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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C07D
管理番号 1120479
審判番号 無効2004-80080  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1987-05-02 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-06-18 
確定日 2005-04-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第1922762号発明「N-スルフアミル-3-(2-グアニジノ-チアゾ-ル-4-イル-メチルチオ)-プロピオンアミジンの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第1922762号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)についての出願は、昭和61年9月20日(パリ条約による優先権主張1985年9月11日、ハンガリー国)に出願され、平成7年4月7日にその発明についての特許権の設定登録がなされたものである。

2.本件発明
本件発明は、特許明細書の特許請求の範囲、請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】塩基を用いた同一反応系での処理によって下記式(III):
(式(III)略)
で表されるS-(2-)グアニジノ-チアゾール-4-イル-メチル)-イソチオウレアジヒドロクロリドから得られた2-グアニジノ-チアゾール-4-イル-メタンチオールをS-アルキル化することによって、下記式(I):
(式(I)略))
で表されるN-スルファミル-3-(2-グアニジノ-チアゾール-4-イル-メチルチオ)-プロピオンアミジン(ファモチジン)を製造する方法において、下記式(II):
(式(II)略)
[上式中、Xはハロゲンを表す]で表されるN-スルファミル-3-ハロプロピオンアミジンを用いてS-アルキル化を実施することを含む製造方法。」

3.当事者の主張
(1)請求人の主張
請求人は、本件製造方法における原料化合物たるS-アルキル化剤、すなわち、N-スルファミル-3-ハロプロピオンアミジンのハロゲン化水素酸塩が、本件特許の優先日である1985年9月11日以前においては知られていない新規化合物であるにもかかわらず、本件明細書には、その製造方法が全く記載されておらず、その製造のための反応条件も記載されていないうえ、物性も全く記載されていないのであるから、本件特許明細書の「発明の詳細な説明」の欄には、本件発明を当業者が実施できる程度に記載されていないので、本件特許は、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであると主張し、証拠方法として、以下の甲第1〜8号証を提出している。
甲第1号証:特開昭62-96481号公報
甲第2号証:特公平6-45609号公報
甲第3号証:米国特許第4,496,737号明細書
甲第4号証:特公平5-12342号公報
甲第5号証:米国特許第4,835,281号公報
甲第6号証:英国特許第2,180,237号出願公開公報
甲第7号証の1:本件特許に対応するイギリス出願において、イギリス特 許庁より交付された拒絶理由通知書
甲第7号証の2:上記の訳文
甲第8号証の1:上拒絶理由通知書に対して提出された意見書
甲第8号証の2:上記の訳文

(2)被請求人の主張
これに対して、被請求人は、該S-アルキル化剤はハロゲン化水素酸塩であるところ、その遊離塩基が本件特許の優先日前に、スペイン特許第526303号(乙第1号証、1985年4月1日公開、特許権者Inke S.A.、以下、「インケ社スペイン特許」という。)に記載されていた公知化合物であり、したがってそのハロゲン化水素酸塩である本件原料アルキル化剤もまた公知化合物である、と主張し、以下の乙第1〜12号証を提出している。
乙第1号証の1乃至3:スペイン特許第526303号明細書、同訳文、 及び1985年4月1日付特許公報表紙及び該当頁
乙第2号証の1及び2:"The chemistry of amidines and
imidates", Saul Patai編、1975年、JOHN WILEY &
SONS社(London-New York-Syd ney-Toronto)発行、
第292〜295頁、及び同訳文
乙第3号証の1及び2:"Organic Functional Group Preparations",
Stanley R.Sandler及びWolf Karo著、第3巻、1972年
ACADEMIC PRESS社(New York and London)発行、
第217頁、271頁及び272頁、及び同訳文
乙第4号証の1及び2:”The Aldrich Library of Infrared
Spectra EDITION III”、1981年ALDRICH
CHEMICAL COMPANY, INC.発行、第506頁及び
第507頁、及び同訳文
乙第5号証:特開昭59-2278780号公報
乙第6号証:の1乃至3:スペイン特許第549312号明細書、同抄訳 文、及び1986年3月16日付特許公報表紙及び該当頁
乙第7号証:平成16年10月18日付、本件特許第1,922,762 号についての訂正請求書
乙第8号証:平成6年審判第15276号審決公報
乙第9号証:平成7年審判第6842号審決公報
乙第10号証:英国意見書(甲第8号証の1)の訳文
乙第11号証:「新実験化学講座14、有機化合物の合成と反応[III]」 日本化学会編、1978年丸善株式会社発行、第1598〜1601頁
乙第12号証:登録された対応英国特許(GB2180237)明細書
4.判断
まず、該S-アルキル化剤が本件特許の優先権主張日前に既知乃至公知の化合物であったか否かについて、検討する。
上記インケ社スペイン特許には、S-(2-グアニジノ-チアゾール-4-イル-メチル)-イソチオウレアをN-スルファミル-3-クロロプロピオンアミジンでS-アルキル化することによって、N-スルファミル-3-(2-グアニジノ-チアゾール-4-イル-メチルチオ)-プロピオンアミジン(ファモチジン)を製造する方法について記載され、実施例1には、該S-アルキル化剤をS-(2-グアニジノーチアゾール-4-イル-メチル)-イソチオウレアと反応させてファモチジンを製造することが記載され、実施例2にも反応溶媒などの反応条件を変更して同様な反応によりファモチジンを製造することが記載されている。これらの実施例においては、具体的な反応条件が記載され、得られるファモチジンの収量、収率及びその生成を確認できる資料として融点も記載(実施例1では、IR,NMR,元素分析値も併せて記載されている)されている。
このように、インケ社スペイン特許には、S-アルキル化剤を用いてファモチジンを製造する、本件発明と同様な反応スキームに基づく方法について十分な具体性を持って記載されているといえる。
本件明細書に本件発明の製造方法を当業者が容易に実施できる程度に記載されているか否かを判断する上で、その公知性が問題となるS-アルキル化剤については、インケ社スペイン特許に記載されているのはN-スルファミル-3-クロロプロピオンアミジン自体であり、本件発明のものはそのハロゲン化水素酸塩である点で異なるのみであるところ、一般に上記S-アルキル化剤のようなアミジン誘導体においてその最も代表的な塩であるハロゲン化水素酸塩は実質的に同一の化合物と考えられることからみて、両者は実質的に同一の化合物と考えられる。
したがって、本件S-アルキル化剤は、本件優先権主張日前の刊行物であるインケ社スペイン特許に記載された、本件優先権主張日前に公知の化合物と認められる。
請求人は、乙第1号証には、本件原料アルキル化剤が製造可能に記載されていないと主張(第1回口頭審理調書)するので、この公知化合物をインケ社スペイン特許の記載及び技術常識を参酌することにより、当業者が過度の実験をすることなく入手し得るか否かについて検討する。
ファモチジンの製造方法として、本件優先権主張日前に知られていた代表的な方法である、山之内製薬法(被請求人提出の答弁書、第7頁、図4参照)及びメルク社製法(同図参照)においては、ファモチジンにおけるN-スルファミルプロピオンアミジン部分を形成するにあたり、いずれも対応する3-置換プロピオンイミデートにスルファミド(NH2SO2NH2)を反応させている。上記したとおり、本件S-アルキル化剤は、インケ社スペイン特許にファモチジンを製造する原料として記載されているのであるから、本件S-アルキル化剤を入手するためには、これらの反応にならって、本件S-アルキル化剤であるN-スルファミル-3-ハロゲノプロピオンアミジンの一つであるN-スルファミル-3-クロロプロピオンアミジンを、3-クロロプロピオンイミデートとスルファミドの反応により製造する工程を想到することは、この反応が、いわゆるピナー反応の後半行程に当たる周知のものであることを勘案すれば、当業者であれば、直ちになし得ることである。しかも、上記3-クロロプロピオンイミデートは、その塩酸塩が成書(乙第3号証第272頁、TABLE I)にピナー反応で得られる化合物としてその製法とともに記載されでいるのであるから、この化合物とスルファミドとをピナー反応の後半行程にしたがった反応条件で反応させて、本件S-アルキル化剤を製造することは、当業者が過度の実験をすることなくなし得るところである。
請求人はまた、インケ社スペイン特許には、S-アルキル化剤の確認資料が開示されていないことを、該化合物が製造可能に記載されていない事由としてあげるが、上述したように、公知の化合物である3-クロロプロピオンイミデートを原料として、公知のピナー反応で製造するのであれば、得られた化合物が本件S-アルキル化剤であることは合理的に予想され、しかも得られた化合物が、本件S-アルキル化剤であることを確認する手段としては、NMR分析,IR分析及び元素分析などが周知であるから、本件S-アルキル化剤についての確認資料がないからといって、その確認に過度の操作を要求するものではない。
したがって、本件S-アルキル化剤は、本件明細書の記載及び本件優先権主張日前の技術水準に基づいて当業者が入手可能なものであるので、本件特許明細書に請求人のいう記載上の不備はないものであり、請求人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠によっては、本件請求項1に係る発明についての特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2005-03-17 
出願番号 特願昭61-211792
審決分類 P 1 113・ 531- Y (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 聖子  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 横尾 俊一
深津 弘
登録日 1995-04-07 
登録番号 特許第1922762号(P1922762)
発明の名称 N-スルフアミル-3-(2-グアニジノ-チアゾ-ル-4-イル-メチルチオ)-プロピオンアミジンの製造方法  
代理人 二口 治  
代理人 伊東 浩彰  
代理人 中嶋 正二  
代理人 植木 久一  
代理人 菅河 忠志  
代理人 岩田 弘  
代理人 二口 治  
代理人 植木 久一  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 菅河 忠志  

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