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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1125135
審判番号 不服2003-18189  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-18 
確定日 2005-10-20 
事件の表示 平成11年特許願第320487号「動きベクトル検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月25日出願公開、特開2001-145109〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年11月11日の出願であって、平成15年8月14日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲は平成15年7月23日付の手続補正により補正され、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下の事項により特定されるとおりのものである。
「動画像を表わした時間的に近接した2つのフレームのうち、時間的に過去のフレームの方を参照フレーム、他方を画像処理中フレームとし、画像処理中フレームを複数に分割したそれぞれの領域としてのマクロブロックのうちの任意の1つのマクロブロックを構成する各画素に対して、参照フレーム内の前記マクロブロックと同一サイズの検査枠を構成する各画素を1対1で対応付け、これらの画素の信号レベルの違いを累積した結果からベクトル評価値を算出するベクトル評価値算出手段と、前記処理中フレーム内のベクトル評価値算出手段で算出しようとするマクロブロックの位置に対応させて前記参照フレーム内でそのマクロブロックと同一の画像部分の存在する位置を前記検査枠を使用して検索するための検索範囲を設定する検索範囲設定手段と、前記ベクトル評価値算出手段が1つの検査枠と対応付けてベクトル評価値の算出動作を終了させるたびに、検索範囲設定手段によって設定された検索範囲内で検査枠を次の新たな位置に移動させてこれに対するベクトル評価値を算出させる手段であって、前記検索範囲内を粗く検査枠を移動させる第1の検査枠移動手段と、細かく検査枠を移動させる第2の検査枠移動手段の2つの手段を備えた検査枠移動手段と、前記第1の検査枠移動手段によって設定されたそれぞれの検査枠を基にして粗い動きベクトル検索処理から仮の動きベクトルを算出する第1の動きベクトル検出手段と、第2の検査枠移動手段によって設定されたそれぞれの検査枠を基にして細かい動きベクトル検索
処理から動きベクトルを算出する第2の動きベクトル検出手段とを備え、前記検査枠移動手段による検索範囲内での検査枠の移動がすべて終了した時点で最小のベクトル評価値を有する検査枠と前記処理中フレーム内のベクトル評価値算出手段で算出しようとするマクロブロックとを結ぶベクトルとしての動きベクトルを求める動きベクトル検出手段と、この動きベクトル検出手段の検出によって前記処理中フレーム内で1つのマクロブロックに対する動きベクトルが検出されるたびに前記処理中フレーム内で動きベクトルの検出
されていないマクロブロックがある限り、そのうちの1つずつを動きベクトルの検出のために指定するマクロブロック指定手段と、このマクロブロック指定手段が1つのマクロブロックを指定したとき同一処理中フレーム内のそのマクロブロックの近傍の特定の位置関係にある所定数のマクロブロックのうちすでにベクトル評価値が求められたものがあるときそれらの値を基にして動きベクトル検出を確定させるための値としての検出確定しきい値を設定する検出確定しきい値設定手段と、前記検査枠移動手段によって検査枠が検索範囲内を移動するたびに得られるベクトル評価値を前記検出確定しきい値設定手段によって設定された検出確定しきい値と比較し、ベクトル評価値が検出確定しきい値以下である検査枠が出現したとき、その検査枠との関係で定まる動きベクトルをそのマクロブロックについて最終的に得られた動きベクトルと判断し、そのマクロブロックについての検査枠の移動を終了させる動きベクトル検出判断手段と、前記第1の動きベクトル検出手段によって仮の動きベクトルが算出されたときこれを基にして第2の動きベクトル検出手段の対象となる検索範囲をより小さな範囲に限定する検索範囲限定手段とを具備することを特徴とする動きベクトル検出装置。」

3.引用刊行物
これに対し、原査定の拒絶の理由で引用された特開平10-271514号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。
(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、動画像の高圧縮かつ高品質処理、例えばMPEG(エムペグ)2に準拠する動画像情報の信号処理方法及びその装置、特に、動きベクトル検出の処理過程技術の改良に関するものである。」
(第3頁左欄第33行目ないし第第37行目)
(b)「【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明の主たる構成は、動きベクトルの検出の指標となる画素値の差分絶対値和が所定の閾値域になったとき以降の未探索領域でのブロックマッチングの工程を強制終了させることにより、十分な高画質を維持できる範囲で可及的に余分な信号処理を排除するという着想に基づくものであり、時系列的に離隔した二つの画像間の動き補償予測を行うのに供するための動画像情報の信号処理方法において、前記動き補償予測は、再生画像内で選定された広範囲探索窓内における狭範囲探索窓を位置設定する工程と、前記狭範囲探索窓内で順次設定される照合マクロブロックについて、現画像内で参照されるべく位置設定された参照マクロブロックとの間で、夫々のマクロブロックの対応する画素値同士の差分絶対値に基づく差分絶対値和を演算するブロックマッチングの工程と、位置設定された前記狭範囲探索窓内の各照合マクロブロックについて演算された差分絶対値和が所定の閾値に達したとき、当該狭範囲探索窓における前記ブロックマッチングの工程を強制終了させる第1の強制終了工程と、前記狭範囲探索窓の拡張領域である広範囲探索窓から順次設定される各照合マクロブロックについて順次演算された差分絶対値和が前記所定の閾値に達したとき、当該広範囲探索窓における前記ブロックマッチングの工程を強制終了させる第2の強制終了工程と、前記広範囲探索窓内の全領域における前記ブロックマッチングの工程が全て完了した時点を前記ブロックマッチングの強制終了のときとする第3の強制終了工程と、前記所定の閾値に達したとき又は差分絶対値和が最小となるときの照合マクロブロックとして定義される予測マクロブロックの位置の前記参照マクロブロックの位置に対する2次元移動量である動きベクトルを検出する工程とを含むことを特徴とする。」
(第3頁右欄第36行目ないし第4頁左欄第18行目)
(c)「【0011】
【実施例】図1は、本発明の方法を実施するための装置の一実施例を示すものである。本実施例は、動画像情報の信号処理における動き補償予測、取り分けその中核となる動きベクトル検出の回路構成を示しており、データ処理部1と制御部2から大略構成されている。
【0012】データ処理部1は、抽出回路5、データメモリ6、選択器59、差分絶対値和アレイ8、サイドレジスタ7、比較回路9、カウンタ10等を設けている。再生画像のフレームメモリ4(例えば720×480画素分を記憶)の画素データは、制御部2を構成する制御プログラムに従いカウンタ機能を含む抽出部たる狭範囲探索窓抽出回路5及び広範囲探索窓用データメモリ6(例えば1個が48×48画素分の広範囲探索用窓を記憶)に供給されるようになっている。また、現画像のフレームメモリ3(例えば720×480画素分を記憶)の画素データは、制御部2を構成する制御プログラムに従い、例えば1個が16×16画素分の参照マクロブロックが差分絶対値和アレイ8に供給されるようになっている。
【0013】狭範囲探索窓抽出回路5は、例えば32×32画素の狭範囲探索窓のデータが抽出されて選択器59に供給されるようになっており、選択器59は、上記狭範囲探索窓のデータと広範囲探索窓のデータを選択的に出力し得るように、具体的には狭範囲探索窓の探索からその拡張領域である広範囲探索窓の探索への移行を適宜に行えるようになっている。なお、上記狭範囲探索窓のデータは、広範囲探索窓用データメモリ6に広範囲探索窓のデータが書き込まれている間に、サイドレジスタ7に供給されるようになっている。
【0014】サイドレジスタ7は、例えば32×16画素分のデータを保持できるようになっており、差分絶対値和アレイ8でのデータ処理の際に、1画素ずつの新たなデータを選択器59から入力すると共に、1画素ずつの処理済データを排出するようになっている。
【0015】上記現画像のフレームメモリ3からは、制御部2を構成する制御プログラムに従い、現画像における注目される部分となる例えば16×16画素の参照マクロブロックのデータが読み出され、上記サイドレジスタ7に記憶された狭範囲探索窓の一部である例えば16×16画素の照合マクロブロックのデータと共に差分絶対値和アレイ8に供給されるようになっている。
【0016】差分絶対値和アレイ8は、参照マクロブロックのデータである、例えば16×16個の画素値と、照合マクロブロックのデータである、例えば16×16個の画素値との対応する画素同士の差分絶対値の総和を演算して出力するものである。ここで、各画素値は夫々、例えば8ビット輝度信号から成るものである。
【0017】差分絶対値和アレイ8の出力WDは、比較回路9に供給されるようになっており、適宜に設定される所定の閾値R等と比較される。また、差分絶対値和アレイ8の出力WDが出現する順番Iiはカウンタ10により計数されている。例えば上記出力WDが閾値Rより大きいときには、比較回路9は出力信号0を出力する一方、上記出力WDが閾値R以下のときには、比較回路9は出力信号1を出力する。出力信号1が得られたときの照合マクロブロックの順番がカウンタ10を介して出力されると、この順番の出力に応じて予測マクロブロックの位置情報出力が得られ、制御部2から動きベクトルのベクトル量を知ることができる。
【0018】上記制御部2は、上記データ処理部1を中核とする全ての制御を支配するようになっており、具体的には広範囲探索窓、参照マクロブロック、狭範囲探索窓のアドレス指定、動きベクトルのベクトル量の算出などを行うようになっている。
【0019】ここで、上記閾値Rは、例えば前記広範囲探索窓を画面内符号化の画面(イントラピクチャ)内で選定し、前記現画像の全範囲について広範囲探索窓毎に得られた差分絶対値和の最小値若しくは平均値、またはこの差分絶対値和の最小値若しくは平均値についての許容範囲である。また、上記閾値Rは、直前の現画像の全範囲について、広範囲探索窓毎に得られた差分絶対値和の最小値であってもよい。なお、上記閾値Rは、適宜の周期で、例えば上記画面内符号化の画面の出現間隔毎に更新するように設定してもよい。前記いずれの場合も、最小値または平均値についての許容範囲でもよい。」
(第4頁右欄第3行目ないし第5頁左欄第28行目)
(d)「【0028】本実施例は上記のように構成されているので、狭範囲探索窓の位置設定の工程では、制御部2のアドレス指定により再生画像フレームメモリ1から広範囲探索窓が読み出され、データメモリ6に記憶される。この読み出しが行われている間、抽出回路5には上記広範囲探索窓内の狭範囲探索窓が抽出され、この狭範囲探索窓はその一部が選択器59を介してサイドレジスタ7に記憶される。サイドレジスタ7に記憶されなかった狭範囲探索窓の他の部分は、先行してサイドレジスタ7に記憶された一部の狭範囲探索窓うちのさらに一部である16×16画素分の照合マクロブロックが差分絶対値和アレイ8により演算処理されるのを待って供給される。
【0029】一方、現画像フレームメモリ3からは、制御部2のアドレス指定により16×16画素分の参照マクロブロックが出力されており、上記照合マクロブロックと共に差分絶対値和アレイ8に供給されている。これにより夫々のマクロブロックの対応する画素値同士の差分絶対値を演算するブロックマッチングの工程が行われる。
【0030】このブロックマッチングの工程における差分絶対値の演算では、選定された照合マクロブロック毎に差分絶対値の総和が出力されるが、順次演算された差分絶対値和のうちいずれかが最初に所定の閾値Rになると、その時点で比較回路9から出力信号1の出力が得られて当該狭範囲探索窓における演算は終了する。これがブロックマッチングを強制終了させる第1の強制終了工程を実行する場合であり、その強制終了時点における照合マクロブロックは、動きベクトル検出の対象となる予測マクロブロックとなる。」
(第6頁左欄第17行目ないし第45行目)
(e)「【0034】曲線(d)及び(e)の場合は、探索領域の全範囲について探索を行っても閾値Rに達しない場合を示すものであり、このような場合は、差分絶対値和が最小あるいは最小と見做されるようになったとき、すなわち曲線(d)のように比較最小値であるMinADに達したときであるQd回のとき、あるいは、曲線(e)のように広範囲探索窓に拡張した最大限の回数であるQ2回のときの照合マクロブロックをもって予測マクロブロックとする。すなわち、第3の強制終了工程を実行する場合である。」
(第6頁右欄第24行目ないし第33行目)
(f)「【0043】上記したように、探索領域のブロックマッチングから予測マクロブロックが選定されると、これに対応する前記参照マクロブロック位置に対する2次元移動量である動きベクトルの検出をする工程が行われる。」
(第7頁左欄第27行目ないし第30行目)
(g)「【0052】また、例えば上記所定の閾値Rは、直前の現画像にて指定された全ての参照マクロブロックとの間で前記第1の強制終了工程、第2の強制終了工程及び第3の強制終了工程のうちのいずれか一つの工程が行われた際に得られる各差分絶対値和の最小値又はこの最小値の許容範囲とすることも可能である。
【0053】さらに、前記所定の閾値Rは、直前の参照マクロブロックとの間で前記第1の強制終了工程、第2の強制終了工程の及び第3の強制終了工程のうちのいずれか一つの工程が実行された際に得られる差分絶対値和又は該差分絶対値和の許容範囲とすることも可能である。」
(第7頁右欄第44行目ないし第8頁左欄第5行目)

また、同じく原査定の拒絶の理由で引用された特開平4-180383号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、図面とともに以下の記載がある。
(h)「ブロックマッチング法は、入力画面のあるブロックを、前画面データとブロック単位で演算し、その結果が最小となるブロックのベクトルを求め、予測符号化を行うものである。
演算結果が最小となるブロックのベクトルを求めることを動きベクトルの探索と呼んでいる。
探索は、例えば画面を16×16画素のブロックに分割し、そのブロックのX方向(水平方向)、Y方向(垂直方向)のある範囲内で、ブロック毎に各画素の輝度値の差分とその絶対値を算出、累算し、その値が最小となったブロックの方向のX、Y値をベクトルとするものである。」
(公報第2頁左上欄第6行目ないし第17行目)
(i)「ここで、X、Y値を±4、±2、±1のように変化させて演算を行なう3ステップサーチの探索方法について、第5図を用いて説明する。
この探索方法は、まず第1ステップとして、入力ブロックと同じ座標にある前画面のブロックを中心に距離が±4画素にある9個のブロック(中心のブロックを含む)と演算を行う。
次に、第2ステップとして、第1ステップで演算結果が最小となったブロックを中心に±2画素にある9個のブロック(中心のブロックも含む)と演算を行う。
次に、第3ステップも同様に第2ステップで演算結果が最小となったブロックを中心に±1画素にある9個のブロック(中心のブロックも含む)と演算を行い、最小となったブロックの座標を探索結果のベクトルとする。」
(公報第2頁右上欄第2行目ないし第17行目)

4.対比
そこで、まず、本願発明と引用刊行物1記載の発明(以下、「引用発明1」という。)とを対比する。
記載事項(a)によれば、引用発明1は、動画像の高圧縮かつ高品質処理、例えば、動画像情報の信号処理装置、特に、動きベクトル検出の処理過程技術の改良に関するもの、であるから、本願発明と引用発明1とは、「動きベクトル検出装置」である点で一致している。
また、記載事項(b)によれば、引用発明1は、時系列的に離隔した二つの画像間の動き補償予測を行うものであり、再生画像内で選定された広範囲探索窓内における狭範囲探索窓を位置設定する手段と、前記狭範囲探索窓内で順次設定される照合マクロブロックについて、現画像内で参照されるべく位置設定された参照マクロブロックとの間で、夫々のマクロブロックの対応する画素値同士の差分絶対値に基づく差分絶対値和を演算するブロックマッチングの手段を含み(【0009】)、また、記載事項(c)によれば、引用発明1は、現画像のフレームメモリ3からは、制御部2を構成する制御プログラムに従い、現画像における注目される部分となる例えば16×16画素の参照マクロブロックのデータが読み出され、サイドレジスタ7に記憶された狭範囲探索窓の一部である例えば16×16画素の照合マクロブロックのデータと共に差分絶対値和アレイ8に供給されるようになっていて(【0015】)、差分絶対値和アレイ8は、参照マクロブロックのデータである、例えば16×16個の画素値と、照合マクロブロックのデータである、例えば16×16個の画素値との対応する画素同士の差分絶対値の総和を演算して出力するものである(【0016】)。
記載事項(b)の時系列的に離隔した二つの画像とは、時間的に近接した2つのフレームのことを意味することは、MPEG2などの動画圧縮技術の技術常識といえ、当業者には自明である。
また、記載事項(c)より、引用発明1は、現画像のフレームメモリ3として、例えば720×480画素分を記憶しておき、制御部2を構成する制御プログラムに従い、例えば1個が16×16画素分の参照マクロブロックが差分絶対値和アレイ8に供給されるようになっており、差分絶対値和アレイ8は、参照マクロブロックの8ビット輝度信号からなる画素値と、照合マクロブロックの8ビット輝度信号からなる画素値との対応する画素同士の差分絶対値の総和を演算して出力するものである(【0016】)から、差分絶対値和アレイ8は現画像を複数に分割した16×16画素の注目される参照マクロブロックと再生画像内において設定した16×16画素の照合マクロブロックとの間で、対応する画素同士の画素値の差分絶対値の総和を演算して出力する手段である、といえる。
また、引用発明1では、再生画像が現画像より時間的に過去のフレームであることは、記載事項(b)より明らかである。よって、引用発明1の「再生画像」は本願発明の「参照フレーム」に、「現画像」は「画像処理中フレーム」に相当し、以下、「参照マクロブロック」は「マクロブロック」に、「照合マクロブロック」は「検査枠」に、それぞれ相当するといえる。
また、記載事項(b)(c)(d)より、引用発明1では、差分絶対値和と閾値Rとの比較を行い、動きベクトルを求めるものである(【0009】【0017】【0030】)から、引用発明1の「差分絶対値和」は本願発明の「ベクトル評価値」に、「差分絶対値和アレイ」は「ベクトル評価値算出手段」に相当するといえる。
以上より、引用発明1には、「動画像を表わした時間的に近接した2つのフレームのうち、時間的に過去のフレームの方を参照フレーム、他方を画像処理中フレームとし、画像処理中フレームを複数に分割したそれぞれの領域としてのマクロブロックのうちの任意の1つのマクロブロックを構成する各画素に対して、参照フレーム内の前記マクロブロックと同一サイズの検査枠を構成する各画素を1対1で対応付け、これらの画素の信号レベルの違いを累積した結果からベクトル評価値を算出するベクトル評価値算出手段」に相当する技術的事項が含まれているといえる。
また、記載事項(c)によれば、再生画像(本願発明の「参照フレーム」)のフレームメモリ4の画素データは、制御部2を構成する制御プログラムに従いカウンタ機能を含む抽出部たる狭範囲探索窓抽出回路5及び広範囲探索窓用データメモリ6に供給されるようになっており(【0012】)、狭範囲探索窓抽出回路5は、例えば32×32画素の狭範囲探索窓のデータが抽出されて選択器59に供給され、選択器59よりサイドレジスタ7に狭範囲探索窓のデータが供給され、サイドレジスタ7に記憶された狭範囲探索窓の一部である照合マクロブロック(本願発明の「検査枠」)のデータが差分絶対値和アレイ(本願発明の「ベクトル評価値算出手段」)に供給されるようになっている(【0013】【0015】)から、引用発明1では探索の範囲である狭範囲探索窓、広範囲探索窓を設定する手段を有しているといえ、「前記処理中フレーム内のベクトル評価値算出手段で算出しようとするマクロブロックの位置に対応させて前記参照フレーム内でそのマクロブロックと同一の画像部分の存在する位置を前記検査枠を使用して検索するための検索範囲を設定する検索範囲設定手段」に相当する技術的事項が含まれているといえる。
また、記載事項(c)(d)によれば、サイドレジスタ7は、差分絶対値和アレイ(「ベクトル評価値算出手段」)でのデータ処理の際に、1画素ずつの新たなデータを選択器59から入力すると共に、1画素ずつの処理済データを排出するようになっているから(【0014】【0028】)、引用発明1では、差分絶対値和(本願発明の「ベクトル評価値」)算出のたびに、照合マクロブロック(「検査枠」)を次の新たな位置に移動させ、これに対する差分絶対値和(「ベクトル評価値」)を算出させる手段を含むものといえ、「前記ベクトル評価値算出手段が1つの検査枠と対応付けてベクトル評価値の算出動作を終了させるたびに、検索範囲設定手段によって設定された検索範囲内で検査枠を次の新たな位置に移動させてこれに対するベクトル評価値を算出させる手段であ」る検査枠移動手段に相当する技術的事項が含まれているといえる。
また、引用発明1は、記載事項(e)によれば、探索領域の全範囲について探索を行っても閾値Rに達しない場合には、差分絶対値和(「ベクトル評価値」)が最小あるいは最小と見做されるようになったときの照合マクロブロック(「検査枠」)をもって予測マクロブロックとする手段を含むものであり(【0034】)、更に、記載事項(f)によれば、探索領域のブロックマッチングから予測マクロブロックが選定されると、これに対応する参照マクロブロック(本願発明の「マクロブロック」)位置に対する2次元移動量である動きベクトルの検出をする手段が含まれている(【0043】)から、引用発明1は、「前記検査枠移動手段による検索範囲内での検査枠の移動がすべて終了した時点で最小のベクトル評価値を有する検査枠と前記処理中フレーム内のベクトル評価値算出手段で算出しようとするマクロブロックとを結ぶベクトルとしての動きベクトルを求める動きベクトル検出手段」に相当する技術的事項が含まれているといえる。
また、記載事項(c)(d)によれば、現画像フレームメモリ3から制御部2のアドレス指定により16×16画素分の参照マクロブロック(「マクロブロック」)が出力され、これによりブロックマッチングを行う(【0012】【0018】【0029】)から、引用発明1にはマクロブロック指定手段というべき技術的事項が含まれているといえる。
更に、記載事項(c)によれば、差分絶対値和アレイ(「ベクトル評価値算出手段」)の出力WDは、比較回路9に供給されるようになっており、適宜に設定される所定の閾値R等と比較され、上記出力WDが閾値Rより大きいときには、比較回路9は出力信号0を出力する一方、上記出力WDが閾値R以下のときには、比較回路9は出力信号1を出力するのであって、出力信号1が得られたときの照合マクロブロック(「検査枠」)から動きベクトルのベクトル量を知ることができる(【0017】)のであるから、閾値Rは動きベクトル検出を確定させるための値として機能しており、本願発明の「検出確定しきい値」に対応する。そして、記載事項(c)(g)によれば、引用発明1では、所定の閾値R(本願発明の「検出確定しきい値」)は既知のものを用いることが明らかであり(【0019】【0052】【0053】)、特に、直前のマクロブロックとの間で第1の強制終了工程、第2の強制終了工程の及び第3の強制終了工程のうちのいずれか一つの工程が実行された際に得られる差分絶対値和(「ベクトル評価値」)又はその許容範囲とすることも可能である(【0053】)のだから、引用発明1においては、閾値R(「検出確定しきい値」)を設定する際に既知の差分絶対値和(「ベクトル評価値」)を用いるものであり、「マクロブロック指定手段が1つのマクロブロックを指定したときすでにベクトル評価値が求められたものがあるときそれらの値を基にして動きベクトル検出を確定させるための値としての検出確定しきい値を設定する検出確定しきい値設定手段」に相当する技術的事項が含まれているといえる。
また、記載事項(d)によれば、ブロックマッチングの工程における差分絶対値和(「ベクトル評価値」)の演算では、選定された照合マクロブロック(「検査枠」)毎に差分絶対値和(「ベクトル評価値」)が出力されるが、順次演算された差分絶対値和(「ベクトル評価値」)のうちいずれかが最初に所定の閾値R(「検出確定しきい値」)になると、その時点で比較回路9から出力信号1の出力が得られて当該検索範囲における演算は終了し、この照合マクロブロック(「検査枠」)は、動きベクトル検出の対象となる予測マクロブロックとなる(【0030】)のであるから、引用発明1には、「検査枠移動手段によって検査枠が検索範囲内を移動するたびに得られるベクトル評価値を前記検出確定しきい値設定手段によって設定された検出確定しきい値と比較し、ベクトル評価値が検出確定しきい値以下である検査枠が出現したとき、その検査枠との関係で定まる動きベクトルをそのマクロブロックについて最終的に得られた動きベクトルと判断し、そのマクロブロックについての検査枠の移動を終了させる動きベクトル検出判断手段」に相当する技術的事項が含まれているといえる。
以上より、本願発明と引用発明1では、
「動画像を表わした時間的に近接した2つのフレームのうち、時間的に過去のフレームの方を参照フレーム、他方を画像処理中フレームとし、画像処理中フレームを複数に分割したそれぞれの領域としてのマクロブロックのうちの任意の1つのマクロブロックを構成する各画素に対して、参照フレーム内の前記マクロブロックと同一サイズの検査枠を構成する各画素を1対1で対応付け、これらの画素の信号レベルの違いを累積した結果からベクトル評価値を算出するベクトル評価値算出手段と、前記処理中フレーム内のベクトル評価値算出手段で算出しようとするマクロブロックの位置に対応させて前記参照フレーム内でそのマクロブロックと同一の画像部分の存在する位置を前記検査枠を使用して検索するための検索範囲を設定する検索範囲設定手段と、前記ベクトル評価値算出手段が1つの検査枠と対応付けてベクトル評価値の算出動作を終了させるたびに、検索範囲設定手段によって設定された検索範囲内で検査枠を次の新たな位置に移動させてこれに対するベクトル評価値を算出させる手段である検査枠移動手段と、を備え、前記検査枠移動手段による検索範囲内での検査枠の移動がすべて終了した時点で最小のベクトル評価値を有する検査枠と前記処理中フレーム内のベクトル評価値算出手段で算出しようとするマクロブロックとを結ぶベクトルとしての動きベクトルを求める動きベクトル検出手段と、マクロブロック指定手段が1つのマクロブロックを指定したとき同一処理中フレーム内のマクロブロックのうちすでにベクトル評価値が求められたものがあるときそれらの値を基にして動きベクトル検出を確定させるための値としての検出確定しきい値を設定する検出確定しきい値設定手段と、前記検査枠移動手段によって検査枠が検索範囲内を移動するたびに得られるベクトル評価値を前記検出確定しきい値設定手段によって設定された検出確定しきい値と比較し、ベクトル評価値が検出確定しきい値以下である検査枠が出現したとき、その検査枠との関係で定まる動きベクトルをそのマクロブロックについて最終的に得られた動きベクトルと判断し、そのマクロブロックについての検査枠の移動を終了させる動きベクトル検出判断手段と、を具備することを特徴とする動きベクトル検出装置。」である点で一致し、以下の各点で相違している。
(相違点1)
本願発明の「検査枠移動手段」が「検索範囲内を粗く検査枠を移動させる第1の検査枠移動手段と、細かく検査枠を移動させる第2の検査枠移動手段の2つの手段」を備えるものであって、更に本願発明が、「前記第1の検査枠移動手段によって設定されたそれぞれの検査枠を基にして粗い動きベクトル検索処理から仮の動きベクトルを算出する第1の動きベクトル検出手段と、第2の検査枠移動手段によって設定されたそれぞれの検査枠を基にして細かい動きベクトル検索処理から動きベクトルを算出する第2の動きベクトル検出手段」を備え、且つ「前記第1の動きベクトル検出手段によって仮の動きベクトルが算出されたときこれを基にして第2の動きベクトル検出手段の対象となる検索範囲をより小さな範囲に限定する検索範囲限定手段」を備えるのに対して、引用発明1においてはこのような事項がない点。
(相違点2)
本願発明の「マクロブロック指定手段」が、「この動きベクトル検出手段の検出によって前記処理中フレーム内で1つのマクロブロックに対する動きベクトルが検出されるたびに前記処理中フレーム内で動きベクトルの検出されていないマクロブロックがある限り、そのうちの1つずつを動きベクトルの検出のために指定する」のに対し、引用発明1のマクロブロック指定手段がこのような機能を有するか明示されていない点。
(相違点3)
本願発明の「検出確定しきい値設定手段」が、検出確定しきい値を設定するにあたり、指定されたマクロブロックと「同一処理中フレーム内」にあるものであって「近傍の特定の位置関係にある所定数の」マクロブロックのうちすでにベクトル評価値が求められたものがあるとき、それらの値を基にして検出確定しきい値を設定するのに対して、引用発明1では、直前のマクロブロックですでに得られたベクトル評価値に基づいて検出確定しきい値を設定しており、この直前のマクロブロックが指定されたマクロブロックと「同一処理中フレーム内」にあるのかも指定されたマクロブロックの「近傍の特定の位置関係にある所定数の」マクロブロックを指すのかも明示されていない点。

5.検討
そこで、以下上記各相違点について検討する。
(一)相違点1について
記載事項(h)(i)より、引用刊行物2には、ブロックマッチングにより動きベクトルを求める発明であって、入力ブロックと同じ座標にある前画面のブロックを中心に距離が±4画素にある9個のブロックと画素毎に輝度値の差分とその絶対値を累算し、演算結果が最小となったブロックを中心に±2画素にある9個のブロックと同様の演算を行い、更に演算結果が最小となったブロックを中心として±1画素にある9個のブロックと演算を行い、最小となったブロックの座標を探索結果のベクトルとするものが記載されている。
すなわち、引用刊行物2記載の発明は、±4、±2画素という粗いピッチで検査枠を移動させ、仮の動きベクトルを算出し、これを基にして更に狭い範囲で±1画素という細かいピッチで検査枠を移動させ、動きベクトルを検出する手段を有していることは明らかである。
よって、引用刊行物2には、「検索範囲内を粗く検査枠を移動させる第1の検査枠移動手段と、細かく検査枠を移動させる第2の検査枠移動手段の2つの手段」、「前記第1の検査枠移動手段によって設定されたそれぞれの検査枠を基にして粗い動きベクトル検索処理から仮の動きベクトルを算出する第1の動きベクトル検出手段と、第2の検査枠移動手段によって設定されたそれぞれの検査枠を基にして細かい動きベクトル検索処理から動きベクトルを算出する第2の動きベクトル検出手段」、且つ「前記第1の動きベクトル検出手段によって仮の動きベクトルが算出されたときこれを基にして第2の動きベクトル検出手段の対象となる検索範囲をより小さな範囲に限定する検索範囲限定手段」に相当する技術的事項が開示されており、ブロックマッチングによる動きベクトル検出という目的を達成するため、これらの事項を引用発明1に付加して上記相違点1に係る本願発明の如く構成することは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。
(二)相違点2について
一般に、動画圧縮の技術分野において、動きベクトルを処理中フレーム全体に渡って求めることは、特開平10-13835号公報に開示されるように、従来周知の事項に過ぎない。よって、引用発明1においては、この点が明示されていないが、上記のような周知の事項を採用し、「マクロブロック指定手段」が、「この動きベクトル検出手段の検出によって前記処理中フレーム内で1つのマクロブロックに対する動きベクトルが検出されるたびに前記処理中フレーム内で動きベクトルの検出されていないマクロブロックがある限り、そのうちの1つずつを動きベクトルの検出のために指定する」よう構成することは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。
(三)相違点3について
一般に、画像の性質として画像の一部の領域とその周辺の領域とは互いに相関が高いことが知られており、このような性質を画像の圧縮技術に利用することは常套手段である。
そして、動画圧縮の技術分野においては、動きベクトルを算出する際に、注目マクロブロックと同一処理中フレーム内にあって注目マクロブロックの近傍にある所定数の既知の動きベクトルに基づいて動きベクトルを求めること、または動きベクトル算出にあたりこれらの既知の動きベクトルを参照することは、特開平10-13835号公報、特開平9-179987号公報、特開平4-345288号公報等に開示されるように、従来周知の技術的事項に過ぎない。同一処理中フレームは1つの画像を形成するから、当該周知の技術的事項も上記の画像の性質を利用したものであることは、当業者には明らかである。
一方、上記周知の技術的事項それ自体は、上記相違点3に係る本願発明のように検出確定しきい値を設定するにあたり注目マクロブロックの近傍のマクロブロックで求められた検出確定しきい値を参照することとは異なるが、上記画像の性質より同一処理中フレームのマクロブロックに係るブロックマッチングにおける評価値も、画像の特定の領域とその近傍の領域とでは相関が高いことは、当業者であれば当然に予測ないし着想できたものといえる。
また、上記画像の性質を画像圧縮に利用することはそもそも常套手段といえること、上記周知の技術的事項も究極的には動きベクトルを算出するための技術といえ、その限りでは上記相違点3に係る本願発明の特定事項と共通性を有すること、から、上記予測ないし着想をもとにして、同一処理中フレームのマクロブロックに係る評価値に基づいて設定される検出確定しきい値を、近傍の特定の位置関係にある所定数のマクロブロックの検出確定しきい値に基づいて設定し、これを動きベクトルの算出に利用することは、当業者が容易に想到し得たものといえる。
すなわち、引用発明1においては、すでに検出確定しきい値が求められた直前のマクロブロックが、指定されたマクロブロックの近傍の特定の位置関係にあるものか明示されていなくても、引用発明1においても検出確定しきい値を設定するにあたり、指定されたマクロブロックと「同一処理中フレーム内」にある指定されたマクロブロックと「近傍の特定の位置関係にある所定数の」マクロブロックの検出確定しきい値に基づいて指定マクロブロックの検出確定しきい値を設定し、これによって動きベクトルを算出するよう構成することは、上記当業者にとって当然の予測ないし着想及び上記周知の技術的事項を参照して、当業者が容易に想到し得たことと認められる。

そして、上記各相違点を総合しても本願発明が当業者の予測を超えた格別の効果を奏するものとは認められない。

6.結論
よって、本願発明は、引用刊行物1、2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-18 
結審通知日 2005-08-23 
審決日 2005-09-05 
出願番号 特願平11-320487
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國分 直樹  
特許庁審判長 藤内 光武
特許庁審判官 堀井 啓明
清水 正一
発明の名称 動きベクトル検出装置  
代理人 机 昌彦  
代理人 工藤 雅司  
代理人 谷澤 靖久  

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