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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1123954
審判番号 不服2002-23503  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-12-05 
確定日 2005-09-29 
事件の表示 平成11年特許願第191824号「ICカード読取装置及びループアンテナ用積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月26日出願公開、特開2001- 24425〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年7月6日の出願であって、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年7月31日付け、及び平成14年10月4日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項2】 アンテナユニットのループアンテナに近接配置される積層体であって、
導電体からなる導電層と、
該導電層の一方の面に積層された絶縁体からなる絶縁層と、
前記導電層の他方の面に積層された電磁波吸収体からなる吸収層と、
からなり、前記吸収層側が前記ループアンテナのループ面と対向するように配置され、且つ、前記ループアンテナとの配置間隔、及び前記吸収層の材質は、前記ループアンテナから送出された電磁波の信号強度が予め設定された最大検知距離の位置では当該積層体を備えていない場合の信号強度と等しくなるように設定されていることを特徴とするループアンテナ用積層体。」

2. 引用発明、及び周知技術
A.原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願の日前である平成11年4月9日に頒布された特開平11-98061号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「ループアンテナおよび情報処理装置」の発明に関し、図面とともに以下の記載がある。
a)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、たとえば、携帯可能な無線通信機能を有する情報記憶媒体としての無電池式の無線カードとの間で無線による送受信を行なうことにより、無線カードに対して電力の送信やデータの送信および受信など、所定の情報処理を行なう無線カードリーダ・ライタに用いられるループアンテナに関する。」(3頁左欄22行ないし28行)、
b)「【0005】【発明が解決しようとする課題】従来の無線カードシステムにおいては、無線カードおよび無線カードリーダ・ライタのアンテナは、最も安定した位置、すなわち、無線カードリーダ・ライタのアンテナと無線カードのアンテナがおのおのの中心軸上で正面の位置にある場合に通信が行なわれればよいとされてきた。
【0006】また、仕様書においても、上記通信距離がその無線カードシステムの通信距離として定義されている。しかしながら、たとえば、自動改札装置などに使用される無線カードシステムにおいては、無線カードが移動中に無線カードリーダ・ライタと通信を行なう必要がある。このため、無線カードリーダ・ライタは、広域な通信エリアを確保しつつ通信距離を確保しなければならない。
【0007】上記問題点の解決策として、アンテナの放射電界強度を大きくすることが考えられる。しかしながら、電波法により放射電界強度が規定されているため、むやみに放射電界強度をあげることが不可能である。
【0008】そこで、本発明は、従来の問題点である通信エリアの問題と電波法の問題を解決することが可能なループアンテナおよび情報処理装置を提供することを目的とする。」(3頁左欄50行ないし右欄22行)、
c)「【0042】図12は、第3の実施の形態に係るループアンテナの構成を概略的に示している。第3の実施の形態に係るループアンテナは、アンテナ近傍の放射電界強度を改善するようにした構成例である。図12において、ループアンテナ111は、所望の通信エリアに対応する開口面積を持つループアンテナ112の背後に、フェライト板などの板状の磁性体113とステンレス板などの金属板114とを重ね合わせてなる背面部材115を配設して構成される。なお、1164は送信回路内のドライバを示している。
【0043】図13に、図12のループアンテナ111の特性を示す。特性121はループアンテナ112単体の距離対放射電界強度特性、特性122はループアンテナ112、磁性体113と金属板114を組合わせたループアンテナ111の距離対放射電界強度特性を示している。これにより、アンテナ近傍における放射電界強度特性を改善することが可能である。また、背後に金属板114を配設することにより、アンテナへの外界からの雑音の混入や、逆にアンテナから回路への無駄な放射を防ぐことが可能である。」(6頁左欄30行ないし49行)、
d)「【0053】【発明の効果】以上詳述したように本発明によれば、従来の問題点である通信エリアの問題と電波法の問題を解決することが可能なループアンテナおよび情報処理装置を提供できる。」(7頁左欄36行ないし40行)。

上記記載、及び技術常識を考慮すると、刊行物1には、
「ループアンテナ112の背後に、フェライト板などの板状の磁性体113とステンレス板などの金属板114とを重ね合わせてなるループアンテナ用背面部材。」の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。

B.また、原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願の日前である平成10年7月31日に頒布された特開平10-197662号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「受信装置」の発明に関し、図面の図40に平面アンテナ部2の背面に絶縁板を介して回路基板を取り付けた構成が記載されている。

C.また、例えば、本願の出願の日前である平成11年3月30日に頒布された特開平11-88036号公報(以下、「周知例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
a)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、例えばキャッシュディスペンサ、電子マネー、自動改札システム、入退室管理システム、公衆電話器等におけるキャッシュカード、クレジツトカード、乗車券、定期券、回数券、管理カード、IDカード、免許証、テレホンカード等の近接無線カードとの間において近接無線動作用電力伝送及び通信を行うリーダまたは/およびライタ装置、電力伝送システム並びに通信システムに関する。」(3頁右欄26行ないし34行)、
b)「【0006】本発明の第一の目的は、上記課題を解決すべく、リーダまたは/およびライタ装置から近接無線カード(ICカード)に対して、規制値(例えば、距離3mにおいて500μV/m)を満足させて、しかも十分な電力を供給できるようにした近接無線カードシステムにおけるリーダまたは/およびライタ装置、電力伝送システム並びに通信システムを提供することにある。」(4頁左欄19行ないし25行)、
c)「【0045】次に本発明に係る放射電界が電波法の規制値(距離3mにおいて500μV/m)を満足し、しかもICカード2に対して十分なパワーで電力伝送を可能にするリーダ/ライタ1に備えられたアンテナ101の実施の形態について説明する。
【0046】まず、本発明に係るリーダ/ライタ1に備えられたアンテナ101の第1の実施の形態を説明する。図5は、本発明に係るリーダ/ライタ1に備えられたアンテナ101の第1の実施の形態を示す図である。リーダ/ライタ1に用いるアンテナ101の第1の実施の形態として、絶縁基板101a上に最外形が25mm〜75mmの四角状で、その内部にスパイラル状またはコイル状のアンテナ101bを薄膜導体で形成し、この基板101aの裏側にアンテナ101bにd=20mm程度以下に近接して上記アンテナ101bの鏡像91を形成するCu等の導体板(金属板)101cを備えて構成する。なお、導体板(金属板)101cは、電位を安定にするためにアースに接地される。また、導体板(金属板)101cとしては、鏡像91を形成しやすい抵抗値の低い金属、例えばCuやAlが良い。
【0047】このように、スパイラル状またはコイル状のアンテナ101bにd=20mm程度以下に近接して上記アンテナ101bの鏡像91を形成する導体板(金属板)101cを備えたことにより、図6に示すように、垂直方向において13.56MHzで励振されて電流Iが流されたアンテナ(ループアンテナ)101bの各辺からr1、r3の距離にある点の磁界と、アンテナ(ループアンテナ)101bから2dの距離離れた位置に形成された鏡像91の各辺からr1’、r3’の距離にある点の磁界とが合成される。
【0048】この場合のリーダ/ライタ上方距離D[m]における磁界を測定用ループアンテナ(1辺が61.6cmの正方形ループアンテナ)で測定し、電界強度に換算した値(ωμSHz×AF)[dBuV/m]を図7に示す。なお、図7は、スパイラル状またはコイル状のアンテナ(ループアンテナ)101bの最大外形が30mm×30mmで、ターン数[T]が5で、電流Is=1.0[Arms]において、導体板(金属板)101cなしの場合と、導体板(金属板)101cありで、d=5[mm]、d=20[mm]、d=50[mm]の場合とにおけるリーダ/ライタ上方距離D[m]とその距離における電界強度[dBuV/m]との関係をシュミレーションした結果を示す。この図7に示すように、導体板(金属板)101cありの場合には、導体板(金属板)101cなしの場合と比較して、上方距離Dが長くなるに従って電界強度は低減されることになる。またループアンテナ101bと金属板101cとの間の間隔dが50[mm]、20[mm]、5[mm]と近ずくに従って、上方距離Dが長い場合において電界強度は低減されることになる。
【0049】一方、電波法の規制値としては、D=3[m]において、電界強度としては、54[dBuV/m]となる。
【0050】従って、D=3[m]において、ループアンテナ101bと金属板101cとの間の間隔dを5[mm]以下にすれば、電界強度を金属板なしに比べて、41[dBuV/m]以上低減することができる。
【0051】そこで、例えばループアンテナ101bと金属板101cとの間の間隔dを5[mm]以下にすれば、ICカード2との間の距離を数cm以下において、ループアンテナ101bからカードアンテナ201に対して電界強度として約190[dBuV/m]以上まで電力伝送を行うことができる。また例えばループアンテナ101bと金属板101cとの間の間隔dを20[mm]にすれば、ICカード2との間の距離を数cm以下において、ループアンテナ101bからカードアンテナ201に対して電界強度として約180[dBuV/m]まで電力伝送を行うことができる。
【0052】もし、金属板がない場合には、電波法の規制値(D=3[m]において、電界強度としては、54[dBuV/m])を満足させるには、ループアンテナ101bからカードアンテナ201に対する電界強度として約120[dBuV/m]以下にする必要が生じる。しかしながら、上記のようにループアンテナ101bの裏側に、金属板101cを設置することによって、放射電界が電波法の規制値(距離3mにおいて500μV/m)を満足し、しかもICカード2に対して十分なパワーで電力伝送をすることができる。」(8頁左欄15行ないし右欄42行)。
上記周知例1の記載によれば、ループアンテナと金属板との配置間隔を変えることにより、電磁波の信号強度を変化させることは周知の技術であると認められる。

D.また、例えば、本願の出願の日前である平成9年10月31日に頒布された特開平9-284038号公報(以下、「周知例2」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
a)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、非接触カードや非接触タグ等を用いた非接触データキャリアシステムに於けるリーダライタ側のアンテナ装置に関するものである」(2頁左欄7行ないし11行)、
b)「【0005】本発明は、このような従来技術の問題点を解消し、非接触データキャリアの通信距離をアンテナ装置の設置場所に左右されずに安定に保つことができ、しかもアンテナ装置のより一層の薄形化を推進し得る非接触データキャリアのアンテナ装置を提供することを目的とするものである。」(2頁右欄1行ないし6行)、
c)「【0006】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の公知形式に於ける非磁性体の高導電率材がループアンテナに近接することによって起きる電磁波の放射損失の多くは、高導電率材に発生する渦電流に起因するものと考え、この観点に立つと、低導電率材の方が好ましいのではないかと考えた。その一方で、電磁波は電界と磁界とが表裏一体となって進行するものであるから、磁界で電磁波を制御できないものかと考えた。即ち、鉄板などの磁性部材よりも高い実効比透磁率(μeff)かつ低導電率の軟磁性材を、アンテナの放射を目的とする方向以外の側面に近接配置することにより、アンテナから放射される電磁波のうち、目的とする方向以外の側の電磁波を時間平均的に安定して予め吸収させる構成をとることで供給電力を調整すれば、鉄板などの磁性体が近づいても、そちら側には電磁界が吸収されなくなり、また、ケーブルから発生する電磁界は、高実効比透磁率材が吸収するのでアンテナ側へは影響しなくなり、安定した放射電磁界を確保できるようになると考えた。そして鋭意検討の結果、上記の目的を果たすために、100kHz以下の励振周波数に於ける実効比透磁率が100以上の軟磁性体を、ループアンテナの背面に近接配置するものとした。」(2頁右欄7行ないし29行)、
d)「【0012】軟磁性体3は、実効比透磁率が極めて高く、これをループアンテナ1の背面に近接配置すると、ループアンテナ1後方の電磁界は軟磁性体3中に引き込まれる。また、この状態でアンテナ出力を調整することにより、アンテナ装置の背面に鉄筋、鉄板、アルミニウム板、或いは信号ケーブル等の良導体が存在する場合の影響を小さくすることができる。
【0013】一般に軟磁性体の保磁力は鉄板等に比べて小さく、ヒステリシス損失は小さい。また電気抵抗の大きい軟磁性体を用いれば、軟磁性体表面を流れる渦電流はさらに小さくなる。これを代表的な磁気特性値である実効比透磁率で表すと、実効比透磁率値が高いほどループアンテナ1に加えられた高周波電力の損失が少なくなり、アンテナ装置の背面に良導体が存在しても、アンテナ単体の場合とほぼ同じ通信距離が得られる。
【0014】より好ましい軟磁性体材料としては、厚さ数mm程度のフェライト薄板または厚さ数10μm程度のアモルファスシートが考えられる。アモルファスシートを積層することで、アンテナ装置背面の建築部材に含まれた良導体の影響をさらに小さくできる。また、適当な外部磁界を印加した不活性ガス中または窒素ガス中でアモルファスシートに摂氏数百度の熱処理を施すことにより、実効比透磁率がより一層増大し、通信距離を伸ばすことができる。
【0015】アンテナ装置を数百kHzの周波数で励振する場合には、その周波数帯域で高実効比透磁率を保持し得る軟磁性材料を用いればよく、この場合には、特にフェライトやアモルファス等が好ましい。また、これよりも低い周彼数でアンテナ装置を励振する場合には、パーマロイ、珪素鋼、或いはセンダスト等の軟磁性材も利用可能である。
【0016】本発明のアンテナ装置の動作電流を適当に調整できるならば、軟磁性体3が持つその時の最大実効比透磁率に合うように動作電流を調整すれば良い。
【0017】図5は、ループアンテナ1単体の通信可能範囲を示しており、ループアンテナ1の前後に均等な通信可能範囲4が存在している。
【0018】図6は、本発明のアンテナ装置の通信可能範囲である。本発明のアンテナ装置によると、軟磁性体3の後方には、通信可能範囲がほとんど存在せず、ループアンテナ1の前面にのみ通信可能範囲4を得ることができる。同図に示すように、アンテナ装置の背面側に鉄板5等の磁性体が存在する場合でも、通信可能範囲はほとんど変化しなかった。」(3頁左欄14行ないし右欄13行)。
上記周知例2の記載によれば、ループアンテナに近接配置される電波吸収体の材質を変えることにより電磁波の信号強度を変化させることは周知の技術であると認められる。

3. 対比
(1)対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
a)引用発明の「ループアンテナ112」は、本願発明の「アンテナユニットのループアンテナ」に相当し、引用発明の「ループアンテナ用背面部材」は、ループアンテナ112の背後に、フェライト板などの板状の磁性体113とステンレス板などの金属板114とを重ね合わせてなるから本願発明の「積層体」に相当することは明らかであり、したがって、両者は「アンテナユニットのループアンテナ」と「積層体」を備える点で一致する。
b)引用発明の「ステンレス板などの金属板114」は、本願発明における「導電体からなる導電層」に相当するから、両者は「導電体からなる導電層」を備える点で一致する。
c)フェライトなど磁性体は電波を吸収することから、引用発明の「フェライト板などの板状の磁性体113」は、本願発明における「電波吸収体からなる吸収層」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、次の点で一致し、相違する。

(2)一致点
導電体からなる導電層と、前記導電層の面に積層された電磁波吸収体からなる吸収層と、からなり、前記吸収層側がループアンテナのループ面と対向するように配置されているループアンテナ用積層体。

(3)相違点
ア.相違点1
本願発明の積層体は、アンテナユニットのループアンテナに近接配置されるのに対して、引用発明の積層体(ループアンテナ用背面部材)は、ループアンテナ112の背後に配設されている点。
イ.相違点2
本願発明は、導電層の一方の面に積層された絶縁体からなる絶縁層を備えているのに対して、引用発明はそのような絶縁層を備えていない点。
ウ.相違点3
本願発明は、ループアンテナとの配置間隔、及び吸収層の材質は、前記ループアンテナから送出された電磁波の信号強度が予め設定された最大検知距離の位置では当該積層体を備えていない場合の信号強度と等しくなるように設定されているのに対して、引用発明は、その点について明示していない点。

4.当審の判断
(1)相違点1について
近接配置とは、近くに配置するという意味であると解されるところ、引用発明のループアンテナ用背面部材をループアンテナ112の背後に配設することも近接配置の一形態であるといえるから、相違点1は実質的に相違するものではない。
仮に、ループアンテナ用背面部材をループアンテナ112の背後に配設することが近接配置の一形態でないとしても、引用発明において、積層体をアンテナユニットのループアンテナに近接配置することに格別の困難性はないから、上記近接配置することは当業者であれば容易に想到し得ることである。
(2)相違点2について
本願の発明の詳細な説明の記載(段落「【0026】)によれば、本願発明における絶縁層は、ループアンテナ用積層体に回路基板等を直接取り付けるためのものであるところ、アンテナ部に回路基板を直接取り付けるために、アンテナ部と回路基板との間に絶縁板を設ける技術は刊行物2に開示されており、刊行物2に開示された技術を引用発明に適用することを阻害する特段の要因は認められないから、引用発明に前記刊行物2に開示された技術を適用し、アンテナ部の一部である積層体が、「導電層の一方の面に積層された絶縁体からなる絶縁層」を備えるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
(3)相違点3について
上記刊行物1には、「【0042】図12は、第3の実施の形態に係るループアンテナの構成を概略的に示している。第3の実施の形態に係るループアンテナは、アンテナ近傍の放射電界強度を改善するようにした構成例である。図12において、ループアンテナ111は、所望の通信エリアに対応する開口面積を持つループアンテナ112の背後に、フェライト板などの板状の磁性体113とステンレス板などの金属板114とを重ね合わせてなる背面部材115を配設して構成される。なお、1164は送信回路内のドライバを示している。」(6頁左欄30行ないし39行)、「【0043】図13に、図12のループアンテナ111の特性を示す。特性121はループアンテナ112単体の距離対放射電界強度特性、特性122はループアンテナ112、磁性体113と金属板114を組合わせたループアンテナ111の距離対放射電界強度特性を示している。これにより、アンテナ近傍における放射電界強度特性を改善することが可能である。また、背後に金属板114を配設することにより、アンテナへの外界からの雑音の混入や、逆にアンテナから回路への無駄な放射を防ぐことが可能である。」(6頁左欄40行ないし49行)の記載があり、これらの記載によれば、引用発明には、ループアンテナに磁性体113と金属板114を組合わせることにより、アンテナ近傍における放射電界強度特性を改善する技術の開示が認められること、また、前示したように、ループアンテナと金属板との配置間隔を変えることにより電磁波の信号強度を変化させることや、ループアンテナに近接配置される電波吸収体の材質を変えることにより電磁波の信号強度を変化させることは周知の技術であることを考慮すると、引用発明における放射電界強度特性は、磁性体の材質や、金属板とループアンテナとの間隔により変化するものと考えられること、加えて、最大検知距離において積層体を備えていない場合の信号強度と等しくなるように設定することは適宜実施し得る設計事項であると考えられることから、引用発明において、「前記ループアンテナとの配置間隔、及び前記吸収層の材質は、前記ループアンテナから送出された電磁波の信号強度が予め設定された最大検知距離の位置では当該積層体を備えていない場合の信号強度と等しくなるように設定されている」ようにすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。

5. むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1、2に記載された発明、及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-07-28 
結審通知日 2005-08-02 
審決日 2005-08-18 
出願番号 特願平11-191824
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉村 伊佐雄  
特許庁審判長 佐藤 秀一
特許庁審判官 長島 孝志
浜野 友茂
発明の名称 ICカード読取装置及びループアンテナ用積層体  
代理人 足立 勉  

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