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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1121099
異議申立番号 異議2002-72788  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-11-20 
確定日 2005-05-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3284741号「ポリマ多層被覆金属積層体」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3284741号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3284741号は、平成6年4月5日に出願され、平成14年3月8日にその特許権の設定登録がされ、その後、北野英雄及び東洋紡績株式会社より特許異議の申立てがされて、平成16年7月22日付け取消理由が通知され、同年9月27日に訂正請求がされ、更に、平成17年2月4日付け取消理由が通知され、その指定期間内である同月21日に訂正請求がされると共に、平成16年9月27日にされた訂正請求については取り下げられたものである。

2.特許異議の申立ての概要

2-1.北野英雄の申立て
申立てにおける取消理由の概要は、以下のとおりのものと認める。

A.特許査定時における請求項1〜5に係る特許は、明細書の記載が不備な、特許法第36条第5項の規定に違反した特許出願に対して、特許されたものである。(以下、「取消理由A」という。)
B.特許査定時における請求項1又は5に係る発明(決定注;ここにおける「請求項5に係る発明」とは、請求項1を引用して記載されている発明部分に限られていることは、申立書記載の全趣旨から明らかである。)は、甲第1号証に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由B」という。)
C.特許査定時における請求項1〜5に係る発明は、本件出願前に頒布された甲第2〜14号証に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由C」という。)

甲第1号証:特開平7-195618号公報
なお、甲第2〜14号証は、後述する「5-1」の「c」を参照されたい。

2-2.東洋紡績株式会社の申立て
申立てにおける取消理由の概要は、以下のとおりのものと認める。

D.特許査定時における請求項1又は5に係る発明(決定注;ここにおける「請求項5に係る発明」とは、請求項1を引用して記載されている発明部分に限られていることは、申立書記載の全趣旨から明らかである。)は、甲第1号証に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由D」という。)
E.特許査定時における請求項1に係る発明は、本件出願前に頒布された甲第2又は3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、該請求項に係る特許は、同条第1項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由E」という。)
F.特許査定時における請求項1〜5に係る発明は、本件出願前に頒布された甲第2〜8号証に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由F」という。)

甲第1号証:特開平7-195618号公報
なお、甲第2〜8号証は、後述する「5-1」の「f」を参照されたい。

3.通知された取消理由

3-1.平成16年7月22日付け取消理由
取消理由の概要は、取消理由B及びDと同趣旨である。

3-2.平成17年2月4日付け取消理由
取消理由の概要は、取消理由Aと同趣旨である。

4.平成17年2月21日にされた訂正請求の適否について

4-1.訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項a〜cからなるものと認める。

訂正事項a;
【特許請求の範囲】の記載につき、
「【請求項1】 融点140〜245℃のエチレンテレフタレート及び/またはエチレンイソフタレートを主たる構成成分とするポリエステルAとオレフィン系ポリマが重量比で60:40〜97:3の割合で配合されてなる(I)層と、融点220〜265℃のエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルBよりなる(II)層を押出ラミネートにより被覆してなることを特徴とするポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項2】 ポリエステル成分のカルボキシル末端基量が35当量/トン以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項3】 ポリエステル成分のジエチレングリコール成分量が0.01〜1.5重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項4】 ポリエステル成分のアセトアルデヒド量が30ppm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項5】 ポリエステル成分の極限粘度[η]が0.7以上であることを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかに記載のポリマ多層被覆金属積層体。」とあるのを、
「【請求項1】 融点140〜245℃のエチレンテレフタレート及び/またはエチレンイソフタレートを主たる構成成分とするポリエステルAとオレフィン系ポリマが重量比で60:40〜97:3の割合で配合されてなる(I)層と、融点220〜265℃のエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルBよりなる(II)層を押出ラミネートにより被覆してなるポリマ多層被覆金属積層体において、ポリエステル成分のカルボキシル末端基量が35当量/トン以下であり、(I)層が金属との接着面になるように押出ラミネートにより被覆してなることを特徴とするポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項2】 ポリエステル成分のジエチレングリコール成分量が0.01〜1.5重量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項3】 ポリエステル成分のアセトアルデヒド量が30ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項4】 ポリエステル成分の極限粘度[η]が0.7以上であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポリマ多層被覆金属積層体。」と訂正する。

訂正事項b;
明細書の段落【0009】の記載につき、
「・・・、融点220〜265℃のエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルBよりなる(II)層を押出ラミネートにより被覆してなることを特徴とするポリマ多層被覆金属積層体によって達成することができる。」とあるのを、
「・・・、融点220〜265℃のエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルBよりなる(II)層を押出ラミネートにより被覆してなるポリマ多層被覆金属積層体において、ポリエステル成分のカルボキシル末端基量が35当量/トン以下であり、(I)層が金属との接着面になるように押出ラミネートにより被覆してなることを特徴とするポリマ多層被覆金属積層体によって達成することができる。」と訂正する。

訂正事項c;
明細書の段落【0069】の記載につき、
「実施例9は、・・・耐衝撃性、味特性がやや低下したが良好な特性が得られた。」とあるのを、
「比較例4は、・・・耐衝撃性、味特性がやや低下した。」と訂正すると共に、表3に記載の「実施例9」を「比較例4」と訂正する。

4-2.判断
ここでは、「願書に添付した明細書」を訂正前明細書という。また、訂正前の【請求項1】については旧【請求項1】といい、また、訂正後の【請求項1】については新【請求項1】といい、他の請求項についても同様とする。

4-2-1.訂正の目的の適否、新規事項の有無について

(1)訂正事項aについて
新【請求項1】乃至新【請求項4】は、それぞれ、旧【請求項2】乃至旧【請求項5】を由来とするものであって、本訂正は、旧【請求項1】を削除するものであり、この削除することは、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
新【請求項1】乃至新【請求項4】とする訂正については、順次、検討することにする。

1)新【請求項1】とする訂正について
本訂正は、旧【請求項1】を引用して記載していた旧【請求項2】を由来とするものであって、旧【請求項1】が削除されたのに伴い、いわゆる、独立請求項とし、更に、旧【請求項2】に係る発明の特定事項であった、「(I)層と(II)層を押出ラミネートにより被覆してなるポリマ多層被覆金属積層体」について、「(I)層が金属との接着面になるように被覆してなる」と技術的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当する。
また、訂正前明細書の段落【0040】、【0041】又は【0060】には、以下の記載が認められる。

「【0040】本発明の金属体へのポリマ多層被覆方法としては溶融押出ラミネートであれば特に限定されないが、本発明の製造方法例について述べる。
【0041】ポリエステルA・・・、ポリエステルB・・・を二軸ベント式の別々の押出機(・・・)に供給し溶融し、しかる後にフィードブロック(275℃設定)にて2層に積層して口金から吐出後、(I)層が金属面になるように0.3mm程度の厚みの金属板に厚さ30μmのポリマラミネートを行う。」

「【0060】実施例1
ポリエステルA・・・、ポリエステルB・・・を二軸ベント式の別々の押出機(・・・)に供給し溶融し、しかる後にフィードブロックにて2層((I)層/(II)層=9/1、設定温度270℃)に積層して通常の口金から吐出後、(I)層が接着面になるように約200℃に通電加熱された厚さ0.3mmの鋼板(・・・)に押出ラミネートを行い(・・・)、直ちに水槽にて急冷した。」

これらの記載によれば、(I)層と(II)層を押出ラミネートにより金属体を被覆する際に、(I)層が金属との接着面になるように被覆することが記載され、この記載を根拠に、本訂正は、旧【請求項2】に係る発明の特定事項について、上述したとおりに、技術的に限定するものであるから、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

2)新【請求項2】乃至新【請求項4】とする訂正について
新【請求項2】乃至新【請求項4】は、それぞれ先行する旧【請求項】を引用して記載していた旧【請求項3】乃至旧【請求項5】を由来とするものであって、「(1)」の冒頭で述べたように、旧【請求項1】が削除されたのに伴い、引用する請求項を、それぞれ、先行する新【請求項】とするもので、本訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当し、更に、「1)」で述べたように、旧【請求項2】が技術的に限定されて新【請求項1】となったことから、旧【請求項2】を引用して記載していた旧【請求項3】乃至旧【請求項5】を由来に持つ新【請求項2】乃至新【請求項4】とする本訂正は、実質的に、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正にも該当する。
また、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえることは、「1)」で述べたことをも加味すると、明らかである。

(2)訂正事項bについて
本訂正は、訂正事項aとの整合を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当し、また、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえることは明らかである。

(3)訂正事項cについて
訂正前明細書の段落【0069】には、「実施例9は、溶液重合のみを実施した[η]=0.67のポリエステルA、溶液重合のみを実施した[η]=0.68のポリエステルBとして、単軸押出機で280℃で押出した以外は実施例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。得られた被覆ポリマはアセトアルデヒド量が多く、極限粘度も小さいために表3に示すとおり耐衝撃性、味特性がやや低下したが良好な特性が得られた。」との記載が認められ、更に、表3(段落【0081】の【表3】)には、「実施例9」の、「被覆ポリマ特性 缶特性」及び「カルボキシル基量(当量/トン)」に相当する欄に「45」と記載されている。
一方、本件訂正は、訂正事項aによって、請求項に係る発明、すなわち、新【請求項1】乃至新【請求項4】に係る発明を、ポリマ多層被覆金属積層体におけるポリエステル成分のカルボキシル末端基量が35当量/トン以下であることを特定事項にする発明とする訂正といえ、この訂正の結果、上記段落【0069】及び表3に、実施例9として記載されていた具体例は上記発明の実施例とは云えなくなるという不具合が生じることになる。
そこで、本訂正は、この不具合を正すもので、しかも、上記段落【0069】には、本件に係る発明の目的である耐衝撃性や味特性がやや低下したという、他の実施例と比較して劣る具体例であることが記載されていたことを根拠に、実施例9として記載されていた上記具体例を比較例である「比較例4」と訂正するもので、明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当する。
また、本訂正が、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえることは、以上のことから、明らかである。

4-2-2.訂正の拡張・変更の存否について
本件訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見当たらない。

4-2-3.まとめ
本件訂正は、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、これを認める。

5.特許異議の申立てについての判断

5-1.取消理由の整理
申立ての取消理由は、先に「2」でその概要を取消理由A〜Fとして述べたとおりであるが、先に「4」で述べたように本件訂正が認められ、特許査定時における請求項1に係る発明が削除されたことを勘案すると、結局、以下の取消理由になったと認める。

a.請求項1〜4に係る特許は、明細書の記載が不備な、特許法第36条第5項の規定に違反した特許出願に対して、特許されたものである。(以下、「取消理由a」という。)
c.本件発明1〜4は、本件出願前に頒布された甲第2〜14号証に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由c」という。)
甲第2号証:特開平5-42643号公報(以下、「北野甲2」という。)
甲第3号証:特公平2-9935号公報(以下、「北野甲3」という。)
甲第4号証:特開昭53-81530号公報(以下、「北野甲4」という。)
甲第5号証:特開平3-175036号公報(以下、「北野甲5」という。)
甲第6号証:特開平6-80867号公報(以下、「北野甲6」という。)
甲第7号証:特開昭59-62660号公報(以下、「北野甲7」という。)
甲第8号証:特開昭63-172740号公報(以下、「北野甲8」という。)
甲第9号証:特開平3-146546号公報(以下、「北野甲9」という。)
甲第10号証:特開昭55-21430号公報(以下、「北野甲10」という。)
甲第11号証:特開昭55-50058号公報(以下、「北野甲11」という。)
甲第12号証:特開平5-255491号公報(以下、「北野甲12」という。)
甲第13号証:特開平3-143619号公報(以下、「北野甲13」という。)
甲第14号証:特開平5-339393号公報(以下、「北野甲14」という。)
f.本件発明1〜4は、本件出願前に頒布された甲第2〜8号証に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由f」という。)
甲第2号証:特開昭56-10451号公報(以下、「東洋紡甲2」という。)
甲第3号証:特開昭54-143387号公報(以下、「東洋紡甲3」という。)
甲第4号証:特開平3-32837号公報(以下、「東洋紡甲4」という。)
甲第5号証:特開平5-202233号公報(以下、「東洋紡甲5」という。)
甲第6号証:特開平5-255491号公報(以下、「東洋紡甲6」という。なお、北野甲12と同じである。)
甲第7号証:特開平5-339393号公報(以下、「東洋紡甲7」という。なお、北野甲14と同じである。)
甲第8号証:飽和ポリエステル樹脂ハンドブック、152〜155、586〜591頁日刊工業新聞社、1989年12月22日発行(以下、「東洋紡甲8」という。)

5-2.取消理由aについて

1)申立人北野英雄は、記載の不備として、要するに、特許査定時の請求項1に係る発明は、(I)層が金属との接着面となることを特定事項としない点に注目し、(I)層が金属との接着面になるものしか実質的に記載されていない発明の詳細な説明には、上記請求項1に係る発明は、記載されてない」点を指摘するものと認める。

2)そこで、検討する。
訂正後の明細書の特許請求の範囲請求項1〜4の記載は、本件訂正が先に「4」で述べたように認められることから、以下のとおりである。

「【請求項1】 融点140〜245℃のエチレンテレフタレート及び/またはエチレンイソフタレートを主たる構成成分とするポリエステルAとオレフィン系ポリマが重量比で60:40〜97:3の割合で配合されてなる(I)層と、融点220〜265℃のエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルBよりなる(II)層を押出ラミネートにより被覆してなるポリマ多層被覆金属積層体において、ポリエステル成分のカルボキシル末端基量が35当量/トン以下であり、(I)層が金属との接着面になるように押出ラミネートにより被覆してなることを特徴とするポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項2】 ポリエステル成分のジエチレングリコール成分量が0.01〜1.5重量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項3】 ポリエステル成分のアセトアルデヒド量が30ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項4】 ポリエステル成分の極限粘度[η]が0.7以上であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポリマ多層被覆金属積層体。」

3)請求項2〜4は、請求項1を引用して記載されている。そして、請求項1の記載を見ると、ここには「(I)層が金属との接着面になるように押出ラミネートにより被覆してなる」と記載され 、請求項1に係る発明は、(I)層が金属との接着面となることを特定事項としているから、申立人の指摘する不備は解消されている。
そして、請求項1〜4に記載された発明が発明の詳細な説明に記載されていないとする理由は見あたらない。

3)したがって、取消理由aに理由はない。

5-3.本件発明
本件の請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1〜4」という。)は、先に「4」で述べたように本件訂正が認められることから、訂正後の明細書の特許請求の範囲請求項1〜4記載のとおりのものと認める。なお、該請求項1〜4の記載については、先の「5-2」の「2)」を参照されたい。

5-4.取消理由cについて

5-4-1.北野甲2〜14の記載

(1)北野甲2
(1ア)「【請求項1】 少なくとも2層構造からなり、その一方の面を金属にラミネートして用いられる、二軸方向に延伸されたポリエステル樹脂からなるフイルムであって、金属にラミネートされる面側の表面層(A)の融点(TmA )が170℃以上220℃以下であり、金属にラミネートされない面側の表面層(B)の融点(TmB )が220℃以上255℃以下であることを特徴とする金属ラミネート用フイルム。」

(2)北野甲3
(2ア)「特許請求の範囲
1 200℃未満の表面温度に予熱された金属体上に熱可塑性ポリエステル(I)、更にその上層に熱可塑性ポリエステル(I)より30℃以上高い流動開始温度を有する熱可塑性ポリエステル(II)を押出被覆により積層してなることを特徴とする熱可塑性ポリエステル多層被覆金属積層体。」
(2イ)「本発明に用いる熱可塑性ポリエステルには、顔料、染料、・・・、他の重合体等の添加剤を本発明の目的を損わない範囲で添加してもよい。」(2頁4欄31〜35行)
(2ウ)「本発明における流動開始温度とは、試料を加熱した場合に試料が流動を開始する温度のことであり、試料を加熱しうる装置を具備した光学顕微鏡により試料を観察しながら、約10mgの試料を昇温速度1℃/minで加熱し、該試料が流動を開始する温度を読み、該温度を流動開始温度とした。」(2頁3欄28〜33行)

(3)北野甲4
(3ア)「特許請求の範囲
(1)ジカルボン酸成分の75モル%以上がテレフタル酸であるポリエチレンテレフタレート系樹脂20〜70wt%、及びジカルボン酸成分の60モル%以上がテレフタル酸であるポリブチレンテレフタレート系樹脂0〜60wt%およびアイオノマー10〜30wt%からなる金属被覆用樹脂組成物。」
(3イ)「また被覆方法についても特に制限はなく、例えば板状の金属を被覆する場合には樹脂組成物を希望の厚さのフイルムに製膜し、フイルム、金属のいずれか一方または両方を加熱して熱圧着する方法、樹脂組成物を押出機に供給して、金属面に直接溶融押出ラミネートする方法、通常の電線被覆方法、粉末化して静電塗装あるいは流動浸漬により被覆する方法などがある。また必要とあらば金属にアンカーコートをした面に本発明の被覆層を設けることもできる。」(5頁左上欄6〜15行)

(4)北野甲5
(4ア)「特許請求の範囲
(1)エチレン含有量20〜50モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)40〜2重量%および熱可塑性ポリエステル(B)60〜98重量%からなる組成物(C)層の少なくとも片面に熱可塑性ポリエステル層を有し、かつ220℃オーブンレンジで30分間加熱した時の容器胴部(縦方向)の収縮率が10%以下である、耐熱性ポリエステル容器。」

(5)北野甲6
(5ア)「【請求項1】 (A)ポリエステル40〜90wt%,(B)変性ポリオレフィン5〜30wt%及び(C)ポリオレフィン5〜30wt%からなるポリエステル樹脂組成物。」

(6)北野甲7
(6ア)「特許請求の範囲
(1)熱成形、熱硬化薄肉製品であって、その組成が(A)30℃の容量比60/40のフエノール/テトラクロロエタン混合溶媒中で測定した固有粘度が約0.65〜約1.2であるポリエチレンテレフタレート99〜約85重量%、および(B)2〜6個の炭素原子を含有するオレフインモノマーより誘導された反復単位を有するポリオレフイン約1〜約15重量%よりなることを特徴とするポリエステル製品。」

(7)北野甲8
(7ア)「特許請求の範囲
1.固有粘度が0.80以上のポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル約99〜90重量%と、ポリオレフィン樹脂約1〜10重量%とが均一に分散されてなるシートであって、該ポリオレフィン樹脂の分散径が平均3μm以下であることを特徴とするポリエステルシート。」

(8)北野甲9
(8ア)「特許請求の範囲
ポリエチレンテレフタレート90〜99重量%、脂肪族ポリオレフイン0.5〜10重量%およびカルボキシル基を含有する変性脂肪族ポリオレフイン0.5〜5重量%からなるポリエステル樹脂組成物。」

(9)北野甲10
(9ア)「特許請求の範囲
(1)熱可塑性ポリエステルと熱可塑性ポリエステルに対し1/10〜4重量倍の変性エチレン重合体とを溶融混合することからなり、かつ該変性エチレン重合体がエチレン重合体またはエチレンと炭素数3以上のα-オレフインとの共重合体に対し、α、β-不飽和カルボン酸またはその酸誘導体を0.05〜3.0重量%グラフト重合させて得た結晶化度75%以下、メルトインデックス0.01〜50のものであることを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造法。」

(10)北野甲11
(10ア)「特許請求の範囲
(1)熱可塑性ポリエステルと熱可塑性ポリエステルに対し1/100重量倍以上1/10重量倍より少ない量の変性エチレン重合体とを溶融混合することからなり、かつ該変性エチレン重合体がエチレン重合体またはエチレンと炭素数3以上のα-オレフインとの共重合体に対しα、β-不飽和カルボン酸またはその酸誘導体を0.05〜3.0重量%グラフト重合させて得た結晶化度75%以下、メルトインデックス0.01〜50のものであることを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造法。」

(11)北野甲12
(11ア)「【請求項1】 ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコールを主成分とする共重合ポリエステルであって、(1)ジカルボン酸成分としてイソフタル酸が0.5〜3.0モル%、(2)ジオール成分としてジエチレングリコールが1.0〜2.5モル%、(3)極限粘度が0.60〜1.50dl/g、(4)末端カルボキシル基の濃度が18eq/ton以下、(5)環状3量体の含有量が0.40重量%以下、であることを特徴とする共重合ポリエステル。」

(12)北野甲13
(12ア)「特許請求の範囲
1)ポリエチレンテレフタレートと少くともジエチレングリコール2.5〜50モル%含む共重合ポリエステルとの組成物から構成され、構成成分の50〜90モル%がエチレンテレフタレートユニットからなり、且つ、組成物中の全ジエチレングリコール含有量が2.5〜20モル%からなるフイルムであり、100℃の熱風中での熱収縮率が該フイルムの所定の一方向において30%以上である熱収縮性ポリエステル系フイルム。」

(13)北野甲14
(13ア)「【請求項1】 ポリマーの融点が210〜245℃、ガラス転移温度が50℃以上である共重合ポリエステルからなり、フイルムのアセトアルデヒド含有量が20ppm以下であることを特徴とする金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフイルム。
【請求項2】 共重合ポリエステルの末端カルボキシル基濃度が35当量/106 g以上である請求項1記載の金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフイルム。」

5-4-2.本件発明1について

(1)北野甲2には、記載(1ア)によれば、「少なくとも2層構造からなり、その一方の面を金属にラミネートして用いられる、二軸方向に延伸されたポリエステル樹脂からなるフイルムであって、金属にラミネートされる面側の表面層(A)の融点(TmA )が170℃以上220℃以下であり、金属にラミネートされない面側の表面層(B)の融点(TmB )が220℃以上255℃以下である金属ラミネート用フイルムを、金属にラミネートしたもの」(以下、「北野甲2発明」という。)が記載されている。
そして、本件発明1は、北野甲2発明と対比すると、北野甲2発明の「表面層(A)」及び「表面層(B)」は、本件発明1の「(I)層」及び「(II)層」に対応し、本件発明1は、少なくとも、「(I)層と(II)層を押出ラミネートにより被覆してなる」点(以下、「相違点a」という。)で北野甲2発明と相違しているものと認められる。
そこで、相違点aについて検討すると、北野甲2発明において、金属にラミネートされる、表面層(A)及び表面層(B)を有する金属ラミネート用フイルムは、そもそも、二軸方向に延伸されたものであって、表面層(A)及び表面層(B)を押出ラミネートにより金属に被覆することは、到底、思い至らないと云うべきであるから、相違点aが容易に為し得るということはできない。このことは、北野甲3〜14を見ても同様であるが、特に、北野甲4について、以下に見ていくことにする。

1)北野甲4には、記載(3ア)によれば、「ジカルボン酸成分の75モル%以上がテレフタル酸であるポリエチレンテレフタレート系樹脂20〜70wt%、及びジカルボン酸成分の60モル%以上がテレフタル酸であるポリブチレンテレフタレート系樹脂0〜60wt%およびアイオノマー10〜30wt%からなる金属被覆用樹脂組成物」が記載され、更に、記載(3イ)によれば、上記金属被覆用樹脂組成物を金属に被覆する手段として、該組成物を溶融押出ラミネートすることが記載されていると認められる。
しかしながら、北野甲4には、上記金属被覆用樹脂組成物に限っても、上記溶融押出ラミネートすることが、該組成物を二軸方向に延伸したフィルムとした上で該フィルムを金属にラミネートする手段と、等価であるとの記載すら見あたらないのであるから、北野甲4に上記溶融押出ラミネートすることが記載されているからと云って、北野甲2発明において、表面層(A)及び表面層(B)を押出ラミネートにより金属に被覆することは、思い至らないと云うべきである。

(2)北野甲3には、記載(2ア)によれば、「200℃未満の表面温度に予熱された金属体上に熱可塑性ポリエステル(I)、更にその上層に熱可塑性ポリエステル(I)より30℃以上高い流動開始温度を有する熱可塑性ポリエステル(II)を押出被覆により積層してなる、熱可塑性ポリエステル多層被覆金属積層体」が記載され、更に、記載(2イ)によれば、「前記熱可塑性ポリエステル多層被覆金属積層体において、その熱可塑性ポリエステル(I)や熱可塑性ポリエステル(II)に、熱可塑性ポリエステル以外の重合体を添加したもの」(以下、「北野甲3発明」という。)が記載されていると認められる。また、北野甲3発明における流動開始温度とは、記載(2ウ)によれば、試料を加熱しうる装置を具備した光学顕微鏡により試料を観察しながら、約10mgの試料を昇温速度1℃/minで加熱し、該試料が流動を開始する温度のことである。
そして、本件発明1は、北野甲3発明と対比すると、北野甲3発明の「熱可塑性ポリエステル(I)の層」及び「熱可塑性ポリエステル(II)の層」は、本件発明1の「(I)層」及び「(II)層」に対応し、本件発明1は、少なくとも、「融点140〜245℃のエチレンテレフタレート及び/またはエチレンイソフタレートを主たる構成成分とするポリエステルAが配合されてなる(I)層と、融点220〜265℃のエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルBよりなる(II)層を被覆してなり、ポリエステル成分のカルボキシル末端基量が35当量/トン以下である」点(以下、「相違点b」という。)で北野甲3発明と相違しているものと認められる。
そこで、相違点bについて検討すると、北野甲2、4〜11、13には、ポリエステル成分のカルボキシル末端基量に関する技術的事項の記載はないから、これら甲号証は、相違点bが容易に為し得るとする根拠にはなり得ない。北野甲12及び14について、以下に見ていくことにする。

1)北野甲12には、記載(11ア)によれば、要すれば、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とする、末端カルボキシル基の濃度が18eq/ton以下、すなわち、18当量/トン以下の共重合ポリエステルが記載され、北野甲14には、記載(13ア)によれば、要すれば、末端カルボキシル基濃度が35当量/106 g、すなわち、35当量/トンの共重合ポリエステルが記載されていると認められるものの、これら共重合ポリエステルの流動開始温度についての記載はない。
してみると、北野甲12又は14に、上述した所定の末端カルボキシル基濃度を持つ、共重合ポリエステルが記載されているからといって、北野甲3発明における流動開始温度が特定された熱可塑性ポリエステル(I)や熱可塑性ポリエステル(II)に、これら共重合ポリエステルを採用することを容易に着想し得るものではなく、ましてや、熱可塑性ポリエステル(I)と熱可塑性ポリエステル(II)は、前者より後者の方が30℃以上高い流動開始温度を有すると特定されているものであって、このような要件を満たしたうえで、これら共重合ポリエステルを採用することは、到底、容易に為し得ないと云うべきである。
そして、以上、述べてきたことから明らかなように、相違点bの末端カルボキシル基濃度に関する事項にのみ注目しても、容易に為し得ないのであるが、仮に容易に為し得たとしても、(I)層のポリエステルAは融点が140〜245℃で、また、(II)層のポリエステルBは融点が220〜265℃であることをも兼ね備えた要件である相違点bが、北野甲12又は14に記載の発明から容易に為し得たとする理由はない。

(3)したがって、本件発明1は、北野甲2〜14に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることできたとは云えない。

5-4-3.本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を更に技術的に限定したものであるから、本件発明1が、先に「5-4-2」で述べたように、北野甲2〜14に記載された発明に基いて容易に発明をすることできたと云えない以上、これら発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることできたと云うことはできない。

5-4-4.まとめ
取消理由cに理由はない。

5-5.取消理由fについて

5-5-1.東洋紡甲2〜8の記載

(1)東洋紡甲2
(1A)「2.特許請求の範囲
(1)金属板に接着層を介してポリエステル2軸延伸フイルムを被覆せしめた容器用樹脂被覆金属板において、前記接着層が高融点ポリエステル〔融点Tm1、Tm1≧200℃〕5〜80wt%と低融点ポリエステル〔融点Tm2、(Tm1-5℃)≧Tm2≧100℃〕20〜95wt%とを含有するポリエステル接着層であることを特徴とする容器用樹脂被覆金属板。」
(1B)「接着層のポリエステル100部に対し、ポリオレフイン系樹脂を35部以下、好ましくは30部以下ブレンドすると、接着層の熱結晶化が抑制され、成形加工性(特に外面印刷被覆金属板の場合)が更に改良されるし、接着力がより強固になると云う利点がある。」(4頁右上欄4〜9行)
(1C)「本発明の被覆金属板の製法の代表例について次に述べる。
(1)予めポリエステルBOフイルム層と接着層とからなる複合フイルムを作っておき、これを金属板にラミネートする方法。
(2)ポリエステルBOフイルムと接着層フイルムを別個にそれぞれ作っておき、まず予熱された金属板に接着層フイルムをラミネートし、次いでBOフイルムをその上にラミネートして一体化する方法。
(3)接着層の組成物を金属板に押出ラミネートし、次いでBOフイルムをその上に積層する方法。」(5頁左下欄下から6行〜右下欄6行)

(2)東洋紡甲3
(2A)「2. 特許請求の範囲
(1)A.テレフタル酸75〜100モル%からなるポリエチレンテレフタレート系樹脂1〜40wt%、テレフタル酸60〜100モル%からなるポリブチレンテレフタレート系樹脂30〜85wt%、アイオノマー10〜30wt%とからなる層と、B. テレフタル酸90〜100モル%からなるポリエチレンテレフタレート系、あるいはポリブチレンテレフタレート系樹脂75〜100wt%、アイオノマー0〜25wt%とからなる層、とが積層されてなる複合樹脂層を箔状またはシート状の金属基質に被覆した素材よりなる金属容器。」
(2B)「金属基質に複合樹脂層を被覆する方法は、(1)予め複合フイルムを製膜しておいて、金属基質に加熱融着により直接ラミネートする方法、(2)金属基質に直接、複合フイルム層を押出ラミネートする方法、(3)樹脂を粉末化して静電塗装あるいは流動侵漬によって多層に被覆する方法などがある。また必要とあらば、金属基質にアンカーコートした面に複合樹脂層を設けることもできる。」(3頁左上欄下から8〜1行)
(2C)「A層、B層はいずれも接着性、防錆性を有するが、A層の方が、金属との接着性に優れている。またB層は成形加工性、バリヤ性、防錆性の点でA層より優れている。
また防錆性を特に配慮する場合にはB/A/B/A…………B/Aの多層複合フイルムの形で使用することもできる。従って本発明の被覆金属板は(B/A/金属)の構成のようにA層を金属面にしすることが好ましい。」(5頁右上欄6〜14行)
(2D)「A層に使用するポリブチレンテレフタレート系樹脂はジカルボン酸成分の6.0〜100モル%である。テレフタル酸の残部のジカルボン酸としてはイソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸などのジカルボン酸が0〜40モル%、特にイソフタル酸10〜35モル%のものが、フイルムの柔軟性、接着力と製膜性の点で好ましい。ジオール成分としては1,4-ブタンジオールを用いるが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,6-ヘキサンジオールなどの他のジオール成分をポリブチレンテレフタレート系樹脂の特性を損わない範囲内(好ましくは0〜20モル%)で共重合したものを使うこともできる。」(3頁左下欄下から7行〜右下欄9行)

(3)東洋紡甲4
(3A)「2.特許請求の範囲
(1)表面基材層とヒートシール層からなり、該ヒートシール層がテレフタル酸、イソフタル酸及びエチレングリコールを構成成分とする融点が205〜240℃の共重合ポリエステル60〜90重量部と、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体又はその金属イオン化物10〜40重量部からなる重合体組成物で構成されていることを特徴する多層包装材料。」

(4)東洋紡甲5
(4A)「【請求項1】 (A)ポリオレフィン5〜95重量%及び(B)ポリエステル及び、又はポリアミド95〜5重量%からなる樹脂組成物100重量部に対して、(C)カルボキシアルキルアクリレートモノマー及びアリルウレイドモノマーの少なくとも1種のモノマー0.1〜20重量部及び(D)有機過酸化物0.01〜10重量部からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」

(5)東洋紡甲6、7(決定注;北野甲12、14に同じ。)
先に「5-4-1」の「(11)」及び「(13)」を参照。

(6)東洋紡甲8
(6A)「BHTの重合触媒の種類と生成するPET中のカルボキシル末端基量、DEG含量の関係」と題された表3.11(154頁)

5-5-2.本件発明1について

(1)東洋紡甲2には、記載(1A)によれば、「金属板に接着層を介してポリエステル2軸延伸フイルムを被覆せしめた容器用樹脂被覆金属板において、前記接着層が高融点ポリエステル〔融点Tm1、Tm1≧200℃〕5〜80wt%と低融点ポリエステル〔融点Tm2、(Tm1-5℃)≧Tm2≧100℃〕20〜95wt%とを含有するポリエステル接着層である、容器用樹脂被覆金属板」が記載され、更に、記載(1B)によれば、「上記容器用樹脂被覆金属板において、ポリエステル接着層は、ポリエステル100部に対し、ポリオレフィン系樹脂を35部以下ブレンドしたもの」(以下、「東洋紡甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
そして、本件発明1は、東洋紡甲2発明と対比すると、東洋紡甲2発明の「ポリエステル接着層」及び「ポリエステル2軸延伸フイルム」は、本件発明1の「(I)層」及び「(II)層」に対応し、本件発明1は、少なくとも、「(II)層を押出ラミネートにより被覆してなる」点(以下、「相違点A」という。)で東洋紡甲2発明と相違しているものと認められる。
そこで、相違点Aについて検討すると、東洋紡甲2発明において、金属板を被覆するポリエステル2軸延伸フイルムは、文字どおり、2軸延伸されたものであって、これを押出ラミネートにより金属板へ被覆することは、到底、思い至らないと云うべきである。
なるほど、記載(1C)によれば、東洋紡甲2発明の製法代表例として、ポリエステル接着層を押出ラミネートにより金属板へ被覆することが記載されているものの、このことが、上記ポリエステル2軸延伸フイルムを押出ラミネートにより金属板へ被覆することが容易に為し得るとする理由にはならない。
したがって、相違点Aが容易に為し得ると云うことはできず、このことは、東洋紡甲3〜8を見ても同様である

(2)東洋紡甲3には、記載(2A)によれば、「テレフタル酸75〜100モル%からなるポリエチレンテレフタレート系樹脂1〜40wt%、テレフタル酸60〜100モル%からなるポリブチレンテレフタレート系樹脂30〜85wt%、アイオノマー10〜30wt%とからなるA層と、テレフタル酸90〜100モル%からなるポリエチレンテレフタレート系、あるいはポリブチレンテレフタレート系樹脂75〜100wt%、アイオノマー0〜25wt%とからなるB層、とが積層されてなる複合樹脂層を箔状またはシート状の金属基質に被覆した素材よりなる金属容器」が記載され、また、記載(2B)によれば、上記複合樹脂層を金属基質に押出ラミネートすること、更に、記載(2C)によれば、上記A層を金属基質面に接することが好ましいことが記載されているから、結局、「上記金属容器において、複合樹脂層を金属基質に押出ラミネートにより、A層が金属基質との接着面となるように被覆したもの」(以下、「東洋紡甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
そして、本件発明1は、東洋紡甲3発明と対比すると、東洋紡甲3発明の「A層」及び「B層」は、本件発明1の「(I)層」及び「(II)層」に対応し、同じく「A層におけるアイオノマー」は「オレフィン系ポリマ」に対応し、本件発明1は、少なくとも、「ポリエステル成分のカルボキシル末端基量が35当量/トン以下である」点(以下、「相違点B」という。)で東洋紡甲3発明と相違しているものと認められる。
そこで、相違点Bについて検討すると、東洋紡甲2、4、5には、ポリエステル成分のカルボキシル末端基量に関する技術的事項の記載はないから、これら甲号証は、相違点Bが容易に為し得るとする根拠となり得ない。東洋紡甲6〜8について、以下に見ていくことにする。

1)東洋紡甲3発明は、少なくとも、ここにおける複合樹脂層にはテレフタル酸60〜100モル%からなるポリブチレンテレフタレート系樹脂が含まれているものであり、記載(2D)によれば、該ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、ジオール成分として1,4-ブタンジオールを80〜100モル%用いられたものであることがうかがえると共にポリエステル成分を持つことは技術常識である。
一方、東洋紡甲6〜8には、記載(11ア)、(13ア)及び(6A)によれば、ポリエステル成分のカルボキシル末端基量に関する技術的事項が記載されているもの、いずれの甲号証にも、ジオール成分として1,4-ブタンジオールを80〜100モル%用いられたポリブチレンテレフタレート系樹脂につき、そのカルボキシル末端基量に関する技術的事項の記載はない。
してみると、これら甲号証は、相違点Bが容易に為し得るとする根拠にはなり得ない。

(3)したがって、本件発明1は、東洋紡甲第2〜8に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることできたとは云えない。

5-5-3.本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を更に技術的に限定したものであるから、本件発明1が、先に「5-5-2」で述べたように、東洋紡甲第2〜8に記載された発明に基いて容易に発明をすることできたと云えない以上、これら発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることできたと云うことはできない。

5-5-4.まとめ
取消理由fに理由はない。

6.通知された取消理由の妥当性について
通知された取消理由は、先に「3」でその概要を述べたとおりであるが、本件訂正が、先に「4」で述べたとおり、認められることから、結果的に、その妥当性は欠いたものとなっている。

7.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリマ多層被覆金属積層体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 融点140〜245℃のエチレンテレフタレート及び/またはエチレンイソフタレートを主たる構成成分とするポリエステルAとオレフィン系ポリマが重量比で60:40〜97:3の割合で配合されてなる(I)層と、融点220〜265℃のエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルBよりなる(II)層を押出ラミネートにより被覆してなるポリマ多層被覆金属積層体において、ポリエステル成分のカルボキシル末端基量が35当量/トン以下であり、(I)層が金属との接着面になるように押出ラミネートにより被覆してなることを特徴とするポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項2】 ポリエステル成分のジエチレングリコール成分量が0.01〜1.5重量%であることを特徴とする請求項1に記載のポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項3】 ポリエステル成分のアセトアルデヒド量が30ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリマ多層被覆金属積層体。
【請求項4】 ポリエステル成分の極限粘度[η]が0.7以上であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポリマ多層被覆金属積層体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はポリマ多層被覆金属積層体に関するものである。更に詳しくは成形性、耐衝撃性、味特性に優れ、成形加工によって製造される金属缶に好適なポリマ多層被覆金属積層体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属缶の缶内面及び外面は腐食防止を目的として、エポキシ系、フェノール系等の各種熱硬化性樹脂を溶剤に溶解または分散させたものを塗布し、金属表面を被覆することが広く行われてきた。しかしながら、このような熱硬化性樹脂の被覆方法は塗料の乾燥に長時間を要し、生産性が低下したり、多量の有機溶剤による環境汚染など好ましくない問題がある。
【0003】
これらの問題を解決する方法として、金属缶の材料である鋼板、アルミニウム板あるいは該金属板にめっき等各種の表面処理を施した金属板にポリマを押出ラミネートする方法がある。そして、ポリマラミネート金属板を絞り成形やしごき成形加工して金属缶を製造する場合、ポリマラミネート金属板には次のような特性が要求される。
【0004】
(1)成形性に優れ、成形後にピンホールなどの欠陥を生じないこと。
【0005】
(2)金属缶に対する衝撃によって、ポリマが金属板から剥離したり、クラック、ピンホールが発生したりしないこと。
【0006】
(3)缶の内容物の香り成分がポリマに吸着したり、ポリマからの溶出成分などの臭いによって内容物の風味がそこなわれないこと(以下味特性という)。
【0007】
これらの要求を解決するために多くの提案がなされており、例えば特開昭51-17988号公報には結晶化度20%以下のポリエチレンテレフタレート系重合体を押出ラミネートした金属体、特開昭51-148755号公報にはポリメチレンテレフタレート系重合体を200〜350℃に加熱した金属体上に押出ラミネートした金属体、特公平2-9935号公報には200℃未満に加熱された金属体上に多層のポリエステルを押出ラミネートした金属体等が開示されている。しかしながら、これらの提案は上述のような多岐にわたる要求特性を総合的に満足できるものではなく、特に耐衝撃性、味特性を両立する点に対しては十分に満足できるレベルにあるとは言えなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は上記した従来技術の問題点を解消することにあり、成形性、耐衝撃性、味特性に優れ、特に耐衝撃性、味特性の両立に優れ成形加工によって製造される金属缶に好適なポリマ多層被覆金属積層体を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、融点140〜245℃のエチレンテレフタレート及び/またはエチレンイソフタレートを主たる構成成分とするポリエステルAとオレフィン系ポリマが重量比で60:40〜97:3の割合で配合されてなる(I)層と、融点220〜265℃のエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルBよりなる(II)層を押出ラミネートにより被覆してなるポリマ多層被覆金属積層体において、ポリエステル成分のカルボキシル末端基量が35当量/トン以下であり、(I)層が金属との接着面になるように押出ラミネートにより被覆してなることを特徴とするポリマ多層被覆金属積層体によって達成することができる。
【0010】
本発明は、特定の融点を有するポリエステルを積層し、低融点のポリエステルに適量のオレフィン系ポリマを混合することにより、金属に押出ラミネート後、成形し製缶された際、製缶工程での熱処理、製缶後のレトルト処理などの多くの熱履歴を受けても良好な耐衝撃性が得られることを見いだしたものである。その効果は耐衝撃性、味特性の両立だけでなく耐衝撃性を飛躍的に向上できる点で従来技術に比べて非常に効果が大きいものである。
【0011】
本発明におけるエチレンテレフタレート及び/またはエチレンイソフタレートを主たる構成成分とするポリエステルとは、ポリエステル成分の50モル%以上がエチレンテレフタレート及び/またはエチレンイソフタレートであるポリエステルをいい、好ましくは60モル%以上がエチレンテレフタレート及び/またはエチレンイソフタレートであるポリエステルをいう。
【0012】
ここで、ポリエステルはジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリマであり、上記以外のジカルボン酸成分、例えばナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、p-オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸等の中から任意に選ばれるジカルボン酸成分を共重合してもよい。一方、グリコール成分としてはエチレングリコール以外の成分として、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族グリコール等を共重合してもよく、グリコール成分のうちブタンジオールは耐衝撃性向上の点から好ましい。なお、これらのジカルボン酸成分、グリコール成分は2種以上を併用してもよい。
【0013】
また、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、共重合ポリエステルにトリメリット酸、トリメシン酸、トリメチロ-ルプロパン等の多官能化合物を共重合してもよい。
【0014】
本発明で使用されるポリエステルAとしては、融点として140〜245℃であることが耐熱性、金属板との十分な接着性の点、さらにオレフィン系ポリマと混合する際にオレフィン系ポリマの分解を抑制する点で必要である。好ましくは、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート、ブタンジオール/イソフタル酸共重合ポリエチレンテレタレートなどの共重合ポリエステル、及び該ポリエステルにジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのポリオキシエチレングリコールを共重合したポリエステルなどが挙げられる。
【0015】
ポリエステルAと混合されるオレフィン系ポリマは、特に限定されないが、低密度、中密度、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、アイオノマー、エチレン-ビニルアルコール共重合体などのオレフィン-ビニルアルコール共重合体、非晶ポリオレフィンなどが挙げられる。特にエチレン-ビニルアルコール共重合体、非晶ポリオレフィンはレトルト処理後の耐衝撃性に優れるので好ましい。
【0016】
ここで、オレフィン-ビニルアルコール共重合体とは、一般にオレフィンと酢酸ビニル等のビニルエステルとの共重合体をケン化して得られる共重合体であり、特にオレフィン含有量が10〜60モル%、特に20〜50モル%のオレフィン-ビニルアルコール共重合体が耐衝撃性を大きく向上させる上で好適である。また、ケン化度が90%以上のものが熱安定性の点で好ましい。
【0017】
ここで、非晶ポリオレフィンとは、一般には熱測定で結晶融点が観測されにくいものであり、本発明でいう非晶ポリオレフィンの代表的なものとしてはジシクロペンタジエンの水素化物、ジシクロペンタジエンとエチレンとの共重合体の水素化物、ジシクロペンタジエンの反応生成物とエチレンとの共重合体の水素化物およびノルボルネン系重合体から選ばれた1種以上のものをいう。
【0018】
オレフィン系ポリマは、ポリエステルAとの溶融押出性の点で210℃、2160g荷重でのメルトインデックスが0.1〜50g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜30g/10分、特に好ましくは1〜20g/10分である。
【0019】
また、ポリエステルAとオレフィン系ポリマの混合層に公知の相溶化剤を添加し相溶性を改善すると耐衝撃性が改善されるので好ましい。
【0020】
本発明において、耐衝撃性、味特性を良好に両立する点でポリエステルAとオレフィン系ポリマが重量比で60:40〜97:3の割合で配合されてなる(I)層を有することが必要である。さらに好ましくはポリエステルAとオレフィン系ポリマが重量比で70:30〜95:5、より好ましくはポリエステルAとオレフィン系ポリマが重量比で75:25〜92:8である。このようにポリエステルAに柔軟性、粘弾性に優れると考えられるオレフィン系ポリマを含有させることにより耐衝撃性が大きく向上する。
【0021】
一方、製缶工程での耐傷性、缶内容物の香料成分の非吸着性を考慮すると前記フィルムに加えて、融点が220〜265℃のエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルBよりなる(II)層を積層することが好ましい。融点が220℃未満であると缶の耐熱性が不十分であり好ましくない。ここで、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルとは70モル%以上、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエステルをいう。
【0022】
さらに、ポリエステルAとポリエステルBの融点差が好ましくは35℃以下、さらに好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下であると製缶工程で受ける熱履歴時に(I)層と(II)層の熱伸縮挙動差が小さくなり、加工性が向上するので好ましい。
【0023】
本発明において(I)層を形成するポリマの熱安定性、味特性の点でポリエステル成分のカルボキシル末端基量が35当量/トン以下であることが好ましい。より好ましくはカルボキシル末端基量が30当量/トン以下である。具体的には、固相重合、カルボジイミド、オキサゾリンなどの公知の末端封鎖剤などによりカルボキシル末端基量を所定量まで低減させる方法は好ましく行うことができる。
【0024】
一方、表面処理などにより(I)層の表層部においてカルボキシル末端基量を多くすることは接着性を向上させる上で好ましい。
【0025】
本発明におけるポリエステルは、好ましくはジエチレングリコール成分量が0.01〜1.5重量%、さらに好ましくは0.01〜1.0重量%、より好ましくは0.01〜0.6重量%であることが製缶工程での熱処理、製缶後のレトルト処理などの多くの熱履歴を受けても良好な耐衝撃性を維持する上で望ましい。このことは、200℃以上での耐酸化分解性が向上するものと考えられ、さらに公知の酸化防止剤を0.0001〜1重量%添加してもよい。
【0026】
ジエチレングリコール成分を0.01未満とすることは重合工程が煩雑となり、コストの面で好ましくなく、1.5重量%を超えると製缶工程での熱履歴によりポリエステルの劣化が生じフィルムの耐衝撃性を大きく悪化し好ましくない。ジエチレングリコールは一般にポリエステル製造の際に副生するが、その量を減少させるには、重合時間を短縮したり、重合触媒として使用されるアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物などの量を限定する方法、液相重合と固相重合を組み合わせる方法、アルカリ金属成分を含有させる方法などが挙げられるが方法としては特に限定されない。
【0027】
また、味特性を良好にする上で、ポリエステル中のアセトアルデヒドの含有量を好ましくは30ppm以下、さらに好ましくは25ppm以下、より好ましくは20ppm以下が望ましい。アセトアルデヒドの含有量が30ppmを超えると味特性に劣る。ポリエステル中のアセトアルデヒドの含有量を30pm以下とする方法は特に限定されるものではないが、例えばポリエステルを重縮反応等で製造する際の熱分解によって生じるアセトアルデヒドを除去するため、ポリエステルを減圧下あるいは不活性ガス雰囲気下において、ポリエステルの融点以下の温度で熱処理する方法、好ましくはポリエステルを減圧下あるいは不活性ガス雰囲気下において150℃以上、融点以下の温度で固相重合する方法、ベント式押出機を使用して溶融押出する方法、ポリエステルを溶融押出する際に押出温度を融点+30℃以内、好ましくは融点+25℃以内で、短時間で押出す方法等を挙げることができる。
【0028】
また、本発明において特に耐衝撃性、味特性を良好にするためには、好ましくはポリエステルの極限粘度[η]が0.7以上、さらに好ましくは極限粘度[η]が0.75以上であると、ポリマ分子鎖の絡み合い密度が高まるためと考えられるが耐衝撃性、味特性をさらに向上させることができるので好ましい。
【0029】
本発明のポリマ多層被覆金属積層体が飲料、食缶用途に使用される場合、ポリエステルは、味特性の点でゲルマニウム元素を1〜500ppm含有することが好ましく、さらに好ましくは5〜300ppm、より好ましくは10〜100ppmである。ゲルマニウム元素量が1ppm未満であると味特性向上の効果が十分でなく、また500ppmを超えると、ポリエステル中に異物が発生し耐衝撃性が悪化したり、味特性を悪化してしまう。本発明のポリエステルは、ポリエステル中にゲルマニウム元素の前記特定量を含有させることにより味特性をさらに向上させることができる。ゲルマニウム元素をポリエステルに含有させる方法は従来公知の任意の方法を採用することができ特に限定されないが、通常ポリエステルの製造が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてゲルマニウム化合物を添加することが好ましい。このような方法としては例えば、ゲルマニウム化合物の粉体をそのまま添加する方法や、あるいは特公昭54-22234号公報に記載されているように、ポリエステルの出発原料であるグリコ-ル成分中にゲルマニウム化合物を溶解させて添加する方法等を挙げることができる。ゲルマニウム化合物としては、例えば二酸化ゲルマニウム、結晶水含有水酸化ゲルマニウム、あるいはゲルマニウムテトラメトキシド、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラブトキシド、ゲルマニウムエチレングリコキシド等のゲルマニウムアルコキシド化合物、ゲルマニウムフェノレート、ゲルマニウムβ-ナフトレート等のゲルマニウムフェノキシド化合物、リン酸ゲルマニウム、亜リン酸ゲルマニウム等のリン含有ゲルマニウム化合物、酢酸ゲルマニウム等を挙げることができる。中でも二酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0030】
また、本発明のポリエステルは味特性の点からポリエステル中のオリゴマの含有量を0.8重量%以下とすることが好ましく、さらには0.7重量%以下、特には0.6重量%以下とすることが好ましい。共重合ポリエステル中のオリゴマの含有量が0.8重量%を超えると味特性に劣り好ましくない。ポリエステル中のオリゴマの含有量を0.8重量%以下とする方法は特に限定されるものではないが、上述の共重合ポリエステル中のアセトアルデヒド含有量を減少させる方法と同様の方法等を採用することで達成できる。
【0031】
本発明のポリエステルの製造は、従来公知の任意の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えばポリエチレンテレフタレートにイソフタル酸成分を共重合し、ゲルマニウム化合物として二酸化ゲルマニウムを添加する場合で説明する。テレフタル酸成分、イソフタル酸成分とエチレングリコールをエステル交換またはエステル化反応せしめ、次いで二酸化ゲルマニウム、リン化合物を添加し、引き続き高温、減圧下で一定のジエチレングリコール含有量になるまで重縮合反応せしめ、ゲルマニウム元素含有重合体を得る。次いで得られた重合体をその融点以下の温度において減圧下または不活性ガス雰囲気下で固相重合反応せしめ、アセトアデルヒドの含有量を減少させ、所定の極限粘度[η]、カルボキシル末端基を得る方法等を挙げることができる。
【0032】
本発明のポリエステルを製造する際には、従来公知の反応触媒、着色防止剤を使用することができ、反応触媒としては例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物等、着色防止剤としては例えばリン化合物等挙げることができる。
【0033】
本発明において、ポリエステルA、ポリエステルBは、触媒、ジエチレングリコール量、カルボキシル末端基量は異なっていてもよい。ポリマを回収する場合は、(I)層に回収することが味特性の点で好ましい。
【0034】
本発明の被覆ポリマの厚さは、金属にラミネートした後の成形性、金属に対する皮膜性、耐衝撃性、味特性の点で、5〜50μmであることが好ましく、さらに好ましくは8〜45μm、より好ましくは10〜40μmである。
【0035】
さらに積層ポリマとしては、(I)層の厚みと(II)層の厚みの比として20:1〜1:1(I:II)であることが味特性、耐衝撃性の点で好ましく、特に15:1〜4:1(I:II)であることが耐衝撃性の点で好ましい。
【0036】
また、本発明のポリマには加工性を向上させるために、平均粒子径0.1〜10μmの無機粒子および/または有機粒子が0.01〜10重量%含有させてもよいし、無粒子でもよい。但し、10μmを超える平均粒子径を有する粒子を使用するとポリマ層の欠陥が生じ易くなるので好ましくない。特に30μm以上の粒子を含有させると好ましくないために、押出時のフィルターとしては30μm以上の異物を激減できるものを使用することが好ましい。無機粒子および/または有機粒子としては、例えば湿式および乾式シリカ、コロイド状シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、マイカ、カオリン、クレー等の無機粒子およびスチレン、シリコーン、アクリル酸、ジビニルベンゼン類等を構成成分とする有機粒子等を挙げることができる。なかでも湿式および乾式コロイド状シリカ、アルミナ等の無機粒子およびスチレン、シリコーン、アクリル酸、メタクリル酸、ポリエステル、ジビニルベンゼン等を構成成分とする有機粒子等を挙げることができる。これらの無機粒子および/または有機粒子は二種以上を併用してもよい。
【0037】
粒子は(I)層、(II)層のいずれに添加しても良いが、加工性向上のためには(II)層に粒子を添加することが好ましい。一方、(I)層にも回収などの点で特性を損ねない範囲で粒子を添加しても良い。
【0038】
さらに、本発明の被覆ポリマを製造するにあたり、必要により可塑剤、帯電防止剤、耐候剤等の添加剤も適宜使用することができる。
【0039】
また、(I)層にコロナ放電処理などの表面処理を施すことにより接着性を向上させることはさらに特性を向上させる上で好ましい。その際、E値としては5〜40が好ましく、さらに好ましくは10〜25である。
【0040】
本発明の金属体へのポリマ多層被覆方法としては溶融押出ラミネートであれば特に限定されないが、本発明の製造方法例について述べる。
【0041】
ポリエステルAとしてイソフタル酸17.5モル%共重合ポリエチレンテレフタレート([η]=0.84、ジエチレングリコール0.7重量%、融点215℃、カルボキシル末端基:15当量/トン)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量29モル%、融点183℃、MFI:8g/10分(210℃、2160g))を重量比で95:5、ポリエステルBとしてイソフタル酸5モル%共重合ポリエチレンテレフタレート([η]=0.90、ジエチレングリコール0.89重量%、融点240℃、カルボキシル末端基:14当量/トン)を二軸ベント式の別々の押出機(押出機の温度は融点+25℃((I)層側はポリエステルに対して融点+30℃)に設定)に供給し溶融し、しかる後にフィードブロック(275℃設定)にて2層に積層して口金から吐出後、(I)層が金属面になるように0.3mm程度の厚みの金属板に厚さ30μmのポリマラミネートを行う。その後直ちに水などにより常温付近まで冷却固化してポリマ多層被覆積層金属体を得る。また、ラミネート工程に防塵処理を施すとポリマの欠陥が生じ難くなるので好ましい。
【0042】
本発明の金属体とは特に限定されないが、成形性の点で鉄やアルミニウムなどを素材とする金属板が好ましい。さらに、鉄を素材とする金属板の場合、その表面に接着性や耐腐食性を改良する無機酸化物被膜層、例えばクロム酸処理、リン酸処理、クロム酸/リン酸処理、電解クロム酸処理、クロメート処理、クロムクロメート処理などで代表される化成処理被覆層を設けてもよい。特に金属クロム換算値でクロムとして6.5〜150mg/m2のクロム水和酸化物が好ましく、さらに、展延性金属メッキ層、例えばニッケル、スズ、亜鉛、アルミニウム、砲金、真鍮などを設けてもよい。スズメッキの場合0.5〜15g/m2、ニッケルまたはアルミニウムの場合1.8〜20g/m2のメッキ量を有するものが好ましい。
【0043】
本発明のポリマ多層被覆積層金属体は、絞り成形やしごき成形によって製造されるツーピース金属缶の内面及び外面被覆用に好適に使用することができる。また、ツーピース缶の蓋部分、あるいはスリーピース缶の胴、蓋、底の被覆用としても良好な金属接着性、成形性、耐衝撃性を有するため好ましく使用することができる。特に、外面被覆用には着色した本発明ポリマを使用することができる。このため、ポリエステル層に着色剤を配合することができ、着色剤としては白色系、赤色系などが好ましく使用され、酸化チタン、亜鉛華、無機または有機顔料などから選ばれた着色剤を5〜60重量%、好ましくは15〜50重量%添加することが望ましい。添加量が5重量%未満であると色調、白色性などの点で劣り好ましくない。必要に応じて、ピンキング剤、ブルーイング剤などを併用してもよい。
【0044】
【特性の測定法、評価法】
なお特性は以下の方法により測定、評価した。
【0045】
(1)ポリエステル中のジエチレングリコール成分の含有量
NMR(13C-NMRスペクトル)によって測定した。
【0046】
(2)ポリエステル中のゲルマニウム元素の含有量
蛍光X線測定によりポリエステル組成物中のゲルマニウム元素の含有量とピーク強度の検量線から定量した。
【0047】
(3)ポリエステルの極限粘度
ポリエステルをオルソクロロフェノールに溶解し、25℃において測定した。なお、不溶ポリマは濾過して取り除いて測定した。
【0048】
(4)ポリエステルの融点
ポリエステルを結晶化させ、示差走査熱量計(パーキン・エルマー社製DSC-2型)により、10℃/minの昇温速度で測定した。
【0049】
(5)ポリエステル中のアセトアルデヒド含有量
ポリマの微粉末を2g採取しイオン交換水と共に耐圧容器に仕込み、120℃で60分間水抽出後、高感度ガスクロで定量しポリエステル中のアセトアルデヒド量を求めた。
【0050】
(6)ポリエステル中のオリゴマ含有量
ポリマ100mgをオルソクロロフェノール1mlに溶解し、溶液を分別した後液体クロマトグラフ(Varian社製モデル8500)で環状三量体を測定し、オリゴマ量とした。
【0051】
(7)耐衝撃性
100〜350℃に加熱されたSnメッキしたブリキ金属板をポリマで被覆した後、しごき成形機(成形比(最大厚み/最小厚み)=3.0)で成形し、底成形等を行いDraw Iron ing缶を得た。
【0052】
(炭酸飲料での耐衝撃性)
製缶後、220℃、10分の熱処理を行い、炭酸水を充填し0℃、48時間炭酸バブリングした。そして、缶底外面からポンチで各5箇所衝撃を与えた後内容物を除いて缶側内面をろうでマスキングし、カップ内に1%の食塩水を入れて、食塩水中の電極と金属缶に6vの電圧をかけて電流値を読み取った。
【0053】
A級:0.1mA未満
B級:0.1mA以上0.2mA未満
C級:0.2mA以上0.5mA未満
D級:0.5mA以上
【0054】
(レトルト飲料での耐衝撃性)
製缶後、220℃10分の条件で空焼きを行い、空焼き後、20℃×30分のレトルト処理をし、市販のウーロン茶を充填し、30℃、24時間放置し、缶底外面からポンチで各5箇所衝撃を与えた後、内容物を除き缶側内面をろうでマスキングしてカップ内に1%食塩水を入れて、食塩水中の電極と金属缶に6Vの電圧をかけて電流値を読み取った。
【0055】
A級:0.1mA未満
B級:0.1mA以上0.2mA未満
C級:0.2mA以上0.5mA以下
D級:0.5mA以上
【0056】
(9)味特性
ポリマ(II)層側のみ香料水溶液(d-リモネン30ppm水溶液)に接するようにして(接触面積:314cm2)常温7日間放置した後、80℃で30分間窒素気流中で加熱し追い出される成分を、ガスクロマトグラフィーによりフイルム1gあたりのd-リモネンの吸着量を定量し味特性を評価した。
【0057】
また、成形した金属缶に香料水溶液(d-リモネン20ppm水溶液)を入れ、密封後1ヶ月放置し、その後開封して官能検査によって、臭気の変化を以下の基準で評価した。
【0058】
A級:臭気に変化が見られない
B級:臭気にほとんど変化が見られない
C級:臭気に変化が見られる
【0059】
【実施例】
以下実施例によって本発明を詳細に説明する。
【0060】
実施例1
ポリエステルAとしてイソフタル酸17.5モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(ゲルマニウム元素量40ppm、[η]=0.84、ジエチレングリコール0.70重量%、融点215℃、カルボキシル末端基:15当量/トン)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量29モル%、融点183℃、MFI:8g/10分(210℃、2160g))を重量比で92:8、ポリエステルBとしてイソフタル酸5モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(ゲルマニウム元素量40ppm、[η]=0.90、ジエチレングリコール0.89重量%、融点240℃、カルボキシル末端基:14当量/トン、平均粒子径4μmの酸化珪素粒子0.2重量%)を二軸ベント式の別々の押出機(押出機の温度は融点+25℃((I)層側はポリエステルAに対して融点+25℃)に設定)に供給し溶融し、しかる後にフィードブロックにて2層((I)層/(II)層=9/1、設定温度270℃)に積層して通常の口金から吐出後、(I)層が接着面になるように約200℃に通電加熱された厚さ0.3mmの鋼板(Sn付着量が缶外面側2.8g/m2、缶内面側100mg/m2にクロメート処理を行ったブリキ鋼板)に押出ラミネートを行い(その際のニップ圧としては約80kg/cm、ラミネート速度50m/分)、直ちに水槽にて急冷した。かくして得られた2層積層被覆ポリマは、ポリエステル成分を溶剤に溶かし極限粘度を求めたところ0.78、オリゴマ含有量0.5重量%、アセトアルデヒド量18ppm、カルボキシル末端基22当量/トンであった。物性、及び金属板にラミネートし製缶した結果を表1に示す。表からわかるように、オレフィン-ビニルアルコール共重合体を適量含有する本発明のポリマ多層被覆金属積層体は特に耐衝撃性、味特性の両者に優れていた。
【0061】
実施例2〜実施例12
ポリオレフィンの量、種類、積層比、ポリエステルの種類、金属板の種類などを変更し実施例1と同様にして金属板に押出ラミネートした。結果を表1〜表4に示とた。
【0062】
実施例2は、ポリエステルAとオレフィン-ビニルアルコール共重合体の量を重量比で80:20とし、オレフィン-ビニルアルコール共重合体をエチレン含有量44モル%、融点164℃、MFI:12g/10分(210℃、2160g)、ポリエステルBをポリエチレンテレフタレート(ゲルマニウム元素量40ppm、[η]=0.90、ジエチレングリコール0.89重量%、融点250℃、カルボキシル末端基:16当量/トン)とし、ラミネート速度を80m/分とした以外は実施例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。表1に示すとおり特に良好な特性が得られた。
【0063】
実施例3は、ポリエステルAをイソフタル酸12モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(ゲルマニウム元素量42ppm、[η]=0.85、ジエチレングリコール0.70重量%、融点227℃、カルボキシル末端基:14当量/トン)、ポリオレフィンを三井石油化学(株)製“アペル”6509(ノルボルネン系非晶ポリオレフィン、熱変形温度70℃[ASTM D-648、18.6kg/cm2])とし重量比で85:15、積層比、ポリエステルBの粒子処方を変更し、実施例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。表1に示すとおり特に良好な特性が得られた。
【0064】
実施例4は、ポリエステルAをイソフタル酸10モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(ゲルマニウム元素量50ppm、[η]=0.72、ジエチレングリコール0.80重量%、融点235℃、カルボキシル末端基:20当量/トン)、ポリオレフィンを三井石油化学(株)製“アペル”6015(ノルボルネン系非晶ポリオレフィン、熱変形温度125℃[ASTM D-648、18.6kg/cm2])とし重量比で90:10、ポリエステルBの粒子処方を変更し、実施例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。表2に示すとおり良好な特性を得た。
【0065】
実施例5は、ポリエステルAのジエチレングリコール量を2.0重量%とした以外は実施例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。表2に示すとおり良好な特性を得た。
【0066】
実施例6は、ポリオレフィンを低密度ポリエチレン(密度0.918g/cm3、融点108℃、MFI:3g/10分(210℃、2160g))とした以外は実施例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。表2に示すとおり良好な特性を得た。
【0067】
実施例7は、ポリオレフィンをエチレン-ビニルアセテート(5%)コポリマー(密度0.926g/cm3、融点102℃、MFI:1g/10分(210℃、2160g))とし重量比を95:5、ポリエステルB、粒子処方を変更した以外は実施例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。表3に示すとおり良好な特性を得た。
【0068】
実施例8は、ポリエステルAをイソフタル酸14モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(アンチモン元素量200ppm、[η]=0.86、ジエチレングリコール0.50重量%、融点223℃、カルボキシル末端基:11当量/トン)、ポリオレフィンをアイオノマー(エチレン-メタクリル酸共重合体Znタイプ:融点99℃、MFI:5g/10分(210℃、2160g))とし重量比90:10とした以外は実施例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。表3に示すとおり良好な特性を得た。
【0069】
比較例4は、溶液重合のみを実施した[η]=0.67のポリエステルA、溶液重合のみを実施した[η]=0.68のポリエステルBとして、単軸押出機で280℃で押出した以外は実施例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。得られた被覆ポリマはアセトアルデヒド量が多く、極限粘度も小さいために表3に示すとおり耐衝撃性、味特性がやや低下した。
【0070】
実施例10は、積層比を1:2((I)層:(II)層)とした以外は実施例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。表4に示すように(II)層の積層比が大きいため耐衝撃性がやや低下したが良好な特性であった。
【0071】
実施例11は、鋼板の種類をアルミニウムとし通電加熱を150℃、(I)層にチバガイギ製“イルガノックス”1010を0.05重量%添加した以外は実施例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。表4に示すように良好な特性が得られた。
【0072】
実施例12は、下記のポリマ1を厚さ0.2mmのTFS鋼板の片面(成形時に缶内面側)に積層押出ラミし急冷後、再度200℃に通電加熱し、下記のポリマ2の白色ポリマを該鋼板の片面(成形時に缶外面側)に押出ラミし急冷した。さらに成形比1.2のDTR(Draw Thin Redraw)成形を行った。その後、缶の耐衝撃性、味特性を調べたところ表4に示すように良好な特性を得ることができ、缶外面の白色性も良好であった。
【0073】
(ポリマ1)
ラミネート面(27μm):イソフタル酸12モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(ゲルマニウム元素量42ppm、[η]=0.75、ジエチレングリコール0.80重量%、融点228℃、カルボキシル末端基:25当量/トン)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量29モル%)を重量比で92:8
非ラミネート面(3μm):イソフタル酸5モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(ゲルマニウム元素量40ppm、[η]=0.74、ジエチレングリコール0.89重量%、融点240℃、カルボキシル末端基:16当量/トン)
【0074】
(ポリマ2)
ラミネート面(5μm):イソフタル酸12モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(ゲルマニウム元素量42ppm、[η]=0.75、ジエチレングリコール0.80重量%、融点228℃、カルボキシル末端基:25当量/トン)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量29モル%)を重量比で92:8
非ラミネート面(25μm):イソフタル酸5モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(ゲルマニウム元素量40ppm、[η]=0.74、ジエチレングリコール0.89重量%、融点240℃、カルボキシル末端基:16当量/トン)と二酸化チタン(平均粒子径0.3μm)70重量%含有ポリブチレンテレフタレート(〔η〕=0.75、融点221℃)を重量比で1:2
【0075】
比較例1
(I)層としてイソフタル酸17.5モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(ゲルマニウム元素量50ppm、[η]=0.65、ジエチレングリコール2.0重量%、融点211℃、アセトアルデヒド量37ppm、カルボキシル末端基41当量/トン)、(II)層としてイソフタル酸5モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(ゲルマニウム元素量42ppm、[η]=0.64、ジエチレングリコール1.20重量%、融点239℃、カルボキシル末端基39当量/トン、平均粒子径4μmの酸化珪素粒子0.1重量%)を、押出温度を280℃として、実施例1と同様の方法にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。表5に結果を示した。
【0076】
このポリマ多層被覆金属積層体は、ポリオレフィンを含有しておらず、アセトアルデヒド量が多いため特性が悪化した。
【0077】
比較例2
実施例1のポリオレフィン量を1重量%、ジエチレングリコール量を2.5重量%、[η]=0.64とした以外は実施例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。表5に結果を示した。
【0078】
表からわかるように、ポリオレフィン含有量が不十分であり、耐衝撃性、味特性が低下してしまった。
【0079】
比較例3
ポリエステルAとポリオレフィンとして低密度ポリエチレン(密度0.918g/cm3、融点108℃、MFI:3g/10分(210℃、2160g))を重量比40:60とした以外は比較例1と同様にしてポリマ多層被覆金属積層体を得た。表5に結果を示した。
【0080】
表からわかるように、ポリオレフィンの量が本発明外であり、味特性が大きく低下してしまった。
【0081】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【0082】
【発明の効果】
本発明のポリマ多層被覆金属積層体金属板は缶などに成形した際、耐衝撃性、味特性に優れており、特に空焼き、レトルトなどの熱処理後も優れた耐衝撃性を有しており、成形加工によって製造される金属缶に好適に使用することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-04-19 
出願番号 特願平6-67284
審決分類 P 1 651・ 534- YA (B32B)
P 1 651・ 121- YA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小石 真弓  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 澤村 茂実
石井 克彦
登録日 2002-03-08 
登録番号 特許第3284741号(P3284741)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 ポリマ多層被覆金属積層体  
代理人 高島 一  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 幸 芳  
代理人 栗原 弘幸  
代理人 谷口 操  
代理人 山本 健二  

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