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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1122683 |
審判番号 | 不服2003-7327 |
総通号数 | 70 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2005-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-04-28 |
確定日 | 2005-09-13 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第532341号「ピラゾロピリジン化合物の新規用途」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年10月31日国際公開、WO96/33715〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成8年4月18日(国内優先権主張、平成7年4月27日)を国際出願日とする出願であって、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年11月11日付け手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その請求の範囲請求項1に記載された次のとおりのものである。 【請求項1】1-[3-(2-フェニルピラゾロ[1,5-a]ピリジン-3-イル)アクリロイル]-2-(カルボキシメチル)ピペリジンまたはその塩類を有効成分として含有する透析時低血圧症および/または透析後低血圧症の予防および/または治療剤。 2.原審の拒絶の理由 これに対する原査定の拒絶の理由の概要は、「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」というものであって、下記の点を指摘している。 本願の発明の詳細な説明には、請求項1記載の化合物の「有効量、投与方法、製剤化方法が記載されているにとどまり、実施例として、当該医薬用途に関する薬理試験方法及び薬理データが何ら記載されていない。」 したがって、発明の詳細な説明には、当業者が請求項1に係る発明を「実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」 3.当審の判断 特許法第36条第4項の規定によれば、「発明の詳細な説明は、通商産業省令で定めるところによりその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確且つ十分に、記載しなければならない。」とされ、特許法施行規則24条の2には「特許法第36条第4項の通商産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及び解決手段その他のその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が発明の技術的意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されている。 そして、医薬についての用途発明においては、一般に、有効成分の物質名、化学構造だけからその有用性を予測することは困難であり、明細書に有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても、それだけでは当業者が当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから、明細書に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその物質が特定疾病の治療に有効であることが裏付けるられていなければ、その物質をその用途に使用する技術的意義を理解することができないというべきであるから、それがなされていない発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないものであるといわなければならない。 これを本願明細書についてみると、本願明細書第1頁第10行〜第14行には 「背景技術 いくつかの種類のピラゾロピリジン化合物が、利尿降圧作用、腎不全用剤などとして有用であることが知られている(例えば、特開昭64-45385号、特開平2-243689号、特開平5-112566号、等)。」 また、第2頁第23行〜第3頁第1行には 「前記ピラゾロピリジン化合物(I)としては、特開昭64-45385号、特開平2-243689号、特開平4-253978および特開平5-112566号に開示された既知の化合物を挙げることができる。」 と記載され、、利尿降圧作用、腎不全用剤としての作用を有する公知のピラゾロピリジン化合物が透析時低血圧症および/または透析後低血圧症の予防、治療剤となるとの記載があり、第43頁第18行〜第44頁第20行には、投与法、剤型、1日当たりの投与量が記載されているが、本願発明の有効成分である1-[3-(2-フェニルピラゾロ[1,5-a]ピリジン-3-イル)アクリロイル]-2-(カルボキシメチル)ピペリジンまたはその塩類について透析時や透析後低血圧症の予防や治療に有効に作用することを示す薬理データといえるものは、何ら記載されていない上、薬理データと同視すべき程度の記載もない。また、上記投与方法や投与量を採用する根拠も何ら示されていない。 そうすると、本願明細書の記載によっては、本願発明の化合物を上記疾患に使用することの技術的意義を当業者が理解することは困難である。 更に付言するに、本願明細書では上記のとおり、いくつかのピラゾロピリジン化合物が、利尿降圧剤、腎不全用剤などとして有用であるとして参照文献を3つ掲げ、本発明で使用される化合物としても同文献を参照しているのであるから、利尿降圧という透析時または透析後低血圧症にとって明らかに望ましくないと考えられる作用がある化合物をかかる疾患に適用するにあたっては、明細書において、客観的に確認するに足りる具体的実験結果によってその有効性を示すことが、なおさらのこと必要であるといえ、それを欠く本願明細書は不備と言わざるを得ない。 請求人は、本願発明の化合物はアデノシン拮抗剤であり、その降圧剤としての効果はナトリウム利尿作用に基づくものであり、腎血流量が増加し、腎尿細管でナトリウムの再吸収を抑制してナトリウム及び水排出が促進されることによって体液量が減少するなどして降圧効果をもたらすものであるから、腎が機能しない透析患者においてはアデノシン拮抗剤による降圧作用は起こらないと推測されるとし、アデノシン拮抗剤は心臓、血管に作用した場合は、アデノシンの大量放出が原因の急激な低血圧を改善する効果を有する(H14年6月24日付け意見書)と主張する。しかし、本願発明の化合物について、上記の利尿作用のメカニズムや透析患者に対する作用の有無、その低血圧改善作用が本出願当時、当業界における技術常識であったとする根拠はない。 また、請求人は、当審において、「透析低血圧の病態と対策;臨床透析、vol.12、no.8、1996、第1105-1117頁」(参考資料1)並びに「日本医薬品総覧(1995年度版 7月10日第1刷);塩酸ドパミン並びにノルエピネフリンの項」(参考資料2)を提出し、脱血ショックモデル、並びに、LPS誘発ショックモデルが透析時低血圧症の評価モデルとして使用できることが、本願出願時において当業者により認識されていたとし、本願出願時に公知であった特開平6-239743号公報に、本願化合物が脱血ショックモデル並びにLPS誘発ショックモデルにおいて有効であることが、薬理試験データによるサポートを伴って具体的に開示されているのを考慮すれば、本願明細書を読んだ当業者であれば、本願化合物が透析時低血圧症等の治療等に有効性を示すであろうことが十分に推認できる旨主張する。 しかしながら、参考資料1、2はいずれも、脱血ショックモデル、並びに、LPS誘発ショックモデルが透析時低血圧症の評価モデルとして使用できることを示すものではない。 そして、そもそも、特許出願明細書を理解するにあたって当業者が利用可能な技術常識とは、当業者が通常持っているべき知識や理解力、判断力などをいい、出願日(優先日)前に頒布された刊行物の記載事項が直ちに技術常識であることを意味しないと解されるところ、特開平6-239743号公報(発明の名称「ピラゾロピリジンの新規用途」平成5年12月24日出願、平成6年8月30日公開)は請求人自身の特許出願に係る公開公報であって、本願出願の優先日(平成7年4月27日)の僅か8ヶ月前に公開された文献であるから、たとえ請求人自身が熟知しているとしても、この文献の薬理試験データなどの記載内容が直ちに本願出願当時の当業者が通常有していた技術常識であるということはできない。 したがって、かかる文献の薬理データを本願明細書の理解にあたって利用することを前提とする請求人の主張は、その前提において誤っており採用することはできない。 なお、審査段階で提出された参考資料をみても、それらによって本願発明の化合物を透析時低血圧症等の予防、治療に使用することの技術的意義を当業者が理解するに十分な技術常識が本願出願当時に存在していたとすることはできない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願明細書には、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されていない。 したがって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-05-18 |
結審通知日 | 2004-05-25 |
審決日 | 2004-06-07 |
出願番号 | 特願平8-532341 |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上條 のぶよ、瀬田 あや子 |
特許庁審判長 |
森田 ひとみ |
特許庁審判官 |
亀田 宏之 横尾 俊一 |
発明の名称 | ピラゾロピリジン化合物の新規用途 |
代理人 | 田伏 英治 |