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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1122764
審判番号 不服2002-22287  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-10-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-11-19 
確定日 2005-09-08 
事件の表示 平成 5年特許願第325582号「フォトカソードを用いた電子線リソグラフィ」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年10月 7日出願公開、特開平 6-283466〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.経緯
本願は、平成5年12月24日(パリ条約による優先権主張1992年12月29日、米国)の出願であって、原審において拒絶査定され、審判請求された後、平成14年12月19日付け手続補正書によって補正されたものである。
本願請求項1に係る発明(以下、「本願第1発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、請求項1に記載された次のとおりのものである。
請求項1
パターン形成された電子放射でレジストを照射することを含む0.25μmより小さな最小のパターン寸法の描画を含み、
そのようなパターン形成された放射は、UV励起された自由表面貴金属光電子放射材料を含み、UV透過基板によって支持されたフォトカソードから生じ、前記放射はフォトカソードから、サイクロトロン共鳴周期の整数倍離れたそのようなレジスト上に焦点が合わされ、焦点合せと電子の加速は、パターン形成された電子放射の全断面積に渡って、実質的に均一な印加磁界及び電界により生じるデバイス作製の方法において、
UV透過を妨げず、かつAl、Ti、TaあるいはCrを含む薄い金属層からなる金属粘着促進材(“固着”層)が前記貴金属と前記基板の間に挿入されていることを特徴とする方法。

2.原審の拒絶の理由に引用した引用例
引用例1 特開平1-158731号公報

2.1 引用例1の記載内容
引用例1の第2頁右上欄第5行ないし同欄第10行には、
「[産業上の利用分野]
本発明は、リソグラフィー技術における光電子転写露光方法およびこの方法に直接使用する光電子転写露光用マスクに関し、詳しくは、光電子放出材料の開発と、その光電子放出材料を使用したマスクを用いた光電子転写露光方法に関する。」
と記載されている。
引用例1の第2頁右下欄第12行ないし第3頁右上欄第12行には、
「 転写方法のもつ高い処理能力と電子ビーム露光方法のもつ高解像性をともに活かした露光方法として、光電子による転写露光方法がある。この露光方法は、光電子放出材料と非放出材料でマスク上にパターニングしておき、そのマスクに光を照てることにより発生する光電子を、マスクーウェハ間にかけられている電場、磁場で加速、収束させウェハ上に転写する方法である。このような光電子転写露光方法では、光電子放出材料は、強い光電子を安定に、長時間放出することが望まれている。…本発明は、これらの問題点を解決する光電子放出材料の開発と、その材料を用いたマスクの露光方法に関している。
[従来の技術]
光電子転写技術は、マスク像を光電子ビームで試料上に転写するもので、その原理を第12図に示す。収束コイル33(ヘルムホルツコイル)の作る平行磁場(同図で上下方向)の中に磁場と直角に光電マスク30(以下、単にマスクという)と試料40(例えば表面に電子線感光剤31が塗布されているウェハ)が平行に向かい合って配置され、マスクが負、試料が正になる様な電位がかかっている。光電マスク30は透明基板、例えば石英板32の上に紫外線吸収体34(例えばクロムCr)から成る転写すべきパターンを作り、その上に紫外線の照射によって電子を放出する光電子放出材料の膜39を被着させることにより作られている。
石英板32の上に紫外線ビーム35を出す紫外線源36を設置し紫外線33をマスク30上に照射すると、パターンのないところ(紫外線吸収体34のないところ)にあたる光電物質に紫外線ビーム35が当たり、その部分から光電子ビーム37が矢印のように出る。マスク30上の一点から出た光電子ビーム37は、そこにかかっている加速電圧(電源38により与えられている)と収束コイル33の作る平行磁場によって螺旋を描いてウェハ40の方向へ進み、ある所で再び一点に集まる。即ち、焦点を結ぶのである。」
と記載されている。
引用例1の第3頁右下欄第8行ないし同欄第16行には、
「[発明が解決しようとする問題点]
我々が開発してきたこれらの材料は、各々非常に良い特性があるが、光電マスクとして望まれる全ての要素を満足はできなかった。例えば、光電物質に光電子放出能の強いものを求めると、その製法(作り易さ)、放出能の安定性の面が満足出来ないし、光電子放出能が割合安定なもの求めると、放出量が強度不足になってスループット(処理能力)に不満が残る。」
と記載されている。
引用例1の第4頁左上欄第8行ないし同頁右上欄第3行には、
「本発明は、…強い光電子を、安定に、長時間の使用にも耐え、再度の再生も可能で、かつ製造工程も簡単である、光電子放出材料を使用した光電子転写露光用マスクと、その露光方法を提供することにある。
[問題点を解決するための手段]
本発明は、マスクの基板上に光電子を励起する為の励起光を照射する工程と、基板上に設けられた光電子放出材料から放出される光電子を電場、磁場により被露光物質上に収束させることで、マスク上の露光パターンを転写する工程とを有し、光電子放出材料は、Pt、または主にPtを含むPt含有物、もしくはPt化合物で形成されているマスクを用い、露光するよう構成した。」
と記載されている。
引用例1の第4頁左下欄第6行ないし同頁右下欄第3行には、
「第1図は本発明の実施例のマスク構造の側面図である。透明基板11は、光を透過する石英、サファイア、ルビー等の基板である。マスク10の透明基板11上に例えば、蒸着、スパッタによって金属(Cr,Ta,W)を付着し、それをパターニングしたエッチングすることにより、金属パターン12を形成する。…金属パターン12の膜厚は、光を十分遮断することの出来る400〜2000Åの厚さにする。…
次に、金属パターンを含む透明基板上に蒸着またはスパッタによって10〜300Åの膜厚のPtを付着してPt膜13を作る。」
と記載されている。
引用例1の第5頁左下欄第4行ないし同欄第17行には、
「以上のマスクにおいて、基板との密着性をより改善するためにはPtに他の原子を含有させたPt含有物とすればよい。含有物としては、…Ti、Cr、Al…等がよい。おもにPtを含んだものであれば、励起光の透過率はほとんど変わらず、Ptの膜厚で使用できる。Ptは、また非常に多くの化合物を作る。Pt化合物の場合でも密着性を向上することができる。…我々の実験では、密着性を取るため、TiをPtに混ぜて被着させたが、光電子放出能はほとんど変わらなかった。しかも密着性は向上した。」
と記載されている。

2.2 引用例1の記載の発明
光電子放出材料と非放出材料でマスク上にパターニングしておき、そのマスクに光を照てることにより発生する光電子を、ウェハ上に転写する方法であって、透明基板の上に紫外線吸収体から成る転写すべきパターンを作り、その上に紫外線の照射によって電子を放出する光電子放出材料の膜を被着させることにより光電マスクを作り、紫外線を光電マスク上に照射し、パターンのないところにあたる光電物質に紫外線ビームが当たり、その部分から光電子ビームが出て、光電マスク上の一点から出た光電子ビームは、光電マスク上の一点から出た光電子ビームは、そこにかかっている加速電圧と収束コイルの作る平行磁場によって螺旋を描いてウェハの方向へ進み、ある所で再び一点に集まり、焦点を結ぶ光電子転写露光方法であって、光電子放出材料の膜は、基板との密着性をより改善するためにPtに他の原子を含有させたPt含有物とし、含有物としては、Ti、CrまたはAlである発明。

3.対比
本願第1発明と引用例1記載の発明を対比する。
引用例1記載の「紫外線」、「透明基板」及び「光電子放出材料の膜」は、本願第1発明の「UV」及び「UV透過基板」、「フォトカソード」に相当する。
電子線露光リソグラフィー技術において、露光する対象はウェハ上のレジストであることは自明の事項(引用例1の[従来の技術]の項においてもウェハに電子線感光材料が塗布される旨記載されている。)であるから、引用例1記載の発明の、光電子放出材料と非放出材料でマスク上にパターニングしておき、そのマスクに光を当てることにより発生する光電子をウェハ上に転写することは、本願第1発明の、パターン形成された電子放射でレジストを照射することを含む描画に実質的に相当する。
また、引用例1記載の発明の、紫外線の照射によって電子を放出する光電子放出材料の膜は、主としてPtからなるから、本願第1発明の、UV励起された自由表面貴金属光電子放射材料に相当する。
さらに、引用例1記載の発明の、光電マスク上の一点から出た光電子ビームは、光電マスク上の一点から出た光電子ビームは、そこにかかっている加速電圧と収束コイルの作る平行磁場によって螺旋を描いてウェハの方向へ進み、ある所で再び一点に集まり、集点を結ぶことは、本願第1発明の、放射はフォトカソードから、サイクロトロン共鳴周期の整数倍離れたそのようなレジスト上に焦点が合わされることに相当する。
一致点
本願第1発明と引用例1記載の発明は、
「パターン形成された電子放射でレジストを照射することを含む描画を含み、
そのようなパターン形成された放射は、UV励起された自由表面貴金属光電子放射材料を含み、UV透過基板によって支持されたフォトカソードから生じ、前記放射はフォトカソードから、サイクロトロン共鳴周期の整数倍離れたそのようなレジスト上に焦点が合わされるデバイス作製の方法」
において一致し、以下の点で相違する。
相違点
本願第1発明は、「0.25μmより小さな最小のパターン寸法」であるのに対し、引用例1記載の発明では、上記構成の記載がない点で相違(以下、「相違点1」という。)する。
本願第1発明は、「UV透過を妨げず、かつAl、Ti、TaあるいはCrを含む薄い金属層からなる金属粘着促進材(“固着”層)が前記貴金属と前記基板の間に挿入されている」構成であるのに対し、引用例1記載の発明では、光電子放出材料の膜は、基板との密着性をより改善するためにPtに他の原子を含有させたPt含有物とし、含有物としては、Ti、CrまたはAlである点で相違(以下、「相違点2」という。)する。
本願第1発明は、「焦点合せと電子の加速は、パターン形成された電子放射の全断面積に渡って、実質的に均一な印加磁界及び電界により生じる」構成であるのに対し、引用例1記載の発明では、上記構成の記載がない点で相違(以下、「相違点3」という。)する。

4.判断
相違点1についての検討
電子線リソグラフィ露光技術は、サブミクロン程度の微細露光を目的とすることは周知事項にすぎず、0.25μmより小さな最小のパターン寸法とすることは、当業者が適宜設定できた設計事項にすぎない。
相違点2についての検討
引用例1記載の発明は、貴金属であるPtに、本願第1発明記載の金属粘着促進材を基板との密着性をより改善するために含有させたものであり、本願第1発明と引用例1記載の発明の相違点2に関する実質的な相違は、前者では、薄い金属層からなる金属粘着促進材を貴金属と基板の間に挿入するのに対し、後者では、貴金属に金属粘着促進材を含有させる点である。
基板と貴金属層の接着を良くするために、両者間にTi、Crといった金属層を入れることは、周知手段(例えば、特開平4-94523号公報、特開昭51-92175号公報等参照)であり、引用例1記載の発明に接した当業者であれば、貴金属に金属粘着促進材を含有させることに変えて、薄い金属層からなる金属粘着促進材が前記貴金属と前記基板の間に挿入する程度のことは容易に想到できたことにすぎない。
相違点3についての検討
電子線露光においては、描画を均一に行うことは、当業者が当然考慮する事項であって、その際、「パターン形成された電子放射の全断面積に渡って、実質的に均一な印加磁界及び電界」を用いることは単なる設計上の配慮事項にすぎない

そして、本願第1発明の作用効果も、引用例1記載の発明及び設計事項・周知手段の作用効果から当業者が予測できる範囲のものである。

なお、本件審判請求人は、平成17年1月28日付け審尋回答書において、請求項16を請求項1に従属する記載に改めたい旨記しているが、請求項1に係る発明は上記のとおり特許性がないから、請求項16を請求項1に従属する記載に改めたとしても、依然として特許性がない。

5.むすび
そうすると、本願請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び設計事項・周知手段に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-08 
結審通知日 2005-04-11 
審決日 2005-04-22 
出願番号 特願平5-325582
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 多田 達也伊藤 昌哉岩本 勉  
特許庁審判長 上野 信
特許庁審判官 辻 徹二
柏崎 正男
発明の名称 フォトカソードを用いた電子線リソグラフィ  
代理人 朝日 伸光  
代理人 臼井 伸一  
代理人 藤野 育男  
代理人 本宮 照久  
代理人 高梨 憲通  
代理人 越智 隆夫  
代理人 高橋 誠一郎  
代理人 吉澤 弘司  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 産形 和央  
代理人 岡部 正夫  

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