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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1120926
審判番号 不服2002-21529  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-10-09 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-11-06 
確定日 2005-08-11 
事件の表示 平成6年特許願第71630号「保存安定性及び嗜好性の高い経口経腸栄養組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成7年10月9日出願公開、特開平7-255398〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由

1.手続の経緯・本件発明

本件出願は、平成6年3月16日の特許出願であって、その請求項1に係る発明は、平成14年5月27日受付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、「本件発明」という。)
「【請求項1】窒素源として、(A)小麦グルテンの酵素分解物と、(B)乳カゼイン、乳カゼインの加水分解物、乳清蛋白質及び乳清蛋白質の加水分解物からなる群から選択される1またはそれ以上とを含み、
上記(A)と(B)との重量比率が40:60〜60:40であり、
グルタミンの含有量が、全アミノ酸中15〜30重量%であることを特徴とする保存安定性及び嗜好性の高い経口経腸栄養組成物。」

2.引用例記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本件の出願日前に頒布された刊行物(1)特開平5-236909号公報(2)特開平3-251154号公報(以下、「引用例1乃至2」という。)には、以下の事項が記載されている。
引用例1には、(a)「【請求項1】グルタミンもしくはグルタミン酸を構成アミノ酸の40%以上含有するペプチド組成物。・・・【請求項4】グルタミンを構成アミノ酸として20%以上含有する蛋白質を、一種以上の蛋白質分解酵素により分解し、ついで遊離アミノ酸を除去し、ペプチド画分を分取することを特徴とするグルタミンもしくはグルタミン酸を構成アミノ酸の40%以上含有するペプチド組成物の製造方法。【請求項5】蛋白質がグルテンもしくはゼインである請求項4記載の製造方法。【請求項6】請求項1記載のペプチド組成物をグルタミン供給源として配合し、小腸粘膜退化抑制効果を有することを特徴とする経腸栄養剤。」(特許請求の範囲)が記載され、(b)「・・・しかし経腸栄養剤として使用する場合には、低分子の化合物が高濃度に存在すると浸透圧が高くなりしばしば下痢を引き起こすことが指摘されている。またアミノ酸や低分子のペプチドは刺激味があり、経口投与を行う場合に抵抗があることが指摘されている。」(段落【0005】)こと、(c)「本発明者らは、外科手術後や疾患時に投与する栄養剤に添加するグルタミン製剤について検討を行った結果、製剤学的に安定で、かつ浸透圧への影響の少ないグルタミンを高濃度にふくむペプチド組成物を見いだし、本発明を完成するに至った。従って、本発明は、グルタミンもしくはグルタミン酸を構成アミノ酸の40%以上含有するペプチド組成物、このペプチド組成物の製造方法及びこの組成物を配合した経腸栄養剤に関する。」(段落【0006】)こと、(d)「・・・本発明ペプチド組成物を得るためには、グルタミンを蛋白質の構成アミノ酸として、高度に含有する蛋白質を特定条件下で酵素分解し、さらに分子量分画を行うことにより得ることができる。グルタミンは通常の食品中にも大量に含まれており、蛋白質構成アミノ酸の20%以上であるものが好ましいが、特に、小麦蛋白質であるグルテンやトウモロコシ蛋白質であるゼイン、乳蛋白であるカゼインなどに比較的多く含有されており、このような蛋白質を原料とすることが特に好ましい。原料の入手や、供給の面からみるとグルテンを用いることが好ましい。」(段落【0008】)こと、(e)「ペプチド組成物は溶液のまま、あるいは凍結乾燥や噴霧乾燥等の処理により粉末とすることができる。このようにして得られたペプチド組成物は単独あるいは、アミノ酸配合の経腸栄養剤に使用することができる。特に本発明組成物を、組成中に1 〜5 %添加することにより、小腸粘膜細胞の退化を抑制することができる。特公平51-26490号公報にはアミノ酸混合物を窒素源とする栄養組成物が開示されている。このような組成物のグルタミンの供給源として本発明組成物を使用することが可能である。配合にあたっては、グルタミンとして供給される量のすべてを本発明のペプチド組成物に置き換えることができるし、また蛋白質を窒素源とする経腸栄養剤においては、グルタミン強化量に相当する量だけ本発明のペプチド組成物を添加することで、小腸粘膜の退化を抑制することができる。」(段落【0013】)こと、(f)「本実験例においては、実施例1で得たペプチド組成物の小腸機能に及ぼす効果を実験した例を示す。・・・飼料組成: β- コーンスターチ(オリエンタル酵母工業)・・・ 、カゼイン(関東化学) 、ミネラル、ビタミンを混合して試料を調製した。・・・ラットを5群に分け、異なる組成の飼料を7日間ミールフィーディングした。各群の飼料組成を表3 に示した。」(段落【0024】)こと、(g)「本発明の実施により、グルタミンを高濃度に含有するペプチド組成物、及びこれを配合した経腸栄養剤が提供される。本発明で提供されるペプチド組成物はペプチドのN末端のグルタミンが結合していないため、水中でも安定であり、また低栄養などに発生する小腸粘膜の退化を抑制する。また経腸栄養剤として配合された組成物のグルタミン吸収性が向上する。」(段落【0035】)ことが記載され、(h)「グルタミンペプチドグループ」と称される、スターチ30.4g、グルタミン換算でグルタミン1.25gを含有する小麦グルテンを酵素分解したペプチド2.83g、カゼイン5.00g等を含有する飼料組成物(段落【0025】「表3」)が示されている。
引用例2には、(i)「動植物蛋白質を酵素で加水分解して得られる平均分子量200〜5000、遊離アミノ酸が35重量%以下、(分枝鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸)モル比が7以上、全アミノ酸組成中、分枝鎖アミノ酸が15〜25重量%及び芳香族アミノ酸が0.1〜2.5重量%のオリゴペプチド混合物を、乾燥重量基準で5〜70重量%含有する組成物であって、該組成物における蛋白源としての全窒素化合物、炭水化物及び脂質の含有量が、乾燥重量基準で、窒素化合物10〜90重量%、炭水化物10〜80重量%及び脂質0〜15重量%であることを特徴とする栄養補給用組成物。」(特許請求の範囲第1項)が記載され、(j)「これらの知見より、筋ジストロフィー症患者用又は生体侵襲時用として、BCAA含量の多い栄養食品の開発が望まれる。しかしながら蛋白源としてアミノ酸を配合した従来の栄養補給剤は、浸透圧が高すぎる点やアミノ酸特有の異臭、苦味等の点が問題となり、ヒト用の経口栄養剤としては不向きである。本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、経口及び経管等の経腸的投与が可能で、消化吸収が生理的に行なわれ、浸透圧の高いことによる下痢の発生が回避でき、しかも刺激や異味臭のない栄養補給組成物であって、該組成物の摂取により、血液中のアミノ酸インバランスが是正され、しかも栄養状態の改善を図ることのできる栄養補給用組成物を提供することである」(公報第2頁左下欄第11行〜右下欄第8行)こと、(k)「本発明で用いるオリゴペプチド混合物は、従来知られる蛋白加水分解物が苦いのに比べ、殆ど苦みがなく寧ろ旨みのある風味の良好なものである。その理由は後述するように、本発明のオリゴペプチド混合物が、蛋白にエンドブロテア-ゼとエキソプロテアーゼを同時に作用させて得られることと吸着剤処理によりAAA成分だけでなく臭い成分や味成分及び色成分等も吸着・除去されるからである。従って、市販の蛋白加水分解物は苦味が強く、栄養剤として用いる場合でも経口投与は困難であるものを、本発明で用いるオリゴペプチド混合物は経口投与が容易である効果を有する。」(公報第4頁左上欄第17行〜右上欄第11行)こと、(l)「上記オリゴペプチド混合物の原料として用いる動物性蛋白質としては、・・・植物性蛋白質としては、大豆蛋白、小麦蛋白・・・等が例示できる。」(公報第4頁左下欄第1〜9行)こと、(m)「本発明組成物を上記した配合割合とすることによって、血液中のアミノ酸バランスの是正とともに栄養状態を改善することができる。本発明組成物を構成する蛋白源としての窒素化合物は、上記した特定のオリゴペプチド混合物を所定量含む限り、他は公知の各種の蛋白質原料としては、例えばカゼイン及びカゼインナトリウム、カゼインカルシウム等の塩類・・・を例示できる。」(公報第6頁左上欄第10行〜右上欄第2行)こと、(n)「蛋白源としての窒素化合物は、栄養効果の点から、アミノ酸スコアーを向上させるように配合することが好ましい。」(公報第6頁右上欄第6〜8行)ことが記載されている。

3.対比・判断

本件発明は、小麦グルテンを酵素分解して水に溶解可能な形態とし、更に不足するアミノ酸を乳カゼイン、乳カゼインの加水分解物、乳清蛋白質及び乳清蛋白質の加水分解物からなる群から選択される栄養学的に良質な成分により補強し、両成分の重量比率を「40:60〜60:40」とし、グルタミンの含有量を全アミノ酸中「15〜30重量%」とすることにより、グルタミンを安定的に且つ多量に供給することができると共に、栄養学的に非常に優れ、味、臭い、苦味、粘度等の嗜好性に優れ、飲みやすく、保存安定性にも優れた経口経腸栄養組成物が得られるものである。
これに対して、上記引用例1には、上記記載事項(e)のとおり、ペプチド組成物をグルタミンの供給源としてアミノ酸配合の経腸栄養剤に使用するものであり、上記記載事項(d)のとおり、ペプチド組成物は、小麦蛋白質であるグルテンを酵素分解したものであり、上記記載事項(f)、(h)のとおり、栄養剤にはカゼインも配合されているから、上記引用例1には、「小麦グルテンを酵素分解して得られるオリゴペプチドをグルタミン供給源として配合し、更に、カゼインを配合する経腸栄養組成物であって、グルタミンを高濃度に含有し、腸でのグルタミン吸収性が向上した栄養組成物」が記載されているといえる。
本件発明と上記引用例1に記載された発明(以下、「引用例発明」という。)とを対比すると、カゼインは乳カゼインであるから、両者は、「窒素源として、(A)小麦グルテンの酵素分解物と、(B)乳カゼインとを含む経腸栄養組成物」である点で一致し、(1)前者が経口用であるのに対して、後者にはその点が記載されていない点、(2)(A)と(B)の重量比率について、前者では「40:60〜60:40」と特定しているのに対して、後者ではそのように特定されていない点、(3)グルタミンの含有量について、前者では「全アミノ酸中15〜30重量%」と特定しているのに対して、後者ではそのように特定されていない点、(4)前者が「保存安定性及び嗜好性が高い」と限定しているのに対して、後者にはその点が記載されていない点で、両者は相違する。
そこで、これら相違点について検討する。
相違点(1)について
引用例発明においては、上記記載事項(b)のとおり、アミノ酸や低分子のペプチドは刺激味があり、経口投与を行う場合に抵抗があるという、経口投与時の課題が記載されていることから、引用例発明も経口経腸用に供されるものと解される。
このことは、上記記載事項(e)のとおり「特公平51-26490号公報のアミノ酸混合物を窒素源とする栄養組成物組成物のグルタミンの供給源として本発明組成物を使用することが可能である。」と記載され、特公平51-26490号公報は、美味な食品組成物の製造方法に関するものであって、経口栄養組成物に関するものであることからも、窺い知れることである。
また、上記刊行物2には、上記記載事項(j)のとおり、小麦蛋白等を酵素で加水分解して得られるオリゴペプチド混合物は苦みがなく風味の良好なものであるため、経口及び経管等の経腸的投与が可能で、ヒト用の経口栄養剤として適していることが記載されているから、同様の小麦グルテンの酵素分解物を配合した引用例発明の経腸栄養組成物を 経口経腸用に供することに何ら困難性は認めらない。
相違点(2)について
上記記載事項(m)、(n)のとおり、上記引用例2には、引用例発明と同様の動植物蛋白質を酵素で加水分解して得られるオリゴペプチド混合物を含有する経口経腸栄養組成物において、カゼイン等の蛋白源としての窒素化合物を、栄養効果の点から、アミノ酸スコアーを向上させるように配合することが記載されている。
そして、小麦グルテンの酵素分解物と乳カゼインの配合比は、栄養剤の風味、アミノ酸スコア等を考慮して当業者が適宜最適化するものであるから、引用例発明の小麦グルテンの酵素分解物と乳カゼインの配合比を「40:60〜60:40」とすることに格別の困難性はなく、それにより、当業者が予期し得ない効果を奏するものでもない。
相違点(3)について
引用例発明もグルタミン配合量を高めようとするものであり、グルタミンの含有量はアミノ酸のバランスを考慮して可能な限り多く配合されるように当業者が適宜最適化するものであるから、グルタミンの含有量を「全アミノ酸中15〜30重量%」とすることに格別の困難性はなく、それにより、当業者が予期し得ない効果を奏するものでもない。
相違点(4)について
引用例発明においても、上記記載事項(b)のとおり、経口投与する場合はペプチドの刺激臭が抵抗となることが課題として記載されており、また、上記引用例2においても、本件発明と同様の動植物蛋白質を酵素で加水分解して得られるオリゴペプチド混合物を使用して、刺激や異味臭のない経口経腸栄養組成物とすることが記載されているから、引用例発明において、小麦グルテンの酵素分解物と乳カゼインの配合比を適宜最適化して、経口投与する場合の嗜好性を高めることは当業者が適宜なし得るところである。
また、引用例発明においても、上記記載事項(c)のとおり、栄養組成物は製剤的に安定であり、上記記載事項(g)のとおり、栄養組成物は水中で安定であるから、引用例発明において、小麦グルテンの酵素分解物と乳カゼインの配合比を適宜最適化して、保存安定性を高めることは当業者が適宜なし得るところである。
そして、本件発明の、栄養学的に非常に優れ、味、臭い、苦味、粘度等の嗜好性に優れ、飲みやすく、保存安定性にも優れたものであるという効果も、上記記載事項(b)、(c)、(g)、(j)等から、当業者が予測しうる範囲内のものにすぎない。
したがって、本件発明は、上記引用例1乃至2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

審判請求人は、審判請求書において「(1)「嗜好性に優れ、低粘度で飲みやすい」などの課題は、引用例1のような経腸栄養剤の場合には、求められないものである、(2)追加の試験例を提出して、本件発明は、経口経腸栄養組成物において、(A)成分と(B)成分の重量比率が「40:60〜60:40」とし、グルタミンの含有量を全アミノ酸中「15〜30重量%」とすることにより、格別顕著な栄養学的有用性、嗜好性、保存安定性等の効果を奏する」旨主張しているので検討する。
主張(1)について
上記のとおり、引用例1には、上記記載事項(b)のとおり、アミノ酸や低分子のペプチドは刺激味があり、経口投与を行う場合に抵抗があるという経口投与時の課題が記載されているから、請求人の主張は採用できない。
また、本件発明や引用例発明と同様のアミノ酸補給用の経口経腸栄養組成物において、アミノ酸特有の異臭、苦味等の点が問題となるため、嗜好性を改良する必要があることは、上記引用例2記載のように周知の課題にすぎない。
主張(2)について
経口栄養剤において、栄養学的有用性、嗜好性、保存安定性は上記引用例2記載のように周知の課題であり、これらを考慮して、配合成分の量比を最適化することは当業者の通常の創作能力の発揮であって、単に、(A)、(B)2成分の量比を調整して、栄養学的有用性、嗜好性、保存安定性を試験してみることに格別の困難性は見出せない。
請求人が提出した追加試験例を検討しても、下記の通り、当業者の予測を超えるほどの顕著な効果を奏しているものとは認められない。
(1)栄養価について
本件小麦グルテンの酵素分解物と乳カゼンイン等は、各種アミノ酸の組成および含有割合が分かっているのであるから、両成分を配合した栄養物のケミカルスコアは当業者が適宜決定し得るものである。
(2)味について
味の悪い本件小麦グルテンの酵素分解物に対して、乳カゼイン等の割合が増えれば味が良くなることは自明のことにすぎず、当業者が予期しうることである。
(3)飲み易さについて
栄養組成物の粘度については飲み易さを考慮して当業者が適宜調整するものであるし、乳カゼイン等より相対的に分子量の小さい本件小麦グルテンの酵素分解物の割合が増えれば粘度が低くなることは自明のことにすぎない。
なお、栄養組成物の粘度は、(A)、(B)2成分の量比のみで決まるものではなく、ペプチドの分子量、水溶液の濃度等に依存するものであるが、本件発明はそのような特定がなされているものではないから、請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
また、本件小麦グルテンの酵素分解物の平均分子量は、本件明細書の段落【0010】によると、約10kDであるが、引用例発明の小麦グルテンの酵素分解物の平均分子量は200Dであり、本件発明の栄養剤の粘度が引用例発明の粘度より低いものとは考えられない。

4. むすび

以上のとおり、本件請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された上記の引用刊行物1乃至2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-09 
結審通知日 2005-06-14 
審決日 2005-06-29 
出願番号 特願平6-71630
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 俊生北村 弘樹  
特許庁審判長 河野 直樹
特許庁審判官 鵜飼 健
鈴木 恵理子
発明の名称 保存安定性及び嗜好性の高い経口経腸栄養組成物  
代理人 村山 みどり  

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