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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1125337
審判番号 不服2003-10862  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-04-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-06-12 
確定日 2005-10-27 
事件の表示 特願2000-309420「医療情報システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月19日出願公開、特開2002-117143〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年10月10日の出願であって、平成15年5月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月12日に拒絶査定に対する審判の請求がなされるとともに、同年7月10日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成15年7月10日付けの手続補正についての却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年7月10日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の特許請求の範囲
本補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】複数のクライアント装置と、医療関連施設毎に設けられ且つ前記複数のクライアント装置のうち同一医療関連施設に設置された一又は複数のクライアント装置に夫々接続された複数の施設別サーバー装置と、前記医療関連施設毎に設けられておらず前記複数の施設別サーバー装置に通信手段を介して接続されたデータ集積用サーバー装置とを備えており、
前記複数のクライアント装置は夫々、医療用アプリケーションプログラムを利用して各患者の医療に関する情報を示す患者医療データを入力及び参照可能であり、
前記施設別サーバー装置は、前記接続されたクライアント装置で入力及び参照される患者医療データの少なくとも一部を患者毎に保持すると共に該保持した患者医療データのうちの一部分を所定規約又は外部指定に従って抽出し、
前記データ集積用サーバー装置は、前記施設別サーバー装置で抽出された患者医療データ部分を、患者毎に少なくとも一時的に保持し、
前記データ集積用サーバー装置は、前記複数のクライアント装置間で送受信されると共に任意の患者に関するメールデータを該任意の患者に関する前記患者医療データ部分に対応付け、且つ当該メールデータの宛先別に一時的に格納するメールボックスを有し、
一のクライアント装置は、他のクライアント装置宛てに前記メールデータを前記メールボックスに送信可能に構成されており、該一のクライアント装置は更に、該一のクライアント装置宛てのメールデータを、該一のクライアント装置宛てのメールデータと一緒に前記データ集積用サーバ装置に対して送信されずに該一のクライアント装置宛てのメールデータの送信よりも前に前記データ集積用サーバ装置に保持されていた患者医療データ部分であって前記データ集積用サーバー装置で前記メールボックスにおいて該一のクライアント装置宛てのメールデータに対応付けられた前記患者医療データ部分と一緒に受信しこれらを相互に関連付け或いは紐付けされた一組のデータとして取り込み可能に構成されていることを特徴とする医療情報システム。」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明の発明特定事項にさらに限定事項を加えて補正後の請求項1としたものであり、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本補正後の前記請求項1に記載されている発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができ、本補正が平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定を満たすものであるかについて以下検討する。

(2)引用例
(2-1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-143956号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(摘記箇所は段落番号により特定する。)
ア 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】医療機関が他の医療機関に患者を紹介する場合に、現状ではカルテの電子化が普及していないため、多くはX線フィルムや手書きの診療情報報告書をファックスや郵送によって他の医療機関へ送っている。このような状況では患者の診療情報を詳しく伝達することは困難である。上記のようなバックアップセンターが構築され電子カルテが公開されれば、紹介先の医療機関が紹介元の医療機関に属する患者の診療情報を引き出して参照することが可能となる。しかし医療機関が自由にバックアップセンターの電子カルテを参照できる状態では、患者の診療情報が流出する恐れがあり、プライバシィ上の問題が大きい。従ってカルテ公開の対象を各紹介患者についての紹介先医療機関に限定するように診療情報を開示する方式が望まれる。
【0004】本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは紹介患者の診療情報を作成して該当する他医療機関に開示する方法及び装置を提供することにある。」
イ 「【0008】図1は、本実施形態の紹介患者の診療情報を複数医療機関の間で共有するシステムの構成図である。システムは、バックアップセンターに設置される紹介患者サーバ1及び電子カルテサーバ2と、紹介元医療機関計算機3,紹介先医療機関計算機4など各医療機関に設置される計算機と、バックアップセンターのサーバ1,2と各医療機関の計算機3,4,・・・との間を接続するネットワーク30から構成される。20は紹介患者サーバ1と電子カルテサーバ2とを接続する伝送路である。
【0009】電子カルテデータベース(DB)12は、紹介元医療機関計算機3の記憶装置に格納され、当該医療機関が作成した電子カルテを保有する。電子カルテDB13は、紹介先医療機関計算機4の記憶装置に格納され、当該医療機関が作成した電子カルテを保有する。電子カルテDB11は、電子カルテサーバ2の記憶装置に格納され、計算機3,4など各医療機関計算機から送られた各医療機関の電子カルテのコピーを蓄積する。電子カルテサーバ2は、計算機3,4などの計算機から送られた電子カルテを電子カルテDB11に登録し、また紹介患者サーバ1からの検索要求に応じて電子カルテDB11を検索し、目的の電子カルテを紹介患者サーバ1に渡す。
【0010】紹介患者診療情報ファイル14は、紹介患者サーバ1の記憶装置に格納され、紹介患者別、紹介先医療機関別に紹介患者の電子カルテの内容を登録する。紹介患者サーバ1の主記憶装置にはファイル作成部15及びファイル照会処理部16の各アプリケーションプログラムが格納され、紹介患者サーバ1の処理装置によって実行される。ファイル作成部15は、紹介元医療機関計算機3から紹介患者診療情報の登録要求があったとき、指定された紹介患者の電子カルテを電子カルテサーバ2から取得し、紹介患者及び紹介先医療機関の識別情報を付加して紹介患者診療情報ファイル14に登録する。ファイル照会処理部16は、紹介先医療機関計算機4から紹介患者診療情報の照会があったとき、紹介患者診療情報ファイル14を検索して指定された紹介患者の電子カルテ内容を取り出して紹介先医療機関計算機4へ送信する。このようにして紹介先医療機関計算機4は、紹介患者サーバ1を介して紹介元医療機関計算機3によって作成された電子カルテを共有することができる。
【0011】なおファイル作成部15及びファイル照会処理部16のプログラムを記憶媒体に格納して図示しない駆動装置を介して紹介患者サーバ1の主記憶装置に読み込むか又はネットワークを介して紹介患者サーバ1へ伝送し、紹介患者サーバ1の主記憶装置に格納して実行することが可能である。また紹介患者サーバ1と電子カルテサーバ2の機能を1台の情報処理装置に統合することも可能であり、その場合には伝送路20は不要である。また逆に紹介患者サーバ1はバックアップセンターとは直接関係しないので、バックアップセンターから独立した別の機関が管理するものとし、紹介患者サーバ1と電子カルテサーバ2の間をネットワークで接続するよう構成しても本発明を実施できる。」
ウ 「【0013】各医療機関が蓄積する電子カルテDB12,13,・・・の内容が定期的に計算機3,4,・・・及びネットワーク30を介してバックアップセンターの電子カルテサーバ2へ送られ、電子カルテサーバ2は電子カルテDB11に格納し、蓄積する。
【0014】図3は、紹介患者サーバ1のファイル作成部15及び電子カルテサーバ2の処理の流れを示すフローチャートである。他の医療機関に紹介する患者が生じたとき、紹介元医療機関計算機3は、ネットワーク30を介して紹介患者サーバ1へ患者識別情報及び紹介先医療機関コードを送信する。ファイル作成部15は、これらの情報を受信する(ステップ61)。次にファイル作成部15は、ユーザの認証を行った後、受け取った患者識別情報及び紹介先医療機関コードを電子カルテサーバ2へ送り、検索要求を発行する(ステップ62)。電子カルテサーバ2は、この検索要求を受診し(ステップ63)、ユーザの認証を行った後、患者識別情報と紹介先医療機関コードをキーにして電子カルテDB11を検索する(ステップ64)。次に電子カルテサーバ2は、得られた1件の電子カルテを紹介患者サーバ1へ送信する(ステップ65)。ファイル作成部15は、この電子カルテを受信し(ステップ66)、この電子カルテに紹介先医療機関コードと患者識別情報を含むヘッダを付加し、全体の情報を紹介先医療機関の暗号化キーによって暗号化し(ステップ67)、紹介患者診療情報ファイル14に格納する(ステップ68)。
【0015】図4は、ファイル照会処理部16の処理の流れを示すフローチャートである。紹介先医療機関は、紹介元医療機関からの連絡によってバックアップセンターに紹介患者の診療情報が登録されたことを知り、紹介患者の来診を契機としてその診療情報を取得することができる。紹介先医療機関計算機4は、ネットワーク30を介して紹介患者サーバ1へ紹介患者の識別情報及び紹介先医療機関コードを送信する。ファイル照会処理部16は、これらの情報を受信する(ステップ71)。次にファイル照会処理部16は、ユーザの認証を行った後、紹介先医療機関コードと患者識別情報をキーにして紹介患者診療情報ファイル14を検索し(ステップ72)、得られた電子カルテの内容を紹介先医療機関計算機4へ送信する(ステップ73)。紹介先医療機関計算機4は、この電子カルテを受信し、紹介先医療機関の暗号化キーによって復号して表示装置上に表示する。
【0016】なお紹介患者について紹介先医療機関から紹介元医療機関へ診療経過を報告する場合又は紹介元医療機関へ患者を戻す場合にも紹介先医療機関及び紹介元医療機関は、紹介患者サーバ1を利用することができる。すなわち紹介先医療機関計算機4が紹介患者について作成した電子カルテを電子カルテDB13に格納し、バックアップセンターの電子カルテDB11に蓄積すれば、紹介先医療機関が逆に紹介元医療機関の役割をし、紹介元医療機関が逆に紹介先医療機関の役割をして上記処理を行うことによって、紹介先医療機関計算機4が作成した紹介患者の電子カルテが紹介患者診療情報ファイル14に登録され、紹介元医療機関計算機3は紹介患者についての新たな診療情報を取得することができる。
【0017】
【発明の効果】本発明によれば、バックアップセンターの電子カルテを利用して紹介患者についての診療情報を他の医療機関に引き渡すので、他の医療機関は容易に紹介患者の詳細な診療情報を参照することができる。しかも診療情報は指定された医療機関に限定して開示されるため、診療情報の不本意な流出を防止できる。」

これらの記載事項及び図1によれば、刊行物1には、
「紹介患者の診療情報を複数医療機関の間で共有するシステムであって、システムは、バックアップセンターに設置される紹介患者サーバ1及び電子カルテサーバ2と、紹介元医療機関計算機3,紹介先医療機関計算機4など各医療機関に設置される計算機と、バックアップセンターのサーバ1,2と各医療機関の計算機3,4,・・・との間を接続するネットワーク30から構成される。電子カルテデータベース(DB)12は、紹介元医療機関計算機3の記憶装置に格納され、当該医療機関が作成した電子カルテを保有する。電子カルテDB13は、紹介先医療機関計算機4の記憶装置に格納され、当該医療機関が作成した電子カルテを保有する。電子カルテDB11は、電子カルテサーバ2の記憶装置に格納され、計算機3,4など各医療機関計算機から送られた各医療機関の電子カルテのコピーを蓄積する。電子カルテサーバ2は、計算機3,4などの計算機から送られた電子カルテを電子カルテDB11に登録し、また紹介患者サーバ1からの検索要求に応じて電子カルテDB11を検索し、目的の電子カルテを紹介患者サーバ1に渡す。各医療機関が蓄積する電子カルテDB12,13,・・・の内容が定期的に計算機3,4,・・・及びネットワーク30を介してバックアップセンターの電子カルテサーバ2へ送られ、電子カルテサーバ2は電子カルテDB11に格納し、蓄積する。他の医療機関に紹介する患者が生じたとき、紹介元医療機関計算機3は、ネットワーク30を介して紹介患者サーバ1へ患者識別情報及び紹介先医療機関コードを送信する。次に紹介患者サーバ1のファイル作成部15は、受け取った患者識別情報及び紹介先医療機関コードを電子カルテサーバ2へ送り、検索要求を発行する。電子カルテサーバ2は、患者識別情報と紹介先医療機関コードをキーにして電子カルテDB11を検索する。次に電子カルテサーバ2は、得られた1件の電子カルテを紹介患者サーバ1へ送信する。ファイル作成部15は、この電子カルテを受信し、この電子カルテに紹介先医療機関コードと患者識別情報を含むヘッダを付加し、紹介患者診療情報ファイル14に格納する。紹介先医療機関は、紹介元医療機関からの連絡によってバックアップセンターに紹介患者の診療情報が登録されたことを知り、紹介患者の来診を契機としてその診療情報を取得することができる。紹介先医療機関計算機4は、ネットワーク30を介して紹介患者サーバ1へ紹介患者の識別情報及び紹介先医療機関コードを送信する。ファイル照会処理部16は、紹介先医療機関コードと患者識別情報をキーにして紹介患者診療情報ファイル14を検索し、得られた電子カルテの内容を紹介先医療機関計算機4へ送信する。」という発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(2-2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-276538号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(摘記箇所は段落番号により特定する。)
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、医療従事者間の連絡事項の入力及び表示を行う電子カルテシステムに関する。」
イ 「【0003】しかしながら、上記連絡媒体にアクセスするのは、医療従事者が記録または参照する時であるため、例えば、患者の訴えなど刻々と変化するものをリアルタイムに伝達することができない。 一方電子カルテシステムは、患者の診療情報を一元的に管理するシステムであり、医療従事者間で診療情報を共有することで、診療の質的向上を図ることを目的とする。従来の電子カルテシステムにおける連絡機能としては、医療情報学10(3)、1990:227-242「電子カルテによる外来診療」大橋他1に示すように、既存の電子メール機能を併用する。例えば上記文献では、電子メールを複数の診療科間での診療情報交換の手段として利用し、カルテの一部をメールに添付したり、逆に返事をカルテに添付したりする。また、院外のやりとりとして、医師の生涯教育情報や最新医学情報などをセンターから各医師の端末に配布する等の利用が記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような既存の電子メールシステムにより、前述の頻繁に行われる連絡を運用するとなると、電子メールにカルテや看護記録を毎回添付することになり、データは膨大化し、また画像など容量の大きな添付ファイルがあると通信の負荷が大きくなる。更に、毎回添付ファイルを開いて情報を確認することで画面操作が煩雑になる等の問題点があった。」

(2-3)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-148895号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(摘記箇所は段落番号により特定する。)
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、病院で医師が診療の記録をするための電子カルテシステムに関するものである。」
イ 「【0011】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の電子カルテシステムの一実施形態を示す構成図である。病院内に、ネットワーク回線を介してサーバ用のコンピュータと端末用のコンピュータがそれぞれ複数台設置される。図1においては、サーバ用のコンピュータとして、電子カルテサーバ1、検査サーバ2、3が設置されている。また、端末用コンピュータとして、臨床医用端末5、検査端末6、7が設置されている。そして、それぞれのコンピュータはネットワーク回線4を介して接続されている。ここでは、臨床医用端末5は主に電子カルテサーバ1に接続して用い、検査端末6は主に検査サーバ2に接続して用い、検査端末7は検査サーバ3に接続して用いる。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「医療機関」は本願補正発明の「医療関連施設」に相当する。
引用発明の「各医療機関に設置される計算機」も本願補正発明の「複数のクライアント装置と、医療関連施設毎に設けられ且つ前記複数のクライアント装置のうち同一医療関連施設に設置された一又は複数のクライアント装置に夫々接続された複数の施設別サーバー装置」も「医療関連施設毎に設けられる計算機システム」という点では一致している。
引用発明の「ネットワーク30」及び「電子カルテサーバ2」は、それぞれ本願補正発明の「通信手段」及び「データ集積用サーバー装置」に相当する。
引用発明の医療機関に設置される計算機3,4は電子カルテデータベース12,13を有し、当該医療機関が作成した電子カルテを保有するものであり、この電子カルテは本願補正発明の「各患者の医療に関する情報を示す患者医療データ」に相当し、その名のとおりカルテとして機能するから、入力及び参照が可能でありかつ患者毎に保持されることは明らかである。そして、計算機であるから「医療用アプリケーションプログラムを利用して」いることも明らかである。
してみると、本願補正発明と引用発明は、
「医療関連施設毎に設けられる計算機システムと、
前記医療関連施設毎に設けられておらず前記複数の医療関連施設毎に設けられる計算機システムに通信手段を介して接続されたデータ集積用サーバー装置とを備えており、
前記複数の医療関連施設毎に設けられる計算機システムは夫々、医療用アプリケーションプログラムを利用して各患者の医療に関する情報を示す患者医療データを入力及び参照可能であり、入力及び参照される患者医療データの少なくとも一部を患者毎に保持すること、
を特徴とする医療情報システム。」
である点で一致し、下記の点で相違する。

(相違点1)本願補正発明の医療関連施設毎に設けられる計算機システムは、「複数のクライアント装置と、医療関連施設毎に設けられ且つ前記複数のクライアント装置のうち同一医療関連施設に設置された一又は複数のクライアント装置に夫々接続された複数の施設別サーバー装置」でなるのに対し、引用発明の医療関連施設毎に設けられる計算機システムは、単独の計算機及びその記憶装置に格納されるデータベースからなる点。
(相違点2)本願補正発明では、施設別サーバ装置は、保持した患者医療データのうちの一部分を所定規約又は外部指定に従って抽出し、前記データ集積用サーバー装置は、前記施設別サーバー装置で抽出された患者医療データ部分を、患者毎に少なくとも一時的に保持するのに対し、引用発明では、電子カルテの一部分を抽出することなく、電子カルテサーバは各医療機関計算機から送られた電子カルテのコピーを蓄積するものである点。
(相違点3)本願補正発明では、データ集積用サーバー装置は、前記複数のクライアント装置間で送受信されると共に任意の患者に関するメールデータを該任意の患者に関する前記患者医療データ部分に対応付け、且つ当該メールデータの宛先別に一時的に格納するメールボックスを有し、一のクライアント装置は、他のクライアント装置宛てに前記メールデータを前記メールボックスに送信可能に構成されており、該一のクライアント装置は更に、該一のクライアント装置宛てのメールデータを、該一のクライアント装置宛てのメールデータと一緒に前記データ集積用サーバ装置に対して送信されずに該一のクライアント装置宛てのメールデータの送信よりも前に前記データ集積用サーバ装置に保持されていた患者医療データ部分であって前記データ集積用サーバー装置で前記メールボックスにおいて該一のクライアント装置宛てのメールデータに対応付けられた前記患者医療データ部分と一緒に受信しこれらを相互に関連付け或いは紐付けされた一組のデータとして取り込み可能に構成されているのに対し、引用発明では、紹介患者サーバが電子カルテサーバから受信した電子カルテにヘッダを付加し、紹介先医療機関はこれを取得するものである点。

(4)判断
ア 上記(相違点1)について検討する。
引用発明の医療機関に設置される計算機は電子カルテを扱うものであり、電子カルテシステムとして病院内に電子カルテサーバと複数の端末からなるものが刊行物3に記載されているから、引用発明の医療機関に設置される計算機を刊行物3に記載された発明に置き換えることは、当業者が容易になし得ることである。
その上で、技術常識であるサーバクライアントシステムを前提とすれば、刊行物3に記載された発明の電子カルテサーバ及び端末は、それぞれ本願補正発明の「施設別サーバ装置」及び「クライアント装置」に相当することは当業者にとって明らかである。
イ 上記(相違点2)について検討する。
引用発明では医療機関で作成した電子カルテの内容が定期的に電子カルテサーバに送られ蓄積されるものであるが、このときにプライバシーの問題に配慮しなければならないことが刊行物1に記載されている((2-1)ア参照)。そして電子カルテシステムにおいて、プライバシーの保護のためにカルテ情報入力者の指定に従って電子カルテの一部を削除してから格納することは周知である(特開平7-56989号公報の段落0036及び0037参照)から、上記刊行物1に記載された示唆に従い上記周知技術を引用発明に組み合わせることは当業者が容易になし得ることである。
してみると、上記アで述べたように医療機関側に施設別サーバ装置があることを前提とすれば、施設別サーバ装置において電子カルテの一部を削除、すなわち残りを抽出しそのデータ部分をデータ集積用サーバー装置に格納することは当然に導出される。
なお、データ集積用サーバー装置において上記データ部分を「患者毎に」保持することは、もともとカルテが患者毎に作成されるものであることから、容易に思いつくことである。また、「少なくとも一時的に」保持することは、永続的に保持することも含むものであるから結局時間については無限定であることに帰着し格別の意義は認められない。
ウ 上記(相違点3)について検討する。
引用発明では、電子カルテとは別途、紹介元医療機関から紹介先医療機関への連絡がされるが、もともと引用発明はコンピュータネットワークを用いるシステムであるから、周知の電子メール技術によりこの「連絡」を行うことは当業者が容易に思いつくことである。
すると、電子メール技術を実現するためにメールサーバが必要になるが、刊行物1にはサーバ機能を1台の装置に統合させることが記載されている((2-1)イの段落0011参照)から、この示唆に従いメールサーバ機能を電子カルテサーバに持たせること、すなわちデータ集積用サーバ装置にメールデータの宛先別に一時的に格納するメールボックスを設けることは、当業者が容易に導出できることである。
そして、上記のように設計すれば電子カルテサーバから紹介先医療機関へ、連絡としての電子メールと電子カルテが送信されることになり、電子カルテの一部を電子メールに添付して送信することが刊行物2に記載されていることから、メールデータに対応付けられた患者医療データ部分を添付しこれらを相互に関連付け或いは紐付けされた一組のデータとしてクライアント装置に取り込み可能に構成することは当業者が容易になしうることである。
この際に、紹介元医療機関から電子カルテサーバへは電子カルテの内容が定期的に送られているから、データの膨大化を避けるため((2-2)イの段落0004参照)、紹介元医療機関から電子カルテサーバへの電子メールに電子カルテを添付せずに上記定期的に送られた電子カルテを利用することは当業者にとって容易に想到しうることである。してみると、引用発明がもともと上記定期的に送られた電子カルテを患者識別情報により対応付けるものであるから、同様にして、前記複数のクライアント装置間で送受信されると共に任意の患者に関するメールデータを該任意の患者に関する前記患者医療データ部分に対応付けること、そして、患者医療データ部分として、一のクライアント装置宛てのメールデータと一緒に前記データ集積用サーバ装置に対して送信されずに該一のクライアント装置宛てのメールデータの送信よりも前に前記データ集積用サーバ装置に保持されていた患者医療データ部分を用いることは、当業者が容易になしうることである。
また、本願補正発明の奏する効果を検討してみても、引用発明及び各刊行物の記載並びに技術常識から想定される範囲を越えるものではない。
したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成15年7月10日付けの手続補正は上記2.のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年3月3日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】複数のクライアント装置と、医療関連施設毎に設けられ且つ前記複数のクライアント装置のうち同一医療関連施設に設置された一又は複数のクライアント装置に夫々接続された複数の施設別サーバー装置と、該複数の施設別サーバー装置に通信手段を介して接続されたデータ集積用サーバー装置とを備えており、
前記複数のクライアント装置は夫々、医療用アプリケーションプログラムを利用して各患者の医療に関する情報を示す患者医療データを入力及び参照可能であり、
前記施設別サーバー装置は、前記接続されたクライアント装置で入力及び参照される患者医療データの少なくとも一部を患者毎に保持すると共に該保持した患者医療データのうちの一部分を所定規約又は外部指定に従って抽出し、
前記データ集積用サーバー装置は、前記施設別サーバー装置で抽出された患者医療データ部分を、患者毎に少なくとも一時的に保持し、
前記データ集積用サーバ装置は、前記複数のクライアント装置間で送受信されると共に任意の患者に関するメールデータを該任意の患者に関する前記患者医療データ部分に対応付け、且つ当該メールデータの宛先別に一時的に格納するメールボックスを有し、
一のクライアント装置は、他のクライアント装置宛てに前記メールデータを前記メールボックスに送信可能に構成されており且つ該一のクライアント装置宛てのメールデータを前記データ集積用サーバー装置で該一のクライアント装置宛てのメールデータに対応付けられた前記患者医療データ部分と一緒に受信しこれらを相互に関連付け或いは紐付けされた一組のデータとして取り込み可能に構成されていることを特徴とする医療情報システム。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明の「データ集積用サーバー装置」についての「前記医療関連施設毎に設けられておらず」という限定、及び「患者医療データ部分」について「該一のクライアント装置宛てのメールデータと一緒に前記データ集積用サーバ装置に対して送信されずに該一のクライアント装置宛てのメールデータの送信よりも前に前記データ集積用サーバ装置に保持されていた」という限定を省いて表現を変えたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の要素を含むものに相当する本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本願は他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-23 
結審通知日 2005-08-30 
審決日 2005-09-12 
出願番号 特願2000-309420(P2000-309420)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 丹治 彰  
特許庁審判長 杉山 務
特許庁審判官 大野 弘
深沢 正志
発明の名称 医療情報システム  
代理人 江上 達夫  

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