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審決分類 |
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1122533 |
審判番号 | 審判1999-626 |
総通号数 | 70 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1997-11-18 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 1999-01-08 |
確定日 | 2005-07-20 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第341067号「希望する蛋白質を遺伝子移植動物のミルク中へ分泌させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月18日出願公開、特開平 9-294586〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
〔1〕本願は、昭和62年(1987年)4月9日付で特許出願された特願昭62-87872号(優先権主張、1986年4月9日US)をもとの出願とした分割出願である特願平8-341067号に係るものであり、本件特許請求の範囲第1項には以下のように記載されている(以下、一応「本件発明」ということもある。) 「(a) 哺乳動物のミルク蛋白質プロモーターと一緒にDNA配列中に存在するなら該プロモーターの転写制御を受けるが自然状態では該プロモーターの制御を受けることのない蛋白質コード遺伝子および、該蛋白質コード遺伝子と該プロモーターとの間に存在して哺乳類のミルク中に該蛋白質の分泌を可能ならしめる分泌シグナルコード配列を含むDNA配列を、哺乳動物の胚へ挿入し、 (b) 該胚を発生させて成熟した哺乳動物に成長させ、 (c) 蛋白質コード遺伝子、プロモーターおよびシグナル配列が乳腺組織ゲノムに存在する該哺乳動物においてまたは該哺乳動物の雌子孫において、乳汁分泌を誘発し、 (d) 該乳汁分泌期の哺乳動物のミルクを集め、そして (e) 集められたミルクから該蛋白質を単離する ことからなる蛋白質の生産方法。」 〔2〕原審における拒絶理由: これに対する原審の拒絶査定の理由は、本願優先日当時、特定の遺伝子がトランスジェニック動物の特定の器官において発現されるかどうかは実際に確認を行ってみなければ分からなかったものと認められるから、この出願は、明細書及び図面の記載が特許法第36条第3項、第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないというものである。 〔3〕当審の判断: 特許請求の範囲第1項においては、(b)として「成熟した哺乳動物」に成長させること、及び(c)として当該哺乳動物もしくはその雌子孫において、「乳汁分泌を誘発」させることが必須の構成要件となっている。ここで、「乳汁分泌を誘発」させるためには、外来遺伝子の転写制御を司るプロモーターが授乳期の乳汁誘発関連ホルモンに対する応答を前提とするものであるといえるから、外来遺伝子の発現は「ホルモン特異的」であり、また、ミルク中に十分分泌する量のタンパク質があらゆる体細胞で非特異的に発現するとすれば形質転換動物にとって生存を脅かすほどの過度な負担となることが明らかであるから、「乳腺特異的」であることも前提となっていると解される。 そうしてみると、本件発明は、「哺乳動物のミルク蛋白質プロモーター」の制御下にある「有用なタンパク質をコードする外来遺伝子」を胚に導入し、成長させた形質転換哺乳動物において、「ホルモン特異的」かつ「乳腺組織特異的」に発現させてミルク中から有用タンパク質を取得する方法であるということができる。 一方、本件明細書中において実施例などとして具体的に記載されているのは、シグナル配列を含むt-PA遺伝子及びB型肝炎表面抗原遺伝子を、それぞれマウス由来WAP遺伝子のすぐ上流側の2.6kbEcoRI-KpnI断片(以下、「マウスWAP-5'フランキング配列」ともいう。)に連結してプラスミドに挿入し、プラスミドpWAP-t-PA及びpWAP-Hbs(S)を作製したことまでであって、当該プラスミドを用いて形質転換したのは寄託用の大腸菌のみであり、形質転換哺乳動物を作製したことについては全く記載されていない。 ところで、本件明細書中で「哺乳動物のミルク蛋白質プロモーター」として用いられているのは、上記「マウスWAP-5'フランキング配列」であり、当該フランキング配列については、本件明細書ではマウスWAPプロモーターと呼ばれ、「Nucleic Acid Res.(1984)Vol.12p.8685-8697(同【0013】。以下、刊行物1という。)」にその1部配列が記載されてはいる。 しかしながら、当該刊行物1は、マウス及びラットゲノム由来のWAP遺伝子について、それぞれの及び他の遺伝子との配列上の比較をしている文献であって、マウス及びラット由来いずれの5'フランキング配列についても、その下流に実際に外来遺伝子を繋いで発現させて、その転写制御機能の存在を実験的に確認しているわけではない。そもそもマウス由来の配列については、-307位より下流側しか決定されていない。TATA-box及びCAAT-boxに対応する配列が存在することからみて、プロモーター活性が存在すること自体の蓋然性は高いとはいえ、配列情報としてはそれに留まるものである。ラットのWAP-5'フランキング配列については、さらに上流の-1175位までの配列を決定しているものの他のホルモン応答配列との比較などからペプチドホルモンもしくはステロイドホルモンによる発現制御に関係があるかもしれないと考察しているのみで、実際のホルモン応答性を観察したわけではない。 むしろ、「グルココルチコイドによるWAP遺伝子の発現制御メカニズムは不明であること」が明記されており(同第8695頁7〜8行)、さらに、WAP-3'フランキング配列に対して、そのマウス・ラット間での保存性の高さを指摘し、何らかの重要な機能の存在を予測している(同第8693頁最終パラグラフ)。 そうしてみると、刊行物1の記載からでは2.6kbの長さの「マウスWAP-5'フランキング配列」断片が、WAP遺伝子の、ホルモン特異的にかつ乳腺組織特異的に発現することを制御するための必要十分な長さの断片であるとはいえない。すなわち、WAP遺伝子の「ホルモン特異的」及び「乳腺特異的」発現を制御する機能がすべて当該2.6kb断片上に存在するのか、3'-フランキング配列など他の配列上に存在するのかも不明であり、これら機能がcis作用なのかtrans作用なのかの情報もないから、WAP遺伝子の周辺環境全体が関与している可能性もある。 そして、本件優先日当時は、まだ相同性組換え手法による哺乳動物細胞の形質転換が実用化されていなかったことを考慮すれば、導入遺伝子はゲノム中にランダムに挿入されるしかなく、本来のWAP遺伝子の周辺環境の関与を期待することはできない。 そのようなとき、有用タンパク質遺伝子をマウスWAP遺伝子由来の上記2.6kb断片に連結したからといって、当該組換えDNAを導入した胚を生育させたとしても、成熟したトランスジェニックマウスにおいて、有用タンパク質遺伝子が、確実に「ホルモン特異的」及び「乳腺特異的」に発現し、ミルクから有用タンパク質を取得できることまでは到底期待できないことは明らかである。 したがって、本件明細書中には、マウスWAPプロモーター及びマウスの乳腺組織、という特定の組み合わせに限ってみても、「ホルモン特異的」かつ「乳腺特異的」に発現させてミルク中から有用タンパク質を取得する方法という発明が完成した発明として開示されているということはできず、まして配列情報も明らかではないWAPプロモーター以外のミルク蛋白質プロモーターと、マウス以外の哺乳動物との組み合わせを包含する本件発明、すなわち「哺乳動物のミルク蛋白質プロモーター」の制御下にある「有用なタンパク質をコードする外来遺伝子」を胚に導入し、成熟した哺乳動物に成長させて、「ホルモン特異的」かつ「乳腺組織特異的」に発現させることで形質転換哺乳動物ミルク中から有用タンパク質を取得する方法が開示されているとは到底いえない。 なお、請求人が主張するように、たまたまマウスWAPプロモーターに関しては、WAP遺伝子の上流2.6kb断片のみを用いさえすればランダムな導入でも「ホルモン特異的」かつ「乳腺組織特異的」な発現が可能であったことが約1年後の実際の実験により確認されたとしても、本件発明の完成は当該確認実験という約1年という月日を要したというべきであり、上記認定は左右されない。 したがって、本件明細書中には本件発明に関しては完成した発明として記載されておらず、このことは特許請求の範囲に記載された発明の開示が不十分であることでもあるから、本願は、特許法第36条第3項、第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない。 よって、結論の通り審決する。 |
審理終結日 | 2005-02-23 |
結審通知日 | 2005-02-25 |
審決日 | 2005-03-10 |
出願番号 | 特願平8-341067 |
審決分類 |
P
1
8・
532-
Z
(C12N)
P 1 8・ 531- Z (C12N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 滝本 晶子 |
特許庁審判長 |
佐伯 裕子 |
特許庁審判官 |
種村 慈樹 長井 啓子 |
発明の名称 | 希望する蛋白質を遺伝子移植動物のミルク中へ分泌させる方法 |
代理人 | 今井 庄亮 |
代理人 | 増井 忠弐 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 村上 清 |
代理人 | 栗田 忠彦 |
代理人 | 小林 泰 |