• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) H01S
管理番号 1122662
審判番号 無効2003-35484  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1987-08-20 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-11-21 
確定日 2005-09-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第2112777号発明「発光モジュールの組立方法および組立装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2112777号の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.本件の経緯の概要
本件特許第2112777号についての手続きの経緯の概要は以下のとおりである。

昭和61年 2月18日 特許出願
平成 8年11月21日 特許権設定登録
平成12年 5月30日 訂正審判請求
平成12年 8月 1日 訂正審決(認容)
平成13年 6月29日 特許審決公報発行
平成15年11月25日 無効審判請求
平成16年 3月 8日 答弁書提出
平成16年 5月14日 口頭審理

第2.本件発明
本件の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、上記特許審決公報(平成13年6月29日発行)訂正2000-39051の特許訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という)の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 キャップ付発光器と、光ファイバーを保持したファイバー端末と、上記ファイバー端末が挿入されるファイバーホルダーとを具備し、
(a)上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最適結合するように上記ファイバー端末を移動させる工程、
(b)上記ファイバー端末を移動させることにより上記キャップ付発光器と光ファイバーとの最適光結合位置を検出し、その位置状態で上記ファイバー端末とファイバーホルダーとをレーザ溶接して光ファイバーとキャップ付発光器のz軸方向を固定する工程、
(c)上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最適結合する位置を、上記キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させることにより検出し、その位置状態で上記キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する工程の順序で組立てることを特徴とする発光モジュールの組立方法。
【請求項2】 キャップ付発光器と、光ファイバーを保持したファイバー端末と、上記ファイバー端末が挿入されるファイバーホルダーとを具備し、
(a)上記キャップ付発光器をx軸、y軸方向に、また上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で光軸(z軸)方向に移動させて上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最大入射する位置を検出する工程、
(b)上記(a)工程後に、上記ファイバー端末とファイバーホルダーとをレーザ溶接して光ファイバーとキャップ付発光器のz軸方向を固定する工程、
(c)上記(b)工程後に、上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバに最大入射する位置を、上記キャップ付発光器をx,yの二次元内に移動させて検出する工程、
(d)上記(c)工程後に、上記キャップ付発光器とファイバーホルダーとをレーザ溶接して光ファイバーとキャップ付発光器のx,y軸方向を固定する工程の順序で組立てることを特徴とする発光モジュールの組立方法。」

第3.請求人の請求の趣旨及び理由の概要
請求人(株式会社モリテックス)は、「特許第2112777号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の甲第1号証ないし甲第5号証を提示し、以下の理由により、本件発明1及び2に係る特許は、無効にすべきものであると主張している。

無効理由:
本件発明1及び2は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、本特許は無効とされるべきである。


甲第1号証:特開昭60-136387号公報
甲第2号証:国際公開 WO79/00099パンフレット及び翻訳文
甲第3号証:特開昭60-221713号公報
甲第4号証:特開昭61-20912号公報
甲第5号証:特開昭61-20911号公報

第4.被請求人の反論の概要
被請求人は、平成16年3月5日付答弁書において、概ね、以下のように反論している。

本件発明1の、本質的な構成は以下の2点である。
(ア-1)光ファイバーとキャップ付発光器との最適結合位置を検出し、検出位置でファイバー端末とファイバーホルダーをレーザ溶接により固定する。
(イ-1)ファイバー端末とファイバーホルダーとのz軸方向をレーザ溶接により固定した後、キャップ付発光器をx、yの二次元内に移動させて、光ファイバーとキャップ付発光器との最適結合位置を検出し、次いでキャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する。
また、本件発明2の、本質的な構成は以下の2点である。
(ア-2)キャップ付発光器からの光が光ファイバーに最大入射する位置を検出し、ファイバー端末とファイバーホルダーをレーザ溶接により固定する。
(イ-2)ファイバー端末とファイバーホルダーとのz軸方向をレーザ溶接により固定した後、キャップ付発光器をx、yの二次元内に移動させて、キャップ付発光器からの光が光ファイバーに最大入射する位置を検出し、次いでキャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する。
上記本質的な構成の作用効果は、ファイバー端末とファイバーホルダーの溶接固定後の光軸ずれを再調整できると共に、再調整時のz軸方向調整が不要となるため、調整作業をより短時間で行うことが可能になるというものである。

これに対し、請求人の提示する甲第1号証及び甲第2号証は、以下のとおり、いずれも、キャップ付発光器からの光が光ファイバに最大入射するように光軸調整を行った後に、まず、z軸を固定し、さらにx,y方向の再調整を行ってから、x,y軸を固定するという、本件発明1及び2の前記本質的な構成(イ-1),(イ-2)について記載していないし、示唆もしていない。また、甲第1号証は、YAG溶接を開示しているが、溶接に際して生ずるx,y方向の位置ずれについて(前記本質的な構成(イ-1),(イ-2)、及びその作用効果)の記載も示唆もないから、YAG溶接を採用することと、本件発明1及び2の前記本質的な構成(イ-1),(イ-2)とを組み合わせるという点は、甲第2号証を考慮しても、当業者が容易に思いつくことではない。
また、請求人の提示する甲第3号証乃至甲第5号証においても、以下のとおり、前記本質的な構成(ア-1),(ア-2)及び(イ-1),(イ-2)について何らの記載も示唆もないものであるから、甲第3号証乃至甲第5号証を参酌したとしても本件発明1及び2を、当業者が容易に思いつくことではない。

甲第1号証について 甲第1号証は、レーザ溶接を開示している点では本件発明1及び2と共通するが、キャップ付発光器からの光が光ファイバーに最適結合する位置の検出工程及びz軸方向を固定する工程を先に行う点(前記本質的な構成(イ-1),(イ-2))についての記載も示唆もない。

甲第2号証について 請求人は、「甲第2号証には、光モジュールの組立における上記1a、1b、1c、1dの各工程と、その順序.1a→1b→1c→1dが明確に記載されている。」と主張している(審判請求書13頁14行目乃至16行目)。
しかし、甲第2号証記載の発明は、以下の(ア)、および(イ)より、前提とする構成が本件発明1及び2とは明らかに異なるものであるから、本件発明1及び2における手順を示唆するものではない。
(ア)キャップ付発光器の不存在
甲第2号証は、本件発明1及び2とは異なり、キャップ付発光器に相当する構成を有しない。
本件発明1及び2のキャップ付発光器では、発光素子から出た光がレンズにより集光されて光ファイバーへ入射する。そして、キャップ付発光器からの光が光ファイバーに最適結合する位置を検出するには、ファイバー端末をxy軸方向とz軸方向の双方に移動させて調整する必要がある。
一方、甲第2号証では、発光素子(レーザー13)の出力光がレンズを介さずに直接光ファイバーに入射しているから、単に直進するだけである。したがって、この構成の下では、本件発明1及び2のように、z軸方向の固定前に、キャップ付発光器からの光が光ファイバーに最適結合するようにファイバー端末をz軸方向に移動させる必然性がない。このことを反映して、甲第2号証の2頁32行乃至33行に、「As the adjustment in the Z-direction is the least critical,the fibre is first fixed in that direction.」と記載されている。請求人は、本英文の前段を、「Z方向の調整は殆ど臨界的ではないので」と訳出しているが、”critical”は、「きわめて重大な、決定的な」という意味であり、”the leastは、「全く…でない」という意味であるから、「Z方向の調整は少しも重要でないので」と訳すべきものである。すなわち、甲第2号証記載の発明は、z軸方向の最適結合の必要性が全くない構成を前提としているのである。なお、光学活性素子としてレンズも例示されてはいるが、上記記載から明らかなとおり、これは、本件発明1及び2のキャップ付発光器を示唆するものではない。

(イ)xy軸方向のずれの不存在
甲第2号証におけるファイバー端末は、本件発明1及び2と異なり、z軸方向の固定に際してxy軸方向のずれを生じない。
甲第2号証の3頁3行乃至5行に、「Because of the close fit,the glue joint is very thin,so possible deformations of the glue during the curing have no influence on the position of the fibre.(嵌めあいが密着しているので、接着剤接合部は非常に薄く、硬化時に接着剤が変形してもファイバーの位置には影響を与えない。)」(甲第2号証の翻訳文)と記載されているように、甲第2号証では、z軸方向の固定に際してファイバーの位置には影響を与えない。
これに対して本件発明1及び2では、ファイバー端末とファイバーホルダーをレーザ溶接で固定するもので、本件特許訂正明細書の実施例欄に、「その位置を固定するために、ファイバーホルダー(2)とファイバー端末(6)をYAG溶接により固定する作業(z軸YAG溶接(15))を行って発光素子(4)とファイバー端末(6)の間隔を固定する。YAG レーザで溶接を行うとファイバー端末(6)の位置がxy面内で位置ずれを生ずるので、再び光ファイバー(3)へ光が最も多く入射する位置をxy面内で捜す作業(xyピークサーチ(16))を光軸調整装置を使って行う。」と記載されているように、レーザ溶接した際、ファイバー端末の位置がxy面内で位置ずれを生じるという知見の下に、前記本質的な構成(イ-1),(イ-2)「ファイバー端末とファイバーホルダーとのz軸方向をレーザ溶接により固定した後、キャップ付発光器をx、yの二次元内に移動させて、光ファイバーとキャップ付発光器との最適結合位置を検出し((イ-2)では、「キャップ付発光器からの光が光ファイバーに最大入射する位置を検出し」:審決注)、次いでキャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する。」を採用したものである。
以上から明らかなとおり、本件発明1及び2は、z軸方向の固定に際してファイバー端末がファイバーホルダーの中でxy軸方向に移動することが避けがたいという構成を前提とするものである。したがって、甲第2号証記載の発明とは、この点でも、前提とする構成が異なることになる。

以上において述べたとおり、本件発明1及び2の構成の下では、キャップ付発光器からの光が光ファイバーに最適結合する位置がz軸方向とxy軸方向の影響をともに受け、かつ、z軸方向をレーザ溶接という手段で固定する際に、xy軸方向にずれを生ずるという知見の下に、前記本質的な構成(イ-1),(イ-2)を採用したものである。
これに対して、甲第2号証記載の発明は、本件発明1及び2の前提とする構成とまったく異なる構成を有している。それゆえ、ファイバー端末とファイバーホルダーとのz軸方向の固定の際にファイバー端末がxy面内で位置ずれを生じるという、本件発明1及び2の前記知見について、何ら示唆していない。
したがって、仮に、甲第2号証記載の発明においてz軸方向をxy軸方向よりも先に固定することが示唆されていたとしても、本件発明1及び2の構成を前提としてかかる順序を採用することはまったく示唆されていないし、まして、その順序を選択することによって、上記xy面内での位置ずれを再調整できるという前記本質的な構成によって得られる特有の効果を当業者が予測することなど不可能である。
よって、本件発明1及び2の前記本質的な構成(ア-1),(ア-2)及び(イ-1),(イ-2)が甲第2号証に明確に記載されているとする請求人の主張は誤りである。
上記のとおり、甲第2号証は前提とする構成が本件発明1及び2とも、甲第1号証記載の発明ともまったく異なる。それゆえ、甲第2号証は、本件発明1及び2の前記本質的な構成(ア-1),(ア-2)及び(イ-1),(イ-2)によって解消される課題も、レーザ溶接によるz軸とxy軸方向の固定の順序を選択することによって、上記xy面内での位置ずれを再調整できるという前記本質的な構成(イ-1),(イ-2)によって得られる特有の効果も示唆していない。
したがって、仮に、甲第2号証において、z軸方向を接着剤によって固定してから、xy軸方向も接着剤で固定することが開示されていたとしても、当業者にとって、甲第1号証におけるレーザ溶接に際して甲第2号証記載の固定順序を採用する動機はまったく存在しなかった。
よって、本件発明1及び2は、甲第2号証記載の発明と甲第1号証記載の発明から当業者が容易に発明できたものではない。

甲第3号証について 甲第3号証は、本件発明1及び2とは全く異なる前提の構造を、前提とする組立方法を記載している。
まず、甲第3号証のFIG2を参照する。同図において、グラスファイバLが本件第1発明の光ファイバーに相当し、以下、次のような一応の対応関係がある。
グラスファイバジャケットM ファイバー端末
グラスファイバコネクタ部S ファイバーホルダー
レンズ系K キャップ付発光器内部のレンズ
光電素子D キャップ付発光器内部の発光素子
さて、本件発明1及び2は、ファイバー端末とファイバーホルダー及びファイバーホルダーとキャップ付発光器をそれぞれ固定する方法としてレーザ溶接を採用するとともに、最初にファイバー端末とファイバーホルダーをレーザ溶接してZ方向を固定し、その際に生じた、ファイバー端末のxy面内で位置ずれを修正するために、再び光ファイバーとキャップ付発光器とが最適結合する位置を検出してからファイバーホルダーとキャップ付発光器とをレーザ溶接してxy方向を固定するというものである(前記本質的な構成(イ-1),(イ-2)、及びその作用効果)。
これに対して、甲第3号証記載の構造と本件発明1及び2の前提とは全く異なる。甲第3号証のFIG2では、グラスファイバジャケットM、グラスファイバコネクタ部S及びレンズ系Kはすでに相互に固定されている。その上で、レンズ系Kに対して光電素子Dの位置を固定する方法が甲第3号証に記載されていることである。
本件発明1及び2では、レンズ付発光器の中に光電素子Dとレンズ系Kが含まれている(本件特許公告公報の第5図、及び本件特許訂正明細書の「実施例」欄)から、これらの位置関係はすでに固定されていることを前提としている。
これに対し、甲第3号証は、本件発明1及び2においてすでに固定されているとする、レンズ系Kと光電素子Dとを固定する方法が記載されたものであるから、本件発明1及び2とは前提が全く異なる。従って、甲第3号証は、前記本質的な構成(ア-1),(ア-2)及び(イ-1),(イ-2)について、何らの記載も示唆もない。

甲第4号証、甲第5号証について 甲第4号証、甲第5号証は、いずれも、光ファイバー端末とキャップ付発光器のz軸方向の最適光結合位置の検出及び検出位置でのレーザ溶接による固定(前記本質的な構成(ア-1),(ア-2))を記載していない。したがって、当然、本件発明1及び2の特徴である、工程の順序(前記本質的な構成(イ-1),(イ-2))についての記載も示唆もない。

第5.当審における判断
以下、無効理由について検討する。

1.甲号各証に記載された技術的事項
本件の出願日の前に頒布された刊行物である、甲第1号証〜甲第5号証に記載された技術的事項について記載する。
なお、甲第2号証については、請求人の提出した翻訳文による。

甲第1号証(以下、「刊行物1」という):
(1a)「本発明は光通信システムの光源、受光器に好適な光素子モジュールに関する。」(1頁右下欄1,2行)、

(1b)位置合わせ調整について、「本発明は光半導体素子が設置された容器と結合光学系を保持固定する保持部品と光ファイバを保持固定する保持部品を光半導体素子と光ファイバとを高効率で結合するよう各々位置合わせ調整した後、光半導体素子容器と結合光学系保持部品、光ファイバ保持部品を各々の接触面において炭酸ガスレーザあるいはYAGレーザ等の赤外線レーザ光により局部加熱し溶接固定することで、温度変動、振動、衝撃等に対する強度、耐久性を確保するものである。」(2頁左上欄13行〜同頁右上欄2行)、

(1c)実施例について、「以下本発明の一実施例を第1図により説明する。半導体レーザダイオード1は給電用端子を持つステム2に搭載され、気密封止ガラス窓3を持つキャップ4により囲まれた気密封止容器内に設置されている。半導体レーザダイオード1より出射した光ビームは結合光学系であるレンズ5により集光され、光ファイバ6に入射し光結合される。レンズ5、光ファイバ6は各々保持部品7,8に固定されている。光結合は保持部品7および保持部品8の挿入された保持部品9をXY方向、保持部品8をZ方向に位置調整して行なわれる。」(2頁右上欄4〜15行)、

(1d)位置合わせ精度について、「半導体レーザダイオード1に埋め込み型(BH)レーザ、光ファイバにコア径50μm、屈折率差1%の集束形屈折率分布ファイバ、レンズ5に日本板硝子製セルフォックレンズを用いた場合、結合効率の劣化を最大結合効率の0.5dB以内とするには保持部品7,9および8の位置合わせ精度は各々±3μm,±7μm,±80μmとなる。」(2頁右上欄15〜同頁左下欄2行)、
と記載されている。

甲第2号証(以下、「刊行物2」という。):
(2a)本発明の技術分野に関して、「本発明は、光ファイバーの端部を、光学活性素子、例えば、光源に固定する装置に関する。」(翻訳文2頁11,12行)、

(2b)本発明装置の具体的構造に関し、「それらの図において、11は、U字型の組立て台を示しており、その一方の分岐12は、光電子素子13、例えば、半導体レーザーを支持する。レーザー13の光線は、端部がレーザーに非常に近接している光ファイバー14に結合される。光ファイバー14はスリーブ15内に固定され、このスリーブは毛細管で良い。スリーブ15はフランジ18を備えたブッシング17の中心穴6にスライド自在に挿入されている。ブッシング17は組立て台11のもう一方の分岐20の穴19内に配置されている。穴19は、ブッシングの外径より大きく、そのためブッシングが、図面ではXとYで示される方向にスライドできるようになっている。フランジ18はブッシング17がどのようなXとYの座標にあっても、表面21を押圧している。ブッシング17には穴22がある。スリーブ15は、ブッシングの中心穴内を、図中Zで示す軸方向にスライドできるように配置されている。
本装置を取り付けるに際し、取付ブロック11は、フレーム26内をZ方向にスライドするように配置されている滑り台25上に固定される。調整ねじ27が、滑り台の正確な調整用に備えてある。スリーブ15は、フレーム26内に融通性をもって配置されているチャック28に固定される。チャックの位置は、X方向、Y方向に、微調整ねじ31と32によって調整することができる。チャックとフランジ18との間には、バネ装置32があって、フランジ18を表面21に付勢している。フランジ18と表面21をそれらの接触面全体にわたって密着させるため、チャックは、スリーブ15とチャック28との間で一定の角運動ができるような設計となっており、そのためフランジと前記表面との間の角度偏差が補償できる。」(同3頁6〜27行)、
と記載され、

(2c)Z方向の調整及び固定に関して、「図に示される装置で、光ファイバー14の端部は、最善の透過を受けるように調整ねじ27,30,31によって調整され、この調整は、伝達出力を測定することにより制御することができる。調整時、フランジ18は表面21に押付けられ、Z方向の調整は、ブッシング17内のスリーブ15をスライドさせておこなうが、この時、滑り台25がフレーム26に対してスライドさせられる。Z方向の調整は少しも重要でないので、ファイバーは、まずこの方向に固定される。これは、高流動性急硬化性接着剤、好ましくはシアノアクリレート系のものを、穴22に一滴注入して行う。
接着剤は、毛管現象により速やかにスリーブとブッシングの間の隙間に広がり、数分で硬化し、永久一体化する。嵌めあいが密着しているので、接着剤接合部は非常に薄く、硬化時に接着剤が変形してもファイバーの位置には影響を与えない。」(同3頁下から3行〜4頁10行)、

(なお、上記「Z方向の調整は少しも重要でないので」なる文言については、当初、請求人が、「Z方向の調整は殆ど臨界的ではないので」(甲第2号証の翻訳文)と訳出したところ、この文言は、「Z方向の調整は少しも重要でないので」と訳出すべきであると、被請求人が、主張したものである(第4.被請求人の反論の概要(ア)参照)。当審は、どちらの翻訳を採用したところで判断の当否に係わるものとは考えないが、とりあえず、被請求人の主張を採用して、上記のとおり認定した。)

(2d)また、X,Y方向の調整及び固定に関して、「Z方向の固定ができたら、X-とY-の調整が制御され、その後、フランジ18と表面21との間のリング形状の隙間に、高流動性硬化性接着剤が充填される。接着剤が硬化する前に、接着剤を隙間に容易に充填されるためには、フランジ18と分岐20の相対する表面、及びスリーブ15とブッシング17の表面に、適当な溝を設けることができる。これらの溝は、例えば、旋削或いはフライス加工の後の合わせマークとすることが出来る。
硬化後、取付台を滑り台25から外し、チャック28をスリーブ15から外すと、結合体を使用することができる。」(同4頁11〜18行)、

(2e)さらに本発明の適用範囲に関して、「本発明の装置は、光ファイバーの端部を光源に対して固定するだけではなく、その他の光学活性素子に対して固定するのにも使用できる。そのような素子としては、例えば、光検知器、レンズ、フィルター、その他の光ファイバーがある。」(同4頁19〜22行)、
と記載されている。

甲第3号証(以下、「刊行物3」という。):
(3a)「情報で変調された光を送受信するためのグラスファイバコネクタ部(S)が設けられ、該グラスファイバコネクタ部が、グラスファイバ端部(N)から所定の間隔だけ離れた調節面(A)を有し、該調節面(A)に固定される調節フレーム(E)が設けられ、該調節フレーム(E)の中に光を送受信する光電素子(D)が設けられた、光電モジュールケーシングにおいて、光電素子(D)が板(P)上に取付けられており、光電素子(D)とグラスファイバ(L)との間の光結合度を測定している間に、該光電素子の最適調節位置を求めて、前記板(P)が調節フレーム(E)の内側(C)を相互に垂直な3つの立体座標の方向のうち第1の方向(z)に自由に可動になっていて、該板(P)は最終的に最適調節位置で調節フレーム(E)に固定されており、該調節フレーム(E)も、光結合度を測定している間に光電素子(D)の最適調節位置を求めて、調節面(A)上を前記第1の方向(z)と垂直な2つの方向(x、y)に自由に可動になっていて、かつ最適調節位置で該調節面(A)に固定されている、ことを特徴とする光電モジュールケーシング。」(特許請求の範囲第1項)

(3b)「板PはグラスファイバLの軸線方向で自由に動かすことができる。また調節フレームEも調節面A上で軸線方向と垂直な他の2方向に動かすことができる。従って、板Pと取付けられた光電素子Dは、グラスファイバ端部Nに対して、すべての3つの方向に任意かつ正確に調節することがきる。この調節が終れば、調節フレームEはグラスファイバスリーブの調節面Aに、従って匣体Aに、最終的かつ持続的に取り付けられる。この取付けの前または後で(有利には取付けに引続いて)板Pと調節フレームEの表面H、C、を接触させて両者を固定することができる。従って、光電素子Dは、例えばクランプ、接着、溶接、ろう付け等によって、その最適調節位置に固定することができる。この調節過程および調節面Aないし匣体Gへの取付け過程は、有利にはグラスファイバ端部Nと光電素子Dとの光結合度を継続的に観察ないし測定しながら行なわれる。従って、光学的調節位置を繰返して探し出し、この位置へ取付けを行なうことによって、モジュールケーシングS/E/Pの中で光電素子DとグラスファイバLとの間に最大の光結合度を得る、つまり最適に光結合させることができる。」(4頁右上欄11行〜同頁左下欄14行)

甲第4号証(以下、「刊行物4」という。):
(4a)「次に上記実施例の動作について説明する。第2図において発光素子17から出射された光は球レンズ16によって光ファイバ10に結合される。その際の最大結合効率を得るための発光素子17の三次元位置調整は以下のように行われる。
発光素子17のZ方向の位置調整は金属筒19を金属筒20内でZ方向にスライドすることにより行われる。この時、金属筒20はリセプタクル14の端の部分に接している。X,Y方向の位置調整は金属筒20をリセプタクル14の端の部分に接した状態でX,Y方向の最適な位置へスライドすることによって行われる。
最大結合効率が得られる状態に位置調整を行った上で第2図に示す印部分を円周に沿ってレーザ(YAG,CO2等)により溶接を行い、発光素子17を保持する金属部品とリセプタクル14を相互に固定する。
本実施例においては、レーザ溶接を用いているので接着剤による取り付け固定に比べて、取り付け強度が高く、ハンダを使用した際に生じるフラックスによる結合効率の低下が避けられ、短時間による溶接なので接着剤を使用した際に生じるフラックスが発光素子に取り付いているガラス面や球レンズへの付着を避けることができる利点がある。」(2頁左下欄3行〜同頁右下欄7行)

甲第5号証(以下、「刊行物5」という。):
(5a)「次に上記実施例の動作について説明する。第2図において発光素子22のチップ21から出射された光はコリメートレンズ20で平行光に変換されるが、この際このコリメートレンズ20の装荷ずれにより出射方向の角度ずれが生じている。この角度ずれを予め測定しておき、そのずれに対応した偏心量を持つ金属部品19に保持された球レンズ18は、出射方向に対する最適な位置(第2図に示す回転方向及びZ方向)に調整される。この最適な位置に調整された発光素子を保持する部分と球レンズ保持する部分からなる系はさらにその出射光が光ファイバ12へ最大の結合効率を得るように金属部品19はX,Y方向の調整がなされる。それぞれの調整は光ファイバ12からの出力をモニタすることにより相互に行われる。調整された後で第2図に示す印を円周上にスポット溶接することにより、発光素子22と光ファイバ12は取り付け固定される。」(2頁右上欄20行〜同頁左下欄17行)

2.本件発明1について

2.1.対比

本件発明1と刊行物1(甲第1号証)に記載された発明とを対比する。

(ア)刊行物1に記載された「半導体レーザダイオード1は給電用端子を持つステム2に搭載され、気密封止ガラス窓3を持つキャップ4により囲まれた気密封止容器内に設置されている。」(摘記事項(1c)参照)からみて、「気密封止ガラス窓3を持つキャップ4により囲まれた気密封止容器内に設置された半導体レーザダイオード1」は、本件発明1の「キャップ付発光器」に相当し、
同様に「レンズ5、光ファイバ6は各々保持部品7,8に固定されている。光結合は保持部品7および保持部品8の挿入された保持部品9をXY方向、保持部品8をZ方向に位置調整して行われる。」(摘記事項(1c)参照)なる記載からみて、光ファイバ6は保持部品8に固定されており、その保持部品8は、保持部品9に挿入され、保持部品9内でZ方向に摺動し位置調整可能な部品であることが明らかであるから、保持部品8及び保持部品9は、各々本件発明1の「ファイバー端末」及び「ファイバーホルダー」に相当し、 同様に「光素子モジュール」(摘記事項(1a)参照)は、上記のとおり「キャップ付発光器」、「ファイバー端末」、及び「ファイバーホルダー」に各々相当する構成部品を備えているから、本件発明1の「発光モジュール」に相当するものといえる。

(イ)刊行物1の「光半導体素子が設置された容器と結合光学系を保持固定する保持部品と光ファイバを保持固定する保持部品を光半導体素子と光ファイバとを高効率で結合するよう各々位置合わせ調整した後、光半導体素子容器と結合光学系保持部品、光ファイバ保持部品を各々接触面において炭酸ガスレーザあるいはYAGレーザ等の赤外線レーザ光により局部加熱し溶接固定する」(摘記事項(1b)参照)、「光結合は保持部品7および保持部品8の挿入された保持部品9をXY方向、保持部品8をZ方向に位置調整して行われる。」(摘記事項(1c)参照)、及び「結合効率の劣化を最大結合効率の0.5dB以内とするには保持部品7,9および8の位置合わせ精度は各々±3μm,±7μm,±80μmとなる。」(摘記事項(1d)参照)なる記載からみて、
保持部品9(「ファイバーホルダー」に相当)のXY方向、保持部品8(「ファイバー端末」に相当)のZ方向の位置調整は、(気密封止ガラス窓3を持つキャップ4により囲まれた気密封止容器内に設置された)半導体レーザダイオード1と光ファイバー6とを、結合効率の劣化を最大結合効率の0.5dB以内とするよう高効率で光結合するものであること、
また、技術水準(例えば、摘記事項(2c)の下線を付した箇所等参照)からみて、この種の光結合には、発光器から光ファイバーに入射する光の強度をモニターしながら両者の位置を調整して、その強度が最大になる位置を検出し、これを最適光結合位置と定めて光結合位置を決定する方法が用いられるのが常識であること、
以上を勘案すると、刊行物1における高効率な光結合のための位置合わせ調整も、光の強度をモニターしながら両者の位置を調整して、その強度が最大になる位置を検出しているものと解されるから、同位置合わせ調整が、本件発明1における「最適光結合位置を検出」することと実質的な相違があるとはいえない。

(ウ)刊行物1の光モジュールの組立は、構成部品を位置調整した後、「炭酸ガスレーザあるいはYAGレーザ等の赤外線レーザ光により局部加熱し溶接固定する」(摘記事項(1b)参照)が、これは本件発明1における「レーザ溶接」に相当する。

(エ)刊行物1に記載された「Z方向」及び「XY方向」は、その第1図からみて各々光軸方向及びそれと直交する方向であるから、各々本件発明1の「z軸方向」及び「x,y軸方向」に相当することは明らかである(刊行物2についても同様)。

以上の(ア)ないし(エ)を踏まえると、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、
「キャップ付発光器と、光ファイバーを保持したファイバー端末と、上記ファイバー端末が挿入されるファイバーホルダーとを具備し、
上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で上記ファイバー端末をz軸方向に移動させるとともに、上記キャップ付発光器とファイバーホルダーとの間でx,yの二次元内で移動させることにより、最適光結合位置を検出し、
その位置状態で上記ファイバー端末とファイバーホルダー、及び上記キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する発光モジュールの組立方法。」
である点で一致しており、以下の点で相違している。

相違点1:
発光モジュールを組み立てる順序に関して、本件発明1は、「(a)ファイバー端末をファイバーホルダーに挿入した状態で、上記ファイバー端末を移動させ、z軸方向の位置を決める工程、(b)その位置で、光ファイバーと発光器のz軸方向を固定する工程、(c)x,y軸方向の位置を決め、その位置で光ファイバーと発光器のx,y軸方向を固定する工程、の順に組み立てる」のに対して、刊行物1に記載のものは、特に位置決め及び固定(レーザ溶接)の順序を開示していない点。

相違点2:
キャップ付発光器とファイバーホルダーとのx,y軸方向の位置決め時の移動に関して、本件発明1は、「キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる」のに対して、刊行物1に記載のものは、ファイバーホルダーをx,yの二次元内で移動させる点。

2.2.相違点についての判断

2.2.1.相違点1について
(1)相違点1に係る発光モジュールの組み立て順序を採用した理由について、本件訂正明細書には、「YAGレーザで溶接を行うとファイバー端末(6)の位置がxy面内で位置ずれを生ずるので、再び光ファイバー(3)へ光が最も多く入射する位置をxy面内で捜す作業(xyピークサーチ(16))を光軸調整装置を使って行う。」(審判請求書に添付した「本件特許審決公報」8頁26〜28行)と記載されている。

(2)これに対し、刊行物1には、「レンズ5、光ファイバ6は各々保持部品7,8に固定されている。光結合は保持部品7および保持部品8の挿入された保持部品9をXY方向、保持部品8をZ方向に位置調整して行われる。」(摘記事項(1c)参照)、「各々位置合わせ調整した後、光半導体素子容器と結合光学系保持部品、光ファイバ保持部品を各々接触面において炭酸ガスレーザあるいはYAGレーザ等の赤外線レーザ光により局部加熱し溶接固定する」(摘記事項(1b)参照)とあり、光結合をなすため、x,y軸方向、z軸方向の位置調整を行い、次いでレーザ溶接により固定することは、記載されていても、位置調整及び溶接固定の順序を具体的に示す記載はないし、当然、その理由も記載されていない。

(3)しかしながら、刊行物2には、「光ファイバー14の端部は、最善の透過を受けるように調整ねじ27,30,31によって調整され、この調整は、伝達出力を測定することにより制御することができる。調整時、フランジ18は表面21に押付けられ、Z方向の調整は、ブッシング17内のスリーブ15をスライドさせておこなうが、この時、滑り台25がフレーム26に対してスライドさせられる。Z方向の調整は少しも重要でないので、ファイバーは、まずこの方向に固定される。」(摘記事項(2c)参照)、「Z方向の固定ができたら、X-とY-の調整が制御され、その後、フランジ18と表面21との間のリング形状の隙間に、高流動性硬化性接着剤が充填される。」(摘記事項(2d)参照)と記載されており、
ここで、上記刊行物2に記載された、「スリーブ15」及び「フランジ18を備えたブッシング17」は、Fig.1及び「光ファイバー14はスリーブ15内に固定され、このスリーブは毛細管で良い。スリーブ15はフランジ18を備えたブッシング17の中心穴6にスライド自在に挿入されている。」(摘記事項(2b)参照)なる記載からみて、各々本件発明1の「ファイバー端末」、「ファイバーホルダー」に相当し、同様に「表面21」は、Fig.1の記載からみて、半導体レーザー13を支持するU字型の組立て台11の一端面であって、「フランジ18はブッシング17がどのようなXとYの座標にあっても、表面21を押圧している。」(摘記事項(2b))ような表面であるから、本件発明1の「ファイバーホルダーが当接する(キャップ付発光器の)面」に相当することは明らかである。
したがって、これらの記載によれば、刊行物2には、上記相違点1の「(a)ファイバー端末をファイバーホルダーに挿入した状態で、上記ファイバー端末を移動させ、z軸方向の位置を決める工程、(b)その位置で、光ファイバーと発光器のz軸方向を固定する工程、(c)x,y軸方向の位置を決め、その位置で光ファイバーと発光器のx,y軸方向を固定する工程、の順に組み立てる」ことが、記載されているといえる。

(4)そこで、刊行物1に記載のものをレーザ溶接で組み立てるに際し、上記刊行物2に記載された位置調整及び固定の順序が、適用可能であるか否かについて、以下に検討する。

刊行物2には、z軸方向の位置調整と固定を、x,y軸方向の位置調整と固定より先に行う理由が次のように記載されている。
「Z方向の調整は少しも重要でないので、ファイバーは、まずこの方向に固定される。」

上記の理由について、考察すると、
(4-1)位置合わせの精度について
刊行物1には、「光結合は保持部品7および保持部品8の挿入された保持部品9をXY方向、保持部品8をZ方向に位置調整して行なわれる。」(摘記事項(1c)参照)、「結合効率の劣化を最大結合効率の0.5dB以内とするには保持部品7,9および8の位置合わせ精度は各々±3μm,±7μm,±80μmとなる。」(摘記事項(1d)参照)と記載され、これにより、刊行物1に記載のものにおいて、結合効率の劣化を最大結合効率の0.5dB以内とするには、x,y軸方向の位置合わせ精度が±3μm,±7μmであるのに対し、z軸方向の位置合わせ精度は±80μmであることが理解できる。
すなわち、刊行物1に記載のものにおいては、z軸方向の位置合わせ精度は、x,y軸方向のそれに比べて1桁以上余裕があり、x,y軸方向の位置合わせほど慎重を要せず、固定時に、仮に誤差が生じたとしても殆ど問題にならず、爾後に修正の必要がないものということができる。
このことは、刊行物2に記載のものにおいても同様であり、むしろ、レンズを有さない刊行物2に記載のものでは、位置合わせ精度の違いはさらに顕著であると解されるから、結局、光ファイバと発光器の結合においては、「Z方向の調整は少しも重要でない」ないしは「Z方向の調整は殆ど臨界的ではない」ということができる。

(4-2)z軸方向の位置調整と固定を先に行う理由について
上記(4-1)から、z軸方向の位置合わせ精度は、x,y軸方向に比べてあまり重要ではなく、また、z軸方向の位置合わせは、後に修正する必要性が殆どないことから、z軸方向の固定を先にしようが、後にしようが、z軸方向の位置合わせ精度の観点からはどちらでもよいことが理解できる。
そこで、x,y軸方向の位置合わせ、固定を精度良く行うには、どのような順序で組み立てればよいのか考えてみると、
ファイバーホルダーにファイバー端末を挿入し、ファイバー端末をz軸方向にのみ移動可能にした構造のもの(本件発明及び刊行物1,2に記載されたもの)においては、ファイバーホルダー内で、ファイバー端末をx,y軸方向に移動することは、構造的に無理であり、かかる移動によりx,y軸方向の位置ずれを精度良く修正することはほとんど不可能であるから、刊行物2に記載されたものの如く、z軸方向の固定を先に行い、x,y軸方向の固定を後にして、x,y軸方向の位置ずれを修正できるようにすることが、むしろ、必然であると理解できる。
してみると、刊行物1,2に記載されたもののような発光モジュールを精度良く組み立てるためには、刊行物2に記載されたもののように、z軸方向の固定を先に行い、x,y軸方向の固定を後にすることが必然であり、しかも、この様な組立順序は、固定手段がレーザ溶接であるか、接着であるかに拘わらず、組立精度を出すために必然であることが理解できる。

(4-3)まとめ
以上のとおり、刊行物2に記載されたような順序で発光モジュールを組み立てることには、上記(4-2)に記載したように、組立精度を出すための十分な理由があり、しかも、この様な組立順序は、固定手段がレーザ溶接であるか、接着であるかに拘わらず、組立精度を出すために必要な事項であること、また、刊行物1に記載のものにおいて、組立に際し、光の結合効率を良くするためには、x,y軸方向の精度が特に重要であること、が明らかであるから、刊行物2に記載のものを刊行物1に記載のものに適用するについて、十分な動機があるというべきであり、また、特段の阻害要因も存在しないから、相違点1は、刊行物1に記載のものに、刊行物2に記載の位置調整、組立順序を適用することにより、当業者が容易に発明することができたものといえる。

(5)なお、被請求人は、上記に関し、次のような阻害要因を主張しているが、何れも合理的な理由がなく、採用することができないものである。

(5-1)刊行物1は、YAG溶接を開示しているが、溶接に際して生ずるx,y方向の位置ずれについての記載も示唆もないから、YAG溶接と組立順序を組み合わせることができない、との主張については、上記(4-3)に記載のとおりであり、組合せには十分な動機があるから、この主張には理由がない。

(5-2)刊行物2に記載のものには、発光素子から出た光がレンズにより集光されるキャップ付発光器が存在せず、したがって「Z方向の調整は少しも重要でない」のだから、z軸方向の最適結合の必要性が全くない構成であり、本件発明1とは前提が異なる、との主張(第4.被請求人の反論の概要(ア)参照)については、キャップ付き発光器がレンズを備えること、がその主張の前提となっているが、本件発明1には、単に「キャップ付発光器」と記載され、レンズについての明示の記載はないから、このものがレンズを備えると解することはできず、また、当該技術分野において「キャップ付発光器」なる用語が、レンズつき発光器を意味するものともいえないから、上記主張は、そもそもその主張の前提となる要件を欠いており、採用できない。

(5-3)刊行物2に記載のものは、「嵌めあいが密着しているので、接着剤接合部は非常に薄く、硬化時に接着剤が変形してもファイバーの位置には影響を与えない。」(甲第2号証の翻訳文)、すなわち、z軸方向の固定に際してx,y軸方向のずれを生じない構成であり、本件発明1とは前提が異なる、との主張(第4.被請求人の反論の概要(イ)参照)については、上記(4-1)、(4-2)に記載したように、「Z方向の調整は殆ど臨界的ではない(Z方向の調整は少しも重要でない)ので、ファイバーは、まずこの方向に固定される。」ことの技術的意義が、上記「嵌めあいが密着しているので、・・・ファイバーの位置には影響を与えない。」なる記載の如何に拘わらず、組立精度を出すために最終的にx,y軸方向の調整を可能にすることにあるのは明らかであるから、上記主張は採用しない。

(5-4)本件発明1は、キャップ付発光器からの光が光ファイバーに最適結合する位置がz軸方向とx,y軸方向の影響をともに受け、かつ、z軸方向をレーザ溶接という手段で固定する際に、x,y軸方向にずれを生ずるという知見の下に、かかる組立順序を採用したのであるから、この様な前提が存在しない刊行物2に記載のものに基づいて、本件発明1の構成を前提としてかかる組立順序を採用することは予測し得ない、との主張(第4.被請求人の反論の概要(ア)、(イ)のまとめ参照)については、当該主張の前提となる上記(5-2)及び(5-3)における主張が採用できないのであるから、当然採用することができないというべきである。

2.2.2.相違点2について
(1)キャップ付発光器とファイバーホルダーとのx,y軸方向の位置決め時の移動に関して、本件発明1は、「キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる」のに対し、刊行物1に記載のものは、ファイバーホルダーをx,yの二次元内で移動させる点で、両者は一応相違する。

(2)しかしながら、x,y軸方向の位置決めは、キャップ付発光器とファイバーホルダーとの間で、両者が相対的に移動し、位置調整されれば達成可能であることは、いわば常識であるから、他方を固定し、一方を移動させることに、組立方法における特段の作用効果があるというのでないかぎり、これとは逆に、一方を固定し、他方を移動させることと技術的に等価であるといわざるを得ない。

(3)そこで検討するに、本件訂正明細書の全記載を参酌しても、本件発明1において「キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる」ことに、組立方法における特段の作用効果があるとは見いだせないから、刊行物1に記載のものの如く、ファイバーホルダーをx,yの二次元内で移動させることと実質的な差異があるとはいえず、上記相違点2は単なる設計的事項というべきである。

2.2.3.相違点についてのまとめ
以上のとおり、相違点1に特段の困難性があるとはいえず、また、相違点2は実質的な相違とはいえないから、これらの相違点を組み合わせたとしても、相違点1に係る効果以上の、予期し得ない格別な効果を奏することがないことは明らかである。
したがって、本件発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.本件発明2について
(1)本件発明2では、本件発明1の特定事項(a)を、
(i)「(a)上記キャップ付発光器をx軸、y軸方向に、また上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で光軸(z軸)方向に移動させて上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最大入射する位置を検出する工程、」と変更し、
さらに、本件発明1に記載された「最適結合」、「最適光結合位置」、「最適結合する位置」を、
(ii)「最大入射する位置」と変更している。

上記(ii)の変更については、最大入射する位置が、最適結合位置に他ならないのは技術常識であるから、両者は単なる表現の相違にすぎず、実質的に同一である。

(2)そこで、上記(i)について、本件発明2と刊行物1に記載された発明とを対比すると、
刊行物1に記載された発明には、「本発明は光半導体素子が設置された容器と結合光学系を保持固定する保持部品と光ファイバを保持固定する保持部品を光半導体素子と光ファイバとを高効率で結合するよう各々位置合わせ調整した後、光半導体素子容器と結合光学系保持部品、光ファイバ保持部品を各々接触面において炭酸ガスレーザあるいはYAGレーザ等の赤外線レーザ光により局部加熱し溶接固定する・・・」(摘記事項(1b)参照)、「レンズ5、光ファイバ6は各々保持部品7,8に固定されている。光結合は保持部品7および保持部品8の挿入された保持部品9をXY方向、保持部品8をZ方向に位置調整して行われる。」(摘記事項(1c)参照)と記載されており、また両者の構成要素同士の対比は、「2.1.対比」で述べたとおりであるから、結局、刊行物1に記載された発明には、
(iii)「上記ファイバーホルダーをx軸、y軸方向に、また上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で光軸(z軸)方向に移動させて上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最大入射する位置を検出する工程、」が開示されているといえる。
上記(i)と(iii)とを対比すると、上記(i)が「キャップ付発光器をx軸、y軸方向に」移動するのに対し、上記(iii)は、「ファイバーホルダーをx軸、y軸方向に」移動する点でのみ相違するが、これは上記相違点2に他ならない。

(3)よって、本件発明2は、前述の相違点1及び2で、刊行物1に記載した発明と相違しているといえるところ、相違点1及び2については、既に「2.2.相違点についての判断」で述べたとおりである。

したがって、本件発明2は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおり、本件発明1及び2は、本件の出願前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1及び2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効にすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-07-02 
結審通知日 2004-07-05 
審決日 2004-07-20 
出願番号 特願昭61-33187
審決分類 P 1 122・ 121- Z (H01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 原 光明  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 平井 良憲
吉田 禎治
登録日 1996-11-21 
登録番号 特許第2112777号(P2112777)
発明の名称 発光モジュールの組立方法および組立装置  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 三觜 晃司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ