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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F02D
審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  F02D
管理番号 1122867
異議申立番号 異議2003-73552  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-01-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-06-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3463463号「センサの異常診断装置」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3463463号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 【1】手続きの経緯
本件特許第3463463号についての出願は、平成8年6月28日に特許出願されたものであって、その請求項1〜8に係る発明は、平成15年8月22日にその特許権の設定登録がなされたものであるが、その後、本件の請求項1〜8に係る特許に対して、メルセデス ベンツ レンクンゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングより特許異議の申立てがなされ、平成16年8月3日付けの取消理由通知に対して、その指定期間内である平成16年10月8日に意見書が提出された後、平成17年3月16日付けの取消理由通知に対して、その指定期間内である平成17年5月24日に訂正請求がなされたものである。

【2】訂正の適否についての判断
(1)訂正の要旨
特許権者が求めている訂正の内容は、以下ア〜オのとおりである。
ア.訂正事項1
特許3463463号の特許登録時の明細書(以下、「本件明細書」という。)中の特許請求の範囲の請求項1の、
『同一の検出対象を複数のセンサで検出し、且つこれら複数のセンサの出力がそれぞれ前記検出対象の変化に応じてリニアに変化するシステムに適用され、前記複数のセンサの出力に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置において、』という記載を、
『同一の検出対象を複数のセンサで検出し、且つこれら複数のセンサの出力がそれぞれ前記検出対象の変化に応じてリニアに変化するシステムに適用され、前記複数のセンサの出力から算出した開度の開度偏差に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置において、』に訂正する。
イ.訂正事項2
本件明細書中の特許請求の範囲の請求項1の、
『前記複数のセンサを共通のグランドに接続すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と少なくとも1つのセンサの出力特性の最大値側にそれぞれオフセットを設けたことを特徴とする』という記載を、
『前記複数のセンサを共通のグランドに接続すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と少なくとも1つのセンサの出力特性の最大値側にそれぞれオフセットを設けることによりそれぞれのセンサ出力特性の傾きを異ならせたことを特徴とする』に訂正する。
ウ.訂正事項3
本件明細書中の特許請求の範囲の請求項5の、
『同一の検出対象を複数のセンサで検出し、且つこれら複数のセンサの出力がそれぞれ前記検出対象の変化に応じてリニアに変化するシステムに適用され、前記複数のセンサの出力に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置において、』という記載を、
『同一の検出対象を複数のセンサで検出し、且つこれら複数のセンサの出力がそれぞれ前記検出対象の変化に応じてリニアに変化するシステムに適用され、前記複数のセンサの出力から算出した開度の開度偏差に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置において、』に訂正する。
エ.訂正事項4
訂正事項1に伴い、本件明細書の段落【0007】の、
『【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の請求項1のセンサの異常診断装置は、同一の検出対象を検出する複数のセンサの出力がそれぞれ該検出対象の変化に応じてリニアに変化するものにおいて、』という記載を、
『【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の請求項1のセンサの異常診断装置は、同一の検出対象を検出する複数のセンサの出力がそれぞれ該検出対象の変化に応じてリニアに変化するシステムに適用され、複数のセンサの出力から算出した開度の開度偏差に基づいて当該センサの異常を診断するものにおいて、』に訂正する。
オ.訂正事項5
訂正事項2に伴い、本件明細書の段落【0007】の、
『これら複数のセンサを共通のグランドに接続すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と少なくとも1つのセンサの出力特性の最大値側にそれぞれオフセットを設ける。』という記載を、
『これら複数のセンサを共通のグランドに接続すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と少なくとも1つのセンサの出力特性の最大値側にそれぞれオフセットを設けることによりそれぞれのセンサ出力特性の傾きを異ならせる。』に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否
ア.訂正事項1、3
訂正事項1、3は、センサの異常を診断することに関して、複数のセンサ出力から算出した開度の開度偏差に基づいて行うことを限定したものであり、しかも、算出した開度の開度偏差に基づいてセンサの異常を診断することについては、本件明細書の段落【0031】、【0035】に記載されているから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、かつ、新規事項の追加に該当しない。
イ.訂正事項2
訂正事項2は、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と少なくとも1つのセンサの出力特性の最大値側にそれぞれオフセットを設けることに関して、それによりそれぞれのセンサ出力特性の傾きを異ならせることを限定したものであり、しかも、
それぞれのセンサ出力特性の傾きを異ならせることについては、本件明細書の段落【0007】に記載されているから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、かつ、新規事項の追加に該当しない。
ウ.訂正事項4
訂正事項4は、上記訂正事項1に伴って、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、かつ、新規事項の追加に該当しない。
エ.訂正事項5
訂正事項5は、上記訂正事項2に伴って、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、かつ、新規事項の追加に該当しない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、平成15年改正前の特許法第120条の4第2項及び同第3項で準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

【3】本件発明
上述したように、訂正請求による訂正が認められたので、本件特許第3463463号の請求項1〜8に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明8」という。)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される下記のとおりのものと認める。
「【請求項1】 同一の検出対象を複数のセンサで検出し、且つこれら複数のセンサの出力がそれぞれ前記検出対象の変化に応じてリニアに変化するシステムに適用され、前記複数のセンサの出力から算出した開度の開度偏差に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置において、
前記複数のセンサを共通のグランドに接続すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と少なくとも1つのセンサの出力特性の最大値側にそれぞれオフセットを設けることによりそれぞれのセンサ出力特性の傾きを異ならせたことを特徴とするセンサの異常診断装置。
【請求項2】 同じセンサの出力特性の最小値側と最大値側の双方にオフセットを設けたことを特徴とする請求項1に記載のセンサの異常診断装置。
【請求項3】 前記オフセットは、少なくとも1つのセンサと前記グランドとの間に抵抗素子を接続し、少なくとも1つのセンサと電源との間に抵抗素子を接続することで設けられていることを特徴とする請求項1に記載のセンサの異常診断装置。
【請求項4】 前記オフセットは、同じセンサのグランド側と電源側の双方に抵抗素子を接続することで設けられていることを特徴とする請求項2に記載のセンサの異常診断装置。
【請求項5】 同一の検出対象を複数のセンサで検出し、且つこれら複数のセンサの出力がそれぞれ前記検出対象の変化に応じてリニアに変化するシステムに適用され、前記複数のセンサの出力から算出した開度の開度偏差に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置において、
前記複数のセンサの出力特性を互いに逆特性とするように設定すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と最大値側の少なくとも一方にオフセットを設けたことを特徴とするセンサの異常診断装置。
【請求項6】 前記オフセットは、少なくとも1つのセンサのグランド側と電源側との少なくとも一方に抵抗素子を接続することで設けられていることを特徴とする請求項5に記載のセンサの異常診断装置。
【請求項7】 前記複数のセンサは、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ又はスロットル開度を検出するスロットル開度センサであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のセンサの異常診断装置。
【請求項8】 前記センサの異常診断に用いる異常判定しきい値は、前記複数のセンサの出力のうちの最小値に応じて設定されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のセンサの異常診断装置。」

【4】特許異議申立及び取消理由の概要
特許異議申立人 メルセデス ベンツ レンクンゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングは、証拠として、以下の甲号各証を提出し、本件発明1〜8は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。
また、当審が通知した取消理由の概要は、本件発明1〜8は、刊行物1〜4(甲第1〜4号証と同じ)、及び刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件発明1〜8は、具体的な構成が不明確であり、かつ、発明の詳細な説明と十分に対応していないから、特許法第36条第6項の規定により特許を受けることができないものであるというものである。

【5】引用刊行物記載の発明
(1)刊行物1記載の発明
刊行物1(「甲第1号証」と同じ。)には、「上記ポテンショメータが故障したときの、フェールセーフを確立するために、ポテンショメータは2個備え、1個の信号はメインの信号として制御に使い、他方の信号はサブとして上記メインの信号との比較信号に使い、メイン-サブ間の誤差が所定値以上になれば、コントロールユニットはポテンショメータの異常と判断して、フェールセーフ作動し、モータ、電磁クラッチ、フェールセーフリレーをOFFするのが一般的であった。」(第1頁右欄第15行〜第2頁左上欄第3行)と記載されている。
また、図2、図3より、トルクのポテンショメータ3d、3eはグランドに接続されているとともに、トルクのポテンショメータ3d、3eは操舵トルクに応じて出力電圧がリニアに変化することが示されている。
よって、刊行物1には、「同一の検出対象を複数のセンサで検出し、且つこれら複数のセンサの出力がそれぞれ前記検出対象の変化に応じてリニアに変化するシステムに適用され、前記複数のセンサの信号の誤差に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置において、前記複数のセンサをグランドに接続する異常診断装置。」の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2記載の発明
刊行物2(「甲第2号証」と同じ。)には、「Fig.7 shows an electrical diagram of the circuitry used to process the signals from the position sensor 25. The gear or Genva system G generally represents the position sensor 25 described in FIGS.1-6 wherein the degree of rotation of the shaft is determind from the electrical outputs from wiper 12 and wiper 14,which are considered together as the position potentiometer 90,(図7は位置センサ25からの信号を処理するために使用される電気回路図を示している。ギアもしくはジェネブァシステムGは一般的に図1-6における位置センサ25を表している。軸の回転度はワイパ12と14からの電気出力により決定される。これらは一緒になってポテンショメータ位置90となる。)」(明細書第7欄第60〜67行)と記載されている。
また、FIG.6及びFIG.7より、2つのワイパはリニアに変化するとともに、2つのワイパは共通のグランドに接続されていることが示されている。
よって、刊行物2には、「軸の回転度を複数のワイパで検出する回転検出装置において、複数のワイパの出力がそれぞれ前記検出対象の変化に応じてリニアに変化し、複数のワイパを共通のグランドに接続した回転検出装置。」の発明(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)刊行物3記載の発明
刊行物3(「甲第3号証」と同じ。)には、「In Bild 2 ist dargestellt, wie man mit eifachen Mitteln eine Grenzwertuberprufung vonehmen kann.Fur einen gultigen Funktionswert ist nur ein Band zwischen den Extremwerten zuelassen. Bei entsprechender Beschaltung konnen so Kurzschlub gegen Masse, Kurzschlub gegen Betriebsspannung sowie Unterbrechung festgestellt werden.(図2に、簡単な手段を用いていかに限界値の検査を行うことができるかが示されている。極値(オフセット値)間に有効な関数値に対する1つの許容帯域が生ずる。そのため、相応の回路では、アースに対する短絡、動作電圧および遮断に対する短絡が検出される。) 」(第389頁第20〜24行)と記載されている。
よって、刊行物3には、「センサの両端にオフセットを設けて、センサの短絡を診断する車両用オンボード診断装置。」の発明(以下、「刊行物3記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

(4)刊行物4記載の発明
刊行物4(「甲第4号証」と同じ。)には、「もし入力軸42がピニオン歯車46に対して回転されて線形ホール効果センサ98を磁石112に対して近付くように運動することになる。このように、捻りセンサA、Bからの出力信号は、入力軸42とピニオン歯車46間に相対的な回転運動が生じる時、左右対称となるように等しいが反対の量だけ変化することになる。これらの電圧は、操舵の方向およびトルクを示す信号を生じるため用いられる。」(第6頁右欄第26〜34行)と記載されている。
よって、刊行物4には、「複数の線形ホール効果センサの出力特性を互いに逆特性とするように設定して捻りを検出した操舵組立体。」の発明(以下、「刊行物4記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

(5)刊行物5記載の発明
刊行物5には、「少なくとも1つの検出装置が内燃機関あるいは自動車の運転パラメータを示す信号を発生し、その信号が内燃機関の制御装置あるいは検出装置の機能が正常か否かをチェックする装置に供給され、前記機能のチェックが少なくとも1つの信号値を処理することにより行われる自動車の内燃機関の電子制御方法において、前記検出装置は、運転パラメータが変化したとき信号値が互いに逆方向に変化する少なくとも2つの信号値を発生する構成を採用している。」(第3頁第3欄段落【0007】)、「図1に示すものは、自動車の内燃機関の出力を設定する不図示の部材(出力設定部材)、例えば絞り弁あるいはコントルールラックのような出力アクチュエータの位置あるいは電子アクセルペダル装置のアクセルペダルなどの位置を検出する検出装置10であってセンサP1とP2が設けられている。」(第3頁第4欄段落【0014】)、「ステツプ114において個々の故障が存在しないことが検出された場合には、センサが発生した位置の値の差の大きさと所定のしきい値をステツプ118において比較することによつて、検出装置10全体の機能が正常であるかどうかをチエツクする。差の大きさが所定のしきい値より小さい場合には、ステツプ120において検出装置の機能が正常であることを確認して、通常走行としての装置の機能を続行する。しかしステツプ118によつて差が所定のしきい値を越えた場合には、ステツプ122において検出装置の故障を示すフラグをセツトして、非常走行を導入する。」(第5頁第7欄段落【0028】と記載されている。
よって、刊行物5には、「同一の検出対象を複数のセンサで検出し、且つこれら複数のセンサの出力がそれぞれ前記検出対象の変化に応じて変化するシステムに適用され、前記複数のセンサの出力から算出した開度の開度偏差に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置において、前記複数のセンサの出力特性を互いに逆特性とするように設定した内燃機関の電子制御装置。」の発明(以下、「刊行物5記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

【6】当審の判断
<本件発明1〜4について>
そこで、 本件発明1〜4と刊行物1記載の発明とを対比すると、本件発明1〜4は、複数のセンサの出力から算出した開度の開度偏差に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置において、前記複数のセンサを共通のグランドに接続すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と少なくとも1つのセンサの出力特性の最大値側にそれぞれオフセットを設けることによりそれぞれのセンサ出力特性の傾きを異ならせたものであるが、刊行物1記載の発明は、複数のセンサの出力から算出した信号に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置するものであり、オフセットに関する構成はない。同様に、刊行物2、4、5記載の発明にも、オフセットに関する構成はない。
また、刊行物3記載の発明には、センサの両端にオフセットを設けるという構成を有しているが、オフセットを設けることによりそれぞれのセンサ出力特性の傾きを異ならせたという構成はない。
それゆえ、刊行物1〜5記載の発明は、いずれも、本件発明1〜4の発明を特定するための必要事項である「少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と少なくとも1つのセンサの出力特性の最大値側にそれぞれオフセットを設けることによりそれぞれのセンサ出力特性の傾きを異ならせた」点を備えていない。
そして、本件発明1〜4は、当該事項を備えることにより、本件明細書記載の「両アクセルセンサ(1),(2)の開度偏差はグランド電位GNDに浮きが発生すると変化し、それによってグランド電位GNDの浮きをセンサ異常として検出することができる。」(特許公報第6頁第11欄第5〜8行参照)という顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1〜4は、刊行物1〜5記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

<本件発明5〜8について>
そこで、 本件発明5〜8と刊行物5記載の発明とを対比すると、本件発明5〜8は、複数のセンサの出力特性を互いに逆特性とするように設定すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と最大値側の少なくとも一方にオフセットを設けたものであるが、刊行物5記載の発明は、複数のセンサの出力特性を互いに逆特性とするように設定するものであるが、センサの出力特性の最小値側と最大値側の少なくとも一方にオフセットを設けるという構成はない。同様に、刊行物1、2、4記載の発明にも、オフセットに関する構成はない。
また、刊行物3記載の発明には、センサの両端にオフセットを設けるという構成を有しているが、そのオフセットは一つのセンサの短絡を診断するものである。
それゆえ、刊行物1〜5記載の発明は、いずれも、本件発明5〜8の発明を特定するための必要事項である「複数のセンサの出力特性を互いに逆特性とするように設定すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と最大値側の少なくとも一方にオフセットを設けた」点を備えていない。
そして、本件発明5〜8は、当該事項を備えることにより、本件明細書記載の「両アクセルセンサ(1),(2)の開度偏差はグランド電位GNDに浮きが発生すると変化し、それによってグランド電位GNDの浮きをセンサ異常として検出することができる。」(特許公報第6頁第12欄第14〜17行参照。)、「アクセルセンサ(2)の出力特性にオフセット(抵抗素子53,54)を設ければ、そのオフセット量を調整することで、アクセルセンサ(2)の全閉時の出力値を基準点に補正することができる。しかも、このオフセットをアクセルセンサ(2)の出力特性の最小値側と最大値側の双方に設ければ、アクセルセンサ(2)の出力特性の傾きを変えずにオフセット量を調整することができる。」(特許公報第6頁第12欄第37〜41行参照。)という顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明5〜8は、刊行物1〜5記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本件発明1〜8は、上記訂正事項1〜5の訂正により明確となったから、特許法第36条第6項の要件を満たすものである。

【7】むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する理由及び証拠方法によって、本件発明1〜8の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜8の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
センサの異常診断装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】同一の検出対象を複数のセンサで検出し、且つこれら複数のセンサの出力がそれぞれ前記検出対象の変化に応じてリニアに変化するシステムに適用され、前記複数のセンサの出力から算出した開度の開度偏差に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置において、
前記複数のセンサを共通のグランドに接続すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と少なくとも1つのセンサの出力特性の最大値側にそれぞれオフセットを設けることによりそれぞれのセンサ出力特性の傾きを異ならせたことを特徴とするセンサの異常診断装置。
【請求項2】同じセンサの出力特性の最小値側と最大値側の双方にオフセットを設けたことを特徴とする請求項1に記載のセンサの異常診断装置。
【請求項3】前記オフセットは、少なくとも1つのセンサと前記グランドとの間に抵抗素子を接続し、少なくとも1つのセンサと電源との間に抵抗素子を接続することで設けられていることを特徴とする請求項1に記載のセンサの異常診断装置。
【請求項4】前記オフセットは、同じセンサのグランド側と電源側の双方に抵抗素子を接続することで設けられていることを特徴とする請求項2に記載のセンサの異常診断装置。
【請求項5】同一の検出対象を複数のセンサで検出し、且つこれら複数のセンサの出力がそれぞれ前記検出対象の変化に応じてリニアに変化するシステムに適用され、前記複数のセンサの出力から算出した開度の開度偏差に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置において、
前記複数のセンサの出力特性を互いに逆特性とするように設定すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と最大値側の少なくとも一方にオフセットを設けたことを特徴とするセンサの異常診断装置。
【請求項6】前記オフセットは、少なくとも1つのセンサのグランド側と電源側との少なくとも一方に抵抗素子を接続することで設けられていることを特徴とする請求項5に記載のセンサの異常診断装置。
【請求項7】前記複数のセンサは、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ又はスロットル開度を検出するスロットル開度センサであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のセンサの異常診断装置。
【請求項8】前記センサの異常診断に用いる異常判定しきい値は、前記複数のセンサの出力のうちの最小値に応じて設定されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のセンサの異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
本発明は、同一の検出対象を検出する複数のセンサの出力に基づいて当該センサの異常を診断するセンサの異常診断装置に関するものである。
【従来の技術】
例えば、内燃機関のスロットル開度をセンサで検出する場合、(1)特開昭63-71552号公報に示すように、2つのセンサ(ポテンショメータ)を設け、そのセンサの出力特性の傾きを異ならせると共に、2つのセンサの出力の変化率をそれぞれ所定の異常判定しきい値と比較してセンサの異常を診断するようにしたものがある。また、(2)特開昭60-4838号公報のセンサ異常判別方法においても、傾きの異なる出力特性に設定された2つのセンサを用いて同一の検出対象(吸気圧)を検出し、各センサの出力をそれぞれ所定値と比較してセンサの異常を診断するようにしている。
この他、(3)特開平4-214949号公報では、同一の検出対象を検出する2つのセンサの出力特性を互いに逆特性(つまり2つのセンサの出力変化の増減が逆になる特性)に設定し、各センサの出力をそれぞれ許容値と比較して個々のセンサの異常をチェックし、更に、2つのセンサの出力の差を所定の異常判定しきい値と比較して、センサシステム全体の異常をチェックするようにしている。
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記(1),(2)において、センサ回路の簡素化を狙って、2つのセンサを共通のグランドに接続すると、グランドに浮き(抵抗がのること)が発生しても、2つのセンサの出力が同じように変化してしまうため、異常の検出が困難である。しかも、センサの基準点補正(例えばスロットル開度センサではスロットル全閉時の出力電圧を基準電圧に設定する補正)は、一方のセンサのみについて行うのみであり、他方のセンサについては基準点補正を行うことが困難であった。このため、他方のセンサは、基準点の誤差を含んだまま使用されることになり、これが検出精度を低下させる原因となっていた。
一方、上記(3)は、2つのセンサの出力特性を互いに逆特性に設定しているので、グランドの浮きが発生すれば、2つのセンサの出力の差が変化し、異常を検出することが可能である。しかし、この(3)でも、上記(1),(2)と同じく、一方のセンサしか基準点補正を行うことができず、他方のセンサは、基準点の誤差を含んだまま使用せざるを得なかった。
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、従ってその目的は、グランド電位の異常を検出することができると共に、同一の検出対象を検出する複数のセンサの基準点補正を全て行うことができて、検出精度を向上することができるセンサの異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1のセンサの異常診断装置は、同一の検出対象を検出する複数のセンサの出力がそれぞれ該検出対象の変化に応じてリニアに変化するシステムに適用され、複数のセンサの出力から算出した開度の開度偏差に基づいて当該センサの異常を診断するものにおいて、これら複数のセンサを共通のグランドに接続すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と少なくとも1つのセンサの出力特性の最大値側にそれぞれオフセットを設けることによりそれぞれのセンサ出力特性の傾きを異ならせる。これにより、複数のセンサの出力特性の傾きを異ならせて、グランド電位の異常を検出することができる。更に、センサの出力特性の最小値側と最大値側に設けたオフセットを調整することで、センサの基準点補正を行うことができ、基準点の誤差を排除できて、検出精度を向上することができる。
この場合、例えば、一方のセンサの出力特性の最小値側にオフセットを設け、他方のセンサの出力特性の最大値側にオフセットを設けても良いが、請求項2のように、同じセンサの出力特性の最小値側と最大値側の双方にオフセットを設けることが好ましい。このようにすれば、同じセンサの出力特性の最小値側と最大値側の双方のオフセットを調整することで、当該センサの出力特性の傾きを変えずに調整することができる。これにより、センサの出力特性の傾きが変わることによるセンサ検出値のずれを回避することができ、検出精度を良好に維持することができる。
更に、請求項3のように、前記オフセットを設けるために、少なくとも1つのセンサとグランドとの間に抵抗素子を接続し、少なくとも1つのセンサと電源との間に抵抗素子を接続するようにすれば良い。このようにすれば、極めて安価な抵抗素子を用いて、極めて簡単にオフセットを設けることができると共に、抵抗値の異なる抵抗素子に付け替えることで、オフセット量の調整も極めて容易である。
この場合も、請求項4のように、同じセンサのグランド側と電源側の双方に抵抗素子を接続することで、同じセンサの出力特性の最小値側と最大値側の双方にオフセットを設けることが好ましい。これにより、前述した請求項3と同じく、センサの出力特性の傾きを変えずに調整することができる。
一方、請求項5のように、複数のセンサの出力特性を互いに逆特性とするように設定すると共に、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と最大値側の少なくとも一方にオフセットを設ける構成としても良い。この場合、複数のセンサの出力特性を互いに逆特性とすることで、グランド電位の浮きが発生すれば、その異常を検出することができる。従って、オフセットは、少なくとも1つのセンサの出力特性の最小値側と最大値側の少なくとも一方に設ければ良く、このオフセットの調整により、センサの基準点補正を行うことができる。
この場合も、請求項6のように、前記オフセットを設けるために、少なくとも1つのセンサのグランド側と電源側との少なくとも一方に接続すれば良い。このようにすれば、極めて安価な抵抗素子を用いて、極めて簡単にオフセットを設けることができる。
また、本発明のセンサの異常診断装置は、センサを用いるシステムのフェールセーフ、信頼性が要求される種々のシステムに適用可能であるが、請求項7のように、本発明を、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ又はスロットル開度を検出するスロットル開度センサを有するスロットル制御システムに適用すれば、スロットル制御システムの信頼性を向上できる。
また、請求項8のように、前記センサの異常診断に用いる異常判定しきい値は、前記複数のセンサの出力のうちの最小値に応じて設定することが好ましい。このようにすれば、異常診断精度を向上させることができる。
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態(1)を図1乃至図11に基づいて説明する。まず、図1に基づいて内燃機関11の制御システム全体の概略構成を説明する。内燃機関11の吸気管12の上流側にはエアクリーナ13が装着され、その下流側に吸気量Gaを測定するエアフローメータ14が設置され、更にその下流側にスロットルバルブ15が設けられている。このスロットルバルブ15の回転軸にはDCモータ17が連結され、DCモータ17の駆動力によってスロットルバルブ15の開度(スロットル開度)が制御され、このスロットル開度がスロットルセンサ18によって検出される。
スロットルバルブ15を通過した吸入空気を内燃機関11の各気筒に導入する吸気マニホールド19には、インジェクタ20が取り付けられ、また、内燃機関11の各気筒のシリンダヘッドには点火プラグ21が取り付けられている。内燃機関11のクランク軸22に嵌着されたシグナルロータ23の外周に対向してクランク角センサ24が取り付けられ、このクランク角センサ24から出力されるパルス状の機関回転数信号Neが電子制御ユニット(以下「ECU」と略称する)25に取り込まれ、機関回転数信号Neのパルス間隔によって機関回転数が検出される。
一方、アクセルペダル26の踏込量(アクセル開度Ap)が後述する2トラック式のアクセルセンサ27によって検出され、アクセル開度Apに応じた電圧信号がECU25にA/D変換器28を介して取り込まれる。エアフローメータ14で検出した吸気量Gaやスロットルセンサ18で検出したスロットル開度TAの各電圧信号も、ECU25にA/D変換器28を介して取り込まれる。
このECU25は、CPU29、ROM30、RAM31等を備えたマイクロコンピュータを主体として構成され、ROM30に格納されている内燃機関制御用の各種プログラムをCPU29で実行することで、点火プラグ21の点火時期を制御すると共に、インジェクタ駆動回路45を介してインジェクタ20に与える噴射パルスを制御し、燃料噴射量を制御する。更に、このECU25には、DCモータリレー駆動回路46とD/A変換回路47とが設けられている。このD/A変換回路47は、CPU29によって演算されたスロットル開度の指令値TTPをD/A変換してDCモータ駆動回路48に出力するための回路である。
また、DCモータ駆動回路48は、PID制御回路49、PWM(パルス幅変調)回路50及びドライバ51から構成されている。ここで、PID制御回路49は、D/A変換回路47でD/A変換されたスロットル開度指令値TTPと、スロットルセンサ18で検出されたスロットル開度TAとの偏差を縮小すべく、比例(P)・積分(I)・微分(D)の各処理を実行して、DCモータ17の駆動量(制御量)を演算する回路である。このPID制御回路49から出力される駆動量の信号が、PWM回路50でデューティ信号に変換され、ドライバ51を介してDCモータ17に印加される。
一方、DCモータリレー駆動回路46は、CPU29から出力されるON(オン)/OFF(オフ)指令に基づいてDCモータリレー52をON/OFFするための回路である。このDCモータリレー52がONされると、DCモータ17によるスロットルバルブ15の制御が可能な状態になり、DCモータリレー52がOFFされると、例えば退避走行等、アクセル操作に半メカニカルに対応したスロットルバルブ15の操作が可能な状態になる。
次に、図2に基づいて電子スロットルシステムの構成を説明する。アクセルペダル26は、ワイヤ33を介してアクセルレバー34に連結されている。このアクセルレバー34は、アクセルリターンスプリング35,36によって図示下方(アクセル閉鎖方向)に付勢されている。そして、アクセルペダル26を操作しない状態(アクセルOFF)では、アクセルレバー34はアクセルリターンスプリング35,36によってアクセル全閉ストッパ37に当接した状態に保持される。機関運転中は、アクセルレバー34の位置がアクセルセンサ27によってアクセル操作量Apとして検出される。
一方、スロットルバルブ15の回動軸にはバルブレバー38が連結され、このバルブレバー38が退避走行用スプリング39によって図示上方(スロットルバルブ15の開放方向)に付勢されている。DCモータリレー52がOFFされ、DCモータ17が断電されているときには、退避走行用スプリング39によってバルブレバー38が中間レバー40に当接した状態に保持される。この中間レバー40は、バルブリターンスプリング41によって図示下方(スロットルバルブ15の閉鎖方向)に付勢されている。
このバルブリターンスプリング41の引張力は退避走行用スプリング39の引張力よりも大きく設定されている。従って、DCモータリレー52がOFFされているときには、バルブリターンスプリング41の引張力が退避走行用スプリング39の引張力に打ち勝って、中間レバー40が中間ストッパ42に当接した状態に保持され、それによって、スロットルバルブ15の開度が中間ストッパ42で規制される開度(約3deg)に保持される。
一方、DCモータリレー52がONされているときには、アクセルペダル26の操作に応じてDCモータ17を正転又は逆転させてスロットルバルブ15の開度を調整し、そのときのスロットルバルブ15の開度(スロットル開度)TAがスロットルセンサ18によって検出される。この際、スロットル開度TAを開く場合には、DCモータ17を正回転させて、バルブレバー38がバルブリターンスプリング41の引張力に抗して中間レバー40を押し上げながらスロットルバルブ15の開度を開く方向に駆動する。これとは逆に、スロットル開度TAを閉じる場合には、DCモータ17を逆回転させてバルブレバー38を下降させながらスロットルバルブ15を閉じる方向に駆動し、スロットルバルブ15を全閉ストッパ位置(スロットル開度=0deg)まで閉じたときにバルブレバー38がスロットル全閉ストッパ43に突き当たって、それ以上の回動が阻止される。
次に、図3に基づいてアクセルセンサ27の構成とその周辺回路の構成を説明する。アクセルセンサ27は、第1及び第2のアクセルセンサ<1>,<2>から成る2トラック式のセンサであり、各アクセルセンサ<1>,<2>は、例えば接触式ポテンショメータ、又は、ホール素子を用いた非接触式ポテンショメータで構成されている(但し図3の回路例では接触式ポテンショメータが図示されている)。各アクセルセンサ<1>,<2>の出力は、ECU25内に設けられたローパスフィルタ55を介してA/D変換器27に入力され、CPU29に読み込まれる。図4及び図11に示すように、各アクセルセンサ<1>,<2>の出力は、検出対象であるアクセル開度の変化に応じてリニアに変化する。
ここで、第1のアクセルセンサ<1>は、ECU25の電源Vc端子とグランドGND端子との間に接続され、電源Vc端子にはECU25内の5V電源56から+5Vの直流電圧が印加される。一方、第2のアクセルセンサ<2>の電源Vc側は、オフセット用の抵抗素子53を介してECU25の電源Vc端子に接続され、該第2のアクセルセンサ<2>のグランドGND側は、オフセット用の抵抗素子54を介してECU25のグランドGND端子と接続されている。従って、第1及び第2のアクセルセンサ<1>,<2>は、電源Vc端子とグランドGND端子との双方が共通となっている。
この場合、第2のアクセルセンサ<2>の電源Vc側にオフセット用の抵抗素子53を接続することで、図4に示すように、第1のアクセルセンサ<1>の出力特性に対して、第2のアクセルセンサ<2>の出力特性の最大値側をオフセットさせ、更に、第2のアクセルセンサ<2>のグランドGND側に抵抗素子54を接続することで、第2のアクセルセンサ<2>の出力特性の最小値側をオフセットさせる。各オフセット量は、各抵抗素子53,54の抵抗値が大きくなるほど、大きくなる。従って、後述する第2のアクセルセンサ<2>の基準点補正は、各抵抗素子53,54を抵抗値の異なるものに付け替えれば良い。
アクセルセンサ<1>,<2>の制御に関する処理は、図5に示すアクセルセンサ制御ルーチンによって、ECU25が所定時間毎又は所定クランク角度毎に繰り返し実行する。本ルーチンの処理が開始されると、まずステップ101で、イニシャル処理として例えばRAM31の初期値のミラーチェックや、フラグ等の初期化を実行する。
この後、ステップ102で、第1及び第2のアクセルセンサ<1>,<2>の出力をA/D変換器27でA/D変換した値を読み込み、次のステップ103で、各アクセルセンサ<1>,<2>の全閉位置を学習する。この全閉位置の学習は、アクセルペダル26が全く踏み込まれていない状態、つまりアクセルレバー34がアクセル全閉ストッパ37に当接した状態となっているときに各アクセルセンサ<1>,<2>の出力値(最小値)を読み込んで、その出力値を全閉位置として学習し、その学習値をECU25のバックアップRAM(図示せず)内に格納する。
そして、次のステップ104で、各アクセルセンサ<1>,<2>の出力値(A/D変換値)からそれぞれアクセル開度を演算する処理を行う。具体的には、各アクセルセンサ<1>,<2>の出力値から全閉位置学習値を差し引いた実開度電圧値を求め、図4のアクセルセンサ出力電圧-アクセル開度変換テーブルを用いて、各アクセルセンサ<1>,<2>毎に上記実開度電圧値に応じたアクセル開度を算出する。
この後、ステップ105で、図7に示すように、第1のアクセルセンサ<1>の出力値から算出したアクセル開度と、第2のアクセルセンサ<2>の出力値から算出したアクセル開度とを比較し、小さい方を最終的にアクセル開度として選択する。この後、ステップ106で、アクセルセンサ<1>,<2>の異常の有無を診断する処理を実行する。
この異常診断処理は、図6に示すアクセルセンサ異常診断ルーチンによって次のように実行される。まず、ステップ201,202で、第1及び第2のアクセルセンサ<1>,<2>の全閉位置学習が終了したか否かを判定し、いずれか一方でも全閉位置学習が終了していなければ、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。一方、第1及び第2のアクセルセンサ<1>,<2>の双方の全閉位置学習が終了していれば、ステップ203に進み、異常診断禁止中であるか否か(例えばバッテリ電圧が低いか否か)を判定し、異常診断禁止中である場合にも、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
従って、両アクセルセンサ<1>,<2>の全閉位置学習が終了し、且つ異常診断禁止中でない場合にのみ、ステップ204以降の処理に進み、次のようにして異常診断を実行する。まず、ステップ204で、第1のアクセルセンサ<1>の出力値から算出したアクセル開度と、第2のアクセルセンサ<2>の出力値から算出したアクセル開度との偏差を算出し、この開度偏差を次のステップ205で異常判定しきい値と比較する。ここで、異常判定しきい値は、図8に示すようにアクセル開度をパラメータとする関数やマップで設定されている。更に、この異常判定しきい値を求めるアクセル開度は、両アクセルセンサ<1>,<2>の出力値から算出した2つのアクセル開度のうちの小さい方が選択される。これは、図5のステップ105で最終的に選択されるアクセル開度が小さい方であるため、それに合わせて異常判定しきい値を設定することで、異常診断精度を向上させるものである。
尚、異常判定しきい値は、アクセル開度をパラメータとする関数・マップに代えて、エンジントルクをパラメータとする関数・マップで算出するようにしても良い。この場合、エンジントルクは、エンジン回転数とエンジン負荷とをパラメータとする関数・マップを用いて算出することができる。
上記ステップ205で、両アクセルセンサ<1>,<2>の開度偏差が異常判定しきい値以上であると判定された場合には、ステップ206に進み、この状態が連続して所定時間経過したか否かを判定し、所定時間経過していなければ、センサ異常とは判定せずに本ルーチンを終了する。従って、開度偏差が異常判定しきい値以上である状態が連続して所定時間経過した場合に限り、ステップ206からステップ207に進み、最終的にセンサ異常と判定し、続くステップ208で、退避走行等のフェールセーフを実行した後、ステップ209で、警告ランプ(図示せず)を点灯させて、運転者にセンサ異常を知らせる。
一方、上記ステップ205で、開度偏差が異常判定しきい値よりも低いと判定された場合には、ステップ210に進み、この状態が連続して所定時間経過したか否かを判定し、所定時間経過していれば、両アクセルセンサ<1>,<2>が正常と判定し(ステップ211)、所定時間経過前であれば、その段階では、センサ正常と判定せずに、本ルーチンを終了する。
本ルーチンでは、両アクセルセンサ<1>,<2>の開度偏差(出力値の差)を異常判定しきい値と比較して異常診断するようにしたが、両アクセルセンサ<1>,<2>の変化率の差を所定値と比較して異常診断するようにしても良い。
次に、アクセルセンサ<2>の出力特性の最小値側と最大値側との双方にオフセットを持たせたことの効果を説明する。
図9は、アクセルセンサ<2>の最小値側のみにオフセットを設けた従来例(1)である。この出力特性において、2つのアクセルセンサ<1>,<2>の共通のグランドGNDに浮き(抵抗がのること)が発生すると、図9に点線で示すように、両アクセルセンサ<1>,<2>の出力特性の傾きが変化する。このときの両アクセルセンサ<1>,<2>の出力変化量V1,V2をアクセル開度に換算すると、双方が同じアクセル開度Aとなってしまう。従って、第1のアクセルセンサ<1>で検出したアクセル開度と、第2のアクセルセンサ<2>で検出したアクセル開度との偏差(この開度偏差を図6のステップ205で異常判定しきい値と比較して異常診断する)は、グランドGNDに浮きが発生しても変化せず、グランドGNDの浮きをセンサ異常として検出することが不可能である。
一方、図10は、アクセルセンサ<2>の最大値側のみにオフセットを設けた従来例(2)である。この出力特性において、2つのアクセルセンサ<1>,<2>の共通の電源電圧Vcが上昇すると、図10に点線で示すように、両アクセルセンサ<1>,<2>の出力特性の傾きが最小出力値を基点にして変化する。このときの両アクセルセンサ<1>,<2>の出力変化量V1,V2をアクセル開度に換算すると、双方が同じアクセル開度Bとなってしまう。従って、両アクセルセンサ<1>,<2>の開度偏差は電源電圧Vcが変化しても変化せず、電源電圧Vcの異常な変動をセンサ異常として検出することができない。
これに対し、前述した実施形態(1)では、アクセルセンサ<2>の出力特性の最小値側と最大値側との双方にオフセットを持たせているので、図11(a)に示すように、2つのアクセルセンサ<1>,<2>の共通のグランドGNDに浮きが発生したときの両アクセルセンサ<1>,<2>の出力変化量V1,V2をアクセル開度に換算すると、双方のアクセル開度C,Dが異なる値となる。従って、両アクセルセンサ<1>,<2>の開度偏差はグランド電位GNDに浮きが発生すると変化し、それによってグランド電位GNDの浮きをセンサ異常として検出することができる。
また、図11(b)に示すように、2つのアクセルセンサ<1>,<2>の共通の電源電圧Vcが上昇したときの両アクセルセンサ<1>,<2>の出力変化量V1,V2をアクセル開度に換算すると、双方のアクセル開度C,Dが異なる値となる。従って両アクセルセンサ<1>,<2>の開度偏差は電源電圧Vcが変化すると変化し、それによって電源電圧Vcの異常な変動をセンサ異常として検出することができる。
前述したように、実施形態(1)では、第2のアクセルセンサ<2>の出力特性の最小値側と最大値側との双方にオフセットを持たせている。従って、第1のアクセルセンサ<1>の全閉時の出力値を全閉位置学習処理にて基準点に設定し、一方、第2のアクセルセンサ<2>については、出力特性の最小値側と最大値側のオフセット量(抵抗素子54,53の抵抗値)を調整することで、第2のアクセルセンサ<2>の全閉時の出力値を基準点に設定することができる。これにより、第2のアクセルセンサ<2>の出力値の誤差を従来よりも著しく小さくすることができて、全閉位置学習値のガードを小さくでき、誤学習による制御性低下を最小限に抑えることができる。
しかも、前記実施形態(1)では、第2のアクセルセンサ<2>の出力特性の最小値側と最大値側の双方に設けたオフセット(抵抗素子54,53の抵抗値)を調整することで、当該アクセルセンサ<2>の出力特性の傾きを変えずに調整することができる。これにより、アクセルセンサ<2>の出力特性の傾きが変わることによるセンサ検出値のずれを回避することができ、検出精度を良好に維持することができる。
但し、本発明は、この構成に限定されず、図12に示す実施形態(2)や図13に示す実施形態(3)のように、2つのアクセルセンサ<1>,<2>にオフセット(抵抗素子53,54)を1つずつ設けるようにしても良い。つまり、一方のアクセルセンサの出力特性の最大値側(電源Vc側)にオフセット(抵抗素子53)を設け、他方のアクセルセンサの出力特性の最小値側(グランドGND側)にオフセット(抵抗素子54)を設けても良い。或は、両アクセルセンサ<1>,<2>の双方の電源Vc側とグランドGND側に合計4個の抵抗素子を設けても良い。これらいずれの場合でも、本発明の所期の目的を達成することができる。
また、本発明は、図14及び図15に示す実施形態(4)のように、例えば第2のアクセルセンサ<2>の電源Vc側とグランドGND側の接続を逆にして、第1及び第2の両アクセルセンサ<1>,<2>の出力特性を互いに逆特性(つまり2つのアクセルセンサ<1>,<2>の出力変化の増減が逆になる特性)とするようにしても良い。この場合、第2のアクセルセンサ<2>の出力特性の最小値側と最大値側の双方にオフセット(抵抗素子53,54)が設けられている。
この構成において、2つのアクセルセンサ<1>,<2>の共通のグランドGNDに浮きが発生すると、図15(a)に点線で示すように両アクセルセンサ<1>,<2>の出力特性の傾きが変化する。このときの両アクセルセンサ<1>,<2>の出力変化量V1,V2をアクセル開度に換算すると、それぞれのアクセル開度C,D(但しC>D)が互いに逆方向に変化する。従って、両アクセルセンサ<1>,<2>の開度偏差はグランドGNDに浮きが発生すると変化し、それによってグランドGNDの浮きをセンサ異常として検出することができる。
また、図15(b)に示すように、2つのアクセルセンサ<1>,<2>の共通の電源電圧Vcが上昇したときの両アクセルセンサ<1>,<2>の出力変化量V1,V2をアクセル開度に換算すると、それぞれのアクセル開度C,D(但しC>D)が互いに逆方向に変化する。従って、両アクセルセンサ<1>,<2>の開度偏差は、電源電圧Vcが変化すると変化し、それによって電源電圧Vcの異常な変動をセンサ異常として検出することができる。
ところで、両アクセルセンサ<1>,<2>の出力特性を互いに逆特性にする場合には、上述したようにグランドGND浮き時や電源電圧変動時にアクセルセンサ<1>,<2>のアクセル開度が逆方向に変化するため、アクセルセンサ<2>の出力特性にオフセット(抵抗素子53,54)が無くても、グランドGND浮き時や電源電圧変動時に両アクセルセンサ<1>,<2>の開度偏差が変化し、センサ異常として検出することが可能である。しかし、アクセルセンサ<2>の出力特性に全くオフセットがない場合には、該アクセルセンサ<2>の全閉時の出力値を基準点に補正することができない。
この点、上記実施形態(4)のように、アクセルセンサ<2>の出力特性にオフセット(抵抗素子53,54)を設ければ、そのオフセット量を調整することで、アクセルセンサ<2>の全閉時の出力値を基準点に補正することができる。しかも、このオフセットをアクセルセンサ<2>の出力特性の最小値側と最大値側の双方に設ければ、アクセルセンサ<2>の出力特性の傾きを変えずにオフセット量を調整することができる。
しかしながら、両アクセルセンサ<1>,<2>の出力特性が逆特性の場合には、オフセットを1つのみとしても良く、この場合でも、本発明の所期の目的を達成することができる。また、出力特性の最小値側と最大値側の双方にオフセットを設ける場合、図12、図13の例と同じく、各アクセルセンサ<1>,<2>に1つずつオフセットを設けるようにしても良い。
尚、上記各実施形態は、本発明をアクセルセンサ<1>,<2>の異常診断に適用したものであるが、例えば、スロットルセンサや吸気管圧力センサ等の車載用のセンサの異常診断に適用しても良く、勿論、車載用のセンサに限定されず、信頼性の要求される種々のシステムに用いられる各種のセンサの異常診断に適用しても良い。
その他、本発明は、同一の検出対象を3個以上のセンサで検出するシステムにも適用して実施できる等、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態(1)を示すシステム全体の概略構成図
【図2】電子スロットルシステムの概略構成図
【図3】アクセルセンサの構成とその周辺回路の構成を示す回路図
【図4】アクセルセンサの出力特性を示す図
【図5】アクセルセンサ制御ルーチンの処理の流れを示すフローチャート
【図6】アクセルセンサ異常診断ルーチンの処理の流れを示すフローチャート
【図7】2つのアクセルセンサの出力値からアクセル開度を演算する手順を概念的に示す図
【図8】異常判定しきい値とアクセル開度との関係を示す図
【図9】従来のセンサ出力特性(1)を示す図
【図10】従来のセンサ出力特性(2)を示す図
【図11】実施形態(1)のセンサ出力特性を示し、(a)はGND浮き時の特性変化を説明する図、(b)は電源電圧上昇時の特性変化を説明する図
【図12】実施形態(2)におけるオフセット用の抵抗素子の接続例を示す回路図
【図13】実施形態(3)におけるオフセット用の抵抗素子の接続例を示す回路図
【図14】実施形態(4)における2つのアクセルセンサとオフセット用の抵抗素子の接続例を示す回路図
【図15】実施形態(4)のセンサ出力特性を示し、(a)はGND浮き時の特性変化を説明する図、(b)は電源電圧上昇時の特性変化を説明する図
【符号の説明】
11…内燃機関、12…吸気管、15…スロットルバルブ、17…DCモータ、18…スロットルセンサ、25…電子制御ユニット(ECU)、26…アクセルペダル、27…アクセルセンサ、34…アクセルレバー、35,36…アクセルリターンスプリング、37…アクセル全閉レバー、38…バルブレバー、39…退避走行用スプリング、40…中間レバー、41…バルブリターンスプリング、42…中間ストッパ、43…スロットル全閉ストッパ、53,54…抵抗素子、<1>,<2>…アクセルセンサ(センサ)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-06-07 
出願番号 特願平8-168066
審決分類 P 1 651・ 121- YA (F02D)
P 1 651・ 832- YA (F02D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 竹之内 秀明  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 清田 栄章
平城 俊雅
登録日 2003-08-22 
登録番号 特許第3463463号(P3463463)
権利者 株式会社デンソー
発明の名称 センサの異常診断装置  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 伊藤 高順  
代理人 伊藤 高順  
代理人 山崎 利臣  
代理人 加藤 大登  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 加藤 大登  
代理人 久野 琢也  

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