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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01G
管理番号 1122908
異議申立番号 異議2003-71325  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-07-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-20 
確定日 2005-06-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3347440号「農業用フィルム」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3347440号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3347440号の請求項1ないし6に係る発明は、平成5年12月22日に特許出願され、平成14年9月6日にその特許権の設定登録がなされ、その後、シーアイ化成株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成16年11月26日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のa及びbのとおりである(下線部が訂正個所である)。
訂正事項a
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の「ポリ乳酸、または、乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー100重量部、可塑剤1〜50重量部および紫外線吸収剤0.001〜5重量部を含む農業用フィルム。」を、
「ポリ乳酸、または、乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー100重量部、可塑剤1〜50重量部および紫外線吸収剤0.001〜5重量部を含み、少なくとも一軸方向に1.1〜10倍延伸されている霞度(ヘイズ)が5%以下である農業用フィルム。」と訂正する。

訂正事項b
特許明細書の特許請求の範囲の請求項5及び6を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項5に記載されている、「少なくとも一軸方向に1.1〜10倍延伸されている」の構成、及び、同じく請求項6に記載されている、「霞度(ヘイズ)が5%以下である」の構成をそれぞれ請求項1に付加することにより、請求項1をより下位概念に限定する、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し、また上記訂正事項bは、請求項5及び6が備える構成を請求項1に付加したことに伴って、これらの請求項5及び6を削除する、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当しており、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立てについての判断
(1)本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるので、本件の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件発明1」ないし「本件発明4」という)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたとおりのつぎのものと認められる。
【請求項1】 ポリ乳酸、または、乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー100重量部、可塑剤1〜50重量部および紫外線吸収剤0.001〜5重量部を含み、少なくとも一軸方向に1.1〜10倍延伸されている霞度(ヘイズ)が5%以下である農業用フィルム。

【請求項2】 ポリ乳酸、または、乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマーが、実質的に水の非存在下で、L-乳酸、D-乳酸またはこれらの混合物、または、L-乳酸、D-乳酸またはこれらの混合物とヒドロキシカルボン酸を有機溶媒を含む反応混合物中で脱水縮合して得られた重量平均分子量が約100,000〜300,000の乳酸系ポリマーであることを特徴とする請求項1記載の農業用フィルム。

【請求項3】 コポリマーが、乳酸とグリコール酸のコポリマーであり、乳酸単位を70モル%以上有することを特徴とする請求項1または2記載の農業用フィルム。

【請求項4】 コポリマーが、乳酸と6-ヒドロキシカプロン酸のコポリマーであり、乳酸単位を40〜70モル%有することを特徴とする請求項1または2記載の農業用フィルム。
(2)当審における取り消しの理由
当審が平成16年9月22日付けで通知した取消しの理由の概要は、本件発明1ないし6は、本件出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、というものである。

刊行物1:特開平4-335060号公報(甲第1号証)
刊行物2:土肥義治編著 「生分解性高分子材料」株式会社工業調査会発行 初版第1刷 1990年11月9日 第281-296頁
(甲第2号証)
刊行物3:特開平5-212790号公報(甲第3号証)
刊行物4:WO92/04412(甲第4号証)
刊行物5:特開平5-43638号公報
刊行物6:特開昭62-283136号公報
刊行物7:特開昭61-106644号公報

(3)刊行物に記載された発明
本件出願前に頒布された上記の刊行物1ないし7には、以下の記載が認められる。
刊行物1:特開平4-335060号公報(甲第1号証)
1-a.「【請求項1】 可塑剤を含む、柔軟性の高いポリ乳酸、または乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマー、またはポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸のポリマーの混合物を主成分とする熱可塑性分解性ポリマー組成物。
【請求項2】 可塑剤がフタル酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸エステル、ヒドロキシ多価カルボン酸エステル、脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、エポキシ系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、またはそれらの混合物である請求項1記載の組成物。
【請求項3】 ポリ乳酸がL-乳酸、D-乳酸、またはそれらの混合物から得られるものであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項4】 ヒドロキシカルボン酸がグリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸であることを特徴とする請求項1記載の組成物。」(特許請求の範囲の請求項1ないし4)
1-b.「熱可塑性で分解性のあるポリマーとして、乳酸とそのコポリマーが知られている。この乳酸ポリマーは、動物の体内で数カ月から1年のうちに100%生分解する。また、土壌や海水中におかれた場合、湿った環境下では数週間で分解を初め、約1年で消滅する。分解生成物は、乳酸と二酸化炭素と水ですべて無害である。」(段落【0006】)
1-c.「・・・従って本発明は、前記欠点を克服したフィルム、糸、パッケージ材料等、特に食品包装剤あるいは医科用途に用いることが出来るポリ乳酸を主成分とする柔軟性を持ったポリマー組成物を提供することを課題とする。」(段落【0015】)
1-d.「・・・L-乳酸、D-乳酸あるいはそれらの混合物を脱水縮合する・・・可塑剤を加えることによりポリマーに柔軟性を与えることができ、さらに、十分な柔軟性を与える量だけ添加量を増やしても、透明なポリマー成形物が得られる・・・」(段落【0016】)
1-e.「本発明に用いられるポリマーは、ポリ乳酸と他のヒドロキシカルボン酸のポリマーとの混合物、または乳酸と他のヒドロキシカルボン酸とのコポリマーである。他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ吉草酸、5-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸等が用いられる。」(段落【0017】)
1-f.「これらのポリマーは、乳酸、あるいは他のヒドロキシカルボン酸から直接脱水重縮合することによって合成した物でも良い・・・重合方法は、溶媒を用いる方法でも、溶媒を用いない方法でも良い・・・ポリマーの重合度は、150〜20,000が好ましい。これより低い重合度ではフィルム等の成形品にしたときの強度が小さく実用に適さない。」(段落【0018】〜【0023】
1-g.「添加する可塑剤は・・・通常ポリマー組成物に対して5〜50重量%用いられる。特に好ましくは、5〜20重量%である。・・・」(段落【0025】【0026】)
1-h.「・・・本発明のポリマー組成物は、可塑剤の他に安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤等の他の添加剤を含んでいても構わない。」(段落【0027】)

刊行物2:土肥義治編著 「生分解性高分子材料」株式会社工業調査会発行 初版第1刷 1990年11月9日 第281-296頁
2-a.図7.3(第284頁)には、「コポリ(乳酸/γ-ブチロラクトン)」が記載されている。
2-b.表7.3(第296頁)には、「生分解性ポリマーの用途」として、「農林業用材料 フィルム(温室ハウス用,地表被覆用など)」と記載されている。

刊行物3:特開平5-212790号公報
3-a.「【請求項1】 ポリ乳酸または乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマーを主成分とする熱可塑性ポリマー組成物からなるラベル用収縮フィルム。
【請求項2】 乳酸がL-乳酸、D-乳酸またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載のラベル用収縮フィルム。
【請求項3】 ヒドロキシカルボン酸がグリコール酸であることを特徴とする請求項1記載のラベル用収縮フィルム。
【請求項4】 一方方向に延伸したフィルム・・・。」(特許請求の範囲の請求項1ないし4)
3-b.「ポリマーの平均分子量は、1万から100万が好ましい。・・・」(段落【0011】)
3-c.「本発明の熱収縮フィルムを得るための延伸処理は、縦方向もしくは、横方向に少なくとも一方方向に延伸するものであって、好ましくは縦方向に延伸する。縦方向に延伸する際は通常ロール延伸機が使用され、予熱はポリ乳酸の融点(融点-20℃)以下の温度であり、延伸倍率は3.0〜7.0倍、好ましくは4.0〜6.0倍が選択される。・・・」(段落【0013】)

刊行物4:WO92/04412(甲第4号証)
刊行物4には、「2-ヒドロキシ酸、特にグリコール酸及び乳酸の、エステル化の環状ダイマー生成物及びヒドロキシ酸の高分子量重合体が、分解性であることは良く知られて」おり、「自然環境に存在する条件下で無害の副産物に実質的かつ容易に分解する」こと、「光学的透明性などの物理的特性をもたせることは望ましい」こと、「機械的引張り過程で配向しなければならない」こと、が記載されていると認められる。(第1-2頁)

刊行物5:特開平5-43638号公報
5-a.「水と接触しうる自然環境下にさらされることにより自重が減少する分解性ポリアセタール含有樹脂からなる分解性農業用フィルム。」(特許請求の範囲の請求項1)
5-b.「本発明における分解性ポリアセタール含有樹脂からなる農業用フィルムでは、予め、樹脂中に各種樹脂添加物を必要に応じて添加することが可能である。これら樹脂添加物としては、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、顔料等が挙げられる。・・・」(段落【0020】)
5-c.「本発明における分解性ポリアセタール含有樹脂からなる農業用フィルムは、・・・一軸延伸、二軸延伸等の延伸操作も採用可能である。」(段落【0021】)
上記の記載より、刊行物5にはつぎの発明(以下、「刊行物5の発明」という。)が記載されていると認められる。
「分解性ポリアセタール含有樹脂より成り、可塑剤及び紫外線吸収剤を添加し、一軸延伸を行った農業用フィルム。」

刊行物6:特開昭62-283136号公報
6-a.「紫外線吸収剤を含む農業用ポリエチレンテレフタレートフィルム・・・」(特許請求の範囲(第1頁左下欄第6-7行))
6-b.「紫外線吸収剤は1種あるいは2種以上併用して用いることができ、その使用量はポリエチレンテレフタート100重量部当り0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜2重量部である。」(第4ページ左下欄第10-13行)

刊行物7:特開昭61-106644号公報
7-a.「・・・透明ポリオレフィン系農業用フィルム」(特許請求の範囲(第1頁左下欄第11行))
7-b.「透明性はJIS-K-6714に準拠してヘイズメーターを用いて曇価・・・を測定しその尺度とした。」(第3ページ右上欄第10-12行)
7-c.表1(第5頁)によれば、実施例1〜6及び比較例1〜5の「曇価(%)」は、「2.5〜3.7」(実施例1〜6)及び「2.0〜3.7」(比較例1〜5)であると認められる。
(4)対比・判断-理由1(刊行物1の発明との対比・判断)
(4-1)本件発明1に対して
本件発明1と刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物1の発明」という。)とを対比すると、刊行物1の発明についてつぎのことがいえる。
(i)本件発明1が備える、「ポリ乳酸、または、乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー」の構成に関連する構成として、刊行物1の発明は、「ポリ乳酸、または乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマー」(摘記事項1-a.)の構成を備えている。上記の関連構成において、本件発明1と刊行物1の発明とは、「ポリ乳酸」の構成において共通している。さらに、択一的な構成である「(または、)乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー」(本件発明1)及び「(または)乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマー」(刊行物1の発明)の構成についても、刊行物1の発明では、「乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマー」における乳酸単位の占める割合は特定されていないが、「加水分解性を有する乳酸系ポリマーを主成分とした熱可塑性ポリマーからな」(本件明細書の段落【0001】)ることをその技術的課題とする本件発明1と同様に、刊行物1の発明も「ポリ乳酸を主成分とする」(摘記事項1-c.)「熱可塑性で分解性のあるポリマー」(摘記事項1-b.)をその技術的課題とするものであるから、刊行物1の発明が「分解」に寄与する乳酸単位を所定の割合以上有することは明らかであり、乳酸単位の占める割合を具体的に特定して「乳酸単位を40モル%以上有する」とした本件発明1と、具体的な特定をしていない刊行物1の発明とは、「乳酸と(その他の)ヒドロキシカルボン酸のコポリマー」の構成において実質的な差異があるとはいえない。そうすると、本件発明1と刊行物1の発明との上記した関連構成には実質的な差異はない。
(ii)刊行物1の発明は、「ポリマー組成物に対して5〜50重量%、特に好ましくは、5〜20重量%の可塑剤を添加する」(摘記事項1-g)ものであり、一方、本件発明1は「ポリ乳酸、または、乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー100重量部」に対して、「可塑剤1〜50重量部」を含むものである。そうすると、刊行物1の発明において「添加する」可塑剤の重量割合は本件発明1が含む可塑剤の重量割合と大きく重複しており、両者に実質的な差異があるとはいえない。
(iii)刊行物1の発明は「透明なポリマー成形物」(摘記事項1-d.)であり、「霞度(ヘイズ)が5%以下」である本件発明1と、透明である点で共通している。
(iv)刊行物1の発明は、「フィルムに用いることが出来る」(摘記事項1-c.)ものであるから、本件発明1と刊行物1の発明とは、「フィルム」である点で共通しているといえる。
そうすると、本件発明1と刊行物1の発明とは「ポリ乳酸、または、乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー、可塑剤および紫外線吸収剤を含む透明なフィルム」である点で少なくとも一致しており、さらに上記(i)ないし(iv)に記載した事項を勘案すると、両者は以下の点で相違すると認められ、その余の点においては実質的な差異は認められない。
A.フィルムの用途が、本件発明1は農業用であるのに対して、刊行物1の発明は農業用ではない点。
B.紫外線吸収剤を、本件発明1では、ポリ乳酸、または、乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー100重量部に対して0.001〜5重量部含むものであるのに対して、刊行物1の発明では、紫外線吸収剤の含有量は明らかでない点。
C.フィルムが、本件発明1では少なくとも一軸方向に1.1〜10倍延伸されている霞度(ヘイズ)が5%以下であるフィルムであるのに対して、刊行物1の発明ではフィルムの延伸の有無または程度は不明であり、霞度(ヘイズ)は明らかでない点。
上記の相違点について検討する。
A.の相違点について検討する。
刊行物1の発明は、「分解性のある」(摘記事項1-b.)フィルムであることをその技術的特徴とするものであるところ、「分解性のある」ことは、農業用フィルムに求められる技術的課題でもあることは広く知られている(例えば、刊行物2及び5があげられる。)。そうすると、農業用フィルムに求められる上記技術的課題を考慮して、刊行物1の発明に係るフィルムを農業用フィルムとして用いることは当業者が容易に想到することができたものである。
B.の相違点について検討する。
刊行物1の発明に係るフィルムを農業用フィルムとして用いることは当業者にとって容易であることは上記したとおりであるが、同刊行物1の発明が含む紫外線吸収剤の具体的な量については明らかではない。ところで紫外線吸収剤を含んだ農業用フィルムは周知であって、具体的な含有量も、刊行物6に、「ポリエチレンテレフタレート100重量部当り0.01〜5重量部の紫外線吸収剤を添加した農業用ポリエチレンテレフタレートフィルム」が記載されており、上記紫外線吸収剤の量は本件発明1の量とほぼ重複している。そうすると、刊行物6に記載された紫外線吸収剤の含有量を参酌して、ポリマー組成物100重量部当り0.001〜5重量部含むように構成することは、フィルム設計において当業者が適宜行う事項にすぎない。
C.の相違点について検討する。
刊行物1の発明に係るフィルムを農業用フィルムとして用いることは当業者にとって容易であることは上記したとおりであり、また農業用フィルムを一軸方向に延伸することは適宜行われている(例えば刊行物5があげられる。)。さらに一般的なフィルムの成形においても、該フィルムを一軸方向に延伸することは周知技術(例えば、刊行物3及び4があげられる。)であり、例えば上記刊行物3に係る周知技術は、刊行物1の発明と同様の「ポリ乳酸または乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマーを主成分とする熱可塑性ポリマー組成物からなるフィルム」(摘記事項3-a.)が、「3.0〜7.0倍、好ましくは4.0〜6.0倍」の「延伸倍率」で「一方方向に延伸」(摘記事項3-c.)されており、「延伸倍率」も本件発明1のそれと重複している。
ここで刊行物7を参酌すると、同刊行物7には、農業用フィルムの「曇価(%)」が2.5〜3.7(実施例1〜6)及び2.0〜3.7(比較例1〜5)である点が記載されており、上記「曇価(%)」は「ヘイズメーターを用いて測定」(摘記事項7-b.)されるもので、実質上、本件発明1の霞度(ヘイズ)と同一の概念のものであり、いずれの数値も本件発明1における霞度(ヘイズ)と重複している。
そうすると、刊行物1の発明におけるフィルムを一軸方向に延伸することとし、延伸の程度を本件発明1のように「少なくとも1.1〜10倍」とするとともに、透明度を、霞度(ヘイズ)が5%以下とすることは格別な困難性を伴うことではない。
そして、上記A.ないしC.の相違点を備えた本件発明1の効果も、刊行物1の発明並びに刊行物2ないし7に記載された技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本件発明1は、刊行物1の発明並びに刊行物2ないし7に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(4-2)本件発明2に対して
刊行物1の発明は、「ポリ乳酸、または乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマー、またはポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸のポリマーの混合物を主成分とする分解性ポリマー組成物より成るフィルム」であり、さらに同刊行物1には、「ポリ乳酸が、L-乳酸、D-乳酸、またはそれらの混合物から得られるもの」(摘記事項1-a.)であること、重合方法は、「溶媒を用いる方法でも良い」(摘記事項1-f.)こと、「これらのポリマーは、乳酸、あるいは他のヒドロキシカルボン酸から直接脱水重縮合することによって合成した物でも良い」(摘記事項1-f.)ことが記載されている。そうすると、刊行物1の発明は本件発明2の構成である「ポリ乳酸、または、乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマーが、実質的に水の非存在下で、L-乳酸、D-乳酸またはこれらの混合物、または、L-乳酸、D-乳酸またはこれらの混合物とヒドロキシカルボン酸を有機溶媒を含む反応混合物中で脱水縮合して得られた乳酸系ポリマー」の構成を実質的に開示しているということができる。
そこで、本件発明2と刊行物1の発明とを対比すると、両者は上記A.ないしC.の相違点に加えて次のD.の点で相違するものと認められる。
D.乳酸系ポリマーの重量平均分子量が、本件発明2は約100,000〜300,000であるのに対して、刊行物1の発明は、重量平均分子量は明らかではない点。
上記A.ないしC.の相違点については「(4-1)本件発明1に対して」において検討したとおりであるので、上記D.の相違点について検討する。
刊行物3には、刊行物1の発明と同様の「ポリ乳酸または乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマーを主成分とする熱可塑性ポリマー組成物からなるフィルム」(摘記事項3-a.)において、「ポリマーの平均分子量は、1万から100万が好ましい。」(摘記事項3-b.)ことが記載されている。なお、刊行物3に記載された上記「平均分子量」が「重量平均分子量」を一義的に表していることは同刊行物3に明記されていないが、刊行物3が教示する「平均分子量」の数値範囲は広範囲にわたるものであり、本件発明2の「重量平均分子量」の数値範囲を包含することは明らかである。そうすると、刊行物1の発明に係る乳酸系ポリマーの重量平均分子量を100,000〜300,000のようにすることは、上記乳酸系ポリマーを合成する際に当業者が適宜行う設計的事項であって、格別な困難性を伴うことではない。
そして、上記A.ないしD.の相違点を備えた本件発明2の効果も、刊行物1の発明並びに刊行物2ないし7に記載された技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本件発明2は、刊行物1の発明並びに刊行物2ないし7に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(4-3)本件発明3に対して
刊行物1には、「乳酸と他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー」において、「ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸が用いられる。」(摘記事項1-e.)ことが記載されている。
そこで、本件発明3と刊行物1の発明とを対比すると、両者は上記A.ないしD.の相違点に加えて次のE.の点で相違するものと認められる。
E.乳酸とグリコール酸のコポリマーが、本件発明3は乳酸単位を70モル%以上有するものであるのに対して、刊行物1の発明はコポリマーにおける乳酸単位の割合については明らかでない点。
上記A.ないしC.の相違点については「(4-1)本件発明1に対して」において、同じく上記D.の相違点については「(4-2)本件発明2に対して」において、それぞれ検討したとおりであるので、上記E.の相違点について検討する。
「(4-1)本件発明1に対して」の検討の中で(i)に記載したように、刊行物1の発明は、本件発明3と同様に、「ポリ乳酸を主成分とする」(摘記事項1-c.)「熱可塑性で分解性のあるポリマー」(摘記事項1-b.)をその技術的課題とするものであり、コポリマーにおける乳酸単位がフィルムの「分解」に寄与するものであることは当業者にとって明らかである。そうすると、刊行物1の発明における乳酸とグリコール酸のコポリマーにおいて、乳酸単位を所定の割合以上有するように構成することは当業者が適宜試行し、最適範囲として設定することであり、成形後のフィルムの分解性等の要件を考慮して、乳酸単位を70モル%以上とすることは格別困難なことではない。
そして、上記A.ないしE.の相違点を備えた本件発明3の効果も、刊行物1の発明並びに刊行物2ないし7に記載された技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本件発明3は、刊行物1の発明並びに刊行物2ないし7に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(4-4)本件発明4に対して
刊行物1には、「乳酸と他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー」において、「ヒドロキシカルボン酸として、6-ヒドロキシカプロン酸が用いられる。」(摘記事項1-e.)ことが記載されている。
そこで、本件発明4と刊行物1の発明とを対比すると、両者は上記A.ないしD.の相違点に加えて次のF.の点で相違するものと認められる。
F.乳酸と6-ヒドロキシカプロン酸のコポリマーが、本件発明4は乳酸単位を40〜70モル%有するものであるのに対して、刊行物1の発明はコポリマーにおける乳酸単位の割合については明らかでない点。
上記A.ないしC.の相違点については「(4-1)本件発明1に対して」において、同じく上記D.の相違点については「(4-2)本件発明2に対して」において、それぞれ検討したとおりであるので、上記F.の相違点について検討する。
上記したとおり刊行物1の発明は、本件発明4と同様に、「ポリ乳酸を主成分とする」(摘記事項1-c.)「熱可塑性で分解性のあるポリマー」(摘記事項1-b.)をその技術的課題とするものであり、コポリマーにおける乳酸単位がフィルムの「分解」に寄与するものであることは当業者にとって明らかである。そうすると、刊行物1の発明における乳酸と6-ヒドロキシカプロン酸のコポリマーにおいて、乳酸単位を所定の割合で有するように構成することは当業者が適宜試行し、最適範囲として設定することであり、成形後のフィルムの分解性等の要件を考慮して、乳酸単位を40〜70モル%以上とすることは格別困難なことではない。
そして、上記A.ないしD.及びF.の相違点を備えた本件発明4の効果も、刊行物1の発明並びに刊行物2ないし7に記載された技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本件発明4は、刊行物1の発明並びに刊行物2ないし7に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(5)対比・判断-理由2(刊行物5の発明との対比・判断)
(5-1)本件発明1に対して
本件発明1と刊行物5の発明とを対比すると、両者は共に農業用フィルムであって、可塑剤及び紫外線吸収剤を含み、一軸方向に延伸(刊行物5の摘記事項5-c.)されている点で一致しており、以下の点で相違すると認められる。
a.農業用フィルムが、本件発明1ではポリ乳酸、または、乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー100重量部、可塑剤1〜50重量部を含むものであるのに対して、刊行物5の発明では分解性ポリアセタール含有樹脂である点。
b.紫外線吸収剤を、本件発明1では、ポリ乳酸、または、乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー100重量部に対して0.001〜5重量部含むものであるのに対して、刊行物5の発明では紫外線吸収剤の量については明らかでない点。
c.農業用フィルムが、本件発明1では少なくとも一軸方向に1.1〜10倍延伸されている霞度(ヘイズ)が5%以下であるフィルムであるのに対して、刊行物5の発明では一軸方向に延伸されているが延伸の程度は明らかでなく、透明度については不明である点。
上記の相違点について検討する。
a.の相違点について検討する。
刊行物1には、「フィルム」(摘記事項1-c.)として用いられる、「ポリ乳酸、または乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマー、またはポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸のポリマーの混合物を主成分とする熱可塑性分解性ポリマー組成物」(摘記事項1-a.)が記載されており、「ポリ乳酸」よりなる点でa.の相違点の構成と共通している。さらに、a.の相違点において択一的に記載された「(または、)乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー」の構成に関連して、上記刊行物1において択一的に記載された、「(または)乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマー」の構成をみると、同刊行物1において、「乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマー」における乳酸単位の占める割合は特定されていないが、「コポリマー」における「乳酸」の技術的意義は、本件発明と同じく、「フィルム」に「分解性」(摘記事項1-b.)を付与することであるから、「乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマー」において、「分解」に寄与する乳酸単位が所定の割合以上含まれることは明らかである。そうすると、択一的に記載された両者の構成において、乳酸単位の占める割合を具体的に特定して「(または、)乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマー」とした構成と、具体的な特定をせずに「(または)乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマー」とした構成とは、実質上差異があるとはいえない。
また刊行物1には、「フィルム」を構成する「分解性ポリマー組成物」において、「ポリマー組成物に対して5〜50重量%、特に好ましくは、5〜20重量%の可塑剤を添加する」(摘記事項1-g)ことが記載されており、「添加する」可塑剤の重量割合は、本件発明1における「ポリ乳酸、または、乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー100重量部に対して、1〜50重量部」とした重量割合と大きく重複しており、両者に実質的な差異があるとはいえない。
そうすると、刊行物1はa.の相違点の構成を、択一的に記載された構成を含めて実質的に開示しているといえる。そして、刊行物5の発明に係る農業用フィルムと、刊行物1に記載されたフィルムとは、分解性を有することで共通しているから、刊行物5の発明に係る農業用フィルムを構成する「分解性樹脂」として、刊行物1に記載された「分解性ポリマー組成物」を適用することは十分に可能であり、また当業者が容易に想到することができたものである。
b.の相違点について検討する。
刊行物5の発明における農業用フィルムを構成する分解性樹脂として、刊行物1に記載された分解性のポリマー組成物を適用することは当業者にとって容易であることは上記したとおりであり、刊行物5の発明に係る農業用フィルムはもとより、刊行物1に記載された分解性のポリマーに係るフィルムも紫外線吸収剤を含むものである。また農業用フィルムが含有する紫外線吸収剤の具体的な量については刊行物6に、樹脂100重量部に対して紫外線吸収剤を0.01〜5重量部含有させることが記載されており、紫外線吸収剤の上記含有量は、本件発明1に含まれる紫外線吸収剤の量とほぼ重複している。そうすると、刊行物5の発明に、刊行物1に記載されたフィルム用の分解性のポリマーを適用するに際して、紫外線吸収剤の含有量を上記のように特定した点に格別な困難性はない。
c.の相違点について検討する。
刊行物5の発明における農業用フィルムを構成する分解性樹脂として、刊行物1に記載された分解性のポリマー組成物を適用することは当業者にとって容易であることは上記したとおりであるところ、同刊行物5の発明に係るフィルムの一軸方向の延伸の程度は明らかでない。しかし一般的なフィルムの成形において、フィルムを一軸方向に延伸することは周知技術(例えば、刊行物3及び4があげられる。)であり、例えば上記刊行物3に係る周知技術は、刊行物1の発明と同様の「ポリ乳酸または乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマーを主成分とする熱可塑性ポリマー組成物からなるフィルム」(摘記事項3-a.)において、「3.0〜7.0倍、好ましくは4.0〜6.0倍」の「延伸倍率」で「一方方向に延伸」(摘記事項3-c.)するものであり、上記「延伸倍率」は本件発明1のそれと重複している。
ここで、刊行物5の発明に刊行物1に記載された分解性のポリマー組成物を適用するに際して、該ポリマー組成物の透明度は明らかではない。そこで刊行物7を参酌すると、同刊行物7には、農業用フィルムの「曇価(%)」が2.5〜3.7(実施例1〜6)及び2.0〜3.7(比較例1〜5)である点が記載されており、上記「曇価(%)」は「ヘイズメーターを用いて測定」(摘記事項7-b.)されるもので、実質上、本件発明1の霞度(ヘイズ)と同一の概念のものであるとともに、上記「曇価(%)」はいずれも本件発明1における霞度(ヘイズ)と重複している。
そうすると、刊行物5の発明に、刊行物1に記載されたフィルム用の分解性のポリマー組成物を適用してフィルムを成形する際の一軸延伸の程度を少なくとも1.1〜10倍とするとともに霞度(ヘイズ)を5%以下とすることに格別な困難性はない。
そして、上記a.ないしc.の相違点を備えた本件発明1の効果も、刊行物5の発明及び刊行物1の発明並びに刊行物3、4、6、7に記載された技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本件発明1は、刊行物5の発明及び刊行物1の発明並びに刊行物3、4、6、7に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(5-2)本件発明2に対して
本件発明2と刊行物5の発明とを対比すると、両者は上記a.ないしc.の相違点に加えて次のd.の点で相違するものと認められる。
d.本件発明2は、ポリ乳酸、または、乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマーが、実質的に水の非存在下で、L-乳酸、D-乳酸またはこれらの混合物、または、L-乳酸、D-乳酸またはこれらの混合物とヒドロキシカルボン酸を有機溶媒を含む反応混合物中で脱水縮合して得られた重量平均分子量が約100,000〜300,000の乳酸系ポリマーであるのに対して、刊行物5の発明は、ポリ乳酸、または、乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマーを含むものではない点。
上記a.ないしc.の相違点については「(5-1)本件発明1について」において検討したとおりであるので、上記d.の相違点について検討する。
刊行物5の発明における農業用フィルムを構成する分解性樹脂として、刊行物1に記載された分解性のポリマー組成物を適用することは当業者にとって容易であることは上記したとおりであり、さらに刊行物1には、「ポリ乳酸が、L-乳酸、D-乳酸、またはそれらの混合物から得られるもの」(摘記事項1-a.)であること、重合方法は、「溶媒を用いる方法でも良い」(摘記事項1-f.)こと、「これらのポリマーは、乳酸、あるいは他のヒドロキシカルボン酸から直接脱水重縮合することによって合成した物でも良い」(摘記事項1-f.)ことが記載されている。そうすると、刊行物1の発明は本件発明2の構成である「ポリ乳酸、または、乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマーが、実質的に水の非存在下で、L-乳酸、D-乳酸またはこれらの混合物、または、L-乳酸、D-乳酸またはこれらの混合物とヒドロキシカルボン酸を有機溶媒を含む反応混合物中で脱水縮合して得られた乳酸系ポリマー」の構成を実質的に開示しているということができる。
また刊行物3には、刊行物1の発明と同様の「ポリ乳酸または乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマーを主成分とする熱可塑性ポリマー組成物からなるフィルム」(摘記事項3-a.)において、「ポリマーの平均分子量は、1万から100万が好ましい。」(摘記事項3-b.)ことが記載されている。そして、「(4-2)本件発明2に対して」に記載したように、刊行物3が教示する「平均分子量」の数値範囲は広範囲にわたるものであり、本件発明2の「重量平均分子量」の数値範囲を包含することは明らかである。
そうすると、刊行物5の発明に、刊行物1に記載された分解性のポリマー組成物を適用してフィルムを成形するに際して、乳酸系ポリマーの重量平均分子量を100,000〜300,000のようにすることは、格別困難なこととはいえず、当業者が適宜に実施し得る事項である。
そして、上記a.ないしd.の相違点を備えた本件発明2の効果も、刊行物5の発明及び刊行物1の発明並びに刊行物3、4、6、7に記載された技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本件発明2は、刊行物5の発明及び刊行物1の発明並びに刊行物3、4、6、7に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(5-3)本件発明3に対して
本件発明3と刊行物5の発明とを対比すると、両者は上記a.ないしd.の相違点に加えて次のe.の点で相違するものと認められる。
e.本件発明3は、コポリマーが、乳酸とグリコール酸のコポリマーであり、乳酸単位を70モル%以上有するものであるのに対して、刊行物5の発明は、乳酸とグリコール酸のコポリマーを含むものではなく、乳酸単位を70モル%以上有するものではない点。
上記a.ないしc.の相違点については「(5-1)本件発明1について」において、また上記d.の相違点については「(5-2)本件発明2について」において、それぞれ検討したとおりであるので、上記e.の相違点について検討する。
刊行物5の発明における農業用フィルムを構成する分解性樹脂として、刊行物1に記載された分解性のポリマー組成物を適用することは当業者にとって容易であることは上記したとおりであり、さらに刊行物1には、「ポリ乳酸と他のヒドロキシカルボン酸のポリマー」において、「ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸が用いられる。」(摘記事項1-e.)ことが記載されている。そして刊行物1の発明は、刊行物5の発明と同様に「分解性のあるポリマー」(摘記事項1-b.)であり、コポリマー中の乳酸単位がフィルムの「分解」に寄与するものであることは当業者にとって明らかである。そうすると、刊行物5の発明における分解性樹脂に、刊行物1に記載された分解性のポリマー組成物を適用する際に、同刊行物1の発明におけるコポリマー中の乳酸単位を所定の割合以上とすることは、当業者が適宜試行し、最適範囲として設定することであり、成形後のフィルムの分解性等の要件を考慮して、70モル%以上とすることは格別困難なことではない。
そして、上記a.ないしe.の相違点を備えた本件発明3の効果も、刊行物5の発明及び刊行物1の発明並びに刊行物3、4、6、7に記載された技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本件発明3は、刊行物5の発明及び刊行物1の発明並びに刊行物3、4、6、7に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(5-4)本件発明4に対して
本件発明4と刊行物5に記載された発明とを対比すると、両者は上記a.ないしd.の相違点に加えて次のf.の点で相違するものと認められる。
f.本件発明4は、コポリマーが、乳酸と6-ヒドロキシカプロン酸のコポリマーであり、乳酸単位を40〜70モル%有するものであるのに対して、刊行物5に記載された発明は、乳酸と6-ヒドロキシカプロン酸のコポリマーを含むものではなく、乳酸単位を40〜70モル%有するものではない点。
上記a.ないしc.の相違点については「(5-1)本件発明1について」において、また上記d.の相違点については「(5-2)本件発明2について」において、それぞれ検討したとおりであるので、上記f.の相違点について検討する。
刊行物5の発明における農業用フィルムを構成する分解性樹脂として、刊行物1に記載された分解性のポリマー組成物を適用することは当業者にとって容易であることは上記したとおりであり、さらに刊行物1には、「ポリ乳酸と他のヒドロキシカルボン酸のポリマー」において、「ヒドロキシカルボン酸として、6-ヒドロキシカプロン酸が用いられる。」(摘記事項1-e.)ことが記載されている。そして、上記したとおり刊行物1の発明は、刊行物5の発明と同様に「分解性のあるポリマー」(摘記事項1-b.)であり、コポリマー中の乳酸単位がフィルムの「分解」に寄与するものであることは当業者にとって明らかである。そうすると、刊行物5の発明における分解性樹脂に、刊行物1に記載された分解性のポリマー組成物を適用する際に、同刊行物1の発明における乳酸と6-ヒドロキシカプロン酸のコポリマー中の乳酸単位を所定の割合とすることは、当業者が適宜試行し、最適範囲として設定することであり、成形後のフィルムの分解性等の要件を考慮して、40〜70モル%とすることは格別困難なことではない。
そして、上記a.ないしd.及びf.の相違点を備えた本件発明4の効果も、刊行物5の発明及び刊行物1の発明並びに刊行物3、4、6、7に記載された技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本件発明4は、刊行物5の発明及び刊行物1の発明並びに刊行物3、4、6、7に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(6)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし4についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
農業用フィルム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリ乳酸、または、乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー100重量部、可塑剤1〜50重量部および紫外線吸収剤0.001〜5重量部を含み、少なくとも一軸方向に1.1〜10倍延伸されている霞度(ヘイズ)が5%以下である農業用フィルム
【請求項2】ポリ乳酸、または、乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマーが、実質的に水の非存在下で、L-乳酸、D-乳酸またはこれらの混合物、または、L-乳酸、D-乳酸またはこれらの混合物とヒドロキシカルボン酸を有機溶媒を含む反応混合物中で脱水縮合して得られた重量平均分子量が約100,000〜300,000の乳酸系ポリマーであることを特徴とする請求項1記載の農業用フィルム。
【請求項3】コポリマーが、乳酸とグリコール酸のコポリマーであり、乳酸単位を70モル%以上有することを特徴とする請求項1または2記載の農業用フィルム。
【請求項4】コポリマーが、乳酸と6-ヒドロキシカプロン酸のコポリマーであり、乳酸単位を40〜70モル%有することを特徴とする請求項1または2記載の農業用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、施設園芸ハウスの外張り用、内張り用等、またはトンネルハウス用、マルチ栽培用フィルム等の農業用フィルムに関するものである。さらに詳しくは、加水分解性を有する乳酸系ポリマーを主成分とした熱可塑性ポリマーからなり、透明性が優れ、使用中はカビや病害虫の発生がなく、且つ廃棄後自然環境下に蓄積することのない農業用フィルムに関する
ものである。
【0002】
【従来の技術】近年、農業用用途として、プラスチックフィルムが多用されている。例えば、施設園芸ハウスの外張り用、内張り用等、またはトンネルハウス用、マルチ栽培用フィルム等として使用されている。これらの農業用フィルムには、主として塩化ビニル系樹脂やオレフィン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂が用いられている。中でも塩化ビニル系樹脂フィルムは、年間約10万トンの生産量にのぼっている。
【0003】しかし、塩化ビニル系樹脂フィルムやエチレン系樹脂を含むオレフィン系樹脂フィルムは、自然環境下で分解しないか、または分解速度が極めて低いため、使用後放置されたり土中に埋設処理された場合、半永久的に地上や地中に残存することになる。また、海洋投棄された場合は、景観を損なったり、海洋生物の生活環境を破壊したりする。さらに、塩化ビニル系樹脂を焼却処理した場合、塩化水素ガス等の有害ガスが発生し、大気を汚染するだけでなく、焼却炉の劣化を促進するなど、消費の拡大と共に廃棄物処理が社会問題となっている。
【0004】このような廃棄物処理に対して、塩化ビニル系樹脂フィルムの場合は、他の樹脂と比較して使用後の回収システムが整備されている。しかし、回収システムが偏在するため末端ユーザーに十分に利用されるに至っていないのが実状である。また、回収フィルムの再生利用技術が確立されていないため、回収しても焼却処理を必要とする場合が多いのも実状である。
【0005】これらの問題を生じない分解性ポリマーを、農業用フィルムとして用いるための研究開発が多数行われている。例えば、特公昭51-48975号公報には、ポリオレフィンに直鎖高級脂肪酸直鎖高級アルコールエステルと、窒素、リン、若しくはカリウムの無機あるいは有機化合物を配合して成形することを特徴とする微生物分解性農業用フィルムが開示されている。
【0006】また、特公昭59-8365号公報には、高分子量ポリカプロラクトンと高分子量脂肪族ポリアミドとの混合物を、それらの融点以上で明確な融点降下を示すまで加熱溶融して得たエステル-アミド交換生成物を素材として成形された生分解性を有する農業用マルチフィルムが開示されている。ところが、いずれも分解速度を調整するのが困難で実用性には問題があった。
【0007】また、特開平3-259935号公報や特開平3-263441号公報には、エチレン-ビニルアルコール共重合体10〜90重量%とでんぷん90〜10重量%を主成分とする組成物からなる農業用マルチ栽培用フィルムが開示されるなど、近年、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の材料を、でんぷんとブレンドすることにより分解性を付与する試みがある。しかし、この方法では、でんぷんが分解して成形物は崩壊するが、非分解性のポリマー自体はそのまま残り、かえって環境の汚染を進めると言われている。またでんぷんを添加することで透明性が劣り光線透過率が低下するという問題や、でんぷんを水分の多い自然環境下にさらすことで、カビの発生や種々の病害虫の発生を促進するという問題が生じ、農業用用途での使用には問題が生じていた。
【0008】一方、従来よりポリ乳酸は、加水分解性ポリマーとして広く知られており、特公昭41-2734号公報に開示されているように医薬用の成形品としてポリ乳酸のフィラメントからなる生体吸収性の手術用縫合糸や、特開昭63-68155号公報に開示されているような骨接合用ピン等に利用されている。さらに、ポリ乳酸や乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマー等の乳酸系ポリマーが、近年上記のような医薬用途以外の使い捨て用途の分解性汎用材料の基本原料として応用が考えられている。しかし、ポリ乳酸を農業用フィルムの資材として使用する試みはまだされていない。これらのポリマーは透明性が極めて良好なだけでなく、カビ等の発生がないことからも、農業用用途での活躍が期待されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の問題を解決するため、自然環境下で分解可能で、且つ優れた透明性を有し、カビや病害虫の発生がない農業用フィルムを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討した結果、ポリ乳酸、または特定の組成を有する乳酸と他のヒドロキシカルボン酸コポリマーに特定量の可塑剤、紫外線吸収剤を配合したフィルムが分解性を有し、しかも優れた透明性と抗黴性を有することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】すなわち、本発明は、ポリ乳酸、または、乳酸単位を40モル%以上有する乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマー100重量部、可塑剤1〜50重量部および紫外線吸収剤0.001〜5重量部を含む農業用フィルムである。
【0012】本発明の農業用フィルムの特徴は、所定の期間は農業用フィルムとしての強度を保ち、使用後廃棄した場合に自然環境下で分解することにある。また、他の特徴は、優れた透明性と抗黴性を有することにある。農業用フィルムとして、例えば、施設園芸用ハウスに展張した場合、光線透過率が良好で作物の成育促進に極めて有効である。
【0013】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の農業用フィルムには、乳酸系ポリマーが使用される。本発明における乳酸系ポリマーは、分子中に繰り返し構造単位として乳酸単位を含有するポリマーであり、具体的には、ポリ乳酸、または、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸とのコポリマーである(以下、これらを総称して乳酸系ポリマーという)。
【0014】乳酸にはL-体とD-体とが存在するが、本発明において単に乳酸という場合は、特にことわりがない場合は、L-体とD-体との両者を指すこととする。また、ポリマーの分子量は特にことわりのない場合は重量平均分子量のことを指すものとする。
【0015】本発明に用いるポリ乳酸としては、構成単位がL-乳酸のみからなるポリ(L-乳酸)、D-乳酸のみからなるポリ(D-乳酸)、およびL-乳酸単位とD-乳酸単位とが種々の割合で存在するポリ(DL-乳酸)のいずれもが使用できる。
【0016】乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマーのヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ吉草酸、5-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。これらの内で、特にグリコール酸、6-ヒドロキシカプロン酸が好ましい。
【0017】上記ポリ乳酸および乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマーは、L-乳酸、D-乳酸およびヒドロキシカルボン酸の中から必要とするものを選んで原料モノマーまたはコモノマーとし、直接脱水重縮合することにより得ることができる。また、乳酸の環状二量体であるラクチド、およびグリコール酸の環状二量体であるグリコリド、カプロラクトン、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等の環状エステル類を開環重合することによっても得ることができる。
【0018】直接脱水縮合する場合は、乳酸または乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸を好ましくは有機溶媒、特にジフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは、共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより、本発明に適した強度を持つ高分子量の乳酸系ポリマーが得られる。
【0019】乳酸系ポリマーの分子量は、フィルムの加工性、得られる農業用フィルムの強度および分解性に影響を及ぼす。分子量が低いと得られるフィルムの強度が低下し、使用する際に張力で破断することがある。また、分解速度が速くなる。逆に高いと加工性が低下し、フィルム製膜が困難となる。かかる点を考慮すると、本発明に使用する乳酸系ポリマーの分子量は、約1万から約100万程度の範囲が好ましい。さらに好ましい範囲は、10万以上、30万以下である。
【0020】乳酸系ポリマーが、乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマーである場合のコポリマー中の乳酸単位の含有量は、フィルムの分解性に影響を及ぼす。かかる観点から、40モル%以上の乳酸単位を含有するコポリマーが好ましい。さらに好ましい乳酸単位の含有量は、乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマーが乳酸-グリコール酸コポリマーである場合は、70モル%以上の乳酸単位を含有するコポリマーである。また、乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマーが乳酸-6-ヒドロキシカプロン酸コポリマーである場合は、40〜70モル%の乳酸単位を含有するコポリマーがさらに好ましい。
【0021】本発明の農業用フィルムに用いる乳酸系ポリマーの最適な分子量や共重合体組成は、その使用用途における最長の展張期間に合わせて、既存または公知の乳酸系ポリマーに関する加水分解性データから考慮して決定される。
【0022】本発明らの知見によれば、後述する可塑剤、紫外線吸収剤等の添加剤が配合された乳酸系ポリマー組成物から得られるフィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の汎用ポリマー、およびエチレン-ビニルアルコール共重合体等にでんぷんを加えた樹脂組成物から得られたフィルムに比し、表面に黴が発生しない利点があり、透明性が要求される農業用フィルムとして適するものである。
【0023】上記基体となる乳酸系ポリマーに、適度な柔軟性を付与するために、乳酸系ポリマーに可塑剤を配合する。可塑剤としては、ジ-n-オクチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジベンジルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジウンデシルフタレート等のフタル酸誘導体、ジオクチルイソフタレート等のイソフタル酸誘導体、ジ-n-ブチルアジペート、ジオクチルアジペート等のアジピン酸誘導体、ジ-n-ブチルマレエート等のマレイン酸誘導体、トリ-n-ブチルシトレート等のクエン酸誘導体、モノブチルイタコネート等のイタコン酸誘導体、ブチルオレート等のオレイン酸誘導体、グリセリンモノリシノレート等のリシノール酸誘導体、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート等のリン酸エステルなどの低分子化合物、ポリエチレンアジペート、ポリアクリレートなどの高分子可塑剤等が挙げられる。
【0024】これらの可塑剤の内、好ましい可塑剤としては、トリアセチン(グリセリントリアセテート)および重合度2〜10程度の乳酸オリゴマー等が挙げられる。好ましい可塑剤含有量は、乳酸系ポリマー100重量部に対し1〜50重量部であり、さらに好ましくは5〜20重量部である。
【0025】また、本発明者らの知見によれば、乳酸系ポリマーを屋外で使用した場合、通常屋内や暗所、或いは生体内で使用した場合に比べて明らかに早く強度低下をきたし、脆化、破壊等の現象が期待したよりも早い時期に起こり得ることがわかっている。本発明でいう農業用フィルムは、その使用目的から当然ほとんどの場合屋外で使用されることから、農業用フィルムの使用条件は光分解を起こし易い条件であるといえる。
【0026】このような光分解現象を抑制、防止するため、本発明の農業用フィルムには、主成分となる乳酸系ポリマーに紫外線吸収剤や光安定剤を添加、混合したものが好ましい。紫外線吸収剤とは、破壊的な高エネルギーをもつ波長250〜380nmの範囲の紫外線を吸収し、非破壊的な波長に変えて再輻射するものであり、光安定剤とは、必ずしも紫外線を吸収するわけではなく、光劣化開始剤であるヒドロペルオキシドを非ラジカル的に分解したり、光分解で発生するラジカルを捕捉、除去したり等して何らかの機構で材料の光分解を抑制するものである。
【0027】本発明で使用する紫外線吸収剤および光安定剤には、フェニルサリシレート、p-tert-ブチルフェニルサリシレート等のサリチル酸誘導体、
【0028】2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、4-ドデシロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン等のベンゾフェノン類、
【0029】2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’-(3”,4”,5”,6”-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5’-メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等のベンゾトリアゾール類、
【0030】商品名SanduvorEPUやSanduvorVSU等で知られる蓚酸アニリド誘導体、2-エトキシ-5-tert-ブチル-2’-エチル蓚酸ビスアニリド、2-エトキシ-2-エチル蓚酸ビスアニリド、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、1,3-ビス-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)-2-プロピルアクリレート、1,3-ビス-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)-2-プロピルメタクリレート、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸、オルソ-ベンゾイル安息香酸メチル、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ニッケル・チトビスフェノール複合体、ニッケル含有有機光安定剤、バリウム、ナトリウム、リン含有の有機・無機複合体、セミカルバゾン系光安定剤、商品名Sanshade等で知られる酸化亜鉛系紫外線安定剤や相乗効果剤、
【0031】ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、1-[2-{3-(3,5-ジ-tert-4-ヒドロキシ-フェニル)プロピオニルオキシ}エチル]-4-{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、8-ベンジル-7,7,9,9-テトラメチル-3-オクチル-1,2,3-トリアザスピロ[4,5]ウンデカン-2,4-ジオン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、こはく酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、 ポリ[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]]、2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、テトラキシ(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとトリデシルアルコールとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとトリデシルアルコールとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート等のヒンダードアミン類が挙げられる。
【0032】紫外線吸収剤および/または光安定剤の含有量は、得られる農業用フィルムの耐候性、透明性等に影響を及ぼす。紫外線吸収剤および/または光安定剤の含有量が多いと乳酸系ポリマーが本来有する透明性等を低下させることがあるので好ましくない。また、少ないと農業用フィルムを展張した際に分解の促進を抑制する効果が十分に認められないので好ましくない。掛かる観点から、紫外線吸収剤および/または光安定剤の含有量は、乳酸系ポリマー100重量部に対し0.001〜5重量部であることが好ましい。さらに好ましくは0.01〜2重量部である。
【0033】本発明の農業用フィルムには、主成分である乳酸系ポリマーに、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤の他に、本発明の目的を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、充填剤、防曇剤、防霧剤、着色防止剤、顔料等の他の添加剤を含有させてもよい。
【0034】次いで、本発明の農業用フィルムの製造方法について説明する。乳酸系ポリマーに可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、必要に応じて、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、充填剤、防曇剤、防霧剤、着色防止剤、顔料等の他の添加剤を配合した後、公知の製膜方法により製膜する。
【0035】乳酸系ポリマーに可塑剤や紫外線吸収剤、光安定剤等を添加、混合する方法としては、ブレンダー等の配合機、混合機を用いる方法や、乳酸系ポリマーをクロロホルム等の溶媒に溶解するか、または乳酸系ポリマーを100〜280℃に加熱溶融させたところに、所定量の可塑剤や紫外線吸収剤等を添加、混合する方法が挙げられる。
【0036】上記各種の添加剤を含む乳酸系ポリマー組成物を製膜する方法としては、例えば溶液キャスト法、溶融押出法、カレンダー法等が挙げられる。溶液キャスト法は、溶媒としてクロロホルム、塩化メチレン、ベンゼン、アセトニトリル、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン等を用いて溶液とした後、平滑な面上にキャストし、溶媒を除去することにより行われる。
【0037】溶融押出成型する場合は、公知のTダイ法、インフレーション法等が適用される。押出温度は、好ましくは100〜280℃の範囲、より好ましくは130〜250℃の範囲である。カレンダー成型する場合は、通常公知の逆L型カレンダーやZ型カレンダーが用いられる。ロール温度は好ましくは、100〜280℃の範囲、より好ましくは130〜250℃の範囲である。成形温度が低いと成形安定性が得難く、また過負荷に陥り易い。逆に高いと乳酸系ポリマーが分解することがあり、分子量低下、強度低下、着色等が起こることがある。これらを総合的に勘案すると上記温度範囲が好ましい。
【0038】本発明の農業用フィルムは、上記のようにして得られたフィルムを、一軸方向に1.1〜10倍、好ましくは1.1〜7倍の延伸を行うことが好ましい。延伸は、一軸延伸でも二軸延伸でもよい。二軸延伸の場合は、一軸目の延伸と二軸目の延伸を逐次行っても、同時に行ってもよい。延伸倍率が低いと充分に満足し得る強度を有するフィルムが得難く、また高いと延伸時にフィルムが破れることが多くなり好ましくない。これらの現象を勘案すると延伸倍率は上記範囲であることが好ましい。
【0039】一軸延伸の場合は、ロール法による縦延伸またはテンターによる横延伸が例示される。二軸延伸の場合は、これらを組み合わせればよい。延伸温度は、用いる乳酸系ポリマーのガラス転移点(Tg)〜Tg+50℃の範囲が好ましい。さらに好ましくはTg〜Tg+30℃の範囲である。延伸温度がTg未満では延伸が困難であり、Tg+50℃を超えると延伸による強度向上が認められないことがある。
【0040】フィルムの厚さは特に制限はないが、10〜2000μm程度であり、好ましくは20〜500μm、さらに好ましくは50〜300μmである。用途によって適宜厚みは選定される。
【0041】
【実施例】以下、実施例を示して本発明についてさらに詳細に説明する。なお、この実施例で用いた試験方法は、以下の通りである。
(1)重量平均分子量(Mw)
クロロホルムに溶解させゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCという)によりポリスチレン換算の分子量を測定する。
(2)フィルムの透明性
ASTM-D1003に準拠して測定する。
(3)黴抵抗性
農業用フィルムとして屋外ハウスに張り、使用3ケ月後の変化を観察する。判定方法は下記の通り評価する。
○:試料に菌糸の発育が認められない。
×:試料に菌糸の発育が認められる。
(4)堆肥中分解性
農業用フィルムとして3ヶ月使用した試料フィルムを5×5cmにサンプリングし、温度35℃、相対湿度30%の堆肥中に2ケ月間埋設した後取り出し、下記の通り評価する。
○:手で握りしめるとフィルムが破損する。
×:手で握りしめてもフィルムが破損しない。
【0042】調製例1
90%L-乳酸10.0kgを150℃/50mmHgで3時間攪拌しながら水を留出させた後、錫末6.2gを加え、150℃/30mmHgでさらに2時間攪拌してオリゴマー化した。このオリゴマーに錫末28.8gとジフェニルエーテル21.1kgを加え、150℃/35mmHgで共沸脱水反応を行い留出した水と溶媒を水分離器で分離して溶媒のみを反応機に戻した。2時間後、反応機に戻す有機溶媒を4.6kgのモレキュラシーブ3Aを充填したカラムに通してから反応機に戻るようにして、150℃/35mmHgで40時間反応を行った。終了後、脱水したジフェニルエーテル44kgを加え希釈した後40℃まで冷却して、析出した結晶を濾過し、10kgのn-ヘキサンで3回洗浄して60℃/50mmHgで乾燥した。この粉末を0.5N-HCl12.0kgとエタノール12.0kgを加え、35℃で1時間攪拌した後濾過し、60℃/50mmHgで乾燥して、ポリマーを得た。このポリマーをペレット化機で処理しペレット状にしてポリ乳酸P-1を得た。上記方法により分子量を測定し、得られた結果を〔表1〕に示す。
【0043】調製例2〜4
調製例1の条件を〔表1〕に示す条件に変えた他は、調製例1と同様にして乳酸系ポリマーP-2〜P-4を得た。得られた結果を〔表1〕に示す。
【0044】
【表1】

【0045】実施例1〜4
調製例1〜4で得られた乳酸系ポリマーP-1〜P-4に対し、〔表2〕に示した重量比で可塑剤および紫外線吸収剤(共同薬品(株)製、バイオソープ130)を配合し、Tダイが装着された押出機を使用して押出成形しフィルムとした。次いで、得られたフィルムを実施例1〜4ではフィルムの長さ方向に3倍または4倍に一軸延伸し、実施例5ではフィルムの長さ方向および幅方向にそれぞれ2倍二軸延伸し、厚さ100μmの農業用フィルムA-1〜A-4を得た。得られた農業用フィルムの物性を上記方法により測定し、得られた結果を〔表2〕に示す。
【0046】比較例1実施例1で用いたポリマーの代わりに、でんぷんと変性ポリビニルアルコールを主成分とするマタービー(日本合成化学(株)商品名)を用いて、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。このフィルムをAH-1という。AH-1を実施例1と同様にして評価し、得られた結果を〔表2〕に示す。
【0047】比較例2
市販の三井ビニール(三井東圧化学(株)製、商品名:TR-CW、厚さ100μm、)をAH-2という。AH-2を実施例1と同様にして評価し、得られた結果を〔表2〕に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
【発明の効果】本発明の農業用フィルムは、分解性を有する乳酸系ポリマーを主原料とするため、使用後廃棄されても廃棄物として自然環境下に蓄積することがない。また、適度の強度と優れた透明性を有し、さらに黴発生抑止性を有するので、農業用フィルムとして有用である。そのため、これを展張した施設園芸用ハウス内等には多量の光線が透過し、栽培作物の成育に極めて有効である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-05-10 
出願番号 特願平5-323740
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (A01G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 渡戸 正義
渡部 葉子
登録日 2002-09-06 
登録番号 特許第3347440号(P3347440)
権利者 三井化学株式会社
発明の名称 農業用フィルム  

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