• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 一部申し立て 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明  H01L
審判 一部申し立て 4号2号請求項の限定的減縮  H01L
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 一部申し立て 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正  H01L
管理番号 1121150
異議申立番号 異議2003-72807  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-04-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-19 
確定日 2005-05-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3406899号「圧電アクチュエータおよびその製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3406899号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続きの経緯
本件特許第3406899号に係る手続の主な経緯は次のとおりである。
特許出願(特願2000-308988号) 平成12年10月10日
特許権設定登録 平成15年 3月 7日
特許異議申立(特許異議申立人 村田博) 平成15年11月19日
取消理由通知 平成16年10月26日(起案日)
特許異議意見書・訂正請求書 平成16年12月20日

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正事項について
(1)訂正事項1
「【請求項1】 圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる圧電アクチュエータであって、
前記圧電体は圧電体の厚み方向に略直交する方向に分極され、
前記圧電体を積層方向に挟んで対向する電極間に駆動電圧を印加することにより、前記圧電体がずり剪断変形を起こすことを特徴とする圧電アクチュエータ。」を
「【請求項1】 圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる、一体焼成法により作製される圧電アクチュエータであって、
前記圧電体はその厚み方向に略直交する方向に前記複数本の導体の一部を用いて分極され、
前記圧電体を積層方向に挟んで対向する電極間に駆動電圧を印加することにより、前記圧電体がずり剪断変形を起こすことを特徴とする圧電アクチュエータ。」と訂正する。
(2)訂正事項2
「【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明によれば、圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる圧電アクチュエータであって、前記圧電体は圧電体の厚み方向に略直交する方向に分極され、前記圧電体を積層方向に挟んで対向する電極間に駆動電圧を印加することにより、前記圧電体がずり剪断変形を起こすことを特徴とする圧電アクチュエータ、が提供される。」を
「【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明によれば、圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる、一体焼成法により作製される圧電アクチュエータであって、
前記圧電体はその厚み方向に略直交する方向に前記複数本の導体の一部を用いて分極され、
前記圧電体を積層方向に挟んで対向する電極間に駆動電圧を印加することにより、前記圧電体がずり剪断変形を起こすことを特徴とする圧電アクチュエータ、が提供される。」と訂正する。
(3)訂正事項3
「【0014】
【発明の実施の形態】
図1(a)は、本発明の圧電アクチュエータの一実施形態を示す断面図である。圧電アクチュエータ10は、圧電体12と、複数本の導体11が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、圧電体12の厚み方向に交互に積層された構造を有する。同一層内に存在する全ての導体11は接続されて1層の内部電極を形成しており、こうして形成される内部電極はさらに積層方向に1層おきに図示しない外部電極によって接続され、1組の駆動用電極13がされている。」を
「【0014】
【発明の実施の形態】
図1(a)は、本発明の圧電アクチュエータの一実施形態を示す断面図である。圧電アクチュエータ10は、圧電体12と、複数本の導体11が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、圧電体12の厚み方向に交互に積層された構造を有する。同一層内に存在する全ての導体11は接続されて1層の内部電極を形成しており、こうして形成される内部電極はさらに積層方向に1層おきに図示しない外部電極によって接続され、1組の駆動用電極13が形成されている。」と訂正する。
2.訂正の内容
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1において、「圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる圧電アクチュエータであ」ることを、「圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる、一体焼成法により作製される圧電アクチュエータであ」ることに訂正すること(訂正事項1-1)と、「前記圧電体は圧電体の厚み方向に略直交する方向に分極され」ることを「前記圧電体はその厚み方向に略直交する方向に前記複数本の導体の一部を用いて分極され」ることに訂正すること(訂正事項1-2)に区分できる。
(2)訂正事項2について
「1.(2)訂正事項2」に記載したとおりである。
(3)訂正事項3について
特許明細書の第14段落の記載の「同一層内に存在する全ての導体11は接続されて1層の内部電極を形成しており、こうして形成される内部電極はさらに積層方向に1層おきに図示しない外部電極によって接続され、1組の駆動用電極13がされている。」を「同一層内に存在する全ての導体11は接続されて1層の内部電極を形成しており、こうして形成される内部電極はさらに積層方向に1層おきに図示しない外部電極によって接続され、1組の駆動用電極13が形成されている。」と訂正するもの、即ち、「1組の駆動用電極13がされている。」を「1組の駆動用電極13が形成されている。」と訂正するものである。

3.訂正の目的の適否、明細書記載事項の範囲内外及び拡張・変更の有無について
(1)訂正事項1について
訂正事項1-1について
特許明細書の第41段落、第43段落から第45段落には、「圧電体の薄膜化が容易であるグリーンシートを用いた一体焼成法による圧電アクチュエータ10の作製方法の一実施形態について、図4の説明図を参照しながら説明する。」(第41段落)、「得られたグリーンシートに打ち抜き加工等を施して所定形状とし、スクリーン印刷法等を用いて、所定のパターンを印刷する。」(第43段落)、「所定枚数のグリーンシート20を、積層方向から投視した場合に導体21が重なり合い、素子部30においては全てのグリーンシート20が重なり合うが、端子部40は1層おきに重なり合うように互い違いに積層する。・・・積層されたグリーンシート20を熱プレス等を用いて一体化する。こうして、・・・端子部40が対向する側面において交互に露出した状態の積層体24が得られる。」(第44段落)及び、「積層体24を焼成することで、グリーンシート20は焼結して圧電体20aとなり、導体21も焼結して良導体となる。こうして導体21が圧電体20aに埋設されるかたちで、圧電体20aと導体21が一体的に形成された積層体24aを得ることができる。」(第45段落)と記載されており、「圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる圧電アクチュエータ」が「一体焼成法により作製される」ものであることは上記各段落に記載された事項から明らかであり、訂正事項1-1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項1-2について
特許明細書の第43段落及び、第46段落から第49段落には、「グリーンシート20は、圧電アクチュエータとして動作させることとなる素子部30と分極処理の際に電源と接続するために用いることとなる端子部40から構成されており、素子部30には、分極用および駆動用の電極となる略線状の導体21が所定間隔で平行に並べられて形成されている。」(第43段落)、「得られた積層体24aの分極処理にあたっては、先に図2を参照しながら説明した方法を用いることができる。積層体24aの表面には、第1層と第2層の圧電体20aにおける端子部40が露出しているから、これらの端子部40を利用すれば、電源と端子23との接続が容易である。例えば、図4(c)の平面図に示されるように、図4(c)左側の位置P1にある第1層の端子23と、図4(b)右側の位置P5にある第2層の端子23との間に所定の電圧を印加することにより、前記図2(c)と同様に分極処理を行うことができ、さらに前記図2(d)に従って第1層の圧電体20aを分極することができる。」(第46段落)、「第1層の圧電体20aの分極が終了した後には、第1層の圧電体20aにおける端子部40を機械加工やレーザ加工等を用いて素子部30から切り離す。・・・前記図2(e)と同様に第2層の圧電体20aの分極処理を行うことができる。」(第47段落)、「第2層の圧電体20aの分極が終了した後に、第2層の圧電体20aの端子部40を素子部30から切り離すと、第4層の圧電体20aの端子部40が露出するから、以降、第3層の端子部40と第4層の端子部40を用いて分極を行う。このように1層の圧電体20aの分極が終了した後に、逐次、最上部に露出している端子部40を切り離して、表面に露出した2箇所の端子部40を利用して分極処理を行う。全ての圧電体20aについて分極を終了した後には、図4(e)の平面図に示されるように、素子部30のみが残るように切断等の加工を行い、素子体24bを得る。」(第48段落)、及び「1枚のグリーンシート20に形成されていた導体21の全てを図4(f)の側面図に示すように外部電極25により接続し、さらに1層おきに接続する。こうして圧電アクチュエータ10が作製され、形成された外部電極25間に駆動電圧を印加することにより、素子体24bに図4(f)中の点線で示すような剪断変形を起こさせることが可能となる。」(第49段落)と記載されており、「前記圧電体は圧電体の厚み方向に略直交する方向に分極され」る圧電アクチュエータにおいて、分極される方向が、圧電体そのものの「厚み方向に略直交する方向」即ち、「その厚み方向に略直交する方向」であることは明らかであって、圧電体の分極において、圧電体に「分極用および駆動用の電極となる略線状の導体21が所定間隔で平行に並べられて形成され」るとともに、これら導体21の一部を用いて圧電体を分極していることは上記第46段落から第49段落の記載から明らかであるから、「前記圧電体は圧電体の厚み方向に略直交する方向に分極され」を「前記圧電体はその厚み方向に略直交する方向に前記複数本の導体の一部を用いて分極され」と訂正することは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1の訂正に伴って、請求項1に関連する特許明細書の第10段落の記載を請求項1の訂正に整合させるための訂正であり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(3)訂正事項3について
訂正前の「1組の駆動用電極13がされている。」なる記載は、日本語として明りょうでなく、訂正前の「同一層内に存在する全ての導体11は接続されて1層の内部電極を形成しており、こうして形成される内部電極はさらに積層方向に1層おきに図示しない外部電極によって接続され、1組の駆動用電極13がされている。」の記載及び特許明細書の他の記載を参酌すると、「1組の駆動用電極13が形成されている。」と訂正することにより、日本語として明りょうとなり、また、訂正前の「1組の駆動用電極13がされている。」なる記載は、誤記であるとも解釈できるから、訂正事項3は、明りょうでない記載の釈明又は誤記の訂正を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(4)むすび
訂正事項1ないし3を含む上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。
4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項において準用する改正前の特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので当該訂正を認める。

第3 異議申立について
1.異議申立の概要
(1)特許異議申立人村田博による特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人村田博は、証拠として本件出願前国内において頒布された
1)甲第1号証 特開平7-332983号公報
2)甲第2号証 特公平4- 18483号公報
3)甲第3号証 特開平6-153536号公報
を提出し、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、また、本件請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきである旨主張している。
2.取消理由通知の概要
平成16年10月26日付けの取消理由通知の内容は、以下のとおりである。
「1)特許法第29条違反について
本件の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、本件の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
本件の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1ないし3に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

さらに、特許異議申立人村田博が提出した特許異議申立書の「4.具体的理由」を参照されたい。また、村田博提出の特許異議申立書において、甲第1号証ないし甲第3号証は、それぞれ刊行物1ないし刊行物3と読み替えるものとする。



刊行物1.特開平7-332983号公報(村田博提出の甲第1号証)
刊行物2.特公平4- 18483号公報(同甲第2号証)
刊行物3.特開平6-153536号公報(同甲第3号証)」
3.刊行物記載事項
(3-1)刊行物1.特開平7-332983号公報(特許異議申立人村田博提出の甲第1号証)
刊行物1には、図1〜図6、図9とともに、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電体内に1ないし複数の駆動用内部電極を駆動用表面電極に対向して設けたものをすべり方向に沿って等間隔に複数列設けていて、隣接する駆動用の電極間に電位差を与えると、該すべり方向に沿って剪断変形が生じるように分極処理を施していることを特徴とするすべり歪み素子。
【請求項2】 請求項1において、すべり方向は円周方向、又は圧電体の厚み方向および駆動用電極の配設方向と直交する方向であることを特徴とするすべり歪み素子。
【請求項3】 請求項1または2において、圧電体内に分極処理用の電極を駆動用の電極に対して互い違いに配置していて、該分極処理用の電極を該駆動用の電極の面積よりも小さくしたことを特徴とするすべり歪み素子。
【請求項4】 請求項1、2、3のいずれかに記載のすべり歪み素子を振動源とすることを特徴とする振動装置。」
「【0016】本実施例のすべり歪み素子は、圧電体1の厚み方向における両面および中央部分に正対して駆動・検出用電極2bを一定間隔を有して複数列設け、また圧電体1の内部には、その中央部分の駆動・検出用電極2bよりも表裏側位置に一対の分極用電極2aを配置し、この一対の分極用電極2aは一定間隔で駆動・検出用電極2bの間に配置されている。このように分極用電極2aと駆動・検出用電極2bを三次元的に多層配置した構成のすべり歪み素子の分極処理を図2により説明する。
【0017】分極用電極2aには、図中、(+)、(-)で示す対角位置同士の電極に同電位の電位を与え、これらの電極間に全体が十分に分極されるだけの電位差を十分な処理時間を要し、しかも十分な温度環境下において与える。そして、この処理により図2中矢印で示す方向の分極が生じる。
【0018】次に、このように分極処理されたすべり歪み素子の駆動・検出用電極2bに図3に示した極性で電圧を加えると、図3中矢印で示す方向に電界が生じる。
【0019】ここで、すべり歪み素子の図2に示す分極方向は、図4で示す白ぬき矢印の厚み方向、図5で示す白ぬき矢印の右斜め方向、図6で示す白ぬき矢印の左斜め方向の3方向に存在する。そして、厚み方向における平面内の隣接する駆動・検出用電極2bにより囲まれる本実施例の正方形状の領域に、図4、図5、図6に示すように夫々黒矢印の電界が加わると、該領域は破線で示すように剪断変形が発生し、上下辺にその辺方向でずれ(すべり)が生じる。
【0020】したがって、図1に示すように電極2a、2bを平行に配置し、図2に示す分極処理の行われたすべり歪み素子に対して、図3のように電圧を印加すると、図1に示す素子の電極の方向と直交する図面の左右方向にすべりが生じる素子を得ることができ、また例えば図1の素子の厚み方向に中心軸を有し、電極2a、2bをこの中心軸の回りに放射状に配置することにより、該軸を中心に剪断変形するねじり歪み素子を得ることができる。」
「【0031】本実施例は、上記した第1あるいは第2の実施例に示すすべり歪み素子の電極の配置状態の一例を示し、○1、○2、○3および○4で示す圧電板を積層したものを一群とし、これをn群(nは整数)積層したものである。
【0032】第1の圧電板○1と、第3の圧電板○3は、駆動・検出用のくし歯状電極2bと2b’を向かい合わせにして圧電体1上に例えば印刷法等により形成していて、第1の圧電板○1のくし歯状電極2bの電極と、第3の圧電板○3のくし歯状電極2b’の電極とを上下方向において対向させ、同様に第1の圧電板○1のくし歯状電極2b’の電極と、第3の圧電板○3のくし歯状電極2bの電極とを上下方向において対向させている。
【0033】また、第2の圧電板○2と、第4の圧電板○4は、分極用くし歯状電極2aと2a’を向かい合わせにして圧電体1上に形成していて、第2の圧電板○2のくし歯状電極2aの電極と、第4の圧電板○4のくし歯状電極2a’の電極とを上下方向において対向させ、同様に第2の圧電板○2のくし歯状電極2a’の電極と、第4の圧電板○4のくし歯状電極2aの電極とを上下方向において対向させている。」
「【0036】このような構成のすべり歪み素子において、スルーホール7bと7dに所定の電位差を有する電圧を与えると、図2に示すような方向に分極処理がなされ、スルーホール7aと7cに図3に示すような極性の電圧を加えると、紙面の左右方向の剪断変形が生じる。」
よって、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「圧電体内に1ないし複数の駆動用内部電極を駆動用表面電極に対向して設けたものをすべり方向に沿って等間隔に複数列設け、前記圧電体内に分極処理用の電極を前記駆動用内部電極に対して互い違いに配置するとともに、前記複数列の隣接する前記駆動用の複数の電極間に電位差を与えると、該すべり方向に沿って剪断変形が生じるように分極処理を施していることを特徴とするすべり歪み素子。」
(3-2)刊行物2.特公平4-18483号公報(特許異議申立人村田博甲第2号証)
刊行物2には、第1図とともに、以下の事項が記載されている。
「1 厚み方向と直行する方向に全体として一方向に分極されたセラミツクス内に、複数の電極がセラミツクスの厚み方向に相互に重なり合いかつ平行に設けられた、厚みすべり振動を利用する圧電素子。
2 セラミツクグリーンシートの電極を形成すべき部分にカーボンペーストあるいはセラミツク粉末を含むカーボンペーストを塗布、印刷し、
このセラミツクグリーンシートを複数枚積層して積層体とし、この積層体を焼成することにより、カーボンペーストあるいはセラミツク粉末を含むカーボンペーストのカーボンを消失させて空洞を形成し、
得られたセラミツクスの両側面に分極用電極を形成してセラミツクスの厚み方向と直交する方向に全体として一方向に分極を施し、
次いで、空洞に溶融金属を充填し、その後冷却、固化することにより電極を形成することを特徴とする、厚みすべり振動を利用する圧電素子の製造方法」(特許請求の範囲第1項及び第2項)
「・・・次に、得られたセラミツクスの両側面に分極用電極を形成してセラミツクスの厚み方向と直交する方向に全体として一方向に分極を施す。次いで、空洞に溶融金属を充填し、その後冷却、固化することにより電極を形成する。この方法によって、厚みすべり振動を利用する圧電素子が容易に得られる。」(第2頁第3欄第6〜12行)
「・・・第1図は、セラミツクス1内に複数の電極2がセラミツクス1の厚み方向に相互に重なりかつ平行に設けられている圧電素子3を示す斜視図である。」(第2頁第3欄第15〜18行)
「・・・分極用電極4,5をセラミツクス1の両側面に形成し、厚み方向と直交する方向すなわち矢印P方向に分極するように分極処理が施される。」(第2頁第3欄第25〜28行)
「・・・そして、その状態でセラミツクス1の前後両側面上に外部電極を形成し、電圧を印加すれば、厚みすべり振動が取出される。」(第3頁第5欄第15〜18行)
(3-3)刊行物3.特開平6-153536号公報(特許異議申立人村田博甲第3号証)」
刊行物3には、図1〜図3とともに、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】板状に形成され、厚さ方向に対し直交する方向に分極され、厚さ方向の電圧印加によって該分極方向にすべり変位する電気-機械エネルギー変換素子を、上記分極方向を一致させて複数枚積層し、一方向に屈曲変位させることを特徴とするアクチュエータ。」
「【0010】この第1実施例は、圧電素子として、電界と直角方向に分極され、面に沿つた方向に変位するすべり方向圧電素子1を用いている。ここで、応力ゼロの状態で単位電界を与えたときに生ずる歪率である圧電定数(m/V)を考えると、一般に、エネルギーの変換能力を表す、電気機械結合係数が同等であっても、すべり方向の圧電定数d15は厚み方向の圧電定数d33よりも大きく、比較的大きな振動振輻が得られやすい。本第1実施例では、このようなすべり方向圧電素子1を、分極方向を一致させて多数枚積層し、電圧印加によつてアクチュエータを屈曲変位させるようになっている。
【0011】図2は、上記すべり方向圧電素子1を示した斜視図である。
【0012】この図に示すように、該すべり方向圧電素子1は、円盤形状の圧電素子に図中、矢印の方向に分極処理されたもので、端面に銀またはニッケル等の電極が形成されている。該すべり方向圧電素子1の端面に電圧を印加すると、図3に示す電圧印加変形図のように変形し、面に沿つた方向(すべり方向)に変位する。
【0013】複数枚の上記すべり方向圧電素子1を、図1に示すように分極方向が一致するように積層し、各すべり方向圧電素子1の間に、端面が該すべり方向圧電素子1と同等な形状をなす薄板形状の電極板2を配設し、各構成部材の間にエポキシ系の接着剤を塗布後、圧着し、積層型屈曲圧電アクチュエータ3を構成する。また、上記すべり方向圧電素子1間に配設された上記電極板2は一層毎に互いに接続され、図示の如く正電極と負電極とを構成し、図示しない外部電源より電圧が印加されるようになっている。」

4.本件発明
上記第2 4.のとおり、訂正請求は容認されたので、本件発明はその訂正請求書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる、一体焼成法により作製される圧電アクチュエータであって、
前記圧電体はその厚み方向に略直交する方向に前記複数本の導体の一部を用いて分極され、
前記圧電体を積層方向に挟んで対向する電極間に駆動電圧を印加することにより、前記圧電体がずり剪断変形を起こすことを特徴とする圧電アクチュエータ。」

5.対比・判断
刊行物1に記載された発明と本件発明とを対比する。
「すべり歪み素子」がアクチュエータに用いられることは周知の技術的事項であるから、刊行物1発明の「すべり歪み素子」は、本件発明の「圧電アクチュエータ」に相当する。
刊行物1発明の「圧電体内に1ないし複数の駆動用内部電極を駆動用表面電極に対向して設けたものをすべり方向に沿って等間隔に複数列設け」た構成は、本件発明の「圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる」構成における「複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極」を「前記圧電体の厚み方向」に積層したものに相当する。
刊行物1発明の「前記複数列の隣接する前記駆動用の複数の電極間に電位差を与えると、該すべり方向に沿って剪断変形が生じる」ことは、本件発明の「前記圧電体を積層方向に挟んで対向する電極間に駆動電圧を印加することにより、前記圧電体がずり剪断変形を起こすこと」に相当する。
刊行物1発明の「駆動用内部電極」、「駆動用」の「電極」は、本件発明の「駆動電圧を印加する」「電極」に相当する。
よって、本件発明と刊行物1発明とは、
「圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる圧電アクチュエータであって、
前記圧電体を積層方向に挟んで対向する電極間に駆動電圧を印加することにより、前記圧電体がずり剪断変形を起こすことを特徴とする圧電アクチュエータ。」で一致し、以下の各点で相違する。
相違点1
本件発明が、「圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる、一体焼成法により作製される圧電アクチュエータ」であるのに対して、
刊行物1発明は、上記の構成を備えていない点。
相違点2
本件発明が、「前記圧電体は圧電体のその厚み方向に略直交する方向に前記複数本の導体の一部を用いて分極され」ているのに対して、
刊行物1発明は、「前記圧電体内に分極処理用の電極を前記駆動用内部電極に対して互い違いに配置」し、分極処理用の電極を用いて圧電体を分極している点。
以下、各相違点について検討する。
相違点1について
刊行物1には、第31段落から第33段落に、「すべり歪み素子」を製造するための工程が記載されているが、「すべり歪み素子」は、印刷法等よりその表面に駆動・検出用のくし歯状電極を形成した第1の電圧板、第2の電圧板、第3の電圧板、第4の電圧板を積層したものを一群として、これをn群(nは整数)積層して形成したものであるから、刊行物1に記載される「すべり歪み素子」は、一体焼成法により作製されていないし、すべり歪み素子を一体焼成法により作製することについて何らの示唆もない。。
刊行物2には、「厚み方向と直行する方向に全体として一方向に分極されたセラミツクス内に、複数の電極がセラミツクスの厚み方向に相互に重なり合いかつ平行に設けられた、厚みすべり振動を利用する圧電素子。」(特許請求の範囲第1項)は記載されているが、刊行物2の圧電素子は、「セラミツクグリーンシートの電極を形成すべき部分にカーボンペーストあるいはセラミツク粉末を含むカーボンペーストを塗布、印刷し、このセラミツクグリーンシートを複数枚積層して積層体とし、この積層体を焼成することにより、カーボンペーストあるいはセラミツク粉末を含むカーボンペーストのカーボンを消失させて空洞を形成し、得られたセラミツクスの両側面に分極用電極を形成してセラミツクスの厚み方向と直交する方向に全体として一方向に分極を施し、次いで、空洞に溶融金属を充填し、その後冷却、固化することにより電極を形成することを特徴とする」(特許請求の範囲第2項)圧電素子であって、本件発明の如く、「圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる、一体焼成法により作製される」ものである点については記載も示唆もされていない。
さらに、相違点1に関して、刊行物3には何らの記載も示唆もされていない。
よって、相違点1は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に考えられたものとはいえない。
相違点2について
本件発明は、「前記圧電体は圧電体のその厚み方向に略直交する方向に前記複数本の導体の一部を用いて分極され」ており、即ち、圧電体を駆動するために電圧を引加するための「複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極」において「前記複数本の導体」の一部を用いて、圧電体の分極をしており、「前記複数本の導体」である上記電極以外の追加の電極を形成して、圧電体の分極を行ってはいない。
一方、刊行物1発明においては、「前記圧電体内に分極処理用の電極」を駆動用内部電極とは別途、「前記駆動用内部電極に対して互い違いに配置」しているから、圧電体の分極のために、「駆動用内部電極」は使用しておらず、「すべり歪み素子」の動作状態においては、「分極処理用の電極」は圧電体内に配置されている。
また、刊行物2及び3には、相違点2に関する技術的事項は記載も示唆もされていない。
したがって、刊行物1発明において、駆動用の内部電極の一部を用いて、圧電体の分極処理を行うことはできないから、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて、本件発明の如く、「前記圧電体は圧電体のその厚み方向に略直交する方向に前記複数本の導体の一部を用いて」分極するという構成を当業者が容易に考えられたとすることはできない。
また、本件発明は、「圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる、一体焼成法により作製される圧電アクチュエータ」であって、「前記圧電体は圧電体のその厚み方向に略直交する方向に前記複数本の導体の一部を用いて分極され」るとの構成を備えることにより、「このような圧電アクチュエータは、圧電体の厚みが薄いために低電圧駆動が可能であり、しかも積層構造に起因して大きな変位量が得られるという効果を奏し、さらに、一体焼成法を用いることによって生産性が高められるといった効果を奏する。さらに、分極処理電圧を小さくすることも可能であ」る(第53段落参照)という特許明細書に記載された顕著な効果を奏する。
よって、本件発明は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできないから、本件特許についての発明は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、異議申立は理由がない。

6.特許異議申立についての判断のむすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び取消理由によっては本件特許の請求項1に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
圧電アクチュエータおよびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる、一体焼成法により作製される圧電アクチュエータであって、
前記圧電体はその厚み方向に略直交する方向に前記複数本の導体の一部を用いて分極され、
前記圧電体を積層方向に挟んで対向する電極間に駆動電圧を印加することにより、前記圧電体がずり剪断変形を起こすことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】 前記導体の幅が前記圧電体の厚みの0.2倍以上5倍以下であり、かつ、同一層内の全ての導体が接続されてなる電極が前記圧電体の厚み方向において1層おきに電気的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】 略平行に並べられた前記導体間の間隔が、前記導体の幅以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】 圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる圧電アクチュエータの製造方法であって、
第2n-1(n:自然数)層に位置する1本の導体を第1電極とし、第2n層において前記第1電極から所定距離ほど離れて位置する1本の導体を第2電極とし、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加して、前記第1電極と前記第2電極の間の圧電体に、前記圧電体の厚み方向に略垂直な方向に分極を形成する第1工程と、
前記第1電極と前記第2電極との距離を前記所定距離に保つことが可能であり、かつ、分極方向を同じとすることができる全ての導体について前記第1電極と前記第2電極の組を同一層において逐次形成して、前記第1工程に従って分極処理を行う第2工程と、
前記第2n-1層直下の圧電体に形成される分極の向きと、前記第2n層直下の圧電体に形成される分極の向きとが逆向きとなるように、全ての自然数nについて前記第1工程および第2工程を行う第3工程と、
全ての自然数nについて、前記第2n層に位置する全ての導体を接続し、また、前記第2n-1層に位置する全ての導体を接続して、駆動用の正極および負極を形成する第4工程と、
を有することを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、X-Yステージ等の位置決め機構、リニアモータ、回転モータ、或いはパーツフィーダ等の搬送機等に用いられる、ずり剪断変形(15モード)を利用して駆動する圧電アクチュエータおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、図6(a)・(b)の説明図に示すように、圧電体91に1対の分極用電極92を設けて分極処理を施し(図6(a))、次に分極用電極92を除去して、分極方向と直交する方向に電界を印加するための駆動用電極93を形成して、駆動用電極93に電圧を印加する(図6(b))と、生ずる駆動電界によって圧電体91に一般的に15モードと呼ばれる「ずり剪断変形」が起こることが知られている。
【0003】
また、主に圧電体の厚み-縦変位モード(33モード)を用いる素子として、図5に示すような、1層の圧電体95の厚みを薄くして、内部電極96と交互に幾層にも重ねた、いわゆる積層型圧電素子97が知られている。内部電極96は交互に外部電極98と接続されて1対とされ、分極と駆動を兼ねて用いられる。このような圧電体95の薄板化と積層化は、電源回路の負担を低減するために求められている駆動電圧の低電圧化を実現しつつ、大きな変位量を得る1つの方法である。
【0004】
このような積層型圧電素子の製造方法としては、分極された、または分極されていない圧電体と給電用金属箔(板)とを交互に重ねて、各層間を樹脂接着剤等で接合して多層化する方法や、圧電セラミックス粉末をドクターブレード法や押出成形法等によりシート状に成形したものに、電極ペーストを用いて所定の電極パターンを印刷等して複数段に積層、一体化し、電極と圧電セラミックスとを一体同時焼成する方法等がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、15モードによる圧電素子の駆動を上述した一体同時焼成型の積層型圧電素子97で実現することは、積層型圧電素子97の構造そのままにしては不可能である。なぜなら、一体同時焼成型の積層型圧電素子97に形成された内部電極96を分極用電極として用いた場合には、分極後に内部電極96を除去することができないために、積層型圧電素子97の側面(外部電極98が形成されるべき面)に駆動用電極を形成しても、駆動用電極に印加する電圧による生ずる電界はなお存在する内部電極96を流れてしまい、分極された圧電体に電界は印加されないからである。
【0006】
逆に、内部電極96を駆動用電極として用いる場合には、積層型圧電素子97の側面に分極用電極を形成して電圧を印加しなければならないが、この場合でも、分極用電極による電界は内部電極96を流れてしまい、分極することができない問題がある。
【0007】
従って、15モードで駆動する圧電体を多層化する場合には、個々に作製した15モード素子を樹脂接着剤等を用いて接合するしか方法がなかった。しかし、この場合には多層化の作業におけるハンドリングや生産性の問題から、圧電体の機械的強度を確保するために圧電体の厚みを薄くするにも限界があり、そのために駆動電圧の低電圧化が困難であった。
【0008】
また、板状の15モード素子を厚み方向に多層化する場合には、分極処理を側面に形成した電極を用いて行う必要があるが、例えば、表面の面積が大きいために分極用電極間の距離が長くなる場合や、15モードのずり剪断変形を所定の方向で引き起こすために分極用電極間の距離が長くなる場合等には、分極電圧として非常に高い電圧が必要となり、作業安全上、好ましいとは言えず、また、分極破壊も起こり易くなる。従って、より低電圧で所定の方向に分極を行うことが可能であれば、好ましいと考えられる。
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、15モードでの低電圧での駆動を可能ならしめ、しかも、樹脂接着剤を用いることなく製造することが可能な積層型の圧電アクチュエータおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明によれば、圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる、一体焼成法により作製される圧電アクチュエータであって、
前記圧電体はその厚み方向に略直交する方向に前記複数本の導体の一部を用いて分極され、
前記圧電体を積層方向に挟んで対向する電極間に駆動電圧を印加することにより、前記圧電体がずり剪断変形を起こすことを特徴とする圧電アクチュエータ、が提供される。
【0011】
本発明のずり剪断変形(15モード)を用いた圧電アクチュエータにおける導体の幅は、圧電体の厚みの0.2倍以上5倍以下であることが好ましく、これにより、圧電体内における分極の状態が均質化され、変位特性を向上させることが可能となる。また、同一層内の全ての導体が接続されてなる電極が積層方向において1層おきに電気的に接続されて、駆動用電極が形成される。これにより、従来の縦変位モード(33モード)を用いた積層型圧電アクチュエータと同様の駆動形態(電圧印加方法)を用いることが可能となる。略平行に並べられた導体間の間隔は導体の幅以下であることが好ましく、これにより分極領域を広く確保することが可能となり、変位量の拡大、駆動効率の向上が図られる。
【0012】
本発明によれば、上述した15モードを用いた圧電アクチュエータの製造方法が提供される。即ち、圧電体と、複数本の導体が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、前記圧電体の厚み方向に交互に積層されてなる圧電アクチュエータの製造方法であって、第2n-1(n:自然数)層に位置する1本の導体を第1電極とし、第2n層において前記第1電極から所定距離ほど離れて位置する1本の導体を第2電極とし、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加して、前記第1電極と前記第2電極の間の圧電体に、前記圧電体の厚み方向に略垂直な方向に分極を形成する第1工程と、前記第1電極と前記第2電極との距離を前記所定距離に保つことが可能であり、かつ、分極方向を同じとすることができる全ての導体について前記第1電極と前記第2電極の組を同一層において逐次形成して、前記第1工程に従って分極処理を行う第2工程と、前記第2n-1層直下の圧電体に形成される分極の向きと、前記第2n層直下の圧電体に形成される分極の向きとが逆向きとなるように、全ての自然数nについて前記第1工程および第2工程を行う第3工程と、全ての自然数nについて、前記第2n層に位置する全ての導体を接続し、また、前記第2n-1層に位置する全ての導体を接続して、駆動用の正極および負極を形成する第4工程と、を有することを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法、が提供される。
【0013】
このような製造方法を用いた場合には、分極処理を1回で行おうとした場合に分極用電極間の距離が長くなって分極電圧が大きくなってしまう場合にも、分極処理回数は複数回と多くなるが、分極方向をほぼ同じ方向としたまま分極電圧を下げることが可能となり、分極破壊が抑制されて、作業安全性が確保されるようになる利点がある。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1(a)は、本発明の圧電アクチュエータの一実施形態を示す断面図である。圧電アクチュエータ10は、圧電体12と、複数本の導体11が略平行に所定間隔で並べられてなる電極とが、圧電体12の厚み方向に交互に積層された構造を有する。同一層内に存在する全ての導体11は接続されて1層の内部電極を形成しており、こうして形成される内部電極はさらに積層方向に1層おきに図示しない外部電極によって接続され、1組の駆動用電極13が形成されている。
【0015】
圧電体12は矢印Sで示されるように圧電体12の厚み方向に略直交する方向に分極されている。従って、図1(b)に示すように、圧電体12を厚み方向に挟んで対向する導体11間、つまり駆動用電極13間に電圧を印加し、圧電体12に矢印Eで示される電界をかけると、各層の圧電体12が同じ向きに15モードによる「ずり剪断変形」を起こし、図1(b)中の点線で示されるように、各圧電体12の変位量が合計された変位が得られる。なお、図1(a)・(b)においては、圧電体12の間に導体11が挟まれ、導体11間が空間となって示されているが、導体11が圧電体に埋設され、導体11間に圧電体が存在する形態であっても構わない。
【0016】
このような構造を有する圧電アクチュエータ10について、最初に、表面に導体11a・11bがそれぞれ形成された板状の圧電体12a・12bを樹脂接着剤等を用いて多層化し、作製する工程を通じて、その構造を詳しく説明する。なお、本発明の圧電アクチュエータに用いられる圧電体材料に制限はなく、圧電セラミックス、単結晶圧電体、高分子圧電体等の種々の材料を用いることができるが、以下、15モードの圧電定数d15が大きく、ハンドリング性に優れる圧電セラミックスを用いた場合について説明することとする。
【0017】
図2は、圧電アクチュエータ10の製造工程を示す説明図である。図2(a)の平面図に示すように、まず、一方向に長い形状、例えば、線状もしくは帯状または棒状等の導体11a・11bがそれぞれ所定の間隔Wで略平行に並べられて表面に形成された薄い板状の圧電体12a・12bを所定枚数準備する。ここで、導体11a・11bの長さ方向をY方向とし、導体11a・11bが並べられた方向をX方向とする。
【0018】
圧電体12a・12bとしては、圧電定数d15が大きい材料、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とした圧電セラミックスからなるものが好適に用いられる。このような圧電体12a・12bは、圧電セラミックス粉末を用いて、プレス成形法、押出成形法、射出成形法等の種々の成形法を用いて所定形状に成形し、そして焼成し、さらに必要に応じて加工を施して所定形状とすることで作製することができる。また、作製された圧電体12a・12bの表面に、例えば、スクリーン印刷法を用いて銀ペースト等を所定のパターンで印刷し、焼成することにより導体11a・11bを形成することができる。
【0019】
圧電体12a・12bを積層したときに、導体11a・11bが対向する側面に露出するように、かつ、積層方向(Z方向とする)から投視した場合に、導体11a・11bがそれぞれ重なり合うように、圧電体12a・12bを絶縁性の樹脂接着剤等を用いて交互に積層し、一体化する。図2(b)はこうして得られる積層体の断面図であり、5層の圧電体12a・12bのみを示しているが、このような積層数に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0020】
なお、導体11aが形成された圧電体12aと導体11bが形成された圧電体12bについて、同一の形態を有するもの1種類のみを準備し、その導体が対向する側面に露出し、かつ、積層方向から投視した場合に導体が重なり合うように圧電体の向きを180°ずつ変えながら圧電体を積層してもよい。この場合には、異なる形態を有する圧電体を準備する必要がなくなり、製造工程が簡略化される利点がある。
【0021】
圧電体12a・12bの厚みは、このような積層一体化処理のハンドリングの問題上、約0.5mm以上あることが好ましい。これに対して、導体11a・11bの厚みは数μmで足りる。図2(b)においては以下の説明を容易とし、導体11a・11bの位置を明確に示すために、導体11a・11bの厚みを厚く記している。このことは、先に示した図1についても同様である。
【0022】
導体11a・11b自体の幅(X方向の幅)は、圧電体12a・12bの厚みの0.2倍以上5倍以下とすることが好ましい。これは、導体11a・11b自体の幅が広い場合には、後述する圧電体12a・12bの分極処理を行う際に、導体11a・11bの幅に起因して電界の強さに幅が生じ、分極される強さに偏りが生じて、良好な圧電特性が得られ難くなるからである。
【0023】
また、導体11a間および導体11b間の間隔Wも狭いことが好ましく、導体11a・11b自体の幅以下とすることが好ましい。このように間隔Wを狭く取ることによって、圧電体12a・12b中の分極される領域が広くなり、大きな変位量を得ることが可能となる。
【0024】
続いて、作製された積層体に分極処理を施す。ここで、図2(b)に示されるように、作製された積層体においては、積層体の上部を基準として積層体の第2n-1(n:自然数)層、つまり奇数層には圧電体12aが位置し、偶数層である第2n層に圧電体12bが位置している。また導体11a・11bについても同様に、奇数層には導体11aが位置し、偶数層には導体11bが位置している。従って、奇数層の導体11a直下には奇数層の圧電体12aが位置している。
【0025】
そこで、まず、第1層(n=1)に位置する導体11aの内の1本の導体、例えば、図2(c)中の左端位置P1にある導体を第1電極とし、第2層(n=2)において第1電極から所定距離Dほど離れて右側に位置する1本の導体、例えば、図2(c)中の位置P5にある導体を第2電極とする。そして、これら第1電極と第2電極との間に所定の電圧を印加して分極処理を行う。つまり、図2(c)中のX方向左側に位置する第1電極が、X方向右側に位置する第2電極よりも高電圧となるように電圧を印加すると、圧電体12aには図2(c)中の矢印S1で示される分極が形成される。
【0026】
この矢印S1で示される分極方向は圧電体12aの厚み方向に略垂直な方向、即ち、X方向と一致はしないがX方向と略平行な方向とすることができ、第1電極と第2電極との距離を長く取ることによって、矢印S1で示される分極方向をX方向に近接させることが可能となる。そして、分極方向がX方向と平行に近くなるほど、駆動時に大きな変位量を得ることが可能となる。但し、第1電極と第2電極との距離を長く取ると、分極処理に必要な電圧も大きくなる。逆に、第1電極と第2電極との距離を適切に設定することで、低い分極電圧で良好な分極を形成することが可能となる。
【0027】
このようにして、同一の層において、第1電極と第2電極との距離を所定距離に保つことが可能であり、かつ、分極方向を同じとすることができる全ての導体11a・11bについて第1電極と第2電極の組を逐次形成して、同様に分極処理を行う。例えば、第1層の位置P2に位置する導体を第1電極とし、第2層の位置P6に位置する導体を第2電極とするように、X方向に位置をずらしながら第1電極と第2電極の組を逐次形成して、分極処理を行う(図2(d))。このようにして複数回に分けて第1層の圧電体12aに分極処理を施すことによって、全体として矢印Sで示される分極が形成される。
【0028】
第1層の圧電体12aの分極が終了した後には、第2層の圧電体12bの分極処理を行う。このときに、第1層の圧電体12aに形成される分極の向きと、第2層の圧電体12bに形成される分極の向きとがX方向であっても逆向き(矢印S2で示す向き)となるように、第2層の導体11bと第3層の導体11aに電圧を印加し、全体として矢印S’で示される分極を形成する(図2(e))。
【0029】
第2層の圧電体12bを図2(e)に示されるように分極するためには、圧電体12bを挟んで所定間隔Dほど離れて位置する導体11a・11b、例えば、第2層の位置P10の導体11bと第3層の位置P14にある導体11aについて、第3層の導体11aの電圧が第2層の導体11bの電圧よりも高くなるようにして、しかも電圧の高い導体11a(第1電極)が図2(e)中のX方向右側となるように、電圧の低い導体11b(第2電極)が図2(e)中のX方向左側となるように、第1電極と第2電極の組を逐次形成し、分極処理を行えばよい。第1電極と第2電極の組の形成は、図2(e)に示すようにX方向右側(位置P14側)から行ってもよく、逆にX方向左側(位置P1側)から行ってもよい。
【0030】
このようにして、第2n-1層の導体11aの電圧を第2n層の導体11bよりも高く設定しながら、逐次、第3層以降の圧電体12a・12bに分極処理を施すことにより(図2(f))、図1記載の圧電アクチュエータ10と同じ形態に分極が施される。なお、最初に第1層の導体11aの電圧を第2層の導体11bよりも低く設定した場合には、当然にその後は、第2n-1層の電圧が第2n層よりも低くなるように設定しながら分極処理を行う。
【0031】
導体11a・11bに挟まれた圧電体12a・12b全てに分極処理が終了した後には、導体11a・11bが露出した積層体の側面を利用して、導体11aどうし、導体11bどうしをそれぞれ接続して導通させる。こうして、導体11a・11bは駆動用電極として用いることが可能となる。導体11a・11b間に駆動電圧を印加し、図2(g)中に矢印Eで示すZ方向の電界を加えることによって、圧電体12a・12bの各層は同じ方向に15モードで歪み、図2(g)において点線で示したように、各層の変位量を合計した剪断変形による変位量を積層体で得ることが可能となる。
【0032】
なお、図2(g)において第5層の圧電体12a自体は分極されておらず、また、電界も印加されないために剪断変形はしないが、第4層の圧電体12bとともにスライドする。第5層の圧電体12aと同様に、第1層側にも分極されない圧電体等を接合させておいてもよい。
【0033】
また、図2に示した製造方法によれば、圧電体12a・12bについて、位置P1〜P4の範囲と位置P11〜P14の範囲は、位置P5〜P10の範囲に比べて分極の大きさが小さくなっていると考えられる。このため、例えば、分極終了後に位置P1〜P4の範囲と位置P11〜P14の範囲を切断等により切り離し、位置P5〜P10の範囲のみを圧電アクチュエータとして用いてもよい。
【0034】
さて、上記実施の形態においては圧電体12a・12bを1層ずつ、しかも1回の分極処理を、1対の第1電極と第2電極を選択して行ったが、1度に複数対の第1電極と第2電極を選択して分極処理を行うことも可能である。この場合、分極処理時間が短縮され、生産効率が向上する。
【0035】
図3は分極方法の別の形態を示す説明図であり、例えば、最初に第1層の圧電体12aを分極するにあたって、位置P1にある第1層の導体11aと位置P5にある第2層の導体11bとの間に電圧を印加して分極を施す際に、位置P9にある第3層の導体11aに位置P1にある第1層の導体11aと同じ電圧をかける(図3(a))。これにより、第1層の圧電体12aの所定部分のみならず、第2層の圧電体12bの所定部分が分極される。
【0036】
続いて、位置P2にある第1層の導体11aと位置P6にある第2層の導体11b、位置P10にある第3層の導体11aを選択して、位置P1および位置P10にある導体11aを同電位として位置P6にある導体11bとの間に電圧をかける。そして、このような導体11a・11bの組合せで、図3(b)に示すように、導体11a・11bの一方が右端に達するまで分極処理を行う。
【0037】
その後は、例えば、図3(c)に示すように、最初に第1層の圧電体12aについてのみ残る電極、つまり位置P7〜P10にある第1層の導体11aと位置P11〜P14にある第2層の導体11bを用いて、逐次、分極を行い、その後に図3(d)に示すように、第2層の圧電体12bについて、残る位置P5〜P8にある第3層の導体11aと位置P1〜P4にある第2層の導体11bを用いて、逐次、分極を行う。このような分極方法を用いることにより、分極処理時間が短縮される。
【0038】
なお、図3(c)・(d)に示すように、図3(b)後の分極処理を第1層の圧電体12aと第2層の圧電体12bの未分極領域について同時に行わなかった理由は、このような未分極領域について同時に分極処理を行うためには第2層の導体11bに2箇所の等電位点を設けなければならなくなり、第1層または第3層の導体11aがこれら2箇所の導体11bと回路を構成して、先に形成した分極を消去するような向きの分極を生じさせてしまうことを回避するためである。
【0039】
従って、圧電アクチュエータ10の製造工程における分極処理は、隣接したまたは隔離した複数層の圧電体に対して、複数の電極対を選択して行うことが可能であるが、その場合に注意すべきことは、ある電極対の負極と別の電極対の正極との間にかかる電圧により、先に形成された分極が消去されたり、不要な分極が生じないように複数の電極対の位置を適切に定めることである。
【0040】
上述のように、導体11a・11bが形成された圧電体12a・12bを用いて圧電アクチュエータ10を作製することが可能であるが、この場合には、作製工程におけるハンドリング上の問題から圧電体12a・12bを薄くするにも限度があり、例えば、0.5mm以下とすることは困難である。また、この場合には、分極電圧や駆動電圧の低電圧化が困難であるという問題もある。
【0041】
そこで、生産性に優れ、圧電体の薄膜化が容易であるグリーンシートを用いた一体焼成法による圧電アクチュエータ10の作製方法の一実施形態について、図4の説明図を参照しながら説明する。
【0042】
セラミックス粉末を用いて、ドクターブレード法や押出成形法等により所定厚みのグリーンシートを成形する。このような方法によれば、数百μm以下のグリーンシートを容易に得ることができ、圧電体を薄板化して、駆動電圧を低下させることが可能となる。例えば、成形時に50〜60μmであって、焼成後は40〜50μm程度の薄板となるグリーンシートも容易に得ることができ、前述した樹脂接着剤を用いて圧電体を積層する場合と比較すると、駆動電圧を約1/10に落とすことも可能である。
【0043】
得られたグリーンシートに打ち抜き加工等を施して所定形状とし、スクリーン印刷法等を用いて、所定のパターンを印刷する。図4(a)は、パターンが形成されたグリーンシート20の平面図である。グリーンシート20は、圧電アクチュエータとして動作させることとなる素子部30と分極処理の際に電源と接続するために用いることとなる端子部40から構成されており、素子部30には、分極用および駆動用の電極となる略線状の導体21が所定間隔で平行に並べられて形成されている。また、端子部40には、電極リード22と端子23からなる分極用リードが導体21と導通するように形成されている。分極用リードの形態は図4(a)に示されるものに限定されるものではない。
【0044】
所定枚数のグリーンシート20を、積層方向から投視した場合に導体21が重なり合い、素子部30においては全てのグリーンシート20が重なり合うが、端子部40は1層おきに重なり合うように互い違いに積層する。従って、積層方向において上下に隣接する端子部40の間には、1枚グリーンシート20の厚み分の間隙が存在する。積層されたグリーンシート20を熱プレス等を用いて一体化する。こうして、図4(b)の平面図に示すように、端子部40が対向する側面において交互に露出した状態の積層体24が得られる。
【0045】
積層体24を焼成することで、グリーンシート20は焼結して圧電体20aとなり、導体21も焼結して良導体となる。こうして導体21が圧電体20aに埋設されるかたちで、圧電体20aと導体21が一体的に形成された積層体24aを得ることができる。このような一体焼成法を用いる場合には、導体21、電極リード22、端子23といった金属材料の焼成温度とグリーンシート20(圧電セラミックス)の焼成温度を適合させる必要があることから、圧電セラミックスにPZTを用いた場合には、例えば、金属材料として、銀(Ag)-パラジウム(Pd)合金、パラジウム、白金(Pt)が好適に用いられる。
【0046】
得られた積層体24aの分極処理にあたっては、先に図2を参照しながら説明した方法を用いることができる。積層体24aの表面には、第1層と第2層の圧電体20aにおける端子部40が露出しているから、これらの端子部40を利用すれば、電源と端子23との接続が容易である。例えば、図4(c)の平面図に示されるように、図4(c)左側の位置P1にある第1層の端子23と、図4(b)右側の位置P5にある第2層の端子23との間に所定の電圧を印加することにより、前記図2(c)と同様に分極処理を行うことができ、さらに前記図2(d)に従って第1層の圧電体20aを分極することができる。
【0047】
第1層の圧電体20aの分極が終了した後には、第1層の圧電体20aにおける端子部40を機械加工やレーザ加工等を用いて素子部30から切り離す。こうして、図4(d)の平面図に示すように、第3層の圧電体20aに形成されている端子部40が表面に現れる。そこで、例えば、図4(d)左側の位置P14にある第3層の端子23と、図4(d)右側の位置P10にある第2層の端子23との間に所定の電圧を印加することにより、前記図2(e)と同様に第2層の圧電体20aの分極処理を行うことができる。
【0048】
第2層の圧電体20aの分極が終了した後に、第2層の圧電体20aの端子部40を素子部30から切り離すと、第4層の圧電体20aの端子部40が露出するから、以降、第3層の端子部40と第4層の端子部40を用いて分極を行う。このように1層の圧電体20aの分極が終了した後に、逐次、最上部に露出している端子部40を切り離して、表面に露出した2箇所の端子部40を利用して分極処理を行う。全ての圧電体20aについて分極を終了した後には、図4(e)の平面図に示されるように、素子部30のみが残るように切断等の加工を行い、素子体24bを得る。
【0049】
1枚のグリーンシート20に形成されていた導体21の全てを図4(f)の側面図に示すように外部電極25により接続し、さらに1層おきに接続する。こうして圧電アクチュエータ10が作製され、形成された外部電極25間に駆動電圧を印加することにより、素子体24bに図4(f)中の点線で示すような剪断変形を起こさせることが可能となる。なお、図4(f)においては、外部電極25は一方のみ図示し、他方は紙面の背面に形成しているために図示していない。外部電極25は、分極状態に悪影響を及ぼさないように、低温で形成可能な導電性樹脂ペースト等を用いて形成することができる。
【0050】
このようにして作製される圧電アクチュエータ10の駆動は、静的制御、つまり徐々に駆動電圧を増減して所定の変位量が得られるように変位量を制御する方法と、動的制御、つまり所定の周波数で連続的に変位させる制御方法のいずれの方法をも用いることができ、両者を組み合わせた制御も、もちろん可能である。例えば、精密位置決め用のX-Yステージや、リニアモータ、回転モータ、インチワーム型の送り機構等では、大きく移動させる場合に動的制御を用い、静止動作の際に精密な位置制御を行うために静的制御を行うように動作させることができる。また、パーツフィーダ等では通常は動的制御を用いて動作させる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記形態に限定されるものではない。例えば、圧電体への導体(電極)の形成方法については、スクリーン印刷法以外にも、圧電体の表面にダイシングやレーザ加工等の方法を用いて溝を形成しておき、形成された溝に電極材を埋設形成する方法を用いてもよい。
【0052】
また、グリーンシートを用いた一体焼成法を行う場合に、図4(a)に示したように、グリーンシート20に分極時に使用される端子部40を設けることは必ずしも必要ではなく、焼成して得られた素子体24bの側面に露出した導体21に直接に電源の端子を固定して、分極を行っても構わない。さらに、図4(e)では、対向する側面に全ての導体21が露出するように加工して素子体24bを得たが、一方の側面には奇数番目の層の導体のみが露出し、他方の側面には偶数番目の層の導体のみが露出するように、図4(a)に示した電極リード22の一部分を残すように加工を行って素子体を得てもよい。この場合には、外部電極を素子体の側面全体を利用して容易に形成することができる。
【0053】
【発明の効果】
本発明の圧電アクチュエータとその製造方法によれば、一体焼成法を用いて作製することが不可能であった15モードで駆動可能な積層型の圧電アクチュエータを得ることが可能となるという優れた効果が得られる。このような圧電アクチュエータは、圧電体の厚みが薄いために低電圧駆動が可能であり、しかも積層構造に起因して大きな変位量が得られるという効果を奏し、さらに、一体焼成法を用いることによって生産性が高められるといった効果を奏する。さらに、分極処理電圧を小さくすることも可能であり、分極破壊が抑制されて、高電圧を用いる分極作業時の安全性が確保されるようになるという効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の圧電アクチュエータの一実施形態および変位の形態を示す断面図。
【図2】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法の一実施形態を示す説明図。
【図3】
図2記載の分極方法と異なる別の分極方法を示す説明図。
【図4】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法の別の実施形態を示す説明図。
【図5】
従来公知の積層型圧電素子の構造の一例を示す断面図。
【図6】
15モード変位の説明図。
【符号の説明】
10;圧電アクチュエータ
11・11a・11b;導体
12・12a・12b;圧電体
20;グリーンシート
20a;圧電体
21;導体
22;電極リード
23;端子
24;積層体
25;外部電極
30;素子部
40;端子部
E;駆動電界の向き
S・S’;分極の向き
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-04-21 
出願番号 特願2000-308988(P2000-308988)
審決分類 P 1 652・ 574- YA (H01L)
P 1 652・ 121- YA (H01L)
P 1 652・ 573- YA (H01L)
P 1 652・ 113- YA (H01L)
P 1 652・ 572- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡 和久  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 橋本 武
河本 充雄
登録日 2003-03-07 
登録番号 特許第3406899号(P3406899)
権利者 太平洋セメント株式会社 独立行政法人科学技術振興機構
発明の名称 圧電アクチュエータおよびその製造方法  
代理人 高山 宏志  
代理人 高山 宏志  
代理人 高山 宏志  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ