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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1122053
審判番号 不服2003-5080  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-10-03 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-03-27 
確定日 2005-08-18 
事件の表示 平成 8年特許願第 71985号「非水系電解液二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月 3日出願公開、特開平 9-259857〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年3月27日の出願であって、平成15年2月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年3月27日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。
そして、本願請求項1に係る発明は、平成15年1月30日付け手続補正書、及び、平成15年4月22日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、平成15年1月30日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明」という)。
「【請求項1】 リチウム含有複合酸化物から成る正極と、金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵、放出し得る物質を負極材料とする負極と、有機電解液が含浸されたセパレータとを備えた非水系電解液二次電池において、 前記セパレータは、ポリエチレンとポリプロピレンとのブレンドポリマー微多孔膜が三枚積層された三層膜から成り、
前記三層膜が、
ポリプロピレンの混合比率が20%以下である、中央のブレンドポリマー微多孔膜と、
ポリプロピレンの混合比率が80%以上である、前記中央のブレンドポリマー微多孔膜を挟む外側のブレンドポリマー微多孔膜と、
からなることを特徴とする非水系電解液二次電池。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用した本願の出願前に頒布された刊行物の記載事項は、次のとおりである。
(1)引用例:特開平7-216118号公報
(摘示1)「【請求項1】 ポリエチレンとポリプロピレンを必須成分として含む多孔質フィルムであって・・・フィルムの厚み方向においてポリエチレン含有率が変化している・・・多孔質フィルム。」(特許請求の範囲の請求項1)
(摘示2)「【請求項2】 フィルムの厚み方向において、ポリエチレン含有率が最も低い部分におけるポリエチレン含有率が0〜20重量%で、且つポリエチレン含有率が最も高い部分におけるポリエチレン含有率が21〜60重量%である請求項1記載の多孔質フィルム。
【請求項3】 表面近傍のポリエチレン含有率が0〜20重量%で、且つフィルムの厚さ方向における中心部分のポリエチレン含有率が21〜60重量%である請求項2記載の多孔質フィルム。」(特許請求の範囲の請求項2、3)
(摘示3)「【請求項5】 ポリエチレンとポリプロピレンを必須成分とし且つポリエチレン重量とポリプロピレン重量の合計中に占めるポリエチレンの含有率の異なる少なくとも2層から成る・・・積層フィルムを成形した後、この積層フィルムを・・・延伸する・・・多孔質フィルムの製造法。」(特許請求の範囲の請求項5)
(摘示4)「【産業上の利用分野】 本発明はポリエチレンとポリプロピレンを必須成分として含む多孔質フィルム・・・その多孔質フィルムから成る電池用セパレータおよびそのセパレータを組み込んだ電池に関する。」(段落【0001】)
(摘示5)「このリチウム電池の正極構成材料としては、・・・フッ化黒鉛、・・・金属酸化物、・・・硫化物等が知られており、負極構成材料としては、金属リチウム、・・・リチウムイオンを吸着または吸蔵する能力を有する材料・・・等が知られている。また、電解液としては、・・・有機溶媒系電解液が知られている。かような材料から構成されるリチウム電池は外部短絡や正・負極の誤接続等により異常電流が流れた場合、これに伴って電池温度が著しく上昇し、これを組み込んだ機器に熱的ダメージを与える恐れがある。」(段落【0003】、【0004】)
(摘示6)「実施例3 ・・・3層同時押出法により・・・PP60部と・・・PE40部から成る混合層・・・の両面に・・・PP90部と・・・PE10部の混合物から成る・・・層が各々形成された積層フィルムを成形する。この積層フィルムを用い・・・厚さ25μm、初期電気抵抗1.5Ω・cm2 の多孔質フィルムを得た。この多孔質フィルムは・・・両表面から厚さ方向の中心部に向かって約8μmまでの部分におけるPE含有率は各々10重量%、厚さ方向の中心部分(この部分の厚さは約8μm)におけるPE含有率は40重量%であり、厚さ方向においてPE含有率が変化していた。」(段落【0065】〜【0067】)
(摘示7)「本明細書においては温度の上昇により電気抵抗が増大し、その値が200Ω・cm2 に達するときの温度を、以下、「SD開始温度」ということとする。SD開始温度が低すぎる場合は僅かな温度上昇で電気抵抗の増大が開始されることになり、高すぎる場合は安全性の確保が不充分となる。」(段落【0007】)
(摘示8)「本発明は実用的なSD開始温度を有して安全性が高く、しかも低電気抵抗で、機械的強度も大きくて、電池用セパレータとして好適な多孔質フィルムを提供することを主目的とする。」(段落【0014】)
(摘示9)「PE含有率が最も低い部分におけるPE含有率が0〜20重量%で、且つPE含有率の最も高い部分におけるPE含有率が21〜60重量%になるようにするのが好適であることが判明している。」(段落【0020】)
(摘示10)「かような電池は使用中に何らかの原因で温度が上昇した場合、セパレータとしての多孔質フィルムの構成材料であるPEが溶融し、この溶融成分により多孔質フィルムの微細孔が閉塞され、その結果、電気抵抗が増大し、温度の過昇が防止され安全が保たれる。ただし、溶融PEによる微細孔閉塞現象は・・・多孔質フィルムがPE含有率の高い部分と低い部分から成るときは、溶融PEによる微細孔の閉塞は両部分において同時に開始されるが、PE含有率の高い部分で早く終了し、PE含有率の低い部分での終了はそれよりも遅くなる。」(段落【0026】)

3.当審の判断
引用例の摘示1には、「ポリエチレンとポリプロピレンを必須成分として含む多孔質フィルムであって・・・フィルムの厚み方向においてポリエチレン含有率が変化している・・・多孔質フィルム。」が記載されており、摘示2によると、該多孔質フィルムの厚み方向におけるポリエチレン含有率の変化は、表面近傍のポリエチレン含有率が0〜20重量%で、且つフィルムの厚さ方向における中心部分のポリエチレン含有率が21〜60重量%である。そして、「積層フィルムを・・・延伸する・・・多孔質フィルムの製造法」(摘示3)という記載、及び、「実施例3 ・・・PP60部と・・・PE40部から成る混合層・・・の両面に・・・PP90部と・・・PE10部の混合物から成る・・・層が各々形成された積層フィルムを成形する。この積層フィルムを用い・・・多孔質フィルムを得た。」(摘示6)という記載で示された多孔質フィルムの積層構造からみて、上記多孔質フィルムは、「ポリエチレンとポリプロピレンとのブレンドポリマー多孔質フィルムが三枚積層された三層フィルムであって、該三層フィルムは、ポリエチレンの混合比率が21〜60重量%である、中央のブレンドポリマー多孔質フィルムと、ポリエチレンの混合比率が0〜20重量%である、中央のブレンドポリマー多孔質フィルムを挟む外側のブレンドポリマー多孔質フィルムとからなる」ものであるといえる。ただし、ブレンドポリマーにおいては、上記「ポリエチレンの混合比率が0〜20重量%」のうち「ポリエチレンの混合比率が0重量%」の点は除かれるから、上記「ポリエチレンの混合比率が0〜20重量%」は、「ポリエチレンの混合比率が20重量%以下」と言い換えることができる。
さらに、摘示4、5によると、上記多孔質フィルムから成るセパレータは、フッ化黒鉛、金属酸化物、硫化物等を正極構成材料とし、金属リチウム又はリチウムイオンを吸着または吸蔵する能力を有する材料を負極構成材料とし、有機溶媒系電解液を用いたリチウム電池に、組み込まれるものである。ここで、負極構成材料である上記「リチウムイオンを吸着または吸蔵する能力を有する材料」は、放電時にはリチウムイオンを放出するから、「リチウムイオンを吸蔵、放出する能力を有する材料」といえるものである。
してみると、引用例には、上記多孔性フィルムからなる電池用セパレータを組み込んだ有機溶媒系電解液を用いたリチウム電池が記載されているといえ、また、有機溶媒系電解液を用いたリチウム電池においては、セパレータに有機溶媒系電解液が含浸されていることは周知の事項である。
これらの事項を整理すると、引用例には、「フッ化黒鉛、金属酸化物、硫化物等から成る正極と、金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵、放出する能力を有する材料を負極材料とする負極と、有機溶媒系電解液が含浸されたセパレータとを備えたリチウム電池において、前記セパレータは、ポリエチレンとポリプロピレンとのブレンドポリマー多孔質フィルムが三枚積層された三層フィルムであって、該三層フィルムは、ポリエチレンの混合比率が21〜60重量%である、中央のブレンドポリマー多孔質フィルムと、ポリエチレンの混合比率が20重量%以下である、中央のブレンドポリマー多孔質フィルムを挟む外側のブレンドポリマー多孔質フィルムとからなるリチウム電池」の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているといえる。
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「リチウムイオンを吸蔵、放出する能力を有する材料」、「有機溶媒系電解液」、「多孔質フィルム」、「フィルム」、「重量%」は、本願発明の「リチウムイオンを吸蔵、放出し得る物質」、「有機電解液」、「微多孔膜」、「膜」、「%」にそれぞれ相当し、引用発明の「リチウム電池」は、「非水系電解液電池」といえるものである。さらに、引用発明の「ポリエチレンの混合比率が21〜60重量%」とは、「ポリプロピレンの混合比率が40〜79重量%」のことであり、また、「ポリエチレンの混合比率が20重量%以下」とは、「ポリプロピレンの混合比率が80重量%以上」のことであるから、両発明は、「有機電解液が含浸されたセパレータを備えた非水系電解液電池において、前記セパレータは、ポリエチレンとポリプロピレンとのブレンドポリマー微多孔膜が三枚積層された三層膜から成り、前記三層膜が、中央のブレンドポリマー微多孔膜と、ポリプロピレンの混合比率が80%以上である、前記中央のブレンドポリマー微多孔膜を挟む外側のブレンドポリマー微多孔膜と、からなる非水系電解液電池」で一致し、以下の点で相違する。

相違点:
(イ)本願発明は、非水系電解液電池が、リチウム含有複合酸化物から成る正極と、金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵、放出し得る物質を負極材料とする負極とを備えた二次電池であるのに対し、引用発明は、フッ化黒鉛、金属酸化物、硫化物等から成る正極と、金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵、放出し得る物質を負極材料とする負極とを備えた電池である点。
(ロ)本願発明は、中央のブレンドポリマー微多孔膜におけるポリプロピレンの混合比率が20%以下であるのに対し、引用発明は、40〜79%である点。

次に、上記相違点について検討する。
相違点(イ)について
引用発明は、「フッ化黒鉛、金属酸化物、硫化物等から成る正極と、金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵、放出し得る物質を負極材料とする負極と、有機電解液(有機溶媒系電解液)が含浸されたセパレータとを備えた非水系電解液電池(リチウム電池)」が有する、外部短絡が生じると電池内で異常な温度上昇が生じるという問題点を(摘示5)、実用的なシャットダウン(SD)開始温度を有するようなセパレータを設計することにより解決したものであるといえる(摘示8)。
一方、特開平5-159766号公報、特開平7-272762号公報、特開平7-192720号公報にも記載されるように、「外部短絡が生じると電池内で異常な温度上昇が生じる」という上記引用発明の非水系電解液電池と同様の問題点を有する電池として、「リチウム含有複合酸化物から成る正極と、金属リチウム又はリチウムイオンを吸蔵、放出し得る物質を負極材料とする負極と、有機電解液が含浸されたセパレータとを備えた非水系電解液二次電池」は周知であるから、引用発明の上記非水系電解液電池を、上記周知の非水系電解液二次電池とすることにより、上記周知の非水系電解液二次電池の問題点を解決しようとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
してみると、本願発明の相違点(イ)に係る発明特定事項は、周知の事項に基づいて当業者が適宜なし得ることである。
相違点(ロ)について
本願発明の「中央のブレンドポリマー微多孔膜」に関連して、本願明細書には以下の記載がある。
(a)「従来より、電池が異常に温度上昇した時には、ポリオレフィン系の微多孔膜から成るセパレータがメルトダウンして孔が目詰まりすることによって、電流をシャットダウンし、安全性を確保していた。」(段落【0002】)
(b)「ポリプロピレンの混合比率が高いブレンドポリマー微多孔膜によってセパレータの突き刺し強度が大きくなり、且つ、ポリエチレンの混合比率が高い(ポリプロピレンの混合比率が低い)ブレンドポリマー微多孔膜によってセパレータのシャットダウン特性が向上する。」(段落【0008】)
(c)「ポリプロピレンの混合比率が20%以下になると、電池が発煙、発火しない。これは・・・ポリプロピレンの混合比率が低いと、130℃でセパレータが完全にメルトダウンし、その後は電流が流れないので、電池内の温度が徐々に低下するという理由による」(段落【0039】)
(d)「ポリプロピレンの混合比率が30%以上になると、130℃でセパレータの完全なメルトダウンが生じず、当該温度を超えても電流が流れ続けるため、電池内の温度が急激に上昇し、電池が発煙、発火する。」(段落【0049】)
これら(a)〜(d)の記載事項に徴すれば、本願発明の「ポリプロピレンの混合比率が20%以下である、中央のブレンドポリマー微多孔膜」は、130℃でシャットダウンすることにより、電池内の温度が急激に上昇して電池が発煙、発火するのを防止することができるシャットダウン機能を有しているといえる。
これに対し、引用例には、以下の記載がある。
(A)「リチウム電池は外部短絡や正・負極の誤接続等により異常電流が流れた場合、これに伴って電池温度が著しく上昇し、これを組み込んだ機器に熱的ダメージを与える恐れがある。」(摘示5)
(B)「温度の上昇により電気抵抗が増大し、その値が200Ω・cm2 に達するときの温度を、以下、「SD開始温度」ということとする。」(摘示7)
(C)「温度が上昇した場合、セパレータとしての多孔質フィルムの構成材料であるPEが溶融し、この溶融成分により多孔質フィルムの微細孔が閉塞され、その結果、電気抵抗が増大し、温度の過昇が防止され安全が保たれる。ただし、溶融PEによる微細孔閉塞現象は・・・多孔質フィルムがPE含有率の高い部分と低い部分から成るときは、溶融PEによる微細孔の閉塞は両部分において同時に開始されるが、PE含有率の高い部分で早く終了し、PE含有率の低い部分での終了はそれよりも遅くなる。」(摘示10)
これら(A)〜(C)の記載事項に徴すれば、引用発明の「ポリプロピレンの混合比率が40〜79%(ポリエチレンの混合比率が21〜60%)である、中央のブレンドポリマー微多孔膜(多孔質フィルム)」は、上記「PE含有率の高い部分」であって、上記「溶融PEによる微細孔の閉塞」が早く終了する部分であるから、中央のブレンドポリマー微多孔膜において、溶融したポリエチレンにより、ブレンドポリマー微多孔膜の微細孔が閉塞される結果、電気抵抗が増大して電流がシャットダウンされるものであるといえる。そうすると、引用発明の「中央のブレンドポリマー微多孔膜」は、実用的なシャットダウン(SD)開始温度を有することにより、電池内の温度が過昇して電池を組み込んだ機器に熱的ダメージを与えることを防止することができるシャットダウン機能を有しているといえる。
してみると、本願発明と引用発明の「中央のブレンドポリマー微多孔膜」は、シャットダウン機能を備える点で共通するものの、具体的なシャットダウン機能が異なっているから、シャットダウン機能と相違点(ロ)との関連について、以下に検討する。
引用例の上記記載事項(C)を参酌すると、ポリエチレンとポリプロピレンとのブレンドポリマー微多孔膜においては、ポリプロピレンの混合比率の低い中央のブレンドポリマー微多孔膜は、ポリプロピレンの混合比率の高い外側のブレンドポリマー微多孔膜より、溶融ポリエチレンによる微細孔閉塞、すなわち、シャットダウンが早く終了するのであるから、ポリプロピレンの混合比率が低い程、シャットダウン温度が低いといえる。
また、ポリエチレンは、ポリプロピレンより融点が低いのであるから、ポリエチレンと、ポリプロピレンとのブレンドポリマー微多孔膜において、ポリプロピレンの混合比率が低い、すなわち、ポリエチレンの混合比率が高い程、シャットダウン温度が低くなることは、当業者にとって自明なことである。
この「ポリプロピレンの混合比率が低い程、シャットダウン温度が低い」というポリプロピレンの混合比率とシャットダウン温度との自明の関係、及び、引用例の「SD(シャットダウン)開始温度が低すぎる場合は僅かな温度上昇で電気抵抗の増大が開始されることになり、高すぎる場合は安全性の確保が不充分となる。」(摘示7)という記載に基づいて、引用発明において、中央のブレンドポリマー微多孔膜のポリプロピレンの混合比率を調整することにより、特開平5-159766号公報、特開平7-272762号公報にも記載されるような電池の発煙、発火等の不都合に応じて、それら不都合の原因となる電池内の異常な温度上昇を確実に防止しようとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、引用発明の中央のブレンドポリマー微多孔膜のポリプロピレンの混合比率が40〜79%であることに関して、引用例には、「好適であることが判明している。」(摘示9)と記載されるのみで、ポリプロピレンの混合比率の下限を40%とすることの技術的意義について、特には記載されていないが、ポリプロピレンの混合比率が0%といえるポリエチレン層が、シャットダウン機能を担う積層セパレータは、特開平4-181651号公報、特開平5-251069号公報等に記載されるように周知であり、また、ポリプロピレンの混合比率が10〜90%のポリエチレンとポリプロピレンとのブレンドポリマー微多孔膜からなるシャットダウン機能を有するセパレータも、特開平5-331306号公報に記載されるように周知である。
これら周知の事項、及び、前示の「ポリプロピレンの混合比率が低い程、シャットダウン温度が低い」というポリプロピレンの混合比率とシャットダウン温度との自明の関係を勘案すると、ポリエチレンとポリプロピレンとのブレンドポリマー微多孔膜においては、ポリプロピレンの混合比率が上記下限の40%より低い「20%以下」の場合のシャットダウン温度は、ポリプロピレンの混合比率が40%の場合と比べて低い温度であることは明らかであるから、より低い温度に対応するシャットダウン機能を有することも明らかである。
そうすると、電池内で異常な温度上昇が生じることにより発生する電池の発煙、発火等を確実に防止して、充分な安全性を確保するために、引用発明において、中央のブレンドポリマー微多孔膜のポリプロピレンの混合率を20%以下として、より低いシャットダウン温度に対応できるようにすることは、当業者が適宜なし得ることであるというべきである。
してみると、本願発明の相違点(ロ)に係る発明特定事項は、引用例の記載事項、及び周知の事項に基づいて当業者が容易になし得ることである。
よって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、出願人は、審判請求書とともに実験成績証明書を提出して、「ポリプロピレンの混合比率20%」という数値は、セパレータのシャットダウン温度とセパレータの突き刺し強度との関係において臨界的意義を有する旨、主張している。
しかしながら、セパレータの突き刺し強度は、「ポリプロピレンの混合比率が80%以上である、中央のブレンドポリマー微多孔膜を挟む外側のブレンドポリマー微多孔膜」が担う作用、効果であり(本願明細書の段落【0008】、同【0034】)、「中央のブレンドポリマー微多孔膜」が担うセパレータのシャットダウン機能には直接関連がないといえるし、実験証明書の「PP比率」と「セパレータシャットダウン温度」との測定結果のデータを見ても、前示の「ポリプロピレンの混合比率が低い程、シャットダウン温度が低い」というポリプロピレンの混合比率とシャットダウン温度との関係が、「PP比率20%以下」において覆るものでもない。
よって、上記出願人の主張は採用できない。

4.むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-15 
結審通知日 2005-06-21 
審決日 2005-07-04 
出願番号 特願平8-71985
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 綿谷 晶廣
特許庁審判官 酒井 美知子
原 賢一
発明の名称 非水系電解液二次電池  
代理人 大前 要  

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