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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) E02F
管理番号 1123454
審判番号 無効2002-35131  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-03-04 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-04-09 
確定日 2005-09-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2918218号発明「暗渠形成装置」の特許無効審判事件についてされた平成15年5月26日付けの「訂正を認める。請求項1に係る発明についての特許を無効とする。請求項2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」旨の審決に対し、東京高等裁判所において「請求項2に係る部分を取り消す。」旨の判決(平成15年(行ケ)第287号平成17年2月1日判決言渡)があったので、請求項2に係る発明について、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2918218号の請求項2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続きの経緯
平成 7年8月22日 出願(特願平7-237722号)
平成11年4月23日 登録(特許第2918218号)
平成14年4月 9日 本件無効審判請求
平成14年6月24日 答弁書
平成14年7月19日 無効理由通知
平成14年9月20日 意見書、訂正請求書
平成15年1月 6日 弁駁書
平成15年2月17日 無効理由通知
平成15年3月28日 意見書
平成15年5月26日 審決(訂正を認める。請求項1に係る発明についての特許を無効とする。請求項2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。)
平成15年6月30日 被請求人出訴(平成15年(行ケ)第283号)
平成15年7月 2日 請求人出訴(平成15年(行ケ)第287号)
平成17年2月 1日 判決言渡
判決1(平成15年(行ケ)第283号…請求棄却)
判決2(平成15年(行ケ)第287号…審決取消)
平成17年2月10日 被請求人上告及び上告受理申立
(平成17年(行ツ)第136号)
(平成17年(行ヒ)第146号)
(平成17年(行ヒ)第147号)
平成17年6月17日 決定(上告棄却、申立不受理)


第2 当事者の主張
1 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書において、請求項2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2に係る発明についての特許は、特許法123条1項2号に該当し、無効とされるべきである旨主張し、証拠方法として、甲第1号証〜甲第7号証の2を提出している。

甲第1号証:実公昭48-11950号公報
甲第2号証:実公昭36-1026号公報
甲第3号証:日本開発農機株式会社の溝掘機のパンフレット(作成日不明)
甲第4号証:実公昭34-17826号公報
甲第5号証:実公昭44-29476号公報
甲第6号証:実公昭47-3943号公報
甲第7号証の1:米国特許第4871281号明細書
甲第7号証の2:米国特許第4871281号明細書の部分訳文

2 被請求人の主張の概要
被請求人は、答弁書において、概略、以下のように主張している。
甲第2号証の記載からは、「閉塞具8,8」の構成、形状が不明であり、「閉塞具8,8」は、請求項1に係る発明の「スリット絞り込み体」に相当しない。
甲第1号証のものは、主溝と副溝とを平行に掘り、副溝と主溝との間の土を主溝の方に寄せて、主溝の上方を閉塞させて副溝を埋めるものであり、溝の中間付近を閉塞させるという課題を、本件特許発明とは全く別の方法を用いて解決するものであり、また、甲第1号証の土寄せ板8は、甲第2号証の閉塞具8とは、形状、大きさ、機能、技術思想が異なり、甲第1号証の土寄せ板8に代えて、甲第2号証の閉塞具8を採用できるものではなく、請求項2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証記載のものから、当業者が容易に想到することはできない。


第3 本件発明
上記判決2において、「訂正を認めた審判に誤りはない。」と判示されているので、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された以下の事項により特定されるものと認める。
「【請求項1】エンドレスチェンに取り付けられたバケットなどにより形成された掘削機を備える暗渠形成装置において、掘削機の作業進行方向後方位置に配置されているスリット渫えナイフと、このスリット渫えナイフにはその高さ方向の中間部の進行方向後方に位置するスリット絞り込み体と、前記掘削機の頂端部作業進行方向後方位置に放擲孔を形成したケ-シングとを備え、前記掘削バケットにより形成されたスリットに相当する部分の排出土を掘削機のバケットの反転動作中に前記スリット渫えナイフにより形成されるスリット空間に放擲すると共に、形成されるスリット空間の中間位置をスリット絞り込み体により絞り込んでスリットを閉塞するように構成され、当該スリット絞り込み体は、平面板と2枚の側面板とで構成され、平面板の、作業進行方向後方になるにつれ次第に幅が狭くなる台形部分の両側にそれぞれ側面板を配置することにより、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなる構成となっていることを特徴とする暗渠形成装置。
【請求項2】スリット絞り込み体は、平面板と2枚の側面板とで構成され、平面板は、作業進行方向後方になるにつれて幅が広くなる第1の略台形部分と、作業進行方向後方になるにつれ幅が狭くなる第2の略台形部分とからなり、第1の略台形部分の両斜辺部には共に側面板を備えず、第2の略台形部分の両斜辺部にはそれぞれ側面板を備え、両側面板で囲まれる内部空間が 作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなる構成とされていることを特徴とする請求項1に記載の暗渠形成装置。」
(以下、請求項2に係る発明を「本件発明」という。)


第4 無効理由の検討
1 引用例の記載事項
(1)平成15年2月17日付けで通知した無効理由に引用した、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である、実公昭36-1026号公報(請求人が提出した甲第2号証、以下「引用例1」という。)には、以下の記載がある。
a「この考案は……自動跳上バケツト装置のような動力溝掘機に連結されてその溝掘機によつて掘られた溝をその高さの中間で閉塞すると共に溝掘機のバケツト装置の下方軸に設けられた穿孔刃……によつて穿孔された土中の穿孔を仕上げるものである。」(1頁左欄6〜12行)
b「この装置は主杆1、主杆1の周を回動する仕上円板回動管2及び仕上円板回動管2の周を回動することができる閉塞具回動管3から成る。主杆1は上端に溝掘機との連結具の取付座4をそなえている。仕上円板回動管2は上端に回動用のレバー2’及び固定用の止め具2”を備え、主杆1に対し固定されるようにされ、下端に仕上円板5及びその上方のさらえ板6を取付け、これらは溝掘機(第2図において鎖線で示す)によつて掘られた溝A及び穿孔刃にによる穿孔Bを仕上げ削りする。仕上円板回動管2の回動によって仕上円板5を溝に対し並列にすることができる。なお仕上円板回動管2の下端には溝掘機との連結具7を回動できるように取付ける。閉塞具回動管3は上端に回動用のレバー3’及び固定用の止め具3”を備え、前記さらえ板6の上方に対向する閉塞具8,8を取付ける。閉塞具8,8は各々の横の長さが大体掘られる溝の幅で(第2図における横幅)、大体溝の幅の2倍の間隔をもつている(第1図における間隔)。この間隔によつて溝の側壁に空道Cを形成するよう掘り削り、溝Aを閉塞する(第3図参照)。即ち閉塞された溝が形成され、暗渠排水のための土管、被覆材等を要しない。閉塞具回動管3の回動によつて閉塞具8,8を溝に対し並列にすることができる。……従つてこの装置を溝掘機の後方に連結具によつて取付けて牽引すれば穿孔Bと溝Aとを仕上円板5とさらえ板6とによつて土砂を後方に残すことなくならえ、」(1頁左欄15行〜右欄12行)
c「溝掘機によつて溝A更に穿孔刃によつて穿孔Bが形成されるが、そのままでは土砂の崩壊したものを溝内に残し、地下水の排水を不完全にするおそれがあるが、この考案によれば溝A及び穿孔Bを完全にさらえることによつて土砂の残留をなくし、閉塞具8,8の通過による空道Cの形成で閉塞した溝に完全な溝A及び穿孔Bを形成し、土管被覆材等の必要のない暗渠排水……ができる。」(1頁右欄15行〜24行)

以上の記載及び第1図〜第3図からみて、引用例1には、次の発明が記載されているものと認めることができる。
「自動跳上バケツト装置のような動力溝掘機と土中穿孔仕上装置を連結した暗渠形成装置において、溝掘機の作業進行方向後方位置に配置されている主杆1及び仕上円板5、さらえ板6を取付けた仕上円板回動管2と、仕上円板回動管2には閉塞具回動管3を介して閉塞具8,8とを備え、形成される溝Aの中間位置を閉塞具8,8の通過による空道Cの形成で閉塞するようにされた暗渠形成装置。」

(2)同無効理由に引用した、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である、実公昭44-29476号公報(請求人が提出した甲第5号証、以下「引用例2」という。)には、第1図〜第3図とともに、以下の記載がある。
d「本考案は自動跳上バケツト装置……等による溝掘機において」(1欄21〜23行)
e「自動跳上バケツト2を有する溝掘機の放出土砂を導く上部カバー3の中間において調節板4を蝶番5で取付け、調節板4にカバー3の外部で操作できる押え6を固定し、調節板4を傾斜して支持する押え6の止金7及び調節板4を水平に支持する押え6の止金7’をそれぞれ上部カバー3に設け、上記カバー3の下方及び後方にそれぞれ土砂受カバー8及び後部側壁9に設ける」(1欄27〜34行)
f「エンジンより駆動された駆動軸1の回転により自動跳上バケツト2が駆動され、土砂が放出される。調節板4の押え6が止金7に固定される時は上部カバー3にそう土砂は直後に排出されず、土砂受カバー8を通つて溝の一側に放出されるが、掘削を開始して土管等10を埋設し初める場合、調節板4の押え6を止金7’で固定すると、土砂は自動的に掘削られた溝の中へ落下する。」(2欄12〜19行)

(3)同無効理由に引用した、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である、実願昭53-137890号(実開昭55-54476号)のマイクロフィルム(以下、「引用例3」という。)には、地中埋設装置について、以下の記載がある。
g「図中1は埋設装置で、前部に掘削用プラウ2が設けられ、後部に覆土用V型プラウ3が設けられており、この掘削用プラウ2と覆土用V型プラウ3とが一体としてけん引車等に引かれて移動し得る構成とされている。」(明細書3頁1〜5行)
h「埋設装置1は、地16内に埋設溝17を順次掘削し、埋設物18を順次埋設せしめるものであり、次にその作用を説明する。まずけん引車等で上記埋設装置1をけん引すると、掘削用プラウ2により地16は掘り起こされ埋設溝17が形成される。こうして掘られた埋設溝17は掘削用プラウ2と所定間隔をおいてけん引されている覆土用V型プラウ3により、埋設溝17の両側に盛られた土砂が落とされ、埋設溝17は元の状態に埋めもどされてゆく。」(同5頁7〜16行)
そして、第1図には、平面板と2枚の側面板とで構成され、平面板の作業進行方向後方になるにつれ次第に幅が狭くなる台形部分の両側にそれぞれ側面板を配置することにより、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなっている覆工用プラウ3が図示されている。

2 対比・判断
(1)本件発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明の「自動跳上バケツト装置のような動力溝掘機」は、エンドレスチェンに取り付けられたバケットなどにより形成され、バケットにより溝を掘削する掘削機であることは、当業者に明らかであるから、本件発明1の「エンドレスチェンに取り付けられたバケットなどにより形成された掘削機」に相当する。また、引用例1記載の発明の「主杆1及び仕上円板5、さらえ板6を取付けた仕上円板回動管2」は、バケットにより掘削された溝を、仕上円板5とさらえ板6により渫うものであって、仕上円板5、さらえ板6を取付けた仕上円板回動管2が主杆1に支持され主杆1と一体となって機能するものであるから、本件発明の「スリット渫えナイフ」に相当する。
ところで、本件発明の「スリット絞り込み体」及び「スリット空間の中間位置をスリット絞り込み体により絞り込んでスリットを閉塞する」については、本件明細書に、「【0011】……ナイフ31の中間位置に配置してあるスリット空間Sを両側から締めつける締め付け体32により掘削形成したスリット空間Sを閉塞するものである。」、「【0012】すなわち、前記ナイフ31は土の中に形成された掘削空間であるスリット状の空間を形成すると共に、この空間を浚うに適した薄い縦長の形状をしたもので、このナイフ31にはスリット絞り込み体32が取り付けられている。このスリット絞り込み体32はナイフ31が土の中に位置する部分の中間部位置にあって、背面視上門形をしていて、かつ平面視上作業進行方向後方になるにつれ幅が狭くなっている変形台形をしており、平面板32Aの両傍にこれと直角に曲げられている側面板32Bにより形成されている。平面板31Aが機能上ほぼ台形をしている関係から、側面板32B、32Bで囲まれる空間は作業進行方向後ろに向かうにつれて次第に狭いものになっている。」、「【0016】……前記スリット空間Sの中間部、一例として、一般的な泥炭地にあっては地表面から地下に70センチくらいの深さのところにあるスリット絞り込み体32がトラクタ10の移動に伴い、スリット空間Sの両側から泥炭土を締めつけて前記スリット空間Sを閉塞状態にする。」、「【0017】すなわち、トラクタ10が本発明による暗渠形成装置20が移動するとき、スリット絞り込み体32があり、このスリット絞り込み体32を形成する側面板32B、32Bに挟まれる空間が作業進行後方に向かうに幅が狭くなっているので、スリット空間Sは両側から絞り込まれて閉塞され、前記放擲された土が形成する蓋Hの直下部分、言い換えると、スリット絞り込み体32により絞り込まれた部分の上側は放擲された土により閉塞され、外部からの土の侵入を防いでいる暗渠が形成される(図7B)。」、「【0018】 これにより、絞り込まれた部分から下にはスリット空間の一部と、スリット浚えナイフ31の空間形成板33の通過空間による暗渠が形成される。……」との記載がある。
これらの記載によれば、「スリット空間の中間位置をスリット絞り込み体により絞り込んでスリットを閉塞する」とは、暗渠形成装置20の移動に伴い、スリット絞り込み体32の側面板32B、32Bにより切り取られたスリット空間Sの両側の土を、側面板32B、32Bに沿って移動させ、側面板32B、32Bに挟まれる空間が作業進行後方に向かうにしたがって幅が狭くなっていることにより、その両側の土を、スリット空間に導き、その土によりスリット空間を両側から絞り込み閉塞することと解される。
一方、引用例1記載の発明の「閉塞具8,8」は、「各々の横の長さが大体掘られる溝の幅で(第2図における横幅)、大体溝の幅の2倍の間隔をもつている(第1図における間隔)。」、「この間隔によつて溝の側壁に空道Cを形成するよう掘り削り、溝Aを閉塞する(第3図参照)。」(上記記載b参照。)との記載によれば、溝Aの両側壁を掘り削り、その掘り削られた土を溝A上に移動させて溝Aを閉塞している、言い換えれば、土により溝Aを絞り込み閉塞していると解されるから、引用例1記載の発明の「閉塞具8,8」は、本件発明の「スリット絞り込み体」に相当するということができる。また、第2図を参照すると、該「閉塞具8,8」は、主杆1とその周りに取り付けられた仕上円板回動管2の高さ方向の中間部に位置している。さらに、引用例1の上記記載bによれば、「閉塞具8,8」は、溝の側壁に空道Cを形成するよう掘り削るための側面板を両側に有し、その両側面板間の幅は作業進行方向前方では大体溝の幅の2倍であると解される。そして、第3図に示されているように掘り削られた土で溝Aを閉塞するため、掘り削られた土を溝上に移動させることができるように、両側面板間の幅が作業進行方向後方に向かうに従って狭くなるように配置されているものと解されるから、引用例1記載の発明も、「スリット絞り込み体」は、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従いその幅が狭くなっているということができる。

したがって、本件発明と引用例1記載の発明とは、
「エンドレスチェンに取り付けられたバケットなどにより形成された掘削機を備える暗渠形成装置において、掘削機の作業進行方向後方位置に配置されているスリット渫えナイフと、このスリット渫えナイフにはその高さ方向の中間部に位置するスリット絞り込み体とを備え、形成されるスリット空間の中間位置をスリット絞り込み体により絞り込んでスリットを閉塞するように構成され、当該スリット絞り込み体は、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従いその幅が狭くなる構成となっている暗渠形成装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明は、前記掘削機の頂端部作業進行方向後方位置に放擲孔を形成したケ-シングを備え、前記掘削バケットにより形成されたスリットに相当する部分の排出土を掘削機のバケットの反転動作中に前記スリット渫えナイフにより形成されるスリット空間に放擲するのに対し、引用例1記載の発明は、そのような事項を有しているのか否か不明である。
相違点2:本件発明では、スリット絞り込み体が、スリット渫えナイフの進行方向後方に位置しているのに対し、引用例1記載の発明では、スリット絞り込み体が、スリット渫えナイフの進行方向後方に位置しているとの言及がない。
相違点3 :本件発明では、スリット絞り込み体は、平面板と2枚の側面板とで構成され、平面板の、作業進行方向後方になるにつれ次第に幅が狭くなる台形部分の両側にそれぞれ側面板を配置することにより、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなる構成となっているのに対し、引用例1記載の発明では、スリット絞り込み体は、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従いその幅が狭くなるものの、その具体的な構成が不明である。
相違点4:本件発明では、スリット絞り込み体は、平面板と2枚の側面板とで構成され、平面板は、作業進行方向後方になるにつれて幅が広くなる第1の略台形部分と、作業進行方向後方になるにつれ幅が狭くなる第2の略台形部分とからなり、第1の略台形部分の両斜辺部には共に側面板を備えず、第2の略台形部分の両斜辺部にはそれぞれ側面板を備え、両側面板で囲まれる内部空間が 作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなる構成とされているのに対し、甲第1号証記載の発明では、スリット絞り込み体は、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従いその幅が狭くなるものの、その具体的な構成が不明である。

(2)そこで、上記相違点について検討する。
相違点1について
引用例2には、暗渠形成装置において、自動跳上バケツト2(本件発明の「掘削バケット」に相当する。)を有する溝掘機の頂端部作業進行方向後方位置に後部側壁9(同「放擲孔」に相当する。)を設けた上部カバー3(本件発明の「ケ-シング」に相当する。)を備え、バケットの反転動作中に掘削した土砂を後部側壁9から溝の中へ落下させることが記載されている。そして、暗渠形成装置に、掘削により排出した土を落下させ掘削したスリット(溝)を土で充填する手段を設けることは、当該技術分野において周知の技術的事項(例えば、実公昭47-3943号公報(請求人が提出した甲第6号証)、米国特許第4871281号明細書(同甲第7号証)、上記引用例2、参照。)であることを考慮すると、スリット空間の中間位置を絞り込んでスリットを閉塞するスリット絞り込み体を有する引用例1記載の発明に、スリット空間の閉塞された中間位置より上方の部分を掘削により排出した土で充填するために、引用例2に記載の技術的事項を適用し、相違点1における本件発明の事項とすることは、その適用を阻害する技術的理由もないことから、当業者であれば容易になし得たことといえる。

相違点2について
引用例1には、スリット絞り込み体(閉塞具8,8)が、スリット渫えナイフ(主杆1及び仕上円板5、さらえ板6を取付けた仕上円板回動管2)の進行方向後方に位置しているとの記載はないが、第2図をみると、閉塞具8,8は、仕上円板回動管2の側方及び後方に位置しており、引用例1記載のスリット絞り込み体(閉塞具8,8)も、その一部がスリット渫えナイフの後方に位置しているものであり、スリット絞り込み体を、単に、スリット渫えナイフ後方に位置させることは、当業者が必要に応じ適宜なし得た事項にすぎない。

相違点3について
引用例3には、平面板と2枚の側面板とで構成され、平面板の作業進行方向後方になるにつれ次第に幅が狭くなる台形部分の両側にそれぞれ側面板を配置することにより、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなっている覆土用V型プラウ3が記載されいる。そして、引用例3記載の「覆土用V型プラウ3」と本件発明の「スリット絞り込み体」は、共に、掘削された土を中央に寄せるために用いられるものであるから、引用例1記載の発明におけるスリット絞り込み体(閉塞具8,8)に、引用例3記載の「平面板と2枚の側面板とで構成され、平面板の作業進行方向後方になるにつれ次第に幅が狭くなる台形部分の両側にそれぞれ側面板を配置することにより、両側面板で囲まれる内部空間が、作業進行方向前方の幅が広く、後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなっている」との技術的事項を適用することに格別の困難性はなく、相違点3における本件発明の事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

相違点4について
上記判決2において、相違点4について、下記のように判示されている。


『 2 取消事由4(相違点4の進歩性判断の誤り)について
(1) 審決は,本件発明1(当審注:請求項1に係る発明)についての特許は無効とすべきであるとしたが,本件発明2(当審注:本件発明)についての特許は,審判甲1(本訴甲7,乙7の1),審判甲2(本訴甲4,乙4),審判甲3(本訴甲8),審判甲4(本訴甲9),審判甲5(本訴甲5,乙5),審判甲6(本訴甲10,乙7の2)及び審判甲7(本訴甲11,乙7の3の1)には,「平面板は,作業進行方向後方になるにつれて幅が広くなる第1の略台形部分と,作業進行方向後方になるにつれて幅が狭くなる第2の略台形部分とからなり,第1の略台形部分の両斜辺部には共に側面板を備えず,第2の略台形部分の両斜辺部にはそれぞれ側面板を備え」るとの本件発明2の特定事項を開示する記載がなく,上記特定事項が当該技術分野において,本件特許に係る出願前に周知の技術的事項であるともいえないので,無効とすることができないと判断した。
本件では,本件発明1の進歩性判断は争点でなく,本件発明2の構成中本件発明1の構成を引用する部分の進歩性判断は争点となっていないところ,当裁判所は,後記(5)のように,本件発明1についての特許を無効とするとの審決の判断を支持するものである。そこで,本件発明2の発明特定事項であるスリット絞り込み体について,まず,その構成が奏する作用効果の顕著性の有無(取消事由4)を検討することとする。
(2) 本件明細書(乙3の1,2)には,次の記載がある。
「【0012】すなわち,前記ナイフ31は土の中に形成された掘削空間であるスリット状の空間を形成すると共に,この空間を浚うに適した薄い縦長の形状をしたもので,このナイフ31にはスリット絞り込み体32が取り付けられている。このスリット絞り込み体32はナイフ31が土の中に位置する部分の中間部位置にあって,背面視上門形をしていて,かつ平面視上作業進行方向後方になるにつれ幅が狭くなっている変形台形をしており,平面板32Aの両傍にこれと直角に曲げられている側面板32Bにより形成されている。平面板31Aが機能上ほぼ台形をしている関係から,側面板32B,32Bで囲まれる空間は作業進行方向後ろに向かうにつれて次第に狭いものになっている。」
「【0017】すなわち,トラクタ10が本発明による暗渠形成装置20が移動するとき,スリット絞り込み体32があり,このスリット絞り込み体32を形成する側面板32B,32Bに挟まれる空間が作業進行後方に向かうに幅が狭くなっているので,スリット空間Sは両側から絞り込まれて閉塞され,前記放擲された土が形成する蓋Hの直下部分,言い換えると,スリット絞り込み体32により絞り込まれた部分の上側は放擲された土により閉塞され,外部からの土の侵入を防いでいる暗渠が形成される(図7B)。」
(3) 以上の記載によれば,第2の略台形部分については,両斜辺部にそれぞれ側面板を備え,両側面板で囲まれる内部空間が,作業進行方向前方の幅が広く,後方に向かうに従い次第にその幅が狭くなる構成を採用し,これにより,スリット空間Sが両側から絞り込まれて閉塞されるという作用効果を奏するものであることが認められる。これに対し,第1の略台形部分については,スリット浚えナイフ31と第2の略台形部分とを接続するということのほかに,両斜辺部に側面板を備えず,作業進行方向後方になるにつれて幅が広くなる構成を採用することによって,どのような作用効果を奏するのかは判然としないのであって,本件発明2の第1の略台形部分が,本件発明1と比較して,格別の作用効果を奏する発明の特定事項であるとは認めることができない。そして,このような構成については,取り立てて本件発明2の進歩性判断の要素とするのは相当でないのであって,引用する本件発明1の構成部分と合わせてみるならば,本件発明2は,引用例1ないし3記載の発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわなければならない。』

そして、当審は、相違点4についての判断で、上記判決2の判断に拘束されるものである。
そうすると、本件発明は、引用例1〜3記載の発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわなければならないから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。


第5 むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項2に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、特許法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
審判費用は、特許法169条2項の規定において準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-05-07 
結審通知日 2003-05-12 
審決日 2003-05-26 
出願番号 特願平7-237722
審決分類 P 1 112・ 121- Z (E02F)
最終処分 成立  
特許庁審判長 安藤 勝治
特許庁審判官 南澤 弘明
山田 忠夫
登録日 1999-04-23 
登録番号 特許第2918218号(P2918218)
発明の名称 暗渠形成装置  
代理人 山本 光太郎  
代理人 樋口 和博  
代理人 丸山 裕一  
代理人 川島 順  
代理人 山田 基司  

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