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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1120348
審判番号 不服2001-18362  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-03-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-10-11 
確定日 2005-07-21 
事件の表示 平成11年特許願第243757号「データ受け渡し方法、仲介システム、記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月16日出願公開、特開2001- 67236〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年8月30日の出願であって、平成13年11月12日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1(実質的には、補正前の請求項4と同じもの)には次のとおりに記載されている。

「第1機能実現体及び第2機能実現体が稼働する空間に、引数を解読する機能を具備する仲介システムを介在させ、
第1機能実現体側で、少なくとも受け渡し対象となるデータの送信要求、第2機能実現体の宛先、及びそのデータの格納領域を引数で表現し、この引数を前記仲介システムへ送信するとともに、
前記引数を受信した仲介システムが当該引数の内容に基づいて第2機能実現体と前記データの格納領域とを特定し、特定した第2機能実現体宛に前記格納領域内のデータを引き渡すデータ受け渡し方法であって、
前記第1機能実現体及び前記第2機能実現体は所定のOS空間で稼働するアプリケーションプログラムであり、前記仲介システムは、前記OS空間で各アプリケーションプログラムの稼働空間とは別の空間で稼働するプログラムであることを特徴とする、データ受け渡し方法。」

ここで、本願請求項1に記載のものにおいて、「OS空間」及び「アプリケーションプログラム」とは、技術的にどのような意味であるのかについて検討する。
本願明細書には、次の事項が記載されている。
(ア)この明細書において、「空間」という場合は、プログラムが動作する領域をいうものとする。(段落【0001】)
(イ)メインフレームを使用したシステムでは、一つのOS空間内で様々なアプリケーションが稼動し、所要の機能を実現している。(段落【0002】)
(ウ)メインフレームにおいてOSが稼働する空間に仲介システムを設け、このOS内のあるアプリケーションが仲介システムを介して他のアプリケーションにデータを受け渡す場合の例を挙げる。(段落【0012】

上記の事項、特に上記(ウ)のうち「OSが稼働する空間」及び「OS内のあるアプリケーション」からすると、「仲介システム」及び「アプリケーション」は、「OS」の一部として構成されているとも解釈し得るが、技術常識からすると、アプリケーションプログラムは、OSの管理下にあり、OSが管理するメモリ領域内で稼働し、OSを構成するプログラムとは別のものである。よって、請求項1に記載された事項において、「OS空間」とは、「OSが管理するメモリ領域」であり、「アプリケーションプログラム」は、当該「OSが管理するメモリ領域」で稼働するアプリケーションプログラムであり、「仲介システム」は、当該「OSが管理するメモリ領域」であって、各アプリケーションプログラムが稼働するメモリ領域とは別のメモリ領域で稼働するプログラムであると解釈することが合理的である。
よって、本願請求項1に係る発明は、次のとおりのものと認定される(以下「本願発明」という。)。

「第1機能実現体及び第2機能実現体が稼働するメモリ領域に、引数を解読する機能を具備する仲介システムを介在させ、
第1機能実現体側で、少なくとも受け渡し対象となるデータの送信要求、第2機能実現体の宛先、及びそのデータの格納領域を引数で表現し、この引数を前記仲介システムへ送信するとともに、
前記引数を受信した仲介システムが当該引数の内容に基づいて第2機能実現体と前記データの格納領域とを特定し、特定した第2機能実現体宛に前記格納領域内のデータを引き渡すデータ受け渡し方法であって、
前記第1機能実現体及び前記第2機能実現体は所定のOSが管理するメモリ領域で稼働するアプリケーションプログラムであり、前記仲介システムは、前記OSが管理するメモリ領域であって、各アプリケーションプログラムが稼働するメモリ領域とは別のメモリ領域で稼働するプログラムであることを特徴とする、データ受け渡し方法。」

2.引用文献
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である昭和59年8月22日に頒布された刊行物である特開昭59-146347号公報(以下「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「例えばプロセスAがプロセスBにパケットを送信する場合にはプロセスAはデータ・アドレス、データ長および宛先プロセスを指定してメッセージ送信マクロを発行し、プロセスAが他プロセスからのパケットを受信する場合にはプロセスAはデータ・アドレスを指定してメッセージ受信マクロを発行する。メッセージ送信マクロを機械語に翻訳すると、所定のSVC番号を持つSVC命令となる。このSVC命令が発行されると、SVC割込みが生じ、SVC割込ハンドラによってSVC番号が解析され、メッセージ送信処理ルーチンは、送り元プロセスによって指定されたデータ・アドレスおよびデータ長を基にして送り元プロセスのデータ域からデータ(パケットと同義)を取出し、これを宛先プロセスに送るための処理を行う。送信パケットはパケット格納域に格納され、このパケット格納域は宛先プロセスのプロセス制御ブロックにリンクされる。」(第1頁右下欄第15行-第2頁左上欄第13行)

(イ)「メッセージ受信マクロを機械語に翻訳すると、他の所定のSVC番号を持つSVC命令となる。このSVC命令が発行されると、SVC割込みが生じ、SVC割込ハンドラによってSVC番号が解析され、メッセージ受信処理ルーチンが起動される。メッセージ受信処理ルーチンは、メッセージ受信マクロ発行元プロセスのプロセス制御ブロックにパケットがキューイングされているか否かを調べ、キューイングされている場合にはそのパケットをメッセージ受信マクロ発行元プロセスによって指定されたデータ・アドレスに書込み」(第2頁左上欄第13行-右上蘭第4行)

(ウ)「(略)…プロセス間通信方式において、プロセスAが宛先プロセスおよびパケットを指定してパケットを送信するための所定の命令を発行した時プロセスAによって指定された送信パケットをプロセスAによって指定された他のプロセスに送信するための処理を行うと共に…(中略)…当該パケットをプロセスAに渡す処理を行うメッセージ送信命令処理手段を設けたことを特徴とするプロセス間通信方式。」(特許請求の範囲)

(エ)「送信プロセスは、例えばデータの加工などの処理を行った後、データ・アドレス、データ長および宛先プロセスを所定のレジスタにセットしてメッセージ送信マクロを発行する。」(第3頁右上蘭第1-4行)

上記(ア)からすると、「メッセージ送信処理ルーチン」は、送り元プロセスによって指定されたデータ・アドレスおよび宛先プロセスを解読する機能を有していることは自明である。
上記(ア)の「SVC番号を持つSVC命令」からすると、「SVC番号」は、SVC命令の引数として割込ハンドラに送信されていることは自明である。また、上記(エ)からすると、「データ・アドレス」及び「宛先プロセス」は、所定のレジスタを介して宛先のプロセスに送信されている。
上記(ウ)において、「メッセージ送信命令処理手段」は、メッセージの送り元であるプロセスAと、宛先であるプロセスBとの間に介在し、メッセージを送信する機能と受信する機能を併せ持った手段であるから、上記(ア)及び(イ)からして、「SVC割込ハンドラ」、「メッセージ送信処理ルーチン」及び「メッセージ受信処理ルーチン」から構成されたものである。また、技術常識からして、「ハンドラ」及び「ルーチン」は、プログラムで構成されているから、結果として、「メッセージ送信命令処理手段」もプログラムであるといえる。
また、プロセスA及びプロセスBは、独立して動作している以上、別のメモリ領域で稼働するプログラムであり、かつ、「メッセージ送信命令処理手段」は、プロセスAとプロセスBとの間に介在したものであるから、各プロセスとは独立したメモリ領域で稼働するプログラムであることは自明である。

よって、上記(ア)乃至(エ)からすると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「プロセスA及びプロセスBが稼働するメモリ領域に、SVC番号、データ・アドレスおよび宛先プロセスを解読する機能を有するメッセージ送信命令処理手段を介在させ、
プロセスA側で、少なくとも受け渡し対象となるデータの宛先プロセスおよびデータ域を所定のレジスタにセットし、並びに、SVC番号をSVC命令の引数で表現して、宛先プロセスおよびデータ域並びにSVC番号を前記メッセージ送信命令処理手段へ送信すると共に、
前記SVC番号及び宛先プロセス並びにデータ・アドレスを受信したメッセージ送信命令処理手段が受信した宛先プロセス及びデータ・アドレスに基づいてプロセスBと前記データを格納したデータ・アドレスを特定し、当該データ・アドレスに格納されたデータをパケット格納域に書込み、当該パケット格納域をプロセスBに対応するプロセス制御ブロックにリンクすることにより、特定したプロセスB宛に前記データ域内のデータを送信するプロセス間通信方式であって、
前記プロセスA及び前記プロセスBは所定のメモリ領域で稼働するプログラムであり、前記メッセージ送信命令処理手段は、各プロセスが稼働するメモリ領域とは別のメモリ領域で稼働するプログラムであることを特徴とする、プロセス間通信方式。」

3.本願発明と引用文献との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明の「第1機能実現体」、「第2機能実現体」、「仲介システム」、「データの送信要求」、「第2機能実現体の宛先」、「データの格納領域」、及び、「データ受け渡し方法」は、引用発明の「プロセスA」、「プロセスB」、「メッセージ送信命令処理手段」、「SVC番号」、「宛先プロセス」、「データ・アドレス」、及び、「プロセス間通信方式」に対応し、両者は以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は、データの送信要求、第2機能実現体の宛先及びデータの格納領域を引数で表現して仲介システムへ送信しているのに対し、引用発明では、SVC番号は引数としてメッセージ送信命令処理手段へ送信されているが、宛先プロセス及びデータ・アドレスは、所定のレジスタを介して送信されている点。
[相違点2]
本願発明は、第1機能実現体、第2機能実現体及び仲介システムのいずれもOSが管理するメモリ領域で稼働するのに対し、引用発明では、OSが管理するメモリ領域について言及していない点。

4.当審の判断
上記相違点について、検討する。
以下、上記相違点について検討する。
[相違点1について]
複数のデータを一つの命令又はメッセージに含め、まとめて送信することは周知技術であるから、引用発明において、SVC命令を、SVC番号のみならず、宛先プロセス及びデータ・アドレスをもまとめて送信するような命令に変更することに格別な困難性はない。
[相違点2について]
アプリケーション及びプログラムを、OSが管理するメモリ領域で稼働させ、プロセス管理ブロック等により管理することは周知技術(例えば、特開平6―161861号公報の段落【0002】、段落【0026】-【0028】、特開平9-69017号公報の段落【0014】-【0017】及び図2を参照のこと。)であり、引用発明において、各プロセスがプロセス制御ブロック(PCB)により管理されていることからして、各プロセス及びプログラムが、OSが管理するメモリ領域で稼働していることは当業者ならば容易に推測し得た範囲内のものである。よって、引用発明において、各プロセス及びメッセージ送信命令処理手段が、OSが管理するメモリ領域で稼働するという事項を付加することは単なる設計変更にすぎない。

5.請求人の主張について
請求人は、平成13年11月12日付けの手続補正により補正した請求の理由において、「この補正によって、本願各請求項に記載された発明において、「仲介システム」は「OS」ではなく、OS空間で稼働するアプリケーションプログラムであることを明確にしました。」と主張しているが、本願の請求項1乃至6のいずれにも、「前記仲介システムは、前記OS空間で各アプリケーションプログラムの稼働空間とは別の空間で稼働するプログラムである」としか記載がなく、この記載からは、「仲介システム」が「アプリケーションプログラム」であると限定的に解釈することはできないから、当該請求人の主張は、請求項の記載に基づいたものではないので採用できない。
また、請求人は、上記請求の理由において、「従って、本願発明においては、OSに直接依存していない」とも主張しているが、OS空間内の別の空間でそれぞれ稼働している各アプリケーションと仲介システムとの間のインタフェース(例えば、空間Aで稼働するアプリケーションと空間Xで稼働する仲介システムとの間のデータ受け渡し)を、OSの機能を用いることなくどのように実現しているのかについて、発明の詳細な説明及び各請求項のいずれにも何ら記載されていない。また、OSの管理下で稼働する複数のアプリケーションプログラムの間の通信、スケジューリングなどをOSが制御することは技術常識であり、請求人が主張するようなOSに依存しない手法が本願の出願時において自明であったともいえない。よって、当該請求人の主張も採用できない。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-05-17 
結審通知日 2005-05-24 
審決日 2005-06-06 
出願番号 特願平11-243757
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 光宏  
特許庁審判長 吉岡 浩
特許庁審判官 林 毅
堀江 義隆
発明の名称 データ受け渡し方法、仲介システム、記録媒体  
代理人 鈴木 正剛  

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