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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1120991
審判番号 不服2002-11705  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-06-26 
確定日 2005-08-10 
事件の表示 平成 9年特許願第 22465号「医薬錠剤およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 8月26日出願公開、特開平 9-221416〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成9年2月5日(パリ条約による優先権主張 1996年2月6日(IT)イタリア共和国)の出願であって、平成14年3月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月26日に審判請求がなされるとともに、同年7月26日付けで手続補正がなされたものである。


2.平成14年7月26日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成14年7月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]

上記補正により、補正前の請求項1に記載された部分的コーティング層の成分である重合性物質の選択肢は「1,000〜4,000,000の範囲にある分子量を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース」のみに限定されたものの、それと同時に、同層の「厚さが0.5〜4.0mm」である点、及び「重量が錠剤の全重量の5〜70%である点」が請求項1から削除されたから、当該補正は補正前の請求項1の発明特定事項の一部を削除して発明概念を部分的に拡大するものであり、特許請求の範囲の減縮に該当しない。また、当該補正は請求項の削除、誤記の訂正又は明りようでない記載の釈明のいずれにも該当しないことが明らかである。
したがって、上記補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


3.本件審判の請求について

(1)本願発明
平成14年7月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜6に係る発明は、平成12年11月9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである(以下、「本願発明」という)。

「部分的コーティング層によって被膜された三層コアからなり、連続的に、かつ、所望時間、有効物質を放出するのに適した医薬用途用錠剤であって、
前記三層コアが次の構造:
-有効物質と、前記錠剤が水性媒質と接触した際に前記有効物質を迅速に放出することを可能とする適当な賦形剤とからなる上層;
-組成が、該上層に含有されている有効物質の放出と、下層に含有されている有効物質の放出との間の時間間隔を決めることができる障壁を形成するポリマー材料からなる中間層;および
-1またはそれ以上の有効物質を含有し、前記上層と同じかあるいは異なる組成を有する下層であって、前記有効物質の制御された放出を可能にする前記下層とからなり、かつ、
前記部分的コーティング層は、前記三層コアの全側面及び底面全体に圧縮を適用させた顆粒状重合性物質、補助物質及び可塑剤の混合物からなり、それゆえ、所望の時間、溶解性に耐性を有する0.5〜4.0mmの厚さを有する不浸透性の障壁を形成し、部分的コーティングの重量が錠剤の全重量の5%〜70%であり、コーティングの重合性物質が、1,000〜4,000,000の範囲にある分子量を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース、2,000〜2,000,000の分子量を有するヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、グルカン、スクレログルカン、マンナン、ガラクトマンナン、カラゲーニンまたはカラゲーナン、アミロース、ペクチン、キサンタン、アルギニン酸およびそのアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩、ポリ(メチルビニルエーテル/無水マレイン酸)、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、セルロースアセトフタレート、セルロースアセトプロピオネート、セルローストリメリテートおよびこれらの混合物からなる群から選択されたことを特徴とする医薬錠剤。」

(2)引用刊行物の記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本出願前に頒布された刊行物であるA1及びA3には、それぞれ次の事項が記載されている(摘示した各記載事項を以下、「記載イ」などという)。

<刊行物A1>(実公昭51-20271号公報)

(イ)「外層、中間層及び主成分層から成る錠剤において、特定の崩壊面を除き少なくとも最終の中間層の崩壊までは崩壊しない材質から成る外層内に、その錠剤が使用されるときの周囲の液性により崩壊速度が殆ど影響を受けない材質から成る中間層により分離された数層の主成分層を配設することを特徴とする多段放出錠剤の構造。」
(実用新案登録請求の範囲)

(ロ)「第1図はこの製剤の拡大断面を略図で表したものであるが、・・・aは被覆部分、b及びdは主薬部分、cは中間層であり、eは保護層(外層)である。aは主薬の変質等を防ぐための部分であり、場合によってはなくてもよい。・・・b及びdは主薬を含む部分であり、場合によっては各々に異なる成分を入れることもできる。この層は一般に繁用されている賦型剤等を薬物と共に粉末あるいは顆粒化処理して常法で製することができる。」
(1頁右欄13〜25行)

(ハ)「cは中間層であり崩壊が液性によって影響を受けない物質から成っている。その例としては、・・・などがある。
崩壊が液性の影響を受けない物質とは、・・・を意味し、・・・でも使用できることは勿論である。この層の材質と厚さを適宜調節することにより薬物放出を所望の間隔で行うことができる。」
(1頁右欄25行〜2頁左欄8行)

(ニ)「eは保護層であり、主薬の変質を防ぐ役目を果たすことは通常の製剤と変りないが、最終段の主薬層(この例ではd層)が崩壊する以前には崩壊しないことが必要である。この層に用いることのできる物質としては、例えば、・・・メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、・・・カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、・・・ポリエチレングリコール、・・・高級脂肪酸類、水素添加油脂類、・・・タルク、ステアリン酸マグネシウム、・・・などがあり、これらは単独又は数種類を組合せて用いればよい。この層は目的に応じ、c層の崩壊と同時に崩壊するか、最終の主薬層が崩壊した後に崩壊すればよいから、上記の例にとらわれることなく、易溶性の物質と組合せて用いてもよいし、難溶性のものを組合せても何ら差支えない。また、この層は崩壊されずに排泄されても投薬上は差支えない。」
(2頁左欄9〜34行)

(ホ)「この製剤は個人差に関係なく、一定の間隔をおいて薬物を放出し、所望の血中濃度を保つことができるので医師にとっても患者にとっても極めて使用に便利であり、特に血中からの排泄が早い薬物を投与するためには理想的な製剤といえる。」
(2頁左欄44行〜同頁右欄5行)

(ヘ)「第四の方法としては、予め製した三層錠を内核錠として、在来の有核打錠機を用い、片面および円周側面には少なくとも該三層錠に主薬が残存中は消化管内で耐え得るような成分を用いて有核圧縮成型することにより被覆する方法である。第5図は本方法によって製造した有核被覆錠の縦断面を示したものである。」
(3頁左欄21〜27行)

(ト)「実施例 1
メピリゾール・・・100gおよび乳糖16.4gの粉末を均一に混合し、ヒドロキシプロピルセルロース(以下HPCと略称)3g、1・1・1-トリクロルエタン20gおよびエチルアルコール7gから成る結合液で練合し、常法により顆粒化してステアリン酸マグネシウム0.6gを加えて三層錠の主薬層成分とする。別にHPC59.4gおよびステアリン酸マグネシウム0.6gの粉末を混合し、三層錠中間層成分とする。錠機の各成分を用いて、上下の各層および中間層を重量が各60mg、厚みが各1mmになるように在来の三層打錠機にて径8mmの隅角平型の三層錠を作製する。」
(3頁右欄27〜42行)

(チ)「実施例 9
乳糖78.6gの粉末をHPC1g、精糖水4.5gおよびエチルアルコール4.5gから成る結合液で練合し、常法により顆粒化してステアリン酸マグネシウム0.4gを加えて内核三層錠の片面主薬層を被覆する成分(I)とする。別に、エチルセルロース110.2gおよびHPC45gの粉末を均一に混合し、ヒマシ油水素添加油脂4gおよび1.1.1-トリクロルエタン36gから成る結合液にて練合し、常法により顆粒化してステアリン酸マグネシウム0.8gを加えて内核三層錠の他の片面の外層と中間層を含む円周側面とを被覆する成分(II)とする。
実施例1で示した三層錠を内核とし、上記の成分(I)80mgおよび成分(II)160mgを用いて在来の有核打錠機にて径10mm、厚さ5.0mmの隅角平型の有核錠を作製する。」
(4頁右欄43行〜5頁左欄15行)

<刊行物A3>(特開平7-138150号公報)

(リ)「三つの重ねられた層、即ち、-即時の薬剤放出を可能にするように適当に製剤化された活性成分を含む上層;-溶解媒体と徐々に相互作用するように製剤化されている薬剤を含まない中間層;-同一または異なる活性成分を含む上層と同じ配合の下層を含む薬剤を連続の時間で放出できる医薬錠剤であって、
不溶性のポリマーまたは遅延された溶解性もしくは媒体のpHに応じた溶解性を示すポリマーからなる不浸透性ポリマーフィルムで、上面の小さい領域のみを除いて、完全に被覆されていることを特徴とする医薬錠剤。」
(請求項1)

(ヌ)「前記ポリマー被覆物が、仕上げ錠剤合計重量に対し、0.2〜20重量%の量である請求項1に記載の錠剤。」
(請求項8)

(ル)「ポリマー被覆物は、仕上げ錠剤の合計重量に関して、0.2 〜20重量%の量である。」
(段落【0052】)


(3)対比・判断

記載イによれば、刊行物A1には特定の性質を有する材質で形成された外層、中間層及び主成分層から成る多段放出錠剤が記載され、記載ロ、ハ、ニ及び第1図によれば、同錠剤の主薬部分(主成分層)b、中間層c、主薬部分(主成分層)d、保護層(外層)eは、それぞれ本願発明の上層、中間層、下層、部分的コーティング層に相当し、記載ロによれば、同錠剤の主薬部分(主成分層)b及びdは賦型剤を含有し、記載ハによれば、同錠剤の中間層cは、その材質と厚さを適宜調節することにより上層と下層の薬物放出の時間間隔を決めることができ、記載ホによれば、同錠剤は、一定の間隔をおいて薬物を放出し所望の血中濃度を保つことができるから、本願発明の「連続的に、かつ、所望時間、有効物質を放出するのに適した医薬用途用錠剤」に相当し、記載ヘ及び第5図によれば、同刊行物記載の錠剤は、三層錠の片面および円周側面、すなわち三層コアの全側面及び底面全体に、圧縮を適用させて部分的コーティング層を被覆させたものであり、記載ニによれば、同錠剤の保護層(外層)eとしては、主薬の変質を防ぐ役目を果たすと共に最終段の主薬層が崩壊する以前には崩壊しないものを採用できるから、同保護層(外層)eは、所望の時間溶解性に耐性を有する不浸透性の障壁を形成するものであると認められる。
そこで、本願発明と刊行物A1に記載された多段放出錠剤の発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
本願発明も刊行物1に記載された発明も、ともに、
「部分的コーティング層によって被膜された三層コアからなり、連続的に、かつ、所望時間、有効物質を放出するのに適した医薬用途用錠剤であって、
前記三層コアが次の構造:
-有効物質と、前記錠剤が水性媒質と接触した際に前記有効物質を迅速に放出することを可能とする適当な賦形剤とからなる上層;
-組成が、該上層に含有されている有効物質の放出と、下層に含有されている有効物質の放出との間の時間間隔を決めることができる障壁を形成するポリマー材料からなる中間層;および
-1またはそれ以上の有効物質を含有し、前記上層と同じかあるいは異なる組成を有する下層であって、前記有効物質の制御された放出を可能にする前記下層とからなり、かつ、
前記部分的コーティング層は、前記三層コアの全側面及び底面全体に圧縮を適用させたものであり、所望の時間、溶解性に耐性を有する不浸透性の障壁を形成したもの」である点。

<相違点>

<相違点1>
部分的コーティング層の成分に関して、本願発明では同成分を「顆粒状重合性物質、補助物質及び可塑剤」と特定し、且つ、同重合性物質を「1,000〜4,000,000の範囲にある分子量を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース」をはじめとする特定のポリマー群から選択すると限定しているのに対し、刊行物A1には「特定のポリマー群から選択した顆粒状重合性物質、補助物質及び可塑剤」からなる組合せが直接記載されていない点。

<相違点2>
本願発明が部分的コーティング層の厚さを「0.5〜4.0mm」と特定しているのに対し、刊行物A1には同層の厚さが直接記載されていない点。

<相違点3>
本願発明が部分的コーティング層の重量を「錠剤の全重量の5%〜70%」と重量割合で特定しているのに対し、刊行物A1には同重量割合の記載がない点。

そこで、上記相違点について以下に検討する。

<相違点1の検討>(部分的コーティング層の成分について)
記載ニによれば、刊行物A1には、保護層e(部分的コーティング層)を形成するために単独又は数種類を組合せて用いる物質として種々のものが例示されており、これらの物質のうち、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート及びポリビニルアルコールは、本願発明の特定の重合性物質に該当し、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、水素添加油脂類、タルク及びステアリン酸マグネシウムは、本願発明の補助材料に該当し(本願請求項2及び明細書段落【0031】を参照)、また、ポリエチレングリコール、高級脂肪酸類及び水素添加油脂類は、本願発明の可塑剤に該当するから(本願明細書段落【0032】を参照)、同刊行物には、部分的コーティング層の成分として本願発明の「特定の重合性物質、補助物質及び可塑剤」に該当する物質の組合せを使用する可能性が示されていると言える。
また、記載チによれば、刊行物A1の実施例9には、三層錠の片面と円周側面を被覆する成分(II)(本願発明の部分的コーティング層の成分に相当)が、「エチルセルロース110.2g、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)45g、ヒマシ油水素添加油脂4g、1.1.1-トリクロルエタン36g、ステアリン酸マグネシウム0.8g」からなることが記載され、同成分を常法により顆粒化することも記載されているから、同刊行物には、顆粒状重合性物質としてエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース、補助材料としてステアリン酸マグネシウム、並びに可塑剤としてヒマシ油水素添加油脂を、具体的に所定量組合せて部分的コーティング層に配合した例が記載されていると解される。
また、本願発明においてヒドロキシプロピルセルロースの分子量の範囲を2,000〜2,000,000と設定していることは、通常使用可能な物の物性値を単に提示しているに過ぎず、当業者が適宜なし得ることである。

<相違点2の検討>(部分的コーティング層の厚さについて)
記載チによれば、刊行物A1の実施例9では、実施例1の三層錠を内核として、外層を被覆して径10mmの有核錠を作製しているところ、上記実施例1の三層錠は径8mmであることから(記載ト)、実施例9で被覆した外層(部分的コーティング層)の厚さは1mm程度であると認められるから、この厚みを含む適宜な範囲例えば0.5〜4.0mmを外層の範囲として設定することに格別の創意を見出すことはできない。

<相違点3の検討>(部分的コーティング層の重量割合について)
記載ト、チによれば、刊行物A1の実施例9には、内核三層錠(三層コア)の重量が180mg、コーティングする前の被覆成分(I)、(II)の重量がそれぞれ80mg、160mgであると記載され、コーティングした後の部分的コーティング層の重量割合がいくらになったかは記載されていないものの、上記各数値から推定すれば160/(180+80+160)×100=約38%に近い値であると考えられる。
また、刊行物A3にも、多段放出錠剤の三層コアを被覆する部分的コーティング層の重量を、錠剤の全重量の0.2%〜20%とすることが記載されている(記載リ、ヌ、ルを参照。また、摘示は省略したが同刊行物の各実施例では平均10%程度である)。
そうすると、部分的コーティング層の重量を錠剤の全重量の5%〜70%とすることも当業者が容易に設定しうる範囲と言わざるを得ない。


(4)むすび

したがって、本願発明は、刊行物A1及びA3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-08 
結審通知日 2005-03-15 
審決日 2005-03-28 
出願番号 特願平9-22465
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 とし子田村 聖子岩下 直人  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 中野 孝一
弘實 謙二
発明の名称 医薬錠剤およびその製造方法  
代理人 杉村 興作  

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