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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
管理番号 1121190
異議申立番号 異議2003-73764  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-09-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-07-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第3449282号「高温強度と延性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3449282号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3449282号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成11年3月4日に特許出願され、平成15年7月11日にその特許権の設定がなされたものである。
これに対して、神鋼特殊鋼管株式会社より特許異議申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成17年4月19日付けで特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件請求項1及び2に係る発明は、その特許明細書の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】重量%で、C:0.03〜0.15%、Si:1.5%以下、Mn:0.1〜2%、Cr:15〜25%、Ni:6〜25%、Cu:2〜6%、Nb:0.1〜0.8%、Al:0.3%以下、N:0.05〜0.3%およびMgとCaの1種以上を合計で0〜0.015%、B:0〜0.01%を含有し、Nb(%)/Cu(%)が0.05〜0.2で、かつ溶体化熱処理後の未固溶Nb量が0.04×Cu(重量%)〜0.085×Cu(重量%)の範囲内にあり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる高温強度と延性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項2】さらに、重量%でMo:0.3〜2%、W:0.5〜4%の1種または2種を含有する請求項1記載の高温強度と延性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼。」(以下、それぞれ「本件発明1、2」という)

3.特許異議申立てについて
3-1.特許異議申立ての理由
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第7号証を提出して、本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明であり、また、甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により特許を受けることができない、と主張している。
3-2.証拠の記載内容
特許異議申立人が提出した甲第1号証乃至甲第7号証には、それぞれ次の事項が記載されている。
(1)甲第1号証:特開平8-13102号公報
(1a)「【請求項1】重量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.5%以下、Mn:0.05〜0.50%、Cr:17〜25%、Ni:7〜20%、Cu:2.0〜4.5%、Nb:0.10〜0.80%、B:0.001〜0.010%、N:0.05〜0.25%、sol.Al:0.003〜0.030%およびMg:0〜0.015%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高温強度の良好なオーステナイト系耐熱鋼。」(特許請求の範囲)
(1b)「【請求項2】重量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.5%以下、Mn:0.05〜0.50%、Cr:17〜25%、Ni:7〜20%、Cu:2.0〜4.5%、Nb:0.10〜0.80%、B:0.001〜0.010%、N:0.05〜0.25%、sol.Al:0.003〜0.030%およびMg:0〜0.015%を含有し、更にMo:0.3〜2.0%およびW:0.5〜4.0%のいずれか一方または両方を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高温強度の良好なオーステナイト系耐熱鋼。」(特許請求の範囲)
(1c)「Nb:Nbは微細な炭窒化物の分散析出強化によりクリープ破断強度を向上させる元素である。しかし、その含有量が0.10%未満では十分な効果が得られず、一方、0.80%を超えて過剰に添加すると溶接性や加工性が劣化するとともに、本発明のようなN添加鋼では未固溶の炭窒化物量が増加し、機械的性質も劣化するので、Nbの含有量は0.10〜0.80%とした。」(段落【0018】)
(1d)「【実施例】真空溶解により、表1および表2に示す化学組成を有する本発明鋼(合金 No.1〜22)および比較鋼(合金 No.A〜M)を溶製し、鍛造および冷間圧延を経た後、溶体化処理を施した。」(段落【0024】)
(2)甲第2号証:特公平8-30247号公報
(2a)「【請求項3】重量割合にて、C:0.15%以下、Si:0.3%以下、Mn:10%以下、Cr:14〜27%、Ni:6〜30%、Cu:2〜6%、Al:0.003〜0.030%、Mg:0.001〜0.015%、B:0.001〜0.010%、N:0.05〜0.35%、Nb:0.05〜1.5%、Feおよび不可避的不純物:残り、から成る成分組成を有することを特徴とする、高温強度の優れたオーステナイト鋼。」(特許請求の範囲)
(2b)「【請求項4】重量割合にて、C:0.15%以下、Si:0.3%以下、Mn:10%以下、Cr:14〜27%、Ni:6〜30%、Cu:2〜6%、Al:0.003〜0.030%、Mg:0.001〜0.015%、B:0.001〜0.010%、N:0.05〜0.35%、Nb:0.05〜1.5%を含有し、さらに、Mo:0.3〜3.0%、W:0.5〜5.0%のうちの1種以上を含有し、Feおよび不可避的不純物:残り、から成る成分組成を有することを特徴とする、高温強度の優れたオーステナイト鋼。」(特許請求の範囲)
(2c)「(l)Nb
Nbは炭窒化物微細分散強化により高温強度を改善するのに有効な元素であるが、その含有量が0.05%未満では上記効果が充分に発揮されず、一方、1.5%を越えて含有させると溶体化状態での未固溶窒化物量が増加して機械的性質を劣化させることから、Nb含有量は0.05〜1.5%と定めた。」(第3頁右欄下から9〜3行)
(3)甲第3号証:住友金属、Vol.43-6(1991年)第24〜31頁
(3a)「ST3Cu鋼の化学成分および常温引張性質の仕様を第1図に示す。CuおよびNb添加量の範囲は第1図に示すようにクリープ破断強度、クリープ破断延性、耐水蒸気酸化特性を考慮して設定し、高温引張強度向上に有効なNの上限については高温長時間加熱後の延性、靭性を考慮して0.12%とした。」(第25頁2〜7行)
(3b)「供試材の化学成分を第2表に示すがいずれも仕様を満たしている。なお管材の製造工程は第2図に示すように鋼片を熱間製管した後冷間抽伸および固溶化熱処理により仕上げた。これらの供試材を用いて常温性質(機械的性質、マクロ組織、ミクロ組織)、高温性質(高温引張、クリープ、クリープ破断)、長時間加熱後組織安定性、耐食性(水蒸気酸化、高温腐食)および溶接性(溶接性、継手性能)の検討を行った。」(第25頁10行〜第26頁左欄3行)
(3c)第1表には、ST3Cu鋼管の仕様および常温引張性質が示され、ST3Cu鋼の化学成分は、wt%でC:0.07〜0.13%、Si≦0.30%、Mn≦1.00%、P≦0.040%、S≦0.010%、Ni:7.5〜10.5%、Cr:17.00〜19.00%、Cu:2.5〜3.5%、Nb:0.3〜0.6%、N:0.05〜0.12%であり、また、その常温引張強さ≧588MPa、0.2%耐力≧235MPa、伸び(%)(11号または12号試験片、縦方向)≧35である。
(3d)第2表には、供試材の化学成分が示され、また、第2図には、ST3Cu鋼管管材の製造工程は、「溶解→圧延→熱間製管→冷間抽伸→最終熱処理→製品」と示されている。
(4)甲第4号証:特開平10-96038号公報
(4a)「【請求項1】重量%で、
C :0.05%超え0.15%以下、
Si:0.05〜1%、 Mn:0.1〜2%、
Cr:28〜38%、 Ni:35〜60%、
Cu:2〜6%、 Ti:0.1〜1%、
N :0.05%以下、 Al:0.01〜0.3%、
Nb:0〜1%、 Mg:0〜0.05%、
Ca:0〜0.05%
ならびに下記(1)、(2)および(3)群それぞれのなかの少なくとも1種を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる高温強度と耐食性に優れた高Crオーステナイト系耐熱合金。
(1)群B :0.001〜0.01%およびZr:0.01〜0.1%
(2)群Mo:0.5〜3%およびW :1〜6%
(3)群Y :0.01〜0.25%、La:0.01〜0.25%、Ce:0.01〜0.25%およびNd:0.01〜0.25% 」(【特許請求の範囲】)
(4b)「Nb:Nbは必要に応じて添加する元素である。Nbは結晶粒を微細化し、延性を向上させる。また、オーステナイト相中やCr炭化物中に固溶して、クリープ破断強度の向上に寄与する。その効果を十分に得るためには、0.1%以上とするのが望ましい。また、1%を超えると合金の靭性が低下する。したがって、Nbを含有させる場合には、0.1〜1%とするのが好ましい。」(段落【0026】)
(4c)「【実施例】本発明例の合金28種類および比較例の合金12種類を高周波真空溶解炉によって溶製し、成分調整した溶湯を径約100mmの20kgインゴットに鋳造した。各インゴットを鍛造後、冷間圧延して厚さ10mmに加工した。さらに、1200℃で固溶化熱処理を施し供試材を得た。この供試材から、高温強度評価用のクリープ破断試験片および耐高温腐食性評価用の高温腐食試験片を採取した。」(段落【0031】)
(5)甲第5号証:JIS G3463(ボイラ・熱交換器用ステンレス鋼管 1994年)
(5a)「1.適用範囲 この規格は、管の内外で熱の授受のために使用するステンレス鋼管(以下、管という。)、例えば、ボイラの加熱器管、化学工業、石油工業の熱交換器管、コンデンサ管、触媒管などについて規定する。ただし、加熱炉用鋼管には適用しない。」(第613頁3〜5行)
(5b)表1には、ステンレス鋼管の熱処理について記載され、オーステナイト系ステンレス鋼の固溶化熱処理温度は、すべて920℃以上であることが示されている。
(6)甲第6号証:特開平9-195005号公報
(6a)「【請求項1】重量%で、
C :0.05〜0.15%、Si:0.3%以下、Mn:2%以下、Cr:17〜25%、Ni:7〜23%、Cu:2〜4.5%、Nb:0.1〜0.8%、B :0.001〜0.01%、N :0.05〜0.25%、sol.Al:0.003〜0.03%、Mg:0〜0.015%、Mo:0〜2%、W :0〜4%と、Y、La、CeおよびNdの内の1種または2種以上の合計で0.01〜0.25%を含有し、残部がFeおよび不可避の不純物からなる高温強度に優れたオーステナイト系耐熱鋼。」(【特許請求の範囲】)
(6b)「 Nb:Nbは微細な炭窒化物として析出し、析出物の分散強化によるクリープ破断強度の改善に有効な元素である。この効果を発揮させるためには、0.1%以上必要である。一方、含有率が0.8%を超えると、溶体化状態で未固溶の炭窒化物が増加するので、機械的性質の低下を招く。したがって、上限は0.8%とした。」(段落【0019】)
(6c)「各供試材は、真空高周波誘導炉によって、それぞれの化学組成の溶鋼を溶製し、20kgインゴットに鋳造した後、各インゴットを鍛造、冷間圧延し、さらに1200℃で固溶化熱処理を施すことによって作製した。インゴットの径は100mm、冷間圧延後の供試材は、厚さ10mm、幅60mm、長さ700mmである。」(段落【0032】)
(7)甲第7号証:「住友金属」Vol.36,No.12(1985年)第61〜74頁
(7a)「本プロセスの模式図を図4に示すが、要点は、最終冷間抽伸前の軟化温度を最終の溶体化温度よりも十分に高め、NbC炭化物をできる限り多く固溶させ、最終溶体化処理時に微細なNbCを析出させて再結晶粒の成長を抑制することである。」(第62頁右欄10〜14行)
(7b)「本プロセスと通常プロセスで製造した鋼管の結晶粒度・クリープ破断強さの比較を図5に示すが、プロセスの相違にかかわらずクリープ破断強さは溶体化温度で殆ど決められており、ASMEの許容引張応力を満足させるためには約1,200℃以上の溶体化温度が必要である。新プロセスの効果は結晶粒度に著しく現れており、高い溶体化温度でも結晶粒が微細である。新プロセスによる場合、1,250℃で溶体化しても粒度番号7.5と微細である・・・」(第63頁左欄5〜14行)
(7c)「細粒化に作用しているのは、前述のごとく、溶体化処理中に析出する微細なNbCである。写真2の、抽出レプリカ電子顕微鏡写真に示すように、新プロセス材では直径0.1μm程度の微細なNbCが一様に分散析出しており、このNbCが結晶成長を阻止している。」(第63頁右欄2〜7行)

3-3.当審の判断
(1)本件発明1について
甲第1号証の(1a)には、「重量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.5%以下、Mn:0.05〜0.50%、Cr:17〜25%、Ni:7〜20%、Cu:2.0〜4.5%、Nb:0.10〜0.80%、B:0.001〜0.010%、N:0.05〜0.25%、sol.Al:0.003〜0.030%およびMg:0〜0.015%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高温強度の良好なオーステナイト系耐熱鋼。」と記載されているが、この「オーステナイト系耐熱鋼」は、上記(1c)の「Nb:Nbは微細な炭窒化物の分散析出強化によりクリープ破断強度を向上させる元素である。しかし、その含有量が0.10%未満では十分な効果が得られず、一方、0.80%を超えて過剰に添加すると溶接性や加工性が劣化するとともに、本発明のようなN添加鋼では未固溶の炭窒化物量が増加し、機械的性質も劣化するので、Nbの含有量は0.10〜0.80%とした。」という記載に照らせば、Nb炭窒化物の分散析出によってクリープ破断強度を向上させたものであり、この場合の分散析出するNb炭窒化物は、溶体化処理によって固溶したNbが炭窒化物として析出するものであるから、本件発明1の「未固溶Nb」によって形成された炭窒化物とは異なるものである。そして、甲第1号証の記載は、上記(1c)の「本発明のようなN添加鋼では未固溶の炭窒化物量が増加し、機械的性質も劣化するので、」という記載に徴すれば、「未固溶のNb」をむしろ排除する方向を示唆するものであって、これを利用する技術思想を示唆するものではないと云うべきであるから、甲第1号証の上記「オーステナイト系耐熱鋼」は、本件発明1の「溶体化熱処理後の未固溶Nb量が0.04×Cu(重量%)〜0.085×Cu(重量%)の範囲内」という条件を満足するものであるとは云えない。
この条件について、さらに言及するならば、本件発明1の「未固溶Nb量」は、本件特許明細書の表2の結果によれば、その鋼種が同一成分組成の場合(試験No.2〜4,12,13)でもその溶体化処理温度の違いによって本件発明1の上記条件を満足したり、満足しなかったりするものであるから、溶体化処理温度に依存する事項であることは明らかである。而るに、甲第1号証には、上記(1d)の「真空溶解により、表1および表2に示す化学組成を有する本発明鋼(合金 No.1〜22)および比較鋼(合金 No.A〜M)を溶製し、鍛造および冷間圧延を経た後、溶体化処理を施した。」という記載がみられるだけでその溶体化処理の具体的な温度が全く記載されておらず、「未固溶Nb量」を判断する根拠が見当たらないと云えるから、甲第1号証の上記「オーステナイト系耐熱鋼」が本件発明1の上記条件を満足すると決め付けることはできないと云うべきである。
また、甲第2号証及び甲第3号証について検討するに、甲第2号証も、甲第1号証とその記載内容が同様であるから、本件発明1が甲第2号証に記載された発明であるとすることもできない。また甲第3号証も、溶体化処理によって固溶したNbが炭窒化物として析出する「Nb炭窒化物」を教示するものであり、本件発明1の「未固溶Nb」について教示するものではないから、本件発明1が甲第3号証に記載された発明であるとすることもできない。
してみると、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明であるとすることはできない。
次に、甲第4号証乃至甲第7号証について検討するに、これら証拠にも、甲第1号証や甲第3号証と類似又は共通の技術的事項が記載されているだけであって、「未固溶Nb」による炭窒化物を利用してその延性を改善することを示唆する記載は見当たらないし、この「未固溶Nb量」をCuとの関連で規制する点についても示唆する記載はない。
してみると、本件発明1は、甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも云えない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用して、さらに「重量%でMo:0.3〜2%、W:0.5〜4%の1種または2種」を含有するオーステナイト系ステンレス鋼の発明であるから、本件発明2も、本件発明1と同様、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明であるとは云えないし、また、甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも云えない。

4.むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-06-28 
出願番号 特願平11-57739
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 朝幸  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 原 賢一
平塚 義三
登録日 2003-07-11 
登録番号 特許第3449282号(P3449282)
権利者 住友金属工業株式会社
発明の名称 高温強度と延性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼  
代理人 杉岡 幹二  
代理人 森 道雄  
代理人 植木 久一  
代理人 穂上 照忠  

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