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審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199835415 審決 特許
判定2007600007 審決 特許
審判199935072 審決 特許
無効200680144 審決 特許
無効200435069 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特174条1項 訂正を認める。無効としない A01N
管理番号 1121863
審判番号 無効2004-35121  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-12-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-03-03 
確定日 2005-02-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3405807号加熱蒸散用水性薬剤及び加熱蒸散方法並びに加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤の特許無効審判事件について、審理の併合のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3405807号の請求項1〜4に係る発明についての出願は、平成6年4月7日(優先権主張平成5年4月15日、平成5年12月28日)になされ、前記発明についての特許権は平成15年3月7日に設定登録された。
平成15年9月8日に、大日本除蟲菊株式会社(以下、「請求人」という。)から、無効2003-35378号審判事件として、本件の請求項1〜4に係る発明の特許を無効とする旨の審決を求める審判請求がなされ、被請求人より平成15年12月9日付けで訂正請求書及び答弁書が提出され、請求人より弁ぱく書が提出されたのち、口頭審理がなされ、その後、請求人から上申書が、また、被請求人から回答書が提出された。
平成16年3月2日に、前記請求人から、無効2004-35121号審判事件として、本件特許は、平成14年9月13日付けで特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない手続補正をした特許出願に対してなされたものであるから無効とされるべきである旨の審決を求める審判請求がなされ、平成16年5月26日付けで被請求人より訂正請求書及び答弁書の提出がなされた。
平成16年6月2日付けで前記無効2003-35378号審判事件と無効2004-35121号審判事件との審理の併合がなされ、前記平成16年5月26日付けの訂正請求書及び答弁書が請求人に送達され、前記平成15年12月9日付けの訂正請求書が取り下げられ、請求人より上申書(2)、上申書(3)及び口頭陳述要領書が提出され、被請求人より口頭陳述要領書が提出され、平成16年10月20日に第2回口頭審理が行われ、その際に、請求人より、前記無効2003-35378号審判事件における無効理由は、「本件発明に係る有機溶剤および有機化合物は、甲第2,3号証に化合物名として具体的に記載されたものでないが、当該甲号証の界面活性剤という観点及び甲第2〜6号証の記載に基づいて当業者が容易に想到できるものであり、その採用に伴う本件発明の効果も甲第2,3号証から予測できるものである。」という理由のみである旨の主張がなされ、その後、請求人から上申書(4)が、また、被請求人から回答書(2)が提出された。

2.訂正請求(平成16年5月26日付け)に係る訂正について
2-1.訂正事項
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の第2〜3行「1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、」、第6〜7行「1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール」、第9〜10行「ヘキシルトリグリコール、」を、それぞれ削除する。
訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2の第1〜2行「1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、」、第5〜6行「1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール」、第9行「ヘキシルトリグリコール、」を、それぞれ削除する。
訂正事項c
特許請求の範囲の請求項3の第2〜4行「2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)」、第6〜7行「2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5‐ペンタンジオール、」、第7〜8行「1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、」を、それぞれ削除する。
訂正事項d
特許請求の範囲の請求項4の第3〜5行「2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)、」、第7〜8行「2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール」、第8〜9行「1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、」を、それぞれ削除する。
訂正事項e
特許明細書の段落番号0008の第6〜7行「1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、」、第9〜10行「1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール」、第13〜14行「ヘキシルトリグリコール、」を、それぞれ削除する。
訂正事項f
特許明細書の段落番号0010の第2行「1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、」、第5〜6行「1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール」、第9行「ヘキシルトリグリコール、」を、それぞれ削除する。
訂正事項g
特許明細書の段落番号0008の第19〜20行「1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、」、第23〜24行「1、2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール」、第26〜27行「ヘキシルトリグリコール、」を、それぞれ削除する。
訂正事項h
特許明細書の段落番号0008の第36〜38行「2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)、」、第40〜41行「2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、」、第41〜42行「1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、」を、それぞれ削除する。
訂正事項j
特許明細書の段落番号0011の第3〜6行「2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)、」、第7〜8行「2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、」、第9〜10行「1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、」を、それぞれ削除する。
訂正事項k
特許明細書の段落番号0008の第47〜49行「2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)、」、第51〜52行「2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、」、第52〜53行「1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、」を、それぞれ削除する。

2-2.訂正の適否の検討
訂正事項a〜dは、出願当初の願書に添付した明細書に具体的に記載されていない化合物を、特許請求の範囲の請求項1〜4の記載から削除したものであり、いずれも、特許請求の範囲の減縮に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
また、訂正事項e〜kは、特許請求の範囲の記載に対応する部分の明細書の記載を、訂正事項a〜dにより訂正された特許請求の範囲の記載に整合させるべく訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求範囲を拡張し、又は変更するものでない。

2-3.訂正についてのむすび
したがって、訂正請求(平成16年5月26日付け)に係る訂正は、特許法第134条第2項ただし書、及び同条第5項で準用する同法第126条第2項の規定に適合するものであり、前記訂正は適法なものと認める。

3.無効2004-35121号審判事件について
前記の訂正により、請求人が願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された化合物でないとした化合物は、願書に添付した明細書又は図面の記載から削除された。
そして、本件の前記訂正後の願書に添付した明細書又は図面の記載は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
したがって、本件特許が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであるとすることはできない。
よって、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

4.無効2003-35378号審判事件について
(4-1)本件特許発明
本件の請求項1〜4に係る発明(以下、各発明を「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、前記訂正後の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次の事項を、それぞれの発明の構成に欠くことができない事項とするものである。
【本件発明1】有効成分の加熱蒸散性薬剤を有機溶剤と水と共に含有する加熱蒸散用水性薬剤において、1-メトキシ-2-ブタノール、2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)、1,2-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、2-メトキシエチルアセテート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、β-バレロラクトン(4-バレロラクトン)、γ-ブチロラクトンの群から選ばれた1種又は2種以上の分子量が75〜170の水性有機溶剤を6〜60重量%と水を94〜40重量%とを含有することを特徴とする加熱蒸散用水性薬剤。
【本件発明2】有効成分の加熱蒸散性薬剤1-メトキシ-2-ブタノール、2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)、1,2-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル‐1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、2-メトキシエチルアセテート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、β-バレロラクトン(4-バレロラクトン)、γ-ブチロラクトンの群から選ばれた1種又は2種以上の分子量が75〜170の水性有機溶剤を6〜60重量%及び水を94〜40重量%を含有する加熱蒸散用水性薬剤を40〜450℃の温度で加熱して蒸散させることを特徴とする加熱蒸散方法。
【本件発明3】1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ヘキシルトリグリコールの群から選ばれた1種又は2種以上を主成分として含有することを特徴とする加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤。
【本件発明4】薬液を吸液した吸液芯を加熱して、薬剤を蒸散させる加熱蒸散用水性薬剤において、1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール1,2-ヘキサンジオール、ヘキシルトリグリコールの群から選ばれた1種又は2種以上を含有させることを特徴とする加熱蒸散用水性薬剤の揮散性を調整する方法。

(4-2)審判請求の理由
請求人は、平成16年10月20日の口頭審理において、本件特許の無効理由は、次の理由のみであるとした。
「本件発明に係る有機溶剤および有機化合物は、甲第2,3号証に化合物名として具体的に記載されたものでないが、当該甲号証の界面活性剤という観点及び甲第2〜9号証の記載に基づいて当業者が容易に想到できるものであり、その採用に伴う本件発明の効果も甲第2,3号証から予測できるものである。」。
引用刊行物:甲第2号証[特開平3-7207号公報]、甲第3号証[特開平4-173711号公報]、甲第4号証[「薬学雑誌」第96巻(昭和51年2月発行)p.232〜235]、甲第5号証[「CHEMICAL&PHARMACEUTICAL BULLETIN」第10巻(1962年発行)p.771〜788]、甲第6号証[藤本武彦著「新・界面活性剤入門」(三洋化成工業株式会社、1992年8月第3刷発行)p.126〜147]、甲第7号証[刈米孝夫著「界面活性剤の性質と応用」(株式会社幸書房、昭和63年7月25日第2版第1刷発行)p.91〜97]、甲第8号証[北原文雄外3名編「界面活性剤」(株式会社講談社、昭和63年8月20日第6刷発行)p.10〜17]、甲第9号証[久保亮五外3名編集「岩波理化学辞典」(株式会社岩波書店、平成8年10月18日第4版発行)p.200,1265〜1266]。

(4-3)甲各号証の記載内容
甲第2号証:特開平3-7207号公報
「(1)(イ)有効成分としてのピレスロイド化合物を0.3〜10.0重量%、(ロ)100〜180℃の加熱温度で蒸散する界面活性剤の1種または2種以上を10.0〜70.0重量%および(ハ)水 を含有することを特徴とする加熱蒸散用水性殺虫剤。」[特許請求の範囲の(1)]
「(6)請求項1ないし5のいずれか1項に記載の加熱蒸散用水性殺虫剤中に吸液芯を一部浸漬し、該芯に前記殺虫剤を吸液せしめ、該芯の上部を100〜180℃に加熱して、該殺虫剤に含有されるピレスロイド化合物、界面活性剤ならびに水を共に蒸散させることを特徴とする殺虫方法。」[特許請求の範囲の(6)]
「しかるに本発明者等は、低沸点の界面活性剤に注目し、これらを用いて水性殺虫剤を調製して加熱蒸散試験を行ったところ、特に吸液芯を用いる方式において、成分組成のバランスがくずれることなく有効成分の蒸散が長期にわたり一定に持続し得ることが明らかとなった。」[3頁左上欄7〜12行]
「なお、本明細書における界面活性剤とは、水中でピレスロイド化合物を乳化状に、あるいはミセル形成の有無にかかわらず可溶化状に安定に維持し得るものを意味し、広義には水および油に相溶する溶剤をも包含する。」[4頁左上欄17行〜同頁右上欄1行]
「本発明に好適な界面活性剤として次式I:
R・O・(C3H6O)m・(C2H4O)n・H (I)
(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、mおよびnは0〜6の整数を表す。)で表される非イオン型のポリオキシアルキレンアルキルエーテル系化合物や、次式II

(式中、R′は水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基を表し、mおよびnは0〜6の整数を表す。)で表される非イオン型のポリオキシアルキレンフェニルエーテル系化合物、・・・を例示することができるが、これらに限定されるものでない。特に好ましい界面活性剤は、上記式IおよびIIにおいて、Rが炭素原子数3〜8のアルキル基を表し、R′が水素原子を表し、そしてmまたはnのいずれかが0の場合は他方が2〜5の整数、もしくはmおよびnの両方が2または3の整数を表すものであり、これらは十分な可溶化能を有するほか、粘性がさほど高くないため使用性の点でも優れている。」[4頁右上欄6行〜同頁右下欄4行]
「更に、本発明の加熱蒸散用水性殺虫剤には必要に応じて有機リン剤、カーバメート剤等の他の殺虫成分、殺菌剤、忌避剤等の成分、あるいは安定剤、共力剤、色素、香料または助剤としての有機溶剤等を適宜添加することもできる。」[4頁右下欄14〜18行]
「高沸点の界面活性剤を用いた場合や、式Iで表される界面活性剤であっても70%以上に配合した場合は、経日的に蒸散量が急激に減少するなどの蒸発性能に問題があった。」(6頁右上欄下から5〜1行)
「実施例2 実施例1に準じて下記処方にて加熱蒸散用水性殺虫剤を調製し、芯側面を120℃に加熱して所定時間毎に、(1)アカイエカを用いた殺虫効力試験ならびに(2)殺虫剤の時間当たりの蒸散量測定を実施した。(2)においては、一定時間毎にシリカゲル充填カラムでトラップし、アセトンで殺虫剤を抽出し、これをガラスクロマトグラフで分析した。結果を表2に示すが、表中で上記(1)については、ケロシンベースの対照薬剤の初期の値を、(2)についてはそれぞれの薬剤の初期の値を1.00として相対有効比で示した。 試験の結果、本発明の加熱蒸散用水性殺虫剤については、ケロシンベースの従来の薬剤と同等の蒸散性能、殺虫効力が得られ、吸液芯中で薬液の分離や目詰まり等の問題が起こっていないことが確認された。」[7頁右上欄5行〜同頁右下欄5行]

[9頁右上欄]

甲第3号証:特開平4-173711号公報
「(1)80〜200℃の加熱温度で蒸散する界面活性剤の1種または2種以上からなる、ピレスロイドを有効成分とする加熱蒸散用水性殺虫剤の効力増強剤。」[特許請求の範囲の(1)]
「(3)界面活性剤が、次式I:
R・O・(C3H6O)m・(C2H4O)n・H (I)
(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、mおよびnは0〜6の整数を表す。)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル系化合物の1種または2種以上である請求項1または2記載の効力増強剤。」[特許請求の範囲の(3)]
「本発明者等は、低沸点の界面活性剤に注目し、これらを用いて水性殺虫剤を調製して加熱蒸散試験を行ったところ、特に吸液芯を用いる方式において、成分組成のバランスがくずれることなく有効成分の蒸散が長期にわたり一定に持続し得、しかもより高い殺虫効果が得られることが明らかとなった。」[2頁左下欄4〜10行]
「なお、本明細書における界面活性剤とは、水中でピレスロイド化合物を乳化状に、あるいはミセル形成の有無にかかわらず可溶化状に安定に維持し得るものを意味し、広義には水および油に相溶する溶剤をも包含する。」[2頁左下欄17行〜同頁右下欄1行]
「本発明に好適な界面活性剤として次式I:
R・O・(C3H6O)m・(C2H4O)n・H (I)
(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、mおよびnは0〜6の整数を表す。)で表される非イオン型のポリオキシアルキレンアルキルエーテル系化合物や、次式II:

(式中、R′は水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基を表し、mおよびnは0〜6の整数を表す。)で表される非イオン型のポリオキシアルキレンフェニルエーテル系化合物、・・・を例示することができるが、これらに限定されるものでない。特に好ましい界面活性剤は、上記式IおよびIIにおいて、Rが炭素原子数3〜8のアルキル基を表し、R′が水素原子を表し、そしてmまたはnのいずれかが0の場合は他方が2〜5の整数、もしくはmおよびnの両方が2または3の整数を表すものであり、これらは十分な可溶化能を有するほか、粘性がさほど高くなく、また、これら界面活性剤のなかにはポリオキシエチレンブチルエーテル(n=2)のように蚊に対して忌避性を示すものもあり、使用性の点でも優れている。」[2頁右下欄6行〜3頁右上欄15行]
「更に、本発明において、加熱蒸散用水性殺虫剤には必要に応じて有機リン剤、カーバメート剤等の他の殺虫成分、殺菌剤、忌避剤等の成分、あるいは安定剤、共力剤、色素、香料または助剤としての有機溶剤等を適宜添加することもできる。」[4頁右下欄14〜18行]
「本発明の水性殺虫剤Iは効力増強剤として比較的沸点の低い界面活性剤を使用しているので、従来の界面活性剤と異なり、吸液芯に浸漬、吸液させても、該芯中に界面活性剤が蓄積することがなく、従って薬液の分離や目詰まりの問題を引き起こす危惧が小さいことが明らかとなった。」[4頁右下欄3〜8行]
「本発明に係る水性殺虫剤において使用されている効力増強剤は、沸点の比較的低い界面活性剤であるので、ピレスロイド化合物と共に蒸散可能で、吸液芯中に蓄積したり、目詰まりの問題を引き起こす恐れがないことは明らかである。」[6頁左上欄10〜14行]

甲第4号証:「薬学雑誌」第96巻(昭和51年2月発行)
「溶解補助剤の研究(第6報)グリコール類およびその誘導体と水との混液中アスコルビン酸の安定性について」(232頁のタイトル)
「Propylene glycol monomethyl ether(1-methoxy-2-propanol) CH3OCH2CHOHCH3 Hexylene glycol(H.G.) CH3CHOHCH2COH(CH3)2 」[233頁TABLE I 参照]
「1-methoxy-2-propanol,H.G.-H2O混液においては、いずれもアスコルビン酸酸化率および溶存酸素量ともに極小点が存在している。」[233頁下から1行〜234頁下から2行]
「以上の結果から、極小を示す濃度において溶解補助剤の会合が起こり、混液の内部構造に何らかの急激な変化が生じ・・・・たと思われる。」[235頁下から9〜6行参照]

甲第5号証:「CHEMICAL&PHARMACEUTICAL BULLETIN」第10巻(1962年発行)
界面活性剤は、臨界ミセル濃度以上において、ミセルといわれる会合体を形成し、その濃度を境として溶液の種々の特性が急激に変化するとされているが、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のグリコールも同様の挙動をすることを確認したこと(771頁下から6行〜772頁9行参照)。

甲第6号証:藤本武彦著「新・界面活性剤入門」(三洋化成工業株式会社、1992年8月第3刷発行)
界面活性の親水性を示す数値として、HLB値があり、界面活性剤の性質との間にかなりはっきりした関係が見出されるが、当該関係を絶対的なものとして信じこんでしまうのは危険であること、HLBの算定方法には、複数の方法が存在すること、さらに、界面活性剤の性格は、疎水基、親水基、分子量、分子の形によって左右されること(126頁〜147頁参照)。

甲第7号証:刈米孝夫著「界面活性剤の性質と応用」(株式会社幸書房、昭和63年7月25日第2版第1刷発行)
界面活性剤のHLBについて(91頁〜97頁参照)。

甲第8号証:北原文雄外3名編「界面活性剤」(株式会社講談社、昭和63年8月20日第6刷発行)
界面活性剤の構造と性質に係り、フェニル基の疎水性寄与は、メチレン基(-CH2-)の2.5〜4個分程度と評価することが可能であること(16頁下から4〜2行参照)。

甲第9号証:久保亮五外3名編集「岩波理化学辞典」(株式会社岩波書店平成8年10月18日第4版発行)
「界面活性剤」とは、水に対して強い表面活性を示し、溶液内において臨界ミセル濃度以上でミセルのような会合体を形成する物質であり、「ミセル」とは、界面活性剤など両親媒性物質を水に溶かしたときにある濃度以上で形成される、親水基を外に親油基を内に向けて会合した集合体であること(200頁の「界面活性剤」の項、1265〜1266頁の「ミセル」の項参照)。

(4-4)対比・判断
(4-4-1)本件発明1について
甲第2号証には、前記したように、殺虫剤有効成分としてのピレスロイド化合物0.3〜10.0重量%、100〜180℃で蒸散する界面活性剤10.0〜70.0重量%、および水を含有する加熱蒸散用水性殺虫剤に係る発明(以下、「甲2発明」という。)が記載され、その界面活性剤としては、水中でピレスロイド化合物を乳化状に、あるいはミセル形成の有無にかかわらず可溶化状に安定に維持し得るものが用いられ、広義には水および油に相溶する溶剤をも包含する界面活性剤が用いられること、および、甲2発明の効果は、200時間で例示される長期にわたって成分組成のバランスがくずれることなく有効成分の蒸散が一定に持続し得ることであることが示されている。
そこで、本件発明1と甲2発明を比較すると、後者の「界面活性剤」は、「水および油に相溶する溶剤をも包含する」とされている点で、前者の「有機溶剤」を含むものであり、後者の「殺虫剤有効成分としてのピレスロイド化合物」および「加熱蒸散用水性殺虫剤」は、前者の「有効成分の加熱蒸散性薬剤」および「加熱蒸散用水性薬剤」に相当するものであり、後者の界面活性剤および水の含有量は前者のそれぞれの含有量と重複するものである。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、加熱蒸散性薬剤と有機溶剤と水とを共通する割合で使用した加熱蒸散用水性薬剤である点で一致し、次の点で相違する。
(1)本件発明1は、有機溶剤として、「1-メトキシ-2-ブタノール、2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)、1,2-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、2-メトキシエチルアセテート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、β-バレロラクトン(4-バレロラクトン)、γ-ブチロラクトンの群から選ばれた1種又は2種以上の分子量が75〜170の水性有機溶剤」を用いるのに対して、甲第2発明はそのような化合物を用いることを明示していない点、
(2)本件発明1は、30日(348〜360時間)の加熱で例示される長時間にわたる薬剤の加熱蒸散においても、吸液芯の目詰まりが殆どなく、均一に薬剤の加熱蒸散が行われるという効果を奏するものであるのに対して、甲2発明は長期にわたり成分組成のバランスがくずれることなく有効成分の蒸散が一定に持続するとされるものの、200時間の加熱における実施例が示されているにすぎない点。
なお、相違点(1)に係る本件発明1の化合物が、甲第2、3号証に化合物名として具体的に示されたものでないことは、請求人も前記した無効理由の中で認めている。

そこで、まず、相違点(2)について検討する。
加熱蒸散させて使用する薬剤において、30日(348〜360時間)という長期にわたり均一に有効に使用できることは、薬剤の需用者ができるだけ長時間の使用を望むことを考慮すると、200時間にわたり使用できるとするものに比して、同一視できない大きさであることは明らかである。
そして、甲第2号証の、有効成分の蒸散が長期にわたり一定に持続しうる旨の記載における「長期」の意味は、次の(1)〜(6)の理由から、実施例に記載されたと同様の200時間程度の時間と解することはできるものの、30日(348〜360時間)をも示すと解する根拠は甲第2号証に見出すことができない。
(1)長期にわたり薬剤が有効に加熱蒸散することは、薬剤の需用者の望むところであり、特徴点となりうるものであるから、その開示に際しては、有効な加熱蒸散時間のうち最長のものを開示すると解するのが自然である、
(2)甲第2号証は、特許明細書に係るものであり、実施例の記載は、特許明細書の記載様式に基づいて、最良と思うものを記載したと解するのが自然である、
(3)甲第2号証には、「長期」について、特に、具体的な時間による定義がなく、実施例においても、200時間という時間が、最長のものとして記載されている、
(4)甲第2号証には、「長期」という表現が200時間よりはるかに長い30日(348〜360時間)という時間をも示すと解する根拠になる記載はない、
(5)甲第2号証には、「高沸点の界面活性剤を用いた場合や、式1で表される界面活性剤であっても70%以上に配合した場合は、経日的に蒸散量が急激に減少するなどの蒸発性能に問題があった。」と明示され、界面活性剤であっても、その沸点や使用量によっては、経日的に蒸散量が急激に減少することがあるとされている、
(6)本件明細書の段落番号0005〜0006には、甲2発明に含まれる界面活性剤であっても、30日に満たずに有効成分揮散量を急激に低下することがありうることが明示され、乙第1号証(特開平6-172101号公報)にも同様の内容が示されている。

また、甲第2号証には、前記したとおりの、界面活性剤の使用における蒸散量の急激な減少が記載されており、甲第2号証に具体的に記載されていない化合物を用いた場合には、200時間の蒸散性能についてさえも不明であると解さざるをえないことを考慮すると、本件発明1の、相違点(1)に係る構成の相違を甲2発明に対して有する、200時間よりはるかに長い30日(348〜360時間)における前記相違点(2)に係る効果を、当業者が甲第2号証の記載から容易に想起することができるとすることはできない。
さらに、甲第3号証には、甲第2号証と同様の記載はあるものの、有効成分の蒸散が一定に持続しうるとする時間として、30日(348〜360時間)に近似した時間を示していると解する根拠は見出すことができず、甲第4〜9号証にも、前記蒸散性能に関連する記載もない。
してみると、甲第2〜9号証を総合しても、相違点(2)に係る本件発明1の効果が当業者に容易に想起できるものであるとすることはできない。

よって、本件発明1は、その効果の予測の困難性からみて、相違点(1)に係る容易性を検討するまでもなく、甲第2〜9号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでない。

(4-4-2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に係る加熱蒸散用水性薬剤を用いた蒸散方法に関するものであり、甲2発明と比較すると、本件発明1に対すると同様の相違点(1)、(2)を含むものである。
そして、その相違点(1)、(2)を有する発明が、甲第2〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないことは、本件発明1について前記したとおりである。
してみると、本件発明2は、本件発明1について前記したと同様の理由により、甲第2〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(4-4-3)本件発明3、4について
本件発明3は加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤に係り、本件発明4は加熱蒸散用水性薬剤の揮散性を調整する方法に係るものであるところ、甲第2、3号証には、「加熱蒸散用水性殺虫剤には必要に応じて有機リン剤、カーバメート剤等の他の殺虫成分、殺菌剤、忌避剤等の成分、あるいは安定剤、共力剤、色素、香料または助剤としての有機溶剤等を適宜添加することもできる。」との記載はあるものの、揮散性調整剤を添加するとの記載も、本件発明3,4が構成とする、「1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ヘキシルトリグリコールの群から選ばれた1種又は2種以上」を、揮散性調整の目的で用いるとの記載もない。
そして、本件発明3,4は、特許明細書に記載されているとおり、300時間という、200時間に比してはるかに長い時間にわたる薬剤の加熱蒸散においても、吸液芯の目詰まりが殆どなく、均一に薬剤の加熱蒸散が行われるという効果を奏するものである。
そして、当該効果は、本件発明1,2について前記したと同様に、甲第2〜9号証からは予期できないものである。
してみると、本件発明3,4は、甲第2〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

なお、本件発明1、2で用いる化合物は、以下の点で、甲第2,3号証に示された化合物と相違する。
(1)本件発明1,2で用いる1,6-へキサンジオールおよびネオペンチルグリコールは、甲第5、9号証および甲第4、5,9号証の記載から界面活性剤として機能することが明らかであるとしても、それぞれの沸点は、甲第2,3号証の発明で用いるとされる化合物の沸点範囲からはずれている(本件明細書では、ともに、208℃とされている。)。
(2)本件発明1,2で用いる2-メトキシエチルアセテート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、β-バレロラクトン(4-バレロラクトン)、γ-ブチロラクトン、および本件発明1、2において用いる有機溶剤のうち前記した以外の化合物は、それぞれの構造が、甲第2,3号証に具体的に記載された化合物と異なるうえに、水と油に相溶する溶剤、あるいは界面活性剤として本件出願前に一般に知られているものでも、30日(348〜360時間)で例示される長期にわたる加熱蒸散を一定とできる化合物として知られているものでもない。

(3-5)むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張および証拠方法によっては、本件発明1〜4に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
加熱蒸散用水性薬剤及び加熱蒸散方法並びに加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】有効成分の加熱蒸散性薬剤を有機溶剤と水と共に含有する加熱蒸散用水性薬剤において、1-メトキシ-2-ブタノール、2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)、1,2-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、2-メトキシエチルアセテート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、β-バレロラクトン(4-バレロラクトン)、γ-ブチロラクトンの群から選ばれた1種又は2種以上の分子量が75〜170の水性有機溶剤を6〜60重量%と水を94〜40重量%とを含有することを特徴とする加熱蒸散用水性薬剤。
【請求項2】有効成分の加熱蒸散性薬剤、1-メトキシ-2-ブタノール、2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)、1,2-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、2-メトキシエチルアセテート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、β-バレロラクトン(4-バレロラクトン)、γ-ブチロラクトンの群から選ばれた1種又は2種以上の分子量が75〜170の水性有機溶剤を6〜60重量%及び水を94〜40重量%を含有する加熱蒸散用水性薬剤を40〜450℃の温度で加熱して蒸散させることを特徴とする加熱蒸散方法。
【請求項3】1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ヘキシルトリグリコールの群から選ばれた1種又は2種以上を主成分として含有することを特徴とする加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤。
【請求項4】薬液を吸液した吸液芯を加熱して、薬剤を蒸散させる加熱蒸散用水性薬剤において、1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ヘキシルトリグリコールの群から選ばれた1種又は2種以上を含有させることを特徴とする加熱蒸散用水性薬剤の揮散性を調整する方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、加熱による薬剤の蒸散に用いる加熱蒸散剤において、安全性等を改善した加熱蒸散用水性薬剤、その水性薬剤を用いた加熱蒸散方法及び薬液の蒸散が長時間円滑に行われるための加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤並びに該揮散性調整剤による加熱蒸散用水性薬剤の揮散性を調整する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より殺虫、消臭、賦香、殺菌等の目的で之等の薬剤を加熱蒸散させる方法としては、古くは蚊取線香のように点火してその熱で薬剤を蒸散させる方法があり、この方法に次いで火を使わない方法として、電気蒸散器具等の装置を用いて繊維板等の多孔質基材(固型マット)に吸着させた薬剤を加熱して蒸散させる方法が開発されて、汎用されている。しかしながら、該方法では装置の構造が簡単であるという利点はあるが、一枚の固型マットに含浸させ得る薬剤量は自ずと制限を受け、長期に亙る安定した薬剤揮散効果を持続させ得ず、該マットの取替え及び使用済マットの廃棄が必須である等の欠点がある。
【0003】
上記固型マット使用に見られるマット取替えの問題及び短時間内に効果が消失する欠点を解消し、長期に亙り薬剤の揮散効果を持続させ得る加熱蒸散方法として、該薬剤を溶液形態で吸上芯(吸液芯)により吸上げつつこれを加熱蒸散させる方法が考えられ、事実このような吸液芯利用による薬剤蒸散装置が種々提案されている。
これら装置は適当な容器に薬剤の溶剤溶液(薬液)を入れ、これをフエルト等の吸液芯を利用して吸上げつつ該吸液芯上部より加熱蒸散させるべくしたものである。
【0004】
このような吸液芯利用による薬剤蒸散装置には、薬液として一般に前記の薬剤を有機溶媒に溶解したものが使用されている。これは、前記の薬剤が一般に有機化合物であって、有機溶媒に溶解しやすいため所定濃度の溶液を容易に形成できることと、有機溶媒は蒸発しやすいため、その蒸発により薬剤の揮散を容易にするという利点があることによるものである。特に、その有機溶媒としては、広く石油系溶剤、例えば灯油等が使用されている。しかし、これらの有機溶媒は燃えやすいため、危険であり、製品の貯蔵・運搬に問題があり、また有機溶媒は蒸発しやすいために薬剤よりも先に揮散してしまい、かなりの量の薬剤が未揮散のまま残るという問題がある。
【0005】
これらの欠点を除くため、薬液を水を溶媒としたもの、すなわち水性薬剤とすることが考えられている。しかし、前記の薬剤は通常水溶性でないため、水を溶媒とする薬液を形成させるのには、通常例えば薬剤を水中に溶解させるのを助長させる作用を有するか、あるいはそれ自体が薬剤を溶解し、その溶液が水に溶けるというような作用を有する添加剤の類を加えるなどの何らかの手段が必要である。噴霧用殺虫剤等についても水性薬剤が知られていて、それには種々の添加剤が用いられているが、この加熱蒸散に使用する水性薬剤についても同様な手段が必要である。
特開平3-7207号公報には、水性殺虫剤を形成するために、添加剤として、100〜180℃で加熱温度で蒸散するという、特定の界面活性剤を用いることが示され、そのような界面活性剤としては、例えば非イオン型のポリオキシアルキレンアルキルエーテル系化合物、非イオン型のポリオキシアルキレンフェニルエーテル系化合物、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸部分エステル、多価アルコール部分エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピルグリコール等が挙げられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、加熱蒸散用水性薬剤としては、(1)水及び殺虫化合物との溶剤の相溶性、(2)加熱蒸散時の蒸散性、の2つ大きな問題点を解決しなければならない。とりわけ(2)については、加熱蒸散用水性薬剤を吸液芯を使用して加熱蒸散させた場合に、蒸散開始から20日間を過ぎると急激に有効揮散率が低下する現象を生じるが、これは芯の目詰まりが起きているものと考えられ、このため吸液芯を使用する加熱蒸散方法を20日間以上の長期にわたり使用するには適さなかった。
加熱蒸散用水性薬剤を使用する場合においても、油性有機溶剤を用いている従来の加熱蒸散用薬剤と同程度の期間、長期にわたって使用できることが要求される。そのために、長期にわたって使用できる溶剤、添加剤などの選択、或いはその組成割合の選定を行うことが必要である。
【0007】
本発明は、前記の問題点を解決した加熱蒸散用水性薬剤、及びそれを使用する加熱蒸散方法を提供することを目的とするものである。
本発明は、前記吸液芯で加熱蒸散させる際に、目詰まりを生ずることがない、吸液芯における薬剤の蒸散が安定して継続され、その蒸散を長時間低下させることがないように持続するようにできる加熱蒸散用水性薬剤、及びそれを使用する加熱蒸散方法を提供することを目的とするものである。
さらに本発明の目的は、前記吸液芯で加熱蒸散させる際に、目詰まりを生ずることがなく、吸液芯において薬剤が安定してかつ均一に蒸散する状態が継続でき、その均一な蒸散状態を長時間変化させることがないように持続するようにできる揮散性調整剤及び加熱蒸散用水性薬剤の揮散性を調整する方法を提供することを目的とするものである。
本発明は、加熱蒸散用水性薬剤において用いる溶剤として水性溶剤を使用して水性薬剤の形成を容易にする場合に、前記の問題点が生じない水性溶剤を選択して使用しようとすることを目的とするものである。また本発明は、加熱蒸散用水性薬剤に添加する揮散性調整剤の成分として、水性有機化合物を使用して効果的な揮散性調整剤の形成を容易にする特定の水性有機化合物を選択して使用しようとすることを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記した目的を達成するために、加熱蒸散用水性薬剤の成分薬液に種々の水性溶剤を構成成分として加えてその蒸散性や吸液芯における目詰まりに及ぼす影響を鋭意研究した結果、
(1)有効成分の加熱蒸散性薬剤を有機溶剤と水と共に含有する加熱蒸散用水性薬剤において、1-メトキシ-2-ブタノール、2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)、1,2-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、2-メトキシエチルアセテート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、β-バレロラクトン(4-バレロラクトン)、γ-ブチロラクトンの群から選ばれた1種又は2種以上の分子量が75〜170の水性有機溶剤を6〜60重量%と水を94〜40重量%とを含有することを特徴とする加熱蒸散用水性薬剤を提供し、
(2)有効成分の加熱蒸散性薬剤、1-メトキシ-2-ブタノール、2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)、1,2-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、2-メトキシエチルアセテート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、β-バレロラクトン(4-バレロラクトン)、γ-ブチロラクトンの群から選ばれた1種又は2種以上の分子量が75〜170の水性有機溶剤を6〜60重量%及び水を94〜40重量%を含有する加熱蒸散用水性薬剤を40〜450℃の温度で加熱して蒸散させることを特徴とする加熱蒸散方法により、蒸散性薬剤の蒸散が安定して継続され、その蒸散を長時間低下させることがないという前記の目的を達成した。
本発明者は、さらに研究を重ねた結果、
(3)1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ヘキシルトリグリコールの群から選ばれた1種又は2種以上を主成分として含有することを特徴とする加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤により、それを添加した加熱蒸散用水性薬剤を提供し、
(4)薬液を吸液した吸液芯を加熱して、薬剤を蒸散させる加熱蒸散用水性薬剤において、1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ヘキシルトリグリコールの群から選ばれた1種又は2種以上を含有させることを特徴とする加熱蒸散用水性薬剤の揮散性を調整する方法により、吸液芯において薬剤が安定してかつ均一に蒸散する状態が継続でき、その均一な蒸散状態を長時間変化させることがないという理想的な加熱蒸散法を達成するに到った。
【0009】
本発明の加熱蒸散用水性薬剤及び揮散性調整剤を用いた加熱蒸散用水性薬剤は、吸液芯を用いた加熱蒸散装置において加熱蒸散する際に、吸液芯の目詰まりを生じることなく、薬剤の揮散が長時間安定して行うことができる。また、この加熱蒸散用水性薬剤は比較的低い温度で加熱することにより、長時間に亘って薬剤の揮散を持続させることができる。また、揮散性調整剤を用いた加熱蒸散用水性薬剤は通電後期においても、加熱蒸散用水性薬剤の組成の変化が少なく、液の白濁を生じない、さらに比較的低い温度で加熱することにより、長時間にわたって全期間均一に薬剤の揮散を持続させることができる。
【0010】
本発明において用いる分子量が75〜170の水性有機溶剤としては、具体的には、1-メトキシ-2-ブタノール、2-メチル-3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、ジアセトンアルコール、アセトイン、ベラトリルアルコール(3,4-ジメトキシベンジルアルコール)、1,2-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、フェニルエチレングリコール、2-メトキシエチルアセテート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、β-バレロラクトン(4-バレロラクトン)、γ-ブチロラクトンが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0011】
本発明において用いる水性ジオール系化合物、水性アルコール系化合物(以下これらを水性有機化合物という。)としては、1-メトキシ-2-プロパノール、2-エトキシ-2-プロパノール、1-メトキシ-2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ヘキシルトリグリコールが挙げられ、本発明の加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤には、これら水性有機化合物の1種または2種以上を用いる。
好ましい水性有機化合物としては、一般式(1)に示されるように、隣接した位置に親水性基(水酸基、アルコキシ基等)をもつ、親水性と親油性の両性の性質を有したものが良い。
【0012】
【化1】

【0013】
一般式(1)中R1及びR4はHまたはCの数が1〜6の有機基、R2及びR3はHまたはCの数が1〜3の有機基である。
本発明の加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤において、前記水性有機化合物はエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類、ブチルジグリコール、イソブチルジグリコール等のグリコールエーテル類、プロパノール、ブタノール等のアルコール類の親水性溶剤との併用として使用することも可能である。
なお、前記一般式(1)で表される水性有機化合物のうち、特に好ましいのは、末端に親水性基を有する、すなわちR1のCの数がゼロ(すなわち水素原子)で、R4のCの数が1〜6で、R2+R3のCの数が1〜3または両方とも水素原子の場合であり、これらは薬剤にも水にも十分に可溶化し、粘性も高くなく、凝固点も低く、沸点の面においても使用する上で優れている。
前記水性有機化合物の中には、加熱蒸散用水性薬剤に加える水性有機溶剤として用いられ得る有機化合物も含まれる。
なお、本発明の加熱蒸散用水性薬剤における前記水性有機溶剤と水との含有割合は水性薬剤中の割合で規定すると、加熱蒸散性薬剤の量などにより変動するので、前記水性有機溶剤と水との合計量に対するそれぞれの百分率で示している。
また、本発明の揮散性調整剤を添加した加熱蒸散用水性薬剤中における前記水性有機化合物と水との含有割合は水性薬剤中の割合で規定すると、加熱蒸散性薬剤の有効成分の量などにより変動するので、前記水性有機化合物と水との合計量に対するそれぞれの百分率で示している。
水性薬剤中のこれらの水性有機溶剤の含有割合は、その組み合わせる組成成分により異なるが、例えば水性薬剤の6〜40重量%の範囲が好ましい。また、水性薬剤中のこれらの水性有機化合物の含有割合は、その組み合わせる組成成分により異なるが、例えば水性薬剤の6〜40重量%の範囲が好ましい。
【0014】
本発明の加熱蒸散用水性薬剤に含有させる有効成分としての加熱蒸散用薬剤としては、従来より殺虫、消臭、賦香、殺菌、忌避、防黴、植物生長調節、除草、殺ダニ等に用いられている各種薬剤をいずれも使用することができる。それらの具体例としては、以下のものを例示できる。
(殺虫・殺ダニ剤)
・3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イルdl-シス/トランス-クリサンテマート(一般名アレスリン:商品名ピナミン:住友化学工業株式会社製,アレスリンの異性体:商品名エスビオール)
・3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イルd-シス/トランス-クリサンテマート(商品名ピナミンフォルテ:住友化学工業株式会社製)
・d-3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イルd-トランス-クリサンテマート(商品名エキスリン:住友化学工業株式会社製)
・3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イルd-トランス-クリサンテマート(一般名バイオアレスリン、以下ADという)
・N-(3,4,5,6-テトラヒドロフタリミド)-メチルdl-シス/トランス-クリサンテマート(一般名フタルスリン:商品名ネオピナミン:住友化学工業株式会社製)
【0015】
・5-ベンジル-3-フリルメチルd-シス/トランス-クリサンテマート(一般名レスメトリン:商品名クリスロンフォルテ:住友化学工業株式会社製)
・5-(2-プロパルギル)-3-フリルメチル クリサンテマート(一般名フラメトリン)
・3-フェノキシベンジル2,2-ジメチル-3-(2′,2′-ジクロロ)ビニルシクロプロパン カルボキシレート(一般名ペルメトリン:商品名エクスミン:住友化学工業株式会社製)
・3-フェノキシベンジルd-シス/トランス-クリサンテマート(一般名フェノトリン:商品名スミスリン:住友化学工業株式会社製)
・α-シアノフェノキシベンジル イソプロピル-4-クロロフェニルアセテート(一般名フェンバレレート:商品名スミサイジン、住友化学工業株式会社製)
【0016】
・d-2-メチル-4-オキソ-3-プロパルギルシクロペント-2-エニルd-シス/トランス-クリサンテマート(一般名d,d-T80-プラレトリン:商品名エトック、住友化学工業株式会社製)
・2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メチルベンジル-3-(2′-クロロ-3′,3′,3′-トリフルオロ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート(一般名テフルスリン)
・2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート(一般名ベンフルスリン)
・(S)-α-シアノ-3-フェノキシベンジル(1R,シス)-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート
・(R,S)-α-シアノ-3-フェノキシベンジル(1R,1S)-シス/トランス-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート
・α-シアノ-3-フェノキシベンジルd-シス/トランス-クリサンテマート
・1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル シス/トランス-クリサンテマート
・1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパン-1-カルボキシレート
【0017】
・1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシレート
・1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル2,2-ジメチル-3-(2,2-ジクロロビニル)シクロプロパン-1-カルボキシレート
・O,O-ジメチルO-(2,2-ジクロロ)ビニルホスフェート
・O-イソプロポキシフェニル メチルカーバメート
・O,O-ジメチルO-(3-メチル-4-ニトロフェニル)チオノフォスフェート
・O,O-ジエチルO-2-イソプロピル-4-メチル-ピリミジル-(6)-チオフォスフェート
・O,O-ジメチルS-(1,2-ジカルボエトキシエチル)-ジチオフォスフェート
なお、上記化合物には、その異性体も含まれる。
【0018】
(消臭剤)(防臭剤)
ラウリルメタクリレート、ゲラニルクロトネート、ミリスチル酸アセトフェノン、パラメチルアセトフェノンベンズアルデヒド、酢酸ベンジル、プロピオン酸ベンジル、アミルシンナミックアルデヒド、アニシックアルデヒド、ジフェニルオキサイド、安息香酸メチル、安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、ネオリン、サフロール、セダウッド油、セダ菜油、シトロネラ油、ラバンテン油、ペテイグレイン油、レモングラス油等。
【0019】
(香料)天然香料としては、じゃ香、霊猫香、竜延香などの動物性香料;アビエス油、アジョクン油、アルモンド油、アンゲリカルート油、ページル油、ペルガモット油、パーチ油、ボアバローズ油、カヤブチ油、ガナンガ油、カプシカム、キャラウエー油、カルダモン油、カシア油、セロリー油、シンナモン油、シトロネラ油、コニャック油、コリアンダー油、キュペブ油、クミン油、樟脳油、ジル油、エストゴラン油、ユーカリ油、フェンネル油、ガーリック油、ジンジャー油、グレープフルーツ油、ホップ油、ジュニパーペリー油、ローレルリーフ油、レモン油、レモングラス油、ロページ油、メース油、ナツメグ油、マンダリン油、タンゼリン油、カラシ油、はつか油、燈花油、玉ねぎ油、こしょう油、オレンジ油、セイジ油、スターアニス油、テレピン油、ウォームウッド油、ワニラ豆エキストラクトなどの植物性香料を含む。
【0020】
人造香料は合成又は抽出香料であり、ピネン、リモネンなどの炭化水素類;リナロール、ゲラニオール、ジトロネロール、メントール、ボルネオール、ベンジルアルコール、アニスアルコール、β-フェニルエチルアルコールなどのアルコール類;アネノール、オイゲノールなどのフェノール類;n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、ノナジエナール、シトラール、シトロネラール、ベンズアルデヒド、シンナミックアルデヒド、ヘリオトロピン、ワニリンなどのアルデヒド類;メチルアミルケトン、メチルノニルケトン、ジアセチル、アセチルプロピオニル、アセチルブチリル、カルボン、メントン、樟脳、アセトフェノン、p-メチルアセトフェノン、イオノンなどのケトン類;アミルブチロラクトン、メチルフェニルグリシド酸エチル、Y-ノニルラクトン、クマリン、シネオールなどのラクトン又はオキシド類;メチルフォーメート、イソプロピルフォーメート、リナリールフォーメート、エチルアセテート、オクチルアセテート、メンチルアセテート、ベンジルアセテート、シンナミルアセテート、プロピオン酸ブチル、酢酸イソアミル、イソ酪酸イソプロピル、イソ吉草酸グラニル、カプロン酸アリル、ヘプチル酸ブチル、カプリル酸オクチル、ヘプチンカルボン酸メチル、ペラハゴン酸エチル、オクチンカルボン酸メチル、カプリン酸イソアシル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸ベンジル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸ブチル、桂皮酸メチル、桂皮酸シンナミル、サルチル酸メチル、アニス酸エチル、アンスラニル酸メチル、エチルピルベート、エチルα-ブチルブチレートなどのエステル類などを含む。
香料は一種類のみでもよいし、二種類以上を調合した調合香料でもよい。
香料とともに、パッチユリ油などの揮発保留剤、オイゲノールなどの変調剤、その他香料工業に使用される種々の成分を添加して差支えない。
【0021】
(工業用殺菌剤)
・2,4,4′-トリクロロ-2′-ハイドロキシジフェニル エーテル(イルガサンDP300、チバガイギー社製)、
・2,3,5,6-テトラクロロ-4(メチルスルフォニル)ピリジン(ダウシルS-13、ダウケミカル社製)、
・アルキルベンジル ジメチルアンモニウム クロライド(塩化ベンザルコニウム、日光ケミカルズ株式会社製)、
・ベンジルジメチル{2-[2-(p-1,1,3,3-テトラメチル ブチルフェノキシ)エトキシ]エチル}アンモニウム クロライド(塩化ベンゼトニウム、三共株式会社製)、
【0022】
・4-イソプロピルトロポロン(ヒノキチオール、高砂香料工業株式会社製)、
・N、N-ジメチル-N-フェニル-N′-(フルオロジクロロメチルチオ)スルフォンアミド(プリベンドールA4、バイエル社製)、
・2-(4′チアゾリル)ベンズイミダゾール(TBZ、北興化学株式会社製)、
・N-(フルオロジクロロメチルチオ)-フタ-ルイミド(プリベントールA3、バイエル社製)、
・6-アセトキシ-2,4-ジメチル-m-ジオキシン(ジオキシン、ジボーダン社製)等。
【0023】
(農業用殺菌剤)
・エチレンビス(ジチオカルバミド酸)亜鉛(ジネブ、ロームアンドハース社製)、
・エチレンビス(ジチオカルバミド酸)マンガン(マンネブ、ロームアンドハース社製)、
・亜鉛、マンネブ錯化合物(マンゼブ、ロームアンドハース社製)、
・ビス(ジメチルジチオカルバミド酸)エチレンビス(ジチオカルバミド酸)二亜鉛(ポリカーバメート、東京有機化学社製)、
・ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィルド(チラム、ロームアンドハース社製)、
・クロトン酸2,6-ジニトロ-4-オクチルフェニル反応異性体混合物(DPC、ロームアンドハース社製)、
【0024】
・N-トリクロロメチルチオテトラヒドロフタルイミド(キャプタン、三共株式会社製)、
・2,3-ジシアノ-1,4-ジチアアントラキノン(ジチアノン、メルク社製)、
・2,4-ジクロロ-6-(o-クロロアニリノ)-S-トリアジン(トリアジン、富士化成薬株式会社製)、
・S-n-ブチルS′-p-夕ーシャリ-ブチルベンジルN-3-ピリジルジオチカルボンイミデート(デンマート、住友化学株式会社製)、
【0025】
・N-(3′,5′-ジクロロフェニル)-1,2-ジメチルクロロプロパンジカルボキシイミド(スミレックス)、
・ビス(クロロフェニル)トリクロロエタノール(ケンセン)、
・6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート(モレスタン)、
・テトラクロロイソフタロニトリル(ダコニール)、
・メチル-1-(ブチルカルバモイル)-2-ベンゾイミダゾールカーバメート、プラストサイジンS-ベンジルアミノベンゼンスルホネート、
・ストレプトマイシン塩酸塩、
・カスガマイシン塩酸塩、
・シクロヘキシミド等
【0026】
(害虫忌避剤)
ジメチルフタレート、2,3,4,5-ビス(Δ2-ブチレン)-テトラハイドロフラン、2,3,4,5-ビス-(Δ2-ブチレン)-テトラヒドロフルフリルアルコール、N,N-ジエチル-m-トルアミド(DET)、カプリル酸ジエチルアミド、2,3,4,5-ビス-(Δ2-ブチレン)-テトラヒドロフルフラール、ジ-m-プロピル-イソシンコメロネート、第2級ブチルスチリルケトン、ノニルスチリルケトン、N-プロピルアセテトアニリド、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジ-n-ブテルサクシネート、2-ブトキシエチル-2-フルフリデンアセテート、ジブチルフタレート、テトラヒドロチオフェン、β-ナフトール、ジアリルジスルフィド、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド等。
【0027】
(げつ歯類動物忌避剤)
テトラメチルチウラムジサルファイト、グアニジン、ナフタレンクレゾール、シクロヘキシミド、ジンクジメチルジオカーバメイト、シクロヘキシルアミン、N,N-ジメチルスルフェニルジチオカルバメート等。
(犬ねこの忌避剤)
2,6-ジメチル-オクタジエン-(2,6)-al(8)(シトラール)、O,O-ジエチルS-2-エチルチオエチルジチオフォスフェート(ETP)、O,O-ジメチルS-2-イソプロピルチオエチルジチオホスフェート(MIP)等。
(鳥類の忌避剤)
r-クロラローゼ、4-(メチルチオ)-3,5-キシリル-N-メチルカーバメート、4-アミノピリジンアンスラキノン、テトラメチルチウラムジサルファイド、ジアリルジスルフィド等。
【0028】
(げつ歯類動物駆除剤)
アンツー、モノフルオール酢酸ソーダ、ワルファリン、クマクロール、フマリン、クマテトラリルシリロシド、ノルボマイド、N-3-ピリディルメチル-N′-ニトロフェニルウレア、エンドロサイド、アルファナフチルチオ尿素、チオセミカルバジッド、デイフエナクム、ピバール、クロロファシノン、シラトレン、カルシフェロール等。
(殺蟻剤)
ペルメトリン、クロールデン等。
(防黴剤)
α-ブロモ-シンナミックアルデヒド、N,N-ジメチル-N-フェニル-N′-(フルオロジクロロメチルチオ)-スルファミド等。
(植物生長調節剤)
4-クロロフェノキシ酢酸、ジベレリン、N-(ジメチルアミノ)スクシンアミド、α-ナフチルアセトアミド等。
(除草剤)
2,4-Dソーダ塩、3,4-ジクロロプロピオンアニリド等。
【0029】
上記薬剤は溶液形態に調製されることにより、本発明の水性薬剤が形成される。該薬剤溶液を調製するための溶媒としては、前記した水性有機溶剤と水が用いられ、また本発明の揮散性調整剤と水が用いられる。あるいはまた、本発明の揮散性調整剤と前記した水性有機溶剤と水を混合して使用しても良い。前記薬剤は一般に水に可溶性でないため、通常前記水性有機溶剤あるいは/および水性有機化合物に溶解してから、その薬剤溶液を水と混合することにより調製される。その際、薬剤が液中に安定して溶解状態が保持されるような後記する添加剤を必要により添加することができる。水性薬剤溶液を形成するのに用いる溶媒における水性有機溶剤と水あるいは水性有機化合物と水、あるいはまた前記した水性有機溶剤、水性有機化合物と水との配合割合は、用いる水性有機溶剤や水性有機化合物の種類によりことなるが、大体水性有機溶剤あるいは/および水性有機化合物が30〜70%で、水が70〜30%である。
上記薬剤の溶液、すなわち本発明の加熱蒸散用水性薬剤は、通常薬剤濃度が約0.2〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%となるように調製される。
【0030】
本発明の加熱蒸散用水性薬剤には、前記の水性有機溶剤や水性有機化合物と共に他の安定剤を併用してもよい。そのような安定剤としては、従来加熱蒸散用薬剤に使用されている各種安定剤を挙げることができる。例えば、安定剤として、揮散安定剤を使用する場合には、先に出願した揮散安定剤として低級アルコールを用いる技術を適用することができるが、その量は溶剤として用いている前記の水性有機溶剤や揮散性調整剤として用いる水性有機化合物とは異なり、揮散の安定化のために添加する関係上、前記の水性有機溶剤や水性有機化合物よりもかなり少ない量でよい。その場合、この揮散安定剤の水性薬剤に対する添加量は、添加すべき水性薬剤の組成によっても異なる。
【0031】
また、この薬液(水性薬剤)を調製するさいには、薬剤の溶液の溶解性や加熱蒸散性を改善あるいは調整するために次の化合物を添加してもよい。
・3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(以下BHTという)
・3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール
・3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール
・メルカプトベンズイミダゾール
・ジラウリル-チオ-ジ-プロピオネート
・2,2′-メチレン-ビス-(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)
・2,2′-メチレン-ビス-(6-t-ブチル-4-エチルフェノール)
・4,4′-メチレン-ビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)
・4,4′-ブチリデン-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)
【0032】
・4,4′-チオ-ビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)
・1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン
・トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン・テトラキス[メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタン
・オクタデシル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート
【0033】
・フェニル-β-ナフチルアミン
・N,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミン
・2,2,4-トリメチル-1,3-ジヒドロキノリンポリマー
・6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,3-ジヒドロキノリン
・2-t-ブチル-4-メトキシフェノール
・3-t-ブチル-4-メトキシフェノール
・2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール
・ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート
・α-トコフェロール
・アスコルビン酸
・エリソルビン酸
【0034】
上記化合物はその1種を単独で用いてもよく、また2種以上併用することもできる。その使用量は、本発明の水性薬剤中に約0.05〜10.0重量%ないしはそれ以上、好ましくは0.1〜5.0重量%、さらに好ましくは0.1〜2.0重量%含有される量とするのが好ましい。
本発明の加熱蒸散用水性薬剤及び本発明の揮散性調整剤を配合した加熱蒸散用水性薬剤は、従来公知の各種吸液芯を利用した吸上式加熱蒸散装置に適用して、いずれも前記した所期の優れた効果を奏し得る。そのような吸上式加熱蒸散装置としては、例えば特公昭52-12106号公報、実開昭58-45670号公報等に記載された装置である。
【0035】
上記装置に利用される吸液芯(1)としては、通常用いられている各種素材、例えばフエルト、木綿、パルプ、不織布、石綿、無機質成型物等のいずれからなるものでもよいが、中でもフエルト芯、素焼芯、パルプ芯及び無機質成型芯が好ましい。上記無機質成型芯の具体例としては磁器多孔質、グラスファイバー、石綿等の無機繊維を石膏やベントナイト等の結合剤で固めたものや、カオリン、活性白土、タルク、ケイソウ土、クレー、パーライト、ベントナイト、アルミナ、シリカ、アルミナシリカ、チタニア、ガラス質火山岩焼成粉末、ガラス質火山灰焼成粉末等の鉱物質粉末を、単独で又は木粉、炭粉、活性炭等と共に結合剤、例えばポバールを熱処理(150℃程度の温度で数分加熱)したもの、ポバールにメラミン樹脂や重クロム酸アンモニウムのような耐水化剤を1〜10%程度添加したもの、或いは架橋型でんぷん、これとα-でんぷんとの混合物、α-グルテンとカプロラクトンとの混合物のような耐水性結合剤で固めたものを例示できる。結合剤として合成樹脂系のものも使用できるが、水系薬液を吸液する関係で前記のような親水性結合剤を耐水性にしたものが好ましい。特に好ましい吸液芯は、上記鉱物質粉末100重量部と木粉又は該木粉等重量までの炭粉及び/又は活性炭を混合した混合物10〜300重量部とに前記耐水性結合剤を全吸液芯重量の5〜25重量%となるまで配合し、更にこれらに水を加えて練合押出し成型後、焼成することにより製造される。このような成形焼成芯やブラスチック多孔質芯の吸水率は15〜50%のものがよく、特に20〜40%のものが好ましい。
【0036】
該吸液芯は、吸液速度が0.1〜15時間、好ましくは0.2〜3時間であるのが望ましい。この吸液速度とは、液温25℃の液中に直径7mm×長さ70mmの吸液芯をその下部より15mmまで浸漬し、芯頂に水又は水/BDG(60/40)が達するまでの時間を測定することにより求められた値を意味する。また上記吸液芯中には、上記鉱物質粉末、木粉及び糊剤の他更に必要に応じてマラカイトグリーン等の色素、ソルビン酸及びその塩類、デヒドロ酢酸等のカビ止め剤等を配合することもできる。
【0037】
また、吸液芯(1)の別の実施可能な形態として、吸液芯の中心に多孔質の吸液蒸散層を有し、周囲に保持材層を有する構造の吸液芯が例示できる。多孔質の吸液蒸散層としては、前記吸液芯として例示したフェルト、木綿、パルプ、不織布、石綿、無機質成型物に加えポリエステルなどの合成繊維、吸水性の高い木材が好適である。そして周囲の保持材層としては、チューブ状の力学的に十分な強度を有し、本組成物に対して及び熱に対して十分な耐性を有するものから選択される材料、例えば、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維、無機繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル、フェノール樹脂などのプラスチック、銅、真鍮、鉄、ステンレス鋼、アルミニウムなどの金属、陶磁器、ガラス等から構成される。そして、フェルト、木綿、パルプ、不織布、石綿、無機質成型物などにリン酸バリウムを付着させることで、その薬剤吸上げ性能が長時間安定に維持することができる。また上記装置に利用される発熱体としては、通常通電により発熱する発熱体が汎用されているが、使用する発熱体の種類は特に限定されない。その発熱体において保持される温度は、通常約40〜450℃、好ましくは70〜150℃、より好ましくは85〜145℃の範囲の発熱体表面温度とされ、これは吸液芯表面温度約30〜440℃、好ましくは約60〜145℃、より好ましくは約70〜143℃に相当する。
【0038】
【作用】
本発明では、薬液に水を含有する水性薬剤において、溶媒として分子量が75〜170の水性有機溶剤を用いて加熱蒸散用水性薬剤を構成すること、あるいは/及び前記の水性有機化合物を用いた水性薬剤の揮散性調整剤を配合して加熱蒸散用水性薬剤を構成することにより、極めて優れた有効揮散率が得られると共に、吸液芯の目詰まりもなく有効成分に応じた持続的な効果を発揮することができる。
特に揮散性調整剤を配合した加熱蒸散用水性薬剤は、加熱蒸散の期間中蒸散する有効薬剤の量が一定し、かつ長期間にわたり吸液芯の目詰まりもなく、蒸散の終期においても溶液の組成が変化し、薬剤の可溶化が不可能となり、白濁を示すことがないという優れた性能を発揮することができる。
本発明では、溶媒として分子量が75〜170の水性有機溶剤を用い、あるいは/及び前記の水性有機化合物を用いていることにより前記の効果を奏するが、それによる作用機構は明確ではない。
本発明では、比較的高分子量の水性有機溶剤や水性有機化合物を使用しないため、芯中での薬剤の残存がなく、有効成分の揮散を均一にすることが可能となった。また、水溶液のため周囲温度上昇によるボトル内圧上昇が抑制され、液もれを防止することが可能である。
さらに、本発明の水性薬剤では、水の量を60%以上とすることにより、危険物の対象外となり、使用に際して極めて安全である。また、本発明では、溶媒として使用する分子量が75〜170の水性有機溶剤及び前記の水性有機化合物は、薬剤及び水を溶解するものであり、かつこれらの溶剤は沸点が大体約100〜300℃の範囲にあって、前記の効果を奏する原因となっているものとみられる。
【0039】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
実施例1〜5,7、参考例6
加熱蒸散用薬剤の有効成分としてd,d-T80プラレトリン(商品名エトック)0.6wt%を含有するように、この加熱蒸散用薬剤とともに、各種水性有機溶剤、水、その他の添加剤を、第1表に示す割合で混合して加熱蒸散用水性薬剤を調製した。第1表に示すA、B、F、H、I、J及びKの各種水性有機溶剤の具体的種類は第2表及び第3表に示す。また、第2表及び第3表には、AからLまで、及びアの各種水性有機溶剤の具体的種類が示してある。
なお、(水性有機溶剤+水)の量は加熱蒸散性薬剤とその他の添加剤との合計量を除いた残りの量である。また、添加剤のBHTは従来揮散性調整剤として添加されているものであるが、通常の添加剤と異なるので、それと区別するために、ここでは添加剤と別にした。
比較例8〜10
本発明の水性有機溶剤を添加混合しない外は、実施例1〜5,7、参考例6と同様にして加熱蒸散用水性薬剤を調製した。使用した薬剤等の内容は第1表に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
なお、第1表において、PP:ポリプロピレン。
上記実施例1〜5,7、参考例6で調製した本発明及び参考の水性有機溶剤を含有する水性薬剤の試料、及び比較例8〜10で得た薬液の試料(比較試料)の夫々50mlを、第1図に示す容器(3)に入れ、発熱体(4)に通電して吸液芯(1)の上側面部を温度130℃に加熱し、該加熱による試料中の薬剤の蒸散試験を行なった。吸液芯(1)としては第1表に示す材質のもので、直径7mmのものを用い、また発熱体(4)はリングヒーターを用いた。
薬剤の揮散量は、揮散蒸気を毎時間毎にシリカゲルカラムに吸引捕集し、このシリカゲルをアセトンで抽出し、濃縮後ガスクロマトグラフにて定量分析した。試料の加熱開始より第1日後、第15日後、及び第30日後の1日に12時間通電した場合の薬剤揮散量mg/12hrを求めた結果、並びに360時間後の液の外観状態の変化を下記第4表に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
上記第4表によれば、本発明の水性有機溶剤を用いる実施例1〜5,7の場合にはいずれも薬剤揮散量が日数の経過によらず低下することがなく、むしろ第15日では当初よりも増加しており、その状態は第30日でも同様であって、薬剤の揮散が安定して行われている。また、液の外観状態は透明で当初の状態とあまり変化は認められなかった。これに対して、比較例8〜10の場合にはいずれも第30日では当初に比して薬剤揮散量が低下しており、また360時間経過後の外観は、白濁、分離を生じており、これらの結果から、本発明においては、薬剤の加熱蒸散を安定して、かつ高く維持して行うことができることが明白である。
【0046】
実施例11〜16
加熱蒸散用薬剤の有効成分としてd,d-T80プラレトリン(商品名エトック)0.6wt%を含有するように、この加熱蒸散用薬剤とともに、各種水性有機溶剤、水、その他の添加剤を、第5表に示す割合で混合して加熱蒸散用水性薬剤を調製した。第5表に示すM〜Rの各種水性有機溶剤の具体的種類は第6表に示す。
なお、(水性有機溶剤+水)の量は加熱蒸散性薬剤とその他の添加剤との合計量を除いた残りの量である。また、添加剤のBHTは従来揮散性調整剤として添加されているものであるが、通常の添加剤と異なるので、それと区別するために、ここでは添加剤と別にした。
【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
上記実施例11〜16で調製した本発明の水性有機溶剤を含有する水性薬剤の試料の夫々50mlを、第1図に示す容器(3)に入れ、発熱体(4)に通電して吸液芯(1)の上側面部を温度130℃に加熱し、該加熱による試料中の薬剤の蒸散試験を行なった。吸液芯(1)としては第5表に示す材質のもので、直径7mmのものを用い、また発熱体(4)はリングヒーターを用いた。
薬剤の揮散量は、揮散蒸気を毎時間毎にシリカゲルカラムに吸引捕集し、このシリカゲルをアセトンで抽出し、濃縮後ガスクロマトグラフにて定量分析した。
試料の加熱開始より第1日後、第15日後、及び第30日後の1日に12時間通電した場合の薬剤揮散量mg/12hrを求めた結果を下記第7表に示す。
【0050】
【表7】

【0051】
上記第7表によれば、本発明の水性有機溶剤を用いる時には、薬剤揮散量が日数の経過によらず低下することがなく、むしろ第15日では当初よりも増加しており、その状態は第30日でも同様であって、薬剤の揮散が安定して行われていることがわかる。
【0052】
実施例17〜26
加熱蒸散用薬剤の有効成分としてd,d-T80プラレトリン(商品名エトック)0.6wt%を含有するように、この加熱蒸散用水性薬剤とともに、各種の前記水性有機化合物、水、その他の添加剤を、第8表に示す割合で混合して加熱蒸散用水性薬剤を調製した。第8表に示すS〜Zの各種水性有機化合物の具体的種類は第9表及び第10表に示す。なお、(水性有機化合物+水)の量は加熱蒸散性薬剤とその他の添加剤との合計量を除いた残りの量である。
比較例27
本発明の有機溶媒や水性有機化合物を添加混合しない外は、実施例17〜26と同様にして加熱蒸散用水性薬剤を調製した。使用した薬剤等の内容は第8表に示す。
【0053】
【表8】

【0054】
【表9】

【0055】
【表10】

【0056】
上記実施例17〜26で調製した本発明の水性有機有機化合物を含有する水性薬剤の試料、及び比較例27で得た薬液の試料(比較試料)の夫々50mlを、第1図に示す容器(3)に入れ、発熱体(4)に通電して吸液芯(1)の上側面部を温度130℃に加熱し、該加熱による試料中の薬剤の蒸散試験を行なった。吸液芯(1)としては第8表に示す材質のもので、直径6mmのものを用い、また発熱体(4)はリングヒーターを用いた。
薬剤の揮散量は、揮散蒸気を毎時間毎にシリカゲルカラムに吸引捕集し、このシリカゲルをアセトンで抽出し、濃縮後ガスクロマトグラフにて定量分析した。
試料の加熱開始より第5時間後、第100時間後、第200時間後及び第300時間後の1時間当りの薬剤揮散量mg/hrを求めた結果を下記第11表に示す。
【0057】
【表11】

【0058】
上記第11表によれば、本発明の水性有機化合物を用いる時には、薬剤揮散量が日数の経過によらず低下することがなく、むしろ第200時間後では当初よりも増加しており、その状態は第300時間後でも同様であって、薬剤の揮散が安定して行われていることがわかる。本発明の加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤を添加した場合においては、比較例でn-パラフィンを添加した場合と同様に薬剤の加熱蒸散を安定して、かつ高く維持して行うことができることが明白である。
【0059】
実施例28〜32
実施例28〜30には、加熱蒸散用薬剤の有効成分としてd,d-T80プラレトリン(商品名エトック)0.6wt%を含有するように、また実施例31にはエスビオールを0.6wt%含有するように、さらにまた実施例32にはd,d-T80プラレトリン(商品名エトック)0.6wt%を含有するように、しかしてこれらの加熱蒸散用水性薬剤とともに、各種の前記水性有機化合物、前記水性有機溶剤、水、その他の添加剤を、第12表に示す割合で混合して加熱蒸散用水性薬剤を調製した。第12表に示す水性有機化合物及び有機溶剤の中実施例28〜31に使用のものの具体的種類はすでに第2表に(Bとして)また10表に(Zとして)示してある。実施例32に使用の水性有機化合物の具体的種類は10表に(イとして)示してある。なお、(水性有機化合物+水)の量は加熱蒸散性薬剤とその他の添加剤との合計量を除いた残りの量である。
【0060】
【表12】

【0061】
上記実施例27〜32で調製した本発明の水性有機有機化合物あるいは水性有機有機溶剤を含有する水性薬剤の試料で得た薬液の試料の夫々50mlを、第1図に示す容器(3)に入れ、発熱体(4)に通電して吸液芯(1)の上側面部を温度130□に加熱し、該加熱による試料中の薬剤の蒸散試験を行なった。吸液芯(1)としては第12表に示す材質のもので、直径6mmのものを用い、また発熱体(4)はリングヒーターを用いた。
薬剤の揮散量は、揮散蒸気を毎時間毎にシリカゲルカラムに吸引捕集し、このシリカゲルをアセトンで抽出し、濃縮後ガスクロマトグラフにて定量分析した。
【0062】
実施例27〜31で調製した本発明の試料の加熱開始より第5時間後、第100時間後、第200時間後及び第300時間後の1時間当りの薬剤揮散量mg/hrを求めた結果を下記第13表に示す。
また、実施例32で調製した本発明の試料の加熱開始より第1日後、第15日後、及び第30日後の1日に12時間通電した場合の薬剤揮散量mg/12hrを求めた結果を下記第14表に示す。
【0063】
【表13】

【0064】
【表14】

【0065】
上記第13表および第14表によれば、本発明の水性有機化合物、水性有機溶剤を用いる時には、水性有機化合物、水性有機溶剤の使用量が8重量%程度の少量であっても、薬剤揮散量が日数の経過によらず低下することがなく、薬剤の揮散が安定して行われていることがわかる。
【0066】
【発明の効果】
本発明によれば、特定の水性有機溶剤を用いて加熱蒸散用水性薬剤を構成することにより、薬剤の加熱蒸散に際して、薬剤の揮散が一定して行われ、吸液芯を用いる加熱蒸散において吸液芯の目詰まりが殆どなく、安定した加熱蒸散がなされる。
また特定の水性有機化合物を用いて加熱蒸散用水性薬剤の揮散調整剤を構成し、調整した揮散調整剤を用いて加熱蒸散用水性薬剤を構成することにより、薬剤の加熱蒸散に際して、薬剤の揮散が一定して行われ、吸液芯を用いる加熱蒸散において吸液芯の目詰まりが殆どなく、長期間に亘たり均一に薬剤の加熱蒸散が行われ、通電後期においても加熱蒸散用水性薬剤の組成に変化がなく、液に白濁が生じない。
【図面の簡単な説明】
【図1】
吸液芯を用いた吸上式加熱蒸散装置の概略図を示す。
【符号の説明】
1 吸液芯
2 芯支持体
3 薬液収容容器
4 環状発熱体
5 支持部
6 支持脚
7 発熱体支持台
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-12-13 
結審通知日 2004-12-15 
審決日 2004-12-28 
出願番号 特願平6-92845
審決分類 P 1 112・ 55- YA (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉良 優子松本 直子  
特許庁審判長 雨宮 弘治
特許庁審判官 後藤 圭次
唐木 以知良
登録日 2003-03-07 
登録番号 特許第3405807号(P3405807)
発明の名称 加熱蒸散用水性薬剤及び加熱蒸散方法並びに加熱蒸散用水性薬剤の揮散性調整剤  
代理人 添田 全一  
代理人 栗宇 百合子  
代理人 萼 経夫  
代理人 小栗 昌平  
代理人 添田 全一  
代理人 中村 壽夫  
代理人 赤尾 直人  
代理人 小栗 昌平  
代理人 市川 利光  
代理人 本多 弘徳  
代理人 加藤 勉  
代理人 高松 猛  
代理人 濱田 百合子  
代理人 市川 利光  
代理人 高松 猛  
代理人 本多 弘徳  

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