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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A23L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1124016
審判番号 無効2004-80263  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-07-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-12-21 
確定日 2005-09-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第3383600号発明「粉粒体乃至錠剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3383600号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3383600号の請求項1ないし6に係る発明(平成11年1月6日出願、平成14年12月20日設定登録。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 80重量%以上が粒径5〜250μmの粒度範囲に属する還元パラチノースを主体とする粉粒体原料とバインダー液とを、適宜の造粒方法により合わせて乾燥処理して調製された、ビタミンC5〜50重量%と必要により鉄分を含む粉粒体。
【請求項2】 鉄分0.01〜1重量%を含む請求項1記載の粉粒体。
【請求項3】 アスパルテーム、ステビア等の還元パラチノースと比べて甘味度の高い物質を含む請求項1又は2記載の粉粒体。
【請求項4】 還元パラチノース30〜90重量%と上記物質0.1〜10重量%とを含む請求項3記載の粉粒体。
【請求項5】 Awが0.40以下である請求項1記載の粉粒体。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉粒体を打錠して得られた錠剤。」(以下、「本件発明1ないし6」という。)

2.請求人の主張
請求人は、「特許第3383600号の明細書の請求項1〜6に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、下記の甲第1号証ないし甲第9号証を提出し、下記の無効理由1ないし3を挙げて、本件請求項1ないし6に係る特許は無効にすべきものであると主張している。
(1)本件の請求項1、3及び4に係る各特許発明は、甲第1号証に記載された発明であり若しくはそれに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当する。
(2)本件の請求項2に係る特許発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当する。
(3)本件の請求項5及び6に係る各特許発明は、甲第1号証及び甲第8号証又は甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当する。

甲第1号証:発明協会公開技報、公技番号97‐386、発行日1997
年1月16日、清水 健生ら、「還元パラチノースを主原料
とする錠果及びその製造方法」
甲第2号証:PNPの分析成績書(No.000177)、三井製糖株式
会社 茅ヶ崎研究所長、中島 良和、平成8年9月3日
甲第3号証:PNPの分析成績書(No.000180)、三井製糖株式
会社 茅ヶ崎研究所長、中島 良和、平成8年9月9日
甲第4号証:PNPの分析成績書、三井製糖株式会社 茅ヶ崎研究所、
露木、佐藤、平成10年3月30日
甲第5号証:PNPの分析成績書、三井製糖株式会社 茅ヶ崎研究所、
露木、佐藤、平成10年8月26日
甲第6号証:PNP(喜多村)の分析成績書、三井製糖株式会社 茅ヶ崎
研究所、露木、佐藤、平成10年8月26日
甲第7号証:「FC新知識シリーズ 糖アルコールの新知識」、株式会社
食品化学新聞社、早川幸男編著、32〜33頁、1996年
10月15日発行
甲第8号証:「DESTRUCTION OF ASCORBIC
ACID AS AFUNCTION OF WATER
ACTIVITY」、JOURNAL OF FOOD
SCIENCE、S.H.LEE,T.P.LABUZA、
Volume 40、第370〜373頁、1975年
甲第9号証:「食品と水分活性」、株式会社学会出版センター、John
A. Troller,J.H.B.Christian著、 平田 孝、林 徹 訳、第92〜第93頁、1981年12
月10日初版発行

3.引用例
甲第1号証には、「本案は、糖アルコールである還元パラチノースを主原料とした錠菓及びその製造方法に関するものである。」(1頁左欄)、「さらに、還元パラチノースは砂糖を用いたときに比べ、経時的または熱変性的な褐変が少なく安定であるため、サプリメントをうたったビタミンCなどを配合した錠菓に適している。」(1頁右欄)、「さらに、還元パラチノース以外の甘味料として高甘味度甘味料である、例えばアスパルテームを使用することにより、甘みの整った錠菓を製造することができる。」(2頁右欄)及び「【実施例1】まず、粉末還元パラチノース(市販品粉末パラチニットPNP 三井製糖(株))80部、ビタミンC微粉末10部、無水クエン酸9.8部、アスパルテーム0.19部、ヘスペリジン0.01部を均一に混合後、流動層造粒機により造粒し、還元パラチノース造粒品を得た。なお、この際バインダーとして0.5%グアガム溶液を用いた。造粒後、表1に示す配合で、均一になるまでコンミキサーを用い混合し打錠をおこなった。この打錠品は混合時にブロッキング等はおこらず、成形性の良い錠菓となった。硬度的にも噛みごたえが良く、還元パラチノース由来の良い甘みの錠菓が出来た。」(2頁右欄)と記載されている。
甲第2号証の三井製糖(株)作成の分析成績書には、5回サンプリングした粉末パラチニットPNPは、5μm〜150μmの粒度範囲にそれぞれ97.5、96.9、96.9、98.4、96.6重量%が入ることが記載されている。
甲第3号証の三井製糖(株)作成の分析成績書には、4回サンプリングした粉末パラチニットPNPは、5μm〜150μmの粒度範囲にそれぞれ97.6、97.6、98.0、96.9重量%が入ることが記載されている。
甲第4号証の三井製糖(株)作成の分析成績書には、サンプリングした粉末パラチニットPNPは、5μm〜150μmの粒度範囲に95.7重量%が入ることが記載されている。
甲第5号証の三井製糖(株)作成の分析成績書には、2回のサンプリングの粉末パラチニットPNPは、5μm〜150μmの粒度範囲にそれぞれ97.7、97.0重量%が入ることが記載されている。
甲第6号証の三井製糖(株)作成の分析成績書には、2回のサンプリングの粉末パラチニットPNPは、5μm〜150μmの粒度範囲にそれぞれ97.7、95.4重量%が入ることが記載されている。
甲第7号証には、商品名「パラチニットPNP(粉末品)」の粒度規格は、150μm以下が90%以上であること(32頁、「3.2 粉末品の粒度規格」表2)が記載されている。
甲第8号証には、「水分活性の作用としてのアスコルビン酸の破壊」との標題の下に、脱湿系(DM)及び吸湿系(DH)において、23、35、40、45℃では、awが低くなるにつれて(0.93、0.88、0.84、0.75、0.67、0.51、0.32)アスコルビン酸の半減期(日)が長くなること(371頁の表3及び372頁の図2)が記載され、特に表3には、23℃において、awが0.51の場合の半減期(日)はDM18.2、22.4;DH21.3、25.2であり、awが0.32の場合の半減期(日)は、DM36.5、38.9;DH49.5、55.4であることが記載されている。
甲第9号証には、「アスコルビン酸はawが低い場合には比較的安定であるが、モデル系や食品中の水分含量の増加に伴い、その分解速度は急速に増加する。」(92頁)、「乾燥オレンジジュースについても、・・・awが0.01のときにはアスコルビン酸はほとんど分解しないが、awが高い試料ほど分解速度は大きくなり、aw0.53では、約8週間貯蔵後にはアスコルビン酸を検出できなかった。」(93頁)、及び「したがって、食品中のアスコルビン酸を長期間保持するためには、食品を低温でかつできるだけ低いawで貯蔵する必要がある。」(93頁)と記載されている。

4.対比・判断
(本件発明1について)
本件発明1と甲第1号証に記載された発明を対比すると、後者の「流動層造粒機により」は、前者の「適宜の造粒方法により」に相当するから、両者は、還元パラチノースを主体とする粉粒体原料とバインダー液とを、適宜の造粒方法により調製された、ビタミンC10重量%を含む粉粒体の点で一致し、(1)前者は、還元パラチノースを「80重量%以上が粒径5〜250μmの粒度範囲に属する」と限定しているのに対して、後者には、還元パラチノースの粒度分布について具体的に記載されていない点、及び(2)前者は、造粒方法により合わせて乾燥処理するのに対して、後者には、乾燥処理することについて記載されていない点で、両者は相違する。
上記相違点について検討する。
相違点(1)について
請求人が提出した甲第2号証ないし甲第6号証は、甲第1号証に記載の「市販品粉末パラチニットPNP 三井製糖(株)」と同一物と認められる「粉末パラチニットPNP」の粒度分布の分析結果を示すものであるが、そこにはサンプリングした「粉末パラチニットPNP」のいずれにおいても、5μm以上、150μm以下の粒度範囲に少なくとも95重量%が入ることが記載されていること、及び甲第1号証に記載の「市販品粉末パラチニットPNP 三井製糖(株)」と同一物と認められる商品名「パラチニットPNP(粉末品)」の粒度規格は、150μm以下が90%以上であることが甲第7号証に記載されていることを参酌すると、甲第1号証に記載の「市販品粉末パラチニットPNP 三井製糖(株)」は、本件発明1において特定する「80重量%以上が粒径5〜250μmの粒度範囲に属する」との条件を満たしていると認めるのが相当であり、上記相違点(1)は、両者の実質的な相違点とはいえない。

相違点(2)について
甲第1号証の実施例1には、「粒動層造粒機により造粒し、還元パラチノース造粒品を得た。」とのみ記載され、「乾燥処理」との文言はないが、造粒中あるいは造粒後に造粒物の乾燥処理が行われることは自明であり、甲第1号証の実施例1においても当然に乾燥処理が行われているものと認められるから、上記相違点(2)は、両者の実質的な相違点とはいえない。
してみると、本件発明1は甲第1号証に記載された発明である。

(本件発明2について)
本件発明2は、本件発明1に発明を特定する事項である「鉄分0.01〜1重量%を含む」を付加したものであるが、栄養補給を目的として鉄分を添加した鉄強化健康食品(錠剤)は、本件特許の出願日前当業者において周知のものであった(必要なら、例えば特開平7-53391号、特開平5-306229号、特開平3-291231号、特開昭58ー72522号公報を参照されたい。)ことから、甲第1号証に記載のサプリメントをうたったビタミンCなどを配合した錠菓の粉体原料に鉄分補給を目的として更に鉄成分を加えることは、当業者が容易に想到し得ることであり、その際粉粒体中の鉄分量を「0.01〜1重量%」に設定することも当業者が適宜なし得ることである。
そして、本件発明2は、鉄分量を「0.01〜1重量%」に設定したことにより、当業者の予測を超える格別の効果を奏するものとはいえない。
してみると、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(本件発明3について)
本件発明3は、本件発明1又は2に発明を特定する事項である「アスパルテーム、ステビア等の還元パラチノースと比べて甘味度の高い物質を含む」を付加したものであるが、甲第1号証の実施例1に「アスパルテーム0.19部、・・・を均一に混合後、・・・還元パラチノース造粒品を得た。」との記載があることからみて、上記特定事項は、本件発明3と甲第1号証に記載の発明との間の相違点とはならない。
してみると、本件発明3は、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であり、また、本件発明2と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基づいて者が容易に発明をすることができたものである。

(本件発明4について)
本件発明4は、本件発明3に発明を特定する事項である「還元パラチノース30〜90重量%と上記物質0.1〜10重量%とを含む」を付加したものであるが、甲第1号証の実施例1に「粉末還元パラチノース(市販品粉末パラチニットPNP 三井製糖(株))80部、ビタミンC微粉末10部、無水クエン酸9.8部、アスパルテーム0.19部、ヘスペリジン0.01部を均一に混合・・・」と記載され、これら数値を合計すると100部となることからみて、本件発明4と甲第1号証に記載の発明との間で、還元パラチノース及び上記物質(アスパルテーム、ステビア等の還元パラチノースと比べて甘味度の高い物質)の配合量は重複している。
してみると、本件発明4は、本件発明3と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であり、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(本件発明5について)
本件発明5は、本件発明1に発明を特定する事項である「Awが0.40以下である」を付加したものであるが、甲第9号証には、食品中のアスコルビン酸(ビタミンC)はAwが低い場合には比較的に安定であり、食品中のアスコルビン酸を長期間保持するためには、食品をできるだけ低いAwで貯蔵する必要があることが記載され、かつAwが0.32において、アスコルビン酸の残存割合が他のAw(0.51、0.67、0.75、0.84)に比べて高いことが甲第8号証に具体的数値でもって記載されていることからすれば、粉粒体の保存中のビタミンCの分解を効果的に防止する等の目的で粉粒体のAwを「0.40以下」に設定することは、当業者において格別困難なことではない。
そして、本件発明5は、Awを「0.40以下」に設定したことにより、当業者の予測を超える格別の効果を奏するものとはいえない。
してみると、本件発明5は、甲第1号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(本件発明6について)
本件発明6は、「請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉粒体を打錠して得られた錠剤。」に係るものであるが、甲第1号証の実施例1には、得られた還元パラチノース造粒品を打錠して錠菓を製造することが記載されていることから、本件発明6の発明を特定する事項である「粉粒体を打錠して得られた錠剤。」は、本件発明6と甲第1号証に記載された発明との間の相違点とはならない。
してみると、本件発明6は、本件発明1ないし5と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるか、又は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1、3、4、及び6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、当該発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、又本件特許の請求項2ないし6に係る発明は、甲第1号証或いは甲第1号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明の特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、いずれも同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-19 
結審通知日 2005-04-20 
審決日 2005-05-10 
出願番号 特願平11-1067
審決分類 P 1 113・ 113- Z (A23L)
P 1 113・ 121- Z (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 河野 直樹
鵜飼 健
登録日 2002-12-20 
登録番号 特許第3383600号(P3383600)
発明の名称 粉粒体乃至錠剤  
代理人 白井 重隆  

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