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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1122923
異議申立番号 異議2003-73381  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-24 
確定日 2005-08-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第3468246号「アスファルト改質用ブロック共重合体」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3468246号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3468246号の発明は、平成4年12月17日に特許出願され、平成15年9月5日にその特許権の設定登録がなされたものであり、その後、ジェイエスアール クレイトン エラストマー株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年6月13日に特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「(a)全ビニル芳香族化合物含有量が20〜50重量%、(b)ビニル芳香族化合物を主体とするブロック含有量が5〜30重量%であり、(c)前者に対する後者の比が0.2〜0.8のビニル芳香族化合物と共役ジエンとのブロック共重合体(但し、スズ系カップリング剤でカップリングされたブロック共重合体を除く)であって、更に(d)ビニル芳香族化合物を主体とするブロックが異なる分子鎖長を有する少くとも2個のビニル芳香族化合物を主体とするブロックよりなり、(e)最大鎖長に対する最小鎖長の比が0.1〜0.9、かつ(f)最小鎖長のビニル芳香族化合物を主体とするブロックの分子量が0.1〜1.0万であることを特徴とする、低温伸度に優れたアスファルト改質用熱可塑性エラストマー。」

3.特許異議申立についての判断
3-1.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第1、2号証を提出して、以下の理由により、本件請求項1に係る発明についての特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(1)本件請求項1に係る発明は、甲第2号証の記載事項を参酌すれば甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)本件請求項1に係る発明は、甲第2号証の記載事項を参酌すれば甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。

3-2.合議体の判断
3-2-1.取消理由
当審において通知した取消理由は、特許異議申立人の上記主張(2)の理由と同旨であり、引用した刊行物等は以下のとおりである。
<刊行物>
刊行物1:米国特許第5,100,939号明細書(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
参考資料1:V.D.Mochel”NMR COMPOSITION ANALYSIS OF COPOLYMERS,”American Chemical Society,Rubber Chemistry分科会での発表資料,1967年5月2-5日、カナダ・モントリオールで開催(同甲第2号証)

3-2-2.刊行物1及び参考資料1の記載内容
刊行物1
(1-1)「本発明は、比較のために本技術分野で周知の試験を用いて、公知のブレンドに比較して改良されたタフネス及び弾性を有する、特定のブロック共重合体を含有するアスファルトブレンドに関する。」(第1欄31〜35行)

(1-2)「クレーム9.
アスファルト結合剤をA-B-t-A型のテーパーブロック共重合体(Aブロックはモノビニル芳香族化合物から形成され、Bブロックは共役ジエンから形成されている)をブレンドすることを含むアスファルト組成物を形成する方法であって、テーパーブロック共重合体中の全モノビニル芳香族化合物の約20〜約90重量%が孤立している(isolated)、該方法。」(第14欄13〜20行)

(1-3)「クレーム14.
テーパーブロック共重合体のモノビニル芳香族部分が約5〜約50重量パーセントからなり、テーパーブロック共重合体の共役ジエン部分が約95〜約50重量パーセントからなるクレーム9に記載の方法。」(第14欄39〜44行)

(1-4)「本発明によるアスファルトブレンドは、アスファルト結合剤とテーパーブロック共重合体とバインダーの重量を基準として約1〜約18重量%のA-B-t-A型のテーパーA-B-Aブロック共重合体を含み、該テーパーブロック共重合体は、テーパーブロック共重合体中の全モノビニル芳香族化合物を基準として20〜90重量パーセントの孤立したモノビニル芳香族含量を有する。AブロックとBブロックの組成は上述の通りである。」(第1欄49〜59行)

(1-5)「A-B-t-A型のテーパーA-B-Aブロック共重合体とは、一方のAブロックがBブロックに直接結合しているか、又はBブロックのBリッチ部分に結合しており、BブロックはBリッチからもう一方のAブロックへ漸次かつ連続的な組成の変化を有する、ブロック共重合体である。2つのAブロックの分子量は同じであっても異なっていてもよい。A-B-t-A型のテーパーブロック共重合体は、純粋なブロック共重合体の形態、例えば、A-B又はA-B-A、A-t-B等の別の片側テーパーブロック共重合体、或いはA-t-B-t-A等の両側テーパーブロック共重合体と完全に区別することができる。」(第2欄21〜32行)

(1-6)「孤立したモノビニル芳香族化合物の含有量はテーパー度の尺度であり、含有量が高いほどテーパー度は高い。孤立したモノビニル芳香族化合物の含有 量 は 、Mochel(Rubber Chemistry and Technology、vol.40、p1200、1967)の方法により測定する。」(第2欄38〜44行)

(1-7)「種々の程度の孤立したモノビニル芳香族化合物含量のA-B-t-Aブロック共重合体を調製することができる。シクロヘキサン中でのA-B-t-Aブロック共重合体の合成は、通常、ブロック共重合体中の全モノビニル芳香族化合物の重量を基準として、全モノビニル芳香族化合物の20%未満の孤立した芳香族化合物を有するブロック共重合体をもたらす。孤立したモノビニル芳香族化合物含量は、極性溶媒及び/又は上述の極性非プロトン性化合物の使用により20%を越えて高めることができる。或いは、テーパーA-B-t-Aブロック共重合体は、Aブロックの相対的な分子量を第1のAブロックから第2のAブロック(このAブロックはBブロックとテーパーの関係にある)へ移すことにより高めることができる。このような移動は、上述の第1の重合においては少ないモノビニル芳香族化合物を用い、モノビニル芳香族化合物と共役ジエンの混合物の重合を含む第2の重合においては多くのモノビニル芳香族化合物を用いることにより達成することができる。」(第4欄21〜41行)

(1-8)「A-B-t-Aブロック共重合体の調製
手順F
本発明のブレンドに有用なA-B-t-A型のテーパーA-B-Aブロック共重合体を調製した。窒素パージしたエアタイト攪拌反応器に、1350mlの精製したシクロヘキサンを加えた。この容器に、33.5mlの精製したスチレンを添加した。そして、反応器中の反応混合物を55℃まで加熱し、3.12ミリモルのsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液を添加して、スチレンの重合を開始した。30分後、スチレンの重合が本質的に完了してから、精製したスチレン33.5mlと予備混合しておいた146グラムのブタジエンを添加した。添加すると、ブタジエンモノマーの大部分が重合し終るまでに反応混合物の非常に濃いオレンジ色がすぐに薄くなった。薄い黄色の溶液の色は再び濃い赤色になり、このことは第2のスチレンの重合が始まったことを示している。色変化の後30分間重合を進行させ、その後インプロピルアルコールを添加して重合を停止させた。
ブロック共重合体は半テーパーSBSトリブロックポリマーであった。プロトンNMR分析は、このポリマーはブタジエン69.1%、スチレン30.9%を含み、該スチレンの14.2%が孤立したスチレンであることを示した。
手順G
本発明のブレンドに有用なA-B-t-A型のテーパーA-B-Aブロック共重合体を調製した。第1のポリスチレンブロックの調製において25mlのスチレンモノマーを用い、第2のモノマー添加において42mlのスチレンをブタジエンと混合したことを除いて、手順Fを繰返した。回収した半テーパーSBSはブタジエン69.9%、スチレン30.1%を含み、該スチレンの22.8%が孤立したスチレンであった。」(第12欄11行〜53行)

(1-9)「ポリマーの少量の画分を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量測定のためにトルエン溶液から回収した。」(第6欄53〜56行)

(1-10)「C.延性(cm)をASSHTO法T51-81により測定した。この試験は、ブリケットサンプルの両端を一定のスピードと温度で引離した際に、破壊する直前までサンプルが伸びた距離を測定する。以下の表に示すデータは、多くの試験片について測定した高い値と低い値を報告する。この試験手順を用いるとこのような変化は通常生じる。」(第8欄25〜32行)

(1-11)「これらアスファルトブレンドは、高温で車の跡がつきにくいため、道路コーティング、即ち舗装に使用することができる。これらのブレンドは、クラックが発生しにくく壊れにくいため、低温においても有用である。これらアスファルトブレンドは、強い弾性、高い塑性間隔を示し、このことは、該アスファルトブレンドが、工業上のコーティング(コーティング、表面コート、アスファルトカバー)の製造又はカバーリング、フェルト、屋根板、ペイント等の産業上の用途、車底保護製品にも有益に用いることができることを意味する。これらはクラックシーラント、チップシーラント等にも使用することができる。」(第5欄60行〜第6欄4行)

(1-12)「本発明のアスファルト材料とテーパーブロック共重合体のブレンドは、先行技術のブレンドに比べてタフネスと弾性を改良した。高められたテーパーブロック共重合体を用いるブロック共重合体は、先行技術のブレンドに比べて更に改良されたタフネスと弾性を有する。」(第6欄5〜10行)

(1-13)「手順D
本発明のブレンドに有用なA-t-B-t-A型のテーパーA-B-Aブロック共重合体を調製した。窒素パージしたエアタイト攪拌反応器に、1350MLの精製したシクロヘキサンを加えた。この容器に、222mLの精製した1,3-ブタジエンと77.8mLの精製したスチレンを加えた。反応器中の反応混合物を50℃に加熱し、1.80ミリモルの二官能性有機リチウム開始剤溶液を添加してブタジエンとスチレンの共重合を開始した。二官能性開始剤は、米国特許第4,196,154号の記載された通りに調製した、1,3-フェニレンービス(3-メチル-1-フェニルペンチリデン)-ビスー(リチウム)のトルエン溶液であった。初期段階において、開始剤の濃い赤色が素早く薄い黄色に変化した。これは、重合されたモノマーは大部分がブタジエンであったことを示す。反応混合物の温度は、重合開始後1時間内に約73℃まで上昇した。その後すぐに、薄い黄色溶液は更に濃い赤色になった。これは、スチレンの重合が始まったことを示す。第2の温度上昇が観察された。色の変化後30分間重合を進め、インプロピルアルコールを添加して重合を停止させた。得られたブロック共重合体はテーパーSBSトリブロックポリマーであった。gpcで決定した重量平均分子量は178000であった。プロトンNMR分析の結果、ポリマーは64.2%のブタジエンと35.8%のスチレンを含有し、(35.8%の)スチレンの16.7%が孤立したスチレンであった。このテーパーブロック共重合体を使用したブレンドをサンプルNo.1とした。
手順E
本発明のブレンドに有用なA-t-B-t-A型の(テーパー度を)高めたテーパーA-B-Aブロック共重合体を調製した。1.24ミリモルの開始剤を用い、開始剤添加直前に0.062ミリモルのPMDETAを添加した以外は、手順Dの重合を繰返した。得られたテーパーSBSは、gpcによる重量平均分子量が293000で、69.3%のブタジエンと29.3%のスチレンからなる組成物であった。孤立したスチレンの量は、tert-トリアミン添加の結果として約17%から29.3%に高められた。このテーパーブロック共重合体を使用したブレンドをサンプルNo.2とした。
-中略-

」(第9欄42行〜第10欄末行)

(1-14)「実施例2
手順Eにより調製したテーパーブロック共重合体を用いて本発明のブレンドを比較例において概説したように調製した。但し、使用した開始剤と非プロトン添加剤の種類及び/又は量を変えた。ブレンドにおいて、結合剤と共重合体の重量を基準にして、3重量%のテーパーブロック共重合体を使用した。上述したAASHTO T51-81に従い延性を測定し、ASTM法D1238-82条件200/5.0によりメルトフローレートを測定した。Kraton1101(上述)を使用したブレンドと、ストレートアスファルト(エクソン・ケミカル・カンパニーによるベイタウンアスファルト)も試験した。ブレンドの物理特性を表4に示す。

」(第11欄9〜38行)

参考資料1:
(2-1)「序論
アニオン共重合は、共重合体の組成と形態におけるかなりの変化をもたらし、それが物理的特性と用途に甚大な影響を及ぼした。高分解能核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、近年、組成物の解明とポリマーの構造の重要なツールとなってきた。ポリマーの分析におけるNMRの最も高い可能性は、おそらくタクティシティーと配列の分布の研究において実現されるであろう。これらの観点は、本稿で簡略に討論する。」(第1200頁)
(2-2)「ブロックスチレン含量については、式(1)〜(4)を用いて得られた3パーセントより大きい結果は、鎖の切断に四酸化オスミウムを用いる化学的方法で得られた結果と非常によく一致する。」(第1205頁)
(2-3)「

」(第1205頁)

3-2-3.対比・判断
刊行物1には、「改良されたタフネス及び弾性を有する、特定のブロック共重合体を含有するアスファルトブレンドに関する」(摘示記載(1-1))発明について記載されており、そのクレーム9には「アスファルト結合剤をA-B-t-A型のテーパーブロック共重合体(Aブロックはモノビニル芳香族化合物から形成され、Bブロックは共役ジエンから形成されている)をブレンドすることを含むアスファルト組成物を形成する方法であって、テーパーブロック共重合体中の全モノビニル芳香族化合物の約20〜約90重量%が孤立している(isolated)、該方法」(摘示記載(1-2))が記載されている。これらの記載からみると、刊行物1には、「モノビニル芳香族化合物から形成されているAブロックと、共役ジエンから形成されているBブロックとからなるA-B-t-A型のテーパーブロック共重合体であって、該共重合体中の全モノビニル芳香族化合物の約20〜約90重量%が孤立している(isolated)アスファルト改質用テーパーブロック共重合体」の発明が記載されているものということができる。
更に刊行物1には、このテーパーブロック共重合体について、「A-B-t-A型のテーパーA-B-Aブロック共重合体とは、一方のAブロックがBブロックに直接結合しているか、又はBブロックのBリッチ部分に結合しており、BブロックはBリッチからもう一方のAブロックへ漸次かつ連続的な組成の変化を有する、ブロック共重合体である。2つのAブロックの分子量は同じであっても異なっていてもよい」(摘示記載(1-5))と記載されており、該テーパーブロック共重合体が、モノビニル芳香族化合物から形成された2つのAブロックと主として共役ジエンから形成されたBブロックを含むビニル芳香族化合物と共役ジエンとのブロック共重合体であり、2つのAブロックが異なる分子量を有する場合を含むものであることも記載されている。この2つのAブロックが異なる分子量を有する場合には、それぞれのブロックは異なる分子鎖長を有することになるものと解され、また、刊行物1には、テーパーブロック共重合体が「スズ系カップリング剤でカップリングされた」ものであることは、特に規定されていない。
そうすると、本件発明と刊行物1の上記クレーム9等に記載された発明とは、ともに、
「ビニル芳香族化合物と共役ジエンとのブロック共重合体(但し、スズ系カップリング剤でカップリングされたブロック共重合体を除く)であって、更に(d)ビニル芳香族化合物を主体とするブロックが異なる分子鎖長を有する少くとも2個のビニル芳香族化合物を主体とするブロックよりなるアスファルト改質用ブロック共重合体」
である点で一致するが、本件発明における、
(あ)「(a)全ビニル芳香族化合物含有量が20〜50重量%」、
(い)「(b)ビニル芳香族化合物を主体とするブロック含有量が5〜30重量%」、
(う)「(c)前者((a)成分)に対する後者((b)成分)の比が0.2〜0.8」、
(え)「(e)最大鎖長に対する最小鎖長の比が0.1〜0.9」、及び、
(お)「(f)最小鎖長のビニル芳香族化合物を主体とするブロックの分子量が0.1〜1.0万」
という各数値限定、並びに、
(か)「低温伸度に優れ」ている点、及び、
(き)「熱可塑性エラストマー」である点
について、刊行物1には直接的に記載されていない点で、これらの発明の間には相違が認められる。
これらの数値限定(あ)〜(お)について特許異議申立人は、刊行物1のクレームに係る発明の実施例である手順F及び手順G(摘示記載(1-8))には、実質的に本件発明の(a)の値が記載されており、また、(b)、(c)、(e)及び(f)の値は、以下のとおり、手順F及び手順Gに記載された値に基づいて算出されるものと一致する旨主張している。
即ち、「孤立したスチレン含有量はAブロック以外に存在するスチレンの含有量である」ことを前提(特許異議申立書第15頁第12〜17行)とすれば、
(a)全ビニル芳香族化合物含有量は、ブロック共重合体中のスチレン含有量であるから、手順Fでは30.9重量%、手順Gでは30.1重量%であり、
(b)ビニル芳香族化合物を主体とするブロック含有量は、式
Aブロック中のスチレン含有量=(テーパー共重合体中の全スチレン重量)×(100-孤立化したスチレンの重量%)/100
で算出すると、手順Fでは26.5重量%、手順Gでは23.2重量%であり、
(c)前者((a)成分)に対する後者((b)成分)の比は、上記(a)、(b)の値の比から、手順Fでは0.86、手順Gでは0.77であり、
(e)最大鎖長に対する最小鎖長の比は、下記の式
第1スチレンブロックの重量平均分子量=(第1スチレン添加量ml)×(スチレンの比重)/(開始剤のモル数)、
第2スチレンブロックの重量平均分子量=S*(第2スチレン添加量ml)×(スチレンの比重)/(開始剤のモル数)、
但し、S*=(A-孤立したスチレン量)/A (ここで、A=100×(第2スチレン添加量)/(第1スチレン添加量+第2スチレン添加量))
から求めた第1、第2スチレンブロックの各重量平均分子量の比から算出すると、手順Fでは0.72、手順Gでは0.94であり、そして、
(f)最小鎖長のビニル芳香族族化合物を主体とするブロックの分子量は、上記式で求めたスチレンブロックの重量平均分子量から、 手順Fでは7200、手順Gでは7700である。

しかしながら、特許異議申立人が主張する「孤立したスチレン含有量はAブロック以外に存在するスチレンの含有量である」との前提に立った上記算出結果によっても、刊行物1に記載された手順Fでは(c)の値が本件発明(0.2〜0.8)の範囲外であり、また、手順Gでは(e)の値が本件発明(0.1〜0.9)の範囲外であって、いずれの手順においても本件発明の(a)、(b)、(c)、(e)及び(f)の要件を全て満足する共重合体は得られていないことが明らかであるから、これらの数値限定に係る相違点(あ)〜(お)以外の相違点(か)及び(き)について検討するまでもなく、本件発明が刊行物1に記載された発明であるということはできない。

特許異議申立人は更に、刊行物1に「シクロヘキサン中でのA-B-t-Aブロック共重合体の合成は、通常、ブロック共重合体中の全モノビニル芳香族化合物の重量を基準として、全モノビニル芳香族化合物の20%未満の孤立した芳香族化合物を有するブロック共重合体をもたらす。孤立したモノビニル芳香族化合物含有量は、極性溶媒及び/又は上述の極性非プロトン性化合物の使用量により20%を超えて高めることができる」(摘示記載(1-7))との記載があり、また、手順Eに「孤立したスチレンの量は、tert-トリアミン添加の結果として約17%から29.3%に高められた」(摘示記載(1-13))との記載があることを根拠として、極性溶媒又は極性非プロトン性化合物の使用により孤立した芳香族化合物の含有量を高めること、即ち、Aブロック中のスチレン含有量を減らして本件発明における(c)の値を下げることは当業者が容易になし得るところであるから、上記のように手順Fにおける(c)の値0.86を本件発明(0.2〜0.8)の範囲内とする点に困難性はない旨主張している。
しかしながら、このように刊行物1にはAブロック中のスチレン含有量を相対的に減らす手段は示されているが、それによって共重合体の物性がどのように変化するのかということについては何らの記載もなく、そのような必要性については結局何の教示もないのであるから、この点が容易であるとはいうことはできない。
また、上記のように、手順Gについては、本件発明の(e)の要件を満たすようにすることを示唆する記載は刊行物1からは見いだせない。
これに対して本件発明は、本件明細書に「全ビニル芳香族化合物に対するビニル芳香族化合物を主体とするブロックの比(c)が0.2未満である場合、アスファルト配合物とした時、タフネス・テナシティーなどの充分な機械強度が得られず、また、0.8を越える場合においても伸度が不足する」(段落【0022】)及び「その最大鎖長に対する最小鎖長の比は0.1〜0.9の範囲(e)に限定される。この比が0.1未満の場合には他のアスファルト性能が十分に発現され得ず、0.9を超える場合には、一般に、ビニル芳香族化合物を主体とするブロックの凝集力が高くなり、アスファルト物性における本発明の目的である伸度改良効果が発現され難い」(段落【0026】〜【0027】)と記載されており、また、実施例と比較例をまとめた表3にはブロックスチレン含量/全スチレン含量が同じでも最小ブロック分子量/最大ブロック分子量の比が本件発明の(e)を満足する実施例5とそうでない比較例6では低温(7℃及び10℃)伸度が前者の方が優れることが示されているところからみて、少なくとも(c)と(e)の両要件を満足することで、低温特性の改善等の顕著な作用効果を生ずるものと認められる。
してみれば、本件発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることもできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年制令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-08-01 
出願番号 特願平4-354742
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08F)
P 1 651・ 113- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 邦彦  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2003-09-05 
登録番号 特許第3468246号(P3468246)
権利者 日本エラストマー株式会社
発明の名称 アスファルト改質用ブロック共重合体  
代理人 一入 章夫  
代理人 武井 英夫  
代理人 清水 猛  
代理人 伊藤 穣  
代理人 大崎 勝真  
代理人 坪倉 道明  
代理人 鳴井 義夫  
代理人 川口 義雄  
代理人 小野 誠  

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