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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B09B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B09B
管理番号 1122938
異議申立番号 異議2003-72392  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-09-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-29 
確定日 2005-08-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第3391173号「飛灰中の重金属の固定化方法及び重金属固定化処理剤」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3391173号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 I.本件発明
本件請求項1〜10に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明10」という)。
「【請求項1】飛灰に水と、ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩を添加し、混練することを特徴とする飛灰中の重金属の固定化方法。
【請求項2】ピペラジン-N-カルボジチオ酸塩もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩が、アルカリ金属、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩がピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸ナトリウムであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩がピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】重金属が、鉛、水銀、クロム、カドミウム、亜鉛及び銅からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩からなる飛灰中の重金属固定化処理剤。
【請求項7】ピペラジン-N-カルボジチオ酸塩もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩が、アルカリ金属、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩であることを特徴とする請求項6に記載の飛灰中の重金属固定化処理剤。
【請求項8】ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩がピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸ナトリウムであることを特徴とする請求項7に記載の飛灰中の重金属固定化処理剤。
【請求項9】ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩がピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムであることを特徴とする請求項7に記載の飛灰中の重金属固定化処理剤。
【請求項10】重金属が、鉛、水銀、クロム、カドミウム、亜鉛及び銅からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれかに記載の飛灰中の重金属固定化処理剤。」

II.特許異議申立てについて
1.当審の取消理由通知の概要
当審の取消理由通知の概要は、請求項1〜10に係る発明は刊行物3に記載された発明であるか、また刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜10に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号、同条第2項の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものであるというものである。
2.特許異議申立の理由の概要
2-1.特許異議申立人中川健一(以下、「申立人A」という)の特許異議申立の理由の概要
申立人Aは、請求項1〜10に係る発明は甲第1〜7号証に記載された発明であるか、また甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜10に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号、同条第2項の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものである旨主張している。
2-2.特許異議申立人田辺尚矩(以下、「申立人B」という)の特許異議申立の理由の概要
申立人Bは、請求項1、5、6、10に係る発明は甲第1号証に記載された発明であり、また請求項1〜10に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、5、6、10に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものであり、また請求項1〜10に係る発明は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものである旨主張している。
2-3.特許異議申立人氏原さち(以下、「申立人C」という)の特許異議申立の理由の概要
申立人Cは、請求項1〜10に係る発明は甲第1、2号証に記載された発明であり、また請求項1〜10に係る発明は、甲第1〜11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜10に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号、同条第2項の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものである旨主張している。
2-4.特許異議申立人宮崎幸雄(以下、「申立人D」という)の特許異議申立の理由の概要
申立人Dは、請求項1〜10に係る発明は甲第1号証に記載された発明であり、また請求項1〜10に係る発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜10に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号、同条第2項の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものである旨主張している。
3.刊行物、甲各号証の記載内容
(1)刊行物1:「明治大学農学部研究報告第67号」明治大学農学部 第23〜30頁 (昭和59年12月20日):申立人A提出甲第5号証、申立人C提出甲第7号証、申立人D提出甲第4号証
(a)「2個のアミノ基を有する二級アミンのピペラジンよりピペラジンビスジチオカルバミン酸ナトリウムを合成し、種々の金属イオンとの反応を調べた。その結果、Cu2+、Co2+、Ni2+、Hg2+などとのキレートは、希薄溶液で沈殿を生じないで光散乱を示し、微量分析に応用できることが判明した。」(第24頁「緒言」)
(b)「次の構造式を有するものと考えられる。・・・略・・・Na2・Piperazine bis(dithiocarbamate)・4H2O(以下PipBDCと略す)この試薬についてカリウム塩、アンモニウム塩を合成したが、結晶水は含まれていなかった。」(第25頁第12〜13行)
(c)「この結晶はmp250℃以上であり、安定で、長期保存に耐えること、水溶液はアルカリ性で安定であるが、中性近辺で徐々に分解し、特にpH2以下で急激に分解する。」(第25頁第14〜15行)
(d)「吸収スペクトル:PipBDCはジエチルジチオカルバミン酸と反応する金属イオンに対して同様な反応を示した。水溶液にこの試薬を加えたときの外見上の変化はTable1に示す通りであった。ほとんどの反応生成物は白色の沈殿となったが、後述するように、Cu2+、Ni2+、Co2+、Hg2+などの希薄な水溶液では、生じるキレートがコロイド溶液となるために、長時間にわたって沈殿を生じないで着色状態を保っていた。」(第25頁第22〜26行)
(e)「PiBDCは多くの金属イオンと希薄溶液で反応し、沈殿を生じないが、強い光散乱性を有する溶液となる。」(第27頁下から第5〜4行)
(2)刊行物2:「環境施設」工業出版社 第58号 第2〜14頁(平成6年12月1日):申立人B提出甲第2号証
(a)「3.薬剤添加(液体キレート)混練法 飛灰の安定化処理法として、簡単かつ有効な方法を目標として開発されてきた。本方式は重金属固定化剤、凝集剤等の薬品、さらに必要に応じてpH調整剤を添加して加湿混練するもので、重金属類の溶出防止に十分な効果が得られる。」(第2頁右欄第22〜27行)
(b)「5.液体キレート(重金属固定剤)の種類 集塵灰の飛灰処理の方法の一つに液体キレートによる処理法(廃棄物処理法 施行令第4条に規定する薬剤処理に該当)がある。この薬剤処理用に用いられているカタログなどによると、表-3に示す3種類のものが代表的と見られる。」(第8頁左欄第1〜8行)
(c)第8頁表-3重金属固定剤液体キレートの種類と構造には、種類 ピロリジン系イオウ化合物 商品名 オリトールS-3000、種類 イミン系イオウ化合物 商品名 ニューエポルバ-500、種類 カルバミン酸系イオウ化合物 商品名 スミキレートAC-21Vが記載されている。
(d)「5-2 耐熱性液体キレート(ピロリジン系)の特徴 ・あらゆる金属と同時に結合し、水に不溶な重金属キレート化合物を作る。重金属のうち、特に結合力の強い順に並べると、Hg>Pb>Cd>Cu>Fe>Ni>Zn>Cr等になっている。・・・・ピロリジン系液体キレートは、耐熱性(約300℃)に優れ、直接燃焼排ガス中に噴霧して使用することが可能である。・・・・強度のアルカリ飛灰(pH12以上)でも、酸性物質などによる中和処理を必要とせず、直接オリートールSを混練するのみで強力なキレート化合物を形成し、特にPbイオンなどの再溶出性のない安定した重金属キレートとしての固定化が期待できる。・他のどの液体キレートよりも少ない使用量で、飛灰中の重金属(特に高アルカリ飛灰中のPb)を固定化するところから、極めて経済性に富んだ耐熱性液体キレートと言える。」(第8頁右欄第8行〜第10頁左欄第7行)
(3)刊行物3:特開平4-267982号公報:申立人A提出甲第2号証、申立人B提出甲第1号証、申立人C提出甲第2号証、申立人D提出甲第1号証
(a)「固体状物質に、金属捕集剤と水溶性高分子とを添加し、固体状物質中に存在する金属を固定化することを特徴とする固体状物質中の金属固定化方法。」(請求項1)
(b)「固体状物質が、飛灰、鉱滓、土壌、汚泥のいずれかである請求項1記載の固体状物質中の金属固定化方法。」(請求項2)
(c)「このため、本発明者等は、上記の如き各種の金属捕集剤を用いて固体状物質中の金属を固定化処理する方法を検討し、更に処理物が酸性雨等のようにpHが低い水にさらされた場合でも、固定化した金属が溶出する虞のない金属固定化方法の検討を行った。」(第2頁第2欄第7〜12行)
(d)「本発明方法は、特に飛灰 ・・・ 等の固体状物質中に存在する金属の固定化に有効である。」(第2頁第2欄第23〜25行)
(e)「本発明において用いる金属捕集剤としては、通常の廃水処理に用いられている金属捕集剤を用いることができる。例えば、ジチオカルバミン酸基(-CSSH基)またはその塩を有する化合物、チオール基(-SH基)を有する化合物、アミノ基及びカルボン酸基を有する化合物等が挙げられる。また一硫化ナトリウム、二硫化ナトリウム、三硫化ナトリウム、四硫化ナトリウム、五硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム等も金属捕集剤として用いることができる。」(第2頁第2欄第26〜31行)
(f)「上記ジチオカルバミン酸基またはその塩を有する化合物としてはポリアミン、ポリエチレンイミンと二硫化炭素との反応物が挙げられる。これらポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジブチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、トリブチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、テトラブチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン;フェニレンジアミン、o-,m-,p-キシレンジアミン、3,5-ジアミノクロロベンゼン、ジアミノフェニルエーテル、トリジン、m-トルイレンジアミン等の芳香族アミン;イミノビスプロピルアミン、モノメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、メラミン、1-アミノエチルピペラジン、ピペラジン、 3,3’-ジクロロベンジジン等が挙げられる。更にこれらのポリアミンとエピハロヒドリンとが重縮合した重縮合ポリアミンも使用できる。」(第2頁第2欄第35行〜第3頁第3欄第3行)
(g)「本発明方法は、特に水銀、カドミウム、亜鉛、銅、クロム・・・等やその化合物の固定化に優れ、これらを含む固体状物質の処理に好適である。」(第3頁第4欄第46〜50行)
(h)「実施例1・・・飛灰50gに、ポリエチレンイミン(平均分子量1000)に二硫化炭素を反応させて得たジチオカルボン酸基を有する金属捕集剤1gを水10gで希釈した水溶液を加え、65〜70℃で20分間充分混練した。混練後、ポリアクリルアミドの0.001重量%水溶液5gを加え、更に10分間混練した。・・・」(第4頁第5欄第4〜18行)
(i)「実施例2 ・・・飛灰50gに、硫化ナトリウム10gを水100gに溶解した水溶液5gを加え、65〜70℃で20分間充分混練した。混練後、アルギン酸ナトリウムの0.001重量%水溶液5gを加え、更に10分間混練した。・・・」(第4頁第5欄第19〜30行)
(j)「実施例7 ・・・飛灰(・・・)50gにポリエチレンイミン(平均分子量60000)に二硫化炭素を反応させて得たジチオカルバミン酸ナトリウム基を有する金属捕集剤1gを水10gに溶解した水溶液0.7gを添加し、30分間充分混練した。混練後、ポリアクリルアミド-ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体の四級化物の0.001重量%水溶液30gを加えて10分間混練した。・・・」(第4頁第6欄第41行〜第5頁第7欄第5行)
(k)「以上説明したように本発明方法は、金属捕集剤と水溶性高分子とを併用して飛灰、鉱滓、土壌、汚泥等の固体状物質中に存在する金属を固定化する方法を採用したことにより、固体状物質中の金属を確実に固定化することができる。また本発明方法により金属を固定化した固体状物質は、酸性雨等の低pHの水と接触した場合でも固定化された金属が遊離して溶出する虞がなく、きわめて安全性の高い金属固定化方法である。」(第5頁第7欄第8行〜第8欄第9行)
(4)申立人A提出甲第1号証:特開平3-231921号公報:申立人C提出甲第1号証
(a)「分子量500以下のポリアミン1分子当たりに対し、少なくとも1個のジチオカルボキシ基またはその塩を上記ポリアミンの活性水素と置換したN-置換基として有するポリアミン誘導体と、平均分子量5000以上のポリエチレンイミン1分子当たり、少なくとも1個のジチオカルボキシ基又はその塩を上記ポリエチレンイミンの活性水素と置換したN-置換基として有するポリエチレンイミン誘導体とからなることを特徴とする金属捕集剤」(請求項1)
(b)「請求項1記載の金属捕集剤を重金属を含む飛灰に添加して混練し、飛灰中の重金属を固定化することを特徴とする金属捕集方法。」(請求項2)
(c)「飛灰・・・に含まれる重金属を強固に固定化して金属の流出を防止することのできる金属捕集方法を提供することを目的とする。」(第2頁右下欄第7〜10行)
(c)「本発明において用いるポリアミン誘導体・・・は、・・・N-置換基として、少なくとも1個のジチオカルボキシ基:-CSSH又はその塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等 ・・・を有する化合物である。」(第3頁左上欄第5〜16行)
(d)「金属捕集剤を構成するポリアミン誘導体の骨格をなすポリアミンとしては・・・ピペラジン・・・が挙げられる。」(第3頁右上欄第9行〜左下欄第12行)
(e)「また本発明の金属捕集剤を用いて飛灰・・・中の重金属を固定するには、・・・金属捕集剤を含む水溶液を、飛灰・・・に添加して混練する・・・更に水を添加しても良い。」(第4頁左下欄第4〜100 行)
)と記載されている。
(f)「本発明金属捕集剤は水銀、カドミウム、鉛、亜鉛、銅、クロム(VI)・・・等の金属イオンは・・・効率良く捕集除去できる。」(第4頁左下欄第15〜19行)
(5)申立人A提出甲第2号証:特開平4-267982号公報:上記刊行物3
(6)申立人A提出甲第3号証:特開平5-50055号公報
(a)「分子量500以下のポリアミン1分子当たりに対し、少なくとも1個のジチオカルボキシ基またはその塩を、上記ポリアミンの活性水素と置換したN-置換基として有するポリアミン誘導体と、平均分子量5000以上のポリエチレンイミン1分子当たり、少なくとも1個のジチオカルボキシ基又はその塩を、上記ポリエチレンイミンの活性水素と置換したN-置換基として有するポリエチレンイミン誘導体とからなる金属捕集剤と、一硫化ナトリウム、ポリ硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウムよりなる硫化ナトリウム類、トリメルカプトトリアジン又はその塩類から選ばれた少なくとも一種とを固体状物質に添加して固体状物質中に存在する金属を固定化することを特徴とする固体状物質中の金属固定化方法。」(請求項1)
(b)「本発明は焼却灰、鉱滓、土壌、汚泥等の固体状物質中に存在する金属を固定化して固体状物質中からの金属の溶出を防止することのできる固体状物質中の金属固定化方法に関する。」(第2頁第1欄第21〜24行)
(c)「本発明において用いる金属捕集剤を構成する、ポリアミン誘導体、ポリエチレンイミン誘導体は、1級及び/又は2級アミノ基を有するポリアミン分子や、1級及び/又は2級アミノ基を有するポリエチレンイミン分子の窒素原子に結合する活性水素と置換したN-置換基として、少なくとも1個のジチオカルボキシ基:-CSSH又はその塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等(以下、ジチオカルボキシ基及びその塩をまとめて単にジチオカルボキシ基と呼ぶ)、を有する化合物である。このポリアミン誘導体、ポリエチレンイミン誘導体は、例えばポリアミンやポリエチレンイミンに二硫化炭素を反応せしめることにより得られるが、更に反応終了後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム等のアルカリで処理するか、或いは前記反応をアルカリの存在下で行ううことによりジチオカルボキシ基末端の活性水素をアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム等で置換することができる。ポリアミン、ポリエチレンイミン類と二硫化炭素との反応は溶媒、好ましくは水、アルコール中で30〜100℃で1〜10時間、特に40〜70℃で2〜5時間行うことが好ましい。」(第2頁第2欄第24〜45行)
(d)「上記ポリアミン誘導体の骨格をなすポリアミンとしては分子量500以下、特に好ましくは分子量60〜250のポリアミンが用いられる。このポリアミンとしては、・・・ピペラジン・・・等が挙げられる。」(第2頁第2欄第46行〜第3頁第3欄第14行)
(e)「本発明方法を適用し得る、金属を含む固体状物質としては、特に焼却灰、鉱滓、土壌、汚泥が好適である。焼却灰には、飛灰と残灰とがある。飛灰はゴミや産業廃棄物等の焼却に伴って発生する粉状の煤塵や、残灰処理における熔融炉から発生する煤塵を集塵したものであり、集塵方法により以下のように分類される。・・・固体状物質に添加して混練することが好ましい。」(第3頁第4欄第16〜36行)
(f)「また本発明方法は、特に水銀、カドミウム、亜鉛、銅、クロム、砒素、金、銀、白金、バナジウム、タリウム等やその化合物の固定化に優れ、これらを含む固体状物質の処理に好適である。」(第3頁第4欄第47〜50行)
(g)「また本発明方法により金属を固定化した固体状物質は、酸性雨等の低pHの水と接触した場合でも固定化された金属が遊離して溶出する虞がなく、きわめて安全性の高い金属固定化方法である。」(第6頁第10欄第20〜24行)
(7)申立人A提出甲第4号証:特開昭62-65788号公報:申立人B提出甲第3号証
(a)「1分子中に少なくとも1個のジチオカルボキシ基またはその塩類をN-置換基として有するポリアミン誘導体と、一硫化ナトリウム、ポリ硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウムの少なくとも1種とを金属イオンを含有する廃水に添加して廃水中の金属イオンを捕集除去することを特徴とする金属捕集方法。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「本発明者らは上記の点に鑑み鋭意研究した結果、少なくとも1個のジチオカルボキシ基又はその塩をN-置換基として有するポリアミン誘導体と一硫化ナトリウム、ポリ硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウムの少なくとも1種とを併用することにより、廃水中の金属イオンを最も効率よく、しかも確実に捕集除去し得ることを見出し本発明を完成するに至った。」(第2頁左上欄第17行〜右上欄第3行)
(c)「本発明において用いるポリアミン誘導体は、1級アミノ基および/または2級アミノ基を有するポリアミン分子中の窒素原子に結合する活性水素と置換したN-置換基として少なくとも1個のジチオカルボキシ基:-CSSHまたはその塩類、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を有する化合物である。」(第2頁右上欄第13〜20行)( 2 ページ右上欄、1 6〜1 9 行)」
(d)「上記ポリアミン類としては例えば、・・・ピペラジン・・・等が用いられる。」(第2頁左下欄第13行〜右下欄第10行)
(e)「本発明において用いられるポリアミン誘導体は単独でも金属捕集剤として用いられ得るが、硫化ナトリウム類と併用した場合、生成するフロックが更に大きく、フロックの沈澱に要する時間を短縮でき、廃水中の金属イオンをきわめて効率よく捕集除去できる。」(第3頁右上欄第16行〜左下欄第1行)
(f)「本発明方法によれば水銀、カドミウム、亜鉛、鉛、銅、クロム・・・等を効率良く捕集して除去することが できる。」(第3頁右下欄第3〜6行)
(8)申立人A提出甲第5号証:「明治大学農学部研究報告第67号」明治大学農学部 第23〜30頁 (昭和59年12月20日):上記刊行物1
(9)申立人A提出甲第6号証:「明治大学農学部研究報告」明治大学農学部 第67号 第31〜36頁 (昭和59年12月20日):申立人C提出甲第8号証、申立人D提出甲第5号証
(a)「2個のジチオカルボキシル基を有するキレート試薬による金属の微量分析の研究II」(表題)
(b)第33頁のTable1 合成されたキレート試薬の構造の中段に、K2-Piperazine bis(dithiocarbamate)(PipBDC)の構造式が記載されている。
(c)第34頁のTable2 Cu2+、Co2+、Ni2+とのキレート化合物の性質 a.Cu2+とのキレート化合物の性質に、試薬K2-PipBDCとCu2+との間に生じたキレートの性質が記載されている。
(10)申立人A提出甲第7号証:「化学の領域」南江堂 VOL.21 NO.3 第38〜44頁(昭和42年3月1日)
(a)「分析用有機試薬 ピロリジンジチオカルバミン酸」(表題)
(b)「K.Gleuらは7種のカルバミン酸誘導体(表1)を用いて金属イオンとの反応、試薬間の優劣を調べた。表1試薬はいずれも酸性において金属錯化合物を沈殿する。」(第38頁右欄〜第39頁左欄)
(c)第39頁表1.カルバミン酸誘導体には、「ピペラジンジ(ジチオカルバミン酸)Na2塩」が記載されている。
(11)申立人B提出甲第1号証:特開平4-267982号公報:上記刊行物3
(12)申立人B提出甲第2号証:「環境施設」工業出版社 第58号 第2〜14頁(平成6年12月1日):上記刊行物2
(13)申立人B提出甲第3号証:特開昭62-65788号公報:申立人A提出甲第4号証
(14)申立人B提出甲第4号証:特開平6-15280号公報
(a)「エチレンイミン二硫化炭素付加体或いはその塩の単独重合体及び/又はエチレンイミン二硫化炭素付加体或いはその塩とエチレンイミンとの共重合体よりなることを特徴とする金属捕集剤。」(請求項1)
(b)「請求項1記載の金属捕集剤を排水に添加して、排水中の金属を捕集除去することを特徴とする金属捕集方法。」(請求項2)
(c)「請求項1記載の金属捕集剤を焼却灰、鉱滓、土壌、汚泥から選ばれた廃固体物質に添加して、廃固体物質中の金属を捕集固定化することを特徴とする金属捕集方法。」(請求項3)
(d)「上記焼却灰には、飛灰と残灰とが含まれる。」(第3頁第4欄第36〜37行)
(15)申立人B提出甲第5号証:「Collection Czechoslov.Chem.Commun.」Vol.44(1979)p2487〜2493
(a)「試薬:表1のジチオカルバミン酸のアルカリ塩かアンモニウム塩は次のように作られる。水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム(1モル)を500mlの水に溶解し、これに対応する1モルのアミンを注意深く添加撹拌する。それから12〜16℃の1モルの二硫化炭素を滴下し添加する。」(第2488〜2489頁)
(b)第2488頁の表1には、K2(Pz(DTC)2)が記載されている。
(16)申立人B提出甲第6号証:「Spectrochimica Acta.」Vol.40A.No.4 p343〜346 (1984)
(a)第343頁左欄には、Pz(bis)dtcNa2の構造式が記載されている。
(b)第345頁Table4には、Pz(bis)dtcNa2・4.5H2Oの熱分析結果が記載されている。
(16)申立人B提出甲第7号証:特開昭61-249590号公報
(a)「ポリアミン類とエピハロヒドリンとが重縮合した重縮合ポリアミンの活性水素原子と置換した少なくとも1個のカルボジチオ酸基あるいはその塩類を置換基として有することを特徴とする金属捕集剤。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「このため廃水中の金属類を除去するための種々の方法が提案されており、」(第1頁右下欄第5〜6行)
(c)「上記ポリアミン類とは・・・ピペラジン・・・等が挙げられる。」(第2頁右下欄第14行〜第3頁左上欄第16行)
(17)申立人B提出甲第8号証:特開昭64-90083号公報
(a)「ポリアミン類とエピハロヒドリンとが重縮合した重縮合ポリアミンの活性水素原子と置換した少なくとも1個のジチオカルボキシ基及び/又はその塩類を置換基として有する金属捕集剤の水溶液を、重金属或いはその化合物を含有する土壌又は固体状廃棄物に添加し、土壌又は固体状廃棄物中の重金属或いはその化合物を不溶化することを特徴とする土壌又は固体状廃棄物中の重金属類の固定化方法。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「固体状廃棄物がEP灰或いは重金属スラッジである特許請求の範囲第1項記載の重金属の固定化方法。」(特許請求の範囲第2項)
(c)「上記ポリアミン類とは・・・ピペラジン・・・等が挙げられる。」(第2頁右下欄第6行〜第3頁左上欄第6行)
(18)申立人B提出甲第9号証:特開昭62-81478号公報
(a)「ポリアミン類1分子当り、該ポリアミン類の活性水素原子と置換した少なくとも1個の-(CH2)n-COOH基(ただしnは1〜4の整数)、-CH2CHRCOOH(ただしRはCH3又はCH3COOH)あるいはこれらの塩類と、少なくとも1個のジチオカルボキシ基あるいはその塩類とを置換基として有する金属捕集剤と、一硫化ナトリウム、ポリ硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウムの少なくとも1種とを金属イオンを含有する廃水に添加して廃水中の金属イオンを捕集除去することを特徴とする金属捕集方法。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「上記ポリアミン類とは・・・ピペラジン・・・等が挙げられる。」(第2頁右下欄第11行〜第3頁左上欄第13行)
(19)申立人B提出甲第10号証:特開平1-99679号公報
(a)「ポリアミン類1分子当り、該ポリアミン類の活性水素原子と置換した置換基として、-RX(ただしXはCOOH、Rは(CH2)n〔ただしnは1〜4の整数〕、-CH2CH(CH2)、又はCH2CH(CH2COOH))あるいはこれらの塩か、ヒドロキシアルキル基の少なくとも一方を少なくとも1個有し、且つ少なくとも1個のジチオカルボキシ基あるいはその塩類を置換基として有する金属捕集剤の水溶液を、重金属或いはその化合物を含有する土壌又は固体状廃棄物に添加し、土壌又は固体状廃棄物中の重金属或いはその化合物を不溶化することを特徴とする土壌又は固体状廃棄物中の重金属類の固定化方法。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「固体状廃棄物がEP灰或いは重金属スラッジである特許請求の範囲第1項記載の重金属の固定化方法。」(特許請求の範囲第2項)
(c)「上記ポリアミン類とは・・・ピペラジン・・・等が挙げられる。」(第2頁左下欄第20行〜第3頁左上欄第1行)
請求項1、請求項6)
(20)申立人C提出甲第1号証:特開平3-231921号公報:申立人A提出甲第1号証
(21)申立人C提出甲第2号証:上記刊行物3
(22)申立人C提出甲第3号証:「廃棄物学会誌」廃棄物学会Vol.5 No.1 p46〜59(1994)
(a)「東京都の飛灰対策の現状」(表題)
(b)第50頁表5 告示4方式の比較(1)には、「薬剤混練法(液体キレート)」が挙げられ、「処理技術の原理と特徴」の欄には、「キレートと飛灰中の重金属との反応により重金属を固定化する。運転が容易でイニシャルコストは安い。固化物から金属回収の可能性がある。(注:キレート以外の薬剤ではPb溶出抑制不十分)」ことが、「前処理」の欄には、「添加水は金属イオン溶出のため、10〜40%使用する。混練工程を通し、 pHを6〜10に維持する。」ことが、「組成(推奨値)」 の欄には、「強アルカリ飛灰にはpH調整剤添加。飛灰pH:10〜11 CaO:30〜60%」が、「その他」の欄には、「キレート剤は処理対象重金属だけでなくその他の重金属にも作用するので、添加量はトータル金属イオン量が基準となる。」 ことが記載されている。
(22)申立人C提出甲第4号証:「PPM」日本工業新聞社出版局 Vol.14 No.3 第37〜51頁 (昭和58年3月1日)
(a)「また重金属捕集剤は、水中の重金属イオンと反応して、水に不溶性のキレート錯体を形成するものでなければならない。キレート形成基としては、キレート樹脂と同様に、アミノ酸基(グリシン基、β-アラニン基、イミノジ酢酸基など)、ジチオカルバミン酸基、チオール基、ホスホメチルアミノ基、チオウレイド基などが知られている。金属イオンとの反応形式については、例えば低分子の強力なキレート化剤であるジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(DDTC:〔I〕は水中の金属イオンと反応して、(1)式に従って水に不溶性のキレート錯体〔II〕)を形成する。DDTCなどの高価な分析用試薬を重金属捕集剤として、廃水処理に使用するには、添加量も多くランニングコストが高くなるなどの問題がある。以下に、重金属廃水処理用に開発された高分子重金属捕集剤、例えばエポフロックL-1(ミヨシ油脂製)の基本性能と応用例について説明する。」(第37頁右欄第3行〜第38頁左欄第3行)
(b)「2.2.3.EP灰処理への利用 EP灰中には亜鉛、鉛、銅、カドミウム、クロム、および水銀などの有害重金属をかなり高濃度に含むため、これらを埋め立てなどの最終処分をするには、無害化処理が必要である。これまでEP灰処理については、・・・が、知られている。しかしながら、これらの方法はEP灰から重金属の溶出プロセス、および溶出液の重金属処理プロセスに相当の設備費とランニングコストがかかる。そこでEP灰をL-1で直接処理して、重金属をEP灰中に固定化し、無害化処理する方法が考えられる。・・・L-1添加処理後のEP灰の溶出値は、全て規制値以下であり、一般埋め立て処分が可能である。」(第44頁右欄第4行〜左欄第11行)
(23)申立人C提出甲第5号証:特開平1-218672号公報:申立人D提出甲第3号証
(a)「有害なガスおよび重金属類を含むダストを含有する焼却炉からの排ガスにアルカリ剤を添加することによって、前記排ガス中の有害ガスと反応させ、その反応物およびダストを飛灰として捕集し、このようにして捕集された前記重金属類を含有するアルカリ含有飛灰に、キレート化剤を添加しそして水分の存在下において混合し、得られた混合物中の液相のpHが12以下となるように前記水分の含有量を調整し、前記重金属類と前記キレート化剤との反応により生成したキレート化合物によって、前記アルカリ含有飛灰中の重金属類を、水に対し不溶化したことを特徴とする、アルカリ含有飛灰の処理方法。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「ごみ焼却炉からの排ガス中には、HCl、SOx等の有毒ガスおよびZn、Cd、Pb等の有害な重金属類を含むダストが含まれていること、前記有毒ガス成分を排ガス中から除去するために、ごみ焼却炉の煙道中等において、従来から排ガス中にアルカリ剤を添加することが行われていること、この場合集塵機で捕集された排ガス中の飛灰は、アルカリを含有している。」(第2頁左上欄第16行〜右上欄第5行)
(c)「前記キレート化剤として、ジチオカルバミン酸基、チオール基、ザンセート基、チオウレイド基等を有する化合物が使用され、」(第4頁左上欄第8〜14行)
(24)申立人C提出甲第6号証:特開昭62-65788号公報:申立人A提出甲第4号証、申立人B提出甲第3号証
(25)申立人C提出甲第7号証:「明治大学農学部研究報告第67号」明治大学農学部 第23〜30頁 (昭和59年12月20日):上記刊行物1
(26)申立人C提出甲第8号証:「明治大学農学部研究報告」明治大学農学部 第67号 第31〜36頁 (昭和59年12月20日):申立人A提出甲第6号証、申立人D提出甲第5号証
(27)申立人C提出甲第9号証:「Analytica Chimica Acta」280 p269〜277 (1993)
(a)「鉄、コバルト、ニッケル、銅、水銀及び鉛をピペラジノ-1,4-ビス(ジチオカルバメート)錯体として事前濃縮後、エネルギー分散型X線蛍光スペクトル分析による、水中の微量鉄、コバルト、ニッケル、銅、水銀及び鉛の同時定量」(表題)
(28)申立人C提出甲第10号証:「Spectrochimica Acta」Vol.40A No.4 p343〜346(1984):申立人B提出甲第6号証
(29)申立人C提出甲第11号証:「Spectrochimica Acta」Vol.28A p1943〜1947(1972)
(a)「N,N-ビス(ジチオカルボキシ)ピペラジン金属イオン錯体の分光測光の研究」(表題)
(b)「M(NO3)2,M=Mn(II),Fe(II),Co(II),Ni(II),Cu(II),Zn(II),Cd(II)及びHg(II),の溶液に、配位子の当モル溶液が加えられ、撹拌が1時間続けられた。沈殿物が集められ、数度、水、エタノール及びジエチルエーテルを用いて洗浄され、70℃で乾燥された。」(第1944頁第8〜12行)
(30)申立人D提出甲第1号証:特開平4-267982号公報:上記刊行物3
(31)申立人D提出甲第2号証:「PPM-1994/1」p39〜48
(a)「特集 ごみ焼却の難敵 飛灰[フライアッシュ] 対策 薬剤添加法による飛灰処理技術と実際例」(表題)
(b)「〔表7〕に飛灰の各種無害化処理方法の相対的な比較を示す。各処理方法にはそれぞれ特徴があるが、薬剤添加法は、強力なキレート結合の形成により、安全確実かつ簡単に重金属の溶出を完全に防止でき、設備費用および処理コストも安価で、重量変化は1.1〜1.3倍と少なく、また容量も約1/3まで減容化できるなどの大きな特徴をもっている。薬剤添加法では、いかに飛灰と薬剤を均一に練り混ぜることができるかがキーポイントになる。このため実際の飛灰処理にあたっては混練機が必要となる。」(第46頁右欄第4〜14行)
(c)第45頁表7飛灰中間処理方法の比較の薬剤添加法の欄には「飛灰に重金属固定剤を水とともに添加し、混練することにより、強力なキレート結合が形成され水に不溶性の高分子金属錯体を形成し、重金属を固定させる。」と記載されている。
(32)申立人D提出甲第3号証:特開平1-218672号公報:申立人C提出甲第5号証
(33)申立人D提出甲第4号証:「明治大学農学部研究報告第67号」明治大学農学部 第23〜30頁 (昭和59年12月20日):上記刊行物1
(34)申立人D提出甲第5号証:「明治大学農学部研究報告」明治大学農学部 第67号 第31〜36頁 (昭和59年12月20日):申立人A提出甲第6号証、申立人C提出甲第8号証
(35)申立人D提出甲第6号証:特開平6-79254号公報
(a)「所要量の水、及びトリス(ジチオカルボキシ)ジエチレントリアミン、又はN1,N2-ビス(ジチオカルボキシ)ジエチレントリアミン、若しくはそれらの塩とを、飛灰に添加し混練することを特徴とする飛灰の無害化処理方法。」(請求項1)
(b)「以上説明したように、本発明の飛灰無害化処理方法は、飛灰に水とキレート化剤としてトリス(ジチオカルボキシ)ジエチレントリアミン、N1,N2-ビス(ジチオカルボキシ)ジエチレントリアミン、又はそれらの塩を加えて混練することにより、飛灰中に含まれる重金属の雨水等への溶出をほぼ完全に防止することができる。」(第3頁第3欄第49行〜第4頁第5欄第2行)

4.対比・判断
4-1.本件発明1について
(1)刊行物3を主引例とする対比・判断
刊行物3の上記(3)(a)には、「固体状物質に、金属捕集剤と水溶性高分子とを添加し、固体状物質中に存在する金属を固定化することを特徴とする固体状物質中の金属固定化方法」が記載されている。
また、上記(3)(b)には、固体状物質が、「飛灰」であることが記載されている。
また、上記(3)(g)には、特に「水銀、カドミウム、亜鉛、銅、クロム等やその化合物の固定化に優れ」ていることが記載されている。
また、上記(3)(h)〜(j)には、「混練」することが記載されている。
これら記載を本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物3には、「飛灰に、金属捕集剤と水溶性高分子とを添加し、混練する飛灰中の水銀、カドミウム、亜鉛、銅、クロム等やその化合物の固定化方法」という発明が記載されていると云える。
そして、金属捕集剤として、「ジチオカルバミン酸基(-CSSH基)またはその塩を有する化合物」(上記(3)(e))が記載され、さらに、「ジチオカルバミン酸基またはその塩を有する化合物」として「ポリアミンと二硫化炭素との反応物」が挙げられ、ポリアミンとして「ピペラジン」(上記(3)(f))が挙げられているところから、本件発明1の「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」は、刊行物3記載の金属捕集剤の範囲内に、一応、包含されるものである。
そこで、本件発明1の「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」が刊行物3に発明として記載されているとすることができるかどうかを検討する。
本件明細書によれば、「飛灰処理に関しては、EP又はBF捕集等によるばいじん対策以外に、排ガス及びダイオキシン対策が必要であり、これらの対策によっては得られる飛灰の性状が大きく異なり、特に高アルカリ性飛灰においては重金属溶出量が多くなることが知られている。このような飛灰の重金属固定化のためには、従来の薬剤ではその使用量を大幅に増加するか、又は塩化第二鉄等のpH調整剤、又はセメント等の他の薬剤との併用法を取らざるを得ず、処理薬剤費が増大し、又は処理方法が複雑化する等の問題があった。さらに、前記ジチオカルバミン酸は、原料とするアミンによっては、pH調整剤との混練又は熱により分解するために、混練処理手順及び方法に十二分に配慮する必要があった。」(本件特許掲載公報第2頁第3欄第40行〜第4欄第3行)という発明が解決しようとする課題の中で、「本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩は、重金属に対するキレート能力が高く、高アルカリ性飛灰においても少量の添加量で重金属を固定化でき、かつ熱的に安定であることを見出し、本発明を完成するに至った。」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第9〜14行)、「本発明のピペラジンカルボジチオ酸としては、ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物として使用できる。」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第22〜25行)としたものであり、本件発明1の「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」は、本件明細書表2で示される重金属固定化能だけでなく、本件明細書表1で示される安定性を示すというものである。
すなわち、本件明細書表1では、本件発明1の「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」の範囲内の合成例1、2のピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸ナトリウム、ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムにおいては、65℃に加温しても、pH調整剤である塩化第二鉄を添加しても、硫化水素ガスを発生しないにもかかわらず、本件発明1の「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」の範囲外の、合成例3、4のエチレンジアミン-N,N’-ビスカルボジチオ酸ナトリウム、ジエチレントリアミン-N,N’,N’’-トリスカルボジチオ酸ナトリウムにおいては、両方の場合に硫化水素ガス発生するということが示されている。
これに対して、刊行物3には、金属捕集剤について「通常の廃水処理に用いられている金属捕集剤」(上記(3)(e))としており、「ジチオカルバミン酸基(-CSSH基)またはその塩を有する化合物、チオール基(-SH基)を有する化合物、アミノ基及びカルボン酸基を有する化合物、一硫化ナトリウム、二硫化ナトリウム、三硫化ナトリウム、四硫化ナトリウム、五硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム」(上記(3)(e))が挙げられておいる。
加えて、ポリアミンも「エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジブチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、トリブチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、テトラブチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン;フェニレンジアミン、o-,m-,p-キシレンジアミン、3,5-ジアミノクロロベンゼン、ジアミノフェニルエーテル、トリジン、m-トルイレンジアミン等の芳香族アミン;イミノビスプロピルアミン、モノメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、メラミン、1-アミノエチルピペラジン、ピペラジン、 3,3’-ジクロロベンジジン、これらのポリアミンとエピハロヒドリンとが重縮合した重縮合ポリアミン」(上記(3)(f))と多数が挙げられており、実施例も、「ポリエチレンイミンに二硫化炭素を反応させて得たジチオカルボン酸基を有する金属捕集剤」(上記(3)(h)(j))、「硫化ナトリウム」(上記(3)(i))である。してみると、本件発明1の「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」は刊行物3には具体的には記載されていないと云える。
さらに、刊行物3記載の発明の目的は、「更に処理物が酸性雨等のようにpHが低い水にさらされた場合でも、固定化した金属が溶出する虞のない金属固定化方法」(上記(3)(c))、「金属の固定化」(上記(3)(d))、「特に水銀、カドミウム、亜鉛、銅、クロム・・・等やその化合物の固定化」(上記(3)(g))、「酸性雨等の低pHの水と接触した場合でも固定化された金属が遊離して溶出する虞がなく、きわめて安全性の高い金属固定化」(上記(3)(k))という金属が遊離しないというものであり、上述の安定性、すなわち、65℃に加温しても、pH調整剤である塩化第二鉄を添加しても、硫化水素を発生しないということをも目的とするものではない。
そうすると、刊行物3には、刊行物3に記載される通常の廃水処理に用いられている金属捕集剤から適宜選択をし、刊行物3に記載された効果、すなわち金属が遊離しないという効果を奏する金属捕集剤が記載されている、とするのが自然であるから、刊行物3に記載された効果とは異質の効果、すなわち、飛灰中の重金属の固定化において硫化水素を発生しないという効果を奏する、例えば本件発明1の「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」までもが刊行物3に記載されているとすることはできないこと、を考慮すると、刊行物3には、上述したような本件発明1に特有の作用効果を奏する「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」までもが記載されているとすることはできない。
したがって、本件発明1は刊行物3に記載された発明ではない。

(2)刊行物1、2を主引例とする対比・判断
刊行物2の上記(2)(a)には、「重金属類の溶出防止に十分な効果が得られる飛灰の安定化処理法として、重金属固定化剤、凝集剤等の薬品、さらに必要に応じてpH調整剤を添加して加湿混練する処理法」が記載されていると云える。
上記(2)(b)には、「液体キレート(重金属固定剤)」が挙げられ、上記(2)(c)には、「ピロリジン系イオウ化合物」が挙げられ、「強度のアルカリ飛灰(pH12以上)でも、酸性物質などによる中和処理を必要とせず、直接オリートールSを混練する」ことが記載されている。
これら記載を本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物2には、「飛灰にピロリジン系イオウ化合物からなる重金属固定剤金属キレートを添加し、混練する重金属の溶出防止する飛灰の安定化方法」という発明(以下、「刊行物2発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件発明1と刊行物2発明とを対比すると、刊行物2発明の「重金属の溶出防止する飛灰の安定化方法」は、本件発明1の「飛灰中の重金属の固定化方法」に相当するから、両者は次の点で相違し、その余は一致している。
相違点:本件発明1では、「飛灰に水と、ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩を添加」しているのに対して、刊行物2発明では、「飛灰にピロリジン系イオウ化合物からなる重金属固定剤金属キレートを添加」している点
次にこの相違点を検討する。
刊行物1には、「2個のアミノ基を有する二級アミンのピペラジンより合成したピペラジンビスジチオカルバミン酸ナトリウムが、多くの金属イオンと希薄溶液で反応し、沈澱を生じない着色状態のコロイド溶液になる」ことは記載されているものの、「ピペラジンビスジチオカルバミン酸ナトリウム」が重金属固定剤としての用途を持つことは記載も示唆もされていないし、ましてや上記(1)で述べた「65℃に加温しても、pH調整剤である塩化第二鉄を添加しても、硫化水素を発生しない」という効果についても記載も示唆もされていない。
してみると、刊行物2に「カルバミン酸系イオウ化合物」という記載があることを勘案しても、上記相違点の構成は刊行物1、2から容易に想到することができたものであるとすることはできない。
そして、本件発明1は上記(1)で述べた効果を奏するから、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

(3)申立人Aの主張について
申立人Aは本件発明1について、(あ)申立人A提出甲第1〜3号証に記載された発明であり、(い)申立人A提出甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて容易になし得ることができる旨の主張をしているので、検討する。
(あ)について
(あ-1)申立人A提出甲第1号証について
申立人A提出甲第1号証の記載を本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、申立人A提出甲第1号証には、「飛灰に、ポリアミン誘導体とポリエチレンイミン誘導体とからなる金属捕集剤を添加し、混練する飛灰中の水銀、カドミウム、亜鉛、銅、クロム等金属イオンの固定化方法」という発明が記載されていると云える。
そして、「ポリアミン誘導体」として、「ジチオカルボキシ基(-CSSH基)又はその塩を有する化合物」(上記(4)(c))が記載され、さらに、「ポリアミン誘導体の骨格をなすポリアミン」として「ピペラジン」(上記(4)(d))が挙げられているところから、本件発明1の「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」は、申立人A提出甲第1号証記載の金属捕集剤の範囲内に、一応、包含されるものである。
しかしながら、上記(1)で述べたと同じ理由で、申立人A提出甲第1号証には、申立人A提出甲第1号証に記載される金属捕集剤から適宜選択をし、申立人A提出甲第1号証に記載された効果、すなわち金属の流出を防止するという効果を奏する金属捕集剤が記載されている、とするのが自然であるから、申立人A提出甲第1号証に記載された効果とは異質の効果、すなわち、飛灰中の重金属の固定化において硫化水素を発生しないという効果を奏する、例えば本件発明1の「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」までもが申立人A提出甲第1号証に記載されているとすることはできないこと、を考慮すると、申立人A提出甲第1号証には、上述したような本件発明1に特有の作用効果を奏する「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」までもが記載されているとすることはできない。
したがって、本件発明1は申立人A提出甲第1号証に記載された発明ではない。
(あ-2)申立人A提出甲第2号証について
申立人A提出甲第2号証は刊行物3であるから、上記(1)と同じことが云え、本件発明1は申立人A提出甲第2号証に記載された発明ではない。
(あ-3)申立人A提出甲第3号証について
申立人A提出甲第3号証の記載を本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、申立人A提出甲第1号証には、「飛灰に、ポリアミン誘導体とポリエチレンイミン誘導体とからなる金属捕集剤と、一硫化ナトリウム、ポリ硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウムよりなる硫化ナトリウム類、トリメルカプトトリアジン又はその塩類から選ばれた少なくとも一種とを添加し、混練する飛灰中の水銀、カドミウム、亜鉛、銅、クロム等金属イオンの固定化方法」という発明が記載されていると云える。
そして、「ポリアミン誘導体」として、「ジチオカルボキシ基(-CSSH基)又はその塩を有する化合物」(上記(6)(c))が記載され、さらに、「ポリアミン誘導体の骨格をなすポリアミン」として「ピペラジン」(上記(6)(d))が挙げられているところから、本件発明1の「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」は、申立人A提出甲第3号証記載の金属捕集剤の範囲内に、一応、包含されるものである。
しかしながら、上記(1)で述べたと同じ理由で、申立人A提出甲第3号証には、申立人A提出甲第3号証に記載される金属捕集剤から適宜選択をし、申立人A提出甲第3号証に記載された効果、すなわち金属が遊離しないという効果を奏する金属捕集剤が記載されている、とするのが自然であるから、申立人A提出甲第3号証に記載された効果とは異質の効果、すなわち飛灰中の重金属の固定化において硫化水素を発生しないという効果を奏する、例えば本件発明1の「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」までもが申立人A提出甲第3号証に記載されているとすることはできないこと、を考慮すると、申立人A提出甲第3号証には、上述したような本件発明1に特有の作用効果を奏する「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」までもが記載されているとすることはできない。
したがって、本件発明1は申立人A提出甲第3号証に記載された発明ではない。
(い)について
進歩性を判断するにあたって、上記(あ)で述べたとおり、本件発明1が奏する異質な効果、すなわち飛灰中の重金属の固定化において硫化水素を発生しないという効果が、「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」を用いる場合に予測可能であったかどうかが重要である。
そこで、この観点で、申立人A提出甲第4〜7号証を検討する。
申立人A提出甲第4号証には、金属捕集ということは記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
申立人A提出甲第5号証は、刊行物1である。
申立人A提出甲第6号証には、K2-Piperrazine bis(dithiocarbamate)(PipBDC)というキレート化合物の性質が記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
申立人A提出甲第7号証には、ピロリジンジチオカルバミン酸という分析用有機試薬が金属を沈殿することや、ピペラジンジ(ジチオカルバミン酸)Na2塩が金属錯化合物を沈殿することが記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
結局、申立人A提出甲第1〜7号証からは、飛灰中の重金属の固定化において「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」を用いることによる上記の異質な効果を予測することができないため、本件発明1は、申立人A提出甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(4)申立人Bの主張について
申立人Bは本件発明1について、具体的には、(あ)申立人B提出甲第1号証に記載された発明であり、(い)申立人B提出甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて容易にない得る旨の主張をしているので、検討する。
(あ)について
申立人B提出甲第1号証は、刊行物3であるから、上記(1)と同じ理由で、本件発明1は申立人B提出甲第1号証に記載された発明ではない。
(い)について
上記(3)(い)で述べたとおり、本件発明1が奏する異質な効果、すなわち、飛灰中の重金属の固定化において「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」を用いることによる硫化水素を発生しないという効果が予測可能であったかどうかという観点で検討する。
申立人B提出甲第2号証は刊行物2である。
申立人B提出甲第3号証は申立人A提出甲第4号証である。
申立人B提出甲第4号証には、「エチレンイミン二硫化炭素付加体或いはその塩の単独重合体及び/又はエチレンイミン二硫化炭素付加体或いはその塩とエチレンイミンとの共重合体」よりなる金属捕集剤が記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
念のため申立人B提出甲第5〜10号証についても検討する。
申立人B提出甲第5号証には、「試薬 ジチオカルバミン酸のアルカリ塩かアンモニウム塩」の生成方法が記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
申立人B提出甲第6号証には、Pz(bis)dtcNa2・4.5H2Oの熱分析結果が記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
申立人B提出甲第7号証には、「ポリアミン類とエピハロヒドリンとが重縮合した重縮合ポリアミンの活性水素原子と置換した少なくとも1個のカルボジチオ酸基あるいはその塩類を置換基として有する金属捕集剤」が記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
申立人B提出甲第8号証には、「ポリアミン類とエピハロヒドリンとが重縮合した重縮合ポリアミンの活性水素原ジチオカルボキシ基及び/又はその塩類を置換基として有する金属捕集剤」が記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
申立人B提出甲第9号証には、「ポリアミン類1分子当り、該ポリアミン類の活性水素原子と置換した少なくとも1個の-(CH2)n-COOH基(ただしnは1〜4の整数)、-CH2CHRCOOH(ただしRはCH3又はCH3COOH)あるいはこれらの塩類と、少なくとも1個のジチオカルボキシ基あるいはその塩類とを置換基として有する金属捕集剤」が記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
申立人B提出甲第10号証には、「ポリアミン類1分子当り、該ポリアミン類の活性水素原子と置換した置換基として、-RX(ただしXはCOOH、Rは(CH2)n〔ただしnは1〜4の整数〕、-CH2CH(CH2)、又はCH2CH(CH2COOH))あるいはこれらの塩か、ヒドロキシアルキル基の少なくとも一方を少なくとも1個有し、且つ少なくとも1個のジチオカルボキシ基あるいはその塩類を置換基として有する金属捕集剤」が記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
結局、申立人B提出甲第1〜10号証からは、飛灰中の重金属の固定化において「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」を用いることによる上記の異質な効果を予測することができないため、本件発明1は、申立人B提出甲第1〜10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(5)申立人Cの主張について
申立人Cは、本件発明1は、(あ)申立人C提出甲第1、2号証に記載された発明であり、(い)申立人C提出甲第1〜11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
(あ)について
申立人C提出甲第1、2号証は、それぞれ申立人A提出甲第1号証、刊行物3である。
なお、申立人Cは参考資料1を提出して、本件発明1が顕著といえる程の効果を奏しない旨主張しているので検討する。
参考資料1は、Pb溶出濃度を0.3ppm以下とするに必要な水溶液添加量を試験したものである。
しかしながら、この水溶液添加量を測定することは、上記(1)で述べた本件発明1が奏する異質な効果が予測可能であることを立証するものではないから、申立人Cの主張は採用することができない。
したがって、本件発明1は申立人C提出甲第1、2号証に記載された発明とすることはできない。
(い)について
上記(3)(い)で述べたとおり、本件発明1が奏する異質な効果、すなわち、飛灰中の重金属の固定化において「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」を用いることによる硫化水素を発生しないという効果が予測可能であったかどうかという観点で検討する。
申立人C提出甲第3号証には、「薬剤混練法(液体キレート)」については記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
申立人C提出甲第4号証には、「ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(DDTC)」については記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
申立人C提出甲第5号証には、「ジチオカルバミン酸基」については記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
申立人C提出甲第6号証は申立人A提出甲第4号証である。
申立人C提出甲第7号証は刊行物1である。
申立人C提出甲第8号証は申立人A提出甲第6号証である。
申立人C提出甲第9号証には、「ピペラジノ-1,4-ビス(ジチオカルバメート)錯体」については記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
申立人C提出甲第10号証は申立人B提出甲第6号証である。
申立人C提出甲第11号証には、「N,N-ビス(ジチオカルボキシ)ピペラジン金属イオン錯体」については記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
結局、申立人C提出甲第1〜11号証からは、飛灰中の重金属の固定化において「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」を用いることによる上記の異質な効果を予測することができないため、本件発明1は、申立人C提出甲第1〜11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(6)申立人Dの主張について
申立人Dは、本件発明1は申立人D提出甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
上記(3)(い)で述べたとおり、本件発明1が奏する異質な効果、すなわち、飛灰中の重金属の固定化において「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」を用いることによる硫化水素を発生しないという効果が予測可能であったかどうかという観点で検討する。
申立人D提出甲第1号証は刊行物3である。
申立人D提出甲第2号証には、「薬剤添加法」については記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
申立人D提出甲第3号証は申立人C提出甲第5号証である。
申立人D提出甲第4号証は刊行物1である。
申立人D提出甲第5号証は申立人A提出甲第6号証である。
申立人D提出甲第6号証には、「トリス(ジチオカルボキシ)ジエチレントリアミン、又はN1 ,N2 -ビス(ジチオカルボキシ)ジエチレントリアミン、若しくはそれらの塩」については記載されているが、上記効果については記載も示唆もされていない。
結局、申立人D提出甲第1〜6号証からは、飛灰中の重金属の固定化において「ピペラジン-N-カルボジチオ酸又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方、又はこれらの混合物」を用いることによる上記の異質な効果を予測することができないため、本件発明1は、申立人D提出甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

4-2.本件発明2〜5
本件発明2〜5は、直接、間接に請求項1を引用しさらに限定した発明であるから、上記4-1.と同じ理由で、刊行物3に記載された発明とすることはできないし、また刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-3.本件発明6について
本件発明6は、本件発明1の「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」を用いた「飛灰中の重金属固定化方法」に使用されている「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」を「飛灰中の重金属固定化処理剤」とした物の発明であるが、新規性進歩性を検討する場合には、本件発明1と同じに、本件発明6の奏する異質の効果について検討する必要がある。
そして、この点については上記4-1.と同じことが云えるから、本件発明6は上記4-1.と同じ理由で、刊行物3に記載された発明とすることはできないし、また刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-4.本件発明7〜10
本件発明7〜10は、直接、間接に請求項6を引用しさらに限定した発明であるから、上記4-3.と同じ理由で、刊行物3に記載された発明とすることはできないし、また刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

III.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1〜10に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜10に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-07-27 
出願番号 特願平7-313845
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B09B)
P 1 651・ 113- Y (B09B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 野田 直人
岡田 和加子
登録日 2003-01-24 
登録番号 特許第3391173号(P3391173)
権利者 東ソー株式会社
発明の名称 飛灰中の重金属の固定化方法及び重金属固定化処理剤  
代理人 小花 弘路  
代理人 高野 弘晋  
代理人 高尾 裕之  
代理人 水野 勝文  
代理人 岸田 正行  

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