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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1122552
審判番号 不服2002-24377  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-01-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-12-19 
確定日 2005-09-01 
事件の表示 平成7年特許願第258343号「シンクロナイザーリング」拒絶査定不服審判事件〔平成9年1月7日出願公開、特開平9-4652〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 理 由
1、手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年10月5日(優先権主張平成7年4月21日)の特許出願であって、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年7月24日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認める。
「Fe系焼結合金からなるシンクロナイザーリングであって、少なくとも回転する相手部材との同期摺動および相手部材からの離脱を行う内周面にブラスト処理及び水蒸気処理が施され、かつ該内周面の粗さが19〜50μmRzであり、空孔率が2〜12容量%の範囲であることを特徴とするシンクロナイザーリング。」

2、引用例
これに対し、原査定の拒絶理由に文献公知として引用された特開平2-304220号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下に示す(イ)、(ロ)の記載が認められる。
(イ)「この発明は上記目的を達成するために、各速度段及び前後段の切換えをクラッチにより行うクラッチ式変速機において、上記変速機の各速度段及び前後段に設けられたシンクロ機構のボークリングを焼結鋼により形成すると共に、表面にスチーム処理及びタフトライド処理を施したことにより、鋼合金と同程度の耐摩耗性及び摩擦特性を有するボークリングを安価に提供しようとするものである。」(第1頁右下欄第18行目〜第2頁左上欄第6行目)
(ロ)「上記ボークリング15は内周面に各ギヤ6ないし9に設けられたテーパ部6aないし9aと摩擦接触するテーパ面15aが、そして外周面にクラッチリング14の内周面に設けられた歯と噛合する歯がそれぞれ設けられていて、後述する作用でクラッチギヤ12と各ギヤ6ないし9のシンクロ動作を行うようになっている。」(第2頁右上欄第8行〜第14行)
したがって、これらの内容を基に第1及び2図を参酌して詳細な説明を見て、本願発明の記載手順に倣って整理すれば、刊行物1には「焼結鋼からなるボークリングであって、少なくとも回転する相手部材との同期摺動及び相手部材からの離脱を行う内周面にスチーム処理及びタフトライド処理を施したことを特徴とするボークリング」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
同じく引用された特開昭61-38223号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下に示す(ハ)〜(ニ)なる技術的事項の記載が認められる。
(ハ)「(1)円環状のリング本体から成り、該リング本体の内側の円錐面には、鍛造、鋳造或いは焼結によって母線に沿う縦溝とランドとが、周方向において略等間隔に三本以上形成されているシンクロナイザーリングであって、前記ランドの頂面は所定の表面粗さのブラスト凹凸面でできており、該ブラスト凹凸面には表面硬化処理がなされていることを特徴とする同期噛合装置のシンクロナイザーリング。」(第1頁左下欄第5行〜第13行)
(ニ)「(2)前記ブラスト凹凸面の表面粗さは、10点平均粗さで30μRzから80μRzまでの範囲にあることを特徴とする前記特許請求の範囲第1項に記載の同期噛合装置のシンクロナイザーリング。」(第1頁左下欄第14行〜第18行)
(ホ)「一方、第5図のBから分るように、ブラスト処理しただけのものの摩擦係数は、初期のうちはシンクロナイザーリングとして必要な値(μ=0.1程度)が保たれている。しかしながら、摩擦係数は、時間が経過すると急激に低下する。そして、20分もたつと、摩擦係数μは、シンクロナイザーリングとして最小限必要な値、即ち、μ=0.07よりも小さくなってしまう。」(第4頁左下欄第6行〜第13行)
(ヘ)「従って、ブラスト処理は、本実施例において、高摩擦係数を確保する役目を果たしていることが分る。また、D(本実施例)とBとを比較すると分るように、たとえ同じようにブラスト処理が施されたものであっても、時間経過による摩擦係数の変化量は、軟窒化処理をしたD(本実施例)の方が、軟窒化処理をしないBよりも小さい。従って、軟窒化処理は、本実施例において、高摩擦係数を長期間にわたって安定的に保つ役目を果たしていることがわかる。」(第4頁右下欄第4行〜第13行)
同じく引用された特開平2-73903号公報(以下、「刊行物3」という。)には、以下に示す(ト)〜(チ)なる技術的事項の記載が認められる。
(ト)「(2)C:0.1〜0.9%、
を含有し、さらに、
NiおよびCuのうちの1種または2種:0.2〜10%、
を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成(以上重量%)、並びに3〜20容量%の空孔率を有するFe系焼結合金本体に、合成樹脂を含浸してなる合成樹脂含浸のFe系焼結合金製変速機用同期リング。」(第1頁左下欄第12行〜右下欄第3行)
(チ)「空孔には合成樹脂が充填され、これによって初期なじみ性、同期時の摩擦係数の安定性、および耐摩耗性が一段と向上するようになるものであり、したがって空孔率が3容量%未満では、合成樹脂の含浸が不十分で前記の作用を十分に発揮することができず、一方空孔率が20容量%を越えると、本体自体の強度が低下し、苛酷な条件下での実用に耐えなくなることから、空孔率を3〜20容量%と定めた。」(第3頁左上欄第15行〜右上欄第3行)

3、対比
ここで、本願発明と引用発明とを比較する。
ところで、引用発明の「焼結鋼」は本願発明の「Fe系焼結合金」に、以下同様に「ボークリング」は「シンクロナイザーリング」に、「スチーム処理」は「水蒸気処理」に、夫々相当するから、本願発明の用語を用い、その記載形式に倣って整理すると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
一致点:「Fe系焼結合金からなるシンクロナイザーリングであって、少なくとも回転する相手部材との同期摺動および相手部材からの離脱を行う内周面に水蒸気処理が施されたシンクロナイザーリング。」
相違点1:本願発明が、表面処理に関し、水蒸気処理の外に「ブラスト処理」なる構成を採っているのに対して、引用発明は、表面処理に関し、水蒸気処理の外に「タフトライド処理」なる構成を採っている点。
相違点2:本願発明が、表面の形状に関し、「内周面の粗さが19〜50μmRzであり、空孔率が2〜12容量%の範囲である」なる構成を採っているのに対して、引用発明は、表面の形状に関し、「かかる構成を採っているか否か」明らかでない点。

4、当審の判断
そこで、それらの相違点につき検討する。
まず、相違点1について検討する。
ところで、本願発明は、「摩擦特性および耐スカッフィング性に優れ、かつ品質の安定したシンクロナイザーリングを提供することをその目的とする。」(段落【0007】参照。)としてその課題を掲げる。
一方、引用発明は、上記摘記事項(イ)にもあるように「(表面にスチーム処理及びタフトライド処理を施したことにより、)鋼合金と同程度の耐摩耗性及び摩擦特性を有するボークリングを安価に提供しようとするものである。」としてその課題を掲げている。
そうしてみると、本願発明、引用発明共に良好な「摩擦特性」を得ようとする点においては共通するも、前者は「耐スカッフィング性」を、後者は「耐摩耗性」をその課題に掲げているから、両者の課題が大きく相違するようにも見えるが、摩擦部材において、「耐スカッフィング性」と「耐摩耗性」とは共に「耐久性」という概念の下位概念に属していると共に、両者共互いに共通する部分を持って峻別しにくい部分を持った関係にあり、摩擦部材に対する表面処理の処理手段とその結果として摩擦部材に現れる特性とが必ずしも同じ観点で対応する訳ではなく定量的かつ一義的に定まるものとも認められないから、上記課題に関する両者間の相違が本質的なものであるとすることはできない。
また、本願発明に係るその他の要件である「水蒸気処理」につき見ると、Fe系焼結合金の表面硬化と摩擦特性に寄与するものであることが分かる。
そこで相違点1を見ると、本願発明は「ブラスト処理」を行っているが、引用発明は「タフトライド処理」を行っている。
本願発明に係る「ブラスト処理」が主に摩擦部材の「摩擦特性」の向上に絡む処理であることは、刊行物2の摘記事項(ホ)及び(ヘ)からも推察されるところであるが、表面硬化に影響を与えることを否定できないものであって、刊行物2においてはその摘記事項(ヘ)にあるように、「ブラスト処理」を単独で適用するものと、その表面硬化処理として更に軟窒化処理を併用するものとが示されてもいる。
一方、引用発明に係る「タフトライド処理」は刊行物2にも言う軟窒化処理の一種であって、主に表面硬化処理として用いられることを窺わせてはいるが、上記摘記事項(ヘ)にもあるように、この処理が摩擦特性に影響を与えることを否定できない面がある。
そうしてみると、より摩擦特性に主眼を置けば、引用発明にある「タフトライド処理」に換えて、刊行物2に記載される「ブラスト処理」を採用することは、共にシンクロナイザーリングの摩擦面に対する処理であることに鑑みて、当業者がそれを適宜試行するであろうことを阻害する要件が見当たらないとすべきである。
そして、「水蒸気処理」に「ブラスト処理」を併用すれば、請求人が主張する「耐スカッフィング性」は自ずと得られなければならない筈であり、本願発明においてその耐スカッフィング性が定量化されている訳でもないから、効果の面でも格別のものがあるとすることができない。
したがって、相違点1に関する構成を採ることは当業者が容易になし得た事柄であるとするのが相当である。
次に、相違点2につき検討する。
相違点2は、本願発明が内周面の粗さと空孔率を特定した点に特徴がある。
しかし、内周面の粗さに関する「19〜50μmRz」なる数値限定についてみると、刊行物2の摘記事項(ニ)に「前記ブラスト凹凸面の表面粗さは、10点平均粗さで30μRzから80μRzまでの範囲にあることを特徴とする前記特許請求の範囲第1項に記載の同期噛合装置のシンクロナイザーリング。」(第1頁左欄第14行〜第18行)とあるように、この種ブラスト処理を行った際に得られるシンクロナイザーリングの粗さと、30〜50μmRzの範囲で重複するから本願発明における限定に特段の特徴を見いだすことができない。
また、空孔率に関する「2〜12容量%」なる数値限定につき見ても、刊行物3の摘記事項(ト)に、「C:0.1〜0.9%、を含有し、さらに、NiおよびCuのうちの1種または2種:0.2〜10%、を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成(以上重量%)、並びに3〜20容量%の空孔率を有するFe系焼結合金本体に、合成樹脂を含浸してなる合成樹脂含浸のFe系焼結合金製変速機用同期リング。」(第1頁左欄第12行〜右欄第3行)とあるように、Fe系焼結合金を用いたシンクロナイザーリング
に適用される空孔率と、「3〜12容量%」の範囲で重複すると共に、一般的なFe系焼結合金製の機械部品の空孔率に照らしても特段の特徴を認め得ないものである。
したがって、かかる「内周面の粗さと空孔率を特定した点」に特段の技術的困難性が存したとすることはできない。
以上、本願発明は引用発明および刊行物2及び3に示される技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、請求人は審判請求書において、概要、「刊行物1〜3のものは耐スカッフィング性を向上させるか否かについては、記載がないので全く不明である。」旨主張する。
しかし、耐スカッフィング性の点は、上記当審の判断で述べたとおりであって、表面処理の組合せそれ自体、当業者が容易になし得たものである以上、定量化されていない効果は当業者が予測し得る程度のものとすべきである。

5、むすび
以上のとおり、本願発明、即ち、本願請求項1に係る発明は、引用例1〜3に記載される発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
前記のとおり、本願請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、本願の請求項2〜7に係る発明について審究するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-30 
結審通知日 2005-07-07 
審決日 2005-07-21 
出願番号 特願平7-258343
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 礒部 賢  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 平田 信勝
町田 隆志
発明の名称 シンクロナイザーリング  
代理人 川上 肇  
代理人 川上 肇  

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