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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01R
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01R
管理番号 1124331
異議申立番号 異議2002-72612  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-02-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-10-22 
確定日 2005-10-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第3277761号「ハウジングとケーブルの接続構造及び接続方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3277761号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3277761号の請求項1〜5に係る発明についての出願は、平成7年7月31日に出願され、平成14年2月15日にその発明についての特許の設定登録がなされたものであって、その後、平成14年10月22日に清水信行より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、平成16年11月12日に「訂正を認める。請求項1〜5に係る特許を取り消す。」との異議決定がなされたところ、この異議決定に対する訴えの提起があった平成16年12月27日から起算して90日の期間内である平成17年3月17日に「特許第3277761号の明細書及び図面を、訂正明細書及び図面のとおりに訂正することを求める」訂正審判(審判2005-39049号)が請求され、平成17年5月30日付けで訂正を認める旨の審決がなされ、同審決が確定し、知的財産高等裁判所において決定取消の判決[知財高裁・平成17年(行ケ)第10128号、平成17年7月21日判決言渡し]があったので、さらに審理のうえ、次のとおり決定する。

2.訂正審判(審判2005-39049号)における訂正の内容
上記訂正審判における訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(イ)訂正事項a:特許請求の範囲の減縮に関する訂正事項
特許請求の範囲の減縮を目的として以下の訂正をする。
a-1.特許請求の範囲の請求項1について
特許請求の範囲の請求項1に記載された「難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の架橋体」を、
「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」と訂正する。

a-2.特許請求の範囲の請求項2について
特許請求の範囲の請求項2に記載された「ポリブロモジフェニルエーテルを除く難燃剤」を、
「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる難燃剤」と訂正する。

a-3.特許請求の範囲の請求項3について
特許請求の範囲の請求項3に記載された「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる1種もしくは複数種の混合物」を、
「エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)、ビス(トリブロモフェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる難燃剤」と訂正する。

a-4.特許請求の範囲の請求項5について
特許請求の範囲の請求項5に記載された「難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の架橋体」を、
「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」と訂正する。

(ロ)訂正事項b:明りょうでない記載の釈明に関する訂正事項
訂正事項aの訂正に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載の整合を取るため、明りょうでない記載の釈明を目的として以下の訂正をする。
b-1.明細書、段落番号【0013】 第3行ないし第5行、同段落番号【0019】 第4行ないし第6行、同段落番号【0073】 第2行ないし第3行に記載された「難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の架橋体」を、
「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」と訂正する。

b-2.明細書、段落番号【0014】 第1行ないし第2行、同段落番号【0033】第2行ないし第3行に記載された「熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の架橋体」を、
「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」と訂正する。

b-3.明細書、段落番号【0014】 第4行に記載された「この樹脂組成物の架橋体」を、
「このエチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」と訂正する。
b-4.明細書、段落番号【0021】 第1行ないし第2行に記載された「このような熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物」を、
「このようなエチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」と訂正する。

b-5.明細書、段落番号【0027】 第1行に記載された「これらの方法のいずれでも構わないが、」を、「しかし、」と訂正する。

b-6.明細書、段落番号【0035】 第1行ないし第2行に記載された「第1実施例乃至第4実施例」を、「第1実施例乃至第3実施例および比較例」と訂正する。

b-7.明細書、段落番号【0038】第1行ないし第2行に記載された「第1乃至第4実施例、及び後述する各比較例」を、「各実施例および各比較例」と訂正する。

b-8.明細書、段落番号【0040】 【表1】に記載された「実施例4」を「比較例5」と訂正する。

b-9.明細書、段落番号【0052】 第1行に記載された「第4実施例」を「比較例5」と訂正する。

b-10.明細書、段落番号【0056】 第1行ないし第2行に記載された「第1乃至第4実施例の優秀性を明確にするために、第1乃至第4比較例を示しておく」を、「実施例の優秀性を明確にするために、さらに第1乃至第4比較例を示しておく」と訂正する。

b-11.明細書、段落番号【0071】第1行に記載された「第4実施例」を「第5比較例」と訂正する。

3.特許異議の申立について
異議申立人は、下記証拠を提出し、本件請求項1〜5に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許を取り消すべきであり、また、特許請求の範囲の請求項1に記載された「熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物」の点はその意味が不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない発明に対してなされた本件特許は取り消すべきである旨を主張している。

(証拠)
甲第1号証:特開平6-107919号公報
甲第2号証:特開平4-119810号公報
甲第3号証:自動車規格「自動車用耐熱低圧電線」社団法人自動車技術会(1992年3月30日改正)の第1〜2頁。
なお、異議申立人は、平成16年5月7日付け意見書において、参考資料1(越後谷悦郎訳、「実用化学辞典」、(株)朝倉書店、1986年11月25日発行、第143〜144頁と表紙及び奥付)を提出している。

4.当審が通知した取消理由について
当審が通知した取消理由の概要は、本件の請求項1〜5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1〜3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきであるというものである。

刊行物1:特開平4-359156号公報(周知例)
刊行物2:特開平6-107919号公報(異議申立人の提示した甲第1号証である。)
刊行物3:特開平4-119810号公報(異議申立人の提示した甲第2号証である。)

5.本件発明
上記訂正審判による訂正が確定したので、本件の請求項1〜5に係る発明(以下順に、「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、同訂正審判の請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定されるとおりの次のものである。

(本件発明1)
「本体装置を封止するハウジングと、この本体装置に接続され、このハウジングを貫いて導出されるケーブルとを備え、ハウジングとケーブルの間を気密封止するハウジングとケーブルの接続構造において、
ハウジングがポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成され、ケーブルのシース材は、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体であり、このシース材がハウジングの溶融成形によりハウジングと接着しているハウジングとケーブルの接続構造。」
(本件発明2)
「前記シース材の難燃化は、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる難燃剤によってなされる請求項1に記載のハウジングとケーブルの接続構造。」
(本件発明3)
「前記難燃剤は、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)、ビス(トリブロモフェニル)テレフタルアミドからなる群より選ばれる難燃剤である請求項2に記載のハウジングとケーブルの接続構造。」
(本件発明4)
「前記熱可塑性ポリエステルエラストマの非晶性ソフトセグメントがポリオキシメチレングリコールである請求項1乃至3のいずれかに記載のハウジングとケーブルの接続構造。」
(本件発明5)
「本体装置を封止するハウジングと、この本体装置に接続され、このハウジングを貫いて導出されるケーブルとを備え、
ケーブルのシース材は、エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体であって、
ポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によってハウジングを形成するとともに、その溶融成形時にハウジングと前記シース材を接着させてハウジングとケーブルの間を気密封止するハウジングとケーブルの接続方法。」

6.刊行物に記載された発明
(1)刊行物1
上記刊行物1には、図面の図1〜3とともに、次の事項が記載されている。
(イ)「この発明は、主として自動車の車輪の回転速度を検出するのに用いる回転センサに関する。」(公報第2頁第1欄の段落【0001】参照)
(ロ)「このセンサは、ベアリングカバーの開口部(口元部)外周に鍔を設けてこの鍔を樹脂モールド体内に埋込んだり、センサ素子部の少なくとも外層部を樹脂又は金属ケースで構成してその外周に上記樹脂モールド体を設けたり、或いは、樹脂モールド体に信号線接続用のコネクタを一体に形成すると信頼性、取扱い性等の面で更に望ましいものになる。」(公報第2頁第2欄の段落【0007】参照)
(ハ)「図1にこの発明の一実施例を示す。回転センサ1は、センサ素子部2の内部にポールピース3、永久磁石4、コイル5を含み、これ等が車輪の回転軸〔図はハブ(図示せず)と一体化したスピンドル25〕と共に回転するセンシングロータ21によって誘起される電圧信号を発生する。そして、その信号がリード線6を経由して端子7に導かれる。…(中略)… また、センサ素子部2の外周部は、センサ素子の構成要素即ち、前述のポールピース3、永久磁石4、コイル5を保護・固定する第1の樹脂9に覆われている。さらに、ベアリングカバー8の開口部には開口封止用の端板ともなる熱可塑性樹脂のモールド体10を設け、このモールド体でセンサ素子部2の外周も完全に覆ってカバー8とセンサ素子部2を一体に結合してある。」(公報第2頁第2欄の段落【0010】〜【0011】参照)
(ニ)「次に、以上の如く構成される回転センサ1は、以下の手順で容易に作れる。…(中略)… 先ず、センサ素子部2を構成する3、4、5の各部品を組み立て、リード線6の接続後に第1の樹脂9で各部品を封止固定する。この後、センサ素子部2とベアリングカバー8をモールド体10の成形金型内に位置決めしてセットし、モールド体となる樹脂を金型に流し入れる。…(中略)… 図2は、この発明の他の実施例である。この回転センサ11は、センサハウジング12を有し、その内部に組込むセンサ素子を、磁気抵抗素子13と永久磁石14で構成した点、素子の発生信号をリード線6を経由してハーネス15で外部に導出するようにした点、ハーネスカバー16も樹脂モールド体10によって一体化した点、及び第1の樹脂9としてシリコンゴムを用いた点が前述の第1実施例と相違するが、作用、効果は、第1実施例と殆ど変わるところがない。」(公報第3頁第3欄の段落【0015】〜【0018】参照)
(ホ)「この発明の回転センサは、センサ素子とベアリングカバーを樹脂モールド体を介して一体化し、この樹脂モールド体によって同時にベアリングカバーの一端の開口を封止するので、製造、組立てが容易になり、耐水性、耐振性等に関する信頼性も向上する。」(公報第3頁第4欄の段落【0019】参照)

上記記載事項(イ)ないし(ホ)並びにその図面に示された内容を総合すると、上記刊行物1には、次の発明(以下、「従来発明」という。)が記載されているといえる。
(従来発明)
「センサ素子部2を構成する各部品を組み立て、さらに、ハーネス15で外部に導出するようにしたリード線6を接続した後に、該センサ素子部2の外周部を、第1の樹脂9で覆って各部品を封止固定した後、センサ素子部2をモールド体10の成形金型内に位置決めしてセットし、モールド体となる樹脂を金型に流し入れることにより、ハーネスカバー16も樹脂モールド体10によって一体化した構造体。」

(2)刊行物2
また、上記刊行物2には、次の事項が記載されている。
(イ)「本発明は、製品表面に組成物構成成分のブリードの問題のない耐熱性に優れた難燃性ポリエステルエラストマー組成物およびそれからの成形品、特にチューブ、熱収縮チューブ、絶縁ケーブルに関するものである。」(公報第2頁第2欄の段落【0001】参照)
(ロ)「ポリエステルエラストマーは、引張、衝撃、圧縮等の機械的強度に優れ、また、耐熱性や耐油性等に優れた材料であることから、自動車に用いられる油圧ホース、ジョイントブーツ、空気バネ、ハーネス保護用チューブなどの材料として、あるいは熱収縮ーブなど電子機器の各種の電子部品の構成材料や絶縁ケーブルの外被材料として実用されている。 ポリエステルエラストマーは代表的には結晶性(ハード)セグメントと非晶性(ソフト)セグメントからなるブロック共重合体であって、結晶性セグメントはポリブチレンテレフタレートであるものが多く、非晶性セグメントにポリエーテルを使用したいわゆるポリエーテルタイプと脂肪族ポリエステルを用いたいわゆるポリエステルタイプの2つの種類がある。 ポリエステルエラストマーは、…(中略)…多官能性モノマーを配合して成形し、加速電子線等の電離放射線照射を施して架橋すれば、融点以上に加熱されても溶融変形することのない、耐熱性ポリエステルエラストマー成形品を得ることもできる。」(公報第2頁第1欄の段落【0002】〜【0004】参照)
(ハ)「ところが、ポリエステルエラストマーはそれ自身は難燃性ではないために、難燃性が要求される用途においては、必要に応じて難燃剤が配合されて使用される。…(中略)… 自動車のハーネス保護用チューブなど水平難燃性が要求される用途にも適用し得る難燃性のポリエステルエラストマー組成物を得ることができる。…(中略)… ポリブロモジフェニルエーテル以外の難燃剤、例えば、臭素化エチレンビスフタルイミド誘導体やビス臭素化フェニルテレフタルアミド、臭素化ビスフェノール誘導体などの有機系の臭素含有難燃剤、パークロロペンタシクロデカン等の塩素含有難燃剤を使用してポリエステルエラストマーを難燃化する方法も知られている。」(公報第2頁第2欄の段落【0005】〜第3頁第3欄【0008】参照)
(ニ)「本発明者はかかる問題について鋭意検討した結果、ポリエステルエラストマーの難燃剤として、ポリブロモジフェニルエーテル以外のハロゲン系難燃剤、例えば、臭素化エチレンビスフタルイミド誘導体、ビス臭素化フェニルテレフタルアミド誘導体、臭素化ビスフェノール誘導体、他の有機系の臭素含有難燃剤やパークロロペンタシクロデカン等の塩素含有難燃剤を使用して難燃化した場合においても、カルボジイミド誘導体を配合すれば耐熱老化性が低下する問題を解決できることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成させるに至った。」(公報第3頁第3欄の段落【0010】参照)
(ホ)「ポリエステルエラストマーを製造するには、一般に、所望のエラストマー性を附与するように、上記結晶性セグメントと非晶性セグメントとを所望の割合でマルチブロック共重合化できればよく、通常芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸および(又は)、脂環族ジカルボン酸などのジカルボン酸又はその低級アルキルエステル成分(イ)とエチレングリコール、プロピングリコールなどの低分子量グリコール(ロ)および(又は)ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール(ハ)とを、上記のような結晶性セグメントと非晶性セグメントからなるポリエステルエラストマーを形成できる組合せで、常法に従って(エステル交換法、エステル化法、重縮合法など)重縮合触媒の存在下で処理することによりポリエステルエラストマーを得ることができる。」(公報第4頁第5欄の段落【0019】参照)
(ヘ)「具体的には、本発明のポリエステルエラストマー組成物は、公知成形手段例えば押出被覆、押出成形、射出成形、プレス成形などの手段により各種成形品、例えばチューブ、熱収縮チューブ、絶縁ケーブルなどにする。 本発明の場合、得られたポリエステルエラストマー成形品は、耐熱性、耐薬品性などを向上させるために、その後公知の電離性放射線(電子線など)の照射により架橋して、架橋成形品にする。」(公報第4頁第6欄の段落【0026】参照)

(3)刊行物3
さらに、上記刊行物3には、次の事項が記載されている。
(イ)「ポリアルキレンテレフタレート(アルキレン基の炭素数2〜4)を主体とする樹脂材料(A)と、熱可塑性ポリエステルエラストマーを主体とする樹脂材料(B)とが二重成形又は二色成形法により一体的に成形されてなる剛性の高い部分と柔軟な部分とを有する複合成形品。」(公報第1頁左下欄の特許請求の範囲の請求項1参照)
(ロ)「本発明は、剛性の高い部分と柔軟な部分とを有する複合成形品及びその製造方法に関し、例えば、振動吸収体、自動車外板の締結部品や一部にソフト感のある部品等、成形品の一部に剛性の高い部分と柔軟な部分とを要する各種機器部品に好適な複合成形品を提供するものである。」(公報第2頁左上欄第7〜12行参照)
(ハ)「結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表されるポリアルキレンテレフタレート系樹脂は機械的性質、電気的性質、その他物理的・化学的特性に優れ、かつ、加工性が良好であるがゆえにエンジニアリングプラスチックとして自動車、電気・電子部品等の広汎な用途に使用されている。…(中略)… 一般に2種の材料を一体的に形成する方法としては、樹脂の一次側成形品上に異材質樹脂を二次成形してその界面を融着固定させる二重成形法、あるいは二色成形法により、部分的に異なる材料より成る複合成形品を得ることが知られているが、一般にかかる複合成形品では一次側の樹脂と二次側の樹脂の界面の融着が不充分であり、外力によって剥離しやすく、又そり変形等を生じ易く、使用上一体成形品としての機能を満足しないことが多い。」(公報第2頁左上欄第14行〜右上欄第17行参照)
(ニ)「本発明の…(中略)…複合成形品は、上記(A)、(B)2種の樹脂材料を使用して、いわゆる二重成形法又は二色成形法により形成される。成形方法としては射出成形、圧縮成形その他の成形法が適用されるが一般には射出成形が好ましい。樹脂材料(A)又は(B)の何れか一方を予め成形して一次成形品とし、次いでこれに他の樹脂材料を成形して融着し一体化するもので、成形品の形状構造或いは目的とする用途により何れを一次側成形品としてもよいが、…(中略)…好ましい。 この場合、強固に融着させるためには二次成形において、樹脂材料(B)の樹脂温度によって一次側成形品の表層(界面)部が溶融することが必要であり、…(中略)…好ましい。」(公報第6頁左上欄第13行〜右上欄第16行参照)

7.対比・判断
(1)本件発明1について
そこで、本件発明1と従来発明とを対比すると、その作用ないし構造から見て、後者における「センサ素子部2を構成する各部品を組み立て」たものは前者における「本体装置」に、後者における「樹脂モールド体10」は前者における「本体装置を封止するハウジング」に、後者における「ハーネス15で外部に導出するようにしたリード線6」は前者における「ハウジングを貫いて導出されるケーブル」に、後者における「ハーネス15」の内の「リード線6」を除く被覆部分は前者における「シース材」に、後者における「センサ素子部2」と「ハーネス15」とを「樹脂モールド体10によって一体化した構造体」は前者における「シース材」が「ハウジングの溶融成形によりハウジングと接着しているハウジングとケーブルの接続構造」に、それぞれ相当するといえるから、両者は、
「本体装置を封止するハウジングと、この本体装置に接続され、このハウジングを貫いて導出されるケーブルとを備え、ハウジングとケーブルの間を気密封止するハウジングとケーブルの接続構造において、ケーブルのシース材がハウジングの溶融成形によりハウジングと接着しているハウジングとケーブルの接続構造」である点で一致(以下、「一致点」という。)し、次の点で相違するといえる。
(イ)相違点1:本件発明1は、「ハウジング」を「ポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成」しているのに対して、従来発明はこのような樹脂を用いていない点。
(ロ)相違点2:本件発明1は、「ケーブルのシース材」を、「エチレンビス臭素化フタルイミド、ビス(臭素化フェニル)エタン、ビス(臭素化フェニル)テレフタルアミド、パークロロペンタシクロデカン、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる難燃剤により難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物の電離性放射線によって架橋した架橋体」で構成しているのに対して、従来発明ではこのような樹脂組成物の架橋体でリード線の外被材料を形成していない点。
(ハ)相違点3:「シース材がハウジングの溶融成形によりハウジングと接着している」という接着態様に関して、本件発明1が上記相違点1及び相違点2において説示したところの樹脂組成物の組合せによる接着態様を用いているのに対して、従来発明はこのような樹脂組成物の組合せによる接着態様を用いていないとともに、ハーネスカバーも併せて接着された接着態様である点。
そこで、上記各相違点につき検討する。

(相違点1について)
ところで、上記相違点1につき、上記刊行物3にも示されるように、エンジニアリングプラスチックとして自動車、電気・電子部品等の広汎な用途に、「ポリブチレンテレフタレート樹脂」を用いることは、従来より周知の技術であったと解される(ちなみに、本件特許明細書の段落【0004】にも、従来技術に関して、「このため、ハウジング3の材質には、強靱性等の点で有利なポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等が選定され、ケーブル6のシース材には、耐摩耗性や耐屈曲性等の点で有利なポリウレタン系樹脂が選定されている。」と記載されている)。
してみると、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、上記従来発明におけるハウジングの構成材料を選択するに際して、上記刊行物3に示されるような周知技術を用いることにより、当業者が容易に実施し得た設計的事項であるといえる。

(相違点2及び3について)
上記相違点2につき、上記刊行物2には、自動車に用いられるハーネス保護用チューブや各種電子部品の絶縁ケーブルの外被材料として、耐熱性等を向上する目的で、電離性放射線等によって架橋されるところの難燃化した熱可塑性ポリエステルエラストマーを主体とする樹脂組成物を用いることが開示されている(上記「6.」(2)の(ホ)参照)とともに、そのポリエステルエラストマーの難燃剤として、ポリブロモジフェニルエーテル以外のハロゲン系難燃剤、例えば、臭素化エチレンビスフタルイミド誘導体、ビス臭素化フェニルテレフタルアミド誘導体、臭素化ビスフェノール誘導体、他の有機系の臭素含有難燃剤やパークロロペンタシクロデカン等の塩素含有難燃剤を使用することが併せて開示されている(上記「6.」(2)の(ニ)参照)。
また、上記相違点3につき、上記刊行物3には、上記相違点1につき指摘したところの「ポリブチレンテレフタレート樹脂」と熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂材料とを、そのいずれか一方を予め成形して一次成形品とし、次いでこれに他方の樹脂材料を成形して融着し一体的に形成するという接着態様を用いることが併せて開示されている。
ところで、上記訂正審判の請求人は、「気密性を得るための材料の融着性を考慮しなければならない用途については、むしろ不融化、即ち架橋してはならないと考えるのが当業者の考え方である」ということを前提として、「このような電離性放射線による架橋という特別の架橋法を適用した場合でも、特定の難燃剤を用いなければ、高い難燃性と高い気密性、融着性を実現させることができない」旨を主張するとともに、本件発明1の接続構造が奏する効果の顕著性を明確とするために、いいかえれば、本件発明1の接続構造におけるポリエステルエラストマと特定の難燃剤と電離性放射線による架橋という三要素を組み合わせた場合は、他の組み合わせによる効果と比較して顕著な効果が得られることを明確とするために、丙第1号証として実験報告書を提出している。
そこで、丙第1号証である実験報告書を参酌すると、当該実験報告書には、本件発明1の接続構造におけるハウジングがポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成されることを前提として、これに上述した三要素の組み合わせに相当ないし対応するものを採用した実験例1〜6及び実験例9〜12のものは、他の組み合わせに相当ないし対応するものを採用した実験例7、8(注:これら実験例は、その難燃剤のみが本件発明1のものと異なる。)、実験例13〜15(注:これら実験例は、その架橋手段のみが本件発明1のものと異なる。)及び表4の比較例(注:この比較例は、ポリエステルエラストマではなく、ポリエチレン系樹脂を用いた点のみが本件発明1のものと異なる。)のものと比較して、防水性(接着性)に関して優れた効果を奏することが示されている。
さらに、その表2を見ると、本件発明1の特定の難燃剤によれば、電離性放射線による架橋の程度(照射線量の程度)に関わらず良好な防水性(接着性)が得られることが併せて示されている。
そうすると、本件発明1のハウジングとケーブルの接続構造において、その接続構造における一方であるハウジングがポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成されることを前提として、当該接続構造における他方であるケーブルのシース材につき、上述した三要素の組み合わせを特定するように構成した点の技術的意義は、他の組み合わせを選択した場合には得られないような防水性に関する優れた効果が得られることにあるということができ、また、その内の特定の難燃剤を規定した点は、電離性放射線による架橋の程度(照射線量の程度)に関わらず良好な防水性(接着性)が得られるところの難燃剤に限定することにあるということができる。
そして、上記刊行物1ないし3の記載事項を精査してみても、いずれにも、その接続構造における一方がポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成されることを前提として、その他方を上述した三要素の組み合わせを選択した場合に、他の組み合わせを選択した場合には得られないような接着性に関する優れた効果が得られることを示唆ないし教示する記載を見いだすことができないし、また上記したように、刊行物2には、加速電子線等の電離放射線照射を用いて架橋することとともに、そのポリエステルエラストマーの難燃剤として、ポリブロモジフェニルエーテル以外のハロゲン系難燃剤を用いることが例示されているものの、これは当該ポリブロモジフェニルエーテルを用いた場合のブリードが発生する問題を避けることを説示したものであって、電離性放射線による架橋の程度(照射線量の程度)が異なる場合にその接着性が劣るものとなるのを避けることを示唆ないし教示するものではない。
してみると、上記相違点2及び3に係る本件発明1の構成は、上記刊行物1ないし3の記載事項からは当業者が予測し得なかった効果を奏するところの上述した組み合わせを選択したものといえるのであるから、上記刊行物1ないし3の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものということができない。
したがって、本件発明1は、上記刊行物1ないし3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものということができない。

(2)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、いずれも本件発明1の構成を全て含むとともに、それぞれ請求項2ないし4に記載された事項を、さらに付加したものといえる。
してみると、本件発明1が上記「(1)本件発明1について」で説示したとおり、上記刊行物1ないし3の記載事項に基づいて当業者が容易に容易に発明することができたものということができないのであるから、本件発明2〜4も、同様の理由から、上記刊行物1ないし3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものということができない。

(3)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1の「接続構造」に関する発明を、「接続方法」という方法の発明として記載表現したものといえるから、上記「(1)本件発明1について」で説示したのと同様の理由から、上記刊行物1ないし3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものということができない。

以上のとおり、本件発明1〜5は、上記刊行物1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものということができない。
また、異議申立の他の証拠を参酌してみても、本件発明1〜5が、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものということができない。

(5)異議申立の他の理由(特許法第36条第6項第2号)について
上記「7.」(1)の「(相違点2及び3について)」において説示したように、丙第1号証である実験報告書を参酌すると、本件発明1のハウジングとケーブルの接続構造において、その接続構造における一方であるハウジングがポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形によって形成されることを前提として、当該接続構造における他方であるケーブルのシース材につき、上述した三要素の組み合わせを特定するように構成した点の技術的意義は、他の組み合わせを選択した場合には得られないような防水性に関する優れた効果が得られることにあるということができ、また、その内の特定の難燃剤を規定した点は、電離性放射線による架橋の程度(照射線量の程度)に関わらず良好な防水性(接着性)が得られるところの難燃剤に限定することにあるということができる。
また、特許異議申立人は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「熱可塑性ポリエステルエラストマを主体とする樹脂組成物」の点はその意味が不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨を主張する。
しかしながら、上記「樹脂組成物」が「熱可塑性ポリエステルエラストマ」を主体とするものであって、難燃化するための難燃剤が一部配合されている樹脂組成物を表現したことが明らかであるといえるので、異議申立人の上記主張も採用することができない。

8.むすび
以上のとおり、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1〜5に係る特許を取り消すことができない。
また、他に取り消すべき理由も見出すことができない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-11-12 
出願番号 特願平7-194480
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01R)
P 1 651・ 537- Y (H01R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松縄 正登  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 内藤 真徳
一色 貞好
登録日 2002-02-15 
登録番号 特許第3277761号(P3277761)
権利者 住友電気工業株式会社
発明の名称 ハウジングとケーブルの接続構造及び接続方法  
代理人 上代 哲司  
代理人 飯田 敏三  
代理人 神野 直美  

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