2号証に記載されたものとを対比すると、本件発明4の模型板、鋳枠、補助枠及び圧縮手段は、甲第2号証に記載された、模型板(7)及び模型(8)、型箱(13)、充填枠(6,10)及び圧縮台(4)に対応し、また、甲第2号証における模型(8)は第1〜5図の記載からみて水平状であると認められる。また、甲第2号証の下部充填枠(10)は、模型板(7)及び模型(8)に対して上下摺動自在に環装されているといえる。そして、甲第2号証における充填圧縮装置は、シリンダの封鎖状態(第3図)とシリンダの解除状態(第4図)との2段階の圧縮を行うものといえ、そしてその際、下部充填枠(10)、型箱(13)及び上部充填枠(6)は、シリンダ(5)の封鎖、解除に伴い上方に移動しているので(第3、4図)、昇降可能に配設されているものといえる。

してみれば、甲第2号証には、“模型板と、鋳枠と、補助枠と、圧縮手段とで画成した鋳型造型空間に鋳物砂を充填した後2段階にわたって圧縮する装置であって、水平状にした模型板と;この模型板に上下摺動自在に環装されて昇降可能に配設された下補助枠と;この下補助枠の上方に昇降可能に配設された鋳枠と;この鋳枠の上方に昇降可能に配設された上補助枠と;を備えたことを特徴とする鋳物砂の充填圧縮装置。”が記載されているといえ、この点で、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明と一致している。そして一方、
(A)本件発明4では、模型板は「固定された」ものであるのに対して、甲第2号証に記載された模型板(7)は、上下に移動するものであって、「固定された」ものではない点、
(B)本件発明4における圧縮装置は、「鋳枠の上方に昇降可能に配設され」たものであるのに対して、甲第2号証に記載された圧縮装置である圧縮台は、型枠(13)及び下部充填枠(10)の下に配置されたものであって、本件発明4のような「鋳枠の上方に昇降可能に配設され」たものではない点、及び、
(C)本件発明4における圧縮装置は、「下部が前記上補助枠に上下摺動自在に貫装された」ものであるのに対して、甲第2号証に記載された圧縮装置では下部充填枠(10)中を移動する模型板(7)を載置して垂直に運動するものであって、上補助枠の記載も無く、本件発明4のような「下部が前記上補助枠に上下摺動自在に貫装された」ものではない点、
の各点で、本件発明4は甲第2号証に記載された発明と相違している。

そこで、これら相違点(A)〜(C)について、以下検討する。
請求人は、本件発明4の下補助枠について、甲第2号証に記載された下部充填枠(10)も模型板(7)に相対的に上下摺動自在に環装されて昇降可能に配設されている点では同じであると主張する。しかし、上記(A)〜(C)の各相違点については、これを容易になし得たことと判断すべき根拠は甲第2号証には見あたらず、また甲第1号証はじめ、請求人が提示した他の証拠にも見あたらない。
そして本件発明4は、これら相違点(A)〜(C)の点を含む前記認定の特定事項を具備することにより、鋳型造型空間に充填された鋳物砂を、ピットを必要とする模型板昇降用の大型の油圧シリンダを設けることなく、鋳型造型空間内の鋳物砂をほぼ全体にわたって所要の硬度に圧縮することができる(段落【0015】)という、明細書に記載された効果を奏したと認めることができる。
したがって、本件発明4は甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明とはいえず、また、甲第2号証及び甲第1、3及び4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということもできない。

(VI-2)特許法第29条の2の規定に係る理由について
(1)本件発明1について
本件発明1と、甲第5号証に記載されたものとを対比すると、甲第5号証には、盛枠と、この盛枠の内側面に沿った内側面を有し該盛枠の上面に載置された鋳枠と、前記盛枠と前記鋳枠の内側面に沿って該盛枠と該鋳枠に対し相対的に上下に可動に嵌装された基台と、この基台の上面に固定された模型定盤と、該基台を下方から支持する下加圧ヘッドと、前記鋳枠の上方に位置する上加圧ヘッドとを備えた鋳型造型装置であって、前記基台はストッパ部を有し、前記盛枠の下端は前記ストッパ部の上面と当接可能な底面を形成し、かつ該盛枠はロッド部とこのロッド部の下端に形成されたヘッド部とを有するピン部材を備えるが、該ロッド部は上端が該盛枠に固定され下方に伸びて前記基台のストッパ部を貫通して、該ヘッド部が該ストッパ部の下面と係合し、さらに前記盛枠と前記基台のストッパ部の上面との間に介在させた圧縮性弾性部材を備えたことを特徴とする鋳型造型装置(摘記5-1:請求項1)に係る発明が記載されている。またこれに加えて、甲第5号証には、両面側からのスクイズを、下加圧ヘッド5の位置を固定しておいて、上下に可動とした上加圧ヘッド6を下降させることによっても行うことができること(摘記5-4)が記載されているので、甲第5号証には、模型板を「水平状にして固定」することが記載されているといえる。

そして、本件発明1の水平状の模型板は甲第5号証の横型定盤(4)に相当し、本件発明1の模型板に上下摺動自在に環装されて昇降可能に配設された下補助枠は、甲第5号証の盛枠(1)に相当し、本件発明1の下補助枠の上方に昇降可能に配設された鋳枠は、甲第5号証の鋳枠(2)に相当し、本件発明1の鋳枠の上方に昇降可能に配設された圧縮手段は、甲第5号証の上加圧ヘッド(6)に相当する。
また、甲第5号証における圧縮工程は、油圧切り換え弁(10)を開いた状態でスクイズシリンダ(7)を上昇させる「第2の工程」と、油圧切り換え弁(10)を閉じた状態でさらにスクイズシリンダ(7)を上昇させる「第3の工程」との2段階で行われているといえ、これをそれぞれ「第1圧縮行程」、「第2圧縮行程」と呼ぶことができる。

してみれば、甲第5号証には、“水平状にして固定された模型板と;この模型板に上下摺動自在に環装されて昇降可能に配設された下補助枠と;この下補助枠の上方に昇降可能に配設された鋳枠と;前記鋳枠の上方に昇降可能に配設された圧縮手段と;鋳型造型空間に鋳物砂を充填し圧縮する方法であって、前記鋳型造型空間に鋳物砂を充填する工程と、前記鋳型造型空間の鋳物砂を圧縮する第1圧縮工程と、前記鋳型造型空間の鋳物砂をさらに圧縮する第2圧縮工程と、を有することを特徴とする鋳物砂の充填圧縮方法。”の発明が記載されているといえ、この点で、本件発明1は甲第5号証に記載された発明と一致している。そして一方、
(a)本件発明1では「鋳枠の上方に昇降可能に配設された上補助枠」を有するものであるのに対して、甲第5号証には当該上補助枠の記載が見あたらない点、
(b)本件発明1の圧縮手段については、「下部が前記上補助枠に上下摺動自在に貫装された」ものであるのに対して、甲第5号証の圧縮手段のうちの基台(3)が、盛枠(1)に上下摺動自在に貫装されているとはいえるが、本件発明1のとおりの「下部が前記上補助枠に上下摺動自在に貫装された」ものではない点、
(c)本件発明1では、鋳型造型空間が、下補助枠、鋳枠、上補助枠及び圧縮手段とによって画成されたものであるのに対して、甲第5号証の鋳型造型空間は鋳枠(2)、盛枠(1)及び模型定盤(4)とによって構成された空間であって、本件発明1の上補助枠に相当する部分が欠如している点、
(d)本件発明1では、第1圧縮行程を、「少なくとも前記下補助枠が下降不可能な状態の下に前記圧縮手段を下降させて」行うものであるのに対して、甲第5号証に記載の盛枠1は、コイルばね12及びピン部材11を介して基台3に支持されており(摘記5-1、図2)、上記第1圧縮工程時の盛枠1の固定状態が明らかでない点、及び、
(e)本件発明1では、第2圧縮行程を、「前記上・下補助枠および前記鋳枠が下降可能な状態の下に前記圧縮手段を下降させて」行うものであるのに対して、甲第5号証にはその記載が見あたらない点、
の各点で、本件発明1は甲第5号証に記載された発明と相違している。

そこで、これら相違点(a)〜(e)について、以下検討する。
相違点(a)〜(c)及び(e)について
甲第5号証には、「鋳枠の上方に昇降可能に配設された上補助枠」(相違点a)の記載は見あたらない。これについて、請求人は、“充填される鋳物砂が、次の工程である背面側からのスクイズによる圧縮代に相当する分も含めて盛り上げられていることが対応する”と主張する。しかし、甲第5号証には上記盛り上げられた鋳物砂部分を囲む補助枠の記載はなく、また、盛り上げられた鋳物砂部分が、本件発明1の「昇降可能に配設された上補助枠」に一致するとする合理的な理由は見あたらない。なおかつ、甲第5号証に記載された鋳型造型装置及び造型方法において、「昇降可能に配設された上補助枠」を更に設けることが周知といえる根拠も見あたらない。
そして、本件発明1は当該上補助枠を特定事項として具備することにより、圧縮手段については、「下部が前記上補助枠に上下摺動自在に貫装された」ものとし(相違点b)、鋳型造型空間については、下補助枠、鋳枠、上補助枠及び圧縮手段とによって画成されて(相違点c)その画成要素に上補助枠を必須とするものとし、また、第2圧縮行程においては、「前記上・下補助枠および前記鋳枠が下降可能な状態の下に前記圧縮手段を下降させて」行うとしたもの(相違点e)であるところ、甲第5号証には、上記相違点(a)に係る上補助枠を必須とする前提の下に、さらに構成された上記相違点(b)、(c)及び(e)に係る特定事項を開示する記載は見あたらない。

以上のとおりであるから、上記相違点(a)〜(c)及び(e)は、本件発明1と甲第5号証に記載された発明との実質的な相違点を構成するものであり、なおかつ、甲第5号証の記載からみてこれらの相違点を自明とする根拠も見あたらない。したがって、相違点(d)についてあらためて検討するまでもなく、本件発明1は甲第1号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。

(2)本件発明4について
本件発明4と、甲第5号証に記載されたものとを対比すると、甲第5号証には、本件発明4の特定事項である「鋳枠の上方に昇降可能に配設された上補助枠」の記載が無く、また、当該上補助枠の記載がない結果、当該上補助枠を必須の特定事項として含む「鋳枠の上方に昇降可能に配設され下部が前記上補助枠に上下摺動自在に貫装された圧縮手段」という本件発明4の特定事項が記載されているとすることもできない。そしてなおかつ、上記「(1)本件発明1について」の欄に記載したように、これら上補助枠及び圧縮手段に係る特定事項は、甲第5号証に記載されたものとの実質的な相違点を構成するものであるので、本件発明4は甲第5号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。

VII.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び提示した証拠方法によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-28 
結審通知日 2005-05-18 
審決日 2005-05-31 
出願番号 特願2000-111700(P2000-111700)
審決分類 P 1 113・ 161- Y (B22C)
P 1 113・ 121- Y (B22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國方 康伸  
特許庁審判長 池 田 正 人
特許庁審判官 瀬 良 聡 機
市 川 裕 司
登録日 2003-03-14 
登録番号 特許第3407879号(P3407879)
発明の名称 鋳物砂の充填圧縮方法およびその装置  
代理人 白銀 博  
代理人 山崎 行造  
代理人 杉山 直人  
代理人 冨田 一総  
代理人 小林 脩  
代理人 赤松 利昭  

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