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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01G
管理番号 1122873
異議申立番号 異議2003-70789  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-04-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-24 
確定日 2005-06-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3328477号「コンデンサ」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3328477号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3328477号の請求項1ないし3に係る発明の手続きの経緯は、以下のとおりである。
出願(特願平7-260130号) 平成7年10月6日
設定登録 平成14年7月12日
特許異議の申立て 平成15年3月24日
(株式会社指月電機製作所)
取消理由通知 平成15年6月6日(起案日)
意見書、訂正請求書(後日、取り下げ)平成15年8月6日
取消理由通知 平成17年5月16日(起案日)
意見書、訂正請求書 平成17年5月24日


2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている、平成17年5月24日付け訂正請求書に添付された訂正明細書における訂正の内容は以下のとおりである。

訂正事項a.特許第3328477号の明細書中の特許請求の範囲において、
「【請求項1】 プラスチックフィルム上に電極となる蒸着膜を形成した金属化フィルムを2枚重ねて巻回したコンデンサであって、
前記金属化フィルムは、前記プラスチックフィルム上にアルミニウム蒸着膜を形成し、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の前記アルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成すると共に、前記アルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とし、前記亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□としたことを特徴とするコンデンサ。」を、
「【請求項1】 プラスチックフィルム上に電極となる蒸着膜を形成した金属化フィルムを2枚重ねて巻回したコンデンサであって、
前記金属化フィルムは、前記プラスチックフィルム上にアルミニウム蒸着膜を形成し、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の前記アルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成し、自己回復性を有する2層蒸着膜とすると共に、前記アルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とし、前記亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とし、耐圧性能と耐電流性能を低下させず、破壊電圧の低下と容量減少とをともに防止させることを特徴とするコンデンサ。」と訂正する。

訂正事項b.特許第3328477号の明細書中の段落【0009】の記載を
「【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載のコンデンサは、プラスチックフィルム上に電極となる蒸着膜を形成した金属化フィルムを2枚重ねて巻回したコンデンサであって、金属化フィルムは、プラスチックフィルム上にアルミニウム蒸着膜を形成し、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍のアルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成し、自己回復性を有する2層蒸着膜とすると共に、アルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とし、亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とし、耐圧性能と耐電流性能を低下させず、破壊電圧の低下と容量減少とをともに防止させることを特徴とする。このように、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍にはアルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成した電極構成とし、その他の主電極部分はアルミニウム蒸着膜とすることにより、金属化フィルム内に存在する絶縁欠陥部分の自己回復による蒸着膜の飛散部分をより小さくし、良好な自己回復を行うことができ、プラスチックフィルムが持っている本来の絶縁耐力を引き出し、より高電位傾度においてフィルムを使用、コンデンサの設計を行うことができ、また良好なヘビーエッジを形成することが可能なため、より耐電流強度を強くすることができる。この場合、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍に形成された亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とすることにより、自己回復時の電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の蒸着膜の飛散を防ぎ、耐電流性能の低下を防止し、その他の主電極部分のアルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とすることにより、自己回復部分の大きさをより小さくし、絶縁耐力を高めることができる。」と訂正する。

訂正事項c.特許第3328477号の明細書中の段落【0052】の記載を
「【0052】
【発明の効果】
請求項1記載のコンデンサは、金属化フィルムを2枚重ねて巻回したコンデンサであって、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍にはアルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成し、自己回復性を有する2層蒸着膜とする電極構成とし、その他の主電極部分はアルミニウム蒸着膜とすることにより、金属化フィルム内に存在する絶縁欠陥部分の自己回復による蒸着膜の飛散部分をより小さくし、良好な自己回復を行うことができ、プラスチックフィルムが持っている本来の絶縁耐力を引き出し、より高電位傾度においてフィルムを使用、コンデンサの設計を行うことができ、また良好なヘビーエッジを形成することが可能なため、より耐電流強度を強くすることができる。結果として、より小型・軽量で寿命特性の優れたコンデンサを実現することができる。この場合、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍に形成された亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とすることにより、自己回復時の電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の蒸着膜の飛散を防ぎ、耐電流性能の低下を防止し、その他の主電極部分のアルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とすることにより、自己回復部分の大きさをより小さくし、絶縁耐力を高めることができる。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
ア.上記訂正事項aについては、請求項1に記載された、「前記アルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成する」を「前記アルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成し、自己回復性を有する2層蒸着膜とする」とし、限定しようとするものであるとともに、「前記アルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とし、前記亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□としたことを特徴とするコンデンサ」を「前記アルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とし、前記亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とし、耐圧性能と耐電流性能を低下させず、破壊電圧の低下と容量減少とをともに防止させることを特徴とするコンデンサ」とその作用・効果を特定し、限定しようとするものであり、特許法第120条の4第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
当該自己回復性を有する2層蒸着膜は、明細書段落【0046】中に「亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が1Ω/□前後では、亜鉛蒸着膜3上に大きな破壊跡があったが、これは、1Ω/□前後まで膜抵抗値を低下させると、蒸着膜が厚くなりすぎ、良好な自己回復が行えないためと推定される。なお、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が1.5Ω/□以上のコンデンサでは、良好な自己回復が行われていた。」、段落【0051】中に「この発明は、混合蒸着ではなく、アルミニウム蒸着の上に電極取り出し用メタリコンとの接触部を含む近傍にだけ亜鉛を蒸着する、いわゆる2層蒸着とでも呼ぶべき構成」と記載されているものである。
また、アルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とし、亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とすることで、耐圧性能と耐電流性能を低下させず、破壊電圧の低下と容量減少とをともに防止させるコンデンサが得られることは、願書に添付した明細書段落【0040】中に「アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値により破壊電圧が変化する。膜抵抗値が8Ω/□未満のものでは、破壊電圧が低く、膜抵抗値の上昇とともに破壊電圧は上昇していく。膜抵抗値が8Ω/□〜12Ω/□の間において、そのカーブは緩やかになり、12Ω/□〜40Ω/□の間において、破壊電圧はほぼ一定となる。この図15から、安定的に高い破壊水準を得るためには、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値を8Ω/□以上にする必要があることがわかる。」、段落【0042】中に「アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値が8Ω/□未満のものでは、容量減少が少し見られるが、膜抵抗値が8Ω/□〜30Ω/□の間においては、1〜2%の容量減少ですみ安定している。膜抵抗値が30Ω/□を超えると、容量減少が膜抵抗値とともに大きくなり、耐電流性能が低下していることが伺える。」、段落【0044】中に「アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値は、8Ω/□〜30Ω/□の間において、その耐圧性能および耐電流性能の両方を十分に満足する結果を得ることができると言える。」、段落【0046】中に「亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が1Ω/□前後のコンデンサにおいては破壊電圧レベルが他のものより数百V低下し、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が1.5Ω/□以上であれば、高い破壊電圧レベルで差はなく安定している。」、段落【0048】中に「亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が1Ω/□〜7Ω/□の間においては、容量減少が少なく安定しているが、膜抵抗値が7Ω/□を超えると、容量減少率が大きくなっていることがわかる。」、段落【0049】中に「亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値は、1.5Ω/□〜7Ω/□の間において、その耐圧性能および耐電流性能の両方を十分に満足する結果を得ることができると言える。」「アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値を8Ω/□〜30Ω/□とし、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値を1.5Ω/□〜7Ω/□とすることによって、優れた耐圧性能および耐電流性能を発揮するコンデンサを得られることが確認できた。」とあり、また願書に添付した図面【図15】〜【図18】に示されているので、この訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

イ.前記訂正事項b、cについては、前記訂正事項aで特許請求の範囲を訂正することにより、明細書中の発明の詳細な説明を明確化しようとする訂正であるから、この訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書き第3号に規定する明りょうでない記載の釈明に該当するものである。
また、前記訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。


3.特許異議の申立てについて
(1)申立の理由及び取消理由通知
ア.申立の理由の概要について
特許異議申立人は、証拠として本件出願前国内において頒布された甲第1号証(特公昭31-2427号公報)、甲第2号証(特開昭52-72460号公報)、甲第3号証(米国特許第3303550号明細書)、甲第4号証(特開平3-211809号公報)、甲第5号証(国際公開第94/19813号パンフレット)、甲第6号証(特開平6-290990号公報)、甲第7号証(特開昭52-129962号公報)、甲第8号証(特開昭59-72714号公報)、甲第9号証(特開昭54-127557号公報)、甲第10号証(特開平4-167413号公報)、甲第11号証(実願昭48-121861号(実開昭50-67338号)のマイクロフィルム)、甲第12号証(実願昭50-51676号(実開昭51-128233号)のマイクロフィルム)、甲第13号証(特開平3-57206号公報)、甲第14号証(欧州特許出願公開第0225822号明細書)を提出し、本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件の請求項2、3に係る発明は、甲第1号証ないし甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許法第113条第1項第2号により取り消されるべきものであると主張している。

イ.取消理由通知について
当審において、平成17年5月16日付けで通知した取消理由の概要は、以下の通りである。
「 本件の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、取り消されるべきである。



刊行物1.特公昭31-2427号公報(申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2.特開昭52-72460号公報(申立人の提出した甲第2号証)
刊行物3.米国特許第3303550号明細書(申立人の提出した甲第3号証)
刊行物4.特開平3-211809号公報(申立人の提出した甲第4号証)
刊行物5.国際公開第94/19813号パンフレット(申立人の提出した甲第5号証)
刊行物6.特開平6-290990号公報(申立人の提出した甲第6号証)
刊行物7.特開昭52-129962号公報(申立人の提出した甲第7号証)
刊行物8.特開昭59-72714号公報(申立人の提出した甲第8号証)
刊行物9.特開昭54-127557号公報(申立人の提出した甲第9号証)
刊行物10.特開平4-167413号公報(申立人の提出した甲第10号証)
刊行物11.実願昭48-121861号(実開昭50-67338号)のマイクロフィルム(申立人の提出した甲第11号証)
刊行物12.実願昭50-51676号(実開昭51-128233号)のマイクロフィルム(申立人の提出した甲第12号証)
刊行物13.特開平3-57206号公報(申立人の提出した甲第13号証)
刊行物14.欧州特許出願公開第0225822号明細書(1987年)(申立人の提出した甲第14号証)


本件の請求項1ないし3に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものと認める。
上記刊行物1〜14には、申立人の提出した特許異議申立書第4頁第20行〜第13頁第19行記載の発明が記載されている(ただし、「甲第1号証」〜「甲第14号証」は、それぞれ「刊行物1」〜「刊行物14」と読み替える。)。
そして、申立人の提出した特許異議申立書第13頁第20行〜第17頁第19行記載の理由(ただし、「甲第1号証」〜「甲第14号証」は、それぞれ「刊行物1」〜「刊行物14」と読み替える。)により、本件の請求項1に係る発明は、その出願前に国内において頒布された上記刊行物1〜9に記載の発明に基づいて、本件の請求項2に係る発明は、その出願前に国内において頒布された上記刊行物1〜12に記載の発明に基づいて、また、本件の請求項3に係る発明は、その出願前に国内において頒布された上記刊行物1〜14に記載の発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものである。」

(2)本件請求項1ないし3に係る発明
上記「2.訂正の適否についての判断」で示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1ないし3に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 プラスチックフィルム上に電極となる蒸着膜を形成した金属化フィルムを2枚重ねて巻回したコンデンサであって、
前記金属化フィルムは、前記プラスチックフィルム上にアルミニウム蒸着膜を形成し、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の前記アルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成し、自己回復性を有する2層蒸着膜とすると共に、前記アルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とし、前記亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とし、耐圧性能と耐電流性能を低下させず、破壊電圧の低下と容量減少とをともに防止させることを特徴とするコンデンサ。
【請求項2】 金属化フィルムは、アルミニウム蒸着膜をプラスチックフィルムの長手方向に間隙を設けて複数に分離形成し、前記アルミニウム蒸着膜に設けた前記間隙が重ならないように2枚の前記金属化フィルムを巻回した請求項1記載のコンデンサ。
【請求項3】 2枚のうち少なくとも一方の金属化フィルムは、アルミニウム蒸着膜および亜鉛蒸着膜をプラスチックフィルムの幅方向に間隙を設けて複数に分離形成した請求項1または2記載のコンデンサ。」

(3)引用刊行物に記載された発明
当審で通知した取消理由で引用した、本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物1(特公昭31-2427号公報(申立人の提出した甲第1号証))には、「薄い再生性電極を備えるコンデンサー」(発明の名称)に関して、
「薄い電極と厚くした縁部のある電気用コンデンサーは公知である。この厚さを増した縁辺部は就中側面接触に対し有利な効果を現わす、それによれば誘電体の上に設けられ且つその補強された縁辺部に側面接触層をもつ再生性の薄い電極がアルミニウムからなりその薄い部分の厚さは1/20μより薄く特に約1/40から1/50μである。」(第1頁左欄第6〜12行)こと、
「本発明によるアルミニウムの長所を利用するため電極を一様の厚さで誘電体の上に設け、また異金属の狭小な帯、特に亜鉛のような低融金属の帯を縁辺部につけて縁辺部の厚さを増すことが多くの場合推奨される。」(第1頁左欄第24〜28行)こと、
「第1図-第3図は本発明の実施例を示す。第1図に於て1は例えば紙、又は特に合成樹脂物質からなる誘電体箔を示す。この誘電体箔の上に厚さをdで示す極めて薄い電極2がおかれる。この箔の左端は3で示すように本質的に補強され、この補強縁辺部の幅はaで示してある。点線3’で示される厚くした縁辺部3は無条件に電極2と同一金属でなければならぬことはなく、異る金属となすことが出来る。」(第1頁右欄第19〜27行)こと、
「電極2あるいは12を1/20μ以下に充分に薄く維持すること、特に電極の厚さを1/40から1/50μ、或はさらに薄くすることにより、閃絡を中断したコンデンサーを再生するため極めて少量の金属がコンデンサー閃絡のさい蒸発される様なされる。」(第2頁左欄第14〜19行)こと、
「この電極の厚さは全広幅に渡つて大体一様である。その後に重点的に箔の狭い縁辺部3,13のみを厚くする程度の幅狭い蒸発器24の上を箔は滑走する。」(第2頁右欄第12〜15行)こと、
「然し厚さる増すため蝋(注;実際には、虫偏ではなく金偏である。)接性の良い亜鉛のような金属、また電極に蝋(注;実際には、虫偏ではなく金偏である。)接性の悪いアルミニウムのような金属を使用する時は、まず電極、次に厚さの増大、したがつて最後に蝋(注;実際には、虫偏ではなく金偏である。)接性の良い金属を蒸着することが厚さを増す皮膜の蝋(注;実際には、虫偏ではなく金偏である。)接性を維持するのに頗る有利である。」(第2頁右欄第29〜34行)ことが、第1図〜第3図と共に記載されている。

同刊行物2(特開昭52-72460号公報(申立人の提出した甲第2号証))には、「コンデンサの製造方法」(発明の名称)に関して、
「第1図において1は基板となる誘電体フィルムであり、紙またはプラスチックフィルムである。2は蒸着された金属電極で半田付可能な、Au,Cu,Ni,Fe,Sn,Zn,またはこれらの合金が使用される。第2図は第1図と同様に蒸着誘電体フィルムの構成の一例である。第2図において3は基板となる誘電体フィルムであり、4は通常使用される電極金属でAl等である。この金属は付着強度が強いことと抵抗が低いことが望ましい。5は電極の端部にもうけられた半田付可能な金属部である。金属の種類は第1図の説明で行なったものと同種のものが使用される。」ことが、第1図〜第4図と共に記載されている。

当審で通知した取消理由で引用した、本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物3(米国特許第3303550号明細書(申立人の提出した甲第3号証))には、
「真空蒸着装置は、真空蒸着チャンバー11を有しており、このチャンバー11は公知の真空ポンプ12によって極めて低圧に排気される。誘電体シート材料10の供給ロール13はチャンバー11内において、第1蒸発ユニット14の進行方向後方に配置される。第1蒸発ユニット14の内部に、蒸発点に加熱されたアルミニウムのような金属が供給される。もし所望なら、これに代えて、供給ロール13を真空蒸着チャンバー11の外部に配置し、公知の真空シールを通ってチャンバー内に進入させるようにしてもよい。ユニット14内の金属蒸気は、マスク15の開口部を通過し、誘電体材料10の特定部分に蒸着する。これにより、約100万分の1.5〜15.0インチの均一な厚さを有する金属化フィルム16の広幅バンドが形成される。
金属化誘電体シートは、引き続き第2蒸発ユニット17へと送られる。第2蒸発ユニット17はその内部に蒸発点まで加熱された金属が供給される。この蒸発金属は、第2マスク18の開口部を通過し、第2図に示すように、金属化フィルム16の各バンドの中央部に位置する狭幅の金属境界パスを形成する。金属境界パス19は、約100万分の3インチの均一な厚さのもので、金、白金、銀、銅、亜鉛、イリジウム、鉛、インジウム、錫、又は他の適当な金属のいずれかである。これら金属は(1)大気に曝されたときに酸化して絶縁体とならず、(2)ロウ材に対して親和力を有するか、ロウ材に対して濡れ性を有するものであり、(3)ロウ材中に拡散してロウ材と金属化フィルム16との間に金属結合を行うような金属的性質を有するものである。」(第1頁第2欄第45行〜第2頁第3欄第4行)こと、
「2枚の薄帯は、巻き込むように、第4図に示されるように、コンデンサの巻物21に形成される。」(第2頁第3欄第73〜74行)ことが、第1図〜第5図と共に記載されている。
また、第4図には、プラスチックフィルム上に電極となる蒸着膜を形成した金属化フィルムを2枚重ねて巻回したことが、示唆されている。

当審で通知した取消理由で引用した、本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物4(特開平3-211809号公報(申立人の提出した甲第4号証))には、
「第1図,第2図において従来例と相異する点は、一方の電極1を、溶射金属電極12と接触する近傍を絶縁フィルム(厚さ6μmのポリプロピレンフィルム)10の上に真空蒸着法によりアルミニウム2を形成し、その上に結晶核金属として銀を用いて真空蒸着法により亜鉛11を形成した積層分割電極とした点である。その積層分割電極1にレーザー加工法により空白部14と分割部15を形成し、ヒューズ部3を設け、乾式保安機構を形成した。積層分割電極1の膜抵抗は4〜6Ω/□、亜鉛からなる1層分割電極17の膜抵抗は15〜20Ω/□とした。」(第2頁左上欄第18行〜同頁右上欄第9行)ことが、第1図、第2図と共に記載されている。

当審で通知した取消理由で引用した、本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物5(国際公開第94/19813号パンフレット(申立人の提出した甲第5号証))には、
「この発明の典型的な実施例においては、各電極22、27は約1〜2Ω/□の厚さを有している。電極22、27の厚さは、その上に従来のスプレイ法によってコンデンサリードが形成されることから、電極20、25の厚さよりも大きくなっている。電極22、27は、コンデンサのアクティブ領域40内に延びてはならないということに留意することは重要なことである。アクティブ領域40は、許容誤差領域の間におけるコンデンサ部分であって、この領域において電極20の部分と電極25の部分とが重なる。もし電極22及び/又は27がアクティブ領域40内へと延びると、これらが薄い金属(例えば40Ω/μ以下)よりも比較的重い金属(例えば、2Ω/μ以下)によって構成されているので、電極20、25の厚さを減少させることによって得られる絶縁強度改善効果に悪影響を及ぼすことになる。」(第8頁第8〜24行)こと、
「この発明においては、金属化フィルムコンデンサ用として典型的に使用されるほとんどのタイプの金属を使用し得るという点に留意されたい。しかしながら、この発明の典型的な実施例においては、アルミニウムが好ましい。」(第9頁第20〜24行)こと、
「第3A図に示しているように、ウエブ21、26は、空マージン30、34が、それぞれ重ねられたウエブの反対端に配置されるような関係でそれぞれ配置される。
各電極20、25は、それぞれ第2部分27、22を有しているが、これは電極の残りの部分よりも相対的に厚いものである。例えば、第2部分27、22は、1〜4Ω/□であるのに対し、電極20、25の残りの部分(又は第1部分)は、5〜300Ω/□である。」(第11頁第11〜20行)ことが、図3Aと共に記載されている。

当審で通知した取消理由で引用した、本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物6(特開平6-290990号公報(申立人の提出した甲第6号証))には、
「【0013】また、本発明のコンデンサ用金属化ポリプロピレンフイルムの金属層の厚さ構成は、コンデンサの良好な耐電圧と誘電正接を得るため、通常部に比べリード取り出し側の端部の方が厚い、ヘビーエッジ構造であることが必要である。
【0014】即ち、良好な耐電圧特性を得るには膜抵抗を高くする必要がある一方、良好な誘電正接特性を得るには膜抵抗(特にリードを取り出す側)を低くすることが必要となる。膜抵抗が高い程、高い耐電圧が得られることは一般によく知られている。これは、金属化誘電体特有の自己回復性機能が、金属層が薄い程高まることによる。
【0015】一方、誘電正接は膜抵抗が低い程低く(良く)なることが知られているが、その大部分はリードを取り出すためにコンデンサ素子の端面に溶射される金属とフイルム上の金属層との接触抵抗に支配され、この接触抵抗が低い程誘電正接も低くなる。金属溶射側の金属層を厚くすることが必要となる所以である。
【0016】また、金属層の膜抵抗は、コンデンサの良好な耐電圧及び誘電正接を得るには、通常部の膜抵抗が6Ω/□以上50Ω/□以下、ヘビーエッジ部の膜抵抗が1.0Ω/□以上5.0Ω/□以下の範囲にあることが必要である。通常部の膜抵抗が50Ω/□を越えると、誘電正接が高くなり、コンデンサとしての性能が悪くなる。また、通常部の膜抵抗が6Ω/□未満になると自己回復性が悪くなり、コンデンサの耐電圧が低くなる。好ましくは通常部の膜抵抗は8Ω/□以上40Ω/□以下、さらに好ましくは10Ω/□以上35Ω/□以下である。また、ヘビーエッジ部の膜抵抗が1.0Ω/□未満になると、金属層の形成加工時に発生する熱量が過剰になり、フィルムが熱変形を起こすので、実用に支障をきたす。一方、5.0Ω/□を越えると、誘電正接が悪化する。好ましくは、1.5Ω/□以上4.5Ω/□以下である。
【0017】金属層を構成する金属としては亜鉛もしくはアルミニウム単独または亜鉛とアルミニウムの2種類併用である。これは、良好なコンデンサ特性を得ることができ、かつ金属層形成が比較的容易なためである。また、亜鉛単独という場合にも金属付着力を向上させる目的で核となる微量の異種金属を同時に設けることが一般的である。核金属としては、銅、錫、銀、アルミニウム、などが例示されるが、特に限定されるものではない。」こと、
「【0026】このフイルムを真空蒸着装置にセットし、フイルムのコロナ放電処理面の上に、亜鉛を通常部が6〜50Ω/□、ヘビーエッジ部が1.0〜5.0Ω/□の膜抵抗になるように蒸着する。このとき、ヘビーエッジ部と反対側端に沿ってマージンを設ける。この蒸着フイルムをにスリットし、これを2枚重ね巻回してコンデンサ素子を作る。この素子に端面金属溶射を施し、リード線を取り付けた後、外装してコンデンサとする。」こと、
「【0046】実施例5
蒸着金属をアルミニウム単独とした以外は、実施例1と同様に実施した。」ことが、図1、表1と共に記載されている。

当審で通知した取消理由で引用した、本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物7(特開昭52-129962号公報(申立人の提出した甲第7号証))には、
「対向電極部となる金属化層の少くとも一方の電極層の電極抵抗値が20〜100Ω/cm2で電極導出部と接続する端部電極層の電極抵抗値が1〜10Ω/cm2である金属化プラスチックフィルムの片面あるいは両面に、有機材料によるコーテング膜にて第2誘電体層を形成した、複合金属化フィルムを巻回または積層してなる蓄電器。」(第1頁左下欄、特許請求の範囲)が、第3図と共に記載されている。

当審で通知した取消理由で引用した、本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物8(特開昭59-72714号公報(申立人の提出した甲第8号証))には、
「(1)電極の一部または全部が亜鉛よりなる金属化シートを積層巻回したコンデンサ素子」(第1頁左下欄、特許請求の範囲第1項の一部)、
「(2)コンデンサ素子の電極導出部側の電極の抵抗値が7±2Ω/□で容量形成部側の電極の抵抗値が20〜800Ω/□であり、」(第1頁左欄、特許請求の範囲第2項の一部)が、第2図と共に記載されている。

当審で通知した取消理由で引用した、本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物9(特開昭54-127557号公報(申立人の提出した甲第9号証))の第2頁右上欄第5行〜同頁右下欄第2行には、主電極部分がアルミニウム蒸着膜である場合と亜鉛蒸着膜である場合とを比較検討した結果が開示されている。その結果、第3図、第4図、第5図に示されているように、容量変化率、tanδ、絶縁破壊電圧は、共に亜鉛蒸着膜よりもアルミニウム蒸着膜が優れているとの開示がなされている。

当審で通知した取消理由で引用した、本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物10(特開平4-167413号公報(申立人の提出した甲第10号証))、刊行物11(実願昭48-121861号(実開昭50-67338号)のマイクロフィルム(申立人の提出した甲第11号証))、刊行物12(実願昭50-51676号(実開昭51-128233号)のマイクロフィルム(申立人の提出した甲第12号証))には、図面からも明らかなとおり、金属化フィルムは、アルミニウム蒸着膜をプラスチックフィルムの長手方向に間隙を設けて複数に分離形成し、前記アルミニウム蒸着膜に設けた前記間隙が重ならないように2枚の前記金属化フィルムを巻回したコンデンサが開示されており、上記事項が周知技術であったことが明らかである。

当審で通知した取消理由で引用した、本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物13(特開平3-57206号公報(申立人の提出した甲第13号証))、刊行物14(欧州特許出願公開第0225822号明細書(1987年)(申立人の提出した甲第14号証))には、図面からも明らかなとおり、2枚のうち少なくとも一方の金属化フィルムは、アルミニウム蒸着膜および亜鉛蒸着膜をプラスチックフィルムの幅方向に間隙を設けて複数に分離形成したコンデンサが開示されており、上記事項が周知技術であったことが明らかである。

(4)対比・判断
ア.本件請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、プラスチックフィルム上に電極となる蒸着膜を形成した金属化フィルムを2枚重ね、前記したプラスチックフィルム上に主電極部としてアルミニウム蒸着膜を形成し、さらに電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍において、前記したアルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成したコンデンサである点で一致しているが、刊行物1には、本件請求項1に係る発明の構成要件である「電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の前記アルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成し、自己回復性を有する2層蒸着膜とする」点について記載されていない点で相違している。
本件請求項1に係る発明は、この点の構成要件により、2層蒸着膜部分においても、短絡電流による自己回復が起こりうるものである。
一方、刊行物1に記載された発明は、「・・(補強部の)幅aは間隔bより小さい」(第2頁左欄第8行)、「外部の薄い電極2と12が相互に向き合って閃絡(自己回復)が厚い場所に行われえないことが保証される」(第2頁下から8行)、「・・補強部の幅が・・縁辺部までの間隔よりも小さい」(特許請求の範囲)、と記載されているように、補強部はもう一方の電極とは対向しない構成となっており、換言すると、刊行物1における補強部(本件請求項1に係る発明の、アルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成した部分に相当)は、自己回復が起こるように構成しているものではない。
また、本件請求項1に係る発明と刊行物2〜9に記載された発明とを対比すると、刊行物2〜9に記載された発明には、本件請求項1に係る発明の上記構成要件である「電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の前記アルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成し、自己回復性を有する2層蒸着膜とする」点が、記載されておらず、また、示唆もない。
本件請求項1に係る発明は、上記構成要件により、2層蒸着膜部分において、絶縁欠陥部分の自己回復による蒸着膜の飛散部分をより小さくでき、良好な自己回復が行われるという明細書記載の作用・効果を奏するものである。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件請求項2に係る発明について
刊行物10〜12には、本件請求項2に係る発明の「金属化フィルムは、アルミニウム蒸着膜をプラスチックフィルムの長手方向に間隙を設けて複数に分離形成し、前記アルミニウム蒸着膜に設けた前記間隙が重ならないように2枚の前記金属化フィルムを巻回した」コンデンサに相当する記載が認められる。
しかしながら、上記したように、本件請求項1に係る発明は刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであるから、本件請求項1に係る発明を引用した発明である本件請求項2に係る発明も刊行物1〜14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.本件請求項3に係る発明について
・本件請求項3に係る発明と刊行物1〜14に記載の発明との対比
刊行物13、14には、本件請求項3に係る発明の「2枚のうち少なくとも一方の金属化フィルムは、アルミニウム蒸着膜および亜鉛蒸着膜をプラスチックフィルムの幅方向に間隙を設けて複数に分離形成した」コンデンサに相当する記載が認められる。
しかしながら、上記したように、本件請求項1に係る発明は刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであるから、本件請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用した発明である本件請求項3に係る発明も刊行物1〜14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すことができない。
そして、他に本件請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
コンデンサ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】プラスチックフィルム上に電極となる蒸着膜を形成した金属化フィルムを2枚重ねて巻回したコンデンサであって、
前記金属化フィルムは、前記プラスチックフィルム上にアルミニウム蒸着膜を形成し、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の前記アルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成し、自己回復性を有する2層蒸着膜とすると共に、前記アルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とし、前記亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とし、耐圧性能と耐電流性能を低下させず、破壊電圧の低下と容量減少とをともに防止させることを特徴とするコンデンサ。
【請求項2】金属化フィルムは、アルミニウム蒸着膜をプラスチックフィルムの長手方向に間隙を設けて複数に分離形成し、前記アルミニウム蒸着膜に設けた前記間隙が重ならないように2枚の前記金属化フィルムを巻回した請求項1記載のコンデンサ。
【請求項3】2枚のうち少なくとも一方の金属化フィルムは、アルミニウム蒸着膜および亜鉛蒸着膜をプラスチックフィルムの幅方向に間隙を設けて複数に分離形成した請求項1または2記載のコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、電力用コンデンサ・電気機器コンデンサなどに使用するエネルギー充放電用のコンデンサに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、エネルギー充放電用のコンデンサの用途としては、フラッシュランプ電源などのインパルス電圧・インパルス電流発生装置や、電力機器などのアース間絶縁耐力試験などに用いられるインパルス試験装置などがある。これらの電源や装置に用いられるコンデンサは、誘電体としては、紙またはプラスチックフィルムもしくはこれらの複合体を用い、電極としては、アルミニウム箔もしくは紙に亜鉛などを蒸着した金属化紙を用いている。これらの誘電体・電極を巻回してコンデンサ素子とし、これらの素子を1個、もしくは必要な電圧・容量に応じて複数個直列・並列接続した集合コンデンサ素子を、外装ケース内に収納・密閉してコンデンサを構成していた。
【0003】
また、最近では、誘電体のプラスチックフィルムに電極として金属を蒸着した金属化フィルムを使用したコンデンサも多く提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
最近では、これらのコンデンサを使用する装置・設備においても小型・軽量化の要望が大きくなってきている。これらのコンデンサの体積の大部分しめるのは、誘電体および電極を巻回したコンデンサ素子であり、誘電体の電位傾度を大きくし、フィルム厚みを薄くすることが、コンデンサ素子の小型化に大きく寄与するものである。
【0005】
誘電体の電位傾度を大きくするためにはフィルム厚みを薄くすることが必要であるが、当然、フィルム厚みを薄くすると耐圧的に、寿命的にその信頼性は落ちてくる。そこで、薄いフィルムでより高い耐圧性能・寿命特性を確保するために様々な提案がなされてきた。
その一つとして、金属化フィルムの蒸着膜を、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍部分がその他の主電極部分よりも厚くなるように、厚さに差をつけること(段付き蒸着)が提案されている。
【0006】
この提案は、フィルムに存在する絶縁欠陥が自己回復(セルフヒーリング)によって回復することをより高めることによって、フィルムの電位傾度をより向上させようとするものである。
自己回復(セルフヒーリング)とは、絶縁欠陥部分の短絡電流により絶縁欠陥部分周辺の蒸着膜を飛散させて絶縁欠陥の絶縁耐力を回復させることである。この自己回復が不完全な場合、絶縁欠陥部分の絶縁耐力がフィルム全体の絶縁耐力となり、その最低絶縁耐力以下でコンデンサの設計を行わなくてはならない。この自己回復が良好に行われれば、フィルムの絶縁耐力はフィルム本来の絶縁耐力を示すことができ、すなわちフィルムの電位傾度を向上することができる。
【0007】
良好な自己回復を行うためには、蒸着膜の厚みを薄くすることによって蒸着膜の飛散性を高める方法、絶縁欠陥部分に流れ込む短絡電流を少なくする方法等によって、自己回復をより良好にすることができる。
この提案は、自己回復をより完全なものとするため、主電極部分の蒸着膜をより薄くすることにより自己回復性を向上しようとするものであり、また、電極引き出し用メタリコンとのコンタクト性を良好にするために、電極引き出し用メタリコン近傍の蒸着膜の厚みを主電極部分より厚くした、いわゆるヘビーエッジ構造であり、段付き蒸着を行っている。この段付き蒸着を行うためには、一般的に亜鉛を蒸着金属として使用し、アルミニウムを使うことは少ない。これは蒸着金属の厚みをフィルム幅方向で変化させる段付き蒸着において、亜鉛のほうがアルミニウムよりその段付き状態を良好に形成することができるためである。なお、アルミニウムにおいても可能であるがその段付きの形成状態が良好でない場合、メタリコンとヘビーエッジとのコンタクト性が悪化し、耐電流性能が低下してしまう。また、主電極部分の亜鉛を薄くして使用する段付き蒸着においても、その蒸着膜の薄さは現在の状態で限界であり、抵抗値の管理を含めてこれ以上の電位傾度の向上につながる改善を求めることは困難である。
【0008】
この発明は、上記従来の問題点を解決するもので、フィルム上の絶縁欠陥部をより良好に回復させ、フィルム本来の耐圧性能を十分に引き出し、フィルムの電位傾度を更に向上し、信頼性が高くかつ小型化が図れるコンデンサを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載のコンデンサは、プラスチックフィルム上に電極となる蒸着膜を形成した金属化フィルムを2枚重ねて巻回したコンデンサであって、金属化フィルムは、プラスチックフィルム上にアルミニウム蒸着膜を形成し、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍のアルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成し、自己回復性を有する2層蒸着膜とすると共に、アルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とし、亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とし、耐圧性能と耐電流性能を低下させず、破壊電圧の低下と容量減少とをともに防止させることを特徴とする。このように、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍にはアルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成した電極構成とし、その他の主電極部分はアルミニウム蒸着膜とすることにより、金属化フィルム内に存在する絶縁欠陥部分の自己回復による蒸着膜の飛散部分をより小さくし、良好な自己回復を行うことができ、プラスチックフィルムが持っている本来の絶縁耐力を引き出し、より高電位傾度においてフィルムを使用、コンデンサの設計を行うことができ、また良好なヘビーエッジを形成することが可能なため、より耐電流強度を強くすることができる。この場合、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍に形成された亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とすることにより、自己回復時の電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の蒸着膜の飛散を防ぎ、耐電流性能の低下を防止し、その他の主電極部分のアルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とすることにより、自己回復部分の大きさをより小さくし、絶縁耐力を高めることができる。
【0010】
請求項2記載のコンデンサは、請求項1記載のコンデンサにおいて、金属化フィルムは、アルミニウム蒸着膜をプラスチックフィルムの長手方向に間隙を設けて複数に分離形成し、アルミニウム蒸着膜に設けた間隙が重ならないように2枚の金属化フィルムを巻回している。このように、アルミニウム蒸着膜をプラスチックフィルムの長手方向に間隙を設けて複数に分離形成し、その間隙が重ならないように2枚の金属化フィルムを巻回して、1個の素子内に多段直列構成のコンデンサを設けることができ、定格電圧が高くても小型化を図ることができる。
【0011】
請求項3記載のコンデンサは、請求項1または2記載のコンデンサにおいて、2枚のうち少なくとも一方の金属化フィルムは、アルミニウム蒸着膜および亜鉛蒸着膜をプラスチックフィルムの幅方向に間隙を設けて複数に分離形成している。このように、アルミニウム蒸着膜および亜鉛蒸着膜をプラスチックフィルムの幅方向に間隙を設けて複数に分離形成することにより、自己回復が発生したときに流れ込む電流を抑制し、自己回復部分の大きさをより小さくし、絶縁耐力をより高めることができる。
【0012】
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
〔第1の実施の形態〕
図1〜図3はこの発明の第1の実施の形態のコンデンサの製造工程を順に示す図である。
【0014】
まず、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という)フィルム1の片面に、図1に示すパターンのアルミニウム蒸着膜2を形成し、その後、マスキングにより図2に示すパターンの亜鉛蒸着膜3を、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍のアルミニウム蒸着膜2上に形成して、金属化フィルムを得る。アルミニウム蒸着膜2と亜鉛蒸着膜3の蒸着は同一蒸着工程内で実施しても良いし、同一蒸着工程内で実施することができないなら、2回にわけて行っても良い。すなわち、この実施の形態における金属化フィルムは、誘電体としてPETフィルム1を用い、このPETフィルム1上に電極として、アルミニウム蒸着膜2と、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍のアルミニウム蒸着膜2上に亜鉛蒸着膜3とを形成している。この金属化フィルムを、図3のように、2枚組み合わせて巻回し、電極引き出し用メタリコン(図示せず)を溶射して、コンデンサとする。
【0015】
〔第2の実施の形態〕
図9,図10はこの発明の第2の実施の形態のコンデンサの製造工程を示す断面図である。なお、図9,図10は、2枚組み合わせる金属化フィルムの配置がわかりやすいように図示したものであり、製造中に2枚上下に配置されていることを意味するものではない。
【0016】
まず、PETフィルム1の片面に、図9に示すパターンのアルミニウム蒸着膜2を形成する。このアルミニウム蒸着膜2はPETフィルム1の長手方向に長いストライプ状に4本形成され、各アルミニウム蒸着膜2間が絶縁層となる。その後、マスキングにより図10に示すパターンの亜鉛蒸着膜3を、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍のアルミニウム蒸着膜2上に形成して、金属化フィルムを得る。この金属化フィルムを、第1の実施の形態と同様に、図10のように2枚配置して巻回し、電極引き出し用メタリコン(図示せず)を溶射して、コンデンサとする。
【0017】
この第2の実施の形態のコンデンサ内には、4本のストライプ状にアルミニウム蒸着膜2を形成した金属化フィルムを、図9,図10に示すように、2つ重ねることにより、7個の直列コンデンサが形成されている。
〔第3の実施の形態〕
図11はこの発明の第3の実施の形態のコンデンサに用いる金属化フィルムの斜視図である。
【0018】
図10に示す第2の実施の形態の金属化フィルムを、レーザ加工,オイル転写蒸着等により非蒸着部8を形成して、アルミニウム蒸着膜2,亜鉛蒸着膜3をPETフィルム1の幅方向に複数に分割し、図11に示すパターンの金属化フィルムを形成する。この金属化フィルムを2枚組み合わせるうちの少なくとも一方に用い、第2の実施の形態と同様に、図10のように配置して巻回し、電極引き出し用メタリコン(図示せず)を溶射して、コンデンサとする。このコンデンサは、第2の実施の形態と同様、7個の直列コンデンサの構成となる。
【0019】
【実施例】
以下、実施例について説明する。
まず、第1の実施例について説明する。第1の実施例は、図1〜図3に示す第1の実施の形態のコンデンサにおいて、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値を8〜30Ω/□とし、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍に形成する亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□としたものである。
【0020】
つぎに、第1,第2,第3の比較例について説明する。
第1の比較例では、PETフィルム1の片面に、図1に示すパターンのアルミニウム蒸着膜2を形成して、金属化フィルムとする。ここでは、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値を8〜30Ω/□とした。したがって、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍のアルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値も8〜30Ω/□である。このPETフィルム1上にアルミニウム蒸着膜2を形成した金属化フィルムを、図3と同様に、2枚組み合わせて巻回し、電極引き出し用メタリコンを溶射して、コンデンサとする。
【0021】
第2の比較例では、PETフィルム1の片面に、図1に示すパターンのアルミニウム蒸着膜2を形成して、金属化フィルムとする。ここでは、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とした。したがって、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍のアルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値も1.5〜7Ω/□である。このPETフィルム1上にアルミニウム蒸着膜2を形成した金属化フィルムを、図3と同様に、2枚組み合わせて巻回し、電極引き出し用メタリコンを溶射して、コンデンサとする。
【0022】
第3の比較例では、PETフィルム1の片面に、図4に示すパターンの亜鉛蒸着膜3aを形成して、金属化フィルムとする。ここでは、亜鉛蒸着膜3aの薄い部分の膜抵抗値を8〜30Ω/□とし、亜鉛蒸着膜3aの厚い部分である電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□として、第1の実施例に合わせた。このPETフィルム1上に亜鉛蒸着膜3aを形成した金属化フィルムを、図3と同様に、2枚組み合わせて巻回し、電極引き出し用メタリコンを溶射して、コンデンサとする。すなわち、この第3の比較例は、従来の段付き蒸着によるいわゆるヘビーエッジ構造のフィルムを使用したコンデンサである。
【0023】
ここで、第1の実施例と第3の比較例とを比較すると、外観状態はほぼ同等の構成を有しているが、電極の主電極部分が、第1の実施例ではアルミニウム蒸着膜2であり、第3の比較例は亜鉛蒸着膜3aであり、異なる。また、電極の電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍部分において、第1の実施例はアルミニウム蒸着膜2の上に亜鉛蒸着膜3を形成した2層蒸着構成となっているが、第3の比較例では亜鉛蒸着膜3aであり、異なる。
【0024】
これらのコンデンサ素子を、内部圧力検出装置を金属容器に取り付けた外装容器内に収納し、ポリブテンオイルを用いて充填し、電極引き出し用メタリコンから外部電極引き出し用端子と接続した。
これらのコンデンサに使用したPETフィルム1の厚みは10μmであり、コンデンサ容量は30μFである。
【0025】
第1の実施例のコンデンサの効果を検証するために、第1〜第3の比較例のコンデンサとともに、電圧印加による破壊試験を実施し、その破壊電圧レベルを評価した。その試験結果を図5に示す。図5の縦軸は破壊電圧であり、この時の試験条件は常温・常湿であり、電圧昇圧スピードは1分間に100Vである。
図5から、第1の実施例のコンデンサの方が第3の比較例のコンデンサより、破壊電圧が700V〜1000V上回っていることがわかる。第1の比較例は、第1の実施例とほぼ同様な破壊水準を示しているが若干バラツキが見られる。第2の比較例は、第1の実施例・第1の比較例のコンデンサより破壊水準が低いが、第3の比較例よりは若干高いことがわかる。
【0026】
つぎに、電圧破壊試験実施後のコンデンサ素子を分解し、金属化フィルムの状態を確認したところ、図6,図7に示すような自己回復(セルフヒーリング)が確認できた。
図6は電圧破壊試験実施後に分解した第1の実施例の金属化フィルムの状態を示し、(a)はその斜視図、(b)はそのA-A′断面図である。図6において、4は絶縁欠陥部、5はアルミニウム蒸着膜2が飛散した自己回復部である。図7は電圧破壊試験実施後に分解した第3の比較例の金属化フィルムの状態を示し、(a)はその斜視図、(b)はそのB-B′断面図である。図7において、6は絶縁欠陥部、7は亜鉛蒸着膜3aが飛散した自己回復部である。
【0027】
図6の第1の実施例における自己回復部5の形状は、図7に示す第3の比較例の自己回復部7よりはるかに小さく、良好に自己回復が行われている。したがってPETフィルム1に与えるダメージも小さく、絶縁耐力もPETフィルム1が本来持っている絶縁耐力により近づいているものと考えられる。
これに対し、図7に示す第3の比較例では、自己回復部7の形状が大きく、ところによっては自己回復が上手く行われず、次の層のPETフィルム1に破壊が進行していることが伺えた。段付き蒸着を実施することにより段付き蒸着を実施しない場合よりは自己回復は良好に行われているが、それでも不完全な自己回復によってPETフィルム1にダメージを与え、絶縁耐力を低下させていることがわかる。亜鉛の飛散性による自己回復では、PETフィルム1が本来持っている絶縁耐力にまで回復できないことが伺える。
【0028】
第1の比較例においても、第1の実施例と同様に、自己回復部の形状は第3の比較例の場合よりはるかに小さく、良好に自己回復が行われているが、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍においてアルミニウム蒸着膜2の飛散が発生し、電極引き出し用メタリコンとのコンタクトが失われ、コンデンサ容量を失っていた。これは電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の膜抵抗値が高いため、自己回復時の電流によりコンタクト部近傍の蒸着膜が飛散し、失われたためである。結果として、耐電圧性能は高くなったが、耐電流性能は低くなっていると考えられる。
【0029】
第2の比較例においては、第3の比較例の場合と同様に、大きな自己回復部が見られ、アルミニウム蒸着膜2の飛散性において、蒸着膜抵抗値が低い場合には高い耐電圧性能が得られないことがわかる。
つぎに、第1の実施例のコンデンサおよび第1〜第3の比較例のコンデンサの充放電試験における試験結果を図8に示す。これは耐電流破壊レベルを評価したものであり、図8は、縦軸に容量減少率をプロットし、横軸に充放電回数をプロットしたグラフである。この時の試験条件は常温・常湿であり、印加電圧は2500Vである。また、充放電電流はピーク電流200A、放電時間200μsである。
【0030】
図8から、第1の実施例のコンデンサの容量減少率が最も少なく、続いて、第2の比較例・第3の比較例・第1の比較例のコンデンサの順で容量減少率が少ないことがわかる。そしてこの傾向は充放電回数の増加に伴いより顕著になっている。
つぎに、電圧破壊試験の時と同様、充放電試験後にコンデンサ素子を分解し、金属化フィルムの状態を確認した。
【0031】
第1の比較例のコンデンサにおいては、電圧破壊試験の時と同様に、良好な自己回復を示していたが、その発生個数が少ないにもかかわらず、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の蒸着膜の飛散が発生し、電極引き出し用メタリコンとのコンタクトが失われ、コンデンサ容量を失っていた。これは、電圧破壊試験の時と同様な理由によるものと考えられる。
【0032】
第2の比較例・第3の比較例においては、多数自己回復が発生していたが、第1の比較例のような電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の蒸着膜の飛散の発生は少なく、容量減少は第1の比較例より大幅に少ない。しかしながら自己回復状態は思わしくなく、その形状も大きく理想的状態とは言いがたい。
第1の実施例においては、若干の自己回復が見られるが、他のサンプルよりは自己回復状態は良好であり、望ましい状態にあると言える。
【0033】
これらの結果を基に、例として定格電圧2400V、定格電流100A、容量30μFのコンデンサを設計した場合のコンデンサの体積を算定すると、第1の実施例のコンデンサが、第1〜第3の比較例のコンデンサに比べて、25〜30%小さくなる結果となった。
以上のことから、第1の実施例によれば、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍にはアルミニウム蒸着膜2上に膜抵抗値が1.5〜7Ω/□の亜鉛蒸着膜3を形成した電極構成とし、その他の主電極部分は膜抵抗値が8〜30Ω/□のアルミニウム蒸着膜2とすることにより、金属化フィルム内に存在する絶縁欠陥部分の自己回復による蒸着膜の飛散部分をより小さくし、良好な自己回復を行うことができ、PETフィルム1が持っている本来の絶縁耐力を引き出し、より高電位傾度においてフィルムを使用、コンデンサの設計を行うことができ、また良好なヘビーエッジを形成することが可能なため、より耐電流強度を強くすることができる。結果として、より小型・軽量で寿命特性の優れたコンデンサを実現することができる。
【0034】
つぎに、第2,第3の実施例について説明する。第2の実施例は、図9,図10に示す第2の実施の形態のコンデンサにおいて、アルミニウム蒸着膜2および亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値を、第1の実施例と同様にしたものである。また、第3の実施例は、図11に示す第3の実施の形態のコンデンサにおいて、アルミニウム蒸着膜2および亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値を、第1の実施例と同様にしたものである。
【0035】
さらに、第4の比較例として、第1の実施例のコンデンサを7個直列に接続したコンデンサを用意した。
これら第2,第3の実施例および第4の比較例のコンデンサに使用したPETフィルム1の厚みは10μmであり、コンデンサ容量は4.3μFであり、定格電圧は17000Vである。
【0036】
これらのコンデンサの体積を算定し比較した結果を図12に示す。
図12では、第4の比較例のコンデンサの体積を100%とした場合に、第2の実施例では約80%、第3の実施例では約75%となっている。すなわち、第2,第3の実施例では、第4の比較例より20〜25%小さくなる結果となった。これは定格電圧が高くなり多段直列構成を必要とする場合、第4の比較例のように1直のコンデンサ素子を多段に接続するより、第2,第3の実施例のように1個のコンデンサ素子内に多段直列構成を設ける方がスペースファクターが良いためである。すなわち、1直のコンデンサ素子を多段に接続する場合においては、接続のためのリード線やハンダ付け部分において余分なスペースが発生し、体積的に不利となる。
【0037】
つぎに、第1の実施例の場合と同様、耐電圧試験として、第2,第3の実施例および第4の比較例のコンデンサの電圧印加による破壊試験を実施し、その破壊電圧レベルを評価した。その試験結果を図13に示す。また、同様に耐電流試験としてコンデンサの充放電試験における試験結果を図14に示す。
第2,第3の実施例および第4の比較例の各コンデンサは、図13,図14からわかるように、いずれの場合の試験においても満足できる特性を示しているが、特に第3の実施例のコンデンサがより良好な特性を示している。これは、コンデンサの少なくとも一方の電極のアルミニウム蒸着膜2および亜鉛蒸着膜3を、PETフィルム1の幅方向に複数に分割したことにより、自己回復が発生した時に流れ込む電流が抑制され、蒸着膜が飛散した自己回復部の大きさをより小さくしているためと考えられる。
【0038】
なお、上記第1〜第3の実施例では、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値を8〜30Ω/□とし、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍に形成する亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とした構成について説明したが、このように膜抵抗値を設定した理由および効果について、以下に説明する。
まず、図1〜図3に示す第1の実施の形態と同様にして複数のコンデンサ素子(A)を作製した。この複数のコンデンサ素子(A)は、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍に形成する亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値を3Ω/□とし、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値をそれぞれのコンデンサで異なる値(3Ω/□,5Ω/□,8Ω/□,10Ω/□,12Ω/□,20Ω/□,30Ω/□,35Ω/□,40Ω/□)として作製したものである。そして、これらのコンデンサ素子を、内部圧力検出装置を金属容器に取り付けた外装容器内に収納し、ポリブテンオイルを用いて充填し、電極引き出し用メタリコンから外部電極引き出し用端子と接続した。
【0039】
これらのコンデンサに使用したPETフィルム1の厚みは10μmであり、コンデンサ容量は30μFである。
そして、これらの複数のコンデンサに電圧印加による破壊試験を実施し、その破壊電圧レベルを評価した。その試験結果を図15に示す。図15の横軸はアルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値であり、縦軸は破壊電圧であり、この時の試験条件は常温・常湿であり、電圧昇圧スピードは1分間に100Vである。
【0040】
図15に示すように、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値により破壊電圧が変化する。膜抵抗値が8Ω/□未満のものでは、破壊電圧が低く、膜抵抗値の上昇とともに破壊電圧は上昇していく。膜抵抗値が8Ω/□〜12Ω/□の間において、そのカーブは緩やかになり、12Ω/□〜40Ω/□の間において、破壊電圧はほぼ一定となる。この図15から、安定的に高い破壊水準を得るためには、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値を8Ω/□以上にする必要があることがわかる。
【0041】
また、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が3Ω/□で、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値がそれぞれ異なる上記の複数のコンデンサ素子(A)の充放電試験における試験結果を図16に示す。これは耐電流破壊レベルを評価したものであり、図16の横軸はアルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値であり、縦軸は容量減少率をプロットしている。この容量減少率は充放電回数が2500回時のものである。印加電圧は2500V、充放電電流はピーク電流200A、放電時間200μsである。
【0042】
図16に示すように、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値が8Ω/□未満のものでは、容量減少が少し見られるが、膜抵抗値が8Ω/□〜30Ω/□の間においては、1〜2%の容量減少ですみ安定している。膜抵抗値が30Ω/□を超えると、容量減少が膜抵抗値とともに大きくなり、耐電流性能が低下していることが伺える。
【0043】
また、充放電試験後にコンデンサ素子を分解し、蒸着膜の状態を確認したところ、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値が8Ω/□〜30Ω/□の間のコンデンサは良好な自己回復を示しており、蒸着膜にも変化は少ないが、膜抵抗値が8Ω/□未満のコンデンサでは自己回復の大きさが大きくなり、蒸着膜の飛散も大きくなっている。一方、膜抵抗値が30Ω/□を超えたコンデンサでは自己回復は良好であるが、その自己回復の周りの蒸着膜に蒸着膜の更なる後退が見られた。これは、蒸着膜金属が非常に薄いため、電流を印加することによって自己回復をした場所をトリガーとしてコロナ放電等により蒸着膜が除々に飛散していき、大きな容量減少となったものと推定できる。
【0044】
すなわち、上記の検証結果より、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値は、8Ω/□〜30Ω/□の間において、その耐圧性能および耐電流性能の両方を十分に満足する結果を得ることができると言える。
つぎに、図1〜図3に示す第1の実施の形態と同様にして複数のコンデンサ素子(B)を作製した。この複数のコンデンサ素子(B)は、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値を15Ω/□とし、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍に形成する亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値をそれぞれのコンデンサで異なる値(1Ω/□,1.5Ω/□,2Ω/□,3Ω/□,5Ω/□,7Ω/□,8Ω/□,9Ω/□)として作製したものである。そして、これらのコンデンサ素子を、内部圧力検出装置を金属容器に取り付けた外装容器内に収納し、ポリブテンオイルを用いて充填し、電極引き出し用メタリコンから外部電極引き出し用端子と接続した。
【0045】
これらのコンデンサに使用したPETフィルム1の厚みは10μmであり、コンデンサ容量は30μFである。
そして、これらの複数のコンデンサに電圧印加による破壊試験を実施し、その破壊電圧レベルを評価した。その試験結果を図17に示す。図17の横軸は亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値であり、縦軸は破壊電圧であり、この時の試験条件は常温・常湿であり、電圧昇圧スピードは1分間に100Vである。
【0046】
図17に示すように、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が1Ω/□前後のコンデンサにおいては破壊電圧レベルが他のものより数百V低下し、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が1.5Ω/□以上であれば、高い破壊電圧レベルで差はなく安定している。
破壊試験後にコンデンサ素子を分解し、蒸着膜の状態を確認したところ、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が1Ω/□前後では、亜鉛蒸着膜3上に大きな破壊跡があったが、これは、1Ω/□前後まで膜抵抗値を低下させると、蒸着膜が厚くなりすぎ、良好な自己回復が行えないためと推定される。なお、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が1.5Ω/□以上のコンデンサでは、良好な自己回復が行われていた。
【0047】
また、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値が15Ω/□で、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値がそれぞれ異なる上記の複数のコンデンサ素子(B)の充放電試験における試験結果を図18に示す。これは耐電流破壊レベルを評価したものであり、図18の横軸は亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値であり、縦軸は容量減少率をプロットしている。この容量減少率は充放電回数が2500回時のものである。印加電圧は2500V、充放電電流はピーク電流200A、放電時間200μsである。
【0048】
図18に示すように、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が1Ω/□〜7Ω/□の間においては、容量減少が少なく安定しているが、膜抵抗値が7Ω/□を超えると、容量減少率が大きくなっていることがわかる。
充放電試験後にコンデンサ素子を分解し、蒸着膜の状態を確認したところ、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が7Ω/□を超えるものについては、亜鉛蒸着膜3上に蒸着膜の飛散跡が見られた。これは、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値が高いため、蒸着膜の耐電流性能が低下し、繰り返し突入される電流により蒸着膜が飛散したものと推定される。
【0049】
すなわち、上記の検証結果より、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値は、1.5Ω/□〜7Ω/□の間において、その耐圧性能および耐電流性能の両方を十分に満足する結果を得ることができると言える。
以上のように、複数のコンデンサ素子(A),(B)の検証結果より、第1〜第3の実施例のように、アルミニウム蒸着膜2の膜抵抗値を8Ω/□〜30Ω/□とし、亜鉛蒸着膜3の膜抵抗値を1.5Ω/□〜7Ω/□とすることによって、優れた耐圧性能および耐電流性能を発揮するコンデンサを得られることが確認できた。
【0050】
なお、上記の発明の実施の形態および実施例では、プラスチックフィルムとしてPETフィルムを用いたが、PETの他に、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ポリエチレン、等を単独または組み合わせて用いることができる。
また、上記の発明の実施の形態および実施例において、金属化フィルムを巻回したコンデンサ素子の形状を、丸形または小判形としても、また、このコンデンサ素子を金属容器に収納し、内部圧力検出装置を金属容器に取付けた構造としても、さらに内部圧力検出装置を金属容器に取り付けた外装容器内にコンデンサ素子を収納する際、ポリブテンオイルを用いて充填した構造としても、上述した効果の得られることは明らかである。
【0051】
なお、従来、蒸着金属に亜鉛とアルミニウムを混合した混合蒸着フィルム(アロイ蒸着フィルム)の提案が多数なされているが、その目的は主に蒸着膜の耐湿性の向上にあり、この発明の意図するところとは意味合いが異なる。また、この発明は混合蒸着ではなく、アルミニウム蒸着の上に電極取り出し用メタリコンとの接触部を含む近傍にだけ亜鉛を蒸着する、いわゆる2層蒸着とでも呼ぶべき構成を有し、上記混合蒸着フィルムとは全く違うものである。
【0052】
【発明の効果】
請求項1記載のコンデンサは、金属化フィルムを2枚重ねて巻回したコンデンサであって、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍にはアルミニウム蒸着膜上に層状に亜鉛蒸着膜を形成し、自己回復性を有する2層蒸着膜とする電極構成とし、その他の主電極部分はアルミニウム蒸着膜とすることにより、金属化フィルム内に存在する絶縁欠陥部分の自己回復による蒸着膜の飛散部分をより小さくし、良好な自己回復を行うことができ、プラスチックフィルムが持っている本来の絶縁耐力を引き出し、より高電位傾度においてフィルムを使用、コンデンサの設計を行うことができ、また良好なヘビーエッジを形成することが可能なため、より耐電流強度を強くすることができる。結果として、より小型・軽量で寿命特性の優れたコンデンサを実現することができる。この場合、電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍に形成された亜鉛蒸着膜の膜抵抗値を1.5〜7Ω/□とすることにより、自己回復時の電極引き出し用メタリコンとの接触部を含む近傍の蒸着膜の飛散を防ぎ、耐電流性能の低下を防止し、その他の主電極部分のアルミニウム蒸着膜の膜抵抗値を8〜30Ω/□とすることにより、自己回復部分の大きさをより小さくし、絶縁耐力を高めることができる。
【0053】
さらに、請求項2記載のコンデンサは、アルミニウム蒸着膜をプラスチックフィルムの長手方向に間隙を設けて複数に分離形成し、その間隙が重ならないように2枚の金属化フィルムを巻回して、1個の素子内に多段直列構成のコンデンサを設けることができ、定格電圧が高くても小型化を図ることができる。
さらに、請求項3記載のコンデンサは、アルミニウム蒸着膜および亜鉛蒸着膜をプラスチックフィルムの幅方向に間隙を設けて複数に分離形成することにより、自己回復が発生したときに流れ込む電流を抑制し、自己回復部分の大きさをより小さくし、絶縁耐力をより高めることができる。
【0054】
【図面の簡単な説明】
【図1】
この発明の第1の実施の形態のコンデンサの製造工程を示す断面図。
【図2】
この発明の第1の実施の形態のコンデンサの製造工程を示す断面図。
【図3】
この発明の第1の実施の形態のコンデンサの製造工程を示す斜視図。
【図4】
第3の比較例に用いる金属化フィルムの断面図。
【図5】
この発明の第1の実施例および第1〜第3の比較例のコンデンサの電圧破壊試験結果を示す図。
【図6】
電圧破壊試験実施後に分解した第1の実施例における金属化フィルムの状態を示す図。
【図7】
電圧破壊試験実施後に分解した第3の比較例における金属化フィルムの状態を示す図。
【図8】
この発明の第1の実施例および第1〜第3の比較例のコンデンサの充放電試験結果を示す図。
【図9】
この発明の第2の実施の形態のコンデンサの製造工程を示す断面図。
【図10】
この発明の第2の実施の形態のコンデンサの製造工程を示す断面図。
【図11】
この発明の第3の実施の形態のコンデンサに用いる金属化フィルムの斜視図。
【図12】
この発明の第2,第3の実施例および第4の比較例のコンデンサの体積の比較結果を示す図。
【図13】
この発明の第2,第3の実施例および第4の比較例のコンデンサの電圧破壊試験結果を示す図。
【図14】
この発明の第2,第3の実施例および第4の比較例のコンデンサの充放電試験結果を示す図。
【図15】
第1の実施の形態におけるコンデンサのアルミニウム蒸着膜の膜抵抗値に対する電圧破壊試験結果を示す図。
【図16】
第1の実施の形態におけるコンデンサのアルミニウム蒸着膜の膜抵抗値に対する充放電試験結果を示す図。
【図17】
第1の実施の形態におけるコンデンサの亜鉛蒸着膜の膜抵抗値に対する電圧破壊試験結果を示す図。
【図18】
第1の実施の形態におけるコンデンサの亜鉛蒸着膜の膜抵抗値に対する充放電試験結果を示す図。
【符号の説明】
1 ポリエチレンテレフタレートフィルム(プラスチックフィルム)
2 アルミニウム蒸着膜
3 亜鉛蒸着膜
4 絶縁欠陥部
5 自己回復部
6 絶縁欠陥部
7 自己回復部
8 非蒸着部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-06-06 
出願番号 特願平7-260130
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01G)
最終処分 維持  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 橋本 武
浅野 清
登録日 2002-07-12 
登録番号 特許第3328477号(P3328477)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 コンデンサ  
代理人 坂口 智康  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 坂口 智康  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 西森 正博  

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