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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199835415 審決 特許
判定2007600007 審決 特許
審判199935072 審決 特許
無効200680144 審決 特許
無効200435069 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A01N
管理番号 1123999
審判番号 無効2000-35281  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1985-08-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-05-25 
確定日 2004-03-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第1861146号発明「吸液芯用殺虫液組成物及び加熱蒸散殺虫方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1861146号の特許請求の範囲第1項及び第2項に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第1861146号の特許請求の範囲第1項及び第2項に記載された発明は昭和59年1月31日に出願され、平成6年8月8日にその特許権の設定登録がなされた。その後、平成12年5月25日に大日本除蟲菊株式会社より無効審判の請求があり、平成12年8月28日付けで答弁書が提出され、さらに平成13年1月18日付けで審判請求人より上申書が提出された。
なお、本件特許について平成11年2月9日付けで訂正審判請求(平成11年審判第39010号)がなされたが、当該訂正審判請求はその後取り下げられた。

II.本件発明
本件明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項に記載された発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という)は、設定登録時の明細書に記載された以下のとおりである。
「1.殺虫剤の有機溶剤溶液中に、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン及び3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソールから選ばれた少なくとも1種の化合物を約0.2重量%以上配合したことを特徴とする吸液芯用殺虫液組成物。
2.殺虫液中に吸液芯の一部を浸漬して該芯に殺虫液を吸液すると共に、該芯の上部を間接加熱することにより吸液された殺虫液を蒸散させる加熱蒸散殺虫方法において、上記殺虫液として、脂肪族炭化水素に殺虫剤と共に、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン及び3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソールから選ばれた少なくとも1種の化合物を約0.2重量%以上配合してなる殺虫液を用いると共に、吸液芯として無機粉体を糊剤で粘結させた吸液芯を用い、かつ、該吸液芯の上部を約60〜約135℃の温度に間接加熱することを特徴とする加熱蒸散殺虫方法。」

III.当事者の主張の概要
1.請求人の請求の趣旨及び理由
請求人は、本件特許第1861146号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として下記の書証を提示し、本件発明1及び本件発明2は、甲第2号証乃至甲第6号証、甲第9号証乃至甲第24号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よってこれらの発明の特許は無効とすべきものであると主張している。


甲第1号証 特公平2-25885号公報
甲第2号証 特開昭56-36958号公報
甲第3号証 実公昭43-25081号公報
甲第4号証 特開昭55-57502号公報
甲第5号証 特公昭52-12106号公報
甲第6号証 特開昭50-160426号公報
甲第7号証 大勝靖一著「自動酸化の理論と実際」株式会社化学工業 社、昭和61年9月20日発行、第165〜183頁
甲第8号証 特開昭49-42837号公報
甲第9号証 「殺虫剤指針解説」日本薬業新聞社、昭和53年8月2
5日発行、第257〜265頁、第275〜279頁
甲第10号証 特公昭42-13470号公報
甲第11号証 「AGRICULTURAL AND FOOD CH
EMISTRY」第4巻第4号、1956年4月発行、
第341頁左欄8〜13行、第342頁中央欄9〜14

甲第12号証 「P.&E.,O.R.」の「Stabilizing Myrcene」に関する論文、1967年1月発行、
第25頁左欄下から12〜9行、第26頁右欄下から1
4〜6行
甲第13号証 特開昭51-5365号公報
甲第14号証 特開昭50-13316号公報
甲第15号証 「防虫科学第39巻-I」、昭和49年2月発行、第1
〜10頁
甲第16号証 「Agr.Biol.Chem.」第36巻第1号、第
56〜61頁、1972年
甲第17号証 「防虫科学第35巻-III」、昭和45年8月発行、
第96〜102頁
甲第18号証 「Pyrethrum post」第11巻第1号、1
971年4月発行、第24〜28頁
甲第19号証 特公昭46-21239号公報
甲第20号証 特公昭54-44726号公報
甲第21号証 特開昭54-23122号公報
甲第22号証 特公昭52-1970号公報
甲第23号証 特公昭51-9371号公報
甲第24号証 特開昭53-86023号公報

2.被請求人の答弁の趣旨及び理由主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として下記の書証を提示し、請求人の主張する理由及び証拠によっては本件特許を無効とすることはできないと主張している。


乙第1号証 東京高裁平成8年(行ケ)第187号審決取消請求事件 判決
乙第2号証 特開昭55-58047号公報
乙第3号証 実公昭45-14913号公報
乙第4号証 実公昭45-29244号公報
乙第5号証の1 大日本除蟲菊株式会社試験研究員 浅井洋による平成8
年10月18日付け試験報告書
乙第5号証の2 大日本除蟲菊株式会社試験研究員 浅井洋の印鑑証明書

IV.証拠の記載等
甲第1号証は、本件特許の訂正公告公報である。

甲第2号証には、「液体状の蒸散用薬剤を加熱ヒーター上に設けられた浸透拡散材に毛細管により連続的に供給し、該薬剤の供給された浸透拡散材を加熱し該薬剤を蒸散させる蒸散方法」が図面と共に記載されており(特許請求の範囲第1項、及び第1図参照)、多孔質芯で殺虫液を吸い上げて該多孔質芯を加熱するものについて、「長時間使用すると芯の加熱蒸散部に薬剤の熱分解、重合物がたまり、目詰まりを起し殺虫液の吸い上げ量が減じ蒸散量が減じるなど欠点が多く未だ実用化されていない。」と記載されている(公報第1頁右下欄11行〜第2頁左上欄4行参照)。

甲第3号証には、薬液容器に突出させた薬液吸上用の芯を設け、これを電気発熱体に接触させた電熱式殺虫器具に係る考案が記載されており(実用新案登録請求の範囲参照)、その効果について、「薬液の熱変質による樹脂状物等に起因する、薬液吸上用芯の吸上力の低下を防ぎ得る。」と記載されている(公報第1頁右欄下から2行〜第2頁左欄1行)。

甲第4号証には、以下の記載がある。
4-イ:「沸点範囲180〜300℃の脂肪族炭化水素にdl-3-アリル-2-メチルシクロペンタ-2-エン-4-オン-1-イル dl-シス/トランス-クリサンテマート及び(又は)その異性体の1〜10重量%を含有させてなる殺虫剤液中に、吸油速度が30分以上40時間未満の多孔質吸液芯の一部を浸漬して該芯に殺虫剤液を吸液すると共に、該芯の上側面部を130〜140℃の温度に間接加熱して吸液された殺虫剤液を蒸散させることを特徴とする加熱蒸散殺虫方法。」(特許請求の範囲)
4-ロ:殺虫剤溶液を吸上芯により吸上げつつこれを加熱蒸散させる方法について、「上記固型マット使用に見られる短時間内に殺虫効果が消失する欠点を解消し、長期に亘り殺虫効果を持続させるためには、殺虫剤溶液を吸上芯により吸上げつつこれを加熱蒸散させる方法が考えられ、事実このような吸上芯利用による殺虫剤蒸散装置が種々提案されている。しかしながら提案された装置は、実際これを用いた場合いずれも吸上芯の加熱によって殺虫剤液を構成する溶剤が速やかに揮散し該芯内部で殺虫剤液が次第に濃縮され、樹脂化して目づまりを起し、長期に亘る持続効果は発揮できず、しかも殺虫効果が経時的に低下し且つ有効揮散率が低く残存率が高いものであった。このような吸上芯利用による加熱蒸散方法に見られる各種の弊害の生ずる原因としては、芯の種類、及び溶剤の種類は勿論のこと殺虫剤の種類、濃度、加熱条件等の多数が考えられ、しかも溶剤のみについても現在知られている溶剤はすべて殺虫剤に比しはるかに低沸点を有し、それ故殺虫剤を充分な殺虫効果を奏し得る濃度で蒸散させるような温度に加熱すれば極めて速やかに且つ多量に揮散してしまう所から、上記弊害を解消することはできないと考えられた。」(公報第1頁右下欄13行〜第2頁右上欄4行)
4-ハ:多孔質液芯について、「該芯としては例えば磁器多孔質、グラスファイバー、石綿等の無機繊維を石膏やベントナイト等の結合剤で固めたもの、カオリン、タルク、ケイソウ土、パーライト、ベントナイト等の無機粉体をデンプン等の結合剤で固めたもの等を例示できる。」(公報第3頁右上欄10行〜15行)

甲第5号証には、薬剤加熱揮散装置に係る発明が記載されており(特許請求の範囲参照)、加熱形式による揮散手段の例として、ピレスロイドを適当な溶剤に溶解した溶液を灯芯体の毛細管現象を利用して発熱体に供給し、ピレスロイドを揮散させるものが記載されている(公報第1頁第2欄末行〜第2頁第3欄3行参照)。

甲第6号証には、以下の記載がある。
6-イ:「構造式で示される化合物(第一菊酸の5-プロパルギル-2-フリルメチルアルコールエステル)を有効成分とする燻蒸・蒸散用殺虫剤」(特許請求の範囲、及び公報第1頁右下欄18行〜20行)
6-ロ:殺虫剤を蒸散用として用いる場合について、「又上記エステルを加熱蒸散用殺虫剤として使用する場合は、このエステルを例えば白燈油に溶解し、この溶液を電気熱体の蒸発面に連続的に供給するようにするか、又は上記溶液をパルプ板又は石綿その他の不燃性材料からなる担持体に浸ませるか、タルク、カオリン、珪藻土に浸ませ錠剤化してこれを電気発熱体で加熱するようにしてもよい。」(公報第2頁左下欄末行〜右下欄7行)
6-ハ:実施例として、「実施例3.本発明の化合物・・・を縦2cm、横2.5cm、厚さ2mmのパルプ板に吸収させ、風乾してアセトンを除去し、加熱蒸散用のマットを得る。 実施例4.本発明の化合物・・・圧縮成型し、重量1gの板状錠剤を得る。 実施例5.本発明の化合物3g、オクタクロロジプロピルエーテル6g、ジブチルヒドロキシトルエン3gを白灯油に溶解して100mlとした溶液を電気発熱体に導き加熱、蒸散させる。」(公報第5頁左上欄14行〜右上欄11行)

甲第7号証には、フェノール系、硫黄系、アミン系の酸化防止剤について、それぞれの化合物名、分子式、構造式が示されている。

甲第8号証には、密閉した室内の悪臭を除去する方法に係る発明が記載されており(特許請求の範囲参照)、酸化防止剤の使用によって脱臭剤成分および(または)芳香物質成分を酸化または重合に対し安定化する必要があることが記載され(公報第5頁右下欄13行〜16行)、酸化防止剤として「ブチルヒドロキシトルエン」が例示されている(公報第6頁左上欄3行)。
また、実施例には、容器と芯とからなる芯式蒸発器において酸化防止剤としてp-ヒドロキシ安息香酸メチルを配合した成分を用いた場合に、該芯式蒸発器は2〜3個月間継続的に作用したことが記載されている(公報第7頁左下欄15行〜右下欄14行参照)。

甲第9号証には、フタルスリン、フラメトリン、レスメトリンが、いずれも2.0%以下のジブチルヒドロキシトルエンを含むこと(第261頁注1参照)、フラメトリンが安定剤としてジブチルヒドロキシトルエン2.0%以下を含むこと(第274頁下から14行〜13行参照)が記載されている。

甲第10号証には、殺虫剤、除草剤、木材防腐剤等の用途に用いられる2-(1-シクロヘキセニル)シクロヘキサノンの安定化方法に係る発明が記載されており(特許請求の範囲参照)、
一般式

(ただしR1 はメチル基、tert-ブチル基、あるいは水素、R2 はメチル基、あるいは水素、R3 はメチル基、tert-ブチル基、ジメチルアミノメチル基、あるいは水素を示す。)で示されるフエノール誘導体が2-(1-シクロヘキセニル)シクロヘキサノンの安定化に極めて有効で、縮合、重合などによる品質の低下を長期間防止できることが記載されている(公報第1頁右欄1行〜12行)。

甲第11号証には、ピレスリン及びアレスリンの安定化剤としてのハイドロキノン及びその誘導体に係る記述があり、ハイドロキノン、ブチル化ヒドロキシアニソール、t-ブチルハイドロキノン、4-メトキシ-2-プロペニルフェノールが0.4%の濃度においてピレスリンに対して安定性を示したことが記載されている(第342頁中央欄10行〜15行参照)。

甲第12号証には、ミルセンの安定化に係る記述があり、BHTとBHAのほぼ等量の混合物がミルセンに対して最適な酸化防止剤であることが見出されたことが記載されている(第26頁右欄下から8行〜下から6行)。

甲第13号証には、メタリルクロライドの保存方法に係る発明が記載されており(特許請求の範囲参照)、4-メチル-2・6-ジターシャリブチルフェノールがメタリルクロライドの二量化および重合防止、または着色防止にきわだって優れていることが記載されている(公報第1頁第2欄4行〜7行参照)。

甲第14号証には、アルキルフェノールによるアクリル酸の安定化法に係る発明が記載されており(特許請求の範囲参照)、好ましい安定剤としてブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソールが例示されている(公報第2頁右上欄8行〜13行参照)。

甲第15号証には、フラメスリンの熱挙動に係る記述があり、その熱分解について記載されている(第7頁右欄12行〜19行、及びfig.4参照)

甲第16号証には、大気中150℃におけるアレスリンの熱挙動に係る記述があり、アレスリンが重合して樹脂状物質となることが記載されている(第60頁左欄15行〜18行参照)。

甲第17号証には、キクスリンの安定性に係る記述があり、B.H.Tがキクスリンの安定化剤として効果のあることが記載されている(第99頁右欄1行〜下から5行、及びTable8.)。

甲第18号証には、ピレトリン抽出物の安定剤としてのブチルヒドロキシトルエンに係る記述があり、BHTを含むピレトリン抽出物はその安定性が改善されていることが記載されている(第24頁右欄21行〜23行参照)。

甲第19号証には、第一菊酸エステルに酸化防止剤または紫外線防止剤の一種以上を配合してなる安定な殺虫組成物が記載されており(特許請求の範囲参照)、「本発明は一般式・・・で表わされる第一菊酸エステルに酸化防止剤または紫外線防止剤の一種以上を配合してなる著しく安定化された殺虫組成物に関する。」と記載されている(公報第1頁第1欄18行〜29行)。また、酸化防止剤として「2・6-ジ第3級ブチル-4-メチルフェノール(BHT)」が例示され(公報第1頁第2欄15行〜18行参照)、その作用として、「本発明の殺虫組成物は光、熱等によって変質することが極めて少いために長期保存に耐え、且つ燻煙剤として使用する場合でも熱によって分解されずに強力に殺虫力を発揮する。」と記載されている(公報第1頁第1欄35行〜38行)。

甲第20号証には、殺虫組成物を基材に含浸又は塗布してなる電気蚊取り用マットに係る発明が記載されており(特許請求の範囲参照)、殺虫組成物にピレスロイド等の殺虫有効成分の安定剤である3・5-ジターシャリーブチル-4-ハイドロキシトルエン(B.H.T)等の抗酸化剤を配合できることが記載され(公報第2頁第3欄下から2行〜第4欄6行参照)、実験例においては80mgのアレスリンに対して10mgのB.H.Tを配合したことが記載されている(公報第3頁第1表及び第3表参照)。

甲第21号証には、アレスリンおよび第一菊酸の5-プロパルギル-2-フリルメチルエステルの一方又は双方を有効成分とし、ピレスロイド安定剤と1.4-ジイソプロピルアミノアントラキノンを有効成分検知剤として含有する電気蚊取用マットが記載されており(特許請求の範囲参照)、ピレスロイド安定剤としてジブチルハイドロキシトルエン(BHT)、ブチルハイドロキシアニソール(BHA)、ジブチルハイドロキノン(DBH)等の安定剤が挙げられている(公報第1頁左下欄下から4行〜末行)。

甲第22号証には、ピレスロイド系殺虫剤の効力持続方法に係る発明が記載されており(特許請求の範囲参照)、BHTを配合した場合の効果について、「BHTの効能については、殺虫成分の揮散の調節よりむしろ、加熱による熱分解を抑制していることが明らかである。」と記載されている(公報第5頁第9欄8行〜10行)。

甲第23号証には、ピレスロイド系殺虫剤の殺虫効力持続法に係る発明が記載されており(特許請求の範囲参照)、BHTを添加した場合の効果について、「BHTを添加することによって、その残存率を高めることができるが、加えないことによる差は大きくはない。この際、BHTは揮散抑制よりもむしろ加熱によるフラメスリンの酸化的熱分解の防止に働いているものと思われる。」と記載されている(公報第3頁第5欄26行〜30行)。

甲第24号証には、ピレスロイド系殺虫組成物に係る発明が記載されており(特許請求の範囲参照)、ピレスロイド系殺虫成分は不安定で分解を受けやすいため、例えば2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール等の分解防止剤を含有せしめる試みがなされていることが記載されている(公報第2頁左上欄4行〜10行参照)。

乙第1号証は、本件特許に係る審決取消請求事件(平成8年(行ケ)第187号)判決である。

乙第2号証には、吸液芯に係る発明が記載されており(特許請求の範囲参照)、該吸液芯は、容器に入れた薬剤の溶剤溶液を吸液芯により吸い上げつつ吸液芯上部より加熱蒸散させる吸上式加熱蒸散装置に用いられるものであることが記載されている(公報第1頁右下欄9行〜12行参照)

乙第3号証には、殺虫器に係る考案が記載されており(実用新案登録請求の範囲参照)、該殺虫器は、電気発熱体に空間をおいて対設した蒸発芯を発熱体の直接伝導熱によるか輻射熱によって加熱して、蒸発芯に含浸される薬剤を蒸散させるものであることが記載されている(公報第1頁左欄18行〜21行参照)。

乙第4号証には、殺虫器に係る考案が記載されており(実用新案登録請求の範囲参照)、該殺虫器は、電気発熱体に直接に接触し、もしくは空間をおいて対設した蒸発芯を発熱体の直接伝導熱によるか輻射熱によって加熱して、蒸発芯に含浸される薬剤を蒸散させるものであることが記載されている(公報第1頁左欄18行〜21行参照)。

乙第5号証の1には、本件特許明細書に記載されている実施例19、23、24を追試した結果が示されている。

V.当審の判断
(本件発明1について)
本件発明1と、上記甲第6号証の実施例5に記載された発明とを対比すると、上記甲第6号証記載の殺虫剤は、その組成からみて、殺虫剤の有機溶液中に約0.2重量%以上のジブチルヒドロキシトルエンが配合されているものであることは明らかであることから、両者は、「殺虫剤の有機溶剤溶液中に、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン及び3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソールから選ばれた少なくとも1種の化合物を約0.2重量%以上配合した殺虫液」である点で一致しもしくは重複するものである。
また、甲第3号証ないし甲第5号証には、吸液芯用の殺虫液を吸液芯に吸上げさせて殺虫する方式の吸上式加熱蒸散型殺虫装置が記載されていることが認められる(上記記載4-イ参照)。
一方、甲第19号証には、「本発明は一般式・・・で表わされる第一菊酸エステルに酸化防止剤または紫外線防止剤の一種以上を配合してなる著しく安定化された殺虫組成物に関する。」(公報第1頁第1欄18行〜29行)、「本発明の殺虫組成物は光、熱等によって変質することが極めて少いために長期保存に耐え、且つ燻煙剤として使用する場合でも熱によって分解されずに強力に殺虫力を発揮する。」(公報第1頁第1欄35行〜38行)、「本発明の酸化防止剤としては・・・フェノール系では2・6-ジ第3級ブチル-4-メチルフェノール(BHT)」(公報第1頁第2欄15行〜18行)との記載があることが認められ、上記記載によれば、殺虫剤にBHTを添加した場合には、熱による変質が極めて少なくなり、熱によって分解もされないことが開示されているものと認められる。
ところで、吸液芯用の殺虫剤は、調製後商品として流通ルートを経て消費者の手に渡った後に使用されるため、通常は、調製直後ではなく、ある程度の期間を経過した後に吸液芯を利用した吸上式加熱蒸散型殺虫装置に適用されるものであることは明らかであるから、当業者において、上記装置に適用するまでの間に殺虫液が変質することを防止しようとすることは当然である。
そうすると、甲第19号証をみた場合に、BHTを添加した殺虫液である甲第6号証の実施例5記載の殺虫組成物を、吸液芯用殺虫組成物として吸液芯利用の吸上式加熱蒸散型殺虫装置に適用して加熱蒸散させることは、同実施例記載の「電気発熱体に導き加熱、蒸散させる」ことが上記装置そのもののことを指すと否とにかかわらず、当業者が当然に行う手段にすぎず、何ら発明力を要するものではない。
また、本件発明1の効果について検討するに、上記のとおり、殺虫液にBHTを添加することにより熱による変質が極めて少なくなり、熱により分解されなくなることは、本件特許出願前に公知であるが、この「熱により分解されなくなる」点について更に検討すると、先の摘示のとおり、甲第22号証には、「BHTの効能については、殺虫成分の揮散の調節よりむしろ、加熱による熱分解を抑制していることが明らかである。」(公報第5頁第9欄8行〜10行)と記載され、甲第23号証には、「BHTは揮散抑制よりもむしろ加熱によるフラメスリンの酸化的熱分解の防止に働いているものと思われる。」(公報第3頁第5欄28行〜30行)と記載されていることが認められる。
そうすると、これらの記載は、殺虫剤にBHTを添加すると、殺虫成分は、その保存中に熱により変質・分解されないだけでなく、揮散時の加熱による熱分解についても抑制ないし防止されることを当業者に教示するものであることは明らかであるから、BHTを殺虫液に添加することにより、これを吸液芯の上部を加熱して殺虫剤成分を揮散する殺虫装置(ないし方法)に使用した際に、吸液芯の上部加熱部における殺虫成分の分解が防止ないし軽減され、殺虫剤成分が良好に揮散されることが見出されたとしても、このことが、当業者の予測できない格別顕著な効果であるということはできない。
したがって、本件発明1は上記甲第3号証ないし甲第6号証、甲第19号証、甲第22号証及び甲第23号証に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(本件発明2について)
本件発明2の加熱蒸散殺虫方法は、「殺虫液中に吸液芯の一部を浸漬して該芯に殺虫液を吸液すると共に、該芯の上部を間接加熱することにより吸液された殺虫液を蒸散させる加熱蒸散殺虫方法であって、吸液芯として無機粉体を糊剤で粘結させた吸液芯を用い、かつ、該吸液芯の上部を約60〜約135℃の温度に間接加熱する加熱蒸散殺虫方法」において、殺虫液として「脂肪族炭化水素に殺虫剤と共に、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン及び3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソールから選ばれた少なくとも1種の化合物を約0.2重量%以上配合してなる殺虫液」を用いるものであるが、上記加熱蒸散殺虫方法は、甲第4号証や乙第2号証に記載されるように、吸液芯を用いた加熱蒸散殺虫方法として一般的なものであり、上記殺虫剤は本件発明1の殺虫剤液組成物と同じものである。
したがって、本件発明2は、本件発明1の「吸液芯用殺虫液組成物」を、吸液芯を用いた普通の加熱蒸散殺虫方法に使用する方法、すなわち本件発明1の「吸液芯用殺虫液組成物」の使用方法の発明であると認められ、発明のカテゴリーは異なるものの、実質的には本件発明1とその構成を同じくするものであるから、上記「(本件発明1について)」の項で判断したのと同じ理由により、上記各刊行物から当業者が容易に発明し得たものであると認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(被請求人の主張について)
被請求人は答弁書において、平成11年2月9日付けの訂正審判請求書に添付した訂正明細書によれば本件発明1及び2は進歩性を有するものであると主張し、その根拠として乙第1号証及び乙第5号証の1を提示しているが、訂正が認められることを前提としたこのような主張は失当である。

VI.むすび
以上のとおり、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
また、審判費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-12-24 
結審通知日 2004-01-05 
審決日 2004-01-21 
出願番号 特願昭59-16760
審決分類 P 1 112・ 121- Z (A01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柿沢 恵子平山 孝二  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 西川 和子
後藤 圭次
登録日 1994-08-08 
登録番号 特許第1861146号(P1861146)
発明の名称 吸液芯用殺虫液組成物及び加熱蒸散殺虫方法  
代理人 深井 敏和  
代理人 赤尾 直人  
代理人 萼 経夫  
代理人 加藤 勉  
代理人 村林 隆一  
代理人 松本 司  
代理人 中村 壽夫  

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