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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない G02B 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない G02B |
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管理番号 | 1125209 |
審判番号 | 無効2004-35008 |
総通号数 | 72 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1993-06-18 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2004-01-05 |
確定日 | 2005-02-07 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3132868号発明「半導体レーザモジュール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 出願日:平成3年11月29日(特願平3-339526号) 登録日:平成12年11月24日(特許第3132868号) 無効審判請求:平成16年1月6日(無効2004-35008号) 無効審判請求書副本送付:平成16年1月30日(発送日) 答弁書提出:平成16年3月29日 答弁書副本送付:平成16年4月14日(発送日) 口頭審理陳述要領書提出(請求人):平成16年7月1日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人):平成16年7月1日 口頭審理:平成16年7月1日 上申書提出(被請求人):平成16年7月30日 上申書提出(請求人):平成16年8月31日 無効理由通知:平成16年9月13日(発送日) 訂正請求書、意見書提出(被請求人):平成16年9月28日 訂正請求書送付:平成16年10月12日(発送日) 意見書提出(請求人):平成16年11月18日 2.訂正請求について (1)訂正請求の内容 当該訂正の内容は、本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、その内容は次のとおりである。 (訂正事項a) 特許請求の範囲の請求項1の「所定の厚さの厚肉部(6a,6b)」を、「前記光軸の方向に平行に延びる所定の厚さの厚肉部(6a,6b)」と訂正する。 (訂正事項b) 特許請求の範囲の請求項1の「基板(6)」を、「銅タングステン製の基板(6)」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否について 訂正事項aは、所定の厚さの厚肉部(6a,6b)に関して、「前記光軸の方向に平行に延びる」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。訂正事項aは、特許明細書の段落0022の記載「この厚肉部6a,6bは、光軸方向に平行に形成されている」及び、図2(b)基板の裏面図に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、しかも実質的上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 訂正事項bは、「基板(6)」に関して、「銅タングステン製」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。訂正事項bは、特許明細書の段落0016の記載「この基板6は、一般に銅タングステン等、放熱効果の良好な材質で形成されている。」に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、しかも実質的上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (3)まとめ したがって、平成16年9月28日付けの訂正請求書による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書に掲げる事項を目的とし、同条第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項、4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.請求人の主張 請求人は、無効審判請求書において、本件の請求項1〜3に係る発明(以下、本件の請求項1〜3に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」という。)についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下の甲第1号証〜甲第16号証を証拠方法として提出している。そして、その無効理由の概要は、下記I〜IIIに示すとおりである。 甲第1号証:特開平3-39707号公報 甲第2号証:実公昭48-27665号公報 甲第3号証:社団法人日本機械学会編、「機械工学便覧 基礎編 応用編」、平成3年9月30日発行、A4-23〜A4-27頁 甲第4号証:鑑定意見書『「特許第3132868号」について』 甲第5号証:特開昭63-64008号公報 甲第6号証:特開昭63-70589号公報 甲第7号証:米国特許第4802178号公報および抄訳 甲第8号証:特開平1-243488号公報 甲第9号証:特開昭62-906号公報 甲第10号証:鑑定意見書(補足)『「特許第3132868号」について』 甲第11号証:特開平1-227486号公報 甲第12号証:特開平1-296204号公報 甲第13号証:特開昭60-92686号公報 甲第14号証:特開昭64-10686号公報 甲第15号証:特開昭64-86538号公報 甲第16号証:特開平1-187991号公報 記 I.本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証または甲第2号証〜4号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明と、甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであり、さらに、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明と、甲第5号証または甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜3は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。したがって、本件発明1〜3は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(以下、「無効理由I」という。) II.本件発明1は、甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明2は、甲第6号証に記載された発明と、甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであり、さらに、本件発明3は、甲第6号証に記載された発明と、甲第5号証または甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜3は、第29条第2項の規定に違反してされたものである。したがって、本件発明1〜3は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(以下、「無効理由II」という。) III.本件発明1及び本件発明2は、甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明3は、甲第9号証に記載された発明と、甲第5号証または甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜3は、第29条第2項の規定に違反してされたものである。したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(以下、「無効理由III」という。) 4.被請求人の主張 被請求人は、答弁書において、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、無効理由I〜IIIには理由がないと主張している。 5.本件発明 本件発明1〜3は、訂正された特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】光の出射に伴って発熱する半導体レーザ(2)と;該半導体レーザからの出射光を伝送するための光ファイバ(4)と;前記半導体レーザ及び光ファイバの光軸間に設けられ、該出射光を集光するレンズ体(3)と;前記半導体レーザからの出射光の光出力をモニタするための受光素子(5)と;その上部に前記半導体レーザ、レンズ体及び受光素子が搭載され、かつ、前記光軸に対して平行な両側部にそれぞれ、前記光軸の方向に平行に延びる所定の厚さの厚肉部(6a,6b)が形成された銅タングステン製の基板(6)と;該基板下部に設けられ、前記発熱した半導体レーザを冷却するための電子冷却素子(7)と;前記基板上部に搭載され、該電子冷却素子の冷却を制御するためのサーミスタ(21)と;これらの構成部品を収容する筐体(1)とからなることを特徴とする半導体レーザモジュール。 【請求項2】前記基板(6)上部に積載され、所定の配線パターン(16)が形成されており、該配線パターンの中には、少なくとも前記受光素子(5)が配置される配線基板(15)を備えた請求項1記載の半導体レーザモジュール。 【請求項3】前記筐体(1)の底部に所定深さ(L1)の溝部(1b)を形成し、該溝部に前記電子冷却素子(7)の一部を緩嵌する請求項1,2記載の半導体レーザモジュール。」 6.当審の判断 6-1.本件発明1について 6-1-1.無効理由Iについて (1)甲第1〜4号証記載の発明 甲第1号証には、「光の出射に伴って発熱するレーザダイオードと;該レーザダイオードからの出射光を入射する先球ファイバと;その上部に前記レーザダイオードが搭載され、かつ、前記レーザダイオードと前記先球ファイバとの間の光軸に対して平行な両側部を有する基台とからなる光ファイバ受光部の結合装置」(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されている。 (1頁右下欄4〜9行、2頁左上欄4〜8行、2頁右上欄1行〜左下欄4行、2頁左下欄6〜15行、第1図〜第3図、第5,6図) なお、請求人は、審判請求書において、甲第1号証の第6図の構成では、簡素化等のためレンズを用いていないが、この構成において、第4図と同様にレンズを用いるようにすることができることは明らかであり(2頁右上欄6〜11行参照)、レンズを用いるとすれば、レンズは、レーザダイオード(11)と光ファイバ(13)との間の光軸(14)の間に設けられるのであるから、レンズは基台(10)の上部に搭載されるはずであると主張するが、そもそも甲第1号証発明はレンズを除去し、レンズが存在しない結合装置を前提としているので、甲第1号証発明を上記のように認定した。 甲第2号証には、「ガスレーザ装置において、レーザ放電管(1)の両端部にそれぞれミラー(4,5)を配置すると共に、その上部にレーザ放電管(1)を搭載した剛体(8a、11)を有し、該レーザ放電管とミラーとの間のレーザ光軸(9)に対して平行な両側部にそれぞれ、光軸の方向に平行に延びる突出部(13〜16)により構成された所定の厚さの厚肉部を形成することによって、該剛体をレーザ光軸方向に対して変形しづらくするようにすること」が記載されている。(1頁1欄21行〜2頁4欄2行、第1図(a)、第2図および第3図) 甲第3号証には、「平板な両側部にそれぞれ、所定の厚さの厚肉部を形成することにより、断面2次モーメントが大きくなり、両側部に平行な軸方向に対して変形しづらくなること」が記載されている(A4-27頁右欄7〜27行、図39および表6)。 甲第4号証は、大学教授の鑑定意見書であって、平板の両側部にそれぞれ、平行に延びる所定の厚さの厚肉部を形成することにより、断面2次モーメントを大きくして、両側部に平行な軸方向に対して変形しづらくすることは初級の応用力学程度の技術常識であることが記載されている。 (2)対比 本件発明1と甲第1号証発明とを対比すると、甲第1号証発明における、「レーザダイオード」、「出射光を入射」、「基台」はそれぞれ本件発明1における、「半導体レーザ」、「出射光を伝送」、「基板」に相当し、また、甲第1号証発明のものもレーザダイオードを搭載した基台を有し、光通信に使用される点では半導体レーザモジュールといえるので、両者は、「光の出射に伴って発熱する半導体レーザと;該半導体レーザからの出射光を伝送するための光ファイバと;その上部に半導体レーザが搭載され、かつ、半導体レーザと光ファイバとの間の光軸に対して平行な両側部を有する基板とからなる半導体レーザモジュール」の点で一致し、以下の点で相違する。 【相違点1】本件発明1では、半導体レーザ及び光ファイバの光軸間に設けられ、該出射光を集光するレンズ体と;前記半導体レーザからの出射光の光出力をモニタするための受光素子と;基板下部に設けられ、前記発熱した半導体レーザを冷却するための電子冷却素子と;前記基板上部に搭載され、該電子冷却素子の冷却を制御するためのサーミスタと;これらの構成部品を収容する筐体とを有しているのに対し、甲第1号証発明のものはこれらの構成を有していない点。 【相違点2】本件発明1の基板は、その上部に半導体レーザ、レンズ体及び受光素子が搭載されているのに対し、甲第1号証の基台には、半導体レーザのみが搭載されている点。 【相違点3】本件発明1の基板は、光軸に対して平行な両側部にそれぞれ、光軸の方向に平行に延びる所定の厚さの厚肉部が形成されているのに対し、甲第1号証発明にはそのような肉厚部が設けられていない点。 【相違点4】本件発明1の基板は、銅タングステン製であるのに対し、甲第1号証発明では基板の材質は特に明記されていない点。 (3)判断 【相違点1】及び【相違点2】について 甲第2号証には、相違点1及び相違点2に係る構成は記載されていないばかりか、甲第2号証発明は、本件発明1の属する半導体レーザとは異なる分野であるガスレーザ装置に関するものであって、出力側と反射側の両ミラー間を光が往復することで増幅し、レーザ発振するもので、本件発明1における半導体レーザに正確には相当しない。よって、甲第2号証に記載の剛体(8a、11)は本件発明1の基板に相当するものではないことは明らかであるとともに、基板に搭載される構成部品も異なることから、甲第1号証に記載の光ファイバ受光部の結合装置における基台に代えて、甲第2号証に記載のガスレーザ装置の剛体を適用して本件発明1とすることは、当業者にとって容易とはいえない。 【相違点3】について 甲第2号証には、レーザ放電管とミラーとの間のレーザ光軸に対して平行な両側部にそれぞれ、光軸の方向に平行に延びる突出部により構成された所定の厚さの厚肉部を形成することによって、該剛体をレーザ光軸方向に対して変形しづらくするようにすることが記載され、また甲第3、4号証にはいずれも、平板の両側部にそれぞれ、平行に延びる所定の厚さの厚肉部を形成することにより、断面2次モーメントが大きくなり、平板の剛性を高める一般的な技術水準が記載されているが、本件発明1は、半導体レーザモジュールの高さの増大を抑えつつ半導体レーザの光の出射に伴う発熱による光軸ずれの低減を図るために、半導体レーザモジュールにおいて、「その上部に前記半導体レーザ、レンズ体及び受光素子が搭載され、かつ光軸に対して平行な両側部にそれぞれ、前記光軸の方向に平行に延びる所定の厚さの厚肉部(6a,6b)」を形成した点に技術的特徴があるところ、甲第2〜4号証には、これら甲各号証に記載の技術及び一般の技術水準をいかにして半導体レーザモジュールの基板に適用して、上記技術的特徴をなし得るかについての具体的手段の記載、示唆はないので、相違点3に係る構成は、当業者にとって容易とはいえない。 【相違点4】について 甲第2〜4号証には、相違点4に係る構成は記載されていないことは明らかである。 したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証または甲第2号証〜4号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものということはできない。 よって、本件発明1は、無効理由Iによって無効とはいえない。 6-1-2.無効理由IIについて (1)甲第6号証記載の発明 甲第6号証には、「光を出射する半導体レーザと;該半導体レーザからの出射光が入射する石英ファイバと;前記半導体レーザと前記石英ファイバとの間の光軸の間に設けられた第1レンズと;モニタダイオードと;その上部に前記半導体レーザ、前記第1レンズおよび前記モニタダイオードが搭載され、かつ、前記光軸に対して平行な両側部を有する基板と;該基板下部に設けられ、前記半導体レーザの温度を制御するペルチェ素子と;前記基板上部に搭載されたチップサーミスタと;これらの構成部品を収容するケースとからなる半導体レーザモジュール」(以下、「甲第6号証発明」という。)が記載されている。 (7頁右上欄14行〜右下欄4行、8頁右下欄9行〜9頁左上欄4行、9頁左上欄9行〜右上欄19行、9頁左下欄20行〜右下欄20行、第1図および第2図) なお、請求人は、審判請求書において、参考図2(甲第6号証の7頁左下欄17行〜右下欄2行の記載及び第1図をもとに拡大して描かれた半導体レーザモジュールの要部の斜視図。なお、被請求人も答弁書において参考図 図1として、厚肉部については同様の図面を提出し、これをもとに議論している点で、参考図2に対して両者に争いはない。)、及び参考図4(甲第6号証の9頁右上欄11〜19行の記載及び第2図をもとに拡大して描かれた半導体レーザモジュールの要部の斜視図。なお、被請求人も答弁書において参考図 図2として、厚肉部については同様の図面を提出し、これをもとに議論している点で、参考図4に対して両者に争いはない。)を提示し、参考図2のA1,A2、また参考図4のB1,B2をそれぞれ厚肉部と主張するが、甲第6号証の第1図を精査してみると、A1,A2に該当する部分は光軸の方向に平行に延びるというよりは、光軸とは垂直の方向に延びていると解するのが妥当であるので、A1,A2が基板の両側部に設けられた厚肉部というには無理がある。同じく、参考図4のB1,B2の肉厚部、及び球体の第1レンズの右部分にある基板から突出した部分は、一見すると、基板の両側部に形成された厚肉部のように見えるが、これら部分は、本件発明1のレンズを保持、固定するレンズホルダに相当するものというべきであって、かつ甲第6号証の第2図を精査してみると、B1,B2に該当する部分は光軸の方向に平行に延びるというよりは、光軸とは垂直の方向に延びていると解するのが妥当であるので、前記B1,B2及び、球体の第1レンズの右部分にある基板から突出した部分は、いずれも基板の両側部に、光軸の方向に平行に延びる所定の厚さに設けられた厚肉部ということには無理がある。よって、甲第6号証発明を上記のように認定した。 (2)対比 本件発明1と甲第6号証発明とを対比すると、甲第6号証発明における、「出射光が入射」、「石英ファイバ」、「第1レンズ」、「モニタダイオード」、「ペルチェ素子」、「チップサーミスタ」、「ケース」は、それぞれ本件発明1における、「出射光を伝送」、「光ファイバ」、「レンズ体」、「受光素子」、「電子冷却素子」、「サーミスタ」、「筐体」に相当し、甲第6号証に記載の半導体レーザは光の出射によって発熱すること、第1レンズは半導体レーザからの出射光を集光すること、及びモニタダイオードは半導体レーザからの出射光の光出力をモニタするためのものであることはそれぞれ明らかであり、また、甲第6号証に記載のペルチェ素子は、発熱した半導体レーザを冷却するためのもので、基板下部に設けられていることが見て取れ、さらに、チップサーミスタは、ペルチェ素子の冷却を制御するためのものであるので、 結局、両者は、「光の出射に伴って発熱する半導体レーザと;該半導体レーザからの出射光を伝送するための光ファイバと;前記半導体レーザ及び光ファイバの光軸間に設けられ、該出射光を集光するレンズ体と;前記半導体レーザからの出射光の光出力をモニタするための受光素子と;その上部に前記半導体レーザ、レンズ体及び受光素子が搭載され、かつ、前記光軸に対して平行な両側部を備えた基板と;該基板下部に設けられ、前記発熱した半導体レーザを冷却するための電子冷却素子と;前記基板上部に搭載され、該電子冷却素子の冷却を制御するためのサーミスタと;これらの構成部品を収容する筐体とからなる半導体レーザモジュール」の点で一致し、以下の点で相違する。 【相違点1】本件発明1の基板は、光軸に対して平行な両側部にそれぞれ、前記光軸の方向に平行に延びる所定の厚さの厚肉部が形成されているのに対し、甲第6号証発明にはそのような肉厚部が設けられていない点。 【相違点2】本件発明1の基板は、銅タングステン製であるのに対し、甲第1号証発明では基板の材質は特に明記されていない点。 (3)判断 両者には相違点1及び相違点2に係る構成が存在し、これらの相違点を充足する証拠は提示されていない以上、本件発明1は、甲第6号証号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものということができない。 よって、本件発明1は、無効理由IIによっては無効とはいえない。 6-1-3.無効理由IIIについて (1)甲第9号証記載の発明 甲第9号証には、「光を出射するレーザダイオードと;該レーザダイオードからの出射光を伝送するための光ファイバと;モニタのためのフォトダイオードと;その凹部に前記レーザダイオード、前記フォトダイオードが収容され、かつ、光軸に対して平行な両側部及びその端部に、所定の厚さでコ字状の壁が形成されたモジュール本体(基部部材)と;該モジュール本体下部に設けられ、前記レーザダイオードの温度をほぼ一定に保つペルチェ効果熱ポンプと;前記モジュール本体の凹部に設けられ、前記レーザダイオードの温度をほぼ一定に保つように、前記モジュール本体下部に設けられた前記ペルチェ効果熱ポンプを制御する温度センサと;前記ペルチェ効果熱ポンプ以外の構成部品を収容する前記モジュール本体およびカバーとからなる電気光変換装置」(以下、「甲第9号証発明」という。)が記載されている。 (1頁左下欄18行〜右下欄4行、2頁右上欄14行〜左下欄13行、2頁左下欄15行〜3頁左上欄10行、3頁左上欄19行〜4頁左上欄5行、4頁右下欄6行〜5頁右上欄13行、6頁左上欄3〜19行、および第1図〜第6図) なお、請求人は、審判請求書において、甲第9号証発明のレーザダイオードと光ファイバとの間の光軸の間であって、光ファイバの端面に設けられたレンズを、本件発明のレンズ体に相当する旨主張するが、該レンズは、光ファイバの端面に設けられたものであって、本件発明1のように半導体レーザ及び光ファイバの光軸間に設けられたものとはいえない。また、甲第9号証に記載のモジュール本体は、本件発明1の基板及び筐体の両方の機能を果たしており、モジュール本体の底部の凹部の両サイドには当然厚肉部が存在する旨主張するが、甲第9号証記載のモジュール本体は、本件発明1における筐体に相当し、請求人が厚肉部と主張する箇所は、甲第9号証にも記載(2頁左下欄5,6行、同右下欄12行〜16行)されているとおり、単なる「壁」にすぎない。してみると、本件発明1における基板に該当するものは存在しないと解するのが相当である。よって、甲第9号証発明を上記のように認定した。 (2)対比 本件発明1と甲第9号証発明とを対比すると、甲第9号証発明における、「レーザダイオード」、「フォトダイオード」、「ペルチェ熱効果ポンプ」、「温度センサ」、「モジュール本体」は、それぞれ本件発明1における、「半導体レーザ」、「受光素子」、「電子冷却素子」、「サーミスタ」、「筐体」に相当し、また甲第9号証記載の電気光変換装置は、その構造、機能から見て半導体レーザモジュールといえ、さらに、甲第9号証記載のレーザダイオードは光の出射によって発熱すること、及び同号証記載のフォトダイオードはレーザダイオードからの出射光の光出力をモニタするためのものであることはそれぞれ明らかであるので、 結局、両者は、「光の出射に伴って発熱する半導体レーザと;該半導体レーザからの出射光を伝送するための光ファイバと;前記半導体レーザからの出射光の光出力をモニタするための受光素子と;前記発熱した半導体レーザを冷却するための電子冷却素子と;該電子冷却素子の冷却を制御するためのサーミスタと;これらの構成部品を収容する筐体とからなる半導体レーザモジュール」の点で一致し、以下の点で相違する。 【相違点1】本件発明1は、半導体レーザ及び光ファイバの光軸間に、出射光を集光するレンズ体を設けているのに対し、甲第9号証発明では、そのようなレンズ体を設けていない点。 【相違点2】本件発明1は、半導体レーザ、レンズ体及び受光素子が搭載され、光軸に対して平行な両側部にそれぞれ、前記光軸の方向に平行に延びる所定の厚さの厚肉部が形成されている基板を有しているのに対し、甲第9号証発明にはそのような基板が設けられていない点。 【相違点3】本件発明1の電子冷却素子は、基板下部に設けられ、筐体内に収容されているのに対し、甲第9号証発明では、モジュール本体(本件発明1の筐体に相当。)下部に設けられている点。 【相違点4】本件発明1の基板は、銅タングステン製であるのに対し、甲第9号証発明では基板の材質は特に明記されていない点。 (3)判断 相違点1〜相違点4に係る構成が存在し、これらの相違点を充足する証拠は提示されていない以上、本件発明1は、甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものということができない。 よって、本件発明1は、無効理由IIIによって無効とはいえない。 6-2.本件発明2について 6-2-1.無効理由Iについて (1)甲第1、7号証記載の発明 甲第1号証については上記6-1-1.(1)を参照のこと。 甲第7号証には、レーザモジュールにおいて、所定のリードが形成されており、該リードの中には、少なくとも、半導体レーザからの出射光の光出力をモニタするためのフォトダイオードを据え付けたセラミックブリッジが配置されるシグナルコネクション基板が記載されている。(3欄6〜14行(訳文では2頁19〜24行)、4欄54行〜5欄2行(訳文では5頁7〜15行)、5欄16〜30行(訳文では5頁27行〜6頁6行)、図1および図2) (2)対比 本件発明2と甲第1号証発明とを対比すると、 上記6-1-1.(2)における、【相違点1】〜【相違点4】に加えて次のものが追加される。 【相違点5】本件発明2は、前記基板(6)上部に積載され、所定の配線パターン(16)が形成されており、該配線パターンの中には、少なくとも前記受光素子(5)が配置される配線基板(15)を備えているのに対し、甲第1号証発明ではそのような配線基板を備えていない点。 (3)判断 上記相違点1〜4についての判断は、本件発明1と同様である。(上記6-1-1.(3)を参照のこと。) したがって、相違点5を検討するまでもなく、本件発明2は、上記甲第1号証発明と甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものということができない。 よって、本件発明2は、無効理由Iによっては無効とはいえない。 6-2-2.無効理由IIについて (1)甲第6、7号証記載の発明 甲第6号証については上記6-1-2.(1)、また、甲第7号証については上記6-2-1.(3)をそれぞれ参照のこと。 (2)対比 本件発明2と甲第6号証発明とを対比すると、上記6-1-2.(2)における、【相違点1】〜【相違点2】に加えて次のものが追加される。 【相違点3】本件発明2は、前記基板(6)上部に積載され、所定の配線パターン(16)が形成されており、該配線パターンの中には、少なくとも前記受光素子(5)が配置される配線基板(15)を備えているのに対し、甲第6号証発明ではそのような配線基板を備えていない点。 (3)判断 上記相違点1〜2についての判断は、本件発明1と同様である。(上記6-1-2.(3)を参照のこと。) したがって、相違点3を検討するまでもなく、本件発明2は、上記甲第6号証発明と甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものということができない。 よって、本件発明2は、無効理由IIによって無効とはいえない。 6-2-3.無効理由IIIについて (1)甲第9号証記載の発明 甲第9号証には、上記6-1-3.(1)において認定した記載事項に加えて、「電気光変換装置において、所定の金属化領域等の配線パターンが形成されており、それらの中には、少なくともフォトダイオードを含むモニタダイオード組立体が配置されるモジュール本体」が記載されている。(2頁左下欄15行〜3頁左上欄10行、3頁右上欄8行〜左下欄11行および第1図〜第5図) (2)対比 本件発明2と甲第9号証発明とを対比すると、上記6-1-3.(2)における、【相違点1】〜【相違点4】に加えて次のものが追加される。 【相違点5】本件発明2は、前記基板(6)上部に積載され、所定の配線パターン(16)が形成されており、該配線パターンの中には、少なくとも前記受光素子(5)が配置される配線基板(15)を備えているのに対し、甲第6号証発明ではそのような配線基板を備えていない点。 (3)判断 上記相違点1〜4についての判断は、本件発明1と同様である。(上記6-1-3.(3)を参照のこと。) したがって、相違点5を検討するまでもなく、本件発明2は、上記甲第9号証発明であるか、または同号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものということができない。 よって、本件発明2は、無効理由IIIによって無効とはいえない。 6-3.本件発明3について 6-3-1.無効理由Iについて (1)甲第1、5、8号証記載の発明 甲第1号証については、上記6-1-1.(1)を参照のこと。 甲第5号証には、「半導体レーザ用オプトエレクトロニクス・パッケージにおいて、台座の形態となっている光学的ベンチの上部に、半導体レーザと、該半導体レーザおよび光ファイバの光軸間に設けられ、前記半導体レーザの発射ビームの軸心を光ファイバの軸心に整列させるレンズ組立体と、前記半導体レーザからの光放出を監視するためのPINダイオードとを搭載すること、前記光学的ベンチの下部に設けられ、発熱した前記半導体レーザを冷却するための熱電気的冷却装置と、該熱電気的冷却装置の冷却を、熱電気制御回路を介して制御するためのサーミスタと、これら構成部品を収容するボックスとからなる外側包囲体と、該外側包囲体のボックス部分の底壁に固定される熱吸収体に所定深さの溝部を形成し、該溝部に前記熱電気的冷却装置の一部を嵌めること」が記載されている。(5頁左上欄10行〜右下欄9行、6頁左上欄10行〜7頁右上欄15行及び各図面) 甲第8号証には、「光半導体モジュールにおいて、筐体の底部に所定深さの溝部を形成し、該溝部にペルチェクーラ素子の全体を嵌めること」が記載されている。(2頁左下欄13行〜3頁左上欄15行および第1図) (2)対比 本件発明3と甲第1号証発明とを対比すると、上記6-1-1.(2)における、【相違点1】〜【相違点4】、(上記6-2-1.(2)における、【相違点1】〜【相違点5】)に加えて次のものが追加される。 【相違点イ】本件発明3は、前記筐体(1)の底部に所定深さ(L1)の溝部(1b)を形成し、該溝部に前記電子冷却素子(7)の一部を緩嵌しているのに対し、甲第1号証発明ではそのようになっていない点。 (3)判断 上記相違点1〜4(5)についての判断は、本件発明1と同様である。(上記6-1-1.(3)及び6-2-1.(3)を参照のこと。) したがって、相違点イを検討するまでもなく、本件発明3は、上記甲第1号証発明と甲第5号証または甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものということができない。 よって、本件発明3は、無効理由Iによって無効とはいえない。 6-3-2.無効理由IIについて (1)甲第6、5、8号証記載の発明 甲第6号証については、上記6-1-2.(1)、甲第5号証及び甲第8号証については上記6-3-1.(3)を参照のこと。 (2)対比 本件発明3と甲第6号証発明とを対比すると、上記6-1-2.(2)における、【相違点1】〜【相違点2】、(上記6-2-2.(2)における、【相違点1】〜【相違点3】)に加えて次のものが追加される。 【相違点ロ】本件発明3は、前記筐体(1)の底部に所定深さ(L1)の溝部(1b)を形成し、該溝部に前記電子冷却素子(7)の一部を緩嵌しているのに対し、甲第1号証発明ではそのようになっていない点。 (3)判断 上記相違点1〜3(4)についての判断は、本件発明1と同様である。(上記6-1-2.(3)及び6-2-2.(3)を参照のこと。) したがって、相違点ロを検討するまでもなく、本件発明3は、上記甲第6号証発明と甲第5号証または甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものということができない。 よって、本件発明3は、無効理由IIによって無効とはいえない。 6-3-3.無効理由IIIについて (1)甲第9号証記載の発明 甲第9号証については、上記6-1-3.(1)、甲第5号証及び甲第8号証については上記6-3-1.(3)を参照のこと。 (2)対比 本件発明3と甲第9号証発明とを対比すると、上記6-1-3.(2)における、【相違点1】〜【相違点5】、(上記6-2-3.(2)における、【相違点1】〜【相違点6】)に加えて次のものが追加される。 【相違点ハ】本件発明3は、前記筐体(1)の底部に所定深さ(L1)の溝部(1b)を形成し、該溝部に前記電子冷却素子(7)の一部を緩嵌しているのに対し、甲第9号証発明ではそのようになっていない点。 (3)判断 上記相違点1〜5(6)についての判断は、本件発明1と同様である。(上記6-1-3.(3)及び6-2-3.(3)を参照のこと。) したがって、相違点ハを検討するまでもなく、本件発明3は、上記甲第9号証発明と甲第5号証または甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものということができない。 よって、本件発明3は、無効理由IIIによって無効とはいえない。 なお、上記甲第10号証は、甲第4号証の補足説明を示し、また甲第10,11号証は、公知のブロック型の配線基板を示し、さらに、甲第13〜16号証はいずれも基板として銅タングステン製のものが周知であることを示すに過ぎず、甲第10〜16号証のいずれも、上記本件発明1〜3の技術的特徴を示唆するものではない。 なお、請求人は、上記意見書によれば、訂正後の本件請求項1の記載は、同請求項1の「厚肉部」に関し、発明の詳細な説明に記載された用語と不統一であり、その結果、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対応関係が不明となり、特許法第36条第5項第1号の規定に違反し、また、「厚肉部」の記載が不十分なため、構成に欠くことができない事項のみが記載されていないとして、特許法第36条第5項第2号の規定に違反していると主張している。しかしながら 、請求項1に記載された「前記光軸の方向に平行に延びる所定の厚さの厚肉部(6a,6b)」と、発明の詳細な説明の段落0016、0017及び図2(a)〜(f)の記載とは、符号6a,6bにより関係付けられており、両者の対応関係が不明であるとはいえない。また、「厚肉部」の記載が不十分な点に対しては、前述のように対応関係が明瞭となったので、請求項1に、構成に欠くことができない事項のみが記載されていないとはいえない。 7.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明の特許を無効とすることはできない。 また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-12-08 |
結審通知日 | 2004-12-09 |
審決日 | 2004-12-21 |
出願番号 | 特願平3-339526 |
審決分類 |
P
1
112・
113-
Y
(G02B)
P 1 112・ 121- Y (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小橋 立昌 |
特許庁審判長 |
瀧本 十良三 |
特許庁審判官 |
稲積 義登 平井 良憲 |
登録日 | 2000-11-24 |
登録番号 | 特許第3132868号(P3132868) |
発明の名称 | 半導体レーザモジュール |
代理人 | 秋山 佳胤 |
代理人 | 谷 義一 |
代理人 | 牛久 健司 |
代理人 | 新開 正史 |
代理人 | 井上 正 |
代理人 | 篠崎 敬 |
代理人 | 高城 貞晶 |
代理人 | 升永 英俊 |
代理人 | 美勢 克彦 |
代理人 | 荒井 裕樹 |
代理人 | 松本 重敏 |