• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1123684
審判番号 不服2004-710  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-11-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-08 
確定日 2005-09-21 
事件の表示 平成 6年特許願第 11245号「マルチユーザ拡散スペクトル通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年11月15日出願公開、特開平 6-318926〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年2月2日の出願(パリ条約による優先権主張1993年2月3日、フランス)であって、平成15年10月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年1月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明について
(1)本願発明
本願の請求項9に係る発明は、平成15年8月28日付けで補正された明細書及び図面に記載された特許請求の範囲の請求項9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項9】複数の搬送波によりメッセージを通信するマルチユーザ通信システムで使用されるユーザ局であって、
該メッセージを信号配置のシンボルに変換する第1の変換回路と、
該第1の変換回路に接続され、スペクトル拡散符号化による符号で該シンボルを符号化する符号化回路と、
直交周波数分割多重化を用いる変調回路を含み、変調された該符号化されたシンボルを変調し、変調された該符号化されたシンボルを送信する送信回路と、を有するユーザ局。」(以下、「本願発明」という。)

(2)引用例に記載された発明
原審の拒絶の理由に引用された欧州特許出願公開第446024号明細書(以下、「引用例」という。)には、次の旨の記載がある。

イ)「[実施例]
第1図は本発明の第1の実施例の構成を示し、101は情報入力源、102は拡散符号格納レジスタ、103-1〜103-nは乗算器、104-1〜104-nは局部発振器、105-1〜105-nはFSK変調器、106は加算器、107は伝送路、108は分配器、109-1〜109-nはBPF、110-1〜110-nは周波数分別器、111は拡散符号格納レジスタ、112-1〜112-nは乗算器、113は加算器、114はスレッショルド判定器、115は情報出力先である。
上記構成に於いて、情報源101から出力された2値データ(1若しくは-1)はミキサ103-1〜103-nにて拡散符号格納レジスタ102に格納された長さnの拡散符号列の各ディジット(1若しくは-1)と乗算される。各ミキサ103-1〜103-nの出力は続いてFSK変調器105-1〜105-nに入力され、各局部発振器104-1〜104-nの出力である搬送波をFSK変調する。FSK変調器105-1〜105-nの出力は加算器106にて加算され、伝送路107に送出される。」(第4頁第4欄第17行〜第46行)

ロ)「拡散符号格納レジスタ102及び111に格納される拡散符号列を相互相関が小さい集合から選択する様に構成すれば、異なる符号を用いた受信者には加算器113の出力で信号がn倍にならない。したがって、復調するのに充分な信号電力を得られないので、多元接続が可能となる。」(第5頁第5欄第28行〜第37行)」

ハ)第1図により、拡散された信号各々を変調器で変調し、加算器で加算することにより、周波数分割多重を行っていることが読み取れる。

以上の記載を総合し、技術常識を考慮すると、
「複数の搬送波により情報源を送信する装置であって、
情報源を拡散符号格納レジスタに格納された長さnの拡散符号列で乗算し、
乗算した結果を、FSK変調により周波数分割多重化を行い、送信する装置」の発明(以下、「引用例に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

例えば、原審の拒絶の理由に引用されたLEONARD J.CIMINI、JR. ”Analisys and Simulation of a Digital Mobile Channel Using Orthogonal Frequency Division Multiplexing” IEEE TRANSACTIONS ON COMMUNICATIONS 1985年7月 VOL.COM-33 No.7 P.665-675(以下、「周知例1」という。)には、次の旨の記載がある。

イ)「抄録-この論文は、マルチパス伝搬や狭帯域デジタル移動チャネルのチャネル間干渉を防ぐための技術の分析とシュミレーションについて議論する。このシステムは、離散的フーリエ変換により、直交周波数多重の多くの狭帯域サブチャネルに変換するもので、個々のサブチャネルは、非常に遅いが、変換することにより、高速度のチャネルにしている。この技術が、パイロット信号に基づく訂正とともに使用されると、平坦なレイリーフェージングの影響は、削減される。バースト的なレイリーチャネルで信号対干渉波比にして6dBの改善がなされる。さらに、各サブチャネルに、遅い速度でシグナリングすることにより、この技術は、遅延拡散に対して保護が行われる。周波数選択環境がひどい場合の技術のふるまいを向上させるために、補間されたパイロット信号が使用される。周波数オフセット参照スキームが、チャネル間干渉に対しての保護を向上させるため、パイロット信号に使用される。」(第665頁左欄第1行〜第14行)

例えば、原審の拒絶の理由に引用されたBernard Le Floch et al. ”DIGITAL SOUND BROADCASTING TO MOBILE RECEIVERS” IEEE TRANSACTIONS ON CONSUMER ELECTRONICS 1989年8月 VOL.35 No.3 p.493-503(以下、「周知例2」という。)には、次の旨の記載がある。

イ)「3.1 OFDM 変調技術
最初の原理は、チャネル周波数選択性の影響を削減するため、情報を分割し、低ビットレートの多くの変調された搬送波を送信することからなる。OFDM技術は時間周波数領域を時間軸でTs、周波数軸で1/Tsの小さな表面に分割させることを可能にする。

変調されたOFDM信号は、複素数の係数を持った基本的な信号の直交形で表現される。各基本的な信号は、Tsシンボル区間で、N個の発生したキャリアの内、1つとして定義され、各係数は、固有のアルファベットからの値を考慮すると、各基本的な信号に適用された変調を表現する。

既知の周波数分割多重とこの技術の主な差は、異なるキャリアのスペクトラムが相互にオーバーラップし、最適な周波数の効率を出すことである。(ほぼ、各キャリアの4-PSK変調が1Hzあたり2ビットとなる)にもかかわらず、信号は、直交状態を確かめ、その結果、他のキャリアがあることによる干渉を受けることなく、各キャリアにより変調されている情報を抽出することが可能となる。その上、変調、復調プロセスは、高速フーリエ変換アルゴリズムの方法を用いて、行われる。

伝送チャネルのマルチパスを考慮して、キャリア間の完全な直交性は、残っているシンボル間干渉のため、受信の入力で、もはや維持できなくなる。

この問題を解決する漸近的な方法は、不定にキャリアの数を増加させ、結果的にシンボル区間を増加させることである。しかし、この方法は、チャネルの時間(ドップラー効果)相関に示される制限を、考慮すると、現実的でない。保持された解決法は、保護されたインターバルを各意味のあるシンボルの前に、付加することである。もし、保護されたインターバル区間が、チャネルのインパルス応答の区間よりも十分に大きくとられれば、信号の意味のある区間は、相互シンボル間干渉がなく、直交性は完全に保たれる。」(第495頁右欄第1行〜第496頁左欄第11行)

周知例1、2によれば、「マルチキャリア伝送をOFDMにより行うこと」は、周知である。

例えば、特開平4-233839号公報(以下、「周知例3」という。)には、次の記載がある。

イ)「【0003】いわゆる『直接シーケンス』拡散スペクトラム通信を実現させるため、周期的な擬似ランダム符号シーケンスと、情報で変調された搬送波信号とが送信機によって混合されるが、このとき、送信される信号のエネルギスペクトルが、周波数の広い範囲にわたって一般に不統一に『拡散』されるのが特徴的である。この種の送信機には、基本帯域情報を搬送波に乗せるための、周波数変調(FM)、周波数シフトキーイング(FSK)、位相変調(PM)あるいは位相シフトキーイング(PSK)も含めた周知の幾つかの各種変調技術の中の任意のものを使用することができる。また、インプットされた従来タイプの拡散スペクトラム信号から基本帯域情報を復元させるため、受信機では、先ず受信信号が、送信された符号シーケンスと実質的に同期させて受信機内部で誘導または生成した擬似ランダム符号シーケンスと混合されるが、この場合、信号スペクトルが『集合(despreading) 』されて搬送波が復元される。そしてこれに適した復調器によって搬送波を復調させることにより、基本帯域信号が復元される。」(第2頁第2欄第2行〜第20行)

周知例3によれば、「一次変調(FM、FSK、PM、PSK)をしてから、拡散符号で拡散すること」は、周知である。

(3)対比、判断
本願発明と引用例に記載された発明を対比する。
a.引用例に記載された発明の「情報源」は、本願発明の「メッセージ」に相当する。
b.引用例に記載された発明の「送信する」は、本願発明の「通信する」に相当する。
c.引用例に記載された発明の「装置」は、あるユーザが使用するための局として動作しているから、本願発明の「ユーザ局」に相当する。
d.引用例に記載された発明の「拡散符号格納レジスタに格納された長さnの拡散符号列で乗算する」ことは、拡散符号列は、スペクトル拡散符号化による符号であり、乗算するのに回路で行っているから、本願発明の「スペクトル拡散符号化による符号で符号化する符号化回路」に相当する。
e.引用例に記載された発明の「FSK変調」は、変調回路で行っており、FSK変調により周波数分割多重を行っているから、引用例に記載された発明の「乗算した結果を、FSK変調により周波数分割多重化を行い、送信する」と本願発明の「直交周波数分割多重化を用いる変調回路を含み、変調された該符号化されたシンボルを変調し、変調された該符号化されたシンボルを送信する送信回路」は、「周波数分割多重化を用いる変調回路を含み、符号化されたものを変調し、変調された該符号化されたものを送信する送信回路」の点で、一致する。

本願発明と引用例に記載された発明は、
「複数の搬送波によりメッセージを通信するユーザ局であって、
スペクトル拡散符号化による符号で符号化する符号化回路と、
周波数分割多重化を用いる変調回路を含み、符号化されたものを変調し、変調された該符号化されたものを送信する送信回路と、を有するユーザ局。」の点で、一致し、以下の点で、相違する。

相違点1
本願発明では、マルチユーザ通信システムで使用されているのに対して、引用例には、それについての記載がない点。

相違点2
本願発明では、メッセージを信号配置のシンボルに変換する第1の変換回路を有し、該第1の変換回路を符号化回路に接続しているのに対して、引用例には、それについての記載がない点。

相違点3
本願発明は、周波数分割多重化として、直交周波数分割多重化を用いているのに対して、引用例に記載された発明では、FSK変調による周波数分割多重化を行っている点。

上記相違点について、検討する。
相違点1について
引用例では、ロ)で、多元接続が可能となると記載されており、多元接続とは、ある局が複数の局と接続することであるから、引用例に記載された発明を、複数の局、すなわち、マルチユーザ通信システムで使用することは、当業者が容易になし得ることと認められる。

相違点2について
「一次変調(FM、FSK、PM、PSK)をしてから、拡散符号で拡散すること」は、周知例3に示されるように周知であり、一次変調することにより、データを信号配置のシンボルに変換しているから、引用例に記載された発明において、メッセージを信号配置のシンボルに変換する第1の変換回路を有し、該第1の変換回路を符号化回路に接続することは、当業者が容易になし得ることと認められる。

相違点3について
「マルチキャリア伝送をOFDMにより行うこと」は、周知例1、2に示されるように周知であり、OFDMは、直交周波数分割多重化のことであるから、引用例に記載された発明において、周波数分割多重化を直交周波数分割多重化で行うことに、格別な創意工夫は認められない。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知例1〜3に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

そして、本願の請求項9に係る発明について、特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について、検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-19 
結審通知日 2005-04-26 
審決日 2005-05-10 
出願番号 特願平6-11245
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 洋  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 望月 章俊
野元 久道
発明の名称 マルチユーザ拡散スペクトル通信システム  
代理人 伊東 忠彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ