• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1123717
審判番号 不服2003-2157  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-02-10 
確定日 2005-09-20 
事件の表示 平成11年特許願第219156号「記録ヘッド、その記録ヘッドを有するヘッドカートリッジ、その記録ヘッドを用いた記録装置、及び、記録ヘッド素子基板」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月27日出願公開、特開2001- 80060〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年8月2日(国内優先権主張、平成10年8月19日)に出願された特願平11-219156号であって、平成14年12月27日付けで拒絶査定がなされ、これを不服として平成15年2月10日に審判請求がなされるとともに、同年3月12日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成15年3月12日付けの手続補正についての却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成15年3月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.補正事項
平成15年3月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を次のように補正する補正事項を含むものである。

(1)本件補正前
【請求項1】インクを吐出するために利用される熱エネルギーを発生するための電気熱変換素子と該電気熱変換素子を駆動するための駆動回路とが同一の素子基体上に設けられた記録ヘッドであって、
前記素子基体の状態を検知しアナログ出力を行なうセンサと、
前記センサのアナログ出力をデジタル値に変換するA/D変換器とを有し、
前記センサと前記A/D変換器と前記変換されたデジタル値をヘッド外部に出力するための出力端子とが前記素子基体上に設けられていることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項2】前記駆動回路は、
前記電気熱変換体を駆動するパワートランジスタと、
前記パワートランジスタを駆動するための記録データを一時的に格納するシフトレジスタと、
前記シフトレジスタに格納された記録データをラッチするラッチ回路とを含むことを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】前記素子基体の状態とは、前記素子基体の温度、前記電気熱変換体の抵抗値、前記パワートランジスタのON抵抗値の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2に記載の記録ヘッド。
【請求項4】前記センサは、前記素子基体の温度を検知するための温度特性が既知のp-n接合ダイオード、前記電気熱変換体の抵抗値を検知するために前記電気熱変換体と同一材料、同一プロセスで形成された抵抗、前記パワートランジスタのON抵抗を検知するために前記パワートランジスタと同一の導伝型で、同一プロセスで形成されたトランジスタで構成されていることを特徴とする請求項3に記載の記録ヘッド。
【請求項5】前記電気熱変換体の抵抗値を表すデジタル情報と、前記パワートランジスタのON抵抗を表すデジタル情報とを格納する不揮発性メモリをさらに、前記素子基体上に備えることを特徴とする請求項4に記載の記録ヘッド。
【請求項6】前記不揮発性メモリは、EPROM、EEPROM、フューズ式ROMの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項5に記載の記録ヘッド。
【請求項7】請求項1乃至7のいずれかに記載の記録ヘッドを用いて記録を行なう記録装置であって、
デジタル値に変換され、前記出力端子から出力された前記センサの出力に基づく情報を受信して、前記デジタル情報に基づいて、前記記録ヘッドの駆動制御を行なう制御手段を有することを特徴とする記録装置。
【請求項8】インクを吐出するために利用される熱エネルギーを発生するための電気熱変換素子と該電気熱変換素子を駆動するための駆動回路とが同一の素子基体上に設けられた記録ヘッド素子基板であって、
前記基板の状態を検知しアナログ出力を行なうセンサと、
前記センサのアナログ出力をデジタル値に変換するA/D変換器とを有し、
前記センサと前記A/D変換器と前記変換されたデジタル値をヘッド外部に出力するための出力端子とが前記素子基板上に設けられていることを特徴とする記録ヘッド素子基板。
【請求項9】前記駆動回路は、
前記電気熱変換体を駆動するパワートランジスタと、
前記パワートランジスタを駆動するための記録データを一時的に格納するシフトレジスタと、
前記シフトレジスタに格納された記録データをラッチするラッチ回路とを含むことを特徴とする請求項8に記載の記録ヘッド素子基板。
【請求項10】前記基板の状態とは、前記基板の温度、前記電気熱変換体の抵抗値、前記パワートランジスタのON抵抗値の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項9に記載の記録ヘッド素子基板。
【請求項11】前記センサは、前記基板の温度を検知するための温度特性が既知のp-n接合ダイオード、前記電気熱変換体の抵抗値を検知するために前記電気熱変換体と同一材料、同一プロセスで形成された抵抗、前記パワートランジスタのON抵抗を検知するために前記パワートランジスタと同一の導伝型で、同一プロセスで形成されたトランジスタで構成されていることを特徴とする請求項10に記載の記録ヘッド素子基板。
【請求項12】前記電気熱変換体の抵抗値を表すデジタル情報と、前記パワートランジスタのON抵抗を表すデジタル情報とを格納する不揮発性メモリをさらに、前記基板上に備えることを特徴とする請求項11に記載の記録ヘッド素子基板。
【請求項13】インクジェット方式に従って素子基体上に設けられた複数の記録素子を駆動してインクを吐出して記録を行う記録ヘッドであって、
前記素子基体上には、
前記記録ヘッドに関する情報を格納したメモリと、
アナログ信号をデジタルデータに変換して出力する変換回路と、
記録信号を受け取るシフトレジスタと、該シフトレジスタで受け取った記録信号をラッチ信号に応じてラッチするラッチ回路とを含み、前記複数の記録素子を前記記録信号に従って駆動する駆動回路とを有し、
前記メモリに格納された情報を、前記記録信号を前記シフトレジスタに入力するために用いるクロック信号を利用すると共に、前記ラッチ信号を前記メモリからの情報出力のための制御信号として利用して、シリアル形式でヘッドの外部に出力する出力手段を備えていることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項14】前記駆動回路が駆動する複数の記録素子各々は、
ヒータと、
前記ヒータに対する通電のオン/オフを制御するスイッチと、
前記ヒータからの発熱によって加熱されるインクを吐出する吐出ノズルとを含むことを特徴とする請求項13に記載の記録ヘッド。
【請求項15】アナログ信号をデジタルデータに変換してヘッド外部に出力する変換回路を更に備え、
前記変換回路からのデジタル信号の出力を前記クロック信号を利用して行うことを特徴とする請求項13に記載の記録ヘッド。
【請求項16】前記メモリは、
複数のROMと、
前記複数のROM各々に1対1に対応した複数のシフトレジスタとを含み、
前記第3の入力パッドから入力される前記クロック信号に従って、前記複数のシフトレジスタから前記複数のROM各々に読み出し信号を出力し、前記複数のROM各々に格納された情報をシリアルに出力することを特徴とする請求項15に記載の記録ヘッド。
【請求項17】前記変換回路は、前記複数のシフトレジスタから出力される前記読み出し信号を入力してアナログ/デジタル変換を行うための閾値信号を発生することを特徴とする請求項16に記載の記録ヘッド。
【請求項18】前記変換回路は、前記複数のシフトレジスタから出力される前記読み出し信号の周波数を低減する低減回路を有することを特徴とする請求項17に記載の記録ヘッド。
【請求項19】前記アナログ信号は、記録ヘッドの内部温度を測定する温度センサからの出力であることを特徴とする請求項15に記載の記録ヘッド。
【請求項20】前記メモリは、EPROM、EEPROM、フューズ式ROMの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項13に記載の記録ヘッド。
【請求項21】記録データに応じて記録を行う記録ヘッドであって、
第1の周波数のクロックに従って外部から入力された記録データを受け取るシフトレジスタと、
前記記録データに従って通電され発熱することで記録を行うヒータと、
記録ヘッド内部の温度を検出する温度検出回路と、
前記第1の周波数のクロックを分周して第2の周波数のクロックを生成する分周回路とを有し、
前記温度検出回路は前記第2の周波数のクロックに従って、検出温度を示す信号を前記記録ヘッドの外部に出力することを特徴とする記録ヘッド。
【請求項22】前記温度検出回路は、
温度センサと、
基準電圧を発生する基準電圧発生回路と、
前記第2の周波数のクロックに従って、前記基準電圧を変化させる切換回路と、
前記温度センサからの出力電圧と前記切換回路からの基準電圧とを比較し、該比較結果を前記検出温度を示す信号として出力する比較回路とを有することを特徴とする請求項21に記載の記録ヘッド。
【請求項23】前記分周回路は、前記第1の周波数のクロックを2分周することを特徴とする請求項21に記載の記録ヘッド。
【請求項24】前記記録ヘッドは、インクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドであることを特徴とする請求項21に記載の記録ヘッド。
【請求項25】請求項13乃至24のいずれかに記載の記録ヘッドを用いた記録装置。

(2)本件補正後
【請求項1】インクを吐出するために利用される熱エネルギーを発生するための電気熱変換素子と該電気熱変換素子を駆動するための駆動回路とが同一の素子基体上に設けられており、キャリッジに搭載された状態で記録を行う記録ヘッドであって、
前記素子基体の状態を検知しアナログ出力を行なうセンサと、
前記センサのアナログ出力をデジタル値に変換するA/D変換器と、
前記変換されたデジタル値を前記記録ヘッドの外部である装置本体の制御手段に出力するための出力端子とを有し、
前記センサと前記A/D変換器と前記出力端子とが前記素子基体上に設けられていることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項2】前記駆動回路は、
前記電気熱変換体を駆動するパワートランジスタと、
前記パワートランジスタを駆動するための記録データを一時的に格納するシフトレジスタと、
前記シフトレジスタに格納された記録データをラッチするラッチ回路とを含むことを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】前記素子基体の状態とは、前記素子基体の温度、前記電気熱変換体の抵抗値、前記パワートランジスタのON抵抗値の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2に記載の記録ヘッド。
【請求項4】前記センサは、前記素子基体の温度を検知するための温度特性が既知のp-n接合ダイオード、前記電気熱変換体の抵抗値を検知するために前記電気熱変換体と同一材料、同一プロセスで形成された抵抗、前記パワートランジスタのON抵抗を検知するために前記パワートランジスタと同一の導伝型で、同一プロセスで形成されたトランジスタで構成されていることを特徴とする請求項3に記載の記録ヘッド。
【請求項5】前記電気熱変換体の抵抗値を表すデジタル情報と、前記パワートランジスタのON抵抗を表すデジタル情報とを格納する不揮発性メモリをさらに、前記素子基体上に備えることを特徴とする請求項4に記載の記録ヘッド。
【請求項6】前記不揮発性メモリは、EPROM、EEPROM、フューズ式ROMの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項5に記載の記録ヘッド。
【請求項7】請求項1乃至7のいずれかに記載の記録ヘッドを用いて記録を行なう記録装置であって、
前記記録ヘッドを搭載するキャリッジと、
デジタル値に変換され、前記出力端子から出力された前記センサの出力に基づく情報を外部配線を介して受信し、前記デジタル情報に基づいて、前記記録ヘッドの駆動制御を行なう制御手段を有することを特徴とする記録装置。
【請求項8】インクを吐出するために利用される熱エネルギーを発生するための電気熱変換素子と該電気熱変換素子を駆動するための駆動回路とが同一の素子基体上に設けられており、キャリッジに搭載された状態で記録を行うための記録ヘッド素子基板であって、
前記基板の状態を検知しアナログ出力を行なうセンサと、
前記センサのアナログ出力をデジタル値に変換するA/D変換器と、
前記変換されたデジタル値を記録ヘッドの外部である装置本体の制御手段に出力するための出力端子とを有し、
前記センサと前記A/D変換器と前記出力端子とが前記素子基板上に設けられていることを特徴とする記録ヘッド素子基板。
【請求項9】前記駆動回路は、
前記電気熱変換体を駆動するパワートランジスタと、
前記パワートランジスタを駆動するための記録データを一時的に格納するシフトレジスタと、
前記シフトレジスタに格納された記録データをラッチするラッチ回路とを含むことを特徴とする請求項8に記載の記録ヘッド素子基板。
【請求項10】前記基板の状態とは、前記基板の温度、前記電気熱変換体の抵抗値、前記パワートランジスタのON抵抗値の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項9に記載の記録ヘッド素子基板。
【請求項11】前記センサは、前記基板の温度を検知するための温度特性が既知のp-n接合ダイオード、前記電気熱変換体の抵抗値を検知するために前記電気熱変換体と同一材料、同一プロセスで形成された抵抗、前記パワートランジスタのON抵抗を検知するために前記パワートランジスタと同一の導伝型で、同一プロセスで形成されたトランジスタで構成されていることを特徴とする請求項10に記載の記録ヘッド素子基板。
【請求項12】前記電気熱変換体の抵抗値を表すデジタル情報と、前記パワートランジスタのON抵抗を表すデジタル情報とを格納する不揮発性メモリをさらに、前記基板上に備えることを特徴とする請求項11に記載の記録ヘッド素子基板。
【請求項13】前記駆動回路は前記電気熱変換素子への通電のオン/オフを制御するスイッチを有し、このスイッチの動作に応じた前記電気熱変換素子の発熱によってインクを吐出することを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項14】前記デジタル値の出力を前記シフトレジスタにデータを入力するためのクロック信号を利用して行うことを特徴とする請求項2に記載の記録ヘッド。

2.補正の目的

(1)まず、本件補正後の請求項(以下、「新請求項」という。)1は、本件補正前の請求項(以下、「旧請求項」という。)1を補正するものである。仮に記録ヘッドに係る発明を記載する他の請求項、例えば旧請求項13や旧請求項21を限定するものであるとしたならば、本件補正は、これら旧請求項に記載した発明特定事項の一部を削除する補正事項及び下位概念から上位概念への補正事項を含むこととなり、特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的としないものとなるからである。
それ故、新請求項1乃至6は、旧請求項1乃至6と一対一の対応関係にあるといえる。

(2)ところで、新請求項13は新請求項1を引用して記載し、新請求項14は新請求項1を引用して記載する新請求項2を引用して記載する。
そうすると、新請求項13及び14が、旧請求項1乃至6を除き、記録ヘッドに係る発明を記載する旧請求項13乃至24のいずれかと同一(誤記の訂正又は明りようでない記載の釈明を目的として補正されたものも含む。)であるか、或いはこれら請求項のいずれかを減縮したものでない限り、本件補正は請求項を追加する補正事項を含むと解さざるを得ず、特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的としないことになる。

(3)そこで、新請求項13及び14と旧請求項13乃至24を対比すると、新請求項13及び14は、旧請求項13乃至24のいずれとも同一(誤記の訂正又は明りようでない記載の釈明を目的として補正されたものも含む。)でないし、旧請求項13乃至24を減縮したものでもない。
請求人は本件補正の根拠として、「請求項13及び14は、平成14年6月25日付けで提出の手続補正書における請求項14及び15(当審注:旧請求項14及び15のこと。)の記載にそれぞれ基づいています。なお、平成15年3月12日付けで提出の手続補正書の補正(当審注:本件補正のこと。)により、平成14年6月25日付けで提出の手続補正書における請求項13及び16から25は削除しております。」(審判請求書を補正する平成15年4月23日付け手続補正書第3ページ下から3行〜第4ページ2行)と主張するが、この主張からしても、本件補正が請求項の追加を目的としたものであることが窺える。

(4)他方、新請求項13及び14は、旧請求項1を減縮するものであり、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるとの主張も想定されるが、「一つの請求項に記載された発明を複数の請求項に分割して新たな請求項を追加する態様による補正は、たとえそれが全体として一つの請求項に記載された発明特定事項を限定する趣旨でされたものであるとしても、(特許法第17条の2第4項)2号の定める「特許請求の範囲の減縮」には当たらない」(知財高判平成17年(行ケ)第10192号(平成17年4月25日判決言い渡し)参照。)のであるから、当該主張を採用することはできない。

(5)したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項第1号に規定する「請求項の削除」、同項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、同項第3号に規定する「誤記の訂正」及び同項第4号に規定する「明りようでない記載の釈明」を目的とするものではない。

3.補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的としないものであり、平成15年改正前特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によって却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成15年3月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成14年6月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。
「インクを吐出するために利用される熱エネルギーを発生するための電気熱変換素子と該電気熱変換素子を駆動するための駆動回路とが同一の素子基体上に設けられた記録ヘッドであって、
前記素子基体の状態を検知しアナログ出力を行なうセンサと、
前記センサのアナログ出力をデジタル値に変換するA/D変換器とを有し、
前記センサと前記A/D変換器と前記変換されたデジタル値をヘッド外部に出力するための出力端子とが前記素子基体上に設けられていることを特徴とする記録ヘッド。」

2.引用刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-131879号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】キャリッジに設置された印字ヘッド等の温度を温度検出装置によって検出し、温度変化によて起るインクの粘性変化に対応して印字ヘッドの駆動電圧を変化させる等、所定の制御を行なうインクジェットプリンタにおいて、前記キャリッジ側に設置された温度検出装置と、その温度検出装置からの信号を中央処理装置へ電送するフレキシブルケーブルとの間に、前記温度検出装置が出力するアナログ信号をデジタル信号に変換する温度検出回路を設けたことを特徴とするインクジェットプリンタ。」

(イ)段落番号0001〜0005
「【発明の属する技術分野】本発明は、印字ヘッドの温度管理を行なう温度検出センサを有するインクジェットプリンタに関し、特に、温度検出センサからの出力信号をフレキシブルケーブルによって生じるノイズの影響を受けないインクジェットプリンタに関するものである。
【従来の技術】インクジェットプリンタでは、印字ヘッド自身の駆動による温度上昇や周囲温度の変化によってインクの粘性が変化することにより、吐出されるインク粒の飛びに変化が生じる。そこで、従来からインクジェットプリンタの印字ヘッドに温度センサを設置し、常時印字ヘッドの温度を検出し、所定の設定温度内での印字を管理している。・・・
【発明が解決しようとする課題】ところが、このような従来のインクジェットプリンタのように、サーミスタ53からの温度検出信号であるアナログ信号をフレキシブルケーブル57にのせて引き回した後、CPU側でデジタル信号に変換したのでは、途中機内で発生する電気ノイズ等によって検出されたアナログ信号がノイジーになり、正確な温度検出を行なうことができないといった問題が起った。そこで、本発明はこのような問題点を解決すべく、フレキシブルケーブルによるノイズの影響を受けない温度検出が可能なインクジェットプリンタを提供することを目的とする。」

(ウ)段落番号0013
「CPU30は、フレキシブルケーブル7を介して印字ヘッド駆動回路38に接続され、印字ヘッド2を駆動する。一方、その印字ヘッド2に設けられたサーミスタ3に温度検出回路8が接続され、その温度検出回路8がフレキシブルケーブル7を介してCPU30に接続されている。」

(エ)段落番号0014
「図3は、本実施の形態のインクジェットプリンタの特徴を有するキャリッジの内部構造を具体的に示した図である。これは、従来のものと同様、キャリッジ1に搭載された印字ヘッド2に、その印字ヘッド2の温度を監視するサーミスタ3が固定されている。キャリッジ1のキャリッジ基板4には、ドライバIC5が搭載され、そのキャリッジ基板4にFPC6を介して印字ヘッド2が接続され、フレキシブルケーブル7を介してCPU30へ接続されている。」

(オ)段落番号0015
「本実施の形態の特徴的な構成として、キャリッジ基板4上に温度検出回路8が搭載されている。図4は、この温度検出回路8を示した回路図である。温度検出回路8は、バッファアンプ11のプラス端子が、抵抗12を介してサーミスタ3と、抵抗14を介して電源15に接続されている。バッファアンプ11の出力端子は、第1コンパレータ16及び第2コンパレータ17のプラス端子に接続されるとともに、バッファアンプ11自身のマイナス端子に負帰還がかけられている。更に、第1コンパレータ16及び第2コンパレータ17の各マイナス端子には、比較電圧18、19が接続されており、第1コンパレータ16では、サーミスタ3からの電圧値によって20℃を超える値が示された場合にはマイナスのパルス信号が、20℃以下の場合にはプラスのパルス信号が出力するよう設定され、一方第2コンパレータ17では、30℃を境に同じようにプラス又はマイナスのパルス信号が出力するように設定され、それぞれ端子20A、20Bに接続されている。」

(カ)段落番号0017〜0018
「印字ヘッド2からインクが印字面に適切に吐出されるよう、ROM34の駆動電圧設定プログラムによって印字ヘッド2の温度が検出され、印字ヘッド2の駆動電圧が設定される。そこで、先ず印字ヘッド2の周囲温度を検出するサーミスタ3からアナログ信号が出力されると、バッファアンプ11で演算増幅され第1コンパレータ16及び第2コンパレータ17のプラス端子に入力され、比較電圧18、19での設定電圧と比較が行なわれる。第1コンパレータ16では、温度20℃の出力電圧に対応した比較電圧18が設定されており、その設定電圧を超える値、即ち印字ヘッド2の周囲温度が20℃を越えていれば、サーミスタ3から出力されたアナログ信号がデジタル変換され、端子20Aに負のパルス信号が発信され、20℃以下であれば正のパルス信号が発信される。一方、第2コンパレータ17では、温度30℃の出力電圧に対応した比較電圧19が設定されており、その設定電圧を超える値、即ち印字ヘッド2の周囲温度が30℃を越えていれば、端子20Bに負のパルス信号が発信され、30℃以下であれば正のパルス信号が発信される。」

(キ)段落番号0020
「本実施の形態のインクジェットプリンタでは、従来サーミスタで検出した出力結果をアナログ信号のままフレキシブルケーブルを介してCPU側へ電送していたため、途中でノイズが入って正確な温度を確認できずに印字ヘッドの駆動電圧が設定されるといったことがあったが、温度検出回路8を介してフレキシブルケーブル7にはデジタル信号として入力するためノイズの影響を受けることなく、正確な印字ヘッド2周辺温度の検出が可能となった。従って、温度変化によるインクの粘性に応じた印字ヘッド2の駆動電圧の設定を行なうことが可能となり、正確な印字を安定して行なうことができるようになった。」

(ク)図2
図2からは、符号38を付されたブロックがドライバICであることが看取できる。

3.引用刊行物記載の発明
上記2.(ア)〜(ク)を含む引用例の全記載及び図示からみて、引用例には以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明」という。)。
「印字ヘッドの温度を検出し、アナログ信号を出力するサーミスタを固定した印字ヘッド。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明における「印字ヘッド」がインクを吐出するものであることは明らかである。そうであるならば、引用発明の印字ヘッドには、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子が当然に設けられている。それ故、引用発明における「印字ヘッド」は本願発明における「記録ヘッド」に相当し、両者は、「インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子が設けられた記録ヘッド」という点で一致する。

(2)引用発明における「サーミスタ」は、印字ヘッドの温度を検出するものとして印字ヘッドに固定されているのに対して、本願発明における「センサ」は記録ヘッドの素子基体の状態を検知するものとして素子基体上に設けられている。
ところで、「サーミスタ」が「センサ」の一種であること、及び温度が状態を表す指標の一つであることは明らかであるから、引用発明における「サーミスタ」は、本願発明における「状態を検知するセンサ」に相当する。そして、本願発明における「素子基体」は記録ヘッドを構成する一部であるから、本願発明及び引用発明は、「記録ヘッドの状態を検知するセンサが記録ヘッドに設けられている記録ヘッド」という点で一致する。

(3)引用発明における「アナログ信号」は、本願発明における「アナログ出力」に相当する。

(4)したがって、両者は
「インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子が設けられた記録ヘッドであって、
前記記録ヘッドの状態を検知しアナログ出力を行うセンサが前記記録ヘッドに設けられている記録ヘッド。」
において一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子として、本願発明では、熱エネルギーを発生する電気熱変換素子を用いているのに対して、引用発明では、如何なる素子を用いているのか不明な点。

[相違点2]
本願発明では、電気熱変換素子及びこれを駆動するための駆動回路とが同一の素子基体上に設けられているのに対して、引用発明には、かかる意味での素子基体は存在しておらず、当該素子を駆動する駆動回路も印字ヘッドに設けられていない点。

[相違点3]
本願発明では、センサのアナログ出力をデジタル値に変換するA/D変換器及び当該A/D変換器によって変換されたデジタル値をヘッド外部に出力するための出力端子が、電気熱変換素子及びこれを駆動するための駆動回路を設けた素子基体上に設けられているのに対して、引用発明では、サーミスタのアナログ出力をデジタル値に変換する温度検出回路及び当該温度検出回路によって変換されたデジタル値を出力するための出力端子が印字ヘッドに設けられていない点。

[相違点4]
本願発明のセンサは素子基体の状態を検知し、記録ヘッドの素子基体上に設けられているのに対して、引用発明のサーミスタは印字ヘッドの温度を検出するものであり、印字ヘッドの素子基体上に設けられているか否か不明な点。

5.判断
上記相違点について検討する。なお、引用発明及び周知技術に関する記載であっても、本願発明の相当する用語を使用する場合がある。

(1)相違点1について
インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子として、熱エネルギーを発生する電気熱変換素子を用いることは例を示すまでもなく従来周知である。
引用発明は、インクを吐出するために利用するエネルギーを特に限定するものでなく、電気熱変換素子を使用することも可能であるから、引用発明における「インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子」として従来周知な電気熱変換素子を用いることは当業者であれば容易に想到できることである。

(2)相違点2について
インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子を駆動する駆動回路が必要なことは自明である。引用発明の印字ヘッドにおいても、これを駆動するドライバICがキャリッジのキャリッジ基板上に設けられており(上記2.(ウ)、(エ)及び(ク)参照。)、このドライバICが、印字ヘッド内のインクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子を駆動することは明らかである。
そして、記録ヘッドの素子基体上に、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子及び当該素子を駆動するための駆動回路を設けることは、例えば特開平5-185594号公報(「基板1」に設けられた「電気熱変換素子部2」及び「トランジスターアレー部4」、「ロジック部6」を参照。)、特開平8-127140号公報(「基板」に設けられた「電気熱変換素子4」及び「トランジスタアレイ5」、「ラッチ回路7」、「シフトレジスタ8」を参照。)、特開平8-252926号公報(「Si基板201」に設けられた「発熱体101」及び「パワートランジスタ102」、「ラッチ回路103」、「シフトレジスタ104」を参照。)等にみられるように従来周知である。この特開平5-185594号公報には「従来、記録ヘッドの構成は・・・電気熱変換素子2と機能素子(ダイオード)11を同一基板に形成し基板1小型化や外部との電気接点数を少なくしたものや、各ヒータから直接外部に電気接点12をとり出す・・・ものがある。」(段落番号0002)との記載もある。
してみれば、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子及びこれを駆動するための駆動回路とを同一の素子基体上に設けるか、或いは、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子のみを記録ヘッドに設け、これを駆動するための駆動回路を記録ヘッド外部に設けるかは、双方の長所短所を比較して選択し得る設計事項である。
そして、引用発明のインクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子を駆動する駆動回路が、既にキャリッジのキャリッジ基板上に設けられているのであるから、当該駆動回路を設けたままのキャリッジ基板を記録ヘッドの素子基体として配置するとともに、当該基板上にインクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子を設けることは、当業者であれば容易に想到できることである。

(3)相違点3について
アナログ出力ではノイズの影響を受けやすいため、これをデジタル値に変換して電送することはノイズ対策として従来周知であり、引用発明のサーミスタから出力されるアナログ信号も、これをデジタル値に変換する温度検出回路がキャリッジのキャリッジ基板上に設けられている(上記2.(オ)及び(カ)参照。)。
ところで、引用発明におけるキャリッジ基板を、駆動回路を設けたまま記録ヘッドの素子基体として配置し、当該素子基体上に、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するための素子を設けることが想到容易であることは上記5.(2)で述べたとおりである。そして、引用発明におけるキャリッジ基板を素子基体として記録ヘッドに配置するとなれば、キャリッジ基板上に設けられていた温度検出回路(本願発明における「A/D変換器」に相当。)を取り外してキャリッジに残すよりも、当該温度検出回路を設けたままのキャリッジ基板を記録ヘッドに配置するほうが自然である。
また、引用発明では、記録ヘッドとキャリッジを接続するFPCに入力されるサーミスタのアナログ信号が、程度の大小こそあれノイズの影響を受ける可能性を完全には否定できない。引用発明が、「サーミスタ53からの温度検出信号であるアナログ信号をフレキシブルケーブル57にのせて引き回した後、CPU側でデジタル信号に変換したのでは、途中機内で発生する電気ノイズ等によって検出されたアナログ信号がノイジーになり、正確な温度検出を行なうことができないといった問題」(上記2.(イ)参照。)を踏まえたものであることからすると、サーミスタのアナログ信号が受けるノイズの影響を可能な限り排除すべく、当該サーミスタから出力されるアナログ信号をデジタル値に変換する温度検出回路をキャリッジ基板上に設けたまま記録ヘッドに配置することは、当業者であれば容易に想到できることである。そして、温度検出回路を設けたままのキャリッジ基板を素子基体として記録ヘッドに配置するとなれば、温度検出回路によって変換されたデジタル値を、CPUという記録ヘッド外部に出力するための出力端子も当該素子基体上に当然に必要となる。
しかも、記録ヘッドに配置した素子基体上にA/D変換器を設けることは、前述の特開平8-127140号公報(「A/Dコンバータ10」参照。)及び特開平8-252926号公報(「温度センサ400」参照。この「温度センサ400」は、本願発明におけるセンサ及びA/D変換器の機能を一つにまとめたものである。)等にみられるように格別困難なく実施できるものであるから、A/D変換器を記録ヘッドに配置した素子基体上に設けることを阻害する要因も見あたらない。
それ故、引用発明におけるキャリッジ基板を素子基体として記録ヘッドに配置するにあたり、温度検出回路及び当該温度検出回路によって変換されたデジタル信号を記録ヘッド外部に出力するための出力端子を当該素子基体上に設けることは、当業者であれば容易に想到できることである。

(4)相違点4について
引用発明における記録ヘッドに素子基体を設け、当該素子基体上に、サーミスタのアナログ出力をデジタル値に変換する温度検出回路及び当該温度検出回路によって変換されたデジタル値を出力するための出力端子を設けることが想到容易であることは上記5.(3)で述べたとおりである。
そして、引用発明における温度検出回路が記録ヘッドの素子基体上に設けられているとなれば、当該温度検出回路に入力するアナログ信号を出力するサーミスタも、温度検出回路と同じ素子基体上に設けることが自然である。
また、サーミスタが素子基体上に設けられたならば、当該サーミスタは素子基体の温度、すなわち素子基体の状態を検知することになるが、記録ヘッドの素子基体の温度を検出することを阻害する要因、例えば「温度変化によって起るインクの粘性変化」(上記2.(ア)参照。)を検出できないといった要因も見あたらない。
したがって、引用発明のサーミスタを記録ヘッドの素子基体上に設け、素子基体の状態を検知することは設計事項である。

(5)本願発明の進歩性の判断
上記相違点は、いずれも想到容易であるか設計事項であり、本願発明の作用効果も引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであるから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-07-21 
結審通知日 2005-07-25 
審決日 2005-08-05 
出願番号 特願平11-219156
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大元 修二後藤 時男  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 津田 俊明
谷山 稔男
発明の名称 記録ヘッド、その記録ヘッドを有するヘッドカートリッジ、その記録ヘッドを用いた記録装置、及び、記録ヘッド素子基板  
代理人 高柳 司郎  
代理人 大塚 康弘  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康徳  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ