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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
管理番号 1121070
異議申立番号 異議2003-73345  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-22 
確定日 2005-05-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3457458号「インクジェットヘッド」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3457458号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3457458号に係る発明の出願は、平成8年3月22日に特許出願され、平成15年8月1日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人渡辺等より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年12月22日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
1)訂正事項a
特許請求の範囲を次に訂正する(下線は訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】ノズルを形成したノズル形成部材の表面に撥水処理を施したインクジェットヘッドにおいて、このインクジェットヘッドは前記ノズル形成部材の周縁部とこのヘッドの側面を覆い、記録媒体との対向面が平坦面であるノズルカバーを備え、このノズルカバーの記録媒体との対向面にインク残留を防ぐための撥水処理を施したことを特徴とするインクジェットヘッド。」
2)訂正事項b
明細書段落【0008】を次に訂正する(下線は訂正箇所を示す。)。
「【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、請求項1のインクジェットヘッドは、ノズルを形成したノズル形成部材の表面に撥水処理を施したインクジェットヘッドにおいて、このインクジェットヘッドは前記ノズル形成部材の周縁部とこのヘッドの側面を覆い、記録媒体との対向面が平坦面であるノズルカバーを備え、このノズルカバーの記録媒体との対向面に撥水処理を施した。」
3)訂正事項c
明細書段落【0030】を次に訂正する(下線は訂正箇所を示す。)。
「【発明の効果】
以上説明したように、請求項1のインクジェットヘッドによれば、ノズル形成部材の周縁部とこのヘッドの側面を覆い、記録媒体との対向面が平坦面であるノズルカバーの記録媒体との対向面に撥水処理を施したので、記録媒体対向面へのインク残留を防ぐことができてワイピング性能が向上する。」

(2)訂正の目的、新規事項の有無、拡張変更の存否の各要件についての判断
上記訂正事項aは、請求項1について、ノズルカバーの記録媒体との対向面が平坦面であることを、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内(特に、明細書段落【0022】、及び図1,4〜7等参照。)で限定するものであり、また、上記訂正事項b,cは、発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるためのものであるから、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(3)訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
本件請求項1に係る発明は訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(上記訂正事項a参照。以下、「本件発明」という。)。

(2)取消理由の概要
当審が平成16年10月25日(起案日)付けで通知した取消理由は、本件発明の特許が特許法第29条第2項の規定に違反してなされたというものであり、引用した刊行物1〜3は次のとおりである。
刊行物1:特開平2-188260号公報
刊行物2:特開平5-69542号公報
刊行物3:特開平6-143573号公報

(3)引用した刊行物に記載された事項と発明
1)刊行物1
刊行物1には次の事項が記載されている(「・・・」は中略を示す。)。
a.「前記吐出口形成部材および/または前記押え部材は表面に撥インク処理が施されている」(3頁左上欄10〜11行)
b.「本発明は・・・インク吐出口面をワイピングするためのワイピング機構を有したインクジェット記録装置・・・に関する。」(3頁右上欄3〜7行)
c.「インクジェット記録装置では、空気中に散乱した吐出インク滴の一部やサテライト、あるいは記録媒体からのインクのはね返り等によって吐出口面に濡れが生じる場合があり、さらには記録画像の定着促進のために記録媒体から蒸発させられた水分が吐出口面に結露して同様に濡れを生じる場合がある。この吐出口面の濡れは吐出方向の偏向等、吐出性能を損なうものであり、一般的には、ワイピングによってこの濡れを除去する構成が採られる。」(3頁右下欄末行〜4頁左上欄9行)
d.「第1図・・・において、1は記録ヘッド本体のベース板であり、・・・基板1上には・・・(ヒータボード)2が接着され・・・その表面には・・・電気熱変換体・・・ダイオード等が形成されている。3はオフィリスプレート(吐出口形成部材)であり、ここでは、インク液室を形成するための溝を設けた天板3Aと一体成形されている。4はフィルタであり、チップタンク5から共通液室6に至るインク供給口に設けられる。・・・フィルタ4を通過したインクは・・・複数のインク液室7の各々にその吐出に応じて供給される。9はオリフィスプレート3をその弾性力等で押え、開口面(ここでは特にヒータボード2の端面)に対して密着させる押え部材である。」(4頁右下欄4行〜5頁左上欄4行)
e.「インク液室7内に配設された電気熱変換体を駆動することにより・・・オリフィス(吐出口)8を介してインクを吐出する。・・・インク滴は吐出口面に対して垂直に偏向なく吐出される。」(5頁左上欄12〜18行)
f.「押え部材の機能としては、前述したオリフィスプレートを押えるためだけでなく、その表面の平滑性により、キャッピングの際の密着性を上げる」(5頁右上欄15〜18行)
g.「記録ヘッド11の往復動作における適切なタイミングおよび所定の方向でブレード10を・・・突出させ、ヘッド11の往復動作に関連させてヘッド11の吐出口面をワイピングする。」(5頁左下欄11〜15行)
h.「ワイピング部材として、ゴム等のブレードでなく、吸収体を用いてもよく」(6頁右上欄10〜11行)
i.「オリフィスプレートに撥水処理が施されていればさらによいことは言うまでもない。」(6頁右下欄1〜2行)
j.第1図(A)(B)及び第2図(A)(B)の記載を、上記a〜iを参酌しつつみれば、押え部材9が吐出口形成部材3の周縁部を覆っていること、ただし、ヘッド11の側面を覆っているとはいえないこと、吐出口形成部材3が少なくともプレート状部分と天板3Aを一体整形した部分からなっていること、吐出口形成部材3と押え部材9の表面がインク滴の吐出方向を向いていること、吐出口形成部材3の表面がインク滴の吐出方向に少し突出しており、そのため、押え部材9の表面が吐出口形成部材3とその周囲の部材との境界付近で屈曲していること、などが看取できる。
上記a,c,h,iからみて、吐出口形成部材3と押え部材9の表面に施される撥インク処理が撥水処理でもあることは明らかであり、上記e.jも勘案すれば、吐出口形成部材3と押え部材9の表面が記録媒体との対向面であることも明らかである。
したがって、刊行物1には、上記a〜jを含む全記載によれば、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「吐出口8を形成した吐出口形成部材3の表面に撥水処理を施したインクジェット記録装置のヘッド11において、このインクジェット記録装置のヘッド11は前記吐出口形成部材3の周縁部を覆い、ただし、このヘッド11の側面を覆っておらず、記録媒体との対向面が吐出口形成部材3とその周囲の部材との境界付近で屈曲している平滑面である押え部材9を備え、この押え部材9の記録媒体との対向面に撥水処理を施したインクジェット記録装置のヘッド11。」

2)刊行物2
ノズルプレート20の外縁が接合し、内部にインク滴形成手段が構成されているフレーム19を備えたインクジェットヘッド1について記載されている(段落【0008】、図1等)。

3)刊行物3
刊行物3の段落【0027】には、「図11は、上述した本発明の振動板を使用したインクジェット記録ヘッドの一実施例を示すものであって、図中符号90は、駆動回路などが実装される基板91に固定された基台で、複数の振動子を備えた振動ユニット93,93をユニット収容室92,92に収容し、また貫通孔にインクカートリッジからのインクを供給するインク供給管93を収容して構成されている。インク供給管93は、一端がリザーブタンクを形成する通孔101に連通する開口95を、また他端がインクカートリッジに接続する接続針96に連通している。100は、上述した本発明が特徴とする振動板で、基台90に対向する側には圧電振動子の先端に当接するこの図では図示しないアイランド部41(図5)と、インク供給管の開口95に連通する通孔101とを設けて構成されている。105は、スペーサで、通孔101に連通するリザーブタンクや圧力室を形成する通孔106,107が設けられている。110は、ノズルプレートで、圧力室となる通孔107に対向する位置にノズル開口111、111を穿設して構成されている。これら振動板100、スペーサ105、及びノズルプレート110は、基台90に積層された上で、金属製の枠体115により基台90に気密を保持できるように固定されてまとめ上げられ、また枠体115から延びるリード片116を基板91の駆動回路のアースに接続されて接地されている。これにより、ノズルプレート110が無用に帯電して塵埃がノズル開口に付着するのを防止することができる。」と記載されている。
また、この記載を参酌しつつ図11をみれば、枠体115が、基台90とこれに振動板100,スペーサ105,ノズルプレート110が順に積層されてなるインクジェット記録ヘッドを、ノズルプレート110の周縁部からこのヘッドの側面上部(ノズルプレート110側を上部とする。)にかけて覆うものであること、かつ、枠体115の表面が、記録媒体と対向する平坦面であること、などが看取できる。
これらの記載を含む全記載によれば、刊行物3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「ノズル開口111を形成したノズルプレート110を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、このインクジェット記録ヘッドは前記ノズルプレート110の周縁部とこのヘッドの側面上部を覆い、記録媒体との対向面が平坦面である枠体115を備えたインクジェット記録ヘッド。」

(4)対比・判断
1)その1(引用発明1との対比・判断)
本件発明(前者)と引用発明1(後者)を対比するに、後者の「吐出口8」、「吐出口形成部材3」、「インクジェット記録装置のヘッド11」は、それぞれ、前者の「ノズル」、「ノズル形成部材」、「インクジェットヘッド」に対応する。
また、後者の「押え部材9」は、吐出口形成部材3の周縁部を覆っており、ノズルカバーと称してよいものであるから、前者の「ノズルカバー」とは、「少なくとも前記ノズル形成部材の周縁部を覆うノズルカバー」といえる点で共通する。
したがって、両者は、「ノズルを形成したノズル形成部材の表面に撥水処理を施したインクジェットヘッドにおいて、このインクジェットヘッドは少なくとも前記ノズル形成部材の周縁部を覆うノズルカバーを備え、このノズルカバーの記録媒体との対向面に撥水処理を施したことを特徴とするインクジェットヘッド。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>ノズルカバーについて、前者では、ヘッドの側面も覆うものであり、記録媒体との対向面が平坦面であり、その撥水処理がインク残留を防ぐためであるのに対して、後者では、ヘッドの側面を覆うものではなく、記録媒体との対向面はノズル形成部材とその周囲の部材との境界付近で屈曲しており、撥水処理がインク残留を防ぐためであることについては後者に係る刊行物1に特には明記がない点。
なお、後者における各面についての撥水処理が全面的になされているのか否か定かでないとしても、前者では、各面を全面的に撥水処理することについて規定していないため、後者の場合との差異は見出し難いが、仮に、前者において、各面を全面的に撥水処理することが意図されているとした場合については、以下の検討の中で触れることとする。

以下、相違点について検討する。

上記刊行物3には、その記載された枠体115がノズルプレート110の周縁部を覆うものであってノズルカバーといえるから、ノズル形成部材(ノズルプレート110)の周縁部とヘッドの側面上部を覆うと共に記録媒体との対向面が平坦面であるノズルカバーについて記載されているといえる。
引用発明1のノズルカバー(押え部材9)がノズル形成部材(吐出口形成部材3)とその周囲の部材との境界付近で屈曲しているのは、上述したように、ノズル形成部材の表面がインク滴の吐出方向に少し突出しているためであるが、その記載された構成からみて必ず突出していなければならないというものではないし、カバーで側面を覆えないようなヘッド構成になっているわけでもないから、刊行物3記載の上記事項に基づいて、引用発明1のノズルカバーとして、ノズル形成部材の周縁部とヘッドの側面上部を覆うと共に記録媒体との対向面が平坦面であるものを採用できるようにすることは、それを阻害する要因もなく、当業者が必要に応じて適宜なし得たことといえる。
本件発明ではヘッドの側面のどの範囲を覆うかについて規定がないため、刊行物3記載のノズルカバー(枠体115)がヘッドの側面上部を覆っていることとの差異は見出せないが、仮に、側面の広い範囲を覆うことを意図しているとしても、その程度のことは当業者であれば適宜決定できることにすぎない。
また、刊行物1における「前記吐出口形成部材および/または前記押え部材は表面に撥インク処理が施されている」(上記a)及び「オリフィスプレートに撥水処理が施されていればさらによいことは言うまでもない。」(上記i)の記載では、ノズル形成部材(吐出口形成部材3)の表面とノズルカバー(押え部材9)の上記対向面の各面を全面的に撥水処理していることが明記されているとまではいえないが、記録媒体と対向する面にインクが付着しない方が望ましいことは容易に理解できることであり、これらの記載に接した当業者であれば、ワイピング用のブレードや吸収体が各面のどの範囲に接触するか否かにかかわらず、各面を全面的に撥水処理する方が、部分的に撥水処理するよりも、インクの付着をより防止できるであろうことは容易に想起できることといえるから、仮に、本件発明において、各面を全面的に撥水処理することが意図されているとした場合であっても、そのようにすることは当業者が必要に応じて適宜なし得たことといえる。
さらに、一般に、インクジェットヘッドの撥水処理が、インク滴を吐出する側の面であり、かつ、記録媒体と対向する面にインクが付着し難くするためであることは明らかであって、インク残留を防ぐ意図があることは容易に理解できることであるし、本件発明が「インク残留を防ぐための撥水処理」とした点が、引用発明1の撥水処理とは異なる処理であることを規定しているともいえないから、この点に格別のものは認められない。
なお、特許権者は、平成16年12月22日付意見書において、刊行物1の押え部材はオリフィスプレートに接合されているものではなく、刊行物3にはノズルプレート110と枠体115とが接合されているとの記載がないと主張するが、「接合」について具体的な説明はないし、本件発明を特定する事項として用いられてもいないので、この主張は採用できない。
したがって、上記相違点は当業者が容易になし得た設計の変更であり、本件発明は、上記相違点に係る特定事項を含むことにより予測を超える格別の作用効果を奏するものでもないから、刊行物1,3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2)その2(引用発明3との対比・判断)
上記訂正はノズルカバーを限定するものであるが、これに伴い、限定されたノズルカバーにより近いものを備えている引用発明3との対比による別の見方を以下に示す。
本件発明(前者)と引用発明3(後者)を対比するに、後者の「ノズル開口111」、「ノズルプレート110」、「インクジェット記録ヘッド」、「枠体115」は、それぞれ、前者の「ノズル」、「ノズル形成部材」、「インクジェットヘッド」、「ノズルカバー」に対応する。
したがって、両者は、「ノズルを形成したノズル形成部材を有するインクジェットヘッドにおいて、このインクジェットヘッドは前記ノズル形成部材の周縁部とこのヘッドの側面を覆い、記録媒体との対向面が平坦面であるノズルカバーを備えことを特徴とするインクジェットヘッド。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>前者が、ノズル形成部材の表面に撥水処理を施し、ノズルカバーの記録媒体との対向面にインク残留を防ぐための撥水処理を施しているのに対して、後者は撥水処理を施しているか否か不明である点。
なお、本件発明ではヘッドの側面のどの範囲を覆うかについて規定がないため、引用発明3がヘッドの側面上部を覆っていることとの差異は見出せず、相違点に含めないが、仮に、側面の広い範囲を覆うことを意図しているとし、相違点としたとしても、その程度のことは当業者であれば適宜決定できることにすぎない。

以下、相違点について検討する。

上記刊行物1には、ノズル形成部材(吐出口形成部材3)の表面とノズルカバー(押え部材9)の記録媒体との対向面とに撥水処理を施すことが記載されているが、インク滴を吐出する側の面であり、かつ、記録媒体と対向する面にインクが付着しない方が望ましいことは容易に理解できることであるから、引用発明3においても、ノズル形成部材(ノズルプレート110)の表面とノズルカバー(枠体115)の記録媒体との対向面とに撥水処理を施すことは当業者であれば容易に想起できることである。
本件発明では、ノズル形成部材の表面を全面的に撥水処理するのか否か、ノズルカバーの上記対向面を全面的に撥水処理するのか否か規定がないが、仮に、各面を全面的に撥水処理することが意図されているとしても、その程度のことは当業者であれば適宜なし得ることというべきである。
また、一般に、インクジェットヘッドの撥水処理が、インク滴を吐出する側の面であり、かつ、記録媒体と対向する面にインクが付着し難くするためであることは明らかであって、当然にインク残留を防ぐ意図もあることは容易に理解できることであるから、本件発明が「インク残留を防ぐための」と規定した点に格別のものがあるとは認められない。
したがって、上記相違点は当業者が容易になし得た設計の変更であり、本件発明は、上記相違点に係る特定事項を含むことにより予測を超える格別の作用効果を奏するものでもないから、刊行物3,1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明についての特許は、平成15年改正前の特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インクジェットヘッド
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルを形成したノズル形成部材の表面に撥水処理を施したインクジェットヘッドにおいて、このインクジェットヘッドは前記ノズル形成部材の周縁部とこのヘッドの側面を覆い、記録媒体との対向面が平坦面であるノズルカバーを備え、このノズルカバーの記録媒体との対向面にインク残留を防ぐための撥水処理を施したことを特徴とするインクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェットヘッドに関し、ノズル形成部材の表面に撥水処理を施したインクジェットヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録装置は、記録時の振動、騒音が殆どなく、特にカラー化が容易なことから、コンピュータ等のデジタル処理装置のデータを出力するプリンタの他、ファクシミリやコピー機等にも用いられるようになっている。
【0003】
このようなインクジェット記録装置に用いられるインクジェットヘッドは、圧電素子、発熱抵抗体等のエネルギー発生手段(アクチュエータ)を駆動することによってノズルから液滴化したインク(インク滴)を吐出飛翔させるため、ノズルの形状、精度等がインク滴の噴射特性(インク滴吐出性能)に影響を与えると共に、ノズルを形成しているノズル形成部材の表面の特性がインク滴の噴射特性に影響を与える。例えば、ノズル形成部材表面のノズル周辺部にインクが付着して不均一なインク溜り(所謂濡れムラ)が発生すると、インク滴の吐出方向が曲げられたり、インク滴の大きさにバラツキが生じたり、インク滴の飛翔速度が不安定になる等の不都合が生じることが知られている。
【0004】
そこで、従来のインクジェット記録装置においては、インクジェットヘッド自体にはノズル形成部材表面に撥水処理を施すようにし、装置側にはインクジェットヘッドのノズル形成部材表面を弾性部材でワイピングして残留インクや付着物を除去する信頼性回復機構を備えるようにしている(例えば、特開平4-357044号公報、特開平6-143606号公報等)。
【0005】
なお、機水処理としては、例えばシリコン系撥水剤、フッ素系撥水剤などの撥水剤を塗布する方法(特開昭55-65564号公報参照)、フロロアルコキシシランなどで表面処理する方法(特開昭56-89569号公報参照)、フッ素系化合物やシラン系化合物のプラズマ重合膜を形成する方法(特開昭64-87359号公報参照)、フロロシリコーンコーティング剤で処理する方法(特開平2-39944号公報参照)、フッ素系高分子共析メッキで撥水層を形成する方法(特開昭63-3963号公報、特開平4-294145号公報参照)などが知られている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、インクジェット記録装置にインクジェットヘッドを装着する場合、インクジェットヘッドをノズル形成部材の周縁部とヘッドの側面を覆うノズルカバー内に収納して装置本体に装着することが考えられる。このようにした場合、インクジェットヘッドのノズル形成部材の表面に撥水処理を施していても、ノズルカバーには撥水処理が施されていないため、ワイピングによってノズルカバーの表面にインクが残留して記録媒体を汚すなどの事態が生じることになる。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、ノズルカバーを備えるインクジェットヘッドのワイピング性能を向上することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、請求項1のインクジェットヘッドは、ノズルを形成したノズル形成部材の表面に撥水処理を施したインクジェットヘッドにおいて、このインクジェットヘッドは前記ノズル形成部材の周縁部とこのヘッドの側面を覆い、記録媒体との対向面が平坦面であるノズルカバーを備え、このノズルカバーの記録媒体との対向面にインク残留を防ぐための撥水処理を施した。
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。図1は本発明を適用するインクジェットヘッドの一例を示す分解斜視図、図2は同インクジェットヘッドの要部断面図、図3は同インクジェットヘッドの図2と直交する方向の要部断面図である。
【0013】
このインクジェットヘッドは、セラミック、ガラスエポキシ樹脂等からなる絶縁性の基板1上に、2個の積層型圧電素子2を接合して配置し、これらの各列の積層型圧電素子2の周囲を取り囲むフレーム3を接合している。ここで、積層型圧電素子2は、アクチュエータ素子となる駆動部4と単に液室部材を固定支持する非駆動部5を交互に配置している。また、積層型圧電素子2及びフレーム3の上面はほぼ同一平面に位置出し又は研削加工している。
【0014】
そして、これらの積層型圧電素子2及びフレーム3の上面に振動板7を接合している。この振動板7は、変位部となるダイヤフラム8と、非駆動部5に接合する梁9、フレーム3に接合するベース10から形成し、またダイヤフラム8は駆動部4に対向する凸部11及び薄膜部分12から形成している。なお、基板1と積層型圧電素子2及び振動板7との接合は接着剤6によって行っている。
【0015】
この振動板7上に2層構造の感光性樹脂フィルム等からなる液室流路形成部材13を接着し、この液室流路形成部材13上に複数のノズル14を形成したノズル形成部材であるノズルプレート15を接着している。液室流路形成部材13は上部隔壁17及び下部隔壁18からなり、振動板7及びノズルプレート15と共に、駆動部4に対向する加圧液室19、加圧液室19の両側等に位置する共通液室20、加圧液室19と共通液室20を連通する流体抵抗部を兼ねたインク供給路21を形成している。
【0016】
ここで、積層型圧電素子2は、図2及び図3に示すように、厚さ20〜50μm/1層のPZT(=Pb(Zr・Ti)O3)23と、厚さ数μm/1層の銀・パラジューム(AgPd)からなる内部電極24とを交互に積層したものである。圧電素子を、厚さ20〜50μm/1層の積層型とすることによって駆動電圧の低電圧化を図れ、例えば20〜50Vのパルス電圧で圧電素子の電界強度1000V/mmを得ることができる。なお、圧電素子として用いる材料は上記に限られるものでなく、一般に圧電素子材料として用いられるBaTiO3、PbTiO3、(NaK)NbO3等の強誘電体などを用いることもできる。
【0017】
この積層型圧電素子2の各内部電極24は1層おきにAgPdからなる左右の外部電極25,26に接続している。一方、基板1上には、積層型圧電素子2の各列の間に位置して駆動部4に対して駆動波形を印加するための共通電極パターン27を形成すると共に、駆動部4に対して選択信号を与えるための個別電極パターン28を設けている。そして、駆動部4の外部電極25を銀ペースト等の導電性接着剤30を介して共通電極パターン27に接続し、外部電極26を同じく導電性接着剤30を介して個別電極パターン28に接続している。なお、共通電極パターン27はフレーム3の中央部に形成した穴部31内に導電性接着剤30を塗布することで各パターン部の導通を取るようにしている。そして、共通電極パターン27及び個別電極パターン28にはそれぞれFPCケーブル32,33を接続する。
【0018】
また、ノズルプレート15の表面には撥水処理を施した撥水処理部15Aと周囲の撥水処理を施していない非撥水処理部15Bとを設けている。なお、基板1、フレーム3及び振動板7には、外部から供給されるインクを共通液室20に供給するためのインク供給孔35,36,37をそれぞれ形成している。
【0019】
そして、このインクジェットヘッドは、上記の各部の組付後基板1をヘッドホルダ38上に取付け、ノズルプレート15の周縁部及びヘッド側面を覆うノズルカバー39を被せて、このノズルカバー39をノズルプレート15の非撥水処理部15B又はフレーム3上面に接着剤で固定している。
【0020】
このインクジェットにおいては、共通電極パターン27を介して駆動部4に駆動波形を印加し、個別電極パターン28を介して記録画像に応じた選択信号を駆動部4に印加することによって、選択された駆動部4に積層方向の変位が生起して対応する加圧液室19を振動板7のダイヤフラム8を介して加圧し、これによって加圧液室19内のインクが加圧されてノズル14からインク滴となって噴射して記録媒体に画像を記録する。
【0021】
そこで、本発明に係るノズルカバーの実施例について図4以降を参照して説明する。図4は本発明の第1実施例を示すインクジェットヘッドの斜視図である。この第1実施例では、ノズルカバー39の記録媒体と対向する面40に撥水処理を施している。この撥水処理は、ノズルプレート15の撥水処理で用いられる前述したような各種の処理方法を適用することができる。
【0022】
このようにノズル形成部材の周縁部とこのヘッドの側面を覆うノズルカバーを備え、このノズルカバーの記録媒体との対向面に撥水処理を施すことによって、ワイピングによってノズルカバーの記録媒体対向面に残留する除去することができて、ワイピング性能が向上する。
【0023】
図5は本発明の第2実施例を示すインクジェットヘッドの斜視図である。この第2実施例では、ノズルカバー39の両側面39aに多数の凹状の溝41を形成している。したがって、ノズルプレート15表面をワイピングしたときに不要なインクが溝41で吸収される。
【0024】
このようにノズル形成部材の周縁部とこのヘッドの側面を覆うノズルカバーを備え、このノズルカバーの側面に凹状の溝を形成することによってノズルプレート表面をワイピングしたときの不要なインクが溝に吸収されて、ワイピング性能が向上する。
【0025】
図6は本発明の第3実施例を示すインクジェットヘッドの斜視図である。この第3実施例では、ノズルカバー39の両側面を化学的、或いは機械的若しくは電気的に粗す粗面化処理をした粗面42としている。したがって、ノズルプレート15表面をワイピングしたときに不要なインクが毛細管現象により粗面42で吸収される。
【0026】
このようにノズル形成部材の周縁部とこのヘッドの側面を覆うノズルカバーを備え、このノズルカバーの側面に粗面化処理を施すことによってノズルプレート表面をワイピングしたときの不要なインクが吸収されて、ワイピング性能が向上する。
【0027】
図7は本発明の第4実施例を示すインクジェットヘッドの斜視図である。この第4実施例では、ノズルカバー39の両側面に上述したような溝を形成し、或いは化学的、或いは機械的若しくは電気的に粗す粗面化処理をした上、インクを吸収可能なスポンジ、フェルト等のインク吸収部材43を設けている。したがって、ノズルプレート15表面をワイピングしたときに不要なインクが溝や粗面を介してインク吸収部材43で吸収保持される。
【0028】
このようにノズル形成部材の周縁部とこのヘッドの側面を覆うノズルカバーを備え、このノズルカバーの側面にインク吸収部材を設けることによってノズルプレート表面をワイピングしたときの不要なインクが吸収されて、ワイピング性能が向上する。
【0029】
なお、上記第1実施例と第2、第3、第4実施例を組合わせることもできる。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1のインクジェットヘッドによれば、ノズル形成部材の周縁部とこのヘッドの側面を覆い、記録媒体との対向面が平坦面であるノズルカバーの記録媒体との対向面に撥水処理を施したので、記録媒体対向面へのインク残留を防ぐことができてワイピング性能が向上する。
【0031】
【0032】
【0033】
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明を適用するインクジェットヘッドの一例を示す分解斜視図
【図2】
同インクジェットヘッドの模式的断面図
【図3】
同インクジェットヘッドの図2と直交する方向の模式的断面図
【図4】
本発明の第1実施例を示す外観斜視図
【図5】
本発明の第2実施例を示す外観斜視図
【図6】
本発明の第3実施例を示す外観斜視図
【図7】
本発明の第4実施例を示す外観斜視図
【符号の説明】
1…基板、2…積層型圧電素子、3…フレーム、4…駆動部、5…非駆動部、7…ノズルプレート、13…液室流路形成部材、14…ノズル、15…ノズルプレート、15A…撥水処理部、15B…非撥水処理部、38…ヘッドホルダ、39…ノズルホルダ、40…記録媒体対向面、41…溝、42…粗面、43…インク吸収部材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-29 
出願番号 特願平8-65875
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B41J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 後藤 時男  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 谷山 稔男
津田 俊明
登録日 2003-08-01 
登録番号 特許第3457458号(P3457458)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 インクジェットヘッド  
代理人 稲元 富保  
代理人 稲元 富保  

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