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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01G
管理番号 1124324
異議申立番号 異議2003-70991  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-09-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-17 
確定日 2005-09-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第3336523号「巻回型フィルムコンデンサ」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3336523号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3336523号の請求項1に係る発明についての特許出願は、平成10年3月4日になされ、平成14年8月9日にその特許の設定登録がなされ、その後、株式会社指月電機製作所により請求項1に係る発明について特許異議申立がなされ、平成15年7月4日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間である平成15年7月30日に意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲請求項1に記載された以下のとおりのものである。(以下、「本件発明」という。)
「【請求項1】薄膜状の誘電体層と、箔の相互間に隙間を形成した薄膜状の金属箔と、薄膜状の誘電体層と、金属層との組を所望数重層し、この重層体を巻回したフィルムコンデンサ素子に於いて、該フィルムコンデンサ素子を上下方向からのプレス加工により扁平に成形してなり、箔の相互間に隙間を形成した薄膜状の金属箔の一方及び他方の金属箔に形成した延長部を折曲げて押し潰し面を形成し、その押し潰し面からリード端子を接続したことを特徴とする巻回型フィルムコンデンサ。」

3.特許異議申立の概要
特許異議申立人株式会社指月電機製作所は、本件発明は、以下の甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものであると主張している。
甲第1号証:特開昭56-46520号公報
甲第2号証:米国特許第3237274号明細書
甲第3号証:実公昭63-36671号公報
甲第4号証:実公平4-14918号公報
甲第5号証:実公昭33-5750号公報
甲第6号証:実公昭60-15322号公報
甲第7号証:特公昭45-33821号公報
甲第8号証:実願昭48-121861号(実開昭50-67338号)のマイクロフィルム
甲第9号証:特開昭59-40519号公報
甲第10号証:特開昭48-53248号公報

4.取消理由通知の内容
平成15年7月4日付けの取消理由通知の内容は以下のとおりである。
「本件の請求項1に係る発明は、その出願前に国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有するものが、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



刊行物1.特開昭56-46520号公報(申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2.米国特許第3237274号明細書(申立人の提出した甲第2号証)
刊行物3.実公昭63-36671号公報(申立人の提出した甲第3号証)
刊行物4.実公平4-14918号公報(申立人の提出した甲第4号証)
刊行物5.実公昭33-5750号公報(申立人の提出した甲第5号証)
刊行物6.実公昭60-15322号公報(申立人の提出した甲第6号証)
刊行物7.特公昭45-33821号公報(申立人の提出した甲第7号証)
刊行物8.実願昭48-121861号(実開昭50-67338号)のマイクロフィルム(申立人の提出した甲第8号証)
刊行物9.特開昭59-40519号公報(申立人の提出した甲第9号証)
刊行物10.特開昭48-53248号公報(申立人の提出した甲第10号証)

刊行物1〜10には、特許異議申立書第4頁第8行〜第13頁第11行に記載の発明が、記載されている(ただし、「甲第1号証」〜「甲第10号証」は、それぞれ「刊行物1」〜「刊行物10」と読み替える。)。
そして、本件の請求項1に係る発明は、特許異議申立書第13頁第12行〜第16頁第9行に記載された理由(ただし、「甲第1号証」〜「甲第10号証」は、それぞれ「刊行物1」〜「刊行物10」と読み替える。)により、上記刊行物1〜10に記載の発明(特許異議申立書第16頁第10行〜第19行の「結び」部分の記載も参照のこと)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 」

5.特許異議申立人株式会社指月電機製作所が提出した甲第1号証ないし甲第10号証(以下、「刊行物1」ないし「刊行物10」という。)に記載された事項
(1)刊行物1.特開昭56-46520号公報
刊行物1には、第1,4〜8図とともに、以下の事項が記載されている。
「1対の誘電体フイルムと1対の電極箔を交互に重ねて巻回したコンデンサにおいて、扁平にプレスしたコンデンサ素子の両端に突出した電極箔を、上記端面の中心線付近に集中する如くV字形の凹部を有する部材によって押圧し、ついで平面の部材によって押圧し、上記押圧された電極箔にリード線を接続してなる巻回コンデンサのリード線導出方法。」(特許請求の範囲第1項)
「本発明は、1対の誘電体フイルムと1対の電極箔を交互に重ねて巻回した電極箔はみ出し構造の巻回コンデンサ素子からリード線を導出する方法に関するものである。
・・・第1図(a)および(b)は、扁平にプレスされたこの種のコンデンサ素子の正面図および側面図である。」(第1頁左下欄第13〜20行)
「第1図に示した形状にプレスされたコンデンサ素子は、ついで第1図(a)に示した矢印の方向から、平面上の治具によって押圧され、その部分にリード線がスポット溶接その他の方法によって接続される。」(第1頁右下欄第13〜17行)
「第4図〜第8図は、本発明の実施例を示すもので、第4図(a)および(b)は、第1図に示したものと同様に、扁平にプレスされたコンデンサ素子の正面図および側面図である。1〜3の番号は、第1図の場合と同じである。第5図は、第4図(b)のA-A面で切断したコンデンサ素子の断面図であって、拡大して模式的に示している。第6図は、電極箔2をV字形の凹部を有する部材6によって押圧した断面図で、突出した電極箔2が素子端面の中心線付近に集中している。第7図は、第6図に示した工程後、平面の部材7によって、突出した電極箔2を押圧しつゝある断面図である。また第8図は、第7図に示した工程後、電極箔2にリード線4を接続した断面図である。」(第2頁右上欄第8行〜同頁左下欄第1行)
「本発明の方法を使用することによって、素子の両端面からはみ出ている電極箔2および3は、第6図において示したように部材6によって左右から中央に寄せられた後押圧されるので、素子の厚さ方向に突出することがない。」(第2頁左下欄第10〜14行)
「2および3・・・電極箔はみ出し部分」(第2頁右下欄第14行)

よって、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。
「1対の誘電体フイルムと1対の電極箔を交互に重ねて巻回した電極箔はみ出し構造の巻回コンデンサ素子において、前記巻回コンデンサ素子は扁平にプレスされたものであって、前記巻回コンデンサ素子の両端にはみ出した電極箔はみ出し部分が上記両端面の中心線付近に集中するようにV字形の凹部を有する部材によって押圧され、ついで平面の部材により押圧された前記電極箔はみ出し部分にリード線を接続してなる巻回コンデンサ。」

(2)刊行物2.米国特許第3237274号明細書
刊行物2には、FIG.1〜FIG.5とともに、以下の事項が記載されている。 第1欄第63行から第2欄第8行には、「1対の均一幅の金属箔12、12と1対の均一幅の誘電体層14,14とが、Fig.1に示されるように交互に重なってコンデンサ素子が形成され、前記1対の誘電体層14は幅方向に同一位置に配置されるとともに、前記1対の金属箔は前記1対の誘電体層14の端部より外側に、互いに異なる方向にはみ出し部分(marginal portion)18だけはみ出した構成のコンデンサユニット16」が記載されている。
また、第2欄第28から61行には、「コンデンサユニット16を1対の回転ダイ22,22の間の同軸上にホルダー20で支持する。1対の回転ダイ22,22を互いに反対方向に比較的高速に回転させ、1対の回転ダイの1対の平面端面24,24により圧力をかけて、金属箔のはみ出し部分(marginal portion)18,18をコンパクトディスク様の端子部26,26とする。回転ダイ22の端部に形成された円周フランジ27により、端子部26の半径方向への変形を制限する。直線リード28をFIG.3に示されるように端子部26に電気的又は他の熱処理により接続される。」ことが記載されている。
(3)刊行物3.実公昭63-36671号公報
刊行物3には、第1図及び第2図とともに、以下の事項が記載されている。
「図面を参照して述べると、本考案はプラスチツクフイルム誘電体1と金属箔2とを交互に重ね合せて捲回したプラスチツクフイルムコンデンサAに於て、一方の電極を構成する金属箔2と他方の電極を構成する金属箔2とを隔絶している一方のプラスチツクフイルム誘電体1aがポリプロピレンフイルムからなり、他方のプラスチツクフイルム誘電体1bがポリエステルフイルムからなり、含浸剤3が酸無水物系エポキシ樹脂からなるプラスチツクフイルムコンデンサに係り、図示の本考案の実施例ではポリプロピレンフイルムからなる誘電体1a、金属箔2、ポリエステルフイルムからなる誘電体1b及び金属箔2の順でこれ等を重ね合せて捲回されており、その捲回は第2図に示すように金属箔耳端はみ出しの形式であり、リード端子4がコンデンサ素子の端面に重ねて溶接されている。」(第1頁第2欄第7〜23行)
(4)刊行物4.実公平4-14918号公報
刊行物4には、第1図ないし第4図とともに、以下の事項が記載されている。
「誘電体を介して2枚の電極箔を左右にづらせて対向巻回すると共に偏平に形成してなるコンデンサ素子の、該両電極箔露出部周側にリード線をU字状に沿わせて該電極箔とリード線とをスポツト溶接したことを特徴とする巻回型コンデンサーのリード線取付構造。」(実用新案登録請求の範囲)
「以下、本考案について図面に示す実施例により詳細に説明すると、第1図乃至第4図のようにポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等のプラスチツクフイルムからなる誘電体4を介して2枚の電極箔2,3を夫々左右にずらせて対向させてコンデンサー素子本体1を形成し、該電極箔2,3の各露出端縁21,31に、リード線5の基端部6を一部添わせるか、或は各露出端の上下両面に巻き被せて仮設した後、該基端部6の両側にスポツト用の溶接電極7,7を加圧接触させて、該電極7,7とリード線5との間に一定の大きさの電流を瞬間的に通電することにより、リード線5と各電極7,7との接触部で発生するジユール熱によつて、電極箔の端縁部を間接的に加熱し、リード線5と電極箔の端縁21,31とを溶着するものである。」(第2頁第3欄第6〜21行)
(5)刊行物5.実公昭33-5750号公報
刊行物5には、第1図ないし第4図とともに、以下の事項が記載されている。
「本考案は図面に示す如く電極隔離薄葉体1,2を介在せしめて金属箔3,4を捲回せる無誘導巻素子の、金属箔3,4の両端へリード5,6の端部を接続し、金属箔3,4の両端を内方へ折曲げ、リード5,6を反対方向へ導出せしめてなる蓄電器の構造にして、第4図は素子の周囲を絶縁モールド7等にて外装せしめたものである。」(第1頁左欄第8〜14行)
(6)刊行物6.実公昭60-15322号公報
刊行物6には、第1図及び第2図とともに、以下の事項が記載されている。
「第2図の展開した図で示すように誘電体シート1をはさんでその一方に分割された電極シート2A,2Bを、又他方に分割された電極シート2C,2Dを配置する。」(第1頁第2欄第7〜10行)
「第1図からも理解されるように巻回されたコンデンサ本体5の一方の端面(上端面)からは電極シート1Aの側縁3Aが、又他方の端面(下端面)からは電極シート2Dの側縁3Bが誘電体シート1,4の巻回端面からはみ出るようになる。このはみ出た部分を一括して半田などで一体化し、これをリードとして使用する。」第1頁第2欄第23行〜第2頁第3欄第2行)
(7)刊行物7.特公昭45-33821号公報
刊行物7には、第1図ないし第5図とともに、以下の事項が記載されている。
「第1図及び第2図に示すように蓄電器は錫又は錫合金の1対の細長い箔電極15,15と、細長い第1誘電体帯状材料17と、長手方向の電極列20を金属化してつけた第2の細長い誘電体帯状材料19とを含む複数の蓄電器形成条片から作る。電極20は互に等間隔に離間し、そして帯状材料19の縁から離間して該材料の横方向に配置する。数個の蓄電器形成条片15,17,19を第2図に示すように芯の周りに重ね合わせて巻いて蓄電器巻体22を作る。
錫箔電極15は内縁15-1を予定距離離なし、そして外縁部分15-2を重ね合わせた誘電体帯状材料17,19の長手方向の縁から横方向に突出させて誘電体材料17,19間に互に横方向に離して支持する。」(第1頁第2欄第21〜35行)
「多く巻いた誘電体条片17を蓄電器巻体に密封した後巻体を巻芯から取外し、予定時間予定温度に加熱して誘電体材料15を長手方向に収縮させてきちんとした構体にする。蓄電器の両端から突出している箔電極をそれに軸方向に圧接される回転ダイスで回転槌打して蓄電器の両端に端子24を作り、次いで頭部を有する端子リード26を半田付する。」(第2頁第3欄第13〜20行)
(8)刊行物8.実願昭48-121861号(実開昭50-67338号)のマイクロフィルム
刊行物8には、第1図及び第2図とともに、以下の事項が記載されている。
「本考案のコンデンサは、誘電体フイルムの片面に両側端部及び中間部或いは少なくとも両側端部に絶縁マージン部(1)を残して金属蒸着膜電極(2)を形成してなる金属化フイルム(3)、該金属化フイルム(3)の電極(2)と反対側の面に於て相互の間に絶縁マージン部(4)を存して配列され且つ上記金属蒸着膜電極(2)との間に該電極(2)の1つを共通電極として直列接続のコンデンサ部を構成する金属箔電極(5)及び誘電体フイルム(6)が積層されており、上記金属箔電極(5)の外側端が上記金属化フイルム(3)及び誘電体フイルム(6)の外側端よりはみ出していることによつて特徴づけられる。
本考案コンデンサの好ましい1実施態様に於て、金属化フイルム(3)の金属蒸着膜電極(2)を形成する面にはその両側端部に絶縁マージン部(1)が形成され(第1図及び第2図に示す実施形式参照)・・・
本考案は上記のような構造を有するから、絶縁マージン部(4)を介して並列する2つの金属箔電極(5)(5)と、該電極(5),(5)に対し金属化フイルム(3)に於ける誘電体フイルムを介して対面している1つの金属蒸着膜電極(2)とで構成された直列接続のコンデンサ部が一つの素子中に2個以上形成されることとなる。(一素子中に2個の直列接続コンデンサ部を形成したものが第1,2図に示され・・・)」(明細書第2頁第18行〜第4頁第4行)
「本考案によるコンデンサは、一方の電極が金属箔電極(6)からなり、一方の誘電体フイルムが金属化されていないフイルム(6)からなるため、部分放電開始電圧が比較的高く高電圧用にも使用が可能であると共に、電極引出部分の接触抵抗損失及び電極抵抗損失も比較的小さい特徴を有する。」(明細書第4頁第7〜12行)
「更にまた本考案に於ては一方の電極である金属膜電極(5)の外側端が金属化フイルム(3)及び誘電体フイルム(6)の外側端よりはみ出しているので、当該はみ出し部を利用してこれにリード線(図示せず)を金属溶射の補助手段を併用することなく接続することができ、従つて金属溶射に伴う有害物質放散の問題も解消される。」(明細書第4頁第19行〜第5頁第5行)
(9)刊行物9.特開昭59-40519号公報
刊行物9には、第9図とともに、以下の事項が記載されている。
「第9図に示す如く、第一の誘電体フィルムとしてのポリエステルフィルム3の一面に、その両側縁部に形成した幅1乃至2.5mmのマージン部(非電極被着部)2,2’を残して、一方の電極4を蒸着等の手段で被着し、更にポリエステルフィルム3の他面に、上記一方の電極4の略中央部と対応する部分に非電極被着部10を形成して他方の電極4’a,4’bを被着して形成したシリーズ構造両面金属化フィルム5と、上記ポリエステルフィルム3よりも0.5乃至2.5mm幅の狭い第二の誘電体フィルムとしてのポリプロピレンフィルム6とを積層巻回して金属化フィルムコンデンサ素子を形成している。」(第3頁右上欄第13行〜同頁左下欄第6行)
「この状態の金属化フィルムコンデンサ素子をプレス板によって加圧した状態・・・」(第3頁左下欄第11〜13行)
「一般にシリーズ電極構造のコンデンサは、複数のコンデンサの直列接続構造となるので、印加電圧が分割されて個々のコンデンサに加わるため、全体として高い耐電圧のコンデンサを得ることができるものであるが・・・」(第3頁右下欄第5〜9行)
(10)刊行物10.特開昭48-53248号公報
刊行物10には、第4図ないし第6図とともに、以下の事項が記載されている。
「本発明は高精度の静電容量を持つた小容量巻回コンデンサを製作する方法に関するものである。」(第1頁左下欄第12〜14行)
「次に第4、5および6図を参照して本発明の一実施例について述べる。電極箔11、13a、13は0.01m/m厚、4m/m巾のスズ箔を使用し、誘電体箔12、14には0.02m/m厚、8m/m巾のポリスチレンフイルムを使用しスズハク三枚巻とした。ポリスチレンフイルム14上にスズハク13aおよび13bを2m/m離して配置し更にポリスチレンフイルム12上に第3のスズハク11をポリスチレンフイルム12の中心に配置する。」(第2頁右上欄第6〜15行)

6.対比・判断
本件発明と刊行物発明とを比較検討する。
刊行物発明の「巻回コンデンサ」の電極となる「電極箔」がフィルム状であることは明らかであるから、刊行物発明の「巻回コンデンサ」は、本件発明の「巻回型フィルムコンデンサ」に相当する。
刊行物発明の「巻回コンデンサ素子」は、本件発明の「巻回したフィルムコンデンサ素子」に相当する。
刊行物発明の「巻回コンデンサ素子」の電極となる「1対の金属箔」と交互に重ねて巻回した「1対の誘電体フイルム」は、本件発明の薄膜状の「金属箔」の上下に積層される「誘電体層」に相当する。
刊行物発明の「巻回コンデンサ素子」は、「扁平にプレスされたもの」であって、巻回コンデンサ素子を扁平にプレスするためには、特定の対向する方向から加圧することが必要であることは明らかであるので、刊行物発明の「前記巻回コンデンサ素子は扁平にプレスされたものであ」ることは、本件発明の「該フィルムコンデンサ素子を上下方向からのプレス加工により扁平に成形してな」ることに相当する。
刊行物発明の「前記巻回コンデンサ素子の両端にはみ出した電極箔はみ出し部分」は、その言葉どおり、巻回コンデンサ素子の「電極箔」が誘電体フィルムの両端からはみ出した「部分」であることは明らかであり、一方、本件発明においては、「金属箔に形成した延長部」は、「金属箔」の「誘電体層」から外側に延長した部分であるので、刊行物発明の「電極箔はみ出し部分」は、本件発明の「金属箔に形成した延長部」に相当する。
刊行物発明において、「前記巻回コンデンサ素子の両端にはみ出した電極箔はみ出し部分が上記両端面の中心線付近に集中するようにV字形の凹部を有する部材によって押圧され、ついで平面の部材により押圧された前記電極箔はみ出し部分」は、「平面の部材により押圧され」たものであるから、「前記電極箔はみ出し部分」の表面がほぼ平面となることは当業者に明らかであるので、「前記巻回コンデンサ素子の両端にはみ出した電極箔はみ出し部分が上記両端面の中心線付近に集中するようにV字形の凹部を有する部材によって押圧され、ついで平面の部材により押圧された前記電極箔はみ出し部分」の表面は、本件発明の、「金属箔に形成した延長部」を「押し潰し」て形成した「面」、即ち、本件発明の「押し潰し面」に相当する。
刊行物発明の「リード線」は、本件発明の「リード端子」に相当する。

よって、本件発明と刊行物発明とは、
「誘電体層と、金属箔とを巻回したフィルムコンデンサ素子に於いて、該フィルムコンデンサ素子を上下方向からのプレス加工により扁平に成形してなり、金属箔に形成した延長部の押し潰し面からリード端子を接続したことを特徴とする巻回型フィルムコンデンサ。」で一致し、以下の各点で相違する。
相違点1
本件発明は、「薄膜状の誘電体層と、箔の相互間に隙間を形成した薄膜状の金属箔と、薄膜状の誘電体層と、金属層との組を所望数重層し、この重層体を巻回したフィルムコンデンサ素子」であるのに対して、
刊行物発明は、「1対の誘電体フイルムと1対の電極箔を交互に重ねて巻回した電極箔はみ出し構造の巻回コンデンサ素子」である点。
相違点2
本件発明は、「箔の相互間に隙間を形成した薄膜状の金属箔の一方及び他方の金属箔に形成した延長部を折曲げて押し潰し面を形成し、その押し潰し面からリード端子を接続した」ものであるのに対して、
刊行物発明は、「前記巻回コンデンサ素子の両端にはみ出した電極箔はみ出し部分が上記両端面の中心線付近に集中するようにV字形の凹部を有する部材によって押圧され、ついで平面の部材により押圧された前記電極箔はみ出し部分にリード線を接続してなる」ものである点。

以下、各相違点について検討する。
相違点1について
本件発明と刊行物発明とは、本件発明が、「薄膜状の誘電体層と、箔の相互間に隙間を形成した薄膜状の金属箔と、薄膜状の誘電体層と、金属層と」を備えるのに対して、刊行物発明が、「1対の誘電体フイルムと1対の電極箔を交互に重ね」たものである点(以下、「相違点1-1」という。)、及び、本件発明が、「薄膜状の誘電体層と、箔の相互間に隙間を形成した薄膜状の金属箔と、薄膜状の誘電体層と、金属層との組を所望数重層し、この重層体を巻回した」ものであるのに対して、刊行物発明が、「1対の誘電体フイルムと1対の電極箔を交互に重ねて巻回した」ものである点(以下、「相違点1-2」という。)において相違しており、それらについて順次検討する。
相違点1-1について
刊行物8には、「本考案のコンデンサは、誘電体フイルムの片面に両側端部及び中間部或いは少なくとも両側端部に絶縁マージン部(1)を残して金属蒸着膜電極(2)を形成してなる金属化フイルム(3)、該金属化フイルム(3)の電極(2)と反対側の面に於て相互の間に絶縁マージン部(4)を存して配列され且つ上記金属蒸着膜電極(2)との間に該電極(2)の1つを共通電極として直列接続のコンデンサ部を構成する金属箔電極(5)及び誘電体フイルム(6)が積層されており、上記金属箔電極(5)の外側端が上記金属化フイルム(3)及び誘電体フイルム(6)の外端部よりはみ出していることによつて特徴づけられる。」(明細書第2頁第18行〜第3頁第9行)と記載されると共に、第1図に記載されるコンデンサ素子が「巻回型」であることは明らかであるから、「1対の誘電体フイルムと1対の電極箔を交互に重ね」た構成を備えた刊行物発明において、誘電体フイルムと電極箔との構成を、刊行物8に記載される「巻回型」のコンデンサ素子の如く、「金属フイルム(3)の電極(2)と反対側の面に於て相互の間に絶縁マージン部(4)を存して配列され」ると共に「上記金属蒸着膜電極(2)との間に該電極(2)の1つを共通電極として直列接続のコンデンサ部を構成する金属箔電極(5)」を備えた構成とすること、即ち、本件発明の如く、「薄膜状の誘電体層と、箔の相互間に隙間を形成した薄膜状の金属箔と、薄膜状の誘電体層と、金属層と」を備えたものとすることは、当業者が通常の創作力の発揮によりなしえたものである。
相違点1-2について
本件発明の「薄膜状の誘電体層と、箔の相互間に隙間を形成した薄膜状の金属箔と、薄膜状の誘電体層と、金属層との組を所望数重層」したものがどのようなものであるか検討するに、本件特許明細書には、「上記のように、薄膜状の誘電体層4a、非蒸着のアルミ箔(金属層)5a,5b、薄膜状の誘電体層4b、金属蒸着膜(金属層)5cを重層することにより一組の重層体を構成する。」(第11段落)と記載されると共に、図1には、「薄膜状の誘電体層4a」、「非蒸着のアルミ箔(金属層)5a,5b」、「薄膜状の誘電体層4b」、及び「金属蒸着膜(金属層)5c」を重ね合わせたものを巻回してコンデンサ素子を構成することが示されているので、「薄膜状の誘電体層4a、非蒸着のアルミ箔(金属層)5a,5b、薄膜状の誘電体層4b、金属蒸着膜(金属層)5cを重層」したものが「一組の重層体」であって、「所望数」には、「1」が含まれることが明らかであるとともに、「一組の重層体」も「重層」したものであり、一方、刊行物8に記載される「金属化フイルム(3)の電極(2)と反対側の面に於て相互の間に絶縁マージン部(4)を存して配列され且つ上記金属蒸着膜電極(2)との間に該電極(2)の1つを共通電極として直列接続のコンデンサ部を構成する金属箔電極(5)及び誘電体フイルム(6)が積層」されたものも、本件発明の「重層」したものの技術的範疇に含まれると解されることは明らかであるから、刊行物発明に刊行物8に記載される「誘電体フイルム(6)」、「相互の間に絶縁マージン部(4)を存して配列」した「金属箔電極(5)(5)」、「金属化フイルム(3)」及び「金属蒸着膜電極(2)」を積層した構成を適用することが当業者に容易であると共に、刊行物発明に刊行物8に記載された構成を適用することにより、結果としてコンデンサが、「重層」したものを巻回した構成となることは、当業者に明らかである。

相違点2について
本件発明と刊行物発明とは、本件発明が、「箔の相互間に隙間を形成した薄膜状の金属箔の一方及び他方の金属箔に形成した延長部を折り曲げて押し潰し面を形成し」たものであるのに対して、刊行物発明は、「1対の誘電体フイルムと1対の電極箔を交互に重ねて巻回し」た巻回型コンデンサ素子の「両端にはみ出した電極箔はみ出し部分が上記両端面の中心線付近に集中するようにV字形の凹部を有する部材によって押圧され、ついで平面の部材により押圧された」ものである点(以下、「相違点2-1」という。)、及び、本件発明が「金属箔に形成した延長部を折曲げて押し潰し面を形成し、その押し潰し面からリード端子を接続した」ものであるのに対して、刊行物発明が、「前記巻回コンデンサ素子の両端にはみ出した電極箔はみ出し部分が上記両端面の中心線付近に集中するようにV字形の凹部を有する部材によって押圧され、ついで平面の部材により押圧された前記電極箔はみ出し部分にリード線を接続してなる」ものである点(以下、「相違点2-2」という。)において相違しており、それらについて順次検討する。
相違点2-1について
刊行物2には、「1対の均一幅の金属箔12、12と1対の均一幅の誘電体層14,14とが、Fig.1に示されるように交互に重なってコンデンサ素子が形成され、前記1対の誘電体層14は幅方向に同一位置に配置されるとともに、前記1対の金属箔は前記1対の誘電体層14の端部より外側に、互いに異なる方向にはみ出し部分(marginal portion)18だけはみ出した構成のコンデンサユニット16」(第1欄第63行から第2欄第8行参照)、及び「コンデンサユニット16を1対の回転ダイ22,22の間の同軸上にホルダー20で支持する。1対の回転ダイ22,22を互いに反対方向に比較的高速に回転させ、1対の回転ダイの1対の平面端面24,24により圧力をかけて、金属箔のはみ出し部分(marginal portion)18,18をコンパクトディスク様の端子部26,26とする。回転ダイ22の端部に形成された円周フランジ27により、端子部26の半径方向への変形を制限する。直線リード28をFIG.3に示されるように端子部26に電気的又は他の熱処理により接続される。」ことが記載され(第2欄第28〜61行参照)、
また、刊行物7には、「第1図及び第2図に示すように蓄電器は錫又は錫合金の1対の細長い箔電極15,15と、細長い第1誘電体帯状材料17と、長手方向の電極列20を金属化してつけた第2の細長い誘電体帯状材料19とを含む複数の蓄電器形成条片から作る。・・・錫箔電極15は内縁15-1を予定距離離なし、そして外縁部分15-2を重ね合わせた誘電体帯状材料17,19の長手方向の縁から横方向に突出させて誘電体材料17,19間に互に横方向に離して支持する。」(第1頁第2欄第21〜35行)及び、「多く巻いた誘電体条片17を蓄電器巻体に密封した後巻体を巻芯から取外し、予定時間予定温度に加熱して誘電体材料15を長手方向に収縮させてきちんとした構体にする。蓄電器の両端から突出している箔電極をそれに軸方向に圧接される回転ダイスで回転槌打して蓄電器の両端に端子24を作り、次いで頭部を有する端子リード26を半田付する。」(第3欄第13〜20行)と記載されており、
結局、刊行物2又は刊行物7に記載されるコンデンサ(蓄電器)において、誘電体層から外側へのはみ出し部分(marginal protion)18を軸方向に圧力をかけるか、又は誘電体条片から外側に突出した箔電極を軸方向に槌打して、コンパクトディスク様の端子部26又は端子24を形成することが記載されるとともに、端子部26及び端子24の表面が誘電体層から外側への電極箔のはみ出し部分又は誘電体条片から外側に突出した電極箔を押しつぶして形成された平面であることは当業者に明らかであるので、本件発明において、巻回型コンデンサ素子の「両端にはみ出した電極箔はみ出し部分」を「上記両端面の中心線付近に集中するようにV字形の凹部を有する部材によって押圧され、ついで平面の部材により押圧」することに代えて、刊行物2又は刊行物7に記載される如く、表面が平坦な平面端面24,24又は回転ダイスで、巻回型コンデンサ素子の軸方向に圧力をかけるか、又は、「軸方向に槌打」することにより、折り曲げて、刊行物2の「端子部26」又は刊行物7の「端子24」の如く、押し潰した面(平面)とすることは、当業者が容易になしえたものである。
仮に、刊行物発明の「両端にはみ出した電極箔はみ出し部分が上記両端面の中心線付近に集中するようにV字形の凹部を有する部材によって押圧され、ついで平面の部材により押圧された」の表面が平坦でないとしても、刊行物2又は刊行物7に記載される如き手段により、1対の回転ダイ22による軸方向に圧力をかけるか又は、誘電体フィルム端部からの電極箔はみ出し部分を「槌打」つことにより折り曲げて、刊行物発明の「電極はみ出し部分」の表面を押し潰した平面とすることは、当業者が容易になしえたものである。
さらに、本件発明の「金属箔に形成した延長部を折り曲げて押し潰し面を形成」する点、特に「折り曲げ」る点については、本件特許明細書の0006段落及び0019段落に「箔の相互間に隙間を形成した薄膜状の金属箔の一方及び他方の金属箔に形成した延長部を折り曲げて押し潰し面を形成し」なる記載はあるものの、前記記載は本件の出願当初の明細書には記載されておらず、本件の出願当初の明細書又は図面には、本件特許明細書の0011段落から0013段落に対応する記載として、
「【0015】上記のように、薄膜状の誘電体層4a、非蒸着のアルミ箔(金属層)5a,5b、薄膜状の誘電体層4b、金属蒸着膜(金属層)5cを重層することにより一組の重層体を構成する。これを巻取機等により巻回工程を行なう。そして、前記説明したように、巻回工程終了後にフィルムコンデンサ素子6の上下方向からプレス加工し、全体を扁平に整形する。
【0016】而して、図2に示すように、フィルムコンデンサ素子6の一方及び他方の箔をプレス機等によりP2,P3方向に押し潰し面A1,A2を形成する。そして、該両側の押し潰し面A1,A2に於けるリード端子7a,7bを接続する。更に前記フィルムコンデンサ素子6の表面を樹脂で外装することは前記したとおりである。
【0017】実施例1によれば、フィルムコンデンサ素子6の両箔を押し潰し面A1,A2を形成したので、アルミ箔(金属層)5a,5bの各重層間が緊密となり、接触抵抗が少なくなる。」と記載されると共に、図2に、一連のアルミ箔(金属層)5a,51a,52a,53aの一端5aL,51aL,52aL,53aLは図2の上方向に折り曲げられて「押し潰し面」A1が形成され、一連のアルミ箔(金属層)5b,51b,52b,53bの一端5bR,51bR,52bR,53bRは図2の上方向に折り曲げられて「押し潰し面」A2が形成されているようであるが、「金属箔に形成した延長部」を「折り曲げて」「押し潰し面を形成」することは、本件の出願当初の明細書には何ら明確には記載されておらず、図面(図2)のみに、「折り曲げて」押しつぶし面が形成されたように記載されており、
一方、「折り曲げる」とは、日本語としては、「折って曲げる」という意味であって、どのように「折る」かは明確でなく、どのように折る場合も「折り曲げる」の意味に含まれるのは明らかであり、本件特許明細書の図2に記載されているように、一方向に折って曲げる場合も「折り曲げる」に含まれると共に、刊行物2に記載される如く、誘電体層から外側への金属箔のはみ出し部分(marginal protion)18を軸方向に圧力をかけてコンパクトディスク様の端子部26を形成する場合、又は刊行物7に記載される如く、誘電体条片から外側に突出した箔電極を軸方向に槌打して端子24を形成する場合においても、刊行物2の金属箔のはみ出し部分(marginal protion)18又は刊行物7の外側に突出した箔電極はいずれも、折れ曲がっていることは、当業者に明らかであるので、刊行物2又は刊行物7に明確には記載されていないものの、コンパクトディスク様の端子部26又は端子24は、金属箔又は箔電極を折り曲げて形成したものであることは明らかである。
相違点2-2について
刊行物2においては、「直線リード28をFIG.3に示されるように端子部26に電気的又は他の熱処理により接続される。」ことが記載され、また、刊行物7には、端子24に端子リード26を半田付けすることが記載されているので、刊行物発明において、「平面の部材により押圧された前記電極箔はみ出し部分」として、刊行物2又は刊行物7に記載される如き、1対の回転ダイ22による軸方向に圧力をかけて形成したコンパクトディスク様の端子部26又は、誘電体フィルム端部からの電極箔はみ出し部分を「槌打」つことにより形成した端部24を用いた場合においても、刊行物2又は刊行物7のいずれにおいても、コンパクトディスク様の端子部26又は端子部24にリード線を接続することが記載されているので、巻回コンデンサ素子の「電極箔はみ出し部分」にリード線を接続することは、当業者が適宜なしえることである。

よって、本件発明は、刊行物1、刊行物2、刊行物7及び刊行物8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、本件請求項1に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-07-15 
出願番号 特願平10-67621
審決分類 P 1 651・ 121- Z (H01G)
最終処分 取消  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 松本 邦夫
橋本 武
登録日 2002-08-09 
登録番号 特許第3336523号(P3336523)
権利者 昭和電機株式会社
発明の名称 巻回型フィルムコンデンサ  
代理人 松田 克治  
代理人 西森 正博  

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