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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) G01M
管理番号 1125229
審判番号 無効2003-35528  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-07-19 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-12-26 
確定日 2005-10-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第2797095号発明「一軸シャシダイナモメータ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2797095号の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 [1]手続の経緯
出願日;平成4年12月26日
設定登録;平成10年7月3日
訂正審判請求;平成15年9月30日
訂正認容審決;平成15年11月14日
本件審判請求書;平成15年12月26日
答弁書・訂正請求書;平成16年3月26日
弁ぱく書;平成16年5月13日

[2]訂正請求の適否
(1)訂正の内容
a.特許請求の範囲の請求項2及び4を削除し、請求項3を請求項2と訂正する。
b.訂正前の請求項1において、「床板の開口部位置に」とある記載を、「床板におけるドラムを表出させるための開口部位置に」と訂正する。
c.同請求項において、「が載置される一軸シャシダイナモメータにおいて」とある記載を、「が載置される自動車性能試験用の一軸シャシダイナモメータにおいて」と訂正する。
d.同請求項において、「床板下側の車輪」とある記載を、「床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪」と訂正する。
e.同請求項において、「車輪開放位置」とある記載を、「車輪解放位置」と訂正する。
f.同請求項において、「スライド可能なスライド部材」とある記載を、「スライド可能な凹形状のスライド部材」と訂正する。
g.訂正前の請求項3(新請求項2)において、「ドラムの周面上に」とある記載を、「床板におけるドラムを表出させるための開口部位置に設けられたドラムの周面上に」と訂正する。
h.同請求項において、「が載置される一軸シャシダイナモメータにおいて」とある記載を、「が載置される自動車性能試験用の一軸シャシダイナモメータにおいて」と訂正する。
i.同請求項において、「駆動車輪から離れた車輪解放位置」とある記載を、「駆動車輪から離れた、床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置」と訂正する。
j.訂正前明細書段落【0006】の「床板の開口部位置に・・・前記車輪開放位置にスライドさせる」とある記載を、
「床板におけるドラムを表出させるための開口部位置に設けられたドラムの周面上に自動車の駆動車輪が載置される自動車性能試験用の一軸シャシダイナモメータにおいて、前記ドラムの頂上部側における径方向の両側に一対の車輪支承部材が配置され、かつこの一対の車輪支承部材が前記頂上部よりも上位で、その頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する、床板上側の位置と、駆動車輪から離れた、床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置との間をスライド可能にあるとともに、前記各車輪支承部材の駆動手段が設けられ、
更に、前記一対の車輪支承部材が、床板下側に設けられ前記頂上部方向にスライド可能な凹形状のスライド部材の上方側にそれぞれ設けられ、前記駆動手段が前記スライド部材をスライドさせるエアシリンダで構成され、そのシリンダロッドが前記スライド部材に連結され、前記一対の車輪支承部材を床板下側から前記開口部を通してドラムの頂上部方向に床板上側まで斜め方向にスライドさせて、その一対の車輪支承部材で前記ドラム周面上に位置させた駆動車輪を周面両側から支持して、その駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し、自動車を固定したのち、前記車輪支承部材を前記開口部を通して前記車輪解放位置にスライドさせる」
と訂正する。
k.同段落【0007】を削除する。
する。
l.同段落【0008】の「第3発明および第4発明」とある記載を、「第2発明」と訂正する。
m.同段落【0009】の「すなわち・・・スライド可能にあるとともに」とある記載を、「すなわち、第2発明(図5〜図8参照)は、床板におけるドラムを表出させるための開口部位置に設けられたドラムの周面上に自動車の駆動車輪が載置される自動車性能試験用の一軸シャシダイナモメータにおいて、前記ドラムの頂上部側における径方向の両側に一対の車輪支承部材が配置され、かつこの一対の車輪支承部材が前記頂上部よりも上位で、その頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する位置と、駆動車輪から離れた、床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置との間をスライド可能にあるとともに」
と訂正する。
n.同段落【0010】を、削除する。
o.同段落【0012】を、削除する。
p.同段落【0013】の「第3発明および第4発明」とある記載を、「第2発明」と訂正する。
q.同段落【0020】〜【0023】を、削除する。
r.同段落【0024】〜【0031】の「第3発明」とある記載を、「第2発明」と訂正する。段落【0024】〜【0026】の「図6」とある記載を「図5」に、「図7」とある記載を「図6」に、それぞれ訂正する。
s.同段落【0027】の「図8」とある記載を、「図7」に訂正する。
t.同段落【0029】の「図9」とある記載を、「図8」に訂正する。
u.同段落【0031】を、削除する。
v.同段落【0033】を、削除する。
w.同段落【0034】の「請求項1,2」とある記載を、「請求項1」に訂正する。
x.同段落【0035】の「車輪開放位置」とある記載を、「車輪解放位置」に訂正する。
y.同段落【0036】の「請求項3,4」とある記載を、「請求項2」に訂正する。
z.訂正前明細書【図面の簡単な説明】欄の「【図5】 本発明の第2発明の一軸シャシダイナモメータの-実施例の断正面図である。」という記載を、削除する。
aa.同【図面の簡単な説明】欄の「【図6】本発明の第3」という記載を「【図5】本発明の第2」に、「【図7】上記第3発明の」という記載を「【図6】上記第2発明の」に、「【図8】本発明の第3」という記載を「【図7】本発明の第2」に、「【図9】本発明の第3」という記載を「【図8】本発明の第2」に、それぞれ、訂正する。
ab.訂正前図面の図5を、削除する。
ac.同図面の図6を図5に、図7を図6に、図8を図7に、図9を図8に、それぞれ、訂正する。

(2)訂正の適否
訂正事項aについて
明細書の特許請求の範囲の請求項2及び4を削除し、請求項3を請求項2とする訂正は、特許請求の範囲の滅縮を目的とするものであり、新規事項の追加にあたらず、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項b、c、d、fについて
これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、訂正前の段落【0016】、【0001】、【0015】、訂正前の図1乃至図4に記載されていた事項であって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項eについて
訂正前の請求項1に「車輪開放位置」と「車輪解放位置」とが混在していたうち、「開放」という誤記を「解放」に訂正することを目的とし、訂正前の請求項1に記載されていた事項であって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項g、h、iについて
これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、訂正前の段落【0024】、【0016】、【0001】、訂正前の図6に記載されていた事項であって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項j乃至z、aa乃至acについて
これら訂正は、上記特許請求の範囲の訂正に対応させて明細書の記載、図面の整合をとるためのもので、明りょうでない記載の釈明を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正請求の適否の結論
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、平成15年改正前特許法第134条第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]本件発明
前示のとおり訂正請求による訂正は認められるから、本件の発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。(以下、本件発明1、本件発明2という。)
【請求項1】
床板におけるドラムを表出させるための開口部位置に設けられたドラムの周面上に自動車の駆動車輪が載置される自動車性能試験用の一軸シャシダイナモメータにおいて、
前記ドラムの頂上部側における径方向の両側に一対の車輪支承部材が配置され、かつこの一対の車輪支承部材が前記頂上部よりも上位で、その頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する、床板上側の位置と、駆動車輪から離れた、床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置との間をスライド可能にあるとともに、
前記各車輪支承部材の駆動手段が設けられ、
更に、前記一対の車輪支承部材が、床板下側に設けられ前記頂上部方向にスライド可能な凹形状のスライド部材の上方側にそれぞれ設けられ、
前記駆動手段が前記スライド部材をスライドさせるエアシリンダで構成され、
そのシリンダロッドが前記スライド部材に連結され、前記一対の車輪支承部材を床板下側から前記開口部を通してドラムの頂上部方向に床板上側まで斜め方向にスライドさせて、その一対の車輪支承部材で前記ドラム周面上に位置させた駆動車輪を周面両側から支持して、その駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し、自動車を固定したのち、前記車輪支承部材を前記開口部を通して前記車輪解放位置にスライドさせることを特徴とする一軸シャシダイナモメータ。

【請求項2】
床板におけるドラムを表出させるための開口部位置に設けられたドラムの周面上に自動車の駆動車輪が載置される自動車性能試験用の一軸シャシダイナモメータにおいて、
前記ドラムの頂上部側における径方向の両側に一対の車輪支承部材が配置され、かつこの一対の車輪支承部材が前記頂上部よりも上位で、その頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する位置と、駆動車輪から離れた、床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置との間をスライド可能にあるとともに、
前記各車輪支承部材の駆動手段が設けられ、
更に、前記一対の車輪支承部材がドラム頂上部の方向に付勢ばねで付勢されており、
前記一対の車輪支承部材をドラムの頂上部方向にスライドさせて、その一対の車輪支承部材で前記ドラム周面上に位置させた駆動車輪を周面両側から支持して、その駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し、自動車を固定したのち、前記車輪支承部材を車輪解放位置にスライドさせることを特徴とする一軸シャシダイナモメータ。

[4]請求人の主張・証拠の概要
訂正前の請求項1、2に係る発明は、先願(甲1号証)に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
更に、甲2号証に記載された発明と同一であり、仮に、同一でないとしても一軸シャシダイナモメータにおいて、ドラム上の車輪の位置を変えるために車輪の前後からローラ等で挟み込む発想は甲4号証に示されるとおり公知であったものであり、甲4号証に開示されるセット装置に換えて、甲2号証の発明を採用することは当業者が容易になしうるものであり、特許法第29条第1項または同条第2項の規定により特許を受けることができない。

訂正前の請求項3、4に係る発明は、駆動手段をエアシリンダに限定しない点、および、「付勢ばね」で付勢する構成が付加されている点で訂正前請求項1、2に係わる発明と異なるが、衝撃緩和のためにばねを用いることは常識であって引例を示すまでもなく周知慣用の技術事項であり、シリンダ機構にばねを組み合わせた構造は甲3号証に記載されているように汎用の技術手段として広く知られていたもので何ら特徴的構成でなく、訂正前の請求項3、4に係る発明も、当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

訂正請求による訂正は訂正要件に違反するものであるが、仮に訂正要件を満たしているとしても、訂正後の請求項1、2に係る発明は、訂正前の請求項1、3に係る発明と遜色ないものであり、上記の理由が該当する。また、訂正後の記載には依然特許法第36条の不備がある。

甲1号証;特願平4-265628号(特開平6-94581号公報)
甲2号証;特開昭54-53401号公報
甲3号証;特開昭57-103947号公報
甲4号証;特開平3-293536号公報

[5]被請求人の主張の概要
本件特許に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正明細書の請求項1、2に記載されたものである。(以下、本件発明1、2という。)
本件各発明のシャシダイナモメータは車両のエンジンをも含む動力系の測定を行うもので、これに対し、ドラムテスタやホイルアライメント(甲1号証)やサイドスリップテスタ(甲2号証)は車輪と路面との関係を主に試験するものであって似て非なるものである。(乙1乃至4号証)
前者(シャシダイナモメータ)が自動車等の開発過程において使用される装置であり、自動車メーカが主として使用するものであるのに対し、後者(ドラムテスタ、ホイルアライメント、サイドスリップテスタ)が完成された自動車の走行状態を確認する装置である点でも相違し、後者にはシャシダイナモメータのように手押し搬送作業者の作業円滑性や安全性を考えた開口構造にしなければならないといった要請が存在しない。

甲1乃至4号証のいずれにも、本件各発明の「車輪支承部材がドラムを表出させるための開口部から突没し、しかも車輪解放位置では車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置に設定される」点は一切開示されていない。
したがって、本件各発明の特有の効果、簡単な構造でありながら、作業者が足を取られにくい等、作業の安全性、円滑性を大きく向上でき、試験室内の温度も一定に保ちやすくできるというシャシダイナモメータであるからこそ顕著となる効果も、甲1乃至4号証に基づいては得ることはできない。

また、本件発明1の「車輪支承部材が凹形状のスライド部材に支持されている」点に関しても、甲1乃至4号証には一切開示されておらず、無理のない構造で車輪支承部材を確実に平行移動させることができ、車輪のセンタリングに要求される精度を容易に担保できるという効果も、甲1乃至4号証に基づいては得ることはできない。

このように、本件各発明は、甲第1号証乃至甲第3号証(さらに言えば甲第4号証も)と比較して明確な構成の差異点を有しており、その差異点から前記甲各号証からでは得られない格別な効果を奏し得る。したがって、これら甲各号証を組み合わせたとしても、当業者が本件各発明を容易に想到できるとは到底考えられず、本件各発明は十分な進歩性を有している。いわんや、本件各発明が甲第2〜4号証に対して新規性を有しているのは明らかであり、また甲第1号証が本件各発明に対し拡大先願の地位を有さないのも明らかである。
以上のことから本件各発明は、特許法第29条の2及び同法第29条第1項または第2項の規定に該当するものではない。
なお、請求人は本件無効審判請求書の第3頁で、明細書の記載不備をも指摘しているが、本件訂正請求によって明細書の記載不備は既に治癒している。

[6]特許法第29条2項についての当審の検討・判断
(1)各証拠の記載内容
甲4号証(特開平3-293536号公報、以下刊行物1という。)
「まず第1図および第2図において、ピットカバー7の下部には、アーム支え台60,60が並設されており、この・・・。
このように構成された本発明のシャシーダイナモメータの車両セット装置においては、通常車両セットローラ4aがセットローラ控部8に格納されており、ローラ4aはピット上部と同一面となっているため、抵抗なく乗り込みが可能である。セットアーム4bを支える軸受51は、アーム支え台60、60a上に配置されている。
駆動装置50にてタイヤ2を押しつけて軸心を合わせた状態を保持したまま、車両の固定作業を車両固定装置4,車両固定部材5にて行えば、軸心もずれることなく固定できる。固定後は駆動装置50にてセットアーム4bを戻せば、セットローラ4aは控部8に格納されて運転可能となる。」(2頁左下欄7行乃至右下欄17行)

甲2号証(特開昭54-53401号公報、以下刊行物2という。)
「本発明は自動車前輪のトウイン、キャンパ等のアライメントの調整不良によって生じる横滑りを測定する測定する装置に関するものである。
従来自動車の前輪のアライメントの調整不良によって生じる横滑りを測定する装置には・・・。
茲において本発明装置は上述したような従来装置の各欠点に鑑み、車輪の落ち込み的支持をせず・・・極めて正確な横滑り量を測定しようとするものである。」(1頁左欄13行乃至2頁左上欄10行)

「そして前記の測定ドラム12,12’に載置する車輪W、W’を該ドラム12、12’の軸芯直上の周面上に前後から挟持して誘導する前後一対の誘導ローラー22、22’は、旋回枠9,9’に固設したエアシリンダ23,23’によって作動し、・・・夫々床面に設置されている。
以上のような構成からなる本発明の作用は、先ず自動車aが乗り込む際に・・・自動車aを前記測定ドラム12、12’上に乗り入れる。
次にエアシリンダ23,23’に圧縮空気を供給すると前後の誘導ローラー・・・ドラム12、12’の軸芯直上の周面上に誘導定置させる。
更に前記ドラム12,12’上の被測定車体aのバンパ24を車体固定装置26,26’によって左右から挟持して固定した後誘導ローラ23、23’を元の位置に戻し、そして・・・回転させる。」(2頁左下欄1乃至右下欄6行)

甲3号証(特開昭57-103947号公報、以下刊行物3という。)
「一般に空気ショックアブソーバにおいてはその媒体となる空気自身が・・復帰ばね2を介してピストン3が摺動自在に嵌合されているもので・・・構成されている。」(1頁左欄19行乃至右欄9行)

(2)本件発明1について
本件発明1と刊行物1に記載されたシャシーダイナモメータを対比すると、両者は、
「床板におけるドラムを表出させるための開口部位置に設けられたドラムの周面上に自動車の駆動車輪が載置される自動車性能試験用の一軸シャシダイナモメータにおいて、
前記ドラムの頂上部側における径方向の両側に一対の車輪支承部材が配置され、
かつこの一対の車輪支承部材が前記頂上部よりも上位で、その頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する、床板上側の位置と、駆動車輪から離れた位置である車輪解放位置との間を移動可能にあるとともに、
前記各車輪支承部材の駆動手段が設けられ、
駆動手段が前記一対の車輪支承部材を床板上側の位置に移動させて、その一対の車輪支承部材で前記ドラム周面上に位置させた駆動車輪を周面両側から支持して、その駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し、自動車を固定したのち、前記車輪支承部材を前記車輪解放位置に移動させることを特徴とする一軸シャシダイナモメータ。」
として一致するが、次の点で相違する。

相違点1;
本件発明1では、
一対の車輪支承部材が、ドラムの頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する床板上側の位置と、駆動車輪から離れた、床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置との間をスライド可能にあるとともに、
前記一対の車輪支承部材が床板下側に設けられ前記頂上部方向にスライド可能な凹形状のスライド部材の上方側にそれぞれ設けられ、エアシリンダのシリンダロッドが前記スライド部材に連結され、前記一対の車輪支承部材を床板下側から前記開口部を通してドラムの頂上部方向に床板上側まで斜め方向にスライドさせて駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し、自動車を固定したのち、前記車輪支承部材を前記開口部を通して前記車輪解放位置にスライドさせることを特徴とするのに対し、

刊行物1に記載された発明では、
一対の車輪支承部材が、ドラムの頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する、床板上側の位置と、駆動車輪から離れた位置である車輪解放位置(ピットカバーの一部に設けたセットローラ控え部)との間を移動可能にあるとともに、前記一対の車輪支承部材が駆動手段のロッドと連結され、前記一対の車輪支承部材をドラムの頂上部方向に床板上側まで移動させて駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し、自動車を固定したのち、前記車輪支承部材を前記車輪解放位置に移動させることを特徴とする点。

相違点1について検討するに、
刊行物2には、自動車車輪の横滑り測定装置においてではあるが、ドラム頂上部の所定位置に自動車の車輪を誘導・セットするのにドラム径方向の両側に一対の車輪支承部材を利用する構成が記載されており、刊行物2の前記記載と第1乃至3図の図示によれば、エアシリンダのシリンダロッドが一対の車輪支承部材のそれぞれに連結され、それらの車輪支承部材が車輪解放位置、すなわち、車輪支承部材がピット1の上面よりも下側で車輪支承部材の一部(ローラ22,22’)がピット1の上面よりもわずかに下側となる位置、からドラムに沿ってドラムの頂上部方向にピット1の上面よりも上側まで斜め方向に平行移動させて車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し、自動車を固定したのち、前記一対の車輪支承部材およびその一部(ローラ)を前記車輪解放位置に平行移動させる構成が記載・図示されていることが認められる。

一軸シャシダイナモメータおよび自動車車輪横滑り測定装置の測定・試験する内容が異なる(乙1、2号証)としても、いずれの装置においてもドラムを回転させ始める前にドラム頂上部の所定位置に自動車の車輪を誘導・セットすることが要請されるのであって(仮に、刊行物2において、自動車をピットに搬入するのが運転者による車両の自走であったとしても、最後には、車両の自走ではなく誘導ローラにてドラム頂上部の所定位置に自動車の車輪を誘導・セットしている。)、そのための技術が一軸シャシダイナモメータおよび自動車車輪横滑り測定装置の測定・試験内容と関係なく両者に共通することは当業者にとって明らかであるから、刊行物2に記載されたドラム頂上部の所定位置に自動車の車輪を誘導・セットする上記構成を、一軸シャシダイナモメータである刊行物1のドラム頂上部の所定位置に自動車の車輪を誘導・セットする構成として採用することに困難はなく、
刊行物2の上記構成においては、車輪支承部材の一部(ローラ22,22’)がピット1の上面よりもわずかに下側となる位置からドラムに沿ってドラムの頂上部方向にピット1の上面よりも上側まで斜め方向に平行移動させるものであるから、
床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置とすることや、車輪支承部材を床板下側から、床板と床板におけるドラムを表出させるための開口部を通してドラムの頂上部方向に床板上側まで斜め方向に平行移動させることは、上記の置き換えに際し、当業者が自然となすことである。
そして、エアシリンダによって部材を平行移動させるにあたってスライド部材を利用することは本件出願前周知慣用技術(例えば、特開昭63-231048号公報参照)であって、刊行物2の車輪支承手段の平行移動にこのような周知慣用技術を適用することに困難はなく、また、スライド部材を凹形とすることは当業者が適宜設計変更できることである。

以上の検討によれば、本件発明1は、刊行物1、刊行物2に記載された発明、周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
被請求人は、一軸シャシダイナモメータと、自動車車輪横滑り測定装置やホイールアライメントやドラムテスタとの技術的要請の相違、技術分野の相違を主張し、本件発明1の作用効果について主張するが、いずれの装置においてもドラムを回転させ始める前にドラム頂上部の所定位置に自動車の車輪を誘導・セットすることが要請される点で相違はなく、その要請を解決するための技術においては測定・試験の内容の相違や技術分野の相違は問題とならない。
そして、一軸シャシダイナモメータの基本構成としての床板、ドラム、床板とドラムとの開口部は刊行物1に記載・図示されているのであって、刊行物1、刊行物2に記載された発明、周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができた一軸シャシダイナモメータの構成は、被請求人の主張する本件発明1の作用効果を自ずと有することになるものである。

(3)本件発明2について
本件発明2と刊行物1に記載されたシャシーダイナモメータを対比すると、両者は、
「床板におけるドラムを表出させるための開口部位置に設けられたドラムの周面上に自動車の駆動車輪が載置される自動車性能試験用の一軸シャシダイナモメータにおいて、
前記ドラムの頂上部側における径方向の両側に一対の車輪支承部材が配置され、
かつこの一対の車輪支承部材が前記頂上部よりも上位で、その頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する位置と、駆動車輪から離れた位置である車輪解放位置との間を移動可能にあるとともに、
前記各車輪支承部材の駆動手段が設けられ、
前記一対の車輪支承部材をドラムの頂上部方向に移動させて、その一対の車輪支承部材で前記ドラム周面上に位置させた駆動車輪を周面両側から支持して、その駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し、自動車を固定したのち、前記車輪支承部材を前記車輪解放位置に移動させることを特徴とする一軸シャシダイナモメータ。」
として一致するが、次の点で相違する。

相違点2;
本件発明2では、
一対の車輪支承部材が、ドラムの頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する位置と、駆動車輪から離れた、床板とドラムとの間の床板下側の位置であって車輪支承部材の一部が真上からみて前記開口部の縁から表出する位置である車輪解放位置との間をスライド可能にあるとともに、
前記一対の車輪支承部材を床板下側から前記開口部を通してドラムの頂上部方向に床板上側まで斜め方向にスライドさせて駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し、自動車を固定したのち、前記車輪支承部材を前記開口部を通して前記車輪解放位置にスライドさせることを特徴とするのに対し、

刊行物1に記載された発明では、
一対の車輪支承部材が、ドラムの頂上部に位置した駆動車輪の周面両側に接する、床板上側の位置と、駆動車輪から離れた位置である車輪解放位置(ピットカバーの一部に設けたセットローラ控え部)との間を移動可能にあるとともに、前記一対の車輪支承部材をドラムの頂上部方向に床板上側まで移動させて駆動車輪の位置をドラム周面の所定位置に設定し、自動車を固定したのち、前記車輪支承部材を前記車輪解放位置に移動させることを特徴とする点。

相違点3;
一対の車輪支承部材につき、本件発明2では、
「更に、前記一対の車輪支承部材がドラム頂上部の方向に付勢ばねで付勢されており、」と規定されているのに対し、
刊行物1に記載された発明では、その規定が記載されていない点。

上記相違点について検討するに、
凹形スライド部材の限定を欠く本件発明2と刊行物1に記載された発明との一致点と相違点2については、前示の、本件発明1と刊行物1に記載された発明との一致点と相違点1についての検討・説示があてはまる。

また、相違点3については、エアシリンダにばねを併用することが本件出願前周知慣用技術(例えば、刊行物3、特開平2-52863号公報、特開平2-284773号公報参照)であって、刊行物2の駆動手段(エアシリンダ)と車輪支承手段との部分にこのような周知慣用技術を適用することは当業者が適宜なしうることである。

以上の検討によれば、本件発明2は、刊行物1、刊行物2に記載された発明、周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

[7]結論
以上のとおり、訂正後の請求項1および請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものと認められ、他の無効理由についての検討判断を示すまでもなく、平成15年改正前特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
審判に関する費用は、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定を適用して、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-06-23 
結審通知日 2004-06-25 
審決日 2004-07-07 
出願番号 特願平4-358402
審決分類 P 1 112・ 121- Z (G01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 菊井 広行  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 福島 浩司
水垣 親房
登録日 1998-07-03 
登録番号 特許第2797095号(P2797095)
発明の名称 一軸シャシダイナモメータ  
代理人 吉原 省三  
代理人 小松 勉  
代理人 西村 竜平  
代理人 伊原 友己  
代理人 中澤 直樹  
代理人 角田 敦志  

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