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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施  E01D
審判 全部無効 1項1号公知  E01D
管理番号 1122452
審判番号 無効2005-80086  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-07-03 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-03-17 
確定日 2005-08-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第3600895号発明「コンクリート構造物の施工における施工足場の係合方法及びスライド方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3600895号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3600895号に係る発明は、平成13年12月20日に出願され、平成16年10月1日にその発明について特許の設定登録がされたものであり、本件請求項1に係る発明は、本件明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 コンクリート構造物の施工において、施工に使用するための、支柱(3)を有する施工足場であり、コンクリート構造物(C)を取り囲む、複数の施工足場(4,5)を設け、これら施工足場(4,5)のうち、一方の施工足場(4)に、スライド溝部(1a)を有する金物(1)を設け、他方の足場(5)に、該金物(1)のスライド溝部(1a)に係合するレール(2)を設け、これら隣接する施工足場(4)(5)を係合することを特徴とするコンクリート構造物の施工における施工足場の係合方法。」(以下、「本件発明」という。)

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、「本件請求項1に係る特許発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載されたように、本件特許出願前に公然知られ、又公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第1号及び第2号の規定により特許を受けることができない発明に対して特許されたものであり、前記特許は特許法第123条第1項2号に該当し、無効とすべきである」旨主張し、証拠方法として下記甲第1号証ないし甲第8号証を提出している。

甲第1号証:平成14年3月11日付け「訴状」
甲第2号証:「別紙第2目録」
甲第3号証:「SPUシステム施工計画図」
甲第4号証:ピアー型枠用足場とSPU足場「比較検討写真綴り」
甲第5号証:「証拠説明書」
甲第6号証:芝建設株式会社の商業登記簿(現在事項全部証明書)
甲第7号証:エス・ピー・ユー・システム株式会社の商業登記簿(現在事項全部証明書)
甲第8号証:平成16年9月28日付け原告準備書面

甲号各証の記載内容は以下のとおりである。

甲第1号証は、平成14年3月11日付け訴状(この訴えは平成14年(ワ)第74号とされた。以下、同訴えを「別訴」という。)である。同号証には、
「原告は、別紙第2目録記載の移動式大型型枠足場SPUフレキシブルスライド型(以下、「原告製品」という。)をリースないし販売し日本全国の工事現場に納入している。」(2頁最下行ないし3頁2行)、
「原告製品は、主材支柱にH鋼を使い、主にアングル・チャンネルで構成され、既設のコンクリートに埋め込まれたアンカーに取り付けられた2点のブラケットを支点としている足場であり、型枠と組み合わせて使用されるが、・・・原告製品と型枠は、固定されておらず、各々が移動自在になっている」(3頁4ないし8行)、
「原告は、平成13年7月6日、第二東名高速道路の巴川橋下部工工事現場に原告製品1基を・・・納入した」3頁下4ないし3行)、
「被告は、遅くとも同年9月末日ころまでに、被告製品を販売もしくはリースして同工事現場に1基納入した。」(3頁下3ないし1行)と記載されいている。

甲第2号証は、甲第1号証(訴状)の別紙のうちの別紙第2目録である。同号証には、足場において「コーナーガイドレール」((マル1)立面図、(マル2)平面図」が記載されている。

甲第3号証は、甲第1号証である訴状に添付された証拠方法であり、SPUシステム株式会社が提出したSPUシステム施工計画図である。 同号証には、
「巴川橋(下部工)工事 足場意匠図」(2頁)、
「巴川橋下部工工事 巴川橋 P3(下り線) 足場平面計画」(3頁)が記載され、さらに、「SPUコーナー詳細図」(12頁)には、
「2面の足場同士が直角に連結していること」及び「このうちの一方の足場(図中上下方向に配置された足場)にはL字状の部材が向かい合って配置された「コーナー金物」が設けられ、他方の足場(図中左右方向に配置された足場)にはT字状の「コーナーレール」が設けられており、コーナーレールのT字部分がコーナー金物に係合していること」が記載されている。

甲第4号証は、別訴にて平成14年8月27日にSPU(株)が甲第5号証として山口地方裁判所に提出した証拠であり、「ピアー型枠用足場とSPU足場 比較検討写真綴り」である。同号証の3頁の’01(平成13)年11月5日付けの写真1には「巴川橋下り線P3」が、写真2には「SPU足場の全景」が、それぞれ記載されている。さらに、’01(平成13)年11月5日付けの写真11及び12には「SPU足場のガイド金具構造の比較(コーナーガイド金物)」において、L字状の部材が向かい合って配置された「コーナー金物」が設けられ、T字状の「コーナーレール」が設けられており、コーナーレールのT字部分がコーナー金物に係合していること」が記載されている。

甲第5号証は、別訴の平成14年10月1日付の「証拠説明書」であり、同号証には、
「証拠の標目 ピアー型枠用足場とSPU足場 比較検討写真綴り」、
「立証趣旨 第二東名高速道路の巴川橋下部工工事現場に納入された原告製品… 」、
「作成者 原告会社」、
「作成年月日 ・・・(写真の撮影日時は、平成13年11月5日ころ)」と記載されている。

甲第6号証は、商業登記簿(現在事項全部証明書)であり、同号証には、
「商号 芝建設株式会社」、
「本店 山口県周南市遠石二丁目12番32号」、
「目的 ・・・4,建設用足場装置の製造・販売ならびにリース業・・・」、
「取締役 芝洋一 芝義洋 芝洋子」と記載されている。

甲第7号証は、商業登記簿(現在事項全部証明書)であり、同号証には、
「商号 エス・ピー・ユー・システム株式会社」
「本店 山口県周南市遠石二丁目12番32号」、
「目的 1,スライド工法における橋脚・ダム等の工事用の型枠および足場材料の製造・販売およびリース業・・・」、
「取締役 芝洋一 芝義洋 芝洋子」と記載されている。

.甲第8号証は、別訴の平成16年9月28日付け原告準備書面であり、同号証には、
「なお、原告は、原告の発明になるこのコーナーレールについて、平成13年12月20日、特願2001年第387698号により特許出願し、同出願は、平成16年8月11日特許査定を受けた。」(12頁の2ないし4行)と記載されている。

3.被請求人の主張
一方、被請求人は、答弁書において、上記の各証拠書類からでは、確かな、無効理由が存在するものではなく、請求人の主張は認められないと主張し、以下の理由を挙げている。
(3-1)甲第1号証は、本件特許の出願日である、平成13年12月20日より、後の日付となる、平成14年3月11日に、山口地裁に提出された訴状であり、そもそも、本件の請求人である、岐阜工業株式会社と、被請求人である、芝建設株式会社とは、この甲第1号証に示すよう、不正競争行為差止請求事件のそれぞれ、原告(エス・ピー・ユー・システム株式会社)と被告(岐阜工業株式会社)の関係にあるものである。
従って、この不正競争行為差止請求事件も、現在も訴訟継続中の書面であり、しかも、甲第1号証ならびに、この甲第1号証に添付された甲第2号証ないし甲第5号証は、特定の者(裁判所、原告、被告、双方の代理人)しか、知らない状態にあり、現在の状態では、特許法第29条第1項第1号の「特許許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明」には該当せず、同法第29条第1項第3号の「特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明・・」には該当しない。
即ち、特許法で定める、「公然知られた発明」、「頒布された刊行物」には該当しないものである。
(3-2)甲第2号証の「立面図」には、「コーナーガイドレール」の文字は記載されているが、本件特許の「特許請求の範囲」に記載された発明と同一の構成が記載されているか、否かは、該図からは判別できない。
また、「平面図」においても、○印がされ、そこに「コーナーガイドレール」の文字が記載されているだけであり、本件特許の「特許請求の範囲」に記載された発明と同一の構成が記載されているか、否かは、該図からは判別できない。
(3-3)甲第3号証として提出された「SPUシステム施工計画書」にしても、このような書面は、そもそも、施工業者等の特定の者にしか配付されておらず、これをもって、特許法第29条第1項第1号の「特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明」には該当せず、同法第29条第1項第3号の「特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明・・」には該当しない。
(3-4)甲第4号証として提出された、原告撮影による原告製品の写真には、日付の付されたものと、日付の付されてないものとが混在しており、また、第12頁の写真No11,12には、日付の記載が不鮮明である。
原告撮影によるこれらの原告製品の写真が、仮に、日付通りに撮影されたとしても、本件特許の出願日前に、公開されたという客観的な証拠は存在しない。
確かに、言えることば、別訴にて、甲第5号証として提出された日をもって、その日時にその写真が存在したということである。
その写真が公開され、不特定多数の者がその内容を知りうる状態に置かれていなければ、特許法第29条第1項第1号の「特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明」には該当しない。
(3-5)甲第5号証とした「証拠説明書」には、「写真の撮影日時は、平成13年11月5日ころ」と記載があるが、必ずしも、撮影日時が平成13年11月5日ではなく、仮に、そうであるとしても、その写真が公開され、不特定多数の者が知りうる状態に置かれているという客観的な証拠はなく、従って、写真に撮影されているからと言って、直ちに、公然知られた発明とは、断言できるものではない。
(3-6)本件特許の主たる構成要件である「・・スライド溝部(1a)を有する金物(1)と、スライド溝部(1a)に係合するレール(2)・・」を総称する「コーナーガイドレール」は、本件特許の「コンクリート構造物の施工における施工足場の係合方法」に関するものであり、この施工は、大抵が、山奥や山間部の橋脚で、しかも、地上より高い箇所で施工されるものであり、不特定多数の者が知りうる状態のものではない。
また、本件請求人も、平成16年2月25日付け「被告準備書面(8)」(乙第1号証)の第10頁の最下段ないし第11頁第2行目において、「・・コーナーガイドレールの形態は足場の形態の中に埋没し、足場全体の形態は大きく異なるものではなく、看者の注意をひくものでない。」と述べている。

4.当審の判断
(4-1)芝建設株式会社とエス・ピー・ユー・システム株式会社との関係について
芝建設株式会社(本件の被請求人)とエス・ピー・ユー・システム株式会社(別訴の原告)とは、甲第6号証及び甲第7号証を参照すれば、本店の住所、役員が一致し、目的も足場の製造、販売及びリース業である点で共通し、又、甲第8号証(原告エス・ピー・ユー・システム株式会社の準備書面)12頁を参照すれば、「原告は、原告の発明になるこのコーナーレールについて、・・・特願2001年第387698号により特許出願し、同出願は、・・・特許査定を受けた。」とあり、エス・ピー・ユー・システム株式会社が、芝建設株式会社の特願2001年第387698号(本件特許第3600895号)の出願をしたと自認している。
したがって、本件の被請求人である芝建設株式会社と別訴の原告であるエス・ピー・ユー・システム株式会社とは、実質的に同一である。

(4-2)引用発明について
甲第1号証ないし甲第5号証は、平成14年3月11日に山口地方裁判所に提起された裁判において、いずれも、原告であるエス・ピー・ユー・システム株式会社が裁判所に提出したものであって、甲第1号証(訴状)には、「原告製品は、主材支柱にH鋼を使い、主にアングル・チャンネルで構成され、既設のコンクリートに埋め込まれたアンカーに取り付けられた2点のブラケットを支点としている足場であり、型枠と組み合わせて使用されるが、・・・原告製品と型枠は、固定されておらず、各々が移動自在になっている」こと及び「原告は、平成13年7月6日、第二東名高速道路の巴川橋下部工工事現場に原告製品1基を納入した」ことが記載され、甲第2号証(別紙第2目録)マル2平面図には、直角方向に隣接する施工足場の隅部にコーナーガイドレールが設けられたことが記載され、甲第3号証(SPUシステム施工計画図)12頁には、直角方向に隣接する足場の隅部において、一方の足場にL字状の金物を対向させたコーナー金物を設け、他方の足場に該コーナー金物の形成する溝部にT字状のコーナーレールが記載され、甲第4号証(比較検討写真綴り)3頁写真1及び2には、SPU足場が巴川橋下り線において施工されたことが、同12頁写真11,12には、’01(平成13)年11月5日付けの上記甲第3号証と同等の構成のコーナーガイド金物が記載され、甲第5号証(証拠説明書)には、上記甲第4号証の写真綴りの撮影日時として平成13年11月5日ころと記載されている。
上記甲第1号証ないし甲第5号証の記載を総合的に判断すれば、少なくとも本件出願前に、第二東名高速道路の巴川橋下部工工事現場において、下記発明が実施されたことが認められる。
「コンクリート構造物の施工において、施工に使用するための、主材支柱を有する足場であり、コンクリート構造物を取り囲む、複数の足場を設け、これら足場のうち、一方の足場に、L字状の金物を対向させたコーナー金物を設け、他方の足場に、該コーナー金物に形成する溝部に係合するコーナーレールを設け、これら隣接する足場を係合するコンクリート構造物の施工における足場の係合方法。」(以下、「引用発明」という。)

(4-3)上記引用発明が公然知られ又は公然実施されたものであるかについて
甲第1号証によれば、被請求人は、第二東名高速道路の巴川橋下部工工事現場に「移動式大型型枠足場SPUフレキシブルスライド型」(以下、「SPU足場」という。)1基を納入したことを自認している。また、SPU足場を現場に納入した後には時を置かずして足場が組み立てられたはずであり、その組み立てにあってはSPU足場に設けられているコーナーレールとコーナー金物とを係合して隣接する足場面同士を互いに連結する必要がある。そして、通常、納入した後は、被請求人が納入先にとくに守秘義務を課したことの特段の事情がない限り、納入先の会社又はその下請け会社の従業者は、守秘義務を有していないいわゆる不特定多数の者であり、引用発明を公然と知り得たものと認められる。
甲第3号証はSPU足場の使用方法を記した説明書であるから、その納入以前に或いは少なくともSPU足場の納入に伴って施工者側に提出されているはずである(製品だけ納入して説明書を渡さないということはない)。したがって、SPU足場及びその説明書である甲第3号証は本件特許出願日前に公然知られたものとなった蓋然性は高い。
甲第4号証の写真1及び2にみられるように、同現場に納入されたSPU足場は橋脚建設に用いる移動式大型型枠足場であるから、納入という事実により直ちにSPU足場全体が公然知られたものとなった。すなわち、SPU足場は高速道路用の橋脚という巨大なコンクリート製品に用いる足場であり、かつ橋脚の外周を囲うように配置されるものであるから物理的にも秘密状態に置くことは不可能である。
これらコーナーレールとコーナー金物はいずれも足場板(作業者の通り道)のすぐ脇に露出した形で設けられているから、同工事現場で橋脚の建設に携わる多数の作業者や施工主その他関係者がこの足場上を移動する際にも当然に目にする。
甲第4号証の写真No.11、12に示されているようにコーナーレールとコーナー金具及びその係合は簡易な方法であるから、その構成を見ればすぐにその技術的内容を理解することができる。
以上のことから分かるように、上記引用発明は、本件特許出願前に公然知られ又は公然実施されていたものと認められる。

(4-4)対比
本件発明と、上記引用発明とを対比すると、上記引用発明の「主材支柱」、「足場」、「L字状の金物を対向させたコーナー金物」、「コーナーレール」が、それぞれ、本件発明の「支柱」、「施工足場」、「スライド溝部を有する金物」、「スライド溝部に係合するレール」に相当するから、両者に構成上の相違点は認められず、本件発明は、本件特許出願前に公然知られ、又公然実施された発明である。

(4-5)被請求人の主張について
上記(3-1)において、被請求人は、甲第1号証ならびに、この甲第1号証に添付された甲第2号証ないし甲第5号証は、特定の者(裁判所、原告、被告、双方の代理人)しか、知らない状態にあり、現在の状態では、特許法第29条第1項第1号の特許許出願前に「日本国内又は外国において公然知られた発明」には該当せず、同法第29条第1項第3号の「特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明・・」には該当しないと主張する。しかしながら、請求人は、同法第29条第1項第1号(公然知られた)及び第2号(公然実施)を請求の理由としているのであって、同法第29条第1項第3号(刊行物記載)を請求の理由としているのではないから、同法第29条第1項第3号に係る被請求人の主張は失当である。また、甲第2号証ないし甲第5号証が特定の者しか知らない状態にあったとしても、引用発明が公然知られ公然実施されたことを伺わせる間接的な証拠にはなりうる。
上記(3-2)において、被請求人は、甲第2号証の「立面図」には、「コーナーガイドレール」の文字は記載されているが、本件特許の「特許請求の範囲」に記載された発明と同一の構成が記載されているか、否かは、該図からは判別できない、また、「平面図」においても、○印がされ、そこに「コーナーガイドレール」の文字が記載されているだけであり、本件特許の「特許請求の範囲」に記載された発明と同一の構成が記載されているか、否かは、該図からは判別できないと主張する。しかしながら、甲第2号証のみから、引用発明を特定したわけではなく、甲第2号証の(マル1)立面図と甲第3号証の2頁足場意匠図と甲第4号証の2頁正面図SPU足場がほぼ同じ図面であること、甲第1号証の(マル2)平面図と甲第3号証3頁足場平面計画図がほぼ同じ図面であること等を勘案すれば、上記(4-2)において特定したとおりの上記引用発明が実施されたことは明らかである。
上記(3-3)において、被請求人は、甲第3号証として提出された「SPUシステム施工計画書」にしても、このような書面は、そもそも、施工業者等の特定の者にしか配付されておらず、これをもって、特許法第29条第1項第1号の中特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明」には該当せず、同法第29条第1項第3号の「特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明・・」には該当しないと主張する。しかしながら、請求人は、同法第29条第1項第1号(公然知られた)及び第2号(公然実施)を請求の理由としているのであって、同法第29条第1項第3号(刊行物記載)を請求の理由としているのではないから、被請求人の主張は失当である。また、被請求人が引用発明にかかる製品を納入した後は、施工業者は、その製品をどのように取り扱うかは自由であり、特別に守秘義務を課さない限り、不特定多数の者である。
上記(3-4)において、被請求人は、甲第4号証として提出された、原告撮影による原告製品の・・・第12頁の写真No11,12には、日付の記載が不鮮明である。原告撮影によるこれらの原告製品の写真が、仮に、日付通りに撮影されたとしても、本件特許の出願日前に、公開されたという客観的な証拠は存在しない・・・その写真が公開され、不特定多数の者がその内容を知りうる状態に置かれていなければ、特許法第29条第1項第1号の「特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明」には該当しないと主張する。しかしながら、第12頁の写真No11,12には「’01年11月15日」と記載されており、不鮮明とはいえない。また、これらの写真が不特定多数の者がその内容を知りうる状態になくとも、写真の被写体(引用発明の製品)までもが不特定多数の者がその内容を知りうる(公然知られた)状態にないとはいえない。
上記(3-5)において、被請求人は、甲第5号証とした「証拠説明書」には、「写真の撮影日時は、平成13年11月5日ころ」と記載があるが、必ずしも、撮影日時が平成13年11月5日ではなく、仮に、そうであるとしても、その写真が公開され、不特定多数の者が知りうる状態に置かれているという客観的な証拠はなく、従って、写真に撮影されているからと言って、直ちに、公然知られた発明とは、断言できるものではないと主張する。しかしながら、甲第5号証は被請求人自身が作成したものであり、その日付を否定することはできない。また、甲第5号証だけでなく、甲第1号証3頁下から4ないし3行(平成13年7月6日)、甲第4号証の第12頁の写真No11,12(’01年11月15日)等から、引用発明の製品が少なくとも本件発明の出願前に公然知られたということは類推できる。
(3-6)において、被請求人は、そもそも、本件特許の主たる構成要件である「・・スライド溝部(1a)を有する金物(1)と、スライド溝部(1a)に係合するレール(2)・・」を総称する「コーナーガイドレール」は、本件特許の「コンクリート構造物の施工における施工足場の係合方法」に関するものであり、この施工は、大抵が、山奥や山間部の橋脚で、しかも、地上より高い箇所で施工されるものであり、不特定多数の者が知りうる状態のものではないと主張する。しかしながら、上記のとおり、通常、製品を納入した後は、被請求人が納入先にとくに守秘義務を課したことの特段の証拠がない限り、納入先の会社又はその下請け会社の従業者は、引用発明を公然と知り得たものと認められ、納入先の会社等の従業者(不特定多数の者)は、山奥や山間部の橋脚で、しかも、地上より高い箇所で施工するのであるから、被請求人の主張は根拠がない。
また、被請求人は、本件請求人も、平成16年2月25日付、「被告準備書面(8)」(乙第1号証)の第10頁の最下段ないし第11頁第2行目において、「・・コーナーガイドレールの形態は足場の形態の中に埋没し、足場全体の形態は大きく異なるものではなく、看者の注意をひくものでない。」と述べていると、主張する。しかしながら、施工者は、隣接する足場の一方の足場の移動の際に、通常、互いに移動する足場の隣接する個所に注意を払うから、当該個所のコーナーガイドレール等には当然注目すると思われ、被告(請求人)の意見は正確性を欠き、このことを根拠にする被請求人の主張は認められない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、本件特許出願前に公然知られ、又公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第1号及び第2号の規定により特許を受けることができない発明に対して特許されたものであり、前記特許は特許法第123条第1項2号に該当し、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-27 
結審通知日 2005-07-05 
審決日 2005-07-19 
出願番号 特願2001-387698(P2001-387698)
審決分類 P 1 113・ 111- Z (E01D)
P 1 113・ 112- Z (E01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鹿戸 俊介松浦 久夫  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 南澤 弘明
山田 忠夫
登録日 2004-10-01 
登録番号 特許第3600895号(P3600895)
発明の名称 コンクリート構造物の施工における施工足場の係合方法及びスライド方法  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 三原 靖雄  

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