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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F23K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F23K
管理番号 1122106
審判番号 不服2004-4439  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-01-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-04 
確定日 2005-08-18 
事件の表示 平成 8年特許願第174728号「カートリッジ式油タンク」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 1月23日出願公開、特開平10- 19241〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成8年7月4日の特許出願であって、原審において平成15年2月25日付けで拒絶理由通知がなされ、平成15年4月23日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成16年1月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年3月4日付けで審判請求がなされるとともに、平成16年3月30日付けで、この審判請求書を補正対象とする手続補正と、明細書を補正対象とする手続補正の2つの手続補正がなされ、その後、特許法第162条による審査がなされ、平成16年12月1日付けで特許庁長官への報告がなされたものである。




第2 補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年3月30日付けの、明細書を補正対象とする手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の各請求項に係る発明
補正後の請求項1ないし12に係る発明は、平成16年3月30日付けの、明細書を補正対象とする手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 タンクボディ部とタンクフタ部を接合してタンク本体を形成し、このタンク本体の一端には給油口を設け、他端には鋼線と樹脂グリップを一体成形で構成した把手を回動自在に設けたカートリッジ式油タンクであって、前記把手をタンクボディに接触させた際に前記樹脂グリップの一部または全部を収納するへこみ部をタンクボディ部の一部分に設け、少なくとも前記樹脂グリップが前記へこみ部に収納されることで、タンク本体と把手が略同一面となるようにしたカートリッジ式油タンク。
【請求項2】 把手は鋼線部分の端面が樹脂一体成形部分の内部に位置する構成とした請求項1記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項3】 鋼線の表面に叩き加工を施した部分に樹脂を一体成形した把手を用いた請求項1記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項4】 鋼線の表面に溝切り加工を施した部分に樹脂を一体成形した把手を用いた請求項1記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項5】 把手の樹脂グリップが鋼線の曲げ部分に沿い略U字形である請求項1〜4のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項6】 把手の樹脂グリップの断面形状が長手方向で手の指形状に対応すべくグリップに凹凸を設けた請求項1〜4のいずれか1記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項7】 把手のグリップの表面に細かい凹凸を設けた請求項1〜6のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項8】 把手の樹脂グリップがエラストマーもしくはゴム系の弾力性を有する材質である請求項1〜6のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項9】 把手の樹脂グリップの両端部の径がその他の部分の径よりも太い請求項1〜8のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項10】 把手の鋼線の曲げ形状が台形であることで樹脂グリップの直線部寸法を大きく設けた請求項1〜4のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項11】 把手の鋼線部分の曲げ形状が2段曲げであることで樹脂グリップの直線部寸法を大きく設けた請求項1〜4のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項12】 把手の樹脂グリップの直線部寸法が樹脂に隠れた鋼線の直線部寸法よりも大きい請求項1〜4のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。」


2.引用刊行物に記載された発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された
刊行物1:実願昭49-120847号(実開昭51-47003号)の
マイクロフィルム
には、図面と共に次のa.〜d.の記載がある。
a.「この考案は液体燃焼器に用いるカートリツヂ式油タンクに係るもので油タンクに給油する際に該タンクが安定して立脚し確実な給油が出来る様にしたものである。」(明細書第1頁13〜16行)(下線は当審が付した。以下、同じ。)

b.「以下一実施例を図面と共に詳説すると、油貯槽部を有する二つの本体を互いにフランジ部にて接合してなるタンク本体の下部へ給油口を設け、一方本体の上部へは該本体に固着せる掛止板へ一端を回動自在に支持される把手枠を設けると共に、該把手枠の握り部へ、前記フランジ部の突片上部と水平状態をなす回動自在な握り環を設けて成る油タンクに係るものである。
尚、図中1は油貯蔵部2,2を有する本体でフランジ部3にて互いに接合している。4はフランジ部3の突片、5は両端を本体1に固着される掛止板で中央部へは・・・状に形成した把手枠6の一端を回動自在に支持する様に突起部7を設けてある。
8は把手枠6の握り部9へ回動自在に設けた握り環でタンク本体1を立脚した時に滑らない様にリブ10を周設してある。
11は本体1の側部に設けた油量表示目盛、12は本体1の下部に突設した給油口である。」(明細書第1頁17行〜第2頁17行)

c.「この様にこの考案は構成され油貯槽部2を有する二つの本体1を互いにフランジ部3にて接合してなるタンク本体1の下部へ給油口12を設け、一方本体の上部へは該本体1に固着せる掛止板5へ一端を回動自在に支持される把手枠6を設けると共に、該把手枠6の握り部9へ、前記フランジ部3の突片4上部と水平状態をなす回動自在な握り環8を設けたので、該油タンクは安定した立脚が出来ると共に把手として使用便利である。
即ち、給油等に逆にした油タンクのフランジ部3の突片4を地震等に設置するならば把手枠6の握り環8には掛止板5の突起部7を支点として回動し本体1の脚部となり、前記フランジ部3の突片4と水平状態となるので本体は安定して立脚が出来給油も容易に出来る。
又、この時握り環8には滑り止め用リブ10を周設してあるので給油時は安定した立脚が得られるものである。更に通常は把手として持ち易く使用便利である。
以上の様にこの考案は、給油時等に安定した立脚が出来ると共に構造簡単にして安価に出来る等の実用的効果を奏する。」(明細書第3頁1行〜第4頁5行)

d.「第1図は全体斜視図
第2図は要部を表す説明図
第3図は使用状態を表す説明図」
(明細書第4頁7〜9行)

したがって、刊行物1には、
「油貯槽部2を有する二つの本体を互いにフランジ部3にて接合してなるタンク本体1の下部へ給油口12を設け、該タンク本体1の上部へは把手枠6を回動自在に設けると共に、該把手枠6の握り部9へ握り環8を設けたカートリツヂ式油タンクであって、給油時に逆にした状態で設置すると、握り環8を設けた把手枠6は掛止板5の突起部7を支点として回動し本体1の脚部となり、該握り環8は前記フランジ部3の突片4と水平状態となるカートリツヂ式油タンク。」
なる発明が記載されている。


(2)原査定の拒絶の理由に引用された、
刊行物2:特開平8-68529号公報
には、図面と共に次のa.〜c.の記載がある。
a.「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、石油ファンヒータや石油ストーブ等の家庭用暖房装置に着脱可能に収納されるカートリッジ式燃料タンク(以下、カートリッジタンクという)に関する。」

b.「【0009】
【実施例】以下、図面を参照して、この発明の実施例について説明する。
◇第1実施例
図1は、この発明の第1実施例であるカートリッジタンクを示す図であり、同図(a)は、同カートリッジタンクの全体構成を示す斜視図、同図(b)は、運搬用持手を留める留板の拡大図、また、図2は、同カートリッジタンクを収納するファンヒータを示す斜視図である。図1(a)において、このカートリッジタンク本体(以下、タンク本体と略称する)1の上面のほぼ中央には、ファンヒータ本体10の図示せぬ燃焼器に灯油を供給したり、ポリタンクから灯油を供給される際の円筒状に突出した給油口が設けられていて、同じく円筒状の給油口金2がその給油口の蓋となっている。また、給油口金2のほぼ中央には給油機構2aが設けられ、この給油口金2は、使用者がカートリッジタンクをファンヒータ本体10のタンク収納部12に収納すると、カートリッジタンク50内の灯油をファンヒータの燃焼器に燃焼の程度に応じた必要量を供給する。
【0010】タンク本体1の側面には、運搬用持手3と留板4とが設けられ、これらがカートリッジタンクを人が手に掴んで運搬するための把持手段となっている。運搬用持手3は、断面が円形状の鋼線等の線状部材が四角の枠状に曲げられて構成されており、その線状部材の一つの辺が留板4でタンク本体1の側面に支持されている。この運搬用持手3と留板4を拡大して示したのが、図1(b)である。同図(b)において、留板4のほぼ中央付近には、半円筒形の溝4aがプレス加工等によって形成されている。この留板4の上面が、タンク本体1の側面に溶接等によって固定される。運搬用持手3の径は、留板4の半円筒形の溝の深さよりも小さく、したがって、カートリッジタンクの運搬用持手3をd方向又はf方向に自由に動かすことができる。カートリッジタンクを運搬するときには、運搬用持手3をd方向に動かして立てた状態で運搬用持手3の上部を持つ。また、カートリッジタンクをファンヒータ本体10に収納するときには、運搬用持手3をf方向に動かしてタンク本体1に当接状態にすれば、収納の邪魔にならない。さらに、タンク本体1の図示しない側の側面には、油量計6が、また、底面には、ファンヒータ本体から空のカートリッジタンクを引き出したり、ファンヒータ本体に満タンのカートリッジタンクを収納する際に用いる着脱用持手5が設けられている。」

c.「【0011】次に、図2に示すように、ファンヒータ本体10の正面には、温風吹出口11が、また、上面には、タンク収納部12からカートリッジタンクを出し入れするための天蓋14付きのタンク着脱口が設けられている。このタンク着脱口の下方の空間がタンク収納部12となっている。タンク収納部12の内部には円筒形凹状の受皿13が設けられ、カートリッジタンクが収納されると、カートリッジタンクの円筒形状の給油口金2が円筒形凹状の受皿13に嵌め込まれ、給油口金2の給油機構2aが受皿13内の凸部に押されて、カートリッジタンク内の灯油が図示せぬ燃焼器に燃焼の程度に応じて必要量供給される。
【0012】次に、このカートリッジタンクの作用について説明する。まず、使用者は、カートリッジタンクに灯油を入れる場合、ファンヒータ本体10上面の天蓋14を開ける。そして、タンク収納部12に収納されているカートリッジタンクをその着脱用持手5を持って引き出す。次に、使用者は、給油口金2を上に向けると共に、f方向に向いている運搬用持手3をd方向に向ける。そして、運搬用持手3の上部を持って、カートリッジタンクをポリタンクまで運ぶ。このとき、給油口金2は上を向いているため、灯油のしずくが落ちることはない。次に、使用者は、給油口金2を外して、給油口とポリタンクとの間に、灯油を給油するためのポンプをセットする。使用者は、ポリタンクから給油口を介してポンプでカートリッジタンクに灯油を給油した後、給油口金2で蓋をし、再び、片手で運搬用持手3を持って、図1のように給油口金2を上に向けた状態でカートリッジタンクをファンヒータ本体10まで運ぶ。この後、使用者は、運搬用持手3をf方向に向けて運搬用持手3を収納すると共に、着脱用持手5を持って、給油口金2を下向きにしてファンヒータ本体10のタンク収納部12にk方向に収納する。そして、天蓋14を閉める。
【0013】このように、この例の構成によれば、このカートリッジタンクを運ぶ際に、使用者は、カートリッジタンクの運搬用持手3を片手で持って運ぶため、給油口が上を向き、カートリッジタンクの給油口金に付着した灯油のしずくや運ぶ際の振動で漏れた灯油のしずくが部屋の床に滴り落ちる虞がなくなると共に、両手がふさがれないで済む。また、運搬用持手3をd方向やf方向に回動するようにしたので、ファンヒータ本体10に収納する際に、邪魔にならない。」


(3)原査定の拒絶の理由に引用された、
刊行物3:特開平7-313353号公報
には、図面と共に次のa.〜e.の記載がある。
a.「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、電気鍋やホットプレートの如く吊り下げ把手を有する電気調理器に関する。」

b.「【0002】
【従来の技術】この種の電気調理器としては、図17に示すような電気鍋が知られている。この電気鍋は、上面部を凹陥部02とするとともに発熱体03を組み込んだ調理器本体01と、該調理器本体01の凹陥部02に着脱自在に収納される鍋04と、該鍋04の上部開口縁に載置して鍋04を被覆する蓋(図示せず、図4の蓋と同一である。)とからなっている。・・・・・
【0003】前記鍋04の側壁07にはステンレススチール等の金属製からなる1対の吊り下げ把手08、09が回動自在に枢支されている。・・・・・また、鍋04は、前述したように調理器本体01に収納して使用できるだけでなく、この鍋04だけをガスコンロなどに直接載せて直火で加熱して使用することもできる。」

c.「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかるに、上記従来例によれば、1対の吊り下げ把手08、09は金属製からなるものであるため、熱くなり易く、該吊り下げ把手08、09に使用者が直かに触れて把持すると熱く感じる難点があった。
・・・・・
【0007】この発明は、前記の点に鑑み、鍋の吊り下げ把手が熱くなっても、少なくとも把持する部分は耐熱性を有する合成樹脂材の把手カバーで被覆して熱くならないようにし、いつでも吊り下げ把手を直接に把持しても持ち運びできるようにする。また、・・・・・持ち易い把手とし、安全性の高い把手つき電気調理器を提供することを目的とする。」

d.「【0008】
【課題を解決するための手段】この発明は、発熱体を有する調理器本体に金属製の一対の吊り下げ把手を有する鍋を着脱自在に収納し、・・・・・前記各々の吊り下げ把手の少なくとも中央部は・・・外方に突出させ、該突出部には耐熱性を有する合成樹脂材の把手カバーを被覆して把持部とする・・・・・ことを特徴とする。
【0009】吊り下げ把手は、一般的にステンレススチールや鉄などの金属材料で製作されているため、比較的に熱伝導率が高い。
【0010】把手カバーは、熱くなりにくい耐熱性に優れた合成樹脂の材料からなるものである。例えば、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂などが好ましい。 ・・・・・
【0011】鍋は、発熱体を内蔵した調理器本体に着脱自在に設けるているため、鍋をガスコンロに直接に載せて加熱し料理の下準備ができる。
【0012】合成樹脂材料からなる把手カバーを吊り下げ把手に被覆する方法としては、インサート成形による方が好ましい。この場合、吊り下げ把手に1つ又は複数の突起(ダボ)を形成し、この吊り下げ把手の突起位置にてインサート成形により把手カバーを一体成形するのが望ましい。これにより把手カバーが把手に対して回り止めされる利点がある。
【0013】把手カバーの形状は、把手を被覆する限り、断面が円形、半円形、三角形等の多角形などのように任意である。
・・・・・
【0014】各々の把手カバーは、各々の吊り下げ把手を起立して両把手カバーを合致させた状態において該合致状態での把持面を円弧状となるように構成する方が好ましい。この場合の各把手カバーの形状は、断面が半真円形、半楕円形などの半円形状であって、両吊り下げ把手を起立して両把手カバーを合致させた状態において全体形状が真円形、楕円形などの断面円形状或いは下方の把持面を少なくとも円弧状とすることによって、把手カバーの部分が手で把持し易くなる。」

e.「【0019】
【第1実施例】この発明の第1実施例を図1〜図6に基づいて以下に説明する。図1は本発明に係る把手つき電気調理器における鍋の斜視図、図2は図1の鍋に蓋を被蓋して一部を切り欠いて示した全体の平面図、図3は蓋を取り外して一部を切り欠いて示した拡大正面図、図4は図2のMーM線の拡大断面図、図5は吊り下げ把手の平面図、図6は鍋に対する把手の結合状態を示す断面図を示している。
・・・・・
【0026】以上のように構成されている把手つき電気調理器において、本発明は、調理器本体2に着脱自在に収納される鍋30に設けた一対の金属製の吊り下げ把手20の改良に関する。前記一対の吊り下げ吊り下げ把手20、20の各々は、ステンレススチールや鉄などの金属材料で形成されており、鍋30の直径線を挟んで対向して鍋30の外周側壁30bより大きい外径を有し、前記直径線上の両基端を該鍋30の外周側壁30bに弧回動自在に枢着している。
【0027】前記各吊り下げ把手20は、図1、図2及び図5に示すように略半円形状の中央部を鍋30の外周側壁30bに対し基端部に比して外方に突出するように折り曲げ、該突出部20Cには耐熱性を有する合成樹脂材の把手カバー50を被覆して把持部21とする。それとともに、該吊り下げ把手20の両基端部20a、20bを、図6に示すように、鍋30の外周側壁30bに穿設した軸穴22にパッキン23を介して外側から嵌挿して、該両基端部20a、20bにEリング等の抜け止め部材24を設け、吊り下げ把手20が鍋30から抜けないように結合している。
【0028】各把手カバー50は、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等の合成樹脂のうち耐熱性に優れかつ硬質の材質からなるものである。この把手カバー50は吊り下げ把手20の水平姿勢状態時において前記調理器本体2に収納された鍋30の外周側壁30bの外方を囲むと共に、調理器本体2の上部外周壁2aの上方にあって、かつ外方に突出している。
【0029】吊り下げ把手20に対して把手カバー50を被覆する方法としては、インサート成形による方が大量生産できるので好ましい。すなわち、成形機の金型内に金属製の吊り下げ把手20を予めセットしておき、その吊り下げ把手20の少なくとも中央部21に対して把手カバー50を射出成形などにより一体成形することによって被覆される。もっとも、吊り下げ把手20の基端部20a、20bを除く略全域を外方に突出させて前述の如くインサート成形することもできる。
【0030】この場合、図5に示しているように、吊り下げ把手20に1つ又は複数の突起25・・・25を形成し、この突起25・・・25位置にて該吊り下げ把手20に対して把手カバー50を前記インサート成形により一体成形するようにする方が好ましい。前記突起25の存在により把手カバー50の取り付け時または使用時に同把手カバー50の回動が阻止されるとともに、インサート成形により把手カバーを吊り下げ把手に機械的に被覆できる。」



3.対比・一致点・相違点
本願の補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正後発明1」という。)と、刊行物1に記載された発明とを対比する。
《用語の対応》
刊行物1に記載された、
・把手枠6及び握り環8、
・カートリツヂ式油タンク、
は、それぞれ、本願補正後発明1の、
・把手、
・カートリッジ式油タンク、
にそれぞれ相当すると認められる。

《一致点》
したがって、両発明は、
「タンク本体の一端には給油口を設け、他端には把手を回動自在に設けたカートリッジ式油タンクであって、タンク本体と把手が略同一面となるようにしたカートリッジ式油タンク。」
で一致する。

《相違点》そして、両発明は下記A〜Cの3点で相違する。
相違点A:本願補正後発明1では、「タンクボディ部とタンクフタ部を接合してタンク本体を形成」している。
これに対し、刊行物1に記載された発明では、タンク本体1をこのように形成していない。

相違点B:本願補正後発明1では、「鋼線と樹脂グリップを一体成形で構成した」把手を設けている。
これに対し、刊行物1に記載された発明では、把手枠6及び握り環8がそれぞれ鋼線あるいは樹脂で作られるとは同刊行物に記載されていない。また、これらの把手枠6及び握り環8は一体成形されていない。

相違点C:本願補正後発明1の、「前記把手をタンクボディに接触させた際に前記樹脂グリップの一部または全部を収納するへこみ部をタンクボディ部の一部分に設け、少なくとも前記樹脂グリップが前記へこみ部に収納されることで、」タンク本体と把手が略同一面となる。
これに対し、刊行物1に記載された発明では、このようなへこみ部を設けていない。また、必然的に同発明においては、握り環8がこの「へこみ部」に収納されることで、握り環8がフランジ部3の突片4と水平状態となるわけではない。


4.判断
《相違点についての検討》
まず、上記相違点Aについて検討する。カートリッジ式油タンクの分野において、タンク本体を容器形状をした部分とフタ状の部分とを接合して形成することは周知の技術にすぎない。(もし、必要であれば、
・実願昭58-70152号(実開昭59-175853号)のマイクロ
フィルム
特に、明細書第7頁2〜5行の「第4図に示すタンク本体(11)も従来と同様に2つの構成部材を中空状に一体結合したもので、その外周には部材結合部である巻締め部(12)が突出形成されている。」、及び第5図、
・特開平7-208728号公報
特に、第2欄27〜29行の「まず図2を用いてオイルタンクの一例を説明しておくと、このオイルタンクは一対のタンク素板11,12の周縁部分を巻締め一体化して構成してあり、・・・」、及び図1、
等を参照。)
そして、この周知技術を、刊行物1に記載された発明に組み合わせることは当業者であれば容易である。

次に、上記相違点Bについて検討する。把手を鋼線で形成することは刊行物2に記載されている。(刊行物2の上記引用箇所2.(2)b.下線を付した箇所を特に参照。)
さらに、把手の握り部を覆う部材を樹脂製とし、この部材が一体成形により覆うように設けられることは、刊行物3に記載されている。(刊行物3の上記引用箇所2.(3)d.及びe.の下線を付した箇所を特に参照。)
そして、これらの刊行物に記載された発明を、刊行物1に記載された発明に組み合わせることは当業者であれば容易である。

次いで、上記相違点Cについて検討する。カートリッジ式油タンクの技術分野において、タンク本体の容器形状をした部分の一部にへこみ部を設け、該容器形状をした部分に把手を接触させた際に、このへこみ部に把手が収納されることで、タンク本体と把手が略同一面となることは周知の技術にすぎない。(もし、必要であれば、
・実願昭58-70152号(実開昭59-175853号)のマイクロ
フィルム
特に、明細書第7頁5行〜第8頁6行の「このタンク本体(11)の・・・他方の底部には、絞り加工により凹部(20)を形成する。(22)は吊持用のハンドルで、・・・凹部(20)内に起伏可能に枢着される。・・・ 前記凹部(20)の内側面(26)は、凹部底面に向って傾斜させ、前記ハンドル(22)の横倒時、その先端両側部(22a)と当接する如く形成する。またこの傾斜部、すなわち内側面(26)の傾斜角度は、第5図および第6図で示す如く、当接したハンドル(22)の高さが、前記巻締め部(12)の高さとほぼ等しくなるように設定する。」、及び第4図、
・実願昭59-174012号(実開昭61-89643号)のマイクロ
フィルム
特に、第1,2,4図、及び、明細書第2頁9〜12行の「一般に、この種のカートリッジ式燃料タンクは、持運び用の手下げハンドルを備えており、石油を入れる場合にはその手下げハンドル側を下にして床面等に倒立させるようにしている。」、明細書第3頁14〜20行の「この容器本体10の他方の端面には、手下げハンドル11が枢着されているが、・・・手下げハンドル11の把手側端部11aは図示の如くL字クランク状に折曲げられている。すなわち、この把手側端部11aは、手下げハンドル11の収納状態(横倒し状態)において上記巻締め部10aの高さとほぼ同一の高さを有する・・・」
等を参照。)
そして、この周知技術を、刊行物1に記載された発明のカートリツヂ式油タンクに組み合わせ、握り環8をへこみ部に収納し、そうすることにより握り環8をタンク本体と略同一面とすることは当業者であれば容易である。
また、握り環8を樹脂製とすることは、上記、「相違点Bについて検討する」欄で述べたように、当業者であれば容易である。


《発明の効果についての検討》
本願補正後発明1の効果は、上記の刊行物1ないし3に記載された各発明、及び上記の周知技術に基づいて当業者が容易に推測できた程度のものである。


なお、平成16年3月30日付けの、審判請求書を補正対象とする手続補正書第5頁16〜22行において審判請求人は、
「しかしながら、上記参考文献(実願昭58-70152号(実開昭59-175853号)のマイクロフィルム及び実願昭52-54414号(実開昭53-149247号)のマイクロフィルム)に開示されたへこみ部の構成は、把手取付面も含め全体を収納するように同一の深さで構成したへこみ部であって、本願請求項1に係る発明のタンクボディの一部分にへこみ部を設け、該へこみ部に樹脂グリップを収納することでタンク容量を最大限確保するようにして、本体のコンパクト化を図った構成とは明らかに異なるものであります。」
と述べている。しかし、ここで述べられている「(把手)全体を収納するように同一の深さで構成したへこみ部」を排除するような記載が本願の請求項1にあると認めることはできない。
したがって、審判請求人のこの主張は採用できない。


5.まとめ
以上のように、本願補正後発明1は、上記の刊行物1ないし3に記載された各発明、及び上記の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本願の補正後の請求項2ないし12に係る発明については検討するまでもなく、上記平成16年3月30日付けの、明細書を補正対象とする手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。







第3 本願発明についての検討

1.本願発明
平成16年3月30日付けの、明細書を補正対象とする手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成15年4月23日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 タンクボディ部とタンクフタ部を接合してタンク本体を形成し、このタンク本体の一端には給油口を設け、他端には鋼線と樹脂グリップを一体成形で構成した把手を回動自在に設けたカートリッジ式油タンクであって、前記タンクボディ部には前記把手をタンクボディ部側に回動させたとき前記樹脂グリップの一部または全部を収納するへこみ部を設け、少なくとも前記樹脂グリップが前記へこみ部に収納されることで、タンク本体と把手が略同一面となるようにしたカートリッジ式油タンク。
【請求項2】 把手は鋼線部分の端面が樹脂一体成形部分の内部に位置する構成とした請求項1記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項3】 鋼線の表面に叩き加工を施した部分に樹脂を一体成形した把手を用いた請求項1記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項4】 鋼線の表面に溝切り加工を施した部分に樹脂を一体成形した把手を用いた請求項1記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項5】 把手の樹脂グリップが鋼線の曲げ部分に沿い略U字形である請求項1〜4のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項6】 把手の樹脂グリップの断面形状が長手方向で手の指形状に対応すべくグリップに凹凸を設けた請求項1〜4のいずれか1記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項7】 把手のグリップの表面に細かい凹凸を設けた請求項1〜6のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項8】 把手の樹脂グリップがエラストマーもしくはゴム系の弾力性を有する材質である請求項1〜6のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項9】 把手の樹脂グリップの両端部の径がその他の部分の径よりも太い請求項1〜8のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項10】 把手の鋼線の曲げ形状が台形であることで樹脂グリップの直線部寸法を大きく設けた請求項1〜4のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項11】 把手の鋼線部分の曲げ形状が2段曲げであることで樹脂グリップの直線部寸法を大きく設けた請求項1〜4のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。
【請求項12】 把手の樹脂グリップの直線部寸法が樹脂に隠れた鋼線の直線部寸法よりも大きい請求項1〜4のいずれか1項記載のカートリッジ式油タンク。」


2.引用刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された
刊行物1:実願昭49-120847号(実開昭51-47003号)の
マイクロフィルム
刊行物2:特開平8-68529号公報
刊行物3:特開平7-313353号公報
に記載された発明は、上記、第2、2.に記載したとおりである。


3.対比・一致点・相違点
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と、刊行物1に記載された発明とを対比する。
《用語の対応》
刊行物1に記載された、
・把手枠6及び握り環8、
・カートリツヂ式油タンク、
は、それぞれ、本願発明1の、
・把手、
・カートリッジ式油タンク、
にそれぞれ相当すると認められる。

《一致点》
したがって、両発明は、
「タンク本体の一端には給油口を設け、他端には把手を回動自在に設けたカートリッジ式油タンクであって、タンク本体と把手が略同一面となるようにしたカートリッジ式油タンク。」
で一致する。

《相違点》そして、両発明は下記A’〜C’の3点で相違する。
相違点A’:本願発明1では、「タンクボディ部とタンクフタ部を接合してタンク本体を形成」している。
これに対し、刊行物1に記載された発明では、タンク本体1をこのように形成していない。

相違点B’:本願発明1では、「鋼線と樹脂グリップを一体成形で構成した」把手を設けている。
これに対し、刊行物1に記載された発明では、把手枠6及び握り環8がそれぞれ鋼線あるいは樹脂で作られるとは同刊行物に記載されていない。また、これらの把手枠6及び握り環8は一体成形されていない。

相違点C’:本願発明1の、「前記タンクボディ部には前記把手をタンクボディ部側に回動させたとき前記樹脂グリップの一部または全部を収納するへこみ部を設け、少なくとも前記樹脂グリップが前記へこみ部に収納されることで、」タンク本体と把手が略同一面となる。
これに対し、刊行物1に記載された発明では、このようなへこみ部を設けていない。また、必然的に同発明においては、握り環8がこの「へこみ部」に収納されることで、握り環8がフランジ部3の突片4と水平状態となるわけではない。


4.判断
《相違点についての検討》
まず、上記相違点A’について検討すると、相違点A’は上記第2、3.に記載した相違点Aと完全に同じ内容である。
したがって、この相違点A’は、上記第2、4.「相違点Aについて検討する」の欄で述べたと同様に、当業者により容易に想到されたものである。

次に、上記相違点B’について検討すると、相違点B’は上記第2、3.に記載した相違点Bと完全に同じ内容である。
したがって、この相違点B’は、上記第2、4.「相違点Bについて検討する」の欄で述べたと同様に、当業者により容易に想到されたものである。

次いで、上記相違点C’について検討すると、カートリッジ式油タンクの技術分野において、タンク本体の容器形状をした部分の一部にへこみ部を設け、該容器形状をした部分に把手を回動させたとき、このへこみ部に把手が収納されることで、タンク本体と把手が略同一面となることは周知の技術にすぎない。(もし、必要であれば、
・実願昭58-70152号(実開昭59-175853号)のマイクロ
フィルム
特に、明細書第7頁5行〜第8頁6行の「このタンク本体(11)の・・・他方の底部には、絞り加工により凹部(20)を形成する。(22)は吊持用のハンドルで、・・・凹部(20)内に起伏可能に枢着される。・・・ 前記凹部(20)の内側面(26)は、凹部底面に向って傾斜させ、前記ハンドル(22)の横倒時、その先端両側部(22a)と当接する如く形成する。またこの傾斜部、すなわち内側面(26)の傾斜角度は、第5図および第6図で示す如く、当接したハンドル(22)の高さが、前記巻締め部(12)の高さとほぼ等しくなるように設定する。」、及び第4図、
・実願昭59-174012号(実開昭61-89643号)のマイクロ
フィルム
特に、第1,2,4図、及び、明細書第2頁9〜12行の「一般に、この種のカートリッジ式燃料タンクは、持運び用の手下げハンドルを備えており、石油を入れる場合にはその手下げハンドル側を下にして床面等に倒立させるようにしている。」、明細書第3頁14〜20行の「この容器本体10の他方の端面には、手下げハンドル11が枢着されているが、・・・手下げハンドル11の把手側端部11aは図示の如くL字クランク状に折曲げられている。すなわち、この把手側端部11aは、手下げハンドル11の収納状態(横倒し状態)において上記巻締め部10aの高さとほぼ同一の高さを有する・・・」
等を参照。)
そして、この周知技術を、刊行物1に記載された発明のカートリツヂ式油タンクに組み合わせ、握り環8をへこみ部に収納し、そうすることにより握り環8をタンク本体と略同一面とすることは当業者であれば容易である。
また、握り環8を樹脂製とすることは、上記第2、4.「相違点Bについて検討する」の欄で述べたように、当業者であれば容易である。

《発明の効果についての検討》
本願発明1の効果は、上記の刊行物1ないし3に記載された各発明、及び上記の周知技術に基づいて当業者が容易に推測できた程度のものである。


5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、上記の刊行物1ないし3に記載された各発明、及び上記の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本願の請求項2ないし12に係る発明については検討するまでもなく、本出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-14 
結審通知日 2005-06-21 
審決日 2005-07-04 
出願番号 特願平8-174728
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F23K)
P 1 8・ 121- Z (F23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東 勝之  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 会田 博行
原 慧
発明の名称 カートリッジ式油タンク  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 坂口 智康  
代理人 内藤 浩樹  

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