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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1121141
異議申立番号 異議2003-71666  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-03-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-03 
確定日 2005-05-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3362113号「耐蝕性部材、ウエハー設置部材および耐蝕性部材の製造方法」の請求項1ないし13に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3362113号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3362113号の請求項1〜13に係る発明は、平成9年11月12日に特許出願(優先日:平成9年7月15日,日本)され、平成14年10月18日にその特許権の設定登録がなされ、その後、田中矗人(以下、異議申立人Aという。)、京セラ株式会社(以下、異議申立人Bという。)より特許異議の申立がなされ、平成16年7月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年9月28日付けで訂正請求がなされた後(後日取下げ)、再度、平成17年1月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年4月4日に訂正請求がなされたものである。

II.平成17年4月4日付けの訂正請求書による訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
請求項1中の「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対する耐蝕性部材」を、「600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材」と訂正する。
(2)訂正事項b
請求項1中の「前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、アルミナ、炭化ホウ素、酸化珪素および窒化アルミニウム質セラミックスからなり」を、「前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり」と訂正する。
(3)訂正事項c
請求項1中の「前記耐蝕層が、希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており」を、「前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており」と訂正する。
(4)訂正事項d
請求項1中の「前記耐蝕層において、アルミニウム、希土類元素およびアルカリ土類元素の元素数の総和に対する希土類元素およびアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である」を「前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である」と訂正する。
(5)訂正事項e
請求項4中の「希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上」を「アルカリ土類元素から選ばれた一種以上」と訂正する。
(6)訂正事項f
請求項6中の「希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上」を「アルカリ土類元素から選ばれた一種以上」と訂正する。
(7)訂正事項g
請求項7の「請求項1記載の耐蝕性部材を製造する方法であって、前記本体と、この本体の表面に形成されている表面層とを備えている基材を準備し、前記表面層が、希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上の元素の化合物からなり、この基材をフッ素含有ガスのプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。」という記載を、「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、前記本体と、この本体の表面に形成されている表面層とを備えている基材を準備し、前記表面層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素の化合物からなり、この基材をフッ素含有ガスのプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。」と訂正する。
(8)訂正事項h
請求項10の「請求項1記載の耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム100重量部と、希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上の元素を100ppm以上、60重量部以下とを含有する粉末を焼成することによって、緻密質の窒化アルミニウム質セラミックス製の焼結体を作製し、次いでこの焼結体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。」という記載を、「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム100重量部と、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素を100ppm以上、60重量部以下とを含有する粉末を焼成することによって、緻密質の窒化アルミニウム質セラミックス製の焼結体を作製し、次いでこの焼結体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。」と訂正する。
(9)訂正事項i
請求項11の「請求項1記載の耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム質粒子と、前記窒化アルミニウム質粒子の粒界に存在する粒界相とを備えている窒化アルミニウム質セラミックスであって、前記粒界相中に、希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上の元素が含有されている窒化アルミニウム質セラミックスからなる本体を準備し、次いでこの本体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。」という記載を、「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム質粒子と、前記窒化アルミニウム質粒子の粒界に存在する粒界相とを備えている窒化アルミニウム質セラミックスであって、前記粒界相中に、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素が含有されている窒化アルミニウム質セラミックスからなる本体を準備し、次いでこの本体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。」と訂正する。
(10)訂正事項j
請求項12中の「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに暴露されるウエハー設置部材」を、「600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露されるウエハー設置部材」と訂正する。
(11)訂正事項k
請求項12中の「前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、アルミナ、炭化ホウ素、酸化珪素および窒化アルミニウム質セラミックスからなり」を、「前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり」と訂正する。
(12)訂正事項l
請求項12中の「前記耐蝕層が、希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており」を、「前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており」と訂正する。
(13)訂正事項m
請求項12中の「前記耐蝕層において、アルミニウム、希土類元素およびアルカリ土類元素の元素数の総和に対する希土類元素およびアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である」を「前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である」と訂正する。
(14)訂正事項n
請求項13の「前記本体が、60W/m・K以上の熱伝導率を有する窒化アルミニウム質セラミックスからなることを特徴とする、請求項12記載のウエハー設置部材。」を「600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露されるウエハー設置部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であるウエハー設置部材において、前記本体が、60W/m・K以上の熱伝導率を有する窒化アルミニウム質セラミックスからなることを特徴とする、ウエハー設置部材。」と訂正する。
(15)訂正事項o
請求項8を削除する。
(16)訂正事項p
訂正事項oに伴い、請求項9〜13の項番をそれぞれ、8〜12に繰り上げる。
(17)訂正事項q
【0008】,【0009】の「【課題を解決するための手段】本発明は、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対する耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、アルミナ、炭化ホウ素、酸化珪素および窒化アルミニウム質セラミックスからなり、前記耐蝕層が、希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウム、希土類元素およびアルカリ土類元素の元素数の総和に対する希土類元素およびアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であることを特徴とする、耐蝕性部材に係るものである。【0009】また、本発明は、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに暴露されるウエハー設置部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、アルミナ、炭化ホウ素、酸化珪素および窒化アルミニウム質セラミックスからなり、前記耐蝕層が、希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウム、希土類元素およびアルカリ土類元素の元素数の総和に対する希土類元素およびアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であることを特徴とする、ウエハー設置部材に係るものである。」を「【課題を解決するための手段】本発明は、600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であることを特徴とする、耐蝕性部材に係るものである。【0009】また、本発明は、600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露されるウエハー設置部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であることを特徴とする、ウエハー設置部材に係るものである。」と訂正する。
(18)訂正事項r
【0015】,【0016】の「従って本発明による耐蝕性部材の製造方法は、請求項1記載の耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム100重量部と、希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上の元素を100ppm以上、60重量部以下とを含有する粉末を焼成することによって、緻密質の窒化アルミニウム質セラミックス製の焼結体を作製し、次いでこの焼結体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする。【0016】また、本発明による耐蝕性部材の製造方法は、請求項1記載の耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム質粒子と、前記窒化アルミニウム質粒子の粒界に存在する粒界相とを備えている窒化アルミニウム質セラミックスであって、前記粒界相中に、希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上の元素が含有されている窒化アルミニウム質セラミックスからなる本体を準備し、次いでこの本体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする。」を「従って本発明による耐蝕性部材の製造方法は、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム100重量部と、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素を100ppm以上、60重量部以下とを含有する粉末を焼成することによって、緻密質の窒化アルミニウム質セラミックス製の焼結体を作製し、次いでこの焼結体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする。【0016】また、本発明による耐蝕性部材の製造方法は、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム質粒子と、前記窒化アルミニウム質粒子の粒界に存在する粒界相とを備えている窒化アルミニウム質セラミックスであって、前記粒界相中に、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素が含有されている窒化アルミニウム質セラミックスからなる本体を準備し、次いでこの本体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする」と訂正する。

なお、クレームの訂正事項には、「(a)・・・、(b)・・・、(c)・・・」等が記載されているが、元々特許明細書にはなく、全文訂正明細書にもないので、上記のとおり認定した。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項a及びj
上記訂正事項aは、請求項1において、耐蝕性部材に関して、「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対する」を「600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される」と、耐蝕性部材のさらされる温度条件を限定するもので、この点は、明細書の段落【0054】に裏付けられているから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
また、上記訂正事項jは、請求項12において、ウエハー設置部材に関して、「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに暴露される」を「600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される」と、ウエハー設置部材のさらされる温度条件を限定するもので、この点は、明細書の段落【0028】【0054】に裏付けられているから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(2)訂正事項b及びk
上記訂正事項bは、請求項1において、耐蝕性部材の本体の材質に関して、「窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、アルミナ、炭化ホウ素、酸化珪素および窒化アルミニウム質セラミックスからなり」を「窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質」と、選択肢としての記載であることを明りょうにするとともに、アルミナ、酸化珪素を選択肢から除外し限定したものである。特許明細書全体から6種すべてのセラミックスを含むものを意味していなかったことは明らかであり、選択肢であること自体は、明細書の段落【0024】及び各実施例に裏付けられているから、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
上記訂正事項kは、請求項12において、ウエハー設置部材の本体の材質に関して、「窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、アルミナ、炭化ホウ素、酸化珪素および窒化アルミニウム質セラミックスからなり」を「窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質」と訂正するもので、上記訂正事項bで検討したように、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)訂正事項c〜f,l,m
上記訂正事項c,dは、請求項1において、上記訂正事項eは、請求項4において、上記訂正事項fは、請求項6において、上記訂正事項l,mは、請求項12において、耐蝕層を構成する元素の選択肢のうち、希土類元素を除外するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(4)訂正事項g〜k,o,p
上記訂正事項gは、請求項7において、上記訂正事項b,c,dに対応した訂正を行うと共に、引用形式の記載を独立形式で記載したものであり、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
また、上記訂正事項h,i,nは、それぞれ請求項10,11,13において、訂正事項b,c,dに対応した訂正を行うと共に、引用形式の記載を独立形式で記載したものであり、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
上記訂正事項oは、単なる請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正であり、上記訂正事項pは、訂正事項oに伴う、項番の繰り上げであり、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
(5)訂正事項q,r
上記訂正事項q,rは、上記訂正事項a〜d,h〜mに整合させて、発明の詳細な説明を訂正したものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書き、及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立について
1.特許異議申立の概要
異議申立人Aは、証拠として下記の甲第1〜3号証を提出して、訂正前の請求項1〜5,9に係る発明は、本件の出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるか、又は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定に違反してされたものであり、訂正前の請求項1,2,4〜6,9に係る発明は、本件の出願の優先日前の出願であって優先日後に公開された甲第2,3号証の明細書に記載された発明であるから、それらの特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、訂正前の請求項1,12の「本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、アルミナ、炭化ホウ素、酸化珪素および窒化アルミニウム質セラミックスからなり」という記載に対して、発明の詳細な説明において、いずれかの材質が本体であるものしか記載されていないことから、引用している請求項も含め、訂正前の請求項1〜13に係る発明の特許明細書の記載には不備があり、該特許は、特許法第36条第4項及び第6項の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたので、これらを取り消すべきである旨主張している。
また、異議申立人Bは、証拠として下記の甲第1〜4号証を提出して、訂正前の請求項1,2,7に係る発明は、本件の出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であり、訂正前の請求項1,2に係る発明は、本件の出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定に違反してされたものであり、訂正前の請求項では、アルミニウム、希土類元素およびアルカリ土類元素の元素数の総和に対する希土類元素およびアルカリ土類元素の元素数の総和で、割合を示しているのに対して、発明の詳細な説明においては、重量比で割合を示している点で特許明細書の記載には不備があり、該特許は、特許法第36条第4項及び第6項の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたので、これらを取り消すべきである旨主張している。


引用例1:特開平4-191379号公報(異議申立人Aの提出した甲第1号証,異議申立人Bの提出した甲第4号証)
引用例2:特願平8-155798号(特開平10-4083号公報)(異議申立人Aの提出した甲第2号証)
引用例3:特願平8-201563号(特開平10-45467号公報)(同上甲第3号証)
引用例4:特開平6-163428号公報(異議申立人Bの提出した甲第1号証)
引用例5:宮崎 晃 外2名,フッ素プラズマによる腐食,セラミックス 30(11)(1995)p.999〜1001(同上甲第2号証)
引用例6:特開平4-66657号公報(同上甲第3号証)

2.本件発明
上記II.で示したように上記訂正が認められるから、本件特許第3362113号の請求項1〜12に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明12」という。)は、平成17年4月4日付けの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であることを特徴とする、耐蝕性部材。
【請求項2】前記耐蝕層が前記フッ化物からなる膜であることを特徴とする、請求項1記載の耐蝕性部材。
【請求項3】前記フッ化物がフッ化マグネシウムであることを特徴とする、請求項1または2記載の耐蝕性部材。
【請求項4】希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上の前記元素が、0.9オングストローム以上のイオン半径を有する元素であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の耐蝕性部材。
【請求項5】前記耐蝕層の厚さが0.2μm以上、10μm以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の耐蝕性部材。
【請求項6】前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有している粒状物によって形成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載の耐蝕性部材。
【請求項7】ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、前記本体と、この本体の表面に形成されている表面層とを備えている基材を準備し、前記表面層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素の化合物からなり、この基材をフッ素含有ガスのプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。
【請求項8】請求項2記載の耐蝕性部材を製造する方法であって、前記フッ化物からなる膜を前記本体上に生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。
【請求項9】ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム100重量部と、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素を100ppm以上、60重量部以下とを含有する粉末を焼成することによって、緻密質の窒化アルミニウム質セラミックス製の焼結体を作製し、次いでこの焼結体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。
【請求項10】ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム質粒子と、前記窒化アルミニウム質粒子の粒界に存在する粒界相とを備えている窒化アルミニウム質セラミックスであって、前記粒界相中に、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素が含有されている窒化アルミニウム質セラミックスからなる本体を準備し、次いでこの本体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。
【請求項11】600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露されるウエハー設置部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であることを特徴とする、ウエハー設置部材。
【請求項12】600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露されるウエハー設置部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であるウエハー設置部材において、前記本体が、60W/m・K以上の熱伝導率を有する窒化アルミニウム質セラミックスからなることを特徴とする、ウエハー設置部材。

3.引用例1〜6の記載事項
(1)引用例1:特開平4-191379号公報
(1a)「プラズマ発生の原理を応用した薄膜堆積装置および表面加工・改質装置において、プラズマに曝される表面を、ベリリウムを除くアルカリ土類金属のフッ化物、即ちフッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化ラヂウムまたはフッ化スカンジウム、あるいは原子番号57から71までのランタニド系列金属のフッ化物、即ちフッ化ランタンからフッ化ルテチウムまでの何れかから選ばれた1ないしは2つ以上のフッ化物でコーテイングしたことを特徴とするプラズマ処理装置。」(特許請求の範囲)
(1b)「この場合、ドライクリーニング処理は、処理室内にエッチングガスを導入しつつ、プラズマを発生させてプラズマ中に生成したフッ素ラジカルによる化学作用によって、処理室内の各部位に堆積した反応生成物を低沸点のフッ化物に転換して気化させ、表面から除去するドライエッチングを発現させるものであるが、このときアルミニウム電極を含む処理室内のアルミ材料、アルミナ材料、ステンレス材料、石英等も少しずつ消耗することになる。即ち、処理装置内のこれら材料の消耗は、フッ化物の生成と分解飛散の繰返しで進行し、これら材料の消耗は、単に装置の寿命に関係するのみならず、成膜時に膜不純物として取り込まれ、半導体デバイスの信頼性を損なう等重大な問題となりつつある。
近年特にフッ化物ガスはクリーニング性の高いものが使用される傾向が高く、またプロセス温度も高くなる傾向があって、装置内で使用される各材料からの汚染の問題が深刻になりつつある。」(2頁右上欄15行〜左下欄13行)
(1c)「前記フッ化物は上述したような処理装置における減圧処理室及び処理室内部品の主たる構成材料であるアルミニウム、アルミナ、ステンレススチールのフッ化処理による生成物である、フッ化アルミニウム・・・等に比較すると、高温で極めて安定である。例えば、700ケルビン(527℃)でのフッ化物の蒸気圧(atm)は、フッ化アルミニウム10-11.77、・・・であるのに対して、フッ化マグネシウムは10-19.04・・・と4桁以上蒸気圧が低く、また化学的にも安定である。コーティングされたこれらフッ化膜は主としてクリーニングプロセス、もしくはドライエッチングプロセスに用いられるフッ素の攻撃に対して、極めて安定に生地材料を保護するため、膜厚は必要最低限で十分であって、その厚さは大略2μmであればよい。」(3頁右上欄17行〜左下欄18行)
(1d)「然して、このような装置において、本発明では処理室1の内面、ヒータユニット5、下部電極4において上部電極2の支持手段などのプラズマに曝される表面に対し上述したようなフッ化物によるコーテイングを形成したものである。本発明によるもののコーテイング膜の形成は、フッ化物のイオンプレーテイングと真空蒸着の併用により的確に形成されるが、このような方法のみに限定されるものでなく、その他の任意の方法を採用することができる。」(3頁右下欄11〜20行)
(1e)実施例1の記載として、「また、減圧処理室内の該電極以外の部品である、アルミナ製の下部電極支持物品の表面も電極と同様にフッ化カルシウム6μmのコーテイングを行った。」(4頁右上欄1〜4行)

(2)引用例2:特願平8-155798号(特開平10-4083号公報)
(2a)「【請求項1】フッ素系腐蝕ガスあるいはそのプラズマに曝される部位が、周期律表第3a族元素化合物からなることを特徴とする半導体製造用耐食性部材。
【請求項2】前記周期律表第3a族元素がSc,La、Ce、Eu、Dyの群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の半導体製造用耐食性部材。
【請求項3】前記化合物が、酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物、及びそれらの複合体からなることを特徴とする請求項1記載の半導体製造用耐食性部材。」(【特許請求の範囲】)
(2b)「【発明の属する技術分野】本発明は、フッ素系腐蝕性ガスまたはそのプラズマに対して高い耐食性が要求される、半導体素子を製造するのに用いられるプラズマ処理装置、成膜装置内の内壁材、Si基板を支持する支持部材などの治具に適した耐食性部材に関するものである。」(【0001】)
(2c)「また、装置内の内壁等の上記ガスやプラズマに接触する部分では、ガスやプラズマによる腐食を防止するために、従来からガラスや石英などのSiO2 を主成分とする材料やステンレス、モネル等の耐食性金属が利用されている。・・・さらに、半導体製造装置において、Siウエハ等を保持するサセプタ材も腐食性ガスやプラズマと接触するために、従来より耐食性に優れたアルミナ焼結体やサファイア、AlNの焼結体又はこれらを基体表面にCVDコーティングしたものが使用されている。」(【0003】〜【0004】5行)
(2d)「【課題を解決するための手段】そこで、発明者らは、フッ素系腐食ガスまたはそのプラズマに対して優れた耐食性を有する材料の検討を行った結果、フッ素系腐食ガスまたはそのプラズマとの反応が進行すると表面にフッ化物が生成されること、およびそのフッ化物の安定性が耐食性に大きく影響を及ぼしていること、またフッ化物としては、周期律表第3a族元素のフッ化物は融点が高く、高温において安定であることから耐食性部材として周期律表第3a族元素化合物が好適であることを見出し本発明に至った。」(【0007】)
(2e)「特に、前記周期律表第3a族元素がSc,Y,La,Ce,Yb,Eu,Dyの群から選ばれた少なくとも1種であること、さらに前記化合物が、酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物、及びそれらの複合体からなることを特徴とするものである。・・・フッ素ガスまたはそのプラズマに曝される部位では、その表面はフッ化物になって蒸発し、消耗が進んでいく。本発明によれば、フッ素系ガスまたはそのプラズマに曝される部材を周期律表第3a族元素化合物により構成することによって、周期律表第3a族元素がフッ素との反応によって融点が高いフッ化物層を生成し、幅広い温度範囲で過酷なフッ素系ガス雰囲気での耐久性の向上が達成される」(【0009】〜【0010】)
(2f)「この耐食性部材は、所定の基体表面に前記周期律表第3a族元素化合物を周知の薄膜形成法によって被覆するのが緻密性の点で望ましい。その場合、基体の表面には厚み5〜500μm、特に10〜200μmで形成するのがよい。それは、厚みが薄すぎると腐蝕性ガスによって腐蝕が進行した場合、耐食性の薄膜が消失して基体が露出してしまうためである。このような緻密な膜は、例えば、周知のゾルゲル法により液相を塗布し焼成した薄膜や、周知のCVD法やPVD法等の気相法により形成された薄膜であってもよい。」(【0014】)
(2g)「【実施例】表1に示すような各種ガラス、焼結体、単結晶や、基体としてカーボンを用いてPVD法によって周期律表第3a族酸化物や窒化物、炭化物、フッ化物からなる厚み20μmの薄膜を形成した。」(【0016】1〜4行)という記載があり、表1には、試料No.17,20,25にそれぞれYF3,LaF3,CeF3を薄膜形成した例が示されている。

引用例3:特願平8-201563号(特開平10-45467号公報)
(3a)「【請求項1】フッ素系腐食ガス或いはそのプラズマに曝される部位が,周期律表3a族金属と、Al及び/又はSiを含む複合酸化物からなることを特徴とする耐食性部材。」(【特許請求の範囲】)
(3c)「これら腐食性ガスに接触する部材には高い耐食性が要求され、従来より被処理物以外のこれらプラズマに接触する部材は、一般にガラスや石英などのSiO2を主成分とする材料やステンレス、モネル等の耐食性金属が多用されている。・・・また、半導体製造製造時において、ウェハを支持固定するサセプタ材としてアルミナ焼結体、サファイア、AlNの焼結体、又はこれらをCVD法等により表面被覆したものが耐食性に優れるとして使用されている。」(【0003】〜【0004】)
(3d)「【課題を解決するための手段】本発明者らは、フッ素系腐食ガス及びプラズマに対する耐食性を高めるための方法について検討を重ねた結果、まず、フッ素系腐食ガス又はプラズマとの反応が進行すると高融点のフッ化物が生成されること、特に周期律表第3a族元素とAlおよび/またはSiとの複合酸化物は、安価に入手できるとともに、そのフッ化物が表面に安定なフッ化物層を形成し部材の腐食性が抑制され、従来のアルミナやガラス、AlN、Si3N4などよりも優れた耐食性を実現できることを知見したものである。」(【0008】)
(3e)「本発明によれば、フッ素系ガス及びプラズマに曝される部材として周期律表第3a族元素と、Al及び/又はSiを含む複合酸化物材料を使用することにより、材料表面がフッ素との反応によって安定なフッ化物層を生成し、幅広い温度範囲で過酷なフッ素系腐食雰囲気への耐性向上が達成される。さらに、フッ素と反応して容易に揮発してしまうようなSi、Ge、Mo等の元素化合物の粒界への析出を抑え、その遍在を防ぐことにより、局部的な耐食性の低下とそれを原因とした脱粒・パーティクル発生を防止し、更なる耐食性の向上を図ることが可能となる。これらの元素は腐食の初期段階で揮発していくが、材料表面には第3a族を含むフッ化物が残留して、次第に第3a族元素に富むフッ化物層が形成される結果、腐食の進行を抑制することができる。」(【0010】)
(3f)「本発明によれば、このようなフッ素系ガスあるいはそのプラズマに曝される部位を、少なくとも周期律表第3a族元素と、Alおよび/またはSiとを含む複合酸化物から構成するものである。ここで、複合酸化物を構成する周期律表第3a族元素としては、Sc、Y、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどいずれでの使用されるが、特にY、La、Ce、Nd、Dyがコストの点で望ましい。・・・この複合酸化物の耐食性は周期律表第3a族元素量に大きく影響され、周期律表第3a族元素は、複合酸化物中の全金属元素中、30原子%以上、特に40原子%以上存在することが望ましい。」(【0013】〜【0014】4行)
(3g)「また、本発明の耐食性部材としては、かかる焼結体にとどまらず、PVD法、CVD法などの周知の薄膜形成法によって、所定の基体表面に薄膜として形成したものであってもよい。また、周知のゾルゲル法により液相を塗布し焼成した薄膜でもよい。これらの中では、粉末を成形し焼成した焼結体であることが、あらゆる部材への適用性に優れることから最も望ましい。」(【0018】1〜7行)
(3h)「【実施例】各種酸化物粉末を用いて、表1〜表3に記載の各種の材料を作製した。表1中、試料No.1〜5は、表1の希土類酸化物とSiO2 及び/またはAl2O3 との混合物を2000℃で溶融した後、急冷してガラス化したものである。・・・なお、焼結体はいずれも相対密度95%以上まで緻密化した。・・・そして、表1の種々の材料をRIEプラズマエッチング装置内に設置し、・・・マイクロ波を導入してプラズマを発生させた。」(【0019】〜【0020】5行)と記載されている。
(3i)「これらの比較例に対して試料No.1〜17の本発明の試料は、いずれもフッ素系プラズマに対して高い耐食性を示した。特に、試料形態がガラスからなるものは、その表面に窪みの形成が確認されたが、焼結体や薄膜からなるものは、いずれも表面状態も優れたものであった。また、本発明のいずれの試料にも試験後において周期律表第3a族元素に富むフッ化物層が表面に形成されていることを確認した。」(【0024】)

(4)引用例4:特開平6-163428号公報
(4a)「300℃以上の温度でハロゲン系腐蝕性ガスに曝露されるべき耐蝕性部材であって、耐熱性材料からなる基材と、厚さ10μm以上の結晶質窒化アルミニウムからなる被覆膜とを備えた耐蝕性部材。」(【請求項1】)
(4b)「前記耐蝕性部材が、赤外線ランプ加熱によって発熱するサセプタであって、このサセプタの発熱面に設置された半導体ウエハーを加熱するためのサセプタである、請求項5記載の耐蝕性部材。」(【請求項6】)
(4c)「これらの腐蝕性ガスに接触させた状態で加熱するための加熱装置として、例えば、熱CVD装置等の半導体製造装置においては、デポジション後にClF3、NF3 、CF4 、HF、HCl 等のハロゲン系腐蝕性ガスからなる半導体クリーニングガスを用いている。また、デポジション段階においても、WF6 、SiH2Cl2 等のハロゲン系腐蝕性ガスを成膜用ガスとして使用している。ここで、熱CVD装置等において現在使用しているクリーニングガスを下記表1に示す。」【0004】と記載されるとともに、【0005】【表1】には、CF4、NF3がプラズマにより活性化して使用されることが示されている。
(4d)「更に、ハロゲン系腐蝕性ガスを成膜用ガスとして用いる場合には、例えば300〜1100℃の高温で成膜を行うために、上記の腐蝕の問題を避けることはできない。」(【0009】)
(4e)「上記の問題を解決するため、本発明者は、特願平3-150932号明細書 (1991年5月28日出願) や特願平4-58727 号明細書 (1992年2月13日出願) において、窒化アルミニウム焼結体が上記のハロゲン系腐蝕性ガスに対して高い耐蝕性を備えていることを開示した。即ち、例えばClF3ガスに対して241 〜591 ℃の高温で1時間窒化アルミニウム焼結体を曝露しても、その表面状態は変化が見られなかった。・・・しかし、本発明者は、更に研究を進めた結果、次のことを発見した。即ち、本発明者は、上記の窒化アルミニウム焼結体について、100 〜600 ℃の温度で50時間以上の長時間に亘って曝露試験を行ってみた。ところが、100 ℃の場合には変質が見られなかったものの、300 ℃の場合にはSEM観察により焼結体の表面にかなりの変質が見られ、重量増加の傾向が見られた。更に600 ℃の場合には窒化アルミニウム粒子が表面から相当脱落し、粉化し重量の減少が見られた。」(【0011】〜【0012】)
(4f)「また、窒化アルミニウムからなる被覆膜がClF3ガス等に対して良好な耐蝕性能を有する理由は、窒化アルミニウムの表層がFラジカルによってAlF3となり、不動能化しており、腐蝕の進行を防止しているからである。」(【0020】1〜5行)
(4g)「NF3ガスについては、表1に示したように、プラズマによるNF3 分子の分解が必要である。このため、-30℃等の低温においても、エッチングガス、クリーニングガスとして用いうる。しかし、高温である方がエッチングレートは大きい。CF4 ガス等についても、同様のことが言える。 そして、300 ℃〜1100℃もの高温条件下においても、本発明の耐蝕性部材は、NF3 ガス、CF4 ガスに対して長時間安定であることを見出した。」(【0023】)
(4h)「【0066】次いで、具体的な実験結果について述べる。表2に示す各試料を準備した。窒化アルミニウム焼結体としては、焼結助剤としてY2O3を5重量%添加したものを用いた。・・・本発明の試料においては、上記の窒化アルミニウム焼結体の表面に、熱CVD法で窒化アルミニウムからなる被覆膜を形成した。」(【0066】1〜7行)
(4i)8頁表2には、600℃、50時間でも窒化アルミニウム焼結体に被覆膜を設けたものは、重量変化、表面状態変化がなかったことが示されている。

(5)引用例5:宮崎 晃 外2名,フッ素プラズマによる腐食,セラミックス 30(11)(1995)p.999〜1001
(5a)「ドライエッチングでは,しばしばCF4やNF3等のフッ素系ガスが,プラズマにより活性化されて使用されている.このため,製造装置を構成する部品には,活性なガスに対する耐食性が要求されている.」(999頁「1.はじめに」11〜15行)
(5b)「筆者らは,半導体製造装置に使用されている各種セラミックス材料について,ケミカルドライエッチング(CDE)装置を用いて,耐食性評価を行った.・・・Al2O3及びAlNは,優れた耐食性を示した.これらの試料のエッチング表面のXPS分析により,最表面層はフッ化反応しフッ化アルミニウムを形成していることがわかった.」(999〜1000頁「3.セラミックス材料の耐食性」1〜26行)

(6)引用例6:特開平4-66657号公報
(6a)「マグネシウム含有アルミニウム合金の表面の少なくとも一部が、フッ化マグネシウムを含むフッ化不働態膜で被覆されていることを特徴とする耐食性アルミニウム合金材」(特許請求の範囲第1項)
(6b)「本願発明に使用されるアルミニウム合金としては、・・・上記合金は、・・・ベーキングを行う。このベーキングは、150〜450℃の範囲内で行うのが望ましい。・・・450℃を超えると、アルミニウム合金の一部溶解などが生じて合金を傷めるおそれがあるためである。」(2頁右上欄4行〜左下欄5行)
(6c)「フッ化不働態膜で被覆されたアルミニウム合金材は、腐食性の強いウエットなCl2やHFなどのハロゲン系ガスに対しても十分な耐食性を発揮する。」(3頁左上欄5〜8行)

4.対比・判断
(1)本件発明1について
(1-1)本願優先日前頒布された刊行物である引用例1,4〜6との対比について
上記摘記事項(4a)〜(4i)から、引用例4には、「600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに曝露される耐蝕性部材であって、窒化アルミニウム焼結体からなる基材と、表面に窒化アルミニウムからなる被覆膜が形成され、その被覆膜がFラジカルによってAlF3となり不動能化したものからなる耐蝕性部材」(以下、引用例4発明という。)が開示されているといえる。
本件発明1と引用例4発明とを対比すると、引用例4発明の「基材」「被覆膜」「窒化アルミニウム焼結体」は、それぞれ、本件発明1の「本体」「耐蝕層」「窒化アルミニウムセラミックス」に相当しているので、本件発明1と引用例4発明とは、「600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化アルミニウムセラミックス質からなる耐蝕性部材」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点イ:本件発明1では、600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材として、耐蝕層がアルカリ土類金属から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であるのに対して、引用例4発明では、窒化アルミニウムからなる被覆膜が形成され、その被覆膜がFラジカルによってAlF3となり不動能化したものである点。
そして、本件発明1の相違点イに係る発明特定事項は、耐蝕性部材において自明な事項でもないから、本件発明1は、引用例4に記載された発明ではない。

そこで、上記相違点イについて検討する。
引用例1には、上記摘記事項(1a)〜(1e)からみて、プラズマ処理装置の構成材料に関して、アルミニウム、アルミナ、ステンレススチールのフッ化処理による生成物であるフッ化アルミニウム等に比較すると、フッ化マグネシウムのコーティングが高温で安定である旨の記載はあるが、本体は、窒化アルミニウムセラミックスではなく、527℃におけるフッ化マグネシウムの蒸気圧を検討しているのみで、600℃以上の温度領域でハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露させることについては、想定していない。
また、引用例6には、上記摘記事項(6a)〜(6c)からみて、マグネシウム含有アルミニウム合金の表面の少なくとも一部が、フッ化マグネシウムを含むフッ化不働態膜で被覆されているものが、腐食性の強いハロゲン系ガスに対しても十分な耐食性を発揮することについて記載されているものの、本体は、窒化アルミニウムセラミックスではなく、450℃を超えるとアルミニウム合金の一部溶解などが生じると認識しており、600℃以上の温度領域でハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露されることについては、想定していない。
してみると、引用例1に記載されたフッ化マグネシウムのコーティング又は引用例6に記載されたフッ化マグネシウムを含むフッ化不働態膜を、600℃以上の温度領域でハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露させる引用例4発明の耐蝕性部材に適用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。
また、引用例5には、上記摘記事項(5a),(5b)からみて、半導体製造装置に使用されている各種セラミックス材料について、Al2O3及びAlNの最表面層がフッ化反応しフッ化アルミニウムを形成したものが、フッ素系ガスが、プラズマにより活性化されて使用されている場合に耐食性を示すことについて記載されているものの、耐蝕層がアルカリ土類金属から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であること及び、600℃以上の温度領域でハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露されることについては、記載も示唆もない。
そして、本件発明1は、相違点イに係る発明特定事項を具備することにより、特許明細書に記載したような高温領域でのハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対する耐蝕性という顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、引用例1,4〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

また、上述したように、本件発明1は、本体材質の点で引用例1記載の発明と相違しており、引用例1に記載された発明ではない。

(1-2)本件の出願の優先日前の出願であって、本件の出願の優先日後に公開された、先願明細書である引用例2,3記載の発明との対比について
引用例2には、上記摘記事項(2a)〜(2c)を総合すると、「基体表面のフッ素系腐蝕ガスあるいはそのプラズマに曝される部位が、YF3,LaF3,CeF3等の周期律表第3a族元素化合物の薄膜からなる、Siウエハを保持するサセプタ材等の半導体製造用耐食性部材」(以下、「引用例2発明」という。)が記載されているといえる。
本件発明1と、引用例2発明とを対比すると、引用例2発明の「基体」「薄膜」「フッ素系腐蝕ガスあるいはそのプラズマに曝される・・・Siウエハを保持するサセプタ材等の半導体製造用耐食性部材」は、それぞれ、「本体」「耐蝕層」「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材」に相当するので、両者は、「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えているもの」である点で一致しており、下記の点で相違している。
ロ.ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材の使用環境に関して、本件発明1では、600℃以上の温度領域で、プラズマに対して曝露されるとされているのに対して、引用例2発明では、温度領域に関する特定のない点。
ハ.本体及び耐蝕層の材質について、本件発明1では、本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であるとされているのに対して、引用例2発明では、本体は、カーボンが例示されているのみであり、耐蝕層としては、YF3,LaF3,CeF3等の周期律表第3a族元素化合物である点。
上記相違点ロ、ハに係る本件発明1の発明特定事項は、耐蝕性部材において自明な事項でもないから、本件発明1は、引用例2に記載された発明と同一ではない。

引用例3には、上記摘記事項(3a)〜(3i)を総合すると、「フッ素系腐食ガス或いはそのプラズマに曝される部位が,周期律表3a族金属と、Al及び/又はSiを含む複合酸化物からなり、フッ素系腐食ガス又はプラズマとの反応が進行し表面に周期律表第3a族元素に富むフッ化物層が形成された耐食性部材」(以下、「引用例3発明」という。)が記載されているといえる。
本件発明1と、引用例3発明とを対比すると、引用例3発明の「周期律表第3a族元素に富むフッ化物層」「フッ素系腐食ガス或いはそのプラズマに曝される・・・耐食性部材」は、それぞれ、「耐蝕層」「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材」に相当し、周期律表3a族金属と、Al及び/又はSiを含む複合酸化物のうちフッ化物層にならなかった部分が、本件発明1の「本体」に相当しているので、両者は、「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えているもの」である点で一致しており、上記相違点ロに加えて、下記の点で相違している。

ニ.本体及び耐蝕層の材質について、本件発明1では、本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であるとされているのに対して、引用例3発明では、本体は、周期律表3a族金属と、Al及び/又はSiを含む複合酸化物であり、耐蝕層としては、周期律表第3a族元素に富むフッ化物である点。
上記相違点ロ、二に係る本件発明1の発明特定事項は、耐蝕性部材において自明な事項でもないから、本件発明1は、引用例3に記載された発明と同一ではない。

(2)本件発明2〜6,8について
本件発明2〜6,8も、発明の特定事項として、本件発明1の「600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である」点をすべて有しており、4(1)で検討したのと同様に、本件発明2〜6,8は、引用例1,4に記載された発明でなく、引用例2,3に記載された発明と同一でなく、引用例1,4〜6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明11,12について
本件発明11は、本件発明1の「耐蝕性部材」の用途を「ウエハー設置部材」と特定したものであり、4(1)でのべたように、本件発明11は、引用例1,4に記載された発明でなく、引用例2,3に記載された発明と同一でなく、引用例1,4〜6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明12は、本件発明11において、前記本体が、「60W/m・K以上の熱伝導率を有する窒化アルミニウム質セラミックスからなることを」をさらに特定したものであるから、引用例1,4に記載された発明でなく、引用例2,3に記載された発明と同一でなく、引用例1,4〜6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明7について
(4-1)本願優先日前頒布された刊行物である引用例1,4〜6との対比について
上記摘記事項(4a)(4c)(4f)(4h)から、引用例4には、「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対する耐蝕性部材であって、窒化アルミニウム焼結体からなる基材と、表面に窒化アルミニウムからなる被覆膜が形成され、その被覆膜がFラジカルによってAlF3となり不動能化したものからなる耐蝕性部材の製造方法」(以下、引用例4製造方法発明という。)が開示されているといえる。
本件発明7と引用例4製造方法発明とを対比すると、引用例4発明の「基材」「被覆膜」「窒化アルミニウム焼結体」は、それぞれ、本件発明1の「本体」「耐蝕層」「窒化アルミニウムセラミックス」に相当しているので、本件発明1と引用例4製造方法発明とは、「ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対する耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化アルミニウムセラミックスからなる耐蝕性部材の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点ホ:耐蝕層が、本件発明7では、アルカリ土類金属から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であるのに対して、引用例4製造方法発明では、窒化アルミニウムからなる被覆膜が形成され、その被覆膜がFラジカルによってAlF3となり不動能化したものである点。
相違点ヘ:本件発明7では、本体と、この本体の表面に形成されている表面層とを備えている基材を準備し、前記表面層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素の化合物からなり、この基材をフッ素含有ガスのプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることが特定されているのに対して、引用例4製造方法発明では、そのような記載のない点。
そして、本件発明7の相違点ホ,ヘに係る発明特定事項は、耐蝕性部材の製造方法において自明な事項でもないから、本件発明7は、引用例4に記載された発明ではない。
以下、相違点について、検討する。
相違点ヘについて
引用例1には、上記摘記事項(1a)〜(1e)からみて、アルミニウム合金、アルミナにアルカリ土類金属のフッ化物をコーティングする記載はあるものの、本体と、この本体の表面に形成されている表面層とを備えている基材を準備し、前記表面層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素の化合物からなり、この基材をフッ素含有ガスのプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることについては記載も示唆もない。
引用例5には、上記摘記事項(5a),(5b)からみて、半導体製造装置に使用されている各種セラミックス材料について、Al2O3及びAlNの最表面層がフッ化反応しフッ化アルミニウムを形成したものが、フッ素系ガスが、プラズマにより活性化されて使用されている場合に耐食性を示すことについて記載されているものの、本体と、この本体の表面に形成されている表面層とを備えている基材を準備し、前記表面層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素の化合物からなり、この基材をフッ素含有ガスのプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることについては、記載も示唆もない。
引用例6には、上記摘記事項(6a)〜(6c)からみて、マグネシウム含有アルミニウム合金の表面の少なくとも一部が、フッ化マグネシウムを含むフッ化不働態膜で被覆されているものが、腐食性の強いハロゲン系ガスに対しても十分な耐食性を発揮することについて記載されているものの、本体と、この本体の表面に形成されている表面層とを備えている基材を準備し、前記表面層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素の化合物からなり、この基材をフッ素含有ガスのプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることについては、記載も示唆もない。
してみると、相違点ヘについては、引用例1,4〜6のいずれにも記載されておらず、引用例1,4〜6に記載された発明をいかに組み合わせても本件発明7を導き出すことはできない。
そして、本件発明7は、相違点ヘに係る発明特定事項を具備することにより、訂正明細書に記載したような高温領域でのハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対する耐蝕性を有するという顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明7は、相違点ホについて論ずるまでもなく、引用例1,4〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(4-2)先願明細書である引用例2,3記載の発明との対比について
(1-2)で検討したように、相違点ハ、二に係る発明特定事項は、耐蝕性部材の製造方法において自明な事項でもないから、本件発明7は、引用例2,3に記載された発明と同一ではない。

(5)本件発明9,10について
(5-1)本願優先日前頒布された刊行物である引用例1,4〜6との対比について
本件発明9と引用例4製造方法発明とを対比すると、相違点ホに加えて、以下の点で相違している。
相違点ト:本件発明9では、窒化アルミニウム100重量部と、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素を100ppm以上、60重量部以下とを含有する粉末を焼成することによって、緻密質の窒化アルミニウム質セラミックス製の焼結体を作製し、次いでこの焼結体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることが特定されているのに対して、引用例4製造方法発明では、そのような記載のない点。

また、本件発明10と引用例4製造方法発明とを対比すると、相違点ホに加えて、以下の点で相違している。
相違点チ:本件発明10では、窒化アルミニウム質粒子と、前記窒化アルミニウム質粒子の粒界に存在する粒界相とを備えている窒化アルミニウム質セラミックスであって、前記粒界相中に、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素が含有されている窒化アルミニウム質セラミックスからなる本体を準備し、次いでこの本体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることが特定されているのに対して、引用例4製造方法発明では、そのような記載のない点。
相違点ト、チについては、(4)において述べたように、引用例1,4〜6のいずれにも記載されておらず、引用例1,4〜6に記載された発明をいかに組み合わせても導き出すことはできない。
そして、本件発明9,10は、相違点ト、チに係る発明特定事項を具備することにより、訂正明細書に記載したような高温領域でのハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対する耐蝕性を有するという顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明9,10は、相違点ホについて論ずるまでもなく、引用例1,4〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(5-2)先願明細書である引用例2,3記載の発明との対比について
本件発明9,10は、本件発明1と本体および耐蝕層の材質が同じであり、引用例2,3記載の発明との対比において、それぞれ相違点ハ、ニを有しており、(1-2)で検討したように、相違点ハ、二に係る発明特定事項は、耐蝕性部材の製造方法において自明な事項でもないから、本件発明9,10は、引用例2,3に記載された発明と同一ではない。

5.特許法第36条違反に関して
(1)平成17年4月4日付けの訂正請求書による訂正によって、訂正前の請求項1,12の「本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、アルミナ、炭化ホウ素、酸化珪素および窒化アルミニウム質セラミックスからなり」という記載は、「前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり」と【0024】及び各実施例の記載に基づき明確にされており、異議申立人Aのいうような記載不備はない。
(2)特許請求の範囲において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の総和に対するアルカリ土類元素の割合を元素数比で表している点について、平成17年1月27日付けの訂正請求書による訂正をみても、発明の詳細な説明の記載として、【0008】【0009】【0015】【0016】においても、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の総和に対するアルカリ土類元素の割合は元素数比で表されており、例え各実施例の割合が重量比で記載されていても、換算は容易であり、異議申立人Bのいうような記載不備はない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜12の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜12の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
耐蝕性部材、ウエハー設置部材および耐蝕性部材の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であることを特徴とする、耐蝕性部材。
【請求項2】前記耐蝕層が前記フッ化物からなる膜であることを特徴とする、請求項1記載の耐蝕性部材。
【請求項3】前記フッ化物がフッ化マグネシウムであることを特徴とする、請求項1または2記載の耐蝕性部材。
【請求項4】アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の前記元素が、0.9オングストローム以上のイオン半径を有する元素であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の耐蝕性部材。
【請求項5】前記耐蝕層の厚さが0.2μm以上、10μm以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の耐蝕性部材。
【請求項6】前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有している粒状物によって形成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載の耐蝕性部材。
【請求項7】ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、前記本体と、この本体の表面に形成されている表面層とを備えている基材を準備し、前記表面層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素の化合物からなり、この基材をフッ素含有ガスのプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。
【請求項8】請求項2記載の耐蝕性部材を製造する方法であって、前記フッ化物からなる膜を前記本体上に生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。
【請求項9】ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム100重量部と、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素を100ppm以上、60重量部以下とを含有する粉末を焼成することによって、緻密質の窒化アルミニウム質セラミックス製の焼結体を作製し、次いでこの焼結体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。
【請求項10】ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム質粒子と、前記窒化アルミニウム質粒子の粒界に存在する粒界相とを備えている窒化アルミニウム質セラミックスであって、前記粒界相中に、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素が含有されている窒化アルミニウム質セラミックスからなる本体を準備し、次いでこの本体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする、耐蝕性部材の製造方法。
【請求項11】600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露されるウエハー設置部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であることを特徴とする、ウエハー設置部材。
【請求項12】600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露されるウエハー設置部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であるウエハー設置部材において、前記本体が、60W/m・K以上の熱伝導率を有する窒化アルミニウム質セラミックスからなることを特徴とする、ウエハー設置部材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の技術分野】本発明は、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対する耐蝕性部材、これを利用したウエハー設置部材、および耐蝕性部材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】超LSIのメモリー容量の拡大に伴ない、微細加工化がますます進行するに従って、ケミカルな反応を必要とするプロセスが拡大してきている。特に、スーパークリーン状態を必要とする半導体製造用装置ではデポジション用ガス、エッチング用ガス、クリーニング用ガスとして、塩素系ガス、弗素系ガス等のハロゲン系腐蝕性ガスが使用されている。
【0003】これらの腐蝕性ガスに接触させた状態で加熱するための加熱装置として、例えば、熱CVD装置等の半導体製造装置においては、デポジション後にClF3、NF3、CF4、HF、HCl等のハロゲン系腐蝕性ガスからなる半導体クリーニングガスを用いている。また、デポジション段階においても、WF6、SiH2Cl2等のハロゲン系腐蝕性ガスを成膜用ガスとして使用している。
【0004】本出願人は、特願平3-150932号明細書(1991年5月28日出願)、特願平4-58727号明細書(1992年2月13日出願)において、表面にフッ化アルミニウム層を有する窒化アルミニウム焼結体が、上記のハロゲン系腐蝕性ガスのプラズマに対して高い耐蝕性を備えていることを開示した。即ち、例えばClF3ガスに対して1時間窒化アルミニウム焼結体を曝露しても、その表面状態は変化が見られなかった。
【0005】また、本出願人は、窒化アルミニウム焼結体の表面に、CVD法等の気相法によってフッ化アルミニウム膜を形成することを開示した(特開平5-251365号公報)。また、特開平7-273053号公報においては、半導体ウエハー用静電チャックの表面の腐食を防止するために、静電チャックの表面を、予めフッ化で置換する表面処理を施し、静電チャックの表面にAlF3を生成させておくことが開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、本発明者が更に検討を進めたところ、高温領域、特に500℃以上の高温領域において、ClF3等のハロゲン系腐食性ガスに対して窒化アルミニウム質セラミックス製を暴露すると、暴露条件によってはセラミックスの腐食が進行し、パーティクルが発生してくることがあった。
【0007】本発明の課題は、低温から高温まで広い温度範囲にわたって、特に500℃以上もの高温領域において、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して暴露したときにも、腐食を防止し、パーティクルの発生を防止できるような耐蝕性部材を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であることを特徴とする、耐蝕性部材に係るものである。
【0009】また、本発明は、600℃以上の温度領域で、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露されるウエハー設置部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下であることを特徴とする、ウエハー設置部材に係るものである。
【0010】なお、一般に耐蝕性セラミックスとは、酸、アルカリ溶液に対するイオン反応性を示しているが、本発明では、イオン反応性ではなく、ドライガス中でのハロゲンガス酸化還元反応に対する反応性に着目している。
【0011】本発明者は、特に高温領域でハロゲン系腐食性ガスのプラズマに暴露した場合に、フッ化アルミニウム等の不動態化膜が設けられている窒化アルミニウム質セラミックスについて腐食が進行した理由を検討した。この結果、腐食が進行している耐蝕性部材においては、セラミックスの表面のアルミニウムフッ化物からなる不動能化膜がほぼ消失しており、その下にある窒化アルミニウム質粒子が腐食されており、また、窒化アルミニウム質粒子の間に存在している粒界相も腐食を受けていた。
【0012】こうした腐食の理由は明確ではないが、AlF3の蒸気圧は比較的に高く、フッ素の蒸気圧が0.001torrになる温度は約695℃であるので、高温領域ではAlF3の蒸発のプロセスが進行し、AlF3からなる不動能化が消失した部分の周辺から窒化アルミニウム質粒子の腐食が開始するものと考えられた。
【0013】例えば、蒸気圧が0.001torrに達する温度は、MgF2が1066℃であり、CaF2が1195℃であり、SrF2が1233℃であり、BaF2が1065℃であり、ScF3が975℃であり、PrF3が1100℃であり、EuF2が1134℃であり、AlF3が695℃である。
【0014】本発明者は、上記の課題を解決するため研究を進めていたが、意外にも、特定の焼結助材を含有する窒化アルミニウム質セラミックスを激しい腐食性条件下で腐食させたときに、ある時点で腐食の進行が停止し、セラミックスの表面に極めて耐蝕性の優れた新規な不動態化が生成していることを発見した。この膜は、驚くべきことに、500℃以上のハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対しても極めて高い耐蝕性を有しているものであった。
【0015】従って本発明による耐蝕性部材の製造方法は、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム100重量部と、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素を100ppm以上、60重量部以下とを含有する粉末を焼成することによって、緻密質の窒化アルミニウム質セラミックス製の焼結体を作製し、次いでこの焼結体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする。
【0016】また、本発明による耐蝕性部材の製造方法は、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して曝露される耐蝕性部材であって、本体と、この本体の表面に形成されている耐蝕層とを備えており、前記本体が、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、炭化ホウ素および窒化アルミニウム質セラミックスからなる群より選ばれた材質からなり、前記耐蝕層が、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素のフッ化物を含有しており、前記耐蝕層において、アルミニウムおよびアルカリ土類元素の元素数の総和に対するアルカリ土類元素の元素数の総和が20%以上、100%以下である耐蝕性部材を製造する方法であって、窒化アルミニウム質粒子と、前記窒化アルミニウム質粒子の粒界に存在する粒界相とを備えている窒化アルミニウム質セラミックスであって、前記粒界相中に、アルカリ土類元素から選ばれた一種以上の元素が含有されている窒化アルミニウム質セラミックスからなる本体を準備し、次いでこの本体をフッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって前記耐蝕層を生成させることを特徴とする。
【0017】窒化アルミニウムを焼結させる際には、焼結プロセスを促進させ、また焼結体の熱伝導率や機械的強度を高くするため、イットリア等の焼結助剤を添加できる。こうした焼結助剤は、焼結の終了後には、窒化アルミニウム粒子の粒界相に多く存在する。従来の知識では、焼結助材を含有する窒化アルミニウム質セラミックスをハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して暴露すると、フッ素ラジカル等が粒界相に沿って拡散し、粒界の体積が変化し、窒化アルミニウム粒子が脱落し、腐食が早期に進行するものと考えられていた。
【0018】ところが、驚くべきことに、こうした窒化アルミニウム質セラミックスを特定の激しい高温条件で高出力のハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して暴露すると、前記のような不動態化が生成することを発見した。
【0019】この不動態化膜は、顕著な成分として希土類元素、またはアルカリ土類元素のフッ化物を含有していた。これらの成分は、フッ化アルミニウムと同様の高い耐蝕性を有している上、フッ化アルミニウムに比べて一層高温でも蒸発しにくいことが、本発明の耐蝕性部材のハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対する著しい耐蝕性に貢献しているものと考えられる。
【0020】本発明者は更に研究を進め、耐蝕性部材の本体として窒化アルミニウム質セラミックス製の本体以外の材質からなる本体を使用し、この本体の表面に気相法等によって、希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上の元素のフッ化物からなる耐蝕層を形成した場合にも、極めて降温領域でハロゲン系腐食性ガスに対する高い耐食性を長期間にわたって得られることを見いだした。
【0021】この実施形態においては、特に、耐蝕層が、フッ化物からなる膜であることが好ましく、これによって広い範囲にわたってほぼ均質な保護を提供できる。
【0022】一層詳細に説明すると、電気陰性度が高いフッ素の化合物層を形成することによって、フッ素系ガス、および電気陰性度がフッ素よりも低い塩素系ガス、臭素系ガスに対する安定性が確保できる。しかも、蒸気圧が低い希土類あるいはアルカリ金属のフッ化物としたことによって、高温での安定性も確保できる。
【0023】フッ化物としては、前述のものが好ましく、フッ化マグネシウムであることが特に好ましい。
【0024】また、本体は、窒化珪素質セラミックス、炭化珪素質セラミックス、アルミナ、炭化ホウ素、酸化珪素および窒化アルミニウム質セラミックからなる群より選ばれた材質からなる。
【0025】また、本発明者は更に検討を進めた結果、本体の表面に、希土類元素およびアルカリ土類元素からなる群より選ばれた一種以上の元素の化合物からなる表面層を形成し、この表面層を、フッ素含有ガスのプラズマ中に500℃〜1000℃で保持することによって、前記フッ化物からなる耐蝕層を生成させ得ることを見いだした。これによって、一層確実かつ容易に、前記フッ化物からなる耐蝕層を生成させ得る。
【0026】この表面層の材質は特に限定されないが、希土類元素とアルミニウムとの単独酸化物、または2種類以上の金属の酸化物とすることが好ましい。更に好ましくは、表面層が、Y2O3-Al2O3の二元系酸化物およびY3Al5O12からなる群より選ばれた一種以上の酸化物からなる。
【0027】以下、本発明を更に具体的に説明する。
本発明の耐蝕性部材が対象とするハロゲン系腐食性ガスのプラズマとしては、ClF3ガス、NF3ガス、CF4ガス、WF6の他、Cl2、BCl3等に対して安定であることを見いだした。
【0028】本発明の耐蝕性部材を、ウエハー設置部材、特に半導体ウエハーを設置するためのサセプターとして使用すると、クリーニングガス、エッチングガスに対して安定な構造部品を提供できるうえに、半導体不良の原因となるパーティクルやコンタミネーションの発生を長期間に亘って防止できる。これにより、特にDRAM、4M等の高集積度半導体の製造にも初めて良好に対応できるようになった。
【0029】本発明を、赤外線ランプ加熱によって発熱するサセプター、半導体加熱用セラミックスヒーター、セラミックスヒーターの発熱面に設置されるサセプター、静電チャック用電極が埋設されているサセプター、静電チャック用電極および抵抗発熱体が埋設されているサセプター、高周波プラズマ発生用電極が埋設されているサセプター、高周波プラズマ発生用電極および抵抗発熱体が埋設されているサセプターに対して適用すると、半導体の成膜用、クリーニング用を問わず、極めて有益である。これらは、500℃以上の高温でハロゲン系腐蝕性ガスに対して曝露されることもあるので、有用な材料が望まれているからである。
【0030】また、本発明の耐蝕性部材は、ダミーウエハー、シャドーリング、高周波プラズマを発生させるためのチューブ、高周波プラズマを発生させるためのドーム、高周波透過窓、赤外線透過窓、半導体ウエハーを支持するためのリフトピン、シャワー板等の各半導体製造用装置の基体として、使用することができる。
【0031】サセプター中に埋設される金属部材は、通常は窒化アルミニウム粉末と同時に焼成するので、高融点金属で形成することが好ましい。こうした高融点金属としては、タンタル,タングステン,モリブデン,白金,レニウム、ハフニウム及びこれらの合金を例示できる。半導体汚染防止の観点から、更に、タンタル、タングステン、モリブデン、白金及びこれらの合金が好ましい。
【0032】また、ハロゲン系腐蝕性ガスからなるクリーニングガス、エッチングガスは、半導体製造業以外の化学工業において用いられているが、この分野における耐蝕性部材に対しても本発明は有効である。
【0033】前記希土類元素としては、Y、Yb、Ce、Pr、Euが特に好ましく、前記アルカリ土類元素としては、Mg、Ca、Sr、Baが好ましい。
【0034】また、これらの中でもイオン半径が0.9オングストローム以上のものが特に好ましい。このイオン半径は、R.D.ShannonおよびC.T.Prestwitz,「Acta Cryst.」B25,925頁(1969年)の方法による6配位の場合のイオン半径である。これには、La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Sm3+、Eu3+、Eu2+、Gd3+、Tb3+、Dy3+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Ra2+がある。
【0035】本発明の前述の各製造方法を実施するのに際して、窒化アルミニウム原料粉末としては、直接窒化法による粉末を使用でき、還元窒化法による粉末も使用できる。
【0036】また、希土類元素および/またはアルカリ土類元素は、窒化アルミニウムの原料粉末に対して、種々の形態で添加することができる。例えば、窒化アルミニウム原料粉末中に、希土類元素および/またはアルカリ土類元素の単体、またはその化合物の粉末を添加することができる。焼結所在の添加量が60重量部を越えると、得られる窒化アルミニウム質セラミックスの熱伝導率が60W/m・K未満に下がり、実用的でなくなる傾向がある。
【0037】希土類元素またはアルカリ土類元素の化合物としては、一般には、希土類元素の酸化物が最も入手し易い。希土類元素またはアルカリ土類元素の硝酸塩、硫酸塩、アルコキシド、フッ化物等の化合物を、これらの化合物が可溶性である適当な溶剤に溶解させて溶液を得、この溶液を窒化アルミニウム原料粉末に対して添加することができる。これによって、希土類元素が焼結体の各部分に均一に分散され易い。
【0038】調合工程においては、溶剤中に窒化アルミニウム原料粉末を分散させ、この中に希土類元素および/またはアルカリ土類元素の化合物を、酸化物粉末や溶液の形で添加することができる。混合を行う際には、単純な攪拌によっても可能であるが、前記原料粉末中の凝集物を解砕する必要がある場合には、ポットミル、トロンメル、アトリッションミル等の混合粉砕機を使用できる。添加物として、粉砕用の溶媒に対して可溶性のものを使用した場合には、混合粉砕工程を行う時間は、粉末の解砕に必要な最小限の短時間で良い。また、ポリビニルアルコール等のバインダー成分を添加することができる。
【0039】この粉砕用溶剤を乾燥する工程は、スプレードライ法が好ましい。また、真空乾燥法を実施した後に、乾燥粉末をフルイに通してその粒度を調整することが好ましい。
【0040】粉末を成形する工程においては、円盤形状の成形体を製造する場合には、金型プレス法を使用できる。成形圧力は、100kgf/cm2以上とすることが好ましいが、保型が可能であれば、特に限定はされない。粉末の状態でホットプレスダイス中に充填することも可能である。成形体中にバインダーを添加した場合には、焼成に先立って、酸化雰囲気中で200℃〜800℃の温度で脱脂を行うことができる。
【0041】次いで、成形体を、好ましくはホットプレス法、ホットアイソスタティックプレス法等によって焼成する。ホットプレス法またはホットアイソスタティックプレス法を採用した場合の圧力は、50kgf/cm2以上であることが好ましく、200kgf/cm2以上が更に好ましい。この上限は特に限定されないが、モールド等の窯道具の損傷を防止するためには、実用上は1000kgf/cm2以下が好ましい。
【0042】また、焼成時の最高温度まで、50℃/時間以上、1500℃/時間以下の昇温速度で温度を上昇させることが好ましい。最高温度は、1700℃〜2300℃とすることが好ましい。最高温度が2300℃を越えると、窒化アルミニウムの分解が始まる。最高温度が1700℃未満であると、粒子の効果的な成長が抑制される。
【0043】こうした焼結体等の窒化アルミニウム質セラミックス製の材質を、フッ素含有雰囲気のプラズマ中に500℃〜1000℃で保持する際には、むしろ激しい条件を採用することが好ましい。例えば、温度は600℃〜800℃が更に好ましく、プラズマ出力は、500W以上とすることが好ましい。このプロセスにおける耐蝕層の生成過程については更に後述する。
【0044】また、前記フッ化物からなる膜を本体上に生成させる方法は、膜に欠陥やピンホールが生成しない限り、特に限定されない。しかし、本体の形状が複雑であったり、大型である場合にはイオンプレーティング法が好ましく、カバープレートのような単純な形状のものや小型の製品の場合には、スパッタ法が好ましい。なお、これらの方法でコーティングを行う場合には、本体の表面で予め逆スパッタを行う等の方法によって、本体の表面を予め清浄化しておくことが好ましい。また、化学的気相成長法、溶射法、粉末塗布+熱処理も採用できる。
【0045】また、耐蝕層の厚さについても、クラックや剥離等の欠陥がなければ、特に制限されないが、耐蝕層が厚すぎると、基材と耐蝕層との間の熱膨張差に起因する熱応力によって、耐蝕層に割れやクラック等が生じやすくなるため、10μm以下とすることが好ましく、4μm以下とすることが一層好ましい。
【0046】また、耐蝕層にピンホールが生じないようにするためには、耐蝕層の厚さを0.2μm以上とすることが好ましく、1μm以上とすることが一層好ましい。
【0047】
【実施例】以下、更に具体的な実験結果について述べる。
〔実施例1〕
(窒化アルミニウム質セラミックスの製造)
まず、以下のようにして窒化アルミニウム質セラミックスを製造した。原料粉末としては、還元窒化法によって得られた窒化アルミニウム粉末を使用した。イットリウムの硝酸塩をイソプロピルアルコールに溶解させて添加剤溶液を製造し、この添加剤溶液を窒化アルミニウム原料粉末に対して、ポットミルを使用して混合した。窒化アルミニウムを100重量部としたときのイットリウムの添加量を4重量部とした。イットリウムのイオン半径は0.89オングストロームであった。
【0048】この原料粉末を、200kgf/cm2の圧力で一軸加圧成形することによって、直径200mmの円盤状成形体を作製した。この円盤状成形体をホットプレス型中に収容し、密封した。昇温速度300℃/時間で温度を上昇させ、この際、室温〜1000℃の温度範囲で減圧を行い、1000℃に到達した後、窒素ガスを2atmで導入するのと共に、圧力を200kgf/cm2に段階的に上昇させた。最高温度を1900℃とし、最高温度で4時間保持した。300℃/時間の冷却速度で1000℃まで冷却し、炉冷し、窒化アルミニウム焼結体を得た。こうして得られた窒化アルミニウム質セラミックスの熱伝導率は180W/m・Kであった。
【0049】(耐蝕層の生成)
NF3ダウンフロープラズマ中で、700℃で、前記焼結体を2時間保持した。ただし、NF3ガスをICP(流量は100sccm、13.56Hz、1kW)で励起し、ガス圧力を5torrとした。得られた耐蝕性部材について、表面を反射電子顕微鏡で観察した結果を、図1、図2に示す。ただし、図1は、耐蝕層を表面側から見たときの写真であり、図2は、耐蝕層およびその下地である窒化アルミニウム焼結体を切断し、切断面を研磨してから、斜め上方から撮影した写真である。
【0050】ここで、撮影部分の表面領域において、軽い原子が存在すると黒くなる傾向があり、重い原子が存在していると白くなる傾向があり、これらの原子の存在比率が写真中に濃淡として現れる。図1、図2からわかるように、この耐蝕性部材は、表面領域を除くと、窒化アルミニウム粒子と、その間の粒界相とが明確に残留している。一方、表面には窒化アルミニウム粒子も粒界相も残存しておらず、サブミクロンオーダーの極めて微細な略球形の粒子がほぼ一様に表面に多数密に突出しており、表面層を形成している。この表面層には腐食は見られない。
【0051】下地の窒化アルミニウム粒子は黒っぽい色をしており、比較的に軽い元素であるアルミニウムの存在を示している。一方、表面にある微細な粒子はやや灰色をしており、窒化アルミニウム粒子よりも重い元素が含有されていることがわかる。これと共に、特に図1からは、表面には白色の領域も見られるが、これはイットリウムが多量に存在している部分である。また、表面層を形成している微細な粒子の境界からは、下地の窒化アルミニウム粒子が見えている。また、表面耐蝕層の厚さは約0.5μmであった。
【0052】この表面耐蝕層の元素分布を、EDS(Energy Dispersive X-raySpectroscopy)によって測定した。この結果、主としてアルミニウム、イットリウム、窒素、フッ素、酸素が存在しており、アルミニウムの重量とイットリウムの重量の合計に対するイットリウムの重量の比率は30%であった。また、イットリウムはフッ化物として存在しているが、一部はガーネットとして残留している可能性もある。また、表面には、フッ化アルミニウムの膜は消失していた。
【0053】この理由は以下のようにも推測できる。即ち、NF3ガスプラズマへと暴露しているときにAlF3の大部分が蒸発し、窒化アルミニウム粒子が激しく腐食された。このときに、同時に窒化アルミニウム粒子の粒界層も腐食を受け、粒界層中のイットリアがフッ素化されたものと思われる。この際、イットリウムの量は窒化アルミニウム粒子に比べて少量であり、多量のフッ化イットリウムが凝集しにくかったために、サブミクロンオーダーの径を有する微細な粒子を窒化アルミニウムの表面に生成し、耐蝕層を生成したものと思われる。
【0054】(腐食試験)
耐蝕性部材を、ICPで励起した600℃、1torrのNF3ガス中で10時間保持した。ただし、流量は100sccmであり、13.56MHz、1kWの条件で励起した。耐蝕性部材について、反応前後の重量を測定した結果、耐蝕性試験後には、2mg/cm2の減少が見られた。
【0055】〔実施例2〕
実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を製造した。ただし、焼結助材としてカルシアをカルシウムに換算して0.03重量部添加した。ここで、カルシウムイオンのイオン半径は1.00オングストロームであった。得られた窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は80W/m・Kであった。
【0056】この焼結体を、CF4ダウンフロープラズマ中で、650℃で3時間保持した。ただし、CF4ガスをICP(流量は100sccm、13.56Hz、1kW)で励起し、ガス圧力を5torrとした。得られた耐蝕性部材について、表面を反射電子顕微鏡で観察した結果は、実施例1とほぼ同様であった。また、耐蝕層の厚さは3μmであり、主としてアルミニウム、カルシウム、窒素、フッ素、酸素が存在しており、アルミニウムの重量とカルシウムの重量の合計に対するカルシウムの重量の比率は20%であった。また、カルシウムはフッ化物として存在しているが、一部はガーネットとして残留している可能性もある。また、表面には、フッ化アルミニウムの膜は消失していた。
【0057】この耐蝕性部材について、実施例1と同様にして耐蝕性試験を行った結果、耐蝕性試験後には、5mg/cm2の減少が見られた。
【0058】〔実施例3〕
実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を製造した。ただし、焼結助材として三酸化二ランタンをランタンに換算して8.5重量部添加した。ここで、ランタンイオンのイオン半径は1.06オングストロームであった。得られた窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は140W/m・Kであった。
【0059】この焼結体を、NF3ダウンフロープラズマ中で、650℃で3時間保持した。ただし、NF3ガスをICP(流量は100sccm、13.56Hz、1kW)で励起し、ガス圧力を5torrとした。得られた耐蝕性部材について、表面を反射電子顕微鏡で観察した結果は、実施例1とほぼ同様であった。また、耐蝕層の厚さは2μmであり、主としてアルミニウム、ランタン、窒素、フッ素、酸素が存在しており、アルミニウムの重量とランタンの重量の合計に対するランタンの重量の比率は60%であった。また、ランタンはフッ化物として存在しているが、一部はガーネットとして残留している可能性もある。また、表面には、フッ化アルミニウムの膜は消失していた。
【0060】この耐蝕性部材について、実施例1と同様にして耐蝕性試験を行った結果、耐蝕性試験後には、0.1mg/cm2の減少が見られた。
【0061】〔実施例4〕
実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を製造した。ただし、焼結助材として炭酸ストロンチウムをストロンチウムに換算して0.89重量部添加した。ここで、ストロンチウムイオンのイオン半径は1.16オングストロームであった。得られた窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は150W/m・Kであった。
【0062】この焼結体を、NF3ダウンフロープラズマ中で、700℃で2時間保持した。ただし、NF3ガスをICP(流量は100sccm、13.56Hz、1kW)で励起し、ガス圧力を5torrとした。得られた耐蝕性部材について、表面を反射電子顕微鏡で観察した結果は、実施例1とほぼ同様であった。また、耐蝕層の厚さは6μmであり、主としてアルミニウム、ストロンチウム、窒素、フッ素、酸素が存在しており、アルミニウムの重量とストロンチウムの重量の合計に対するストロンチウムの重量の比率は60%であった。フッ化アルミニウムの膜は消失していた。
【0063】この耐蝕性部材について、実施例1と同様にして耐蝕性試験を行った結果、耐蝕性試験後には、0.1mg/cm2の減少が見られた。
【0064】〔実施例5〕
実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を製造した。ただし、焼結助材として、カルシアをカルシウムに換算して0.03重量部添加し、かつイットリアをイットリウムに換算して2.4重量部添加した。得られた窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率は170W/m・Kであった。
【0065】この焼結体を、NF3ダウンフロープラズマ中で、700℃で2時間保持した。ただし、NF3ガスをICP(流量は100sccm、13.56Hz、1kW)で励起し、ガス圧力を5torrとした。得られた耐蝕性部材について、表面を反射電子顕微鏡で観察した結果は、実施例1とほぼ同様であった。また、耐蝕層の厚さは5μmであり、主としてアルミニウム、カルシウム、イットリウム、窒素、フッ素、酸素が存在しており、アルミニウム、カルシウムおよびイットリウムの重量の合計に対するカルシウムおよびイットリウムの合計重量の比率は35%であった。フッ化アルミニウムの膜は消失していた。
【0066】この耐蝕性部材について、実施例1と同様にして耐蝕性試験を行った結果、耐蝕性試験後には、6mg/cm2の減少が見られた。
【0067】〔比較例1〕
実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を製造した。この焼結体を、ClF3ガス中で、600℃で3時間保持した。ただし、ClF3ガスの圧力を5torrとした。
【0068】得られた耐蝕性部材の反射電子顕微鏡による写真を図3、図4に示す。ただし、図3は、耐蝕層を表面側から見たときの写真であり、図4は、耐蝕層およびその下地である窒化アルミニウム焼結体を切断し、切断面を研磨してから、斜め上方から撮影した写真である。
【0069】ここで、耐蝕性部材の表面領域には、腐食途中の窒化アルミニウム粒子が現れており、かつ粒界相も現れている。各粒子の内部に向かって腐食が進行していた。またフッ化アルミニウム層は見られなかった。
【0070】この耐蝕性部材について、実施例1と同様にして耐蝕性試験を行った結果、耐蝕性試験後には40mg/cm2の減少が見られた。
【0071】〔比較例2〕
実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を製造した。この焼結体について、実施例1と同様にして耐蝕性試験を行った結果、耐蝕性試験後には100mg/cm2の減少が見られた。
【0072】〔実施例6〕
縦20mm、横20mm、厚さ1mmの平板形状の本体を準備した。ただし、本体の材質は、金属アルミニウム(JIS A1050:95%アルミニウム)、アルミナ(緻密質の95%アルミナ)、窒化アルミニウム(95%または99.9%)、石英ガラスまたは炭化珪素(常圧焼結によって得られた緻密質炭化珪素)とした。マグネトロンスパッタ法によって、厚さ1μmのフッ化マグネシウムからなる耐蝕層を生成させた。この際の条件は、スパッタ圧0.7-5Pa、200W、1〜10時間、アルゴンの流量18sccmとした。
【0073】各耐蝕性部材を、ICPで励起した600℃、0.1torrのClF3ガス中で5時間保持した。ClF3の流量は75sccmであり、アルゴンの流量は5sccmである。各耐蝕性部材について、反応前後の重量を測定した結果、耐蝕性試験後の腐食減量はいずれも0.1mg/cm2未満であり、耐蝕層の剥離やクラックも見られなかった。
【0074】〔実施例7〕
縦20mm、横20mm、厚さ1mmの平板形状の本体を準備した。ただし、本体の材質は、緻密質の窒化アルミニウム(96%)とした。マグネトロンスパッタ法によって、厚さ1μmのフッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化イットリウムまたはMgF2/YF3/AlNからなる各耐蝕層を生成させた。この際の条件は、スパッタ圧0.7-5Pa、200W、1〜10時間、アルゴンの流量18sccmとした。
【0075】各耐蝕性部材を、ICPで励起した600℃、0.1torrのClF3ガス中で5時間保持した。ClF3の流量は75sccmであり、アルゴンの流量は5sccmである。各耐蝕性部材について、反応前後の重量を測定した結果、耐蝕性試験後の腐食減量はいずれも0.1mg/cm2未満であり、耐蝕層の剥離やクラックも見られなかった。
【0076】〔実施例8〕
縦20mm、横20mm、厚さ1mmの平板形状の本体を準備した。ただし、本体の材質は、緻密質の窒化珪素(99%)とした。マグネトロンスパッタ法によって、厚さ0.2μm、1μmまたは4μmのフッ化マグネシウムからなる各耐蝕層を生成させた。この際の条件は、スパッタ圧0.7-5Pa、200W、1〜10時間、アルゴンの流量18sccmとした。
【0077】各耐蝕性部材を、ICPで励起した600℃、0.1torrのClF3ガス中で5時間保持した。ClF3の流量は75sccmであり、アルゴンの流量は5sccmである。各耐蝕性部材について、反応前後の重量を測定した。この結果、耐蝕性試験後の腐食減量はいずれも0.1mg/cm2未満であり、耐蝕層の剥離やクラックも見られなかった。
【0078】〔比較例3〕
実施例8において、緻密質の窒化珪素(99%)からなる本体に耐蝕層を設けることなく、実施例8と同様にして耐蝕製試験に供した。この結果、耐蝕性試験後の腐食減量は16mg/cm2であった。
【0079】〔実施例9〕
緻密質の96%窒化アルミニウム製のヒーターに、イオンプレーティング法によって、厚さ1μmのフッ化マグネシウムからなる耐蝕層を生成させた。
【0080】このヒーターを、ICPで励起した、0.1torrのClF3ガス中で熱サイクル試験に供した。ClF3の流量を75sccmとし、アルゴンの流量は5sccmとした。200℃と700℃との間で昇温と降温とを繰り返し、5サイクルの昇温-降温サイクルを実施した。各サイクルごとに、700℃で1時間保持した。ヒーターの耐蝕性試験後の腐食減量は、0.1mg/cm2未満であり、耐蝕層の剥離やクラックも見られなかった。
【0081】図5は、プラズマへの暴露前における、耐蝕層の断面の研磨面を反射電子顕微鏡で観察した結果を示す電子顕微鏡写真であり、図6は、プラズマへの暴露後における、耐蝕層の断面の研磨面を反射電子顕微鏡で観察した結果を示す電子顕微鏡写真である。プラズマへの暴露後も耐蝕層に顕著な変化は見られず、また剥離やクラックなどの欠陥やその他の変質も見られないことがわかる。
【0082】〔実施例10〕
緻密質の99.9%窒化アルミニウム製のカバープレート(直径210mm、厚さ10mmの円板形状)に、マグネトロンスパッタ法によって、実施例6と同様の条件で、厚さ1μmのフッ化マグネシウムからなる耐蝕層を生成させた。
【0083】このカバープレートを、ICPで励起した、0.1torrのClF3ガス中で熱サイクル試験に供した。ClF3の流量は75sccmであり、アルゴンの流量は5sccmとした。200℃と715℃との間で昇温と降温とを繰り返し、5サイクルの昇温-降温サイクルを実施した。5回の熱サイクルを実施する際に、715℃で合計78時間保持した。カバープレートの耐蝕性試験後の腐食減量は、0.1mg/cm2未満であり、耐蝕層の剥離やクラックも見られなかった。
【0084】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、低温領域から高温領域まで広い温度範囲にわたって、特に500℃以上の高温領域において、ハロゲン系腐食性ガスのプラズマに対して耐蝕性部材を暴露したときにも、耐蝕性部材の表面の腐食を防止し、パーティクルの発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の耐蝕性部材において、耐蝕性部材の表面の耐蝕層の反射電子像を示す図面代用写真である。
【図2】実施例1の耐蝕性部材において、耐蝕性部材の表面およびその下地の窒化アルミニウム粒子の反射電子像を示す図面代用写真である。
【図3】比較例1の耐蝕性部材において、耐蝕性部材の表面の窒化アルミニウム粒子の反射電子像を示す図面代用写真である。
【図4】比較例1の耐蝕性部材において、耐蝕性部材の表面およびその下地の窒化アルミニウム粒子の反射電子像を示す図面代用写真である。
【図5】実施例9の耐蝕性部材において、プラズマに暴露する前の耐蝕層の断面における反射電子像を示す図面代用写真である。
【図6】実施例9の耐蝕性部材において、プラズマに暴露した後の耐蝕層の断面における反射電子像を示す図面代用写真である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-04-20 
出願番号 特願平9-325171
審決分類 P 1 651・ 537- YA (C23C)
P 1 651・ 121- YA (C23C)
P 1 651・ 113- YA (C23C)
P 1 651・ 536- YA (C23C)
最終処分 維持  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 瀬良 聡機
市川 裕司
登録日 2002-10-18 
登録番号 特許第3362113号(P3362113)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 耐蝕性部材、ウエハー設置部材および耐蝕性部材の製造方法  
代理人 梅本 政夫  
代理人 徳永 博  
代理人 徳永 博  
代理人 杉村 純子  
代理人 青木 純雄  
代理人 青木 純雄  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 梅本 政夫  
代理人 杉村 興作  
代理人 中谷 光夫  
代理人 中谷 光夫  
代理人 杉村 興作  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 高見 和明  
代理人 杉村 純子  
代理人 高見 和明  

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