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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B61B
管理番号 1125207
審判番号 無効2003-35185  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-04-16 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-05-12 
確定日 2005-10-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第2132675号発明「可動体搬送設備」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯と本件特許発明
本件特許第2132675号(請求項の数3、以下「本件特許」という)は、昭和63年10月7日の出願に係り、出願公告(特公平7-53503号公報)の後、特許異議申立てに係る拒絶査定後の平成9年5月23日付手続補正を経て、平成9年10月9日に設定登録されたもので、その発明は、上記手続補正に係る明細書の特許請求の範囲に記載された、次の各請求項に記載されたとおりものと認める。
「【請求項1】複数の可動体が実質的に密着状態で直列状に並んで移動可能な一定経路を設け、前記可動体に、その前後方向の全長に亘って外側向きの受圧面を左右一対に設け、前記一定経路の上手側に、前記受圧面に当接離間自在な左右一対の押圧ローラと、これら押圧ローラを当接離間動させる揺動駆動装置とを有し、かつ両押圧ローラを両受圧面に当接作用させることで可動体に移動力を付与する可動体搬送装置を設け、前記一定経路の下手側に、前記受圧面に当接離間自在な左右一対のブレーキローラを有しかつ両ブレーキローラを両受圧面に当接作用させることで可動体に制動力を付与する制動装置を設け、前記可動体搬送装置の上手側に、この可動体搬送装置に可動体を投入させる投入手段を設けるとともに、前記制動装置の下手側に、可動体を早送りで搬出させる搬出手段を設けたことを特徴とする可動体搬送設備。
【請求項2】可動体を、床側レールに支持案内されて移動自在な台車により構成した請求項1記載の可動体搬送設備。
【請求項3】可動体を、天井側レールに支持案内されて移動自在なトロリ装置により構成した請求項1記載の可動体搬送設備。」
(なお、上記の請求項1に関して、訂正公報(甲第2号証の2参照)では、「前後方向に全長に亘って」と記載されているが、平成9年5月23日付の手続補正書によれば、上記の認定記載のとおりである。)

第2.当事者が提出した証拠とその記載事項の概要
1.請求人が提出した証拠方法等は、次のとおりである。なお、被請求人からの証拠等の提出はない。
甲第1号証 特許第2132675号(本件特許)登録原簿謄本
甲第2号証の1 特公平7-53503号公報(本件特許公告公報)
甲第2号証の2 平成9年5月23日付手続補正書の掲載された平成10年10月27日付公報(上記公告公報の訂正公報)
甲第3号証 米国特許第1,771,404号明細書
甲第4号証 特公昭39-11104号公報
甲第5号証 特公昭43-13437号公報
甲第6号証 米国特許第2,488,907号明細書
参考資料
参考資料1 実願昭47-10611号(実開昭48-86575号)のマイクロフィルム
参考資料2 特開昭60-178110号公報
参考資料3 特開昭63-74804号公報
参考資料4 米国特許第4,635,559号明細書
参考資料5 米国特許第4,671,186号明細書
参考資料6 米国特許第4,369,872号明細書
参考資料7 仏国特許出願公開第2263176号明細書
参考資料8 特開昭57-131628号公報
参考資料9 西独国特許第1287598号明細書
参考資料10 fordern und heben,Volume 15,ORGAN DER VDI/AWF FACHGRUPPE FORDERWESEN,1965年5月発行(目次頁、371〜376頁)
参考資料11 米国特許第3,752,334号明細書
参考資料12 米国特許第3,610,391号明細書
参考資料13 特開昭62-201720号公報
参考資料14 特開昭61-166768号公報
参考資料15 米国特許第4,475,642号明細書
参考資料16 仏国特許出願公開第1235381号明細書
参考資料17 実公昭55-38909号公報
参考資料18 特公昭50-25886号公報
参考資料19 特公昭53-3860号公報
参考資料20 特開昭56-99112号公報
参考資料21 実願昭53-81123号(実開昭54-181488
号)のマイクロフィルム
参考資料22 特開昭46-7442号公報
参考資料23 特開昭48-4093号公報
参考資料24 特開昭50-5772号公報
参考資料25 無効2000-35164号審決謄本
参考資料26 平成12年(行ケ)第493号審決取消請求事件判決書
参考資料27 参考資料1〜24の概要まとめ
2.甲各号証の記載事項(なお、甲第3号証及び甲第6号証については、当該各号証に添付された、請求人提出の訳文による。)
(1)甲第3号証には、硝子研磨装置に関する次の記載がある。
「この発明は、研磨すべき硝子板が一連の研磨装置の下に送られるようにした硝子研磨装置に関するものである。硝子板を運搬する車両あるいは台車の行列を圧縮状態とする手段の改良を主目的とするもので、緩みを来たすこともある、分離が可能な連結装置を各車両に設けることなしに、車両の前後端同士が圧縮力により接触した状態を維持するように保証するものである。従来、このようなことは、行列の前端に摩擦ブレーキからなる制動装置を設けることで達成されていた。この従来装置は良い効果を有していたが、パワーを多く消費するし、ブレーキ力すなわち遅くさせる力を一定とするのに、多くの調整と注意を要するものであった。本発明の構成によると、パワーロスが無視できるほどに減り、長期に亘り調整や注意を必要としない。」(第1頁左欄第1〜23行)
「構成の全体において、台車あるいは車両からなる行列は、行列の後部に設けられ、台車の下面に設けたラックと係合する駆動ピニオンにより連続的に推進させられる。行列の前部にはラックと係合して制動装置として機能する第2ピニオンが設けられていて、これらピニオン間に位置する台車は圧縮された状態となる。両ピニオンの連結は、錘付加手段あるいはばねを含み、ピニオンが反対方向に回転するような傾向の力を発生するようになされている。ピニオン間に位置する車両あるいは台車がこの力に抵抗する結果、行列は圧縮状態になり、台車の端部同士がきつく係合する状態を保つ。両ピニオンを反対方向に回転させようとするこの力は、ピニオンに等しく作用するので、制動して車両を圧縮状態下に置くためにブレーキ等の類似物を行列の前端で使用する場合に伴うようなエネルギーロス(摩擦によるロスを除いて)がない。
図において、1,2,3,4,5等は、軌道6上の車両あるいは台車の行列であり、研磨される硝子板7を載置している。」(第1頁左欄第37行〜右欄第65行。なお、上記記載中の「制動装置」は、<holdback>の訳語である)
(2)甲第4号証には、鉱車の操車装置に関して次の記載がある。
「本発明は、鉱車の減速、停止、発進、走行等のすべての操作を行い得る装置を提供するもので、これにより、操作設備を単純化し、その設備費の低減と共に、運転保守の簡易化をはかったものである。しかしてこの目的を達成するために、操車レールの両側に、鉱車の函体あるいい車台枠の側面に接する摩擦輪を支持する揺動腕を設け、接手あるいい変速機構を介して前記摩擦輪を回転原動機あるいい制動機に連結し、前記揺動腕により摩擦輪を鉱車の函体または車台枠側面に圧接せしめ両者の摩擦結合により、回転原動機の駆動力あるいは制動機の制動力を鉱車に伝達して、鉱車の発進、走行あるいは停止を行わしめる。・・・また制動機としては普通構造のものを用いるか、あるいは一定速度以上においてのみ制動がかかるように粘性流体あるいは遠心力を利用したものを用いることができる。さらに両者を一体にした制動装置付電動機を用いることも可能である。」(第1頁左欄下から4行〜同右欄第16行)
「線路の必要な長さにわたり、一台の鉱車の長さあるいはその整数倍と若干異る間隔で本装置を複数個配置すればよい。こうすれば、ある数以上の摩擦輪が常に一連の鉱車のうちいずれかと接触しているから、各電動機によってその摩擦輪を一斉に駆動し、また制動をかけて、一連の鉱車を操作することができる。」(第2頁左欄20行〜26行)
「操車レールの両側に、鉱車の函体あるいは車台枠の側面に接する摩擦輪を支持する揺動腕を設け、接手あるいは変速機構を介して前記摩擦輪を回転原動機あるいは制動機に連結し、前記揺動腕により摩擦輪を鉱車の函体または車台枠側面に圧接せしめ、両者の摩擦接合により、回転原動機の駆動力あるいは制動機の制動力を鉱車に伝達して鉱車の発進、走行あるいは停止を行わしめるようにしたことを特徴とする鉱車の操車装置。」(第2頁右欄第30〜38行)
(3)甲第5号証には、硝子板研摩装置に関して、次の記載がある。
「一側(イ)を研摩側、他側(ロ)を戻し側としたチャンネル状案内軌条1をそれぞれ一直線に設け、それらの両端は同形の円弧状案内軌条2,2’で連結し全体を無端状に設け、上記一直線状の案内軌条1,1の両側には被研摩硝子板支持台(以下単に硝子板台と略称す)3の支持軌条4,4を並設し、研摩側のチャンネル状案内軌条1の入口(ハ)即ち硝子板台送込側(ハ)と出口(ニ)即ち硝子板台送出側(ニ)にはその両側もしくは片側にそれぞれ、硝子板台3の移送用駆動歯車5,5、6,6を設けこの駆動歯車は、出口(ニ)側の歯車6,6は入口(ハ)側の歯車5,5より遅れ気味に即ち歯車5,5による直線送り速度より歯車6,6による直線送り速度が僅か小さくなるような、さらに換言すれば歯車5,5と歯車6,6とが同形なれば歯車6,6の方の回転数を歯車5,5のそれより僅か小さくなるような特殊の関係に置かれている。・・・上記円弧状案内軌条2,2’の両側には、上記した支持軌条4,4’の代わりに放射状ローラー7,7を設け適宜独立モーター8,8で駆動する。」(第1頁左欄下から13行〜同右欄第16行)
「なお15はローラー7,7により円弧状案内軌条2上を移送して来た硝子板台3の上記ラック13,13と、上記硝子板台接続用駆動歯車5’,5’とを円滑静粛に噛合させるための噛合調整装置を示し、硝子板台3の一部に接する突起16がラック17上に回動自在に設けられ、それが回動して硝子板台3との係合を解かれる時期はこの突起16の腕21が、別のカム溝22の規制を受けて行われる。今突起16が硝子板台3と共に移動するとピニオン18(第3図参照)を回転しこのピニオン18と上記硝子板台接続用駆動歯車5’,5’をしかる可き同期回転装置19を介して関連させ、別に上記ラック13,13とラック17とは突起16が硝子板台に接した時一定関係を取るように設けられていて、ピニオン18と接続用駆動歯車5’,5’とが同期回転すれば円滑に硝子板台裏面のラック13,13と接続用駆動歯車5’,5’とは噛合にはいるように構成されている。」(第1頁右欄下から8行〜第2頁左欄第10行)
「かくして硝子板台3は送り込まれ次いで前記接続用駆動歯車5’と同期回転する硝子板台移送用駆動歯車5,5で駆動される。次に次の硝子板台が同様に送り込まれて接続用駆動歯車5’,5’と噛合すると、この接続用駆動歯車5’,5’は速度検出輪5”で先の硝子板台の移行速度を検出してその速度より早めに回転するように、硝子板台移送速度検出、硝子板台接続用駆動歯車速度制御装置23でその回転を制御されているので先行する硝子板台に追いつく、そして追いつく寸前同じく同装置23で制御され、後続の硝子板台の速度は減速され先行する硝子板台に静かに接触し突起10,10と凹窩11,11とで係合し、横方向のづれを生じることなく一直線状に移送される。ところで研摩側のチャンネル状案内軌条1の出口(ニ)付近に設けられた駆動歯車6,6は入口(ハ)付近に設けられた前述の駆動歯車5,5より前に説明した通りのいわゆる遅れ気味に回転しているため支持軌条4,4上に一直線状に連なった硝子板台3は、入口側と出口側との双方より押圧された形で移送される。出口に達すると硝子板台は送り出し駆動歯車6’によりやや早めに移行され個々に離れて回動するので円滑に円弧状案内軌条2’により案内され方向を変えて戻り側に送られ、適宜最初の位置に送られる。」(第2頁左欄下から3行目〜同右欄第22行)
(4)甲第6号証には、ボード又はプレート上のなめし皮等の伸張及び乾燥等を行う装置に関して次の記載がある。
「図1及び図2において、装置の右側の地点(25)をサイクルの始点とし、頭上コンベア軌道(31)のトロリー(29)から支持されているプレート(27)が人手により送り装置すなわちステーション(33)へ進められる。ここではプレートはその下端でモータ駆動のロールに支持されている。駆動により前進する各プレートは、順次すぐ前方に位置するプレートと当接し、そのプレート及び他の全プレートを押し進める。各ボード(プレート)は、水洗ユニット(39)・・・長い皮貼り付けすなわち伸張ユニット(45)を通過させられる。伸張ユニット(45)は、・・・一対の皮を各片面で保持する5つのプレートを収容するに足る充分な長さを有する。」(第2欄第48行〜第3欄第10行)
「ペースト処理がなされた皮を保持するプレートが伸張ユニット(45)から搬出されると、それらのプレートは、コンベアの短い連結部(59)に沿い分岐装置(61)を経て乾燥装置(63)に人手で押し送られる。乾燥装置内では、プレートは互いに平行で接近した2本のコンベア軌道(65)(67)によって支持される。・・・プレートは、乾燥装置の出口(69)に設けられた適切な駆動装置を作業者が制御することにより、間欠的に前進させられる。間欠移動後、作業者は、乾燥装置を出た所でプレートを回収し、・・・このあとプレートは、人手でコンベアの短い連結部(71)を介して始点(25)に戻され、プレートの操作及び移動のサイクルが完了する。」(第3欄第33〜50行)
「全体としての装置ないしシステムの異なる部分ないし要素を形成する幾つかのユニットについて詳細に説明すると、まず駆動装置(35)は、プレートを水洗・・・伸張の各ステーションを通過前進させる。この駆動装置は、図3及び図4に拡大して詳細に示すように、支持板(82)(83)によって支持されたベアリング(81)に支えられた軸(78)(79)(80)にそれぞれ設けられた3個のV溝付き送りロール(73)(75)(77)よりなる。送りロール(73)は、軸(78)に緩く嵌められているが、軸に固定された・・・一方向クラッチにより駆動されるようになされている。ロール(75)(77)は、それぞれの軸(79)(80)に固定されている。これらの送りロールは、プレートの底面を支持し、プレートの全重量をロールにのせるように少し持ち上げ、ロールにのったプレート及びその前方に連なるプレート群の適切な前進を確実にするために充分な摩擦力を与え、水洗、・・・伸張の各ステーションないしユニットを通過させる。
送りロール(73)は、通常よく知られた構造の可変速駆動プーリ(85)及び手動調整ホイール(86)を備えているモータ(84)によって駆動される。ベルト(87)が減速器(88)に、スプロケット・チェーン(89)が送りロール(73)の軸(78)に動力を伝達する。送りロール(75)は・・・軸(78)からスプロケット・チェーン機構(91)により順ぐりに駆動され・・・送りロール(77)は・・・軸(79)から補助チェーン・スプロケット機構(93)により駆動される。軸(78)から送りロール(73)へのラチェット駆動の目的は、送り装置の送りロール(73)とのみと接しているボードを人手で押し、送り装置と係合中の先行ボードに追いつかせることにある。その結果、送り装置に係合している前後のボード間に隙間があると、送り装置に係合しているボードが先行するボード群の後端のボードに当接するまでの間、先行のボード群が一時停止してしまうので、その隙間を無くして、一時停止を防ぐことができる。送り装置を離れつつあるプレートへの確実な駆動を確保するために、ロール(75)(77)に枢着せられているフレーム(94)によって保持されている。これにより図3に示すように、プレートの列を駆動させるように常に少なくとも2つのロールが作用し、ときには3つのロールがすべて作用するので、連続的で一様な前進が確保される。」(第3欄第61行〜第4欄第42行)
「先行プレートが後続プレートによって前進せられるように、前後のプレート同士の適当な当接を可能とするため、各プレートの前後の垂直縁部には、ゴム製当接部材(107)が設けられている。図4及びこれを拡大した図12参照。これらの当接部材は、プレートの縁及び形材(103)に締め付け金具ないしボルト(109)で止められている。これらの当接部材の接触面は、隣接するプレート同士が当接するのを保証する幅を有するとともに、ゴム製とすることにより作業中の騒音を少なくする。
図6及び図7に送り装置の他の実施例が示されている。ここでは、共働する対の中空環状チューブ又はタイヤ(110)(111)が、支持ポスト(119)内のスラストボールベアリング(117)に支持された対の垂直軸(114)(115)に設けられたハブ(112)(113)(図6)に取り付けられている。垂直軸の一対(114)は、可変速駆動プーリ(122)、ベルト(123)、カウンターシャフト(125)及び下端にベベルギヤ(129)を、上端にスパー減速ギヤ(131)を備えた垂直シャフト(127)を介して、モータ(121)により駆動される。タイヤ(111)のハブは軸(114)に緩く嵌めされているが、他方、タイヤ(111)は軸(115)に固定されている。
軸(114)はラチェットホイール(134)を有しかつタイヤ(110)のハブは、図3、図4及び図5に示した構成と同様に手押しでボードをタイヤに通過させるよう爪(135)を有している。軸の第2の対(115)は、第1の対(114)からスプロケット・チェーン機構によって駆動される。
タイヤはプレートの対向両側面に対して駆動に必要な押圧力を与え得るように十分に膨らませてあるが、プレートの前後端の繋ぎ部(103)が通過するとき、へこまされてその通過を許す。」(第5欄第7〜45行)

第3.各当事者の主張の概要
1.請求人の主張
請求人は、本件請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、当該無効とするべき理由について、本件各請求項に係る発明は、いずれも、その出願前公知の甲第3号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので、本件各請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して受けたものであるとして、下記(1)〜(3)のような主張をしている。
(1)本件請求項1の発明(以下、「本件発明1」という)と、甲第3号証の記載を対比すると、両者は基本的な構成では一致しており、次の各点で相違する。
相違点A 本件発明1では、前記可動体に、その前後方向に全長に亘って外側向きの受圧面を左右一対に設け、前記一定経路の上手側に、前記受圧面に当接離間自在な左右一対の押圧ローラと、これら押圧ローラを当接離間動させる揺動駆動装置とを有し、かつ両押圧ローラを両受圧面に当接作用させることで可動体に移動力を付与する可動体搬送装置を設けている。
これに対して、甲第3号証記載のものは、可動体<車両又は台車1,2,3・・・>の前後方向に全長に亘って下側向きの<ラック9>を設け、前記押圧ローラが当接離間自在ではない<駆動ピニオン11>に代えられ、揺動駆動装置がない。
相違点B 本件発明1は、前記一定経路の下手側に、前記受圧面に当接離間自在な左右一対のブレーキローラを有し、かつ、両ブレーキローラを両受圧面に当接作用させることで可動体に制動力を付与する制動装置を設けているのに対して、甲第3号証記載のものでは、<摩擦ブレーキ(従来技術の記載)>を制動装置としている。
相違点C 本件発明1では、前記可動体搬送装置の上手側に、この可動体搬送装置に可動体を投入させる投入手段を設けるとともに、前記制動装置の下手側に、可動体を早送りで搬出させる搬出手段を設けているのに対して、甲第3号証記載のものは、投入手段及び搬出手段がない。
(2)しかし、上記Aの相違点は、甲第6号証及び甲第4、5号証、更に参考資料1ないし18等の文献に開示されている技術事項から、当業者が容易に想到できたものである。また、上記Bの相違点も、甲第4号証や、参考資料16ないし22及び24に記載された周知技術等から容易に想到できたものであるし、Cの相違点についても、甲第5、6号証や、参考資料12、18ないし20、及び23の記載事項等に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。
そして、本件発明の上記相違点A、Bに関する作用効果である、「可動体搬送装置や制動装置に摩擦形式のローラを採用した場合、これらローラが摩耗しても、可動体側に押し付け付勢されているので、本来の機能である、可動体を駆動または制動するという機能は失われず、システムは常に円滑に作動し、騒音は発生しない」(甲第2号証の2参照)という点も、甲第4号証並びに参考資料3、参考資料5及び参考資料8に開示があり、格別のものでない。
(3)本件請求項2および3の発明について、
本件請求項2の発明(以下、「本件発明2」という)で規定される構成は甲第3号証に開示されているし、同請求項3の発明(以下、「本件発明3」という)で規定される構成は、甲第6号証のほか、参考資料5、14に開示があり、これらの各本件発明も、本件発明1と同様に、甲第3〜6号証記載の発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

2.被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たないとして、次のような主張をしている。
本件発明と甲第3号証記載のものとを対比すると、揺動駆動装置が相違するばかりでなく、甲第3号証には、本件発明でいう「可動体に制動力を付与する制動装置」に相当するものがなく、また、甲第4号証以下及び各参考資料に記載された事項を勘案しても、本件各発明は、甲第3〜6号証に記載された発明から当業者が容易に想到することができたものではなく、本件特許を無効にするべきという請求人の主張は、妥当性に欠け、認められるべきものではない。

第4.当審の判断
1.[発明の対比]
(1)本件発明1の構成事項と甲第3号証の記載事項とを対比する。
甲第3号証の「図において、1,2,3,4,5等は、軌道6上の車両あるいは台車の行列」という記載に加えて、同号証図1に示されたところを参酌すると、上記の「車両あるいは台車」は、本件発明1でいう「可動体」に相当し、同じく「軌道」は、本件発明1でいう「複数の可動体が実質的に密着状態で直列状に並んで移動可能な一定経路」に相当するものといえる。
そして、同号証で「台車あるいは車両からなる行列は、行列の後部に設けられ、台車の下面に設けたラックと係合する駆動ピニオンにより連続的に推進させられる。」とされているところから、上記の「行列の後部」に設けられた「ラック」及び「駆動ピニオン」は、<一定経路の上手側>に設けられた<可動体に移動力を付与する可動体搬送装置>とみることができる。
更に、同号証でいう「行列の前端」に設けた「摩擦ブレーキからなる制動装置」、あるいは、「行列の前部」に設けた「ラックと係合して制動装置として機能する第2ピニオン」は、<一定経路の下手側>に設けた、<可動体に制動力を付与する制動装置>とみることができる。また、上記の「車両あるいは台車」、「軌道」、<搬送装置>及び<制動装置>によって、<可動体搬送設備>が構成されているといえる。
(2)一致点と相違点
[一致点]以上の対比から、甲第3号証には「複数の可動体が実質的に密着状態で直列状に並んで移動可能な一定経路を設け、前記一定経路の上手側に、可動体に移動力を付与する可動体搬送装置を設け、前記一定経路の下手側に、可動体に制動力を付与する制動装置を設けた可動体搬送設備」に係る発明が記載されていると認められ、これを本件発明1との一致点とすることができる。
[相違点]また、本件発明1と甲第3号証記載の発明とは、次の各点で相違する。
(相違点1)可動体搬送装置に関して、次の相違がある。
本件発明1では「前記可動体に、その前後方向の全長に亘って外側向きの受圧面を左右一対に設け、」「前記受圧面に当接離間自在な左右一対の押圧ローラと、これら押圧ローラを当接離間動させる揺動駆動装置とを有し、かつ両押圧ローラを両受圧面に当接作用させることで可動体に移動力を付与する」ものとされる。
これに対し、甲第3号証記載の発明では、「台車の下面に設けたラックと係合する駆動ピニオン」により、可動体に移動力を付与するとしている。
(相違点2)制動装置に関して、次の相違がある。
本件発明1では、「(前記可動体の前後方向の全長に亘って設けた左右一対の)受圧面に当接離間自在な左右一対のブレーキローラを有しかつ両ブレーキローラを両受圧面に当接作用させる」というのに対し、甲第3号証では「摩擦ブレーキ」、あるいは「制動装置として機能する」ピニオンというにとどまり、左右一対の「受圧面」や、「左右一対のブレーキローラ」についての言及がない。
(相違点3)本件発明1では、「前記可動体搬送装置の上手側に、この可動体搬送装置に可動体を投入させる投入手段を設けるとともに、前記制動装置の下手側に、可動体を早送りで搬出させる搬出手段を設け」るのに対し、甲第3号証には、可動体の投入手段や搬出手段についての言及がない点。

2.[相違点の検討と評価]
(1)本件明細書には、本件発明1の奏する作用に関して、「揺動駆動装置により両押圧ローラを離間動させた状態で、一定経路上で可動体、その受圧面を可動体搬送装置に対向して位置させる。そして揺動駆動装置により押圧ローラを接近動させ、・・・可動体に移動力を与えることにより、可動体を一定経路上で移動し得る。その際に可動体は、先行し停止している可動体群を後押しして移動することになる。可動体搬送装置による可動体の後押し移動時において、一定経路の下手側に位置している可動体受圧面に対して制動装置のブレーキローラが当接作用しており、したがって、この可動体に制動力が作用して逸走することを防止し得、さらに可動体搬送装置と制動装置との間に位置した可動体群間に隙間が生じることがなくて、衝突音など発生しない円滑な後押し移動を行える。」(甲第2号証(本件特許公報)第2頁第4欄第4〜18行)と記載されている。
(2)上記のような「両押圧ローラを離間動させた状態で、一定経路上で可動体、その受圧面を可動体搬送装置に対向して位置させ」たり、「先行し停止している可動体群を後押しして移動する」、「後押し移動時において、一定経路の下手側に位置している可動体受圧面に対して制動装置のブレーキローラが当接作用しており、したがって、この可動体に制動力が作用して逸走することを防止」するという本件発明1の作用は、上記2.の相違点1〜3で指摘した、本件発明1の採る3つの構成を全て備えることによって、はじめて実現可能となるものと考えられる。
(3)これに対して、請求人の主張するところは、上記相違点1〜3に係る、本件発明1の備えるそれぞれの構成は、甲第4号証以下に記載されたところに基づいて、当業者が容易に想到できたというにとどまる。
そうすると、請求人の上記各相違点に係る主張が仮に正しいとしても、上述した相違点1〜3に係る3つの構成の全てを合わせ備えることまでが容易とはいえない以上、本件発明1が、甲第3〜6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(4)更にいえば、請求人の主張は、甲第3号証記載の発明に、甲第4号証や甲第6号証の記載事項を適用するのが容易とする趣旨のものであると解される。しかし、甲第3号証記載の発明が「硝子研磨装置」に関するものであるのに対して、甲第4号証は「鉱車の操車装置」、甲第6号証に至っては「なめし皮等の伸張及び乾燥等を行う装置」に関するものであって、いずれも<物品の搬送>という、上位の機能において共通するところがあるとはいっても、それぞれの搬送対象物や搬送の目的が大きく相違しており、本件発明において搬送対象物が明示されているわけではない点を考慮に入れても、なお、上記甲各号証の記載事項を単純に寄せ集め、組み合わせることを、直ちに容易とするのは妥当とはいいがたい。
請求人はまた、上記相違点3に関して、甲第5号証及び甲第6号証には、「投入手段」及び「搬出手段」といえるものの開示があり、これを甲第3号証記載の発明に適用するのは容易とする旨の主張をしているが、甲第3号証記載の「軌道」がどのような態様のものであるか明確にされていない以上、当該主張も直ちに採用できるというものではない。
(5)また、相違点2に関連して、東京高裁判決平成12年行(ケ)493号事件の判決(参考資料26)において、本件発明1の制動装置は、「後押し作用を受けて回転する従動輪であって、後押し作用のないときには台車を停止する制動機能を有するもの」、あるいは「新たな台車による上記後押しが作用しないときには、台車を停止させる機能を有し、新たな台車による上記後押しが作用するときには、従動する機能を有するもの」であると認定されている。
一方、甲第3号証の第1頁第1〜23行では、従来装置として、摩擦ブレーキからなる制動装置(holdback)に言及されているが、この制動装置の機能は、同号証の記載によれば、「ブレーキ力すなわち遅くする力を一定とする」というものであって、本件発明1でいう制動装置との間に機能作用上の基本的な相違があるといえる。
更に、甲第3号証には、上記従来装置に代えるべきものとして、出口側に制動装置として作用する第2ピニオンを設ける旨の記載があるが、この第2ピニオンの作用も、上記の摩擦ブレーキと同様に、本件発明1でいう制動装置の機能を有するものとはいえない。
そうすると、甲第3号証記載の摩擦ブレーキや第2ピニオンが、前示のとおり、台車を停止する独立した機能を有するものではないのであるから、仮に、甲第4号証に本件発明1でいう制動装置に相当するものの開示があるとしても、上記のブレーキやピニオンを甲第4号証記載の摩擦輪等に置き換えることは、当業者の容易に想到し得るところではないというべきである。
(6)以上検討したところによれば、甲第3号証に加えて、甲第4号証以下に記載された発明、更に各参考資料等に記載された周知技術の存在を勘案しても、本件発明1が、それら公知の発明や周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3.[請求項2以下の発明について]
本件請求項2以下の発明は、本件発明1を引用して、これを更に限定する構成事項を備える発明であるから、本件発明1と同様に、上記甲第3号証以下に記載された発明や、周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第5.むすび
以上のとおりであるから、本件各請求項の特許について、請求人が主張する理由及びその提出した証拠によっては、無効とすることはできず、他に無効とすべき理由も発見しない。
また、本件審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項の規定により、民事訴訟法第61条の規定を準用する。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2004-12-02 
結審通知日 2004-12-06 
審決日 2004-12-17 
出願番号 特願昭63-254316
審決分類 P 1 112・ 121- Y (B61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉国 信雄粟津 憲一  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 大野 覚美
田々井 正吾
登録日 1997-10-09 
登録番号 特許第2132675号(P2132675)
発明の名称 可動体搬送設備  
代理人 笹原 敏司  
代理人 森本 義弘  
代理人 森岡 則夫  
代理人 板垣 孝夫  
代理人 板垣 孝夫  
代理人 森本 義弘  
代理人 柳野 隆生  
代理人 笹原 敏司  

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