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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1120646 |
審判番号 | 不服2001-10127 |
総通号数 | 69 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2000-06-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2001-06-14 |
確定日 | 2005-08-03 |
事件の表示 | 平成10年特許願第354267号「記録ディスク装置のヘッド位置決め装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月30日出願公開、特開2000-182340〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1. 手続の経緯、本願発明 本願は、平成10年12月14日の出願であって、その請求項1乃至請求項6に係る発明は、平成13年1月26日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至請求項6に記載されたとおりのものと認めるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「記録ディスクを保持して回転駆動するディスク駆動部と、 前記ディスク駆動部に保持された記録ディスクに対して記録ヘッドを移送可能に支持する記録ヘッドアセンブリと、 前記記録ヘッドアセンブリを駆動して前記記録ヘッドを目標トラックに位置決めさせるための粗動用アクチュエータと、 前記粗動用アクチュエータより精密に前記記録ヘッドを目標トラックの中心に位置決めさせるための微動用アクチュエータとを有する記録ディスク装置のヘッド位置決め装置において、 前記微動用アクチュエータのゲインを測定する測定手段と、 前記測定手段の測定結果から微動用アクチュエータの制御特性を調整する調整手段とを有し、 前記測定手段は、前記記録ヘッドからの位置誤差信号と前記記録ヘッドを加振状態で駆動した場合に記録ヘッドを目標トラックに位置決めさせる微動用アクチュエータの駆動信号とを入力し、微動用アクチュエータのゲインを入力信号である前記位置誤差信号と出力信号である前記駆動信号との比を用いて測定する手段である、 ことを特徴とする記録ディスク装置のヘッド位置決め装置。」 2. 刊行物の発明 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-82048号公報(以下、「刊行物」という。)には、次の事項が記載されている(下線部は当審で付した。)。 「【0060】本実施形態に適用する小型のHDDは、図3に示すように、アルミ合金等のケース100の内部に、本実施形態のヘッドアクチュエータ機構、ディスク101、スピンドルモータ102、VCM2、回路基板103、及びフレキシブルプリントケーブル(FPC)104等を内蔵している。後述する本実施形態のヘッドアクチュエータ以外の構成要素は、従来のHDDのものと同様である(図14を参照)。ケース100は密閉するために図示しないカバーにより覆われる。 【0061】ディスク101はスピンドルモータ102により一定速度で高速回転運動する。回路基板103は、ヘッド3からのリード信号を増幅するヘッドアンプ等の各種回路部品を実装している。FPC104は、ヘッド3とヘッドアンプとを接続するための信号線や、ヘッドアクチュエータ機構のVCM2や圧電素子8を駆動するためのケーブル等の配線パターンから構成されている。」 「【0064】(ヘッドアクチュエータ機構の構成)本実施形態のヘッドアクチュエータ機構は、図1に示すように、ヘッド3を先端部で支持している薄板状のサスペンション4と、サスペンション4を先端部で支持して回転駆動力を伝達するための支持アーム5と、支持アーム5を支持してVCM2の駆動力により回転軸6aを中心として回転駆動するアクチュエータ本体6とからなる。」 「【0071】即ち、主要アクチュエータであるVCM2によるアクチュエータ本体6が回転駆動して、各支持アーム5が一体的(同時)にディスク101の半径方向に駆動する。これにより、各ヘッド3がディスク101の半径方向に移動して、目標位置で位置決めされることになる。以上が主要アクチュエータの駆動である。 【0072】次に、サーボシステムは、補助アクチュエータである圧電素子8に駆動電圧を供給する。圧電素子8は駆動電圧の供給に応じて長手方向に、数μm程度伸縮し、引張り力または圧縮力を発生する。 【0073】したがって、図1に示すように、アクチュエータ本体6のヒンジ機構7にモーメント力が発生し、各支持アーム5を同時に微小に回転駆動させる。これにより、各ヘッド3は、通常では数トラック分の微小距離を移動して、微小位置調整がなされることになる。 【0074】このような圧電素子8の作用を利用した補助アクチュエータにより、各ヘッド3の微小移動調整を行なうことができる。圧電素子8は、前述したように、アクチュエータ機構の上下方向の重心位置10の近傍に配置されているため、各支持アーム5の上下方向の振動モードをほとんど励振しない構造である。」 「【0088】図6は本実施形態の駆動制御方式のフィードバック制御系のブロック図である。制御系の入力信号Eは、ヘッド3の目標位置に対する位置誤差を示す位置誤差信号である。この位置誤差信号は、ディスクのサーボエリアに予め記録されたサーボデータ(速度制御用のシリンダ番号と位置制御用のバーストデータ)に基づいて生成される。 【0089】この位置誤差信号Eは、補償器31を介して主要アクチュエータの駆動部(伝達特性P1(S)と表現する)32に入力される。主要アクチュエータの駆動部32は、入力された位置誤差信号Eに基づいて駆動する。 【0090】一方、位置誤差信号Eは、反転アンプ35により位相が逆相にされて、ゲイン部(K)33により所定のゲインKを掛けられて、補助アクチュエータの駆動部(伝達特性P2(S)と表現する)34に入力される。このとき、反転アンプ35は、100Hz〜1KHzの低周波数領域での位相を逆相にする。 【0091】主要アクチュエータの駆動部32と補助アクチュエータの駆動部34の各出力の加算結果に基づいて、ヘッド3が目標位置まで移動制御されることになる。即ち、ヘッド3の目標位置に対する位置誤差をなくすように、ヘッド3はディスク上の半径方向に移動し、目標位置であるトラックから外れないように位置決めされる。 【0092】このようなフィードバックループを形成した駆動制御方式により、ヘッドアクチュエータ機構全体の機械的主共振振動モードを打ち消して、ヘッド3を目標位置に高精度に位置決めすることができる。」 「【0097】ここで、ωo はアクチュエータ機構全体の機械的主共振モードの角振動数(rad/sec )で、ζはモーダルダンピング定数を示す。また、主要アクチュエータの駆動部32での応答ゲインをK1、また主共振モードでの一種の励振係数をA1、補助アクチュエータの駆動部34での応答ゲインをK2、主共振モードでの一種の励振係数をA2とする。なお、励振係数は力点から出力点までの係数を意味する。」 「【0104】 【数10】K=-(K1A1/K2A2) 【0105】前記式(10)によりゲインKを算出し、P(S)の伝達特性を図7(A),(B)に示す。この図7(A),(B)から明らかなように、図18で見られた、アクチュエータ全体の機械的共振モードによる3KHz付近の鋭いピークがなくなっている。 【0106】以上のように、ゲインKを式(10)により求めれば、主要アクチュエータの駆動により発生するアクチュエータ機構全体の機械的共振モードを、補助アクチュエータの駆動によりキャンセルすることが可能となる。また、この駆動制御方式の利点として、機械的共振モードの周波数ωo やダンピングζは、主要アクチュエータと補助アクチュエータの双方から同一となる。」 「【0121】そして、MPU内部の補償器31の出力段に、(1-β)×ωo 〜(1+β)×ωo の周波数範囲でのωo /400程度の周波数刻みで、補助アクチュエータにのみ一定値の正弦波信号を入力していく(ステップS4)。ここで、周波数刻みは1周期以上の周期で変化させていく。またβは、0.1〜0.3程度とする。 【0122】この状態で、ヘッドからの位置誤差信号の分散値En をMPUで計算し、内部メモリ上に蓄える。この後、前回のαn 値にγ(この場合0.1とする)を差し引いたαn+1 値で、前回と同じ周波数範囲で分散値En+1 を求める(ステップS5)。 【0123】前回のEn とEn+1 の大きさを比較して、En が小さくなるまで、n回繰り返し、En が小さくなった時点のαn 値を記憶する(ステップS6,S10)。 【0124】さらに、細かくゲインKを調整する際には、γの値を前回の値の半分として、αn-1 の状態からαn+1 の範囲で、新たにEm を算出し、Em+1 などと比較して、位置誤差信号の分散値が最小になるように、繰り返し演算を行い、最適なゲインKを算出する(ステップS7〜S9,S11)。 【0125】この手法によって、装置間のばらつきによるゲインKのばらつきを吸収することが可能となり、ヘッドを高精度に位置決めすることができる。」 上記の特に図3及び図6に関する記載を参照すると、刊行物には、 「ディスク101を回転するスピンドルモータ102と、 前記ディスク101に対してヘッド3を目標位置に位置決めするアクチュエータ本体6と、 前記アクチュエータ本体6を駆動する主要アクチュエータであるVCM2と、 前記ヘッド3を微少位置調整する補助アクチュエータである圧電素子8とを有するヘッドアクチュエータ機構において、 前記アクチュエータ機構1全体のゲインKを算出する手段と、 算出されたゲインKを掛けた位置誤差信号Eを入力した前記補助アクチュエータである圧電素子8の出力と、位置誤差信号Eの入力された前記主要アクチュエータであるVCM2の出力との加算結果を用いて前記ヘッド3を駆動制御する手段を有するヘッドアクチュエータ機構。」の発明(以下「刊行物の発明」という。)が記載されていると認められる。 3 対比 本願発明と刊行物に記載された発明を対比すると、 刊行物の発明の「ヘッドアクチュエータ機構」は、HDDに適用されるもので、本願発明の「記録ディスク装置のヘッド位置決め装置」に相当する。 刊行物の発明は「ディスク」「ヘッド」は、それぞれ本願発明の「記録ディスク」「記録ヘッド」に相当し、刊行物の発明の「アクチュエータ本体」は、本願発明の「記録ヘッドアッセンブリ」に相当する。 刊行物の発明の「アクチュエータ本体」を回転駆動する「主要アクチュエータであるVCM」は、本願発明の「記録ヘッドアセブリ」を駆動して記録ヘッドを目標トラックに位置決めすための「粗動用アクチュエータ」に相当する。 刊行物の発明のヘッドに微少移動調整を行う「補助アクチュエータである圧電素子」は、本願発明の記録ヘッドを目標トラックの中心に位置決めさせるための「微動用アクチュエータ」に相当する。 刊行物の発明のアクチュエータ機構全体の「ゲインを算出する手段」は、ゲインを測定しており、本願発明の微動用アクチュエータの「ゲインを測定する手段」に実質的に相当する。 刊行物の発明の「ゲインを算出する手段」から算出されたゲインを位置誤差信号に掛けて圧電素子入力し、その出力とVCMからの出力を加算した結果からヘッドを目標位置に制御する手段は、本願発明の「制御特性を調整する調整手段」に実質的に相当する。 したがって、本願発明と刊行物の発明は、 「記録ディスクを保持して回転駆動するディスク駆動部と、 前記ディスク駆動部に保持された記録ディスクに対して記録ヘッドを移送可能に支持する記録ヘッドアセンブリと、 前記記録ヘッドアセンブリを駆動して前記記録ヘッドを目標トラックに位置決めさせるための粗動用アクチュエータと、 前記粗動用アクチュエータより精密に前記記録ヘッドを目標トラックの中心に位置決めさせるための微動用アクチュエータとを有する記録ディスク装置のヘッド位置決め装置において、 アクチュエータのゲインを測定する測定手段と、 前記測定手段の測定結果からアクチュエータの制御特性を調整する調整手段とを有する記録ディスク装置のヘッド位置決め装置。」で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 本願発明では、「記録ヘッドからの位置誤差信号と記録ヘッドを加振状態で駆動した場合に記録ヘッドを目標トラックに位置決めさせる微動用アクチュエータの駆動信号とを入力し、微動用アクチュエータのゲインを入力信号である位置誤差信号と出力信号である駆動信号との比」を用いて、「微動用アクチュエータ」のゲインを測定し、「微動用アクチュエータの制御特性を調整する手段」を有するのに対して、刊行物の発明では、アクチュエータ全体のゲインを測定し、ヘッドの移動の制御特性を調整する点。 4.当審の判断 上記相違点について検討する。 ヘッドを目標トラックに位置決めを行うために粗動用アクチュエータと微動用アクチュエータを用い、特に微動用アクチュエータのフィードバック制御を設計した制御装置は周知(特開平5-11854号公報、特開平6-231553号公報、特開平10-255418号公報(従来例)参照。)であり、ヘッドをディスク上の目標位置に位置決めするためには、アクチュエータを構成する微動用アクチュエータが制御されればより正確に位置決めであることは明らかである。刊行物の発明において、アクチュエータ機構を構成する特にヘッドの微少位置調整をする圧電素子(微動用アクチュエータ)が制御されれば最終的に正確に位置決めされるのであるから、ヘッドの微少位置調整をする圧電素子(微動用アクチュエータ)のゲインを測定する手段を設け、ヘッドの微少位置調整をする圧電素子(微動用アクチュエータ)の制御特性を調整するように調整手段を設けることは、当業者が容易に推考できたことと認められる。 また、ゲインを測定する際に、刊行物の発明においては、圧電素子のみに一定値の正弦波波を入力している(【0121】参照。)が、正弦波をノイズとして加えて、記録ヘッドからの位置誤差信号と記録ヘッドを目標トラックに位置決めさせる駆動信号とを入力し、入力信号である位置誤差信号と出力信号である駆動信号との比を用いてゲイン測定することは、フィードバック制御システムの設計において、普通になされている周知技術(特開平5-266619号公報、特開平10-188502号公報参照)であり、刊行物の発明において、ヘッドからの位置誤差信号とヘッドを加振状態で駆動した場合にヘッドを目標トラックに位置決めさせる圧電素子の駆動信号とを入力し、入力信号である位置誤差信号と出力信号である駆動信号との比を用いてゲイン測定することは自体には格別の創意工夫を要したとは認められない。 5. むすび したがって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願は、他の請求項を検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-06-02 |
結審通知日 | 2005-06-06 |
審決日 | 2005-06-20 |
出願番号 | 特願平10-354267 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 西山 昇 |
特許庁審判長 |
片岡 栄一 |
特許庁審判官 |
相馬 多美子 山澤 宏 |
発明の名称 | 記録ディスク装置のヘッド位置決め装置 |
代理人 | 越智 隆夫 |
代理人 | 岡部 正夫 |
代理人 | 本宮 照久 |
代理人 | 臼井 伸一 |
代理人 | 朝日 伸光 |
代理人 | 加藤 伸晃 |
代理人 | 産形 和央 |
代理人 | 高橋 誠一郎 |
代理人 | 藤野 育男 |
代理人 | 吉澤 弘司 |
代理人 | 高梨 憲通 |