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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1124049
審判番号 不服2003-17389  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-04 
確定日 2005-10-03 
事件の表示 平成10年特許願第335168号「可燃性物質に発火回避性または難燃性を与える組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成12年4月25日出願公開、特開2000-119658〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年11月26日の出願(パリ条約による優先権主張 平成10年10月9日 メキシコ)であって、その請求項1ないし3に係る発明は、平成15年3月24日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、請求項1に係る発明は次のとおりである(以下、「本願発明」ともいう。)。
「【請求項1】可燃性物質に発火回避性または難燃性を与えるための、難燃性特性をもつ組成物であって、以下の割合の成分により特徴づけられるところの組成物。
1. タングステン酸ナトリウム 5重量%
2. ペンタエリトリトール 2重量%
3. 硫酸アンモニウム 9重量%
4. ジシアンジアミド 2重量%
5. ホルムアルデヒド尿素(formaldehyde urea) 5重量%
6. 一リン酸アンモニウム 9重量%
7. プロピレン・グリコール 0.02重量%
8. 水 67.98重量%」

2 原査定の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願請求項1に係る発明は、本願出願前に頒布された下記の刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
刊行物1:米国特許第5,723,515号明細書(翻訳文は同特許のパテントファミリーである特表2002-504594号公報を参照している。)
刊行物2:「新版 繊維加工技術」(地人書館、1989年10月15日、初版第4刷発行)222〜223頁

3 引用刊行物の記載
刊行物1には防火塗料に関する発明が記載されており、「下記の要素から成る防火塗料:a)発泡剤、膨張剤、炭化剤、結合剤、溶剤、および色素を持つ液状膨張剤;b)火炎伝ぱ抑制剤;c)前記液状膨張基材に分散された耐火繊維;d)酸素抑制剤;e)熱伝達抑制剤;f)安定剤兼揮発性有機物抑制剤;g)耐物理的衝撃および基板への付着の機械的強化成分;h)防水性剤;およびi)割れと縮みに対する抵抗を強化し、噴霧を容易にする弾性剤。」(特許請求の範囲、請求項1)、「前記液状膨張基材の前記発泡剤が、リン酸アンモニウム・・・である請求項1の防火塗料。」(同、請求項2)、「前記液状膨張基材の前記膨張剤が・・・ジシアンジアミド・・・である請求項1の防火塗料。」(同、請求項3)、「前記液状膨張基材の前記炭化剤が・・・ペンタエリスリトール・・・である請求項1の防火塗料。」(同、請求項4)、「前記液状膨張基材の前記溶剤が、水・・・またはプロピレングリコールである請求項1の防火塗料。」(同、請求項6)、「前記液状膨張基材が・・・プロピレングリコールを含む請求項1の防火塗料。」(同、請求項8)、「前記酸素抑制剤が、・・・ウレアホルムアルデヒド、またはジシアンジアミドである請求項1の防火塗料。」(同、請求項13)、「本発明は、火炎伝ぱを抑制させ、熱伝達をも抑制させることによって防火性を与えることを目的とした、多くの有機質および無機質の基板に塗布される防火性塗料に関するものである。」(段落【0001】)と記載されている。
刊行物2には難燃(防炎)加工について記載されており、難燃(防火)布の加工において、「難燃(防炎)の理論は複合的であって、一つの根本原理を定立してすべてを割切ることは困難である。F.L.BROWNによればコーティング効果、熱的効果(断熱・熱伝導・熱吸収)、ガス効果(不燃性ガスによる希釈、連鎖反応の阻止)、化学効果などに分類されている。そしてこれらの効果の二つあるいはそれ以上が組み合わさって難燃(防炎)効果を発揮するものとしている。」(222頁本文6〜10行)と記載され、さらに、「低い融点の結晶水をもった塩や化合物の混合物で、熱によって溶融し、その結果生成した粘稠物質は、分解生成ガスのため泡状被膜を形成する。これが繊維と炎との間の防壁となって熱を絶縁する。」(222頁本文15〜17行)、「Glow retarderとしてはホウ酸塩、リン酸塩・・・も有効とされている。これらは加熱によって融解して炭化物の保護膜を生成し、酸素との接触を妨げることによってGlow retarderとしての効果をあげるものとされている。」(222頁本文18〜21行)、「また可燃性ガスを不燃性ガスで希釈して燃焼を阻止するものに炭酸塩やアンモニウム塩などがある。難燃効果のある薬品はおおむね次表(審決注.表11.1)のようなものである。」(222頁末行〜223頁2行)と記載され、表11.1には難燃効果がある薬品として硫酸アンモニウムとタングステン酸ナトリウムも示されている(223頁)。

4 対比、判断
(1)刊行物1の防火塗料は、有機質及び無機質の基板に塗布されるもので、塗布する対象に防火性を付与するための組成物であり、一方、本願発明の組成物は、発火回避性又は難燃性を与えるもので、その対象は、
「a)100%綿の物質
b)80%まではポリエステルで、残りは綿から成る物質
c)ポリエステル/粘剤の混合物
d)ポリウレタン物質
e)木、紙、およびボール紙
f)ポリプロピレン物質
g)アクリル物質
h)皮革物質」(本願明細書段落【0003】)とされているから、本願発明と刊行物1記載の発明は、組成物を適用する対象として重複した範囲のものを含み、その適用方法としては、本願発明の場合、その組成からみて液状物であるから、発火回避性又は難燃性を与える対象に塗布、噴霧あるいは含浸させるものと認められるので、刊行物1記載の発明のものと実質的に変わるところはなく、適用対象に付与する性質をみても、本願発明の「発火回避性又は難燃性」と刊行物1に記載された発明の「防火性」はその性質として実質的に相違するところはない。また、刊行物1の「ウレアホルムアルデヒド」及び「リン酸アンモニウム」は、それぞれ、本願発明の「ホルムアルデヒド尿素」及び「一リン酸アンモニウム」に該当するので、本願発明と刊行物1に記載された発明を対比すると、いずれも、防火用の組成物において、その成分として、ペンタエリトリトール、ジシアンジアミド、ホルムアルデヒド尿素、一リン酸アンモニウム、プロピレングリコール及び水が用いられている点で一致し、(A)本願発明では更にタングステン酸ナトリウム及び硫酸アンモニウムを成分としているのに対し、刊行物1記載発明ではその成分が含まれていない点、及び、(B)本願発明では、各成分の組成物中の重量割合が特定されているのに対し、刊行物1記載発明では特定されていない点で相違する。
(2)相違点(A)について
刊行物2には、硫酸アンモニウム及びタングステン酸ナトリウムが、いずれも難燃効果を有するものであることが記載されているので、それらの成分を、刊行物1記載発明の防火性を付与する組成物の成分として追加することは当業者が容易に行えるものである。
(3)相違点(B)について
刊行物1及び刊行物2の記載より、防火性を付与する組成物の成分が知られており、それぞれの成分の防火性に寄与する作用・機構も知られているから、それらの公知技術に基づいて、実験により適切な成分割合を設定することは当業者が通常行う程度のことである。また、本願発明の特定の成分割合が、それ以外の成分割合のものに比して格別の効果を奏するものと認めるに足りる具体的なデータが示されているわけでもないので、本願発明の特定割合の組成物が格別の効果を持っているものと認めることはできない。
また、請求人は、(あ)平成15年3月24日付け意見書に財団法人日本防炎協会による防炎性能試験結果を示し、(い)平成15年12月11日付手続補正書において財団法人日本化学繊維検査協会による試験証明書を示して、本願発明の組成物が所期の効果を奏することを主張しているが、(あ)の試験結果には、商品名が「フェゴセロ」あるいは「フェゴセロFZ-06D」という防炎薬剤で処理した綿、レーヨンが判定結果「適合」であったこと等が測定試験結果とともに示されているが、「フェゴセロ」あるいは「フェゴセロFZ-06D」という防炎薬剤の含有成分及び含有割合が明らかにされておらず、一方、本願明細書には本願発明に係る組成物がどのような商品名のものか明らかにされていないので、両者の関係については不明であるから、(あ)の試験結果を本願発明の組成物の効果を参酌するための資料として見ることはできない。(い)の試験証明書には、本願発明の組成物に該当する薬剤が依頼者により塗布された旨の記載があるが、試験機関(財団法人日本化学繊維検査協会)は、依頼者(株式会社松下トレーディング)により組成物を既に塗布された綿布あるいはレーヨン布を試験対象としているものと認められ、試験薬剤の含有成分、含有割合を直接、分析・確認しているものとは認められず、また、試験布に塗布された量も明らかにされていないから、この試験結果についても、それを本願発明の組成物の効果を参酌するための資料として採用することもできない。また仮に、(あ)、(い)の試験結果を採用することができたとしても、いずれも、防火性を付与することができる成分として、刊行物1及び刊行物2により公知のものを組み合わせた組成物が、相応の防火性を奏することは、刊行物1及び刊行物2の記載から、当業者が予測可能なものであり、それが、他の防火組成物に比して格別の効果を奏するものであることまでは認めることはできないから、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものである。
なお、請求人は、刊行物2の表11.1を見ると、タングステン酸ナトリウムは9重量%を効果に必要な最小量としているが、本発明は、他の所定の量の成分とともに、タングステン酸ナトリウムは5重量%とすることで、所期の効果(難燃性を与えるだけでなく、種々の材料に適用できる)を奏するものであるから、刊行物1、2に基づいて本願発明を想到することは当業者にとって容易なことではないと主張している。
しかし、本願請求項1に係る発明における「タングステン酸ナトリウム5重量%」とは、難燃性組成物におけるタングステン酸ナトリウムの含有量であるのに対し、刊行物2の表11.1における「タングステン酸ナトリウム9重量%」は、難燃性組成物中の成分割合を表したものとは認められないから、両者は、数値の意味が異なるので、それらの数値を比較しても意味がないことである。さらに、複数の難燃効果のある物質を併用すればそれぞれの物質の使用量は少なくてすむであろうことは当業者が容易に予測できることである。
また、種々の材料に適用できるという効果も、明細書には客観的にその効果を確認できるような記載はなく、前述の「財団法人日本化学繊維検査協会による試験証明書」より確認できるのはセルロース材料だけで、他の材料に用いた具体的な例は全くないから、他の材料について、請求人が主張するような、「他の所定の量の成分とともに、タングステン酸ナトリウムは5重量%とすることで、従来技術に比較して顕著な効果を奏する」ものとは認めることができない。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。

5 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないので、請求項2及び3に係る発明について言及するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-09 
結審通知日 2005-08-10 
審決日 2005-08-23 
出願番号 特願平10-335168
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 岩瀬 眞紀子
佐藤 修
発明の名称 可燃性物質に発火回避性または難燃性を与える組成物  
代理人 堀 明▲ひこ▼  
代理人 竹内 澄夫  

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