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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01D
管理番号 1123360
審判番号 無効2004-80184  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-10-12 
確定日 2005-07-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3300210号発明「農産物収穫機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3300210号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3300210号の特許請求の範囲請求項1ないし3に係る発明についての出願は、平成7年10月20日に出願され、平成14年4月19日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、松山株式会社より本件無効審判が請求され、平成16年12月27日に被請求人より答弁書と共に訂正請求書が提出され、さらに平成17年2月17日に請求人より弁駁書が提出されたものである。

2.請求人の主張
請求人は、下記の証拠方法を提示し、本件特許第3300210号の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1ないし4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の各発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである旨主張する。

甲第1号証:実願昭53-106918号(実開昭55-23066号) のマイクロフィルム
甲第2号証:実公昭43-26111号公報
甲第3号証:実願昭53-105956号(実開昭55-22251号) のマイクロフィルム
甲第4号証:実願平2-93870号(実開平4-52417号)
のマイクロフィルム
甲第5号証:実願平3-36208号(実開平5-70247号)
のCD-ROM
(なお、甲第5号証は、甲第1号証に記載のコンバインにおいて、走行体(クローラ)が前進及び後進可能であることが自明な事項であることを示すために、提示している。)

3.被請求人の主張
(1)「甲第1号証に記載のものは、接地車輪が設けられた受台がコンバイン本体の後部に「ステー(9)」を介して接続されるものであるから、本件発明の「前進及び後進可能な自走式走行装置を備えた農産物収穫機の機体後端部に、車輪を備えた車台における左右一対の連結部を、該車台が前傾状となる回動は許容するが後傾状となる回動は規制するように上下方向に回動可能に直結し」という構成(以下、「発明特定事項A」という)を具備していない」(平成16年12月27日付け審判事件答弁書5頁15-20行)、及び、「「発明特定事項A」は甲第2〜5号証にも開示又は示唆されていない。」(同審判事件答弁書6頁12、13行)
(2)「甲第1号証に記載のものは、コンバイン本体の後部に「ステー(9)」を介して接地車輪が設けられた受台が接続されているため、コンバイン本体の後進に対しては「ステー(9)」が屈折してスムーズな後進を行うことができない可能性があり、また、「ステー(9)」によって全長が長くなってしまうことで、旋回等において良好な走行性が得られないものである。」(同審判事件答弁書5頁下から3行-6頁2行)
(3)「甲第1号証に記載のものは、「排稈の回収袋を支持する受台の下部に接地車輪を設けると共にこの受台を上方にのみ回動可能とすることによって圃場の凸条件に車輪を追従せしめてコンバインの走行に対する負荷抵抗を軽減すると共に受台などの損傷を防止させ、加えて圃場の凹条件には追従させないで上記同様な作用をなさしめ作業性の向上を計らんとする」を課題とするものであって、機体前進時の安定性を狙ったものであり、機体の後進操作を安定化させることを狙った本件の請求項1に記載された発明とは技術思想自体が明らかに異なる。」(同審判事件答弁書6頁3-10行)
(4)「甲第2号証に記載のものは、農産物収穫機とは無関係の「農用小型運搬車」に関するものであって、機体の後方に荷台に収容された収穫物を排出するといった技術思想が全くないものである」(同審判事件答弁書6頁14-16行)

4.訂正請求について
4-1.訂正の内容
被請求人が求めている訂正の内容は、次のとおりである(下線部分が訂正個所である)。
(1)訂正事項a
特許明細書の特許請求の範囲に記載された「前進及び後進可能な自走式走行装置を備えた農産物収穫機の機体後端部に、車輪を備えた車台を、該車台が前傾状となる回動は許容するが後傾状となる回動は規制するように上下方向に回動可能に連結し、この車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合したことを特徴とする農産物収穫機。」を、
「前進及び後進可能な自走式走行装置を備えた農産物収穫機の機体後端部に、車輪を備えた車台における左右一対の連結部を、該車台が前傾状となる回動は許容するが後傾状となる回動は規制するように上下方向に回動可能に直結し、この車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際に後方にダンプ可能にしたことを特徴とする農産物収穫機。」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許明細書の段落【0004】に記載された「前進及び後進可能な自走式走行装置を備えた農産物収穫機の機体後端部に、車輪を備えた車台を、該車台が前傾状となる回動は許容するが後傾状となる回動は規制するように上下方向に回動可能に連結し、この車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合した」を、
「前進及び後進可能な自走式走行装置を備えた農産物収穫機の機体後端部に、車輪を備えた車台における左右一対の連結部を、該車台が前傾状となる回動は許容するが後傾状となる回動は規制するように上下方向に回動可能に直結し、この車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際に後方にダンプ可能にした」と訂正する。
(3)訂正事項c
特許明細書の段落【0007】に記載された「(1)自走式の農産物収穫機の後端部に、車輪を備えた車台を上下方向に回動可能に連結し」を、
「(1)自走式の農産物収穫機の後端部に、車輪を備えた車台を上下方向に回動可能に直結し」と訂正する。
(4)訂正事項d
特許明細書の段落【0013】に記載された「上記機体2の後端部下部左右両側には、後述する車台16を連結するための連結フレーム11,11が設けられている。」を、
「上記機体2の後端部下部左右両側には、後述する車台16を直結するための連結フレーム11,11が設けられている。」と訂正する。
(5)訂正事項e
特許明細書の段落【0027】に記載された「自走式の農産物収穫機の後端部に、車輪を備えた車台を上下方向に回動可能に連結し、」を、
「自走式の農産物収穫機の後端部に、車輪を備えた車台を上下方向に回動可能に直結し、」と訂正する。

4-2.訂正の適否
(1)上記訂正事項aについて
上記訂正事項aは、特許明細書において、「車台を」を「車台における左右一対の連結部を」と訂正して、車台における連結部の数を限定し、「連結」を下位概念の「直結」に訂正し、「荷台フレームを前記固定解除した際に後方にダンプ可能にし」という限定事項を追加訂正して、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記訂正事項aにおける「車台における左右一対の連結部を」については、特許明細書に、「【0013】上記機体2の後端部下部左右両側には、後述する車台16を連結するための連結フレーム11,11が設けられている。・・・連結フレーム11,11の上部には連結孔14,14が形成されており、この連結孔14,14に、・・・車台16から前方に突出した連結部17,17が、連結ピン18,18を介して上下方向に回動可能に連結される。」(本件特許公報2頁4欄30-40行)と記載されており、
また、「直結」については、特許明細書に、「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、根菜類を圃場から収穫する農産物収穫機の後端部に、・・・直結型の台車を連結した農産物収穫機に関する。」(本件特許公報1頁2欄1-6行)と記載されており、
さらに、「荷台フレームを前記固定解除した際に後方にダンプ可能にし」については、特許明細書に、「【0015】車台16には、荷台フレーム20が上下方向に回動してダンプ可能に支持されている。この荷台フレーム20は、車台16の後端部左右両側から下方に向け突出する連結フレーム21に対して、荷台フレーム20から下方に向け突出する連結フレーム22を、軸23を介して上下方向に回動自在に枢支したものである。荷台フレーム20の前端部の左右方向中央部分には、荷台フレーム20を、車台16に対して固定、固定解除するフック係合部24が設けられている。」(本件特許公報3頁5欄1-9行)、及び、「係合フック26とフック係合部24との係合を解除して、荷台フレーム20を軸23を中心に後方に向けダンプさせると、ダンパー33の弾発力によって荷台フレーム20はゆっくりとダンプするようになっている。」(本件特許公報3頁5欄32-36行)と記載されている。
したがって、上記訂正事項aによる訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)上記訂正事項bないしeについて
上記訂正事項bないしeは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

4-3.むすび
よって、本件訂正は、特許法第134条の2ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

5.無効理由について
5-1.本件発明
上記「4.訂正請求について」に示したように本件訂正が認められるから、本件の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1」「本件発明2」「本件発明3」という。)は、平成16年12月27日付けの訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】前進及び後進可能な自走式走行装置を備えた農産物収穫機の機体後端部に、車輪を備えた車台における左右一対の連結部を、該車台が前傾状となる回動は許容するが後傾状となる回動は規制するように上下方向に回動可能に直結し、この車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際に後方にダンプ可能にしたことを特徴とする農産物収穫機。
【請求項2】上記車台と荷台フレームとの間にダンパーを介装したことを特徴とする請求項1記載の農産物収穫機。
【請求項3】上記荷台フレームに対してコンテナ支持枠を着脱可能に設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の農産物収穫機。」

5-2.甲各号証記載の発明
(1)甲第1号証:実願昭53-106918号(実開昭55-23066号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1-a)「穀稈を刈取り脱穀調整し、脱穀処理済み排稈をコンバイン本体後方に搬送し処理するようにしたコンバインにおいて、該コンバイン本体の後方に、接地車輪を備えた処理排稈回収袋の受台を上方にのみ回動可能に設けたことを特徴としてなるコンバイン。」(1頁4-9行)
(1-b)「回収袋を支受する受台をコンバイン本体に直接または他物を介し間接的に設ける装置は本件出願人により提案されている。」(2頁5-8行)
(1-c)「受台がコンバイン本体に対して直接または間接的であっても固定されることは好ましいことではない。」(3頁2-4行)
(1-d)「図面について実施例の詳細を説明すると、(A)はコンバイン本体,(B)は刈取り装置,(C)は脱穀装置,(D)は排稈の処理装置,(E)は走行体である。」(4頁3-5行)
(1-e)「揚稈流路(5)から放出される細断排稈を回収する袋(7)の受台(8)を数本のステー(9)を介してコンバイン本体(A)の後部に接続した排稈の回収機構(Db)」(5頁1-4行)
(1-f)「上記受台(8)の前縁は上述した数本のステー(9)の後端に対して回動可能に軸支されており、特に第2図から明らかなように受台(8)の前端縁には上記各ステー(9)の下面に当接する上向きのストッパー部(11)が設けてあり、従って受台(8)はステーに対して上方には軸支部を支点として上方には回動するが、下方にはストッパー部(11)がステー(9)の下面に度当りすることによる回動規制がなされるようにしてある。そしてまた上記受台(8)の下面には1個または複数個の接地車輪(12)が設けてある。」(5頁7行〜6頁1行)

上記記載及び図面の記載によると、引用文献1には、
「走行体(E)を備えたコンバイン本体(A)の後部に、接地車輪(12)を備えた処理排稈回収袋の受台(8)を、該受台(8)が上方のみ回動可能に数本のステー(9)を介して接続したコンバイン。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(2)甲第2号証:実公昭43-26111号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2-a)「次に本考案を図の実施例について説明すれば1は荷箱でその底部の略中央又はこれより稍々後方位置にブラケット2を突設しこれを農用牽引車aに連結しうるよう後部に連結具12を突出形成せしめた車体フレーム3の面上一部に貫挿した枢軸4に枢着させることにより荷箱1は一点にて枢着支持される。5は荷箱1の後端下部に基部を枢軸として枢着した掛止金具で先端の鉤部を車体フレーム3の一部に設けた固定金具6に掛止させることにより荷箱1を不動状態に車体フレーム3に定着せしめる。7は荷箱1の後端に突設した把手でこれに掛止金具5の操作レバー8を設けワイヤー9によりレバー8と掛止金具5とを連結せしめる。10は掛止金具5を掛止方向に弾圧させるよう荷箱1と掛止金具5との間に設けたスプリング11は車輪である。」(1頁左欄20-35行)
(2-b)「運搬車を連結具12を介して牽引車に連結するときは、先づ把手7のレバー8を握るとワイヤー9が引っ張られるので掛止金具5はスプリング10の牽引弾力に抗して固定金具6より外れる。この為荷箱1は底部の枢軸4を支点に自由となるから該支点が荷箱底部の中央より稍々後方の場合は積荷の重心が前方になるので荷箱1は自然に前方に傾斜し第2図鎖線のようになって積荷は自動的に排出される。」(1頁右欄2-10行)
(2-c)「牽引車に連結せしめたときには把手に設けたレバーの簡単な操作により掛止金具が外れ中央の一点で支持されている荷箱をダンプさせ内部の積荷を自然に排出させることができる。」(1頁右欄21-24行)
(2-d)「1端に手押用把手を備えた荷箱の底部略中央に突設したブラケットを、1端に牽引車に連結させる連結具を突出形成せしめた車体フレーム上に前後回動可能に枢着支持し荷箱の後端下部に掛止金具を枢着し、その先端鉤部を車体フレームの一部に設けた固定金具に掛脱自在に掛合させ、この掛止金具をワイヤーにより把手に設けた操作レバーと連結させた農用小型運搬車の荷箱ダンプ装置。」(1頁右欄29-37行 実用新案登録請求の範囲)

上記記載及び図面の記載によると、引用文献2には、
「牽引車に連結した車体フレーム3に対して前後に回動可能に荷箱1を枢着し、該荷箱1に基部を枢着した掛止金具5を車体フレーム3に設けた固定金具6に掛止め、掛止金具5を固定金具6より外して前記荷箱1を前方にダンプ可能にした、農用小型運搬車の荷箱ダンプ装置。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

(3)甲第3号証:実願昭53-105956号(実開昭55-22251号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。
(3-a)「牽引枠の後端部間に軸杆を架設し、この軸杆の両端部に車輪を設け、この車輪の内側の軸杆に載置台枠の中程を擺動自在に設け、この牽引枠の後端部寄りに復動型油圧ラムのロッドを枢着し、この復動型油圧ラムの端部を載置台枠の前部に枢着した事を特徴とする農作業用トレーラー。」(1頁 4-9行 実用新案登録請求の範囲)
(3-b)「牽引枠(1)の後端部間に軸杆(2)を架設し、この軸杆(2)の両端部に車輪(3)を設け、この車輪(3)の内側の軸杆(2)に載置台枠(4)の中程を擺動自在に設ける。この牽引枠(1)の後端部寄りに復動型油圧ラム(5)のロッド(6)を枢着し、この復動型油圧ラム(5)の端部(7)を載置台枠(4)の前部に枢着する。
図面は牽引枠(1)の中心杆(8)に復動型油圧ラム(5)のロッド(6)を枢着し、この復動型油圧ラム(5)の端部(7)を載置台枠(4)の前方杆(9)に枢着した場合を図示している。」(1頁下から2行-2頁8行)
(3-c)「この点本考案は牽引枠(1)の後端部寄りと載置台枠(4)の前部との間に復動型油圧ラム(5)を設けているから・・・載置台枠(4)を斜めにして、農作業機(13)を搭載せしめる場合には農作業機(13)が前方に移動して荷重が次第に前方に移動して行くと復動型油圧ラム(5)は端部(7)を支点として下方に移動すると共に復動型油圧ラム(5)のロッド(6)は荷重に充分耐え乍ら次第に没入して行くから載置台枠(4)は自然に下方に擺動して水平状態にする。逆に水平状態の載置台枠(4)から農作業機(13)を下す場合には荷重が後方に次第に移動した時には復動型油圧ラム(5)はロッド(6)の端部を支点として斜め上方に擺動すると共に復動型油圧ラム(5)のロッド(6)は荷重に充分耐え乍ら押し出されるから載置台枠(4)は・・・自然に下方に擺動することになる。
かように本考案は復動型油圧ラム(5)を使用しているから農作業機(13)を下す時も搭載する時も復動型油圧ラム(5)のロッド(6)は油圧に抗して没入したり、押し出されたりするから載置台枠(4)は自然に降下したり、上昇したりすることになり、この昇降下動作には衝撃が全然ないから農作業機(13)に衝撃を与えることがない。」(3頁6行-4頁下から2行)

上記記載及び図面の記載によると、引用文献3には、
「牽引枠(1)の後端部寄りと載置台枠(4)の前部との間に復動型油圧ラム(5)を設けた、農作業用トレーラー。」の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

(4)甲第4号証:実願平2-93870号 (実開平4-52417号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。
(4-a)「(1)自在車輪を下設した車台に芝刈機との牽引連結機構を付設し、車台上に枠支柱を立設すると共に、枠支柱に止着した網体で収納室を形成し、収納室前面部に芝刈機の排出ホース装着部を設け、収納室後面部に開閉可能とした排出部を形成してなることを特徴とする芝刈機用刈取草収納装置。」(実用新案登録請求の範囲)
(4-b)「本案は刈取った芝草を集めるために、芝刈機で牽引して芝刈を行いながら刈取った芝草を収納する装置に関するものである。」(1頁第13-15行)
(4-c)「本案収納装置は車台1,牽引機構2,収納室3の形成部材からなり、車台は枠状シャーシー11の上面にベース板12を熔着し、枠状シャーシー11の下方に・・・自在車輪13を下設し、枠状シャーシー11の上面部に杆孔14を設けると共に、杆孔14の側面側にピン孔15を穿ち、」(3頁末行-4頁5行)
(4-d)「収納室3の形成部材は縦杆31,横杆32,網体33,止着具34,・・・からなり、縦杆31は∩状に折曲し基端にはピン孔311を穿設する」(4頁下から5-2行)
(4-e)「収納室形成部材で収納室3を形成するには、第3図に示すように杆孔14に縦杆31を挿着して縦杆31を植立すると共に、縦杆31及び車台1の各ピン孔311,15にピン41を挿通して両者を一体化し、・・・収納室の骨組を形成し、・・・縦杆31とホース装着部材35を一体化する。而る後骨組内に網体33を入れ、第5図に示すように止着具34で網体33を、縦杆31及び横杆32に止着し、・・・収納室3が形成される。収納室3が形成されると、牽引機構2を車台1に装着する」(5頁11行-6頁6行)

(5)甲第5号証:実願平3-36208号 (実開平5-70247号)のCD-ROM (以下、「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。
(5-a)「【0001】【産業上の利用分野】本考案は自走式脱穀機における排藁排出装置に関するものであり、その自走式脱穀機は走行車台上に脱穀機の穀稈挟持横送装置を機体の進行方向に直交させて搭載するとともに、機体の排藁側に搬送ベルトと支承杆を上下に対設して前記穀稈挟持横送装置の搬送方向に向け排藁を受継いで株元側を挟扼し機体外側方に排出する排藁排出装置を備えた構成のものである。」
(5-b)「【0005】【作用】このように構成したので、機体を前進または後進させながら穀稈を穀稈挟持横送装置に供給して扱室内を横送させると穀稈は扱室内に内蔵された扱胴によって脱穀処理され、」

5-3.対比・判断
5-3-1.本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「走行体(E)」、「コンバイン本体(A)」、「接地車輪(12)」、「処理排稈回収袋の受台(8)」、「コンバイン」は、それぞれ、本件発明1の「自走式走行装置」、「農産物収穫機の機体」、「車輪」、「車台」、「農産物収穫機」に対応し、引用発明の「受台(8)が上方のみ回動可能」は、本件発明1の「車台が前傾状となる回動は許容するが後傾状となる回動は規制するように上下方向に回動可能」に対応し、本件発明1における「直結し」は直接的に「連結し」ていることを意味し、引用発明1における「ステー(9)を介して接続し」は間接的に「連結し」ていることを意味しているが、いずれも「連結し」ている点で共通している。
また、農産物収穫機において自走式走行装置が前進及び後進可能であることは、周知・慣用技術である(上記引用文献5参照。)から、引用発明1において、走行体(E)が前進及び後進可能であることは自明である。
さらに、引用発明1を認定した引用文献1には、受台(8)の前縁が数本のステー(9)の後端に対して回動可能に軸支されている点が記載されている(上記(1-f)参照。)ので、引用発明1において、受台(8)には、数本のステー(9)に連結するための連結部を備えていることも自明である。
そうすると、本件発明1と引用発明1とは、
「前進及び後進可能な自走式走行装置を備えた農産物収穫機の機体に、車輪を備えた車台における連結部を、該車台が前傾状となる回動は許容するが後傾状となる回動は規制するように上下方向に回動可能に連結した農産物収穫機。」
で一致し、次の点で相違する。
相違点(1)
車台における連結部が、本件発明1では「左右一対」あるのに対して、引用発明1では特定されない点。
相違点(2)
車台における連結部を、本件発明1では、農産物収穫機の機体「後端部」に「直結」しているのに対して、引用発明1では、コンバイン本体(A)の後部にステー(9)を介して接続した点。
相違点(3)
本件発明1では、「車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際に後方にダンプ可能にした」のに対して、引用発明1では、荷台フレームを備えていない点。
上記相違点について検討する。
i.相違点(1)について
引用発明1において、受台(8)は数本のステー(9)に連結するから連結部は数個あると解せられ、連結部を数個とすることと左右一対とすることとで、効果において格別の差異があるものでもないから、上記相違点(1)に係る本件発明1を特定する事項は、当業者が必要に応じて適宜になし得る程度の設計的事項にすぎない。
ii.相違点(2)について
引用発明1を認定した引用文献1に、固定的な連結に関してではあるが、受台(車台)をコンバイン本体(農産物収穫機の機体)に直接または間接的に連結する点が記載されている(上記(1-b)(1-c)参照。)ように、直接的に連結するか、間接的に連結するか、いずれを選択するかは、当業者が設計時に当然考慮する事項であるから、引用発明1において、ステー(9)を介さずに、コンバイン本体(A)(農産物収穫機の機体)の後端部に受台(車台)を直接的に連結すなわち直結することは、当業者が必要に応じて適宜になし得る程度の設計的事項にすぎない。そして、直結することによる効果は当業者が予測し得る範囲内のものである。
iii.相違点(3)について
上記相違点(3)に係る本件発明1を特定する事項と引用発明2とを対比すると、
引用発明2の「車体フレーム3」、「前後」、「荷箱1」は、それぞれ、本件発明1の「車台」、「上下方向」、「荷台フレーム」に対応し、
引用発明2において、掛止金具5を固定金具6に掛止めることにより車体フレーム3と荷箱1を固定し、掛止金具5を固定金具6より外すことにより車体フレーム3と荷箱1の固定を解除しているといえるから、
両者は、「車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際にダンプ可能にした」点で一致するが、
本件発明1では、荷台フレームを「後方に」ダンプ可能にしたのに対して、引用発明2では、「前方に」ダンプ可能にした点で相違する。
しかるに、引用発明2は、本件発明1及び引用発明1と同じ農作業に使用されるものであるから、引用発明2を引用発明1に適用することは当業者にとって容易なことであり、引用発明2を引用発明1に適用するとダンプする方向は必然的に後方となるから、上記相違点(3)に係る本件発明1を特定する事項を想到することは当業者にとって容易である。

そして、本件発明1が奏する効果は、引用発明1及び2から当業者が予測できることであって格別顕著なものではない。

したがって、本件発明1は、引用発明1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5-3-2.本件発明2について
本件発明2と引用発明1とを対比する。
本件発明2は、本件発明1に「車台と荷台フレームとの間にダンパーを介装した」との限定事項を付加するものであるから、該限定事項を本件発明1に付加した本件発明2について検討する。
本件発明2と引用発明1を対比すると、上記「5-3-1.」で述べたと同じ理由により、両者の一致点は、本件発明1と引用発明1との一致点と同じであり、両者の相違点は、以下のとおりである。
相違点(1)
車台における連結部が、本件発明2では「左右一対」あるのに対して、引用発明1では特定されない点。
相違点(2)
車台における連結部を、本件発明2では、農産物収穫機の機体「後端部」に「直結」しているのに対して、引用発明1では、コンバイン本体(A)の後部にステー(9)を介して接続した点。
相違点(3′)
本件発明2では、「車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際に後方にダンプ可能にした」ものであり、「車台と荷台フレームとの間にダンパーを介装した」のに対して、引用発明1では、荷台フレームを備えておらず、ダンパーを介装していない点。

上記相違点について検討する。
i.相違点(1)について
上記「5-3-1.」で述べたと同じ理由により、上記相違点(1)に係る本件発明2を特定する事項は、当業者が必要に応じて適宜になし得る程度の設計的事項にすぎない。
ii.相違点(2)について
上記「5-3-1.」で述べたと同じ理由により、上記相違点(2)に係る本件発明2を特定する事項は、当業者が必要に応じて適宜に設定し得る程度のものであり、その効果は当業者が予測し得る範囲内のものである。
iii.相違点(3′)について
a.上記相違点(3′)に係る本件発明2を特定する事項のうち「車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際に後方にダンプ可能にした」点と引用発明2とを対比すると、
引用発明2の「車体フレーム3」、「前後」、「荷箱1」は、それぞれ、本件発明2の「車台」、「上下方向」、「荷台フレーム」に対応し、
引用発明2において、掛止金具5を固定金具6に掛止めることにより車体フレーム3と荷箱1を固定し、掛止金具5を固定金具6より外すことにより車体フレーム3と荷箱1の固定を解除しているといえるから、
両者は、「車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際にダンプ可能にした」点で一致するが、
本件発明2では、荷台フレームを「後方に」ダンプ可能にしたのに対して、引用発明2では、「前方に」ダンプ可能にした点で相違する。
しかるに、引用発明2は、本件発明2及び引用発明1と同じ農作業に使用されるものであるから、引用発明2を引用発明1に適用することは当業者にとって容易なことであり、引用発明2を引用発明1に適用するとダンプする方向は必然的に後方となる。
b.上記相違点(3′)に係る本件発明2を特定する事項のうち「車台と荷台フレームとの間にダンパーを介装した」点と引用発明3とを対比すると、
引用発明3の「牽引枠(1)」、「載置台枠(4)」、「復動型油圧ラム(5)」は、それぞれ、本件発明2の「車台」、「荷台フレーム」、「ダンパー」に対応し、引用発明3は、本件発明2及び引用発明1と同じ農作業に使用されるものであるから、引用発明3を引用発明1に適用することは当業者にとって容易なことである。
c.してみると、引用発明1において、引用発明2を適用するにあたり引用発明3を適用して、上記相違点(3′)に係る本件発明2を特定する事項を想到することは当業者にとって容易である。

そして、本件発明2が奏する効果は、引用発明1ないし3から当業者が予測できることであって格別顕著なものではない。

したがって、本件発明2は、引用発明1ないし3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5-3-3.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1及び本件発明2に「荷台フレームに対してコンテナ支持枠を着脱可能に設けた」との限定事項を付加するものであるから、該限定事項を本件発明1に付加した本件発明3について検討する。
本件発明3と引用発明1を対比すると、上記「5-3-1.」で述べたと同じ理由により、両者の一致点は、本件発明1と引用発明1との一致点と同じであり、両者の相違点は、以下のとおりである。
相違点(1)
車台における連結部が、本件発明3では「左右一対」あるのに対して、引用発明1では特定されない点。
相違点(2)
車台における連結部を、本件発明3では、農産物収穫機の機体「後端部」に「直結」しているのに対して、引用発明1では、コンバイン本体(A)の後部にステー(9)を介して接続した点。
相違点(3″)
本件発明3では、「車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際に後方にダンプ可能にした」ものであり、「荷台フレームに対してコンテナ支持枠を着脱可能に設けた」のに対して、引用発明1では、荷台フレームを備えておらず、コンテナ支持枠を設けていない点。

上記相違点について検討する。
i.相違点(1)について
上記「5-3-1.」で述べたと同じ理由により、上記相違点(1)に係る本件発明3を特定する事項は、当業者が必要に応じて適宜になし得る程度の設計的事項にすぎない。
ii.相違点(2)について
上記「5-3-1.」で述べたと同じ理由により、上記相違点(2)に係る本件発明3を特定する事項は、当業者が必要に応じて適宜に設定し得る程度のものであり、その効果は当業者が予測し得る範囲内のものである。
iii.相違点(3″)について
a.上記相違点(3″)に係る本件発明3を特定する事項のうち「車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際に後方にダンプ可能にした」点と引用発明2とを対比すると、
引用発明2の「車体フレーム3」、「前後」、「荷箱1」は、それぞれ、本件発明3の「車台」、「上下方向」、「荷台フレーム」に対応し、
引用発明2において、掛止金具5を固定金具6に掛止めることにより車体フレーム3と荷箱1を固定し、掛止金具5を固定金具6より外すことにより車体フレーム3と荷箱1の固定を解除しているといえるから、
両者は、「車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際にダンプ可能にした」点で一致するが、
本件発明3では、荷台フレームを「後方に」ダンプ可能にしたのに対して、引用発明2では、「前方に」ダンプ可能にした点で相違する。
しかるに、引用発明2は、本件発明3及び引用発明1と同じ農作業に使用されるものであるから、引用発明2を引用発明1に適用することは当業者にとって容易なことであり、引用発明2を引用発明1に適用するとダンプする方向は必然的に後方となる。
b.上記相違点(3″)に係る本件発明3を特定する事項のうち「荷台フレームに対してコンテナ支持枠を着脱可能に設けた」点について検討する。
上記引用文献4には、収納室3の形成部材である縦杆31を車台の枠状シャーシー11の杆孔14に挿着して縦杆31を植立すると共に、前記縦杆31のピン孔311と前記枠状シャーシー11のピン孔15にピン41を挿通して両者を一体化する点が記載されており(上記(4-c)ないし(4-e)参照。)、この記載から、枠状シャーシー11に対して縦杆31を着脱自在に設けているといえ、上記引用文献4に記載の「縦杆31」は本件発明3の「コンテナ支持枠」に対応するものであり、上記引用文献4に記載の発明である芝刈機用刈取草収納装置は、本件発明3及び引用発明1と同じ農作業に使用されるものであるから、上記引用文献4に記載の発明を引用発明1に適用することは当業者にとって容易なことである。
c.してみると、引用発明1において、引用発明2を適用するにあたり上記引用文献4に記載の発明を適用して、上記相違点(3″)に係る本件発明3を特定する事項を想到することは当業者にとって容易である。

そして、本件発明3が奏する効果は、引用発明1、2及び上記引用文献4に記載の発明から当業者が予測できることであって格別顕著なものではない。

したがって、本件発明3は、引用発明1、2及び上記引用文献4に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5-4.被請求人の主張について
i.主張(1)について
「発明特定事項A」を甲第1号証に記載のもの(引用発明1)は具備しておらず、「発明特定事項A」は甲第2〜5号証に開示又は示唆されていないが、上記「5-3-1.」で述べたように、「発明特定事項A」は、甲第1号証に記載のもの(引用発明1)において当業者が必要に応じて適宜になし得る程度の設計的事項にすぎないものである。
ii.主張(2)について
甲第1号証に記載のもの(引用発明1)は、「ステー(9)」を数本備えており、コンバイン本体の後進に対して「ステー(9)」が屈折する根拠は認められない。また、「ステー(9)」によって、コンバイン本体との連結部と受台後端までの全長が長くなるとしても、このことにより、必ず、旋回等において良好な走行性が得られなくなるとはいえない。
iii.主張(3)について
上記「5-3-1.」で述べたように、甲第1号証に記載のもの(引用発明1)において、走行体(E)が前進及び後進可能であることは自明であるから、機体の後進操作を安定化させることも自明である。
iv.主張(4)について
上記「5-3-1.」の「iii.」で述べたように、甲第2号証に記載のもの(引用発明2)は、農作業に使用されるものである点で農産物収穫機と同じ技術分野に属するものであり、甲第2号証に記載のもの(引用発明2)を甲第1号証に記載のもの(引用発明1)に適用するとダンプする方向は必然的に後方となるから、機体の後方に荷台に収容された収穫物を排出するといった技術思想を想到することは、当業者にとって容易なことである。

5-5.結び
以上のとおり、本件の請求項1ないし3に係る発明は、引用文献1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
農産物収穫機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】前進及び後進可能な自走式走行装置を備えた農産物収穫機の機体後端部に、車輪を備えた車台における左右一対の連結部を、該車台が前傾状となる回動は許容するが後傾状となる回動は規制するように上下方向に回動可能に直結し、この車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際に後方にダンプ可能にしたことを特徴とする農産物収穫機。
【請求項2】上記車台と荷台フレームとの間にダンパーを介装したことを特徴とする請求項1記載の農産物収穫機。
【請求項3】上記荷台フレームに対してコンテナ支持枠を着脱可能に設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の農産物収穫機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、根菜類を圃場から収穫する農産物収穫機の後端部に、収穫された農産物を収容する網パレットあるいはフレキシブルコンテナを搭載するような直結型の台車を連結した農産物収穫機に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、甘藷、馬鈴薯、こんにゃく芋のような根菜類を圃場から収穫して選別して収容するようにした自走式の農産物収穫機が知られている。そして、前記のような農産物収穫機の後端部に、牽引装置を介して網パレットあるいはフレキシブルコンテナを搭載する牽引車を連結し、農産物収穫機により圃場から収穫されて選別された収穫物を、網パレットあるいはフレキシブルコンテナに収容しながら収穫作業を行うようにした農産物収穫機が本出願人により提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような牽引車を連結した農産物収穫機においては、以下のような問題点があった。
▲1▼.牽引車は牽引装置を介して農産物収穫機の後端部に連結されているので、機体全長が長くなり、作業性が悪かった。
▲2▼.農産物収穫機自体はスピン旋回が可能になっているにかかわらず、牽引車は大きな旋回半径でしか旋回できなかった。
▲3▼.牽引車は農産物収穫機に対して自在に左右旋回(回動)するので、収穫物を網パレットあるいはフレキシブルコンテナに収容(投入)しにくかった。
▲4▼.収穫物を収容した網パレットあるいはフレキシブルコンテナを牽引車から降ろす際、多くの労力と時間を要した。
本発明は、上記の問題点を解決することを目的になされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために本発明は、請求項1において、前進及び後進可能な自走式走行装置を備えた農産物収穫機の機体後端部に、車輪を備えた車台における左右一対の連結部を、該車台が前傾状となる回動は許容するが後傾状となる回動は規制するように上下方向に回動可能に直結し、この車台に対して上下方向に回動可能に枢着した荷台フレームを固定、固定解除可能に係合して、該荷台フレームを前記固定解除した際に後方にダンプ可能にしたことを特徴とする。
【0005】
請求項2において、請求項1の農産物収穫機を前提として、上記車台と荷台フレームとの間にダンパーを介装したことを特徴とする。
【0006】
請求項3において、請求項1又は2の農産物収穫機を前提として、上記荷台フレームに対してコンテナ支持枠を着脱可能に設けたことを特徴とする。
【0007】
【作用】
上記の構成によって本発明の農産物収穫機は、次の作用を行う。(1)自走式の農産物収穫機の後端部に、車輪を備えた車台を上下方向に回動可能に直結し、この車台に対して上下方向に回動可能な荷台フレームを固定、固定解除可能に枢着することで、機体全長を短く構成でき、機体の旋回及び後進がスムーズに行える。荷台フレームに搭載した網パレットあるいはフレキシブルコンテナへの収穫物の収容作業がやりやすい。車台に対して荷台フレームをダンプさせることで、収穫物を収容した網パレットあるいはフレキシブルコンテナを簡単に降ろせる。また、車台を前傾状となる回動は許容するが後傾状となる回動は規制するように上下方向に回動可能に機体に連結しているので、機体の後進操作を安定して行うことができる。
【0008】
(2)車台と荷台フレームとの間にダンパーを介装することで、車台に対して荷台フレームをダンプさせて収穫物を収容した網パレットあるいはフレキシブルコンテナを降ろす際に、荷台フレームが緩やかにダンプして、網パレットあるいはフレキシブルコンテナに収容された収穫物を傷つけない。
【0009】
(3)荷台フレームに対してコンテナ支持枠を着脱可能に設けることで、荷台フレームに、網パレットあるいはフレキシブルコンテナを搭載するほか、他の一般的な積載物を搭載して運搬できる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面を参照して具体的に説明する。
【0011】
[第1の実施の形態]図1ないし図4において、符号1はいも類収穫機で、このいも類収穫機1は、その機体2にエンジン3を搭載すると共に、左右対をなし、スピン旋回を可能にしたクローラ4,4を装備している。このクローラ4,4間の機体2には、前後方向に長く延び、先端部に図示しない掘取り刃を装着して圃場に植生しているいも類を掘取り、後方に向け搬送を行う収穫用コンベア5を設けている。
【0012】
上記収穫用コンベア5の後方には、この収穫用コンベア5により搬送されてくる収穫物を受け、作業者により収穫物を選別する選別用コンベア6が設けられている。この選別用コンベア6の左右両側には、運転座席兼選別作業用座席7及びステップ8と、その反対側に選別作業者用座席9及びステップ10が配設されている。なお、この実施例では収穫機をいも類収穫機1としたが、これを他の農産物を収穫する農産物収穫機にしてもよいものである。
【0013】
上記機体2の後端部下部左右両側には、後述する車台16を直結するための連結フレーム11,11が設けられている。この連結フレーム11,11の下部間は連結パイプ12により連結されており、連結パイプ12の長さ方向中間部は、機体2の幅方向中間位置から後方に突出する連結杆13により連結されている。連結フレーム11,11の上部には連結孔14,14が形成されており、この連結孔14,14に、左右一対のキャスタ15,15を装備する車台16から前方に突出した連結部17,17が、連結ピン18,18を介して上下方向に回動可能に連結される。
【0014】
上記連結フレーム11,11の前縁部11a,11aと、車台16側に設けられた当接板19とが、車台16がほぼ水平状態になるように当接していて、車台16が連結ピン18,18を中心に上下方向に回動するとき、車台16が前傾状となる回動は許容するが、後傾状となる回動は規制するようにしている。そして、いも類収穫機1を後退させるとき、車台16をほぼ水平状態かやや前傾姿勢に保持し、後傾姿勢になるのは規制して、機体の後進操作が安定して行えるようにしている。
【0015】
車台16には、荷台フレーム20が上下方向に回動してダンプ可能に支持されている。この荷台フレーム20は、車台16の後端部左右両側から下方に向け突出する連結フレーム21に対して、荷台フレーム20から下方に向け突出する連結フレーム22を、軸23を介して上下方向に回動自在に枢支したものである。荷台フレーム20の前端部の左右方向中央部分には、荷台フレーム20を、車台16に対して固定、固定解除するフック係合部24が設けられている。
【0016】
一方、上記連結パイプ12の長さ方向中間位置には、一対のブラケット25が立設され、このブラケット25,25間に係合フック26の下部が回動軸27を介して前後方向に回動可能に軸支され、上記フック係合部24に対して係合、係合解除可能となっている。回動軸27は一方の連結フレーム11側に長く延びていてこれを貫通し、連結フレーム11の外側において操作レバー28を固着している。操作レバー28は操作ガイド29に嵌挿されていて、バネ28aにより常時は係合フック26がフック係合部24に係合する方向に付勢されている。
【0017】
また、係合フック26の下部と連結杆13間には引っ張りバネ30が張設されており、係合フック26がフック係合部24に係合する方向に付勢している。そして、係合フック26に設けたストップピン26aがブラケット25に設けたストッパ31に当接しているときは、ほぼ直立状態になっていて、係合フック26がフック係合部24に係合している状態にあるか、あるいは係合待機状態となっている。
【0018】
上記車台16の後端部左右方向中央部分に、上方に向け突出したダンパーブラケット32と、荷台フレーム20の下部との間に、シリンダ型のダンパー33が介装されている。そして、係合フック26とフック係合部24との係合を解除して、荷台フレーム20を軸23を中心に後方に向けダンプさせると、ダンパー33の弾発力によって荷台フレーム20はゆっくりとダンプするようになっている。
【0019】
上記荷台フレーム20の上面には、荷台板34が張られている。また、荷台フレーム20の前部中央位置と左右両側位置には、前部コンテナ支持枠35と側部コンテナ支持枠36,36が着脱可能に立設されている。そして、これらコンテナ支持枠35、36,36に、網パレットあるいはフレキシブルコンテナ37を支持して搭載するようにしている。なお、符号38はコンテナ搭載台係合フックで、いも類収穫機1に車台16及び荷台フレーム20を連結しない状態のとき、コンテナ搭載台の一端を係合して使用する場合に用いられる。
【0020】
次に、上記のように構成されたいも類収穫機1及び車台16、荷台フレーム20の動作について説明する。
【0021】
いも類収穫機1は、車台16及び荷台フレーム20を連結した状態で、例えば、加工用馬鈴薯を圃場から収穫するときに使用される。機体2の前進により収穫用コンベア5によって馬鈴薯を圃場から掘取って、土を落下させながら搬送し、収穫用コンベア5の搬送終端から馬鈴薯及び夾雑物を選別用コンベア6上に排出する。
【0022】
選別用コンベア6においては、運転座席兼選別作業用座席7に座った操縦者及び選別作業者用座席9に座った選別作業者により、その移動過程で馬鈴薯をピックアップする選別作業が行われる。そして、ピックアップされた馬鈴薯は、荷台フレーム20の前部コンテナ支持枠35及び側部コンテナ支持枠36,36に支持された網パレットあるいはフレキシブルコンテナ37内に投入される。なお、選別用コンベア6と網パレットあるいはフレキシブルコンテナ37との間に、投入用コンベアを設けて、選別した収穫物を自動的に投入するようにしてもよいものである。
【0023】
一方、車台16及び荷台フレーム20は、いも類収穫機1に連結ピン18,18を中心に上下方向に回動可能に一体的に枢着され、しかもその回動範囲が、車台16が前傾状となる回動は許容するが、後傾状となる回動は規制するようにしており、いも類収穫機1を後退させるとき、車台16をほぼ水平状態かやや前傾姿勢に保持し、後傾姿勢になるのは規制されているので、機体の後進操作を安定して行うことができる。また、機体の前後方向の長さは、牽引杆により連結する場合に比べて短くなっており、同行半径は小さくなる。
【0024】
網パレットあるいはフレキシブルコンテナ37内の収穫物が一杯になったときには収穫作業を中断し、操作レバー28を操作して係合フック26とフック係合部24との係合を解除すると、荷台フレーム20は軸23を中心に後方に向けダンプ可能となり、ダンパー33の弾発力によって荷台フレーム20をゆっくりとダンプさせて、図1に示すように後端部を接地させ、網パレットあるいはフレキシブルコンテナ37を楽に、しかも収穫物を傷つけることなく降ろすことができる。その後、荷台フレーム20を元の位置に回動させて戻すと、フック係合部24に係合フック26が自動的に係合される。そして、新たに網パレットあるいはフレキシブルコンテナ37を装填して収穫作業を再開する。
【0025】
[第2の実施の形態]本発明は、図5に示すように、上記荷台フレーム20に装着される前部コンテナ支持枠35及び側部コンテナ支持枠36,36を、短いコンテナ支持枠39,39…に変えててもよいものである。
【0026】
[第3の実施の形態]また、本発明は、図6に示すように、上記荷台フレーム20に装着される側部コンテナ支持枠36,36、または短いコンテナ支持枠39を、運搬用支持枠40として、例えば、収穫物を収容したコンテナを搭載して運搬するようにしてもよいものである。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の農産物収穫機によれば、以下の効果を奏することができる。
▲1▼.自走式の農産物収穫機の後端部に、車輪を備えた車台を上下方向に回動可能に直結し、この車台に対して上下方向に回動可能な荷台フレームを固定、固定解除可能に枢着したので、機体の全長を短く構成することができる。また、機体の旋回及び後進をスムーズに行うことができる。さらに、荷台フレームに搭載した網パレットあるいはフレキシブルコンテナに対して、収穫物の収容作業がやりやすい。
【0028】
▲2▼.車台と荷台フレームとの間にダンパーを介装したので、車台に対して荷台フレームをダンプさせて収穫物を収容した網パレットあるいはフレキシブルコンテナを降ろす際に、荷台フレームが緩やかにダンプして、網パレットあるいはフレキシブルコンテナに収容された収穫物を傷つけることがない。また、荷台フレームが急にダンプする危険も解消される。
【0029】
▲3▼.荷台フレームに対してコンテナ支持枠を着脱可能に設けたので、荷台フレームに、網パレットあるいはフレキシブルコンテナを搭載するほか、他の一般的な積載物を搭載して運搬することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明による農産物収穫機の第1実施例の側面図である。
【図2】
同部分平面図である。
【図3】
同部分拡大側面図である。
【図4】
要部の分解斜視図である。
【図5】
本発明による農産物収穫機の第2実施例の部分斜視図である。
【図6】
本発明による農産物収穫機の第3実施例の部分斜視図である。
【符号の説明】
1 いも類収穫機
2 機体
3 エンジン
4 クローラ
5 収穫用コンベア
6 選別用コンベア
7 運転座席兼選別作業用座席
8,10 ステップ
9 選別作業者用座席
11 連結フレーム 11a 前縁部
12 連結パイプ
13 連結杆
14 連結孔
15 キャスタ
16 車台
17 連結部
18 連結ピン
19 当接板
20 荷台フレーム
21 車台側の連結フレーム
22 荷台フレーム側の連結フレーム
23 軸
24 フック係合部
25 ブラケット
26 係合フック 26a ストップピン
27 回動軸
28 操作レバー
29 操作ガイド
30 引っ張りバネ
31 ストッパ
32 ダンパーブラケット
33 ダンパー
34 荷台板
35 前部コンテナ支持枠
36 側部コンテナ支持枠
37 網パレットあるいはフレキシブルコンテナ
38 コンテナ搭載台係合フック
39 短いコンテナ支持枠
40 運搬用支持枠
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-05-10 
結審通知日 2005-05-13 
審決日 2005-05-24 
出願番号 特願平7-272642
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 関根 裕  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 渡部 葉子
白樫 泰子
登録日 2002-04-19 
登録番号 特許第3300210号(P3300210)
発明の名称 農産物収穫機  
代理人 小橋 信淳  
代理人 小橋 立昌  
代理人 樺澤 聡  
代理人 樺澤 襄  
代理人 服部 秀一  
代理人 小橋 立昌  
代理人 小橋 信淳  
代理人 山田 哲也  

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