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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1121082 |
異議申立番号 | 異議2003-72817 |
総通号数 | 69 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-10-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-11-18 |
確定日 | 2005-05-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3407654号「眼科用組成物」の請求項1ないし6に記載された発明についての特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3407654号の請求項1ないし5に記載された発明についての特許を取り消す。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第3407654号は、平成10年4月14日に出願され、平成15年3月14日に特許権の設定登録がされた後、その請求項1〜6に記載された発明の特許について水谷修子により特許異議の申立てがされ、当審による取消理由通知の指定期間内である平成16年4月19日に明細書の訂正請求がされたものである。 2 訂正請求の適否 (1) 訂正事項 a.特許請求の範囲を 「【請求項1】 ソルビン酸又はその塩を全体の0.01〜0.2重量/容量%含有する眼科用組成物に、メントール類、ボルネオール類、カンフル類、ユーカリ油、ウイキョウ油、ベルガモット油、ゲラニオール及びリナロールから選ばれる1種又は2種以上の香料を全体の0.003〜0.1重量/容量%となるように配合すると共に、エチレンジアミン四酢酸又はその塩を全体の0.005〜0.2重量/容量%となるように配合してなることを特徴とする眼科用組成物。 【請求項2】 更に、ホウ酸及び/又はホウ砂を配合した請求項1記載の眼 科用組成物。 【請求項3】 コンタクトレンズ用点眼剤である請求項1又は2記載の眼科用組成物。 【請求項4】 ソフトコンタクトレンズ用点眼剤である請求項3記載の眼科用組成物。 【請求項5】 上記ソルビン酸又はその塩による防腐効力が向上された請求項1乃至4のいずれか1項記載の眼科用組成物。 【請求項6】 上記香料及びエチレンジアミン四酢酸又はその塩が、防腐効力向上剤として配合された請求項1乃至5のいずれか1項記載の眼科用組成物。」 から 「【請求項1】 ソルビン酸又はその塩を全体の0.01〜0.2重量/容量%含有する眼科用組成物に、メントール類、ボルネオール類、カンフル類、ユーカリ油、ウイキョウ油、ベルガモット油、ゲラニオール及びリナロールから選ばれる1種又は2種以上の香料を全体の0.003〜0.1重量/容量%並びにエチレンジアミン四酢酸又はその塩を全体の0.005〜0.2重量/容量%となるように配合すると共に、ホウ酸及び/又はホウ砂を配合してなることを特徴とする眼科用組成物。 【請求項2】 コンタクトレンズ用点眼剤である請求項1記載の眼科用組成物。 【請求項3】 ソフトコンタクトレンズ用点眼剤である請求項2記載の眼科用組成物。 【請求項4】 上記ソルビン酸又はその塩による防腐効力が向上された請求項1乃至3のいずれか1項記載の眼科用組成物 【請求項5】 上記香料と、エチレンジアミン四酢酸又はその塩と、ホウ酸及び/又はホウ砂とが、防腐効力向上剤として配合された請求項1乃至4のいずれか1項記載の眼科用組成物。」に訂正する。 b.明細書【0001】、【0008】、【0015】、【0019】、【0024】欄を下記のように訂正し、【0020】を削除する。また、実施例10を参考例1にし、実施例12以降を順次繰り上げる。 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ソルビン酸又はその塩を防腐剤とする眼科用組成物に関し、さらに詳述すると、特定の香料及びエチレンジアミン四酢酸又はその塩をそれぞれ特定量で同時配合すると共に、ホウ酸及び/又はホウ砂を配合することにより、ソルビン酸又はその塩を防腐剤とする眼科用組成物の保存効力を高めた眼科用組成物に関する。」 「【0008】 即ち、本発明は、ソルビン酸又はその塩を全体の0.01〜0.2重量/容量%含有する眼科用組成物に、メントール類、ボルネオール類、カンフル類、ユーカリ油、ウイキョウ油、ベルガモット油、ゲラニオール及びリナロールから選ばれる1種又は2種以上の香料を全体の0.0 0 3〜0.1重量/容量%並びにエチレンジアミン四酢酸又はその塩を全体の0.0 0 5〜0.2重量/容量%となるように配合すると共に、ホウ酸及び/又はホウ砂を配合してなることを特徴とする眼科用組成物を提供する。また、上記眼科用組成物をコンタクトレンズ用点眼剤、特にソフトコンタクトレンズ用点眼剤として使用すると、より好適である。そして、本発明の眼科用組成物は、上記香料及びエチレンジアミン四酢酸又はその塩を防腐効力向上剤として配合することによって、ソルビン酸又はその塩による防腐効力が向上されたものとすることができる。」 「【0015】本発明の眼科用組成物では、上記第一、第二及び第三成分に加えて、更にホウ酸及び/又はホウ砂を添加すると、保存効力が増強される。このホウ酸とホウ砂とは、必ずしも同時配合する必要はないが、同時配合した方がより効果的である。本発明の眼科用組成物におけるホウ酸及びホウ砂の配合量は特に制限されないが、ホウ酸を配合する場合、組成物全体の0.1〜2%、特に0.2〜1%が好適であり、一方、ホウ砂を配合する場合、組成物全体の0.01〜1%、特に0.0 2〜0.5%が好適であり、これらを併用する場合も、それぞれ上記好適範囲で配合すると好適である。」 「【0019】【発明の効果】本発明の眼科用組成物によれば、点眼剤等の眼科用組成物の防腐剤の中でも、特にコンタクトレンズに対する吸着蓄積が少ないソルビン酸又はその塩を防腐剤として配合し、これに特定の香料とエチレンジアミン四酢酸又はその塩とをそれぞれ特定量で同時配合すると共に、ホウ酸及び/又はホウ砂を配合することにより、上記防腐剤の保存効力が著しく高められているので、点眼剤等の眼科用組成物としての安全性に優れるのみならず、更に、例えば本発明の眼科用組成物を点眼剤として調製すれば、この点眼剤はコンタクトレンズを装用した状態で点眼することができ、コンタクトレンズ装用時の不快感を軽減することが可能となるので、特にコンタクトレンズ用点眼剤として有用である。」 「【0024】[実施例3〜25、参考例1及び比較例1〜6] 表1〜4に示す処方の点眼剤を上記実施例1と同様にして調製し、各点眼剤をそれぞれ容器に充填した後、下記試験法に従って各点眼剤の保存(防腐)効力及び使用感を評価した。結果を表1〜4に併記する。」 (2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正a.は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 上記訂正b.は、特許請求の範囲の訂正に伴って、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための明りょうでない記載の釈明を目的としたものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3) むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する特許法第126条第2-3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3 特許異議の申立てについての判断 (1)本件発明 上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件の請求項1〜5に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定されるとおりのものである。(以下それぞれを「本件発明1」などという。) (2)刊行物 当審が通知した取消理由通知に引用された本件出願前に頒布された刊行物である刊行物1〜9は次のものである。 刊行物1:日本コンタクトレンズ学会誌、Vol.27、 No.2、1985年、第110〜114頁 (異議申立人が提出した甲第1号証) 刊行物2:特開平6-40910号公報(同甲第2号証) 刊行物3:特開平6-279208号公報(同甲第3号証) 刊行物4:フレグランスジャーナル臨時増刊、No.1、1979年、第33〜42頁(同甲第4号証) 刊行物5:Cosmetics & Toiletries、Vol.108、1993、p.65〜70(同甲第5号証) 刊行物6:「香粧品/医薬品 防腐・殺菌剤の科学」、フレグランスジャーナル社、平成2年4月10日発行、第264〜277頁(同甲第6号証) 刊行物7:特開平9-132526号公報(同甲第7号証) 刊行物8:特開平8-198746号公報(同甲第8号証) 刊行物9:特開平7-118147号公報(同甲第9号証) (3)刊行物1の記載 刊行物1には、ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用中でも安全に点眼できる点眼剤DP-039に関し(111頁左欄13〜15行)、これが塩化ナトリウム0.55%、塩化カリウム0.55%を主成分とし、SCLに吸着されない防腐剤としてソルビン酸0.1%、エデト酸ナトリウム0.1%を含むものであることが記載されている(111頁末7〜末3行)。 (4) 本件発明1〜5についての判断 (4-1)本件発明1について 刊行物1に記載された点眼剤(眼科用組成物)におけるソルビン酸の配合量0.1%及びエデト酸ナトリウム(エチレンジアミン四酢酸)の配合量0.1%は、いずれも、それぞれ本件発明1におけるソルビン酸及びエチレンジアミン四酢酸の配合量の範囲内であるから、本件発明1と刊行物1に記載された発明は、 「ソルビン酸を0.01〜0.2重量/容量%含有する眼科用組成物に、エチレンジアミン四酢酸を全体の0.005〜0.2重量/容量%となるように配合してなることを特徴とする眼科用組成物。」 である点において一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1においては、メントール類、ボルネオール類、カンフル類、ユーカリ油、ウイキョウ油、ベルガモット油、ゲラニオール及びリナロールから選ばれる1種又は2種以上の香料を全体の0.003〜0.1重量/容量%配合するのに対し、刊行物1に記載のものは、香料が配合されていない点。 <相違点2> 本件発明1においては、ホウ酸及び/又はホウ砂を配合するのに対し、刊行物1に記載のものは、ホウ酸及び/又はホウ砂が配合されていない点。 まず、相違点1について検討する。 刊行物7には、点眼剤には、差し心地を爽快にする等の目的のため、メントール類、カンフル類、ボルネオール類、ユーカリ油、ゲラニオール、ウイキョウ油、ベルガモット油等が汎用されることが記載されている(【0002】)。また、刊行物8及び9には、点眼剤に必要に応じて配合する成分として、ソルビン酸などの防腐剤とともにメントール類の一種であるl-メントールなどの香料が記載され(刊行物8【0013】、刊行物9【0015】)、l-メントールを0.005〜0.01g/100ml(0.005〜0.01重量/用量%)の範囲で配合した処方例が記載されている(刊行物9【0020】)。 このように、メントール類、カンフル類、ボルネオール類、ユーカリ油、ゲラニオール、ウイキョウ油、ベルガモット油等の香料は、点眼剤に汎用の周知成分である。また、刊行物9に本件発明1における配合量の範囲内でl-メントールを点眼剤に配合した例が記載されていることからも明らかなように、本件発明1におけるメントール類等の香料の配合量は通常の配合量と重複している。そうすると、相違点1は、刊行物1に記載された点眼剤に、点眼剤の配合成分として汎用の成分であるメントール類等の香料を通常の配合量で配合した結果を示すにすぎず、このような配合をすることには当業者が格別の創意を要しない。 次に、相違点2について検討する。 刊行物7には、通常点眼剤に配合される成分としてホウ酸などの緩衝剤が記載され(【0011】)、刊行物8の【0013】及び刊行物9の【0015】には、点眼剤に必要に応じて配合する成分として、ホウ酸などの緩衝剤が挙げられていることからもわかるように、ホウ酸は点眼剤の成分として慣用のものである。したがって、本件発明1においてホウ酸を配合することも当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本件発明1が上記相違点1及び2における特定事項を組み合わせたことにより、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏するものとはいえず、特に、本件発明1本件発明1の防腐効力向上効果についても、ホウ酸が防腐作用を有すること及びボルネオール、カンファー、ユーカリプタス油、ゲラニオール、リナロールにも防腐作用があること(刊行物3【0017】及び刊行物4の34頁左欄ii)及び右欄表-1)が広く知られ、ソルビン酸等の防腐剤作用を有する酸とベルガモット油、ユーカリ油等の精油を組み合わせて防腐剤系とすること(刊行物3【0001】、【0017】、【0033】〜【0034】)及び防腐剤としてソルビン酸又はその塩を配合した点眼剤において、エデト酸、すなわち、エチレンジアミン四酢酸、又はその塩はそれ自体が防腐効力を持つだけでなく、ソルビン酸等の他の防腐剤の防腐効果を増強すること(刊行物6の266頁12〜16行及び刊行物2【0021】)が知られていたことからみれば、刊行物1に記載の点眼剤に対してこれら成分を追加することにより、一層防腐効力が向上することがは当業者が容易に予測する範囲内のことである。 したがって、本件発明1は、刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4-2)本件発明2について 刊行物1に記載された眼科用組成物はソフトコンタクトレンズ用の点眼剤であり、ホウ酸及びメントール類等の香料は点眼剤の成分としてよく知られたものである上、たとえばコンタクトレンズに対し悪影響がある等、これら成分が配合された点眼剤をコンタクトレンズ使用者に対して使用することを阻害する特段の事情もないから、本件発明1の点眼剤をかかる用途に使用することも、上記(4-1)と同様の理由により当業者が容易になし得たことである。 (4-3)本件発明3について 刊行物1に記載された眼科用組成物はソフトコンタクトレンズ用の点眼剤であり、ホウ酸及びメントール類等の香料は点眼剤の成分としてよく知られたものである上、たとえばソフトコンタクトレンズに対し悪影響がある等、これら成分が配合された点眼剤をコンタクトレンズ使用者に対して使用することを阻害する特段の事情もないから、本件発明1の点眼剤をソフトコンタクトレンズ用点眼剤とすることも、上記(4-1)と同様の理由により当業者が容易になし得たことである。 (4-4)本件発明4について ボルネオール、カンファー、ユーカリプタス油、ゲラニオール、リナロールなどの精油が防腐作用を有すること(刊行物4の34頁左欄ii)及び右欄表-1)、防腐剤としてソルビン酸又はその塩を配合した点眼剤において、エデト酸、すなわち、エチレンジアミン四酢酸、又はその塩を配合することによって、ソルビン酸の防腐効果が増強されること(刊行物2【0021】)、ソルビン酸等の防腐剤作用を有する酸と、抗微生物活性を有するベルガモット油、ユーカリ油等の精油を組み合わせて、防腐剤系とすること(刊行物3【0001】、【0017】、【0033】〜【0034】)はよく知られている。そうすると、ソルビン酸とともにエチレンジアミン四酢酸及びベルガモット油、ユーカリ油等の精油を配合し、点眼剤の慣用成分であってしかも防腐作用を有することが周知であるホウ酸を含有する点眼剤においては、ソルビン酸の防腐効力の向上が期待できることは当業者が容易に理解し得たことである。したがって、本件発明4も、(4-1)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4-5)本件発明5について ホウ酸が防腐作用を有すること、ベルガモット油、ユーカリ油ボルネオール、カンファー、ユーカリプタス油、ゲラニオール、リナロールなどの精油が防腐作用を有し(刊行物3及び4)、抗微生物活性を有するベルガモット油、ユーカリ油等の精油を組み合わせて、防腐剤系とすること(刊行物3)及びEDTA、すなわち、エチレンジアミン四酢酸は、抗菌性物質として単独で作用するとともに、汎用されている他の香粧品用防腐剤と組み合わせて使用すると、増強剤又は補助剤として作用し、他の抗菌剤の防腐効果を増強するので、香粧品処方でEDTAは多用され、EDTAはPseudomonasをはじめとするグラム陰性菌に対し主たる活性を有するという重要な特徴を有する防腐剤であること(刊行物6の266頁12〜16行)は広く知られている。そうすると、本件発明5は、本件発明1の成分のうち、防腐作用を有することが本件出願時に知られていたホウ酸、ベルガモット油等の香料及びエチレンジアミン四酢酸を防腐効力向上剤として称したのみで、本件発明1及び本件発明4と異なるところはないから、(4-1)及び(4-4)と同様の理由で当業者が容易に想到し得たものである。 (5)むすび 以上のとおりであるから、本件発明1〜5は、上記引用刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜5についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 眼科用組成物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ソルビン酸又はその塩を全体の0.01〜0.2重量/容量%含有する眼科用組成物に、メントール類、ボルネオール類、カンフル類、ユーカリ油、ウイキョウ油、ベルガモット油、ゲラニオール及びリナロールから選ばれる1種又は2種以上の香料を全体の0.003〜0.1重量/容量%並びにエチレンジアミン四酢酸又はその塩を全体の0.005〜0.2重量/容量%となるように配合すると共に、ホウ酸及び/又はホウ砂を配合してなることを特徴とする眼科用組成物。 【請求項2】 コンタクトレンズ用点眼剤である請求項1記載の眼科用組成物。 【請求項3】 ソフトコンタクトレンズ用点眼剤である請求項2記載の眼科用組成物。 【請求項4】 上記ソルビン酸又はその塩による防腐効力が向上された請求項1乃至3のいずれか1項記載の眼科用組成物。 【請求項5】 上記香料と、エチレンジアミン四酢酸又はその塩と、ホウ酸及び/又はホウ砂とが、防腐効力向上剤として配合された請求項1乃至4のいずれか1項記載の眼科用組成物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、ソルビン酸又はその塩を防腐剤とする眼科用組成物に関し、さらに詳述すると、特定の香料及びエチレンジアミン四酢酸又はその塩をそれぞれ特定量で同時配合すると共に、ホウ酸及び/又はホウ砂を配合することにより、ソルビン酸又はその塩を防腐剤とする眼科用組成物の保存効力を高めた眼科用組成物に関する。 【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】 従来より、点眼剤等の眼科用組成物の防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、p-アミノ安息香酸エステル及びソルビン酸等が1種単独で又は2種以上が組み合わされて用いられている。 【0003】 これらの防腐剤の中でも、特に第4級アンモニウム塩である塩化ベンザルコニウムや塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジンは、保存効力は高いがコンタクトレンズ、特にソフトコンタクトレンズに対する吸着性があるという問題がある。 【0004】 一方、コンタクト用点眼剤の防腐剤としてよく用いられるソルビン酸又はその塩は、コンタクトレンズ、特にソフトコンタクトレンズに対する吸着蓄積は少ないが、雑菌が混入した際の保存効力が上記第4級アンモニウム塩に比べると低いという問題があった。 【0005】 また、コンタクトレンズ装用者には、コンタクトレンズ装用による角膜への酸素透過量の減少、物理的ストレス、涙液交換量の減少等による眼の疲れ、異物感等の不快感が生じやすいため、コンタクトレンズ装用時にも点眼可能な点眼剤の開発が望まれていた。 【0006】 本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、眼に対する安全性を損なうことなく、ソルビン酸又はその塩を防腐剤とする点眼剤等の眼科用組成物の保存効力を向上させ、更に、コンタクトレンズ装用時の不快感を軽減することも可能な眼科用組成物を提供することを目的とするものである。 【0007】 【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】 本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ソルビン酸又はその塩を防腐剤とする点眼剤等の眼科用組成物に対し、ボルネオール類、カンフル類、メントール類、ユーカリ油、ウイキョウ油、ベルガモット油、リナロール及びゲラニオールから選ばれる1種又は2種以上の香料とエチレンジアミン四酢酸又はその塩とをそれぞれ所定量で同時配合することにより、上記防腐剤の保存効力を著しく高めることができるのみならず、コンタクトレンズ装用時の不快感が軽減されること、更に、ホウ酸及び/又はホウ砂を配合した場合、より一層保存効力が高められることを見出し、本発明をなすに至った。 【0008】 即ち、本発明は、ソルビン酸又はその塩を全体の0.01〜0.2重量/容量%含有する眼科用組成物に、メントール類、ボルネオール類、カンフル類、ユーカリ油、ウイキョウ油、ベルガモット油、ゲラニオール及びリナロールから選ばれる1種又は2種以上の香料を全体の0.003〜0.1重量/容量%並びにエチレンジアミン四酢酸又はその塩を全体の0.005〜0.2重量/容量%となるように配合すると共に、ホウ酸及び/又はホウ砂を配合してなることを特徴とする眼科用組成物を提供する。また、上記眼科用組成物をコンタクトレンズ用点眼剤、特にソフトコンタクトレンズ用点眼剤として使用すると、より好適である。そして、本発明の眼科用組成物は、上記香料及びエチレンジアミン四酢酸又はその塩を防腐効力向上剤として配合することによって、ソルビン酸又はその塩による防腐効力が向上されたものとすることができる。 【0009】 以下、本発明をより詳細に説明すると、本発明の眼科用組成物の第一の必須成分は、ソルビン酸又はその塩であり、ソルビン酸それ自体の他に、その塩としては通常眼科用組成物の防腐剤として使用されるソルビン酸カリウム等のソルビン酸塩も好適に使用することができる。本発明における上記第一成分の配合量は、眼科用組成物全体の0.01〜0.2%(重量/容量%、以下同様)であり、好ましくは0.05〜0.1%である。上記第一成分の配合量が少なすぎると十分な防腐力が得られず、一方、多すぎると眼に対する安全性の点から好ましくない。 【0010】 本発明の第二の必須成分は、メントール類、ボルネオール類、カンフル類、ユーカリ油、ウイキョウ油、ベルガモット油、ゲラニオール、リナロールであり、これらの中でも、特にメントール類、ボルネオール類、カンフル類等がより好適に使用される。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができるが、本発明の場合、これらを2種以上組み合わせて用いると、より保存効力を増強することができるので、2種以上を組み合わせて配合することがより好ましく、この場合、組み合わせとしては、メントール類とカンフル類、メントール類とボルネオール類等の組み合わせが特に好適である。上記香料を2種併用する場合、その配合比は、重量比でメントール類に対してカンフル類又はボルネオール類を0.1〜10倍量となるように配合するとより効果的である。 【0011】 ここで、メントール類としては、l-メントール、dl-メントール、ハッカ水、ハッカ油、ペパーミント油、スペアミント油等を挙げることができる。また、ボルネオール類は、モノテルペンアルコールの一つで、天然にはフタバガキ科植物の精油、ロスマリン、ラベンダー油中に存在し、具体的にはd-ボルネオール、dl-ボルネオール、リュウノウ等を挙げることができる。更に、カンフル類は、樟脳ともいわれ、モノテルペンケトンの一つであり、天然には、クスノキ科、シソ科等の植物中に存在し、具体的にはd-カンフル、dl-カンフル等を挙げることができる。 【0012】 上記第二成分の配合量(2種以上を併用する場合は、合計配合量)は、組成物全体の0.003〜0.1%であり、好ましくは0.003〜0.01%である。上記第二成分の配合量が少なすぎると保存効力の増強やコンタクトレンズ使用時の不快感の軽減という効果が十分に得られず、一方、多すぎると眼に対する刺激が強くなる。また、同様の理由により、上記第一成分に対する配合割合は、重量比で0.005〜10倍量、特に0.01〜1倍量となるように配合するとより好適である。 【0013】 本発明の第三の必須成分は、エチレンジアミン四酢酸又はその塩であり、エチレンジアミン四酢酸それ自体の他に、通常点眼剤等に使用されるエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の塩も好適に使用することができる。 【0014】 上記第三成分の配合量は、組成物全体の0.005〜0.2%であり、好ましくは0.05〜0.15%である。上記第三成分の配合量が少なすぎると保存効力の増強効果が十分に得られず、多すぎると眼に対する安全性の点から好ましくない。また、同様の理由により、上記第一成分に対する配合割合は、重量比で0.025〜20倍量、特に0.05〜2倍量とするとより好適である。 【0015】 本発明の眼科用組成物では、上記第一、第二及び第三成分に加えて、更にホウ酸及び/又はホウ砂を添加すると、保存効力が増強される。このホウ酸とホウ砂とは、必ずしも同時配合する必要はないが、同時配合した方がより効果的である。本発明の眼科用組成物におけるホウ酸及びホウ砂の配合量は特に制限されないが、ホウ酸を配合する場合、組成物全体の0.1〜2%、特に0.2〜1%が好適であり、一方、ホウ砂を配合する場合、組成物全体の0.01〜1%、特に0.02〜0.5%が好適であり、これらを併用する場合も、それぞれ上記好適範囲で配合すると好適である。 【0016】 本発明の眼科用組成物は、その使用用途は特に制限されず、医療用点眼剤又は一般用点眼剤、洗眼剤としても使用することができるが、本発明の眼科用組成物は、コンタクトレンズに対する吸着蓄積が少ないソルビン酸又はその塩を防腐剤として使用すると共に、眼に対する安全性を損なうことなくその保存効力が向上されたものなので、コンタクトレンズ、特にソフトコンタクトレンズを装用した状態で点眼可能なコンタクトレンズ用点眼剤として有用である。 【0017】 なお、本発明の眼科用組成物では、本発明の効果を妨げない限り、必要に応じて上記成分に加えて通常点眼剤等の眼科用組成物の調製に使用されている各種成分をその通常の使用量において配合することができる。例えば、グリチルリチン酸二カリウム,イプシロンアミノカプロン酸,アラントイン,塩化ベルベリン,アズレンスルホン酸ナトリウム,硫酸亜鉛,塩化リゾチームなどの抗炎症剤、ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12,ビタミンEアセテート,パンテノール,パントテン酸カルシウム,パントテン酸ナトリウム,ビタミンAパルミテートなどのビタミン類、L-アスパラギン酸カリウム,アミノエチルスルホン酸,コンドロイチン硫酸ナトリウムなどのアミノ酸、塩酸ジフェンヒドラミン,マレイン酸クロルフェニラミンなどの抗ヒスタミン剤、塩酸エピネフリン,塩酸ナファゾリン,塩酸テトラヒドロゾリン等の充血除去成分、メチル硫酸ネオスチグミン、タウリンなどの有効成分及びpH調節剤、緩衝剤、等張化剤、可溶化剤、保存剤等の添加剤を挙げることができ、これらは本発明の効果を損なわない範囲で常用量配合することができる。 【0018】 本発明の眼科用組成物は、上記必須成分と必要に応じて適宜上記任意成分を配合して、その剤型の常法に従って調製することにより、点眼剤等の眼科用組成物として調製され、各剤型の通常の用法、用量で使用される。ここで、本発明の眼科用組成物のpHは、特に制限されるものではないが、眼に対する刺激性等を考慮すれば、pH5〜8とすることが好ましい。 【0019】 【発明の効果】 本発明の眼科用組成物によれば、点眼剤等の眼科用組成物の防腐剤の中でも、特にコンタクトレンズに対する吸着蓄積が少ないソルビン酸又はその塩を防腐剤として配合し、これに特定の香料とエチレンジアミン四酢酸又はその塩とをそれぞれ特定量で同時配合すると共に、ホウ酸及び/又はホウ砂を配合することにより、上記防腐剤の保存効力が著しく高められているので、点眼剤等の眼科用組成物としての安全性に優れるのみならず、更に、例えば本発明の眼科用組成物を点眼剤として調製すれば、この点眼剤はコンタクトレンズを装用した状態で点眼することができ、コンタクトレンズ装用時の不快感を軽減することが可能となるので、特にコンタクトレンズ用点眼剤として有用である。 【0020】 【0021】 【実施例】 以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。 【0022】 [実施例1] ソルビン酸0.1g、エデト酸ナトリウム0.1g、ホウ酸0.5g、ホウ砂0.05g、塩化ナトリウム0.3g、タウリン1.0g、L-アスパラギン酸カリウム0.25gを滅菌精製水90gに溶解し、別にプロピレングリコール5gにdl-カンフル0.6gを溶解したもの0.56gを加え、水酸化ナトリウム溶液でpHを7に調整した後、更に滅菌精製水を加えて全量を100mlとし、点眼剤を調製した。 【0023】 [実施例2] ソルビン酸0.1g、エデト酸ナトリウム0.05g、ホウ酸1.5g、ホウ砂0.05g、グリチルリチン酸二カリウム0.025g、マレイン酸クロルフェニラミン0.003gを滅菌精製水90gに溶解し、別にプロピレングリコール5gにl-メントール0.05gを溶解したもの0.505gを加え、水酸化ナトリウム溶液でpHを7に調整した後、更に滅菌精製水を加えて全量を100mlとし、洗眼剤を調製した。 【0024】 [実施例3〜25、参考例1及び比較例1〜6] 表1〜4に示す処方の点眼剤を上記実施例1と同様にして調製し、各点眼剤をそれぞれ容器に充填した後、下記試験法に従って各点眼剤の保存(防腐)効力及び使用感を評価した。結果を表1〜4に併記する。 【0025】 <保存効力試験法> 保存効力は、第十三改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して評価した。 本試験の場合、試験菌として、Escherichia coli(E.coli)、Pseudomonas aeruginosa(P.aeru)、Staphyrococcus aureus(S.aureu)の細菌類及びAspergillus niger(A.niger)、Candida albicans(C.albi)の真菌類を用いて、下記評価基準に基づいて各点眼剤の保存効力を評価した。 評価基準 ○:接種した各細菌類に対する2週間培養(32℃)後の菌数の割合が0.1%未満、又は各真菌類に対する2週間培養(25℃)後の菌数の割合が接種菌数のレベル未満 △:接種した各細菌類に対する2週間培養(32℃)後の菌数の割合が0.1〜5%未満、又は各真菌類に対する2週間培養(25℃)後の菌数の割合が接種菌数と同レベル ×:接種した各細菌類に対する2週間培養(32℃)後の菌数の割合が5%以上、又は各真菌類に対する2週間培養(25℃)後の菌数の割合が接種菌数のレベルを超える 【0026】 <使用感テスト> 健常人男性15名がコンタクトレンズを装用した状態で各点眼剤を点眼した時の使用感を官能評価し、下記評価基準に従って評価した。 評価基準 ◎:コンタクトレンズ装用時の不快感が顕著に軽減されたと答えた人の割合が多い場合 ○:コンタクトレンズ装用時の不快感が軽減されたと答えた人の割合が多い場合 △:コンタクトレンズ装用時の使用に特に問題ない場合×:コンタクトレンズ装用時の使用に違和感を感じた場合 【0027】 【表1】 【0028】 【表2】 【0029】 【表3】 【0030】 【表4】 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-03-16 |
出願番号 | 特願平10-119980 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZA
(A61K)
|
最終処分 | 取消 |
特許庁審判長 |
森田 ひとみ |
特許庁審判官 |
深津 弘 齋藤 恵 |
登録日 | 2003-03-14 |
登録番号 | 特許第3407654号(P3407654) |
権利者 | ライオン株式会社 |
発明の名称 | 眼科用組成物 |
代理人 | 小島 隆司 |
代理人 | 小林 克成 |
代理人 | 重松 沙織 |
代理人 | 小林 克成 |
代理人 | 石川 武史 |
代理人 | 小島 隆司 |
代理人 | 重松 沙織 |
代理人 | 石川 武史 |