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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1124320 |
異議申立番号 | 異議2003-72223 |
総通号数 | 71 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-07-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-09-05 |
確定日 | 2005-09-21 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第3384902号「難燃性熱可塑性樹脂組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3384902号の請求項1に係る特許を取り消す。 |
理由 |
【I】手続の経緯 特許第3384902号の請求項1に係る発明は、平成7年1月13日に特許出願され、平成14年12月27日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、帝人化成株式会社(以下「特許異議申立人A」という。)および石川増和(以下「特許異議申立人B」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成17年3月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年5月31日に意見書が提出されたものである。 【II】本件発明 本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、特許明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された次のとおりのものである。 「【請求項1】(A)重量平均粒子径0.1μ以上〜0.3μ未満の小粒子径ゴムを1〜5重量部および重量平均粒子径0.3μ以上〜2μ以下の大粒子径ゴムを3〜10重量部含有してなるゴム強化ビニル系樹脂15〜70重量部と、 (B)ポリカーボネート樹脂85〜30重量部よりなる組成物100重量部(ゴム強化ビニル系樹脂とポリカーボネート樹脂の合計量)当たり、 (C)ハロゲン化合物0〜35重量部、 (D)酸化アンチモン0〜15重量部、 (E)リン酸エステル0〜30重量部、および (F)アスペクト比2以上、平均粒子径1〜100μの鱗片状充填剤5〜30重量部を含有してなることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。」 【III】取消理由の概要 当審において通知した取消理由のうち、理由1の概要は下記のとおりである。 本件発明は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 刊行物1:特開昭57-147535号公報(特許異議申立人A提出の甲第4号証、及び、特許異議申立人B提出の甲第2号証) 刊行物2:特開平4-227650号公報(特許異議申立人A提出の甲第5号証) 刊行物3:粉体工学会及び社団法人日本粉体工業技術協会編,「改訂増補 粉体物性図説」,日経技術図書株式会社,昭和60年12月21日発行,p.307(特許異議申立人A提出の甲第8号証) 刊行物4:特開平2-199162号公報(特許異議申立人B提出の甲第1号証) 刊行物5:特開昭60-89577号公報(特許異議申立人B提出の甲第3号証) 【IV】対比・判断 1.刊行物1〜5の記載事項 (刊行物1) ア.「1)(A)成分が芳香族カーボネート重合体10〜50重量部、(B)成分がα-メチルスチレン50〜80重量%、シアン化ビニル15〜35重量%及びメタクリル酸エステル及び/又はスチレン0〜30重量%からなる共重合体30〜80重量部、(C)成分が重量平均粒径0.3〜0.5μ及び0.1〜0.2μのブタジエン重合体又はブタジエン50重量%以上を含有するブタジエン共重合体をそれぞれ40〜80重量%及び20〜60重量%からなる混合物45〜75重量部に芳香族ビニル及びシアン化ビニルの混合物55〜25重量部をグラフトさせた共重合体5〜35重量部を含有してなる熱可塑性樹脂組成物。」(特許請求の範囲第1項) イ.「ABS樹脂に於て、粒径の異なるゴムを幹重合体とすることは知られているが、本発明の様に(A)、(B)、(C)三成分を混合して、通常のABS樹脂では見られない程、著しく実用耐衝撃性が向上する事は知られていない。 即ち、本発明では、ゴム基体成分として、それぞれ重量平均粒径0.3〜0.5μ(以下大粒径ゴムという)及び0.1〜0.2μ(以下小粒径ゴムという)の2種のブタジエン重合体又はブタジエン50重量%以上を含有するブタジエン共重合体のそれぞれ40〜80重量%及び20〜60重量%の割合からなる混合物を使用する。」(2頁右下欄11行〜3頁左上欄2行) ウ.「(C)成分の製造 特公昭47-13531号記載の機械的粒径肥大法により、平均粒径0.35μのブタジエン重合体ラテツクスを得た。この粒径分布は最大1.2μで最小0.05μと広い幅をもつたラテツクス(以下LX-1という)であつた。 また、特公昭47-6412号記載の播種重合法により平均粒径0.15μのスチレン-ブタジエン共重合体ラテツクスを得た。この共重合体組成はスチレン25重量%ブタジエン75重量%であつた。粒径分布は最大0.18μで最小0.12μと狭い幅をもつたラテツクス(以下LX-2という)であつた。 これら2種類のラテツクスをそれぞれ第1表に示す割合で混合し、これを固型分として50重量部を攪拌機付重合缶に仕込み、次いで重合缶内温を70℃に昇温させ、その温度に保持しながらラウリルメルカプタン0.3重量部、クミルパーオキサイド0.2重量部、スチレン35重量部とアクリロニトリル15重量部の混合物を5時間で滴下し、グラフトさせた。その生成物を塩化カルシウムにより凝固させ、濾(註:原文では省略文字)過、洗浄、乾燥後白色の粉末(以下C-1,C-2,C-3,C-4及びC-5という)を得た。 熱可塑性樹脂組成物の製造 (A)成分の芳香族カーボネート重合体として、商品名「パンライトL-1250」(帝人化成社製)30重量部、B-1 50重量部、C1〜5 20重量部を粉末状のまま十分混合して、押出機によりペレツト化した。」(3頁右下欄14行〜4頁右上欄3行) エ.また、第1表には、実験番号2としてLX-1 70重量%とLX-2 30重量%を混合したものをグラフト重合体C-2の製造に用いたことが記載されている。(4頁右上欄第1表) オ.「 ![]() 」(4頁右上欄第1表) (刊行物2) ア.「【請求項1】(a)少なくとも1種の芳香族ポリカーボネート樹脂10〜80重量部、及び(b)ABS重合体及びSAN共重合体の混合物90〜20重量部(この混合物はABS重合体20〜95重量%及びSAN共重合体5〜80重量%を含有する)を含有する成形組成物において、更に(c)前記(a)及び(b)の100重量部を基準にしてタルク2〜25重量%を含有することを特徴とする成形組成物。」 イ.「【0006】従って本発明の目的は、良好な機械的性質を保持しながら、艶消表面外観を有する成形物を与えるポリカーボネート樹脂、ABS重合体及びSAN共重合体を含有する成形組成物を提供することにある。」 ウ.「【0016】ABS重合体は、ゴム上に、スチレン、メチルメタクリレート単量体を、又は95〜50重量%のスチレン、α-メチルスチレン、メチルメタクリレート単量体及び5〜50重量%のアクリロニトリル、メチルメタクリレート、無水マレイン酸、N-置換マレイミド又はそれらの混合物をグラフト重合した重合体である。有用なゴムには特にポリブタジエン、重合したスチレン30重量%までを有するブタジエン/スチレン共重合体、ブタジエン及びアクリロニトリル共重合体又は20重量%までのアクリル酸もしくはメタクリル酸の低級アルキルエステル(例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート及びエチルメタクリレート)とのブタジエン共重合体がある。 【0017】・・・ 【0018】特に好ましいのはポリブタジエンをスチレン及びアクリロニトリル単量体でグラフト重合して得られたABS重合体である。」 エ.「【0023】本発明において有用なSAN共重合体は95〜40重量%のスチレン、α-メチルスチレン、メチルメタクリレート及びそれらの混合物、及び5〜60重量%のアクリロニトリル、メタクリロニトリル、メチルメタクリレート及びそれらの混合物の共重合体である。特に好ましい共重合体は、スチレン単位対アクリロニトリル単位の比85/15〜40/60、好ましくは80/20〜60/40を有し、ゲル透過クロマトグラフイで測定したとき50000〜180000の重量平均分子量を有するスチレン/アクリロニトリル共重合体である。」 オ.「【0024】使用するとき、タルクは1〜20μmの範囲の平均粒度を有する市場で入手しうる任意のタルクであることができる。有用なタルクは1〜12μmの平均粒度を有するのが好ましい。使用するときタルクは、樹脂100重量部に対して、2〜25重量部を含有する。更に好ましくは樹脂成分100重量部に対してタルク5〜15重量部を使用する。」 カ.「【0010】本発明による組成物は、更に滑剤、酸化防止剤、充填剤、顔料及び染料、紫外線吸収剤及び難燃剤の如き通常の添加剤を含有できる。」 (刊行物3) ア.表題が「滑石,石筆石,石けん石 Talc,Steatite,Soap Stone 滑石(タルク) Talc Mg3(Si4O10)(OH)2 」と記載され、「タルク鉱石は広く世界各地に産出するが,・・・粒子形状は一般にリン片状である.」および「【粉体特性】 ・・・粒度:2〜8〔μm〕 アスペクト比:10〜20」と記載されている。(307頁) (刊行物4) ア.「(A)ポリカーボネート樹脂20〜95重量% (B)ブタジエン系ゴムの存在下にメタクリル酸エステル,・・・よりなる群から選ばれた少なくとも2種のビニル系単量体を共重合させたゴム含有熱可塑性樹脂5〜80重量% (C)芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体を共重合させた熱可塑性樹脂0〜50重量% (D)ハロゲン系難燃剤0〜25重量% からなりハロゲン原子を0.5〜15重量%含有する樹脂組成物100重量部に対して、 (E)難燃助剤1〜15重量部 (F)フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン0.01〜2.0重量部 (G)ガラスビーズ,・・・,タルク,・・・よりなる群から選ばれた少なくとも1種の充填剤3〜100重量部 を配合してなる難燃性樹脂組成物。」(特許請求の範囲) イ.「本発明に使用する(G)充填剤は、・・・平均粒径50μ以下のタルク・・・が好ましい。・・・・ 本発明に使用される(G)無機充填剤の配合割合は、(A)成分,・・・および(D)成分の合計100重量部に対して、3〜100重量部であり、・・・3重量部未満ではUL規格94-5V試験におけるB法を満足することができず、100重量部を越えると機械的強度が著しく低下するようになる。」(4頁右下欄14行〜11行) (刊行物5) ア.「ジエン系ゴム含有率が5〜30重量%であるABS樹脂において、該ジエン系ゴムの組成比が、重量平均粒子径で150mμ以下の小粒子80〜99重量%及び150mμを越える大粒子1〜20重量%からなることを特徴とするメツキ可能な透明ABS樹脂。」(特許請求の範囲) イ.「本発明者らは、前記知見に鑑み鋭意検討した結果、重量平均粒子径が150mμ以下である小粒径ジエン系ゴムラテツクス80〜99重量%(固形分として)と、重量平均粒子径が150mμを越える大粒径ジエン系ゴムラテツクス1〜20重量%(固形分として)との混合ラテツクス100重量部(固形分として)の存在下に、シアン化ビニル単量体と芳香族ビニル単量体を含む単量体混合部の60重量部以上を乳化重合することにより得られた、ジエン系ゴム含有率が5〜30重量%であるABS樹脂を用いることにより、強固なメツキ密着性を有する樹脂メツキ製品が得られ、しかも非メツキ部分は、充分な光透過性を示すことを見出し、本発明の完成に至つた。」(2頁左上欄5〜18行) ウ.「大粒径ジエン系ゴムラテツクスの重量平均粒子径が150mμ以下であると、メツキ密着性に乏しく好ましくない。」(2頁右下欄1〜4行) エ.「 ![]() 」(6頁左上欄) 2.対比・判断 (刊行物2を主引例とした場合) 刊行物2には、(a)少なくとも1種の芳香族ポリカーボネート樹脂10〜80重量部、及び(b)ABS重合体及びSAN共重合体の混合物90〜20重量部(この混合物はABS重合体20〜95重量%及びSAN共重合体5〜80重量%を含有する)を含有する成形組成物において、更に(c)前記(a)及び(b)の100重量部を基準にして、1〜20μmの範囲の平均粒度を有する市場で入手しうる任意のタルク2〜25重量部を含有することを特徴とする成形組成物」(摘示記載ア,オ)が記載されている。 本件発明と刊行物2に記載された発明とを対比すると、刊行物2に記載された発明の「ABS重合体」はゴム上にスチレン等のビニル系単量体をグラフト重合した重合体であるから(摘示記載ウ)、本件発明の「ゴム強化ビニル系樹脂」に相当し、刊行物2に記載された発明の「SAN共重合体」はスチレン等のビニル系単量体を重合した樹脂でありゴムで強化されてはいないものの(摘示記載エ)、本件明細書の段落【0010】には、ゴム強化ビニル系樹脂を得る方法として「ゴム質重合体含有量の高いゴム強化ビニル系樹脂を、別途ビニル系単量体を重合してなる樹脂と混合することによって、小粒子径ゴムならびに大粒子径ゴムの配合量が規定範囲内に入るゴム強化ビニル系樹脂を得ることも可能である。」と記載されていることからみて、刊行物2に記載された発明の「ABS重合体及びSAN共重合体の混合物」は、本件発明の「ゴム強化ビニル系樹脂」に相当する。 また、刊行物2に記載された発明の「1〜20μmの範囲の平均粒度を有するタルク」は、本件発明の「平均粒子径1〜100μの充填剤」に相当する。 したがって、両発明は「(A)ゴム強化ビニル系樹脂と、(B)ポリカーボネート樹脂よりなる組成物に、(F)平均粒子径1〜100μの充填剤を含有してなる熱可塑性樹脂組成物」である点で一致し、また、両発明のゴム強化ビニル系樹脂とポリカーボネート樹脂の含有量及びゴム強化ビニル系樹脂とポリカーボネート樹脂よりなる組成物に対する充填剤の含有量は重複しているが、下記の点で相違している。 (相違点1)本件発明の充填剤は、アスペクト比2以上でありかつ鱗片状であるのに対して、刊行物2には対応する記載はない点。 (相違点2)本件発明は難燃性熱可塑性樹脂組成物であるのに対し、刊行物1には成形組成物が難燃性であるとは記載されていない点。 (相違点3)本件発明のゴム強化ビニル系樹脂は、重量平均粒子径0.1μ以上〜0.3μ未満の小粒子径ゴムを1〜5重量部および重量平均粒子径0.3μ以上〜2μ以下の大粒子径ゴムを3〜10重量部含有してなるものであるが、刊行物2には重量平均粒子径の異なる2つのゴムを用いることは記載されていない点。 そこで、まず相違点1について検討する。刊行物3には、タルクについて、その粒子形状は一般にリン片状であり、粒度2〜8μm、アスペクト比は10〜20であることが記載されている。すると、刊行物2の1〜20μmの範囲の平均粒度を有する市場で入手しうる任意のタルクとして、一般的な物性の範囲内のものであるリン片状でアスペクト比が2以上のものを用いることは、当業者が当然行う程度の事項にすぎない。 相違点2について検討すると、刊行物2には難燃剤を用いることができると記載されているので(摘示記載カ)、刊行物2に記載された発明において難燃剤を添加することにより難燃性の組成物とすることは、当業者が必要に応じてなし得るものといえる。 相違点3について検討すると、刊行物2と同じくポリカーボネート樹脂とゴム強化ビニル系樹脂とを含む、耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物が記載された刊行物1には、当該ゴムとして、重量平均粒径0.3〜0.5μ(注:本件発明の「大粒子径ゴム」に相当)及び0.1〜0.2μ(注:本件発明の「小粒子径ゴム」に相当)のブタジエン重合体又はブタジエン50重量%以上を含有するブタジエン共重合体をそれぞれ40〜80重量%及び20〜60重量%からなる混合物を使用することが記載され(摘示記載ア)、第1表には、大粒子径ゴムまたは小粒子径ゴムのいずれかのみを用いた実験番号1と5に比べ、大粒子径ゴムと小粒子径ゴムの両方を含む実験番号2〜4は衝撃強度に優れることが記載されている(摘示記載オ)。実験番号2には、LX-1を70重量%LX-2を30重量%含むラテックスを固形分として50重量部と単量体50重量部を混合して製造したC-2を20重量部(組成物全体は100重量部)用いていることから、重量平均粒径0.15μのゴム(LX-2)を3重量部(50重量部×0.3×0.2)と重量平均粒径0.35μのゴム(LX-1)を7重量部(50重量部×0.7×0.2)を含有するスチレン-アクリロニトリル共重合体すなわちゴム強化ビニル系樹脂20重量部を、芳香族ポリカーボネート樹脂30重量と混合して用いることが記載され(摘示記載ウ,エ)、ゴム強化ビニル系樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂の合計を100重量とした場合には、重量平均粒径0.15μのゴムを6重量部と重量平均粒径0.35μのゴムを14重量部を含有するゴム強化ビニル系樹脂を40重量部を、芳香族ポリカーボネート樹脂60重量と混合して用いることが記載されているものと認められる。すると、刊行物1の実験番号2の小粒子径ゴムと大粒子径ゴムを含有するゴム強化ビニル系樹脂は、本件発明のゴム強化ビニル系樹脂と2種類のゴムの重量平均粒子径およびその含有量において重複している。 したがって、刊行物2に記載された発明のゴム強化ビニル系樹脂に代えて、耐衝撃性を向上させるために、同一技術分野である刊行物1に記載された大小2種類の重量平均粒子径のゴムを含有するゴム強化ビニル系樹脂を用いることは、当業者が容易に想到し得るものといえる。 そして、本件発明の耐衝撃性に優れるという効果は、刊行物1の記載に基づいて当業者が予測可能な程度のものにすぎない。 次に、本件発明のメッキ性に優れるという効果の予測性について検討する。刊行物5には、重量平均粒子径が150mμ以下の小粒径ゴム80〜99重量%と重量平均粒子径が150mμを越える大粒径ゴム1〜20重量%からなるゴムを含有するABS樹脂が記載され、当該2種類の重量平均粒子径を有するゴムを含有させることにより強固なメッキ密着性を有する樹脂メッキ製品が得られること(摘示記載イ)、および、大粒径ゴムの重量平均粒子径が150mμ以下であるとメッキ密着性に乏しくなること(摘示記載ウ)が記載され、第1表(摘示記載エ)の実施例2と3を比較すると大粒径ゴムの配合量が多くなるとメッキ剥離数が減り、実施例3と実施例5を比較すると大粒径ゴムの粒径が大きくなるとメッキ剥離数が減ることが見てとれる。すなわち、刊行物5には大粒径ゴムと小粒径ゴムを含有するABS樹脂を用いれば、メッキ密着性が向上し、特に大粒径ゴムの粒径が大きく、また、その含有量が多いとメッキ密着性が向上することが記載されているものと認められる。 すると、刊行物2に記載された発明において刊行物1に記載された大小2種類の重量平均粒子径のゴムを含有するゴム強化ビニル系樹脂を用いた場合にも、メッキ密着性がある程度向上するであろうことは、当業者が予測可能な範囲内のものということができ、本件明細書の比較例4と5において不良であったメッキ性が実施例において良好となる本件発明の効果が格別優れたものともいえない。 さらに、本件発明の剛性、実施例では曲げモジュラスに優れるという効果についてみると、本件明細書の比較例4〜5(大粒子径ゴムまたは小粒子径ゴムのいずれかのみを含む)と実施例に格別の差は存在しないので刊行物2に記載された発明に比べ剛性が優れるともいえず、また、本件明細書の比較例2〜3(平均粒子径600μのアスペクト比120のガラス繊維を用いたもの)のように平均粒子径が大きすぎるものを用いた場合より平均粒子径が小さい充填剤を用いた実施例の方が、表面の凹凸が少なく表面状態が良好となることは当業者が予測可能な範囲内のものにすぎない。 (刊行物4を主引例とした場合) 刊行物4には、「(A)ポリカーボネート樹脂20〜95重量%、(B)ブタジエンゴムの存在下に少なくとも2種のビニル系単量体を共重合させたゴム含有熱可塑性樹脂5〜80重量%、(D)ハロゲン系難燃剤0〜25重量%からなりハロゲン原子を0.5〜15重量%含有する樹脂組成物100重量部に対して、(G)平均粒径50μ以下のタルク 3〜100重量部 を配合してなる難燃性樹脂組成物」(摘示記載ア,イ)が記載されている。 本件発明と刊行物4に記載された発明とを対比すると、刊行物4に記載された発明の「ブタジエンゴムの存在下に少なくとも2種のビニル系単量体を共重合させたゴム含有熱可塑性樹脂」および「平均粒径50μ以下のタルク」は、それぞれ本件発明の「ゴム強化ビニル系樹脂」および「平均粒子径1〜100μの充填剤」に相当する。 したがって、両発明は「ゴム強化ビニル系樹脂と、ポリカーボネート樹脂よりなる組成物に、平均粒子径1〜100μの充填剤を含有してなる難燃性熱可塑性樹脂組成物」である点で一致し、両発明のゴム強化ビニル系樹脂とポリカーボネート樹脂の含有量は重複しており、また、刊行物4の実施例1においてポリカーボネート樹脂とゴム強化ビニル系樹脂の合計95重量部に対してタルク10重量部(当該樹脂の合計100重量部とするとタルク10.5重量部となる)を添加していることからみて、両発明の充填剤の含有量も重複しているといえるものの、下記の点において相違している。 (相違点1)本件発明の充填剤は、アスペクト比2以上でありかつ鱗片状であるのに対して、刊行物4には対応する記載はない点。 (相違点2)本件発明のゴム強化ビニル系樹脂は、重量平均粒子径0.1μ以上〜0.3μ未満の小粒子径ゴムを1〜5重量部および重量平均粒子径0.3μ以上〜2μ以下の大粒子径ゴムを3〜10重量部含有してなるものであるが、刊行物4には重量平均粒子径の異なる2つのゴムを用いることは記載されていない点。 そこで、まず相違点1について検討する。刊行物3には、タルクについて、その粒子径状は一般にリン片状であり、また、粒度2〜8μm、アスペクト比は10〜20であることが記載されている。すると、刊行物4のタルクとして、一般的な物性の範囲内のリン片状でありアスペクト比が2以上のものを用いることは、当業者が当然行う程度の事項にすぎない。 相違点2について検討すると、刊行物2と同じくポリカーボネート樹脂とゴム強化ビニル系樹脂とを含む、耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物が記載された刊行物1には、当該ゴムとして、重量平均粒径0.3〜0.5μ(注:本件発明の「大粒子径ゴム」に相当)及び0.1〜0.2μ(注:本件発明の「小粒子径ゴム」に相当)のブタジエン重合体又はブタジエン50重量%以上を含有するブタジエン共重合体をそれぞれ40〜80重量%及び20〜60重量%からなる混合物を使用することが記載され(摘示記載ア)、第1表には、大粒子径ゴムまたは小粒子径ゴムのいずれかのみを用いた実験番号1と5よりも、大粒子径ゴムと小粒子径ゴムの両方を含む実験番号2〜4の方が衝撃強度に優れることが記載されている(摘示記載オ)。実験番号2には、LX-1を70重量%LX-2を30重量%含むラテックスを固形分として50重量部と単量体を50重量部を混合して製造したC-2を20重量部(組成物全体は100重量部)用いていることから、重量平均粒径0.15μのゴムを3重量部(50重量部×0.3×0.2)と重量平均粒径0.35μのゴムを7重量部(50重量部×0.7×0.2)を含有するスチレン-アクリロニトリル共重合体すなわちゴム強化ビニル系樹脂20重量部を、芳香族ポリカーボネート樹脂30重量と混合して用いることが記載され(摘示記載ウ,エ)、ゴム強化ビニル系樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂の合計を100重量とした場合には、重量平均粒径0.15μのゴムを6重量部と重量平均粒径0.35μのゴムを14重量部を含有するスチレン-アクリロニトリル共重合体を40重量部を、芳香族ポリカーボネート樹脂60重量と混合して用いることが記載されているものと認められる。すると、刊行物1の実験番号2の小粒子径ゴムと大粒子径ゴムを含有するゴム強化ビニル系樹脂は、本件発明のゴム強化ビニル系樹脂と2種類のゴムの重量平均粒子径およびその含有量において重複している。 したがって、刊行物4に記載された発明のゴム強化ビニル系樹脂に代えて、耐衝撃性を向上させるために、同一技術分野である刊行物1に記載された大小2種類の重量平均粒子径のゴムを含有するゴム強化ビニル系樹脂を用いることは、当業者が容易に想到し得るものといえる。 そして、本件発明の耐衝撃性に優れるという効果は、刊行物1の記載に基づいて当業者が予測可能な程度のものにすぎない。 次に、本件発明のメッキ性に優れるという効果の予測性について検討する。刊行物5には、重量平均粒子径が150mμ以下の小粒径ゴム80〜99重量%と重量平均粒子径が150mμを越える大粒径ゴム1〜20重量%からなるゴムを含有するABS樹脂が記載され、当該2種類の重量平均粒子径を有するゴムを含有させることにより強固なメッキ密着性を有する樹脂メッキ製品が得られること(摘示記載イ)、および、大粒径ゴムの重量平均粒子径が150mμ以下であるとメッキ密着性に乏しくなること(摘示記載ウ)が記載され、第1表(摘示記載エ)の実施例2と3を比較すると大粒径ゴムの配合量が多くなるとメッキ剥離数が減り、実施例3と実施例5を比較すると大粒径ゴムの粒径が大きくなるとメッキ剥離数が減ることが見てとれる。すなわち、刊行物5には大粒径ゴムと小粒径ゴムを含有するABS樹脂を用いれば、メッキ密着性が向上し、特に大粒径ゴムの粒径が大きく、また、その含有量が多いとメッキ密着性が向上することが記載されているものと認められる。 すると、刊行物4に記載された発明において刊行物1に記載された大小2種類の重量平均粒子径のゴムを含有するゴム強化ビニル系樹脂を用いた場合にも、メッキ密着性がある程度向上するであろうことは、当業者が予測可能な範囲内のものということができ、本件明細書の比較例4と5において不良であったメッキ性が実施例において良好となる本件発明の効果が格別優れたものともいえない。 さらに、本件発明の剛性、実施例では曲げモジュラスに優れるという効果についてみると、本件明細書の比較例4〜5(大粒子径ゴムまたは小粒子径ゴムのいずれかのみを含む)と実施例に格別の差は存在しないので刊行物4に記載された発明に比べ格別剛性が優れるともいえず、また、本件明細書の比較例2〜3(平均粒子径600μのアスペクト比120のガラス繊維を用いたもの)のように平均粒子径が大きすぎるものを用いた場合より平均粒子径が小さい充填剤を用いた実施例の方が、表面の凹凸が少なく表面状態が良好となることは、当業者が予測可能な範囲内のものにすぎない。 (まとめ) したがって、本件発明は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。 【V】むすび 以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2005-08-02 |
出願番号 | 特願平7-21248 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Z
(C08L)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 中島 庸子 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
船岡 嘉彦 藤原 浩子 |
登録日 | 2002-12-27 |
登録番号 | 特許第3384902号(P3384902) |
権利者 | 住友ダウ株式会社 |
発明の名称 | 難燃性熱可塑性樹脂組成物 |
代理人 | 大島 正孝 |
代理人 | 白石 泰三 |