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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G03B
管理番号 1120480
審判番号 無効2005-80004  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-08-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-12-29 
確定日 2005-07-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第3497830号発明「原稿圧着板開閉装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯・本件発明
本件特許第3497830号は、平成13年2月13日に特許出願され、平成15年11月28日に特許権の設定登録がなされ、その後、平成16年12月29日付けで特許無効審判が請求され、平成17年2月21日付けで答弁書が提出され、それに対し平成17年5月2日付けで弁駁書が提出されたものであって、その請求項1に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「装置本体側に取り付けられる取付部材と、
上板とこの上板の両側端から下方に折曲した両側板を有し、その両側板の回動基端側の一端部が前記取付部材にヒンジ軸を介して上下方向に回動自在に枢支連結された支持部材と、
この支持部材の上側に重なり合い該支持部材の回動先端側の他端部に、その回動基端側が支持軸を介して上下方向に回動自在に枢支連結されて、前記原稿圧着板の回動基端側に取り付けられるリフト部材と、
前記支持部材と前記取付部材との間に、前記支持部材を開き方向へ回動付勢し、かつ前記リフト部材を前記支持部材と重なり合う方向へ付勢するように装着された圧縮コイルばねと、を備えている原稿圧着板開閉装置において、
前記ヒンジ軸にリフト部材高さ調整用のカムが、その外周縁が前記リフト部材の回動先端側の下面に当接するように前記ヒンジ軸回りに回転・固定自在に取り付けられており、
前記カムはヒンジ軸挿通孔を有し、このヒンジ軸挿通孔を前記支持部材の両側板間のヒンジ軸に挿通させるとともに、ねじ回し工具の先端が嵌め込まれる穴付き、溝付き又は頭付きの止めねじの先端を前記カムに前記ヒンジ軸挿通孔と直交するようねじ込んで前記ヒンジ軸に当接させて該ヒンジ軸に対し前記カムを固定しており、前記止めねじの頭側端は、前記取付部材と前記リフト部材の回動先端側との間の背後方向に向けていることを特徴とする原稿圧着板開閉装置。」(以下、「本件特許発明」という。)

2 請求人の主張
これに対して、請求人は、本件特許の請求項1に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたと主張し、証拠方法として、甲第1号証(実願平5-45881号(実開平7-14451号公報)のCD-ROM)、甲第2号証(特開平9-185190号公報)、甲第3号証(特開昭60-95428号公報)、甲第4号証(特開平9-96877号公報)、甲第5号証(特開平11-174597号公報)、甲第6号証(実公平4-28094号公報)、甲第7号証(実開平1-113232号公報)、及び甲第8号証(実願平5-33792号(実開平7-1446号公報)のCD-ROM)を提出している。

3 甲第1号証乃至甲第8号証
甲第1号証乃至甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
甲第1号証:
(ア)「【0001】【産業上の利用分野】この考案は、複写機や印刷機等に用いて好適な原稿圧着板開閉装置に関する。」(甲第1号証【0001】段落)
(イ)「【0003】・・・従来公知の原稿圧着板開閉装置は、装置本体の寸法誤差、組立誤差、ゆがみ、或は材厚誤差等により開閉装置に取り付けた原稿圧着板とコンタクトガラスの間にその閉成時に隙間が生じてしまう場合がままあった。・・・」(甲第1号証【0003】段落)
(ウ)「【0005】【課題を解決するための手段】・・・この考案は、装置本体側に取り付けられる取付部材と、この取付部材に回動自在に端部を軸着させた支持部材と、この支持部材と前記取付部材との間に前記支持部材を一方向へ回動附勢させるために前記支持部材の自由端側に回動自在に軸着させたところの原稿圧着板の後部を取り付けるリフト部材と、このリフト部材と前記支持部材との間に設けた前記リフト部材の高さを調節する調節手段とで構成したものである。」(甲第1号証【0005】段落)
(エ)「【0007】【作用】調節手段を調節することにより、リフト部材の自由端側が支持部材に対する軸支個所を支点に上下してその高さが変化し、リフト部材にその後部を取り付けた原稿圧着板の取付位置を変化させることができる。調節手段が・・・調節ネジの場合には、これを回転させることによりその外周や先端と接触している支持部材又はリフト部材は軸支個所を支点にして上下動する。」(甲第1号証【0007】段落)
(オ)「【0009】・・・装置本体1上に固定された断面略コの字形状の取付部材4の両側板4a、4aには、同じく断面略コの字形状の支持部材5の両側板5a、5aがその一端部をヒンジピン6を介して回動自在に軸着されている。・・・
【0010】支持部材5の両側板5a、5aの自由端側には、両側に取付板9a、9aを突設させたリフト部材9がその両側板9b、9bの一側部を支持ピン10を介して回動自在に軸着させている。このリフト部材9の両側板9b、9bの支持ピン10による支持部材5の軸着個所とは異なる位置に作動ピン11が軸架されている。リフト部材9の取付板9a、9aには原稿圧着板2の取付部2a、2aが固着されている。」(甲第1号証【0009】-【0010】段落)
(カ)「【0013】・・・リフト部材20の背板20aには調節ネジ21と締付ナット22から成る調節手段23が設けられており、調節ネジ21の先端は支持部材24の背板24aと当接している。尚、調節ネジ21はリフト部材20に向けて支持部材24の背板24aに取り付けても良い。・・・」(甲第1号証【0013】段落)
(キ)「【0015】・・・薄物原稿の場合には、原稿圧着板2はリフト部材9と取付部材4の間に弾設した圧縮コイルスプリング15、15の弾力によって開閉動作の全行程に渡って反転することなく操作され、・・・所定の開成角度で安定的に停止保持される。・・・厚物原稿19を取り去ると、圧縮コイルスプリング15、15の弾力によりリフト部材9を介して原稿圧着板2は自動的に回転して元位置に戻って支持部材5と重なり合う。」(甲第1号証【0015】段落)
(ク)「【0016】・・・原稿圧着板2に・・・浮きが・・・生じた場合には、・・・
【0017】・・・調節手段23の締付ナット22を弛めて調節ネジ21を回転させてリフト部材20を持ち上げた後、再び締付ナット22を締め付けて調節ネジ21を固定させるものである。」(甲第1号証【0016】-【0017】段落)

上記(ア)-(ク)の記載と甲第1号証の各図面より、甲第1号証には、次の発明(以下、引用発明という。)が記載されている。
「装置本体1側に取り付けられる取付部材4と、
断面略コの字形状の背板5d(24a)と両側板5a、5aを有し、その両側板5a、5aの一端が前記取付部材4にヒンジピン6を介して上下方向に回動自在に軸着された支持部材5(24)と、
この支持部材5(24)の上側に重なり合い該支持部材5(24)の自由端側に、支持ピン10を介して上下方向に回動自在に軸着されて、原稿圧着板2の後部を取り付けるリフト部材9(20)と、
前記支持部材5(24)と前記取付部材4との間に、前記支持部材5(24)を一方向へ回動付勢し、かつ前記リフト部材9(20)を前記支持部材5(24)と重なり合う方向へ付勢するように装着された圧縮コイルスプリング15と、を備えている原稿圧着板開閉装置3において、
前記支持部材24の背板24aにリフト部材高さ調節手段23である調節ネジ21が、その先端が前記リフト部材20の下面に当接するように前記支持部材24の背板24aに回転・固定自在に取り付けられており、
締付ナット22により前記支持部材24の背板24aに対し前記調節ネジ21を固定している原稿圧着板開閉装置。」

また、甲第1号証には、上記引用発明とは別の実施例において、以下の点(ケ)-(サ)が記載されている。
(ケ)「【0011】 次に、リフト部材9の高さを調節する調節手段12について説明する。リフト部材9の自由端側には断面略くの字形状の取付板13が固着されており、この取付板13にエキセンピン14がその外周を支持部材5の背板5dに当接させてかしめ手段により回動可能に取り付けられている。」(甲第1号証【0011】段落)
(コ)「【0016】 次に、・・・原稿圧着板2に・・・浮きが・・・生じた場合には、図4と図5に示したように、調節手段12のエキセンピン14を回転させると、その外周が支持部材5の背板5dに当接することによりリフト部材9の自由端側が若干持ち上がることになり、・・・原稿圧着板2の浮きを調節することができるものである。」(甲第1号証【0016】段落)
(サ)図面の図2乃至図6には、「エキセンピン14」の頭側端が背後方向を向いている、すなわち背後方向からこれを回転させる構成が記載されている。

甲第2号証:
(シ)「【0008】・・・写真複写機の場合、プラテンガラスと原稿取扱い装置間の許容スタックアップ距離tの変動によって、プラテンガラスに対し原稿がスキューした姿勢すなわち誤整合された姿勢になり、その結果スキューしたすなわち誤整合されたコピーが生じることがある。・・・
【0009】・・・原稿取扱い装置24は、カウンタバランス機構56によって複写機のフレーム54上に旋回可能に支えられている。カウンタバランス機構56は上部部材58と、フレーム54上に垂直に取り付けられた下部部材60から成っており、上部部材58の一端は下部部材60上に旋回軸62のまわりに旋回可能に支えられている。・・・
【0010】・・・公知のカウンタバランス機構56には、もし、許容スタックアップ距離tが変化しても、調節する手段はない。
【0011】・・・カウンタバランス機構の上部部材の高さをより正確に調節する方法を提供することが要望されている。」(甲第2号証【0008】-【0011】段落)
(ス)「【0014】・・・カウンタバランス機構70は、鋼製の上部部材72と、鋼製の下部部材73とを備え、上部部材72は、旋回軸用シャフト76の縦軸線のまわりに旋回可能に下部部材73に取り付けられている。・・・旋回軸用シャフト76は下部部材73に対し固定されているが、上部部材72に対し動くことができるように構成されている。この相対的な動きができるように、上部部材72の側壁80,82に、一対のスロット78が向かい合って形成されており、旋回軸用シャフト76の両端が対応するスロットを通って側壁80,82から外に延びている。シャフト76の両端に、2個の同一の多面カム84,86が取り付けられている。各カムは中心点から異なる距離に設定された各面を有する。上部部材72は側壁と一体構造の足88,90を形成している2つの延長部を有する。各カム84,86はそれぞれの足88,90の上に載り、足88,90で支持されている。
【0015】許容スタックアップ距離の変化を考慮に入れるため原稿取扱い装置を調節するには、シャフト76を回転させて足の上に載る各カムの面を変える必要がある。これにより、スロット78の方向に動くように拘束されているシャフト76の中心は上部部材72に対し上昇または下降する。シャフト76が動く距離は、カムの前の面から中心点までの距離とカムの後の面から中心点までの距離の差に等しい。・・・」(甲第2号証【0014】-【0015】段落)

甲第3号証:
(セ)「この発明は、複写機における原稿圧着板の開閉装置に関する。」(甲第3号証第1頁左欄下から3-2行)
(ソ)「かしめピン9の中央部には・・・カム部材10が軸着される」(甲第3号証第2頁右上欄12-14行)

甲第4号証:
(タ)「【0001】【産業上の利用分野】この発明は、複写機や印刷機等に用いて好適な原稿圧着板開閉装置に関する。」(甲第4号証【0001】段落)
(チ)「【0010】・・・カム部材4の部分には、・・・支持部材5が、その両側板5a,5aの一端をヒンジピン6を介して連結することによって回動自在に取り付けられている。・・・」(甲第4号証【0010】段落)

甲第5号証:
(ツ)「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は、複写機や印刷機等において、コンタクトガラス上に載置した原稿の上を覆う原稿圧着板に用いて好適な原稿圧着板開閉装置に関する。」(甲第5号証【0001】段落)
(テ)「【0015】・・・カム部材3を貫通させて第1のヒンジピン6が軸架されている・・・」(甲第5号証【0015】段落)

甲第6号証:
(ト)「(考案の利用分野) この考案は、とくに複写機用に用いて好適な原稿圧着板の開閉装置に関する。」(甲第6号証第1頁左欄18-20行)
(ナ)「湾曲カム部材5がヒンジピン6を介して固定されている。」(甲第6号証第2頁左欄13-14行)

甲第7号証:
(ニ)「原稿圧着板開閉装置」(甲第7号証 考案の名称)
(ヌ)甲第7号証図面第2図、第4図、及び第7図に、「カム部」1a、11a、21aを設けた「取付部材」1、11、21に部材4、13、23を介して部材3,12、22が回動自在に連結されている構成が記載されている。(構成要素名「カム部」及び「取付部材」は図面の簡単な説明の記載より。)

甲第8号証:
(ネ)「【0001】【産業上の利用分野】この考案は、印刷機や複写機等に用いて好適な原稿圧着板開閉装置に関する。」(甲第8号証【0001】段落)
(ノ)「【0010】・・・カム部材5がヒンジピン4と取付ピン6を介して固着されている。・・・」(甲第8号証【0010】段落)

4 対比・判断
(1)対比
引用発明の「断面略コの字形状の背板と両側板を有し、その両側板の一端が前記取付部材にヒンジピンを介して上下方向に回動自在に軸着された支持部材」は、本件特許発明の「上板とこの上板の両側端から下方に折曲した両側板を有し、その両側板の回動基端側の一端部が前記取付部材にヒンジ軸を介して上下方向に回動自在に枢支連結された支持部材」に相当する。同じく引用発明の「この支持部材の上側に重なり合い該支持部材の自由端側に、支持ピンを介して上下方向に回動自在に軸着されて、原稿圧着板の後部を取り付けるリフト部材」は本件特許発明の「この支持部材の上側に重なり合い該支持部材の回動先端側の他端部に、その回動基端側が支持軸を介して上下方向に回動自在に枢支連結されて、前記原稿圧着板の回動基端側に取り付けられるリフト部材」に相当する。さらに引用発明の「リフト部材高さ調節」、「リフト部材の下面」は、本件特許発明の「リフト部材高さ調整」、「リフト部材の回動先端側の下面」にそれぞれ相当する。
したがって両者は
「装置本体側に取り付けられる取付部材と、
上板とこの上板の両側端から下方に折曲した両側板を有し、その両側板の回動基端側の一端部が前記取付部材にヒンジ軸を介して上下方向に回動自在に枢支連結された支持部材と、
この支持部材の上側に重なり合い該支持部材の回動先端側の他端部に、その回動基端側が支持軸を介して上下方向に回動自在に枢支連結されて、前記原稿圧着板の回動基端側に取り付けられるリフト部材と、
前記支持部材と前記取付部材との間に、前記支持部材を開き方向へ回動付勢し、かつ前記リフト部材を前記支持部材と重なり合う方向へ付勢するように装着された圧縮コイルばねと、を備えている原稿圧着板開閉装置において、
リフト部材高さ調整用の手段が、前記リフト部材の回動先端側の下面に当接するように回転・固定自在に取り付けられている原稿圧着板開閉装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件特許発明ではリフト部材の下面に当接するリフト部材高さ調整用手段が「ヒンジ軸挿通孔を有し、ヒンジ軸挿通孔を前記支持部材の両側板間のヒンジ軸に挿通させて取り付けられたカム」であるのに対し、引用発明では「支持部材の背板に取り付けられた調節ネジ」である点

相違点2:本件特許発明ではリフト部材高さ調整用手段すなわち「カム」は「ねじ回し工具の先端が嵌め込まれる穴付き、溝付き又は頭付きの止めねじの先端をカムにヒンジ軸挿通孔と直交するようねじ込んでヒンジ軸に当接させて該ヒンジ軸に対し前記カムを固定」する構成によって「回転・固定自在」に取り付けられているのに対し、引用発明のリフト部材高さ調整用手段すなわち「調節ネジ」の「回転・固定自在」な取り付けは「締付ナット」によっており、かつ本件特許発明では、「リフト部材」の高さ調整を「背後方向」から行えるように、前記「止めねじ」の「頭側端」が「前記取付部材と前記リフト部材の回動先端側との間の背後方向に向け」られているのに対し、引用発明の「締付ナット」においてはリフト部材高さ調整を「背後方向」から行うための構成はとくに有していない点。

(2)相違点についての判断
相違点1について:
甲第2号証には、上記で3(シ)、(ス)で摘記したように、「複写機」の「原稿取り扱い装置」の高さ調節において、「複写機のフレーム」側に取り付けられる「下部部材」に「上部部材」を「旋回軸用シャフト」により上下に旋回可能に取り付け、該「旋回軸用シャフト」に、「中心穴」を有するカムを該「中心穴」に「旋回軸用シャフト」端部を通して取付け、これにより高さ調整用の手段となす構成が記載されている。甲第2号証記載の「下部部材」、「上部部材」、「旋回軸用シャフト」、「中心穴」はそれぞれ本願特許発明の「取付部材」、「支持部材」、「ヒンジ軸」、「ヒンジ軸挿通孔」に相当するので、上記甲第2号証記載の構成を引用発明に適用することにより、当業者ならば相違点1にかかる本件特許発明の構成は容易に想到できる。ここで、甲第2号証記載の発明ではカムは「旋回軸用シャフト」の両端すなわち「上部部材」の両「側壁」の外側に設けられるのに対し、本件特許発明ではカムは「支持部材の両側板間」に設けるとされている点については、カムを「両側板」の間に設けるかその外側に設けるかは当業者が適宜選択できる事項であり、その作用効果も当業者が予測できる範囲のものである。

相違点2について:
高さ調整を原稿圧着板開閉装置の背後方向から行うこと自体については、上記3(ケ)-(サ)で摘記したように、甲第1号証には高さ調節用の「エキセンピン」の頭側端が背後方向を向いており、同方向からこれを回転させる構成の記載がある。
しかしながら、「止めねじの先端をカムにヒンジ軸挿通孔と直交するようねじ込んでヒンジ軸に当接させて該ヒンジ軸に対し前記カムを固定」し、かつその構成において前記「止めねじ」の「頭側端」を背後方向に向けて高さ調整を背後方向から行う構成については、甲第1号及び甲第2号証のいずれにも記載又は示唆がない。また甲第3号証乃至甲第8号証にも上記構成の記載又は示唆はみられず、かつ甲第3号証乃至甲第8号証は平成17年5月2日付け弁駁書第4頁4-8行において請求人自身も「甲第3号証乃至甲第8号証は、ヒンジ軸にカム部材を取り付けることは周知技術であるということを証明するために提出した書証である。」と述べているように、ヒンジ軸にカム部材を取り付けることが周知であることを示すに止まるものである。さらに平成17年5月2日付け弁駁書に甲第9号証として添付された特開平11-95339号公報にも、上記構成の記載又は示唆はない。そして原稿圧着板開閉装置において上記構成が周知であるとする確証も得られないから、よって、相違点2に係る本件特許発明の構成が各甲号証(甲第1号証乃至甲第8号証、及び特開平11-95339号公報(甲第9号証))に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはし得ない。

ここで、請求人は平成17年5月2日付け弁駁書においてこの相違点2に係る本件特許発明の構成に関連して、
(i)「カムをヒンジ軸に固定するに当たり、該カムに対して直交方向へ止めネジを設けることは、いちいち例を挙げるまでもなく、当業者にとって常套手段に過ぎない。その場合に止めネジの先端を穴付き、溝付き、頭付きにすることもまた常套手段に過ぎない。さらに、止めネジの頭側を取付部材とリフト部材の回動先端側との間の背後方向に向けることも例えば甲第1号証に示すように周知技術である。さらに、止めネジにねじ回し工具を装着させてカムを回転させることもまた、常套手段であり、この構成は止めネジをカムにヒンジ軸と直交する方向へ取り付けたことの反射効果にすぎない。」(弁駁書第3頁6-14行)旨を主張している。
さらにこの相違点2に係る本件特許発明の構成が発揮する効果に関連して、請求人は同弁駁書において、
(ii)「被請求人は、このように構成すると微妙な高さ調節ができると反論しているが、こじつけに過ぎない。このように微調整を行うに当たっては、本件発明のものは、止めネジを弛めて高さ調節を行い、その後に再度止めネジを締め付けなくてはならないという作業を少なくとも数回繰り返さなくてはならず、かえって煩雑である。」(弁駁書第3頁15-19行)旨、また、
(iii)「(2)さらに効果について、特許・・・公報の図1と図2に記載されたように、本件発明のカム26の形状は無段階に変化する偏心カムとなっており(この点同じように偏心変化するカムを用いる甲第2号証のものと異なる)、・・・重量のある自動原稿送り装置付きの原稿圧着板2の開閉操作を行う度に、・・・カム26は常に反時計方向へ回転しようとする力を受けることになる。このカム26をヒンジ軸6に固定しているものは止めネジ31のみであることから、上記衝撃によってカム26が容易に反時計方向へ回転してしまうことが予測される。・・・そうすると本件発明の高さ調節手段はその安定した効果を発揮できないことになる。・・・
(3)このように本件発明に係る高さ調節手段は、上述したようにその構成について格別なものはなく、その安定した高さ調節機能も期待できないことは明らかであるから、被請求人が主張しているような効果をまったく期待できないことになり、なんら新規有用な発明を開示したことにはならない・・・。」(弁駁書第5頁13行-6頁11行)
「(4)・・・高さ調節手段において、最も簡単な構成を有し、使用中に変動の生じないようにする構成は、甲第1号証の図7・・・に示したように・・・公知技術である。
(5)・・・公知技術のように構成すれば高さ調節は単にネジを回すことのみによって行うことができ、締め付けナットで固定することによって、使用中にネジが回転してしまうことがなく、安定した高さ調節機能を発揮できるものである。そしてその構成も単にネジと締め付けナットのみでよく、本件発明のものよりも構成が簡単で安価に製造することができることは明らかである。そうすると、本件発明のように、構成において格別顕著なものはなく、わざわざ製造コストが高くなって、その効果が期待できないものに独占権を与える必要はない・・・。」(弁駁書第6頁14行-7頁2行)
旨を主張している。
しかしながら、上記(i)の「カムをヒンジ軸に固定するに当たり、該カムに対して直交方向へ止めネジを設けること」及び「止めネジにねじ回し工具を装着させてカムを回転させること」は「常套手段」であるという主張については、各甲号証にはこのような構成の記載又は示唆はみられないから、請求人の主張を採用することはできない。
また上記(ii)の主張については、本件発明では少なくとも数回作業を繰り返さなくては高さ調節ができず煩雑であるという理由が不明である。すなわち(無段階調節の場合)一回で調整が決まる場合もあれば数回で微妙に高さを決めていく場合もあり得ようし、そしてこのことは例えば甲第1号証記載のネジと締め付けナットによる構成においても、無段階の高さ調節を微妙に追い込んでいこうとするなら変わることとは考えられないし、むしろ本件特許発明では、この点に関して、この相違点2に係る構成によって止めネジの締め弛めとカムの高さ変化が簡単に行えるという効果を奏するものである。よって請求人の主張を採用することはできない。
さらに上記(iii)の、「カム26が容易に反時計方向へ回転してしまう」ので「本件発明の高さ調節手段はその安定した効果を発揮できない」、「公知技術のように構成すれば高さ調節は単にネジを回すことのみによって行うことができ、締め付けナットで固定することによって・・・安定した高さ調節機能を発揮できるものである。・・・そうすると、本件発明のように、・・・その効果が期待できないものに独占権を与える必要はない」という主張については、カムの形状・サイズ、原稿圧着板の重量等のパラメータによってはカムが不安定になる(すなわち「容易に反時計方向へ回転してしまう」)状況を発生させることも不可能ではないとしても、そのような状況はカムや止めネジを原稿圧着板の重量等に応じて適切に設計すれば必要十分に防止し得ることであり(かつその場合本件特許発明に上述の効果があることは明確)、本件特許発明の構成が「安定した効果を発揮できない」ということできない。なお付け加えれば、甲第1号証の「調節ネジ」と「締め付けナット」においても、その設計上の各種パラメーターがある程度は適切な範囲のものでないと機能し得ない(調節ネジ、締め付けナットが原稿圧着板に対し貧弱に過ぎるものであれば高さ調節も安定し得ない)が、そのパラメータや、またパラメーターを適切に設計するべきこと自体についても、甲第1号証には記載はない。これは甲第1号証の記載が不適切だからではなく、このような固定・調節構造を被固定・調節対象物のパラメータに応じ適切なパラメータのものに設計すべきことは、明記するまでもなく当業者にとり技術常識であることを示している。よって請求人の主張を採用することはできない。

したがって、本件特許の請求項1に係る発明が、甲第1号証乃至甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-05-26 
結審通知日 2005-06-01 
審決日 2005-06-15 
出願番号 特願2001-35457(P2001-35457)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (G03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 昌哉山鹿 勇次郎  
特許庁審判長 鹿股 俊雄
特許庁審判官 前川 慎喜
末政 清滋
登録日 2003-11-28 
登録番号 特許第3497830号(P3497830)
発明の名称 原稿圧着板開閉装置  
代理人 鈴江 孝一  
代理人 木村 俊之  
代理人 伊藤 捷雄  

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