• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60G
管理番号 1125357
審判番号 不服2002-7204  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-11-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-04-25 
確定日 2005-10-27 
事件の表示 平成 7年特許願第106185号「サスペンションアーム」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月12日出願公開、特開平 8-295111〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成 7年 4月28日の出願であって、平成14年 3月19日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成14年 4月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願請求項1に係る発明は、平成12年11月 9日付け手続補正書、平成14年 5月24日付け手続補正書及び平成17年 8月 3日付け手続補正書により補正された明細書における特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「【請求項1】 断面コ字状とされた第1板部材の側部と断面コ字状とされた第2板部材の側部とを溶接することにより中空矩形閉断面構造のアームが構成され、およそ第1板部材から第2板部材へ向かう方向を軸線方向とする円筒状のブッシュ支持部を有するサスペンションアームであって、
第1板部材の所定部位を側部より内側でアーム断面内方へ折り曲げることにより設けられた第1円筒状部と、第2板部材の所定部位を側部より内側でアーム断面内方へ折り曲げることにより設けられた第2円筒状部とによってブッシュ支持部付近のアーム断面形状を部分的な二重円筒形状にすると共に、第1円筒状部及び第2円筒状部の端部同士を互いに対向して配置させ、
かつ第2板部材の側部に第1板部材の側部を所定長さだけ重ね合わせた状態で、第1板部材の側部の端末部にて溶接することにより、ブッシュ支持部の外周側を含めて第1板部材の側部と第2板部材の側部とを接合し、
さらに、第1円筒状部と被溶接部位である第1板部材の側部との間及び第2円筒状部と被溶接部位である第2板部材の側部との間に、第1円筒状部及び第2円筒状部に沿う前記各側部の溶接時の熱が第1円筒状部及び第2円筒状部に直接伝達されるのを阻止するための所定の隙間がそれぞれ設けられており、
かつ第2円筒状部と被溶接部位である第2板部材の側部との間に設けられた隙間の間隙寸法を、第1円筒状部と被溶接部位である第1板部材の側部との間に設けられた隙間の間隙寸法並びに第2板部材の板厚よりも小さく設定し、
前記第1円筒状部と前記第2円筒状部とによって上記ブッシュ支持部が構成されている、
ことを特徴とするサスペンションアーム。」

3.引用例
(1)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-143953号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】断面コの字状の上板部材と下板部材の外周端部を接合した中空のサスペンションアームにおいて、前記上板部材の上部をサスペンションアームの内方に折り曲げ形成した第1筒状部と、前記下板部材の下部をサスペンションアームの内方に折り曲げ形成した第2筒状部とを設け、前記第1筒状部の端部と第2筒状部の端部とを溶接接合したことを特徴とするサスペンションアーム。」(【特許請求の範囲】)
(b)「【産業上の利用分野】本発明は、自動車等の車両のサスペンションアームに関する。」(段落【0001】)
(c)「上記のL型アームはストラット独立懸架装置として用いられるものであり、図3に示すように、20は車輪21を回転可能に支持するキャリアである。サスペンションアームとしてのL型アーム10は外端にてボールジョイント22を介してキャリア20の下端を揺動可能に支持し、車両側の端部にて図示されないゴムブッシュを含むジョイント23により図示されない車体に枢支されている。また、キャリア20の上端は、ブラケット24によってストラット25の下端部に固定される。ストラット25は、その上端部において、アッパーサポート26により図示されない車体に枢支されている。」(段落【0009】)
(d)「サスペンションアームとしてのL型アーム10は、図1及び図2に示すよう、鋼板をプレス成形した断面コの字状の上板部材1と下板部材2を重ね合わせて、その外周部を溶接することにより形成されている。」(段落【0010】)
(e)「L型アーム10の上板部材1の略中央部には、コの字形状の内方に向かって延びる筒状部6(第1筒状部)が上部1aをバーリング加工することによって折り曲げ形成されており、L型アーム10の下板部材2の略中央部には、コの字形状の内方に向かって延びる筒状部7(第2筒状部)が下部2aをバーリング加工によって折り曲げ形成されている。筒状部6と筒状部7とは端部において重ね合わされており、筒状部7の端面と筒状部6の側面を溶接することにより接合されている。なお、3は溶接ビートである。この筒状部6と筒状部7は、中空構造のL型アーム10の比較的面剛性の弱い中央部を補強するので、L型アーム10の大きな強度が確保される。」(段落【0011】)
(f)「本発明の第1実施例では、L型アーム10の下面に溶接ビードを設けた場合に比較して、図2に示すように溶接ビート3がL型アーム10の内方にあり、しかもL型アーム10の下面より上方の断面略中心付近に設けられているので、飛石・泥水等が直接溶接ビート3の周辺に当たりにくくなる。従って、チッピングに起因するの錆の発生を少なくすることができ、経年後にL型アーム10の強度・剛性が極端に低下することを防止できる。」(段落【0013】)
(g)「また、溶接時の熱により溶接部付近は軟化(HAZ軟化)する。このため、図6に示す従来構造ではセットチューブ42と上板部材40及び下板部材41の溶接ビート43,44がサスペンションアームの上面及び下面に2ヶ所あり、疲労強度上不利な構成となっている。しかし、第1実施例では溶接ビート3はL型アーム10の断面略中心付近に1ヶ所しかないので熱による軟化の及ぶ範囲は狭くなり、疲労強度が向上する。」(段落【0014】)
(h)「次に第3実施例を図5に基づいて説明する。
図5は第3実施例の要部断面図であり、図2と同じ部分の断面を示した図である。第3実施例のサスペンションアームは第1実施例のような断面コの字状の上板部材30の上部30aをサスペンションアーム内方に折り曲げ加工した筒状部33(第1筒状部)と断面コの字状の下板部材31の下部31aをサスペンションアーム内方に折り曲げ加工した筒状部34(第2筒状部)が設けられ、上板部材30と下板部材31を重ね合わせ、その外周部を溶接した中空のL型アーム35である。筒状部33と筒状部34とは端面において重ね合わされており、筒状部33の端部と筒状部34の端部を溶接することにより接合されている。なお、32は溶接ビートである。第3実施例においても、補強部材を接合形成する溶接ビート32はL型アーム35の内方にあり、しかもL型アーム35の下面より上方の断面略中心付近にあるので、チッピングに起因する錆の発生を少なくすることができる。」(段落【0018】)

したがって、明細書及び図面の図1〜3に記載された技術事項によれば、引用例1には、実質的に、次の発明が記載されているものと認められる。
「断面コ字状とされた上板部材1の外周部と断面コ字状とされた下板部材2の外周部とを溶接することにより中空矩形閉断面構造のL型アーム10が構成され、およそ上板部材1から下板部材2へ向かう方向を軸線方向とする円筒状のゴムブッシュを含むジョイント23を有するサスペンションアーム。」

(2)同じく、独国特許出願公開第4132779号明細書(以下、「引用例2」という。)には、明細書及び図面を参酌すれば以下の事項が記載されている。
「軸支柱1は原動機付き車両、特に、貨物自動車用のためのものであって、その基本的な組立てにおいて端面の軸受け突起部2を軸受けピボット4付きゴム製軸受け3の受入れ用に有しており、その際、軸受け突起部2は軸受け頭部5に位置し、両方の軸受け頭部5は中空のシャフト6の上へ相互に結合されている。両方の軸受5a、5bは軸受け突起部2の領域においてU字型の断面を示し、この断面は中空のシャフト6に5a、5bは予め規定された厚さの薄鋼板からなっている。その上半曲面版5a、5bは加圧および/または加圧をもとに製造された半曲面版として形成されている。半曲面版5a、5bは外部に位置するU字型の脚7a、7bおよび/または半管の脚に相互に溶接される。相互に溶接された半曲面版5a、5bは軸受け頭部を形成している。」

4.対 比
本願発明と引用例1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比するに、引用発明の「上板部材1」、「下板部材2」、「上板部材1の外周部」、「下板部材2の外周部」、及び「円筒状のゴムブッシュを含むジョイント23」は、それぞれ本願発明の「第1板部材」、「第2板部材」、「第1板部材の側部」、「第2板部材の側部」、及び「円筒状のブッシュ支持部」に相当するから、両者は、
[一致点]
「断面コ字状とされた第1板部材の側部と断面コ字状とされた第2板部材の側部とを溶接することにより中空矩形閉断面構造のアームが構成され、およそ第1板部材から第2板部材へ向かう方向を軸線方向とする円筒状のブッシュ支持部を有するサスペンションアーム」
の点で一致し、下記の点で相違するものと認められる。
[相違点1]
本願発明は、第1板部材の所定部位を側部より内側でアーム断面内方へ折り曲げることにより設けられた第1円筒状部と、第2板部材の所定部位を側部より内側でアーム断面内方へ折り曲げることにより設けられた第2円筒状部とによってブッシュ支持部付近のアーム断面形状を部分的な二重円筒形状にすると共に、第1円筒状部及び第2円筒状部の端部同士を互いに対向して配置させ、第1板部材の所定部位を側部より内側でアーム断面内方へ折り曲げることにより設けられた第1円筒状部と、第2板部材の所定部位を側部より内側でアーム断面内方へ折り曲げることにより設けられた第2円筒状部とによってブッシュ支持部付近のアーム断面形状を部分的な二重円筒形状にすると共に、第1円筒状部及び第2円筒状部の端部同士を互いに対向して配置させ、かつ第2板部材の側部に第1板部材の側部を所定長さだけ重ね合わせた状態で、第1板部材の側部の端末部にて溶接することにより、ブッシュ支持部の外周側を含めて第1板部材の側部と第2板部材の側部とを接合しているのに対し、引用発明においては、当該構成を備えているか否か明らかでない点。

[相違点2]
本願発明は、第1円筒状部と被溶接部位である第1板部材の側部との間及び第2円筒状部と被溶接部位である側部との間に、第1円筒状部及び第2円筒状部に沿う前記各側部の溶接時の熱が第1円筒状部及び第2円筒状部に直接伝達されるのを阻止するための所定の隙間がそれぞれ設けられており、かつ第2円筒状部と被溶接部位である第2板部材の側部との間に設けられた隙間の間隙寸法を、第1円筒状部と被溶接部位である第1板部材の側部との間に設けられた隙間の間隙寸法並びに第2板部材の板厚よりも小さく設定したのに対し、引用発明においては、当該構成を備えているか否か明らかでない点。

5.当審の判断
(1)相違点1について
上記相違点1について検討するに、まず、該相違点1に係る技術事項中、「第1板部材の所定部位を側部より内側でアーム断面内方へ折り曲げることにより設けられた第1円筒状部と、第2板部材の所定部位を側部より内側でアーム断面内方へ折り曲げることにより設けられた第2円筒状部とによってブッシュ支持部付近のアーム断面形状を部分的な二重円筒形状にすると共に、第1円筒状部及び第2円筒状部の端部同士を互いに対向して配置させ」る点は上記引用例2に記載されている事項である。
そこで、上記相違点1に係る技術事項中、「第2板部材の側部に第1板部材の側部を所定長さだけ重ね合わせた状態で、第1板部材の側部の端末部にて溶接することにより、ブッシュ支持部の外周側を含めて第1板部材の側部と第2板部材の側部とを接合し」た点について検討する。
上記3.(1)(h)のとおり、上記引用例1には、ブッシュ支持部の外周側自体の構成ではないが、「第2板部材の側部に第1板部材の側部を所定長さだけ重ね合わせた状態で、第1板部材の側部の端末部にて溶接する」ことが既に記載されている。
そして、引用例2に記載されている事項も、車輪支持用のための一部材であるサスペンションアームに関するものである点で、本願発明及び引用発明と共通の技術分野に属するものであるから、この技術事項をその延長部上に位置するブッシュ支持部の外周側の構成として採用することに何らこれを阻害する事由は認められない。
したがって、引用発明に引用例2記載の上記技術事項を適用して上記相違点1に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到することができたものである。

(2)相違点2について
上記相違点2について検討するに、まず、該相違点2に係る技術事項中、「第1円筒状部と被溶接部位である第1板部材の側部との間及び第2円筒状部と被溶接部位である側部との間に、第1円筒状部及び第2円筒状部に沿う前記各側部の溶接時の熱が第1円筒状部及び第2円筒状部に直接伝達されるのを阻止するための所定の隙間がそれぞれ設けられて」いる点は上記引用例2に記載されている事項である。(引用例2記載のものも、本願発明と同様に、軸支持部付近を部分的な二重円筒形状にして所定の隙間が形成されているから、各側部の溶接時の熱は各円筒状部に直接伝達されることが阻止されるものと認められる。)
そこで、上記相違点2に係る技術事項中、「第2円筒状部と被溶接部位である第2板部材の側部との間に設けられた隙間の間隙寸法を、第1円筒状部と被溶接部位である第1板部材の側部との間に設けられた隙間の間隙寸法並びに第2板部材の板厚よりも小さく設定した」た点について検討する。
上記相違点1に係る技術事項である「・・・第1円筒状部及び第2円筒状部の端部同士を互いに対向して配置させ、かつ第2板部材の側部に第1板部材の側部を所定長さだけ重ね合わせた状態で、第1板部材の側部の端末部にて溶接することにより、ブッシュ支持部の外周側を含めて第1板部材の側部と第2板部材の側部とを接合し」た構成を備え、かつ実施例のごとくに「第2板部材の側部を第1板部材の側部の内側に配設するならば、「第2円筒状部と被溶接部位である第2板部材の側部との間に設けられた隙間の間隙寸法が、第1円筒状部と被溶接部位である第1板部材の側部との間に設けられた隙間の間隙寸法よりも小さく設定」されることは自明のことである。
加えて、「第2円筒状部と被溶接部位である第2板部材の側部との間に設けられた隙間の間隙寸法を、・・・第2板部材の板厚よりも小さく設定した」点は、本願当初明細書にその構成として記載されている事項でもなく、単に実施例図面の記載からそのように推測できることに過ぎないのであって、設計事項の域を超えるものではない。
そして、上記「(1)相違点1について」における検討のとおりであるから、上記引用例2に記載されている当該技術事項をその延長部上に位置するブッシュ支持部の外周側の構成として採用することに何らこれを阻害する事由は認められない。
したがって、引用発明に引用例2記載の上記技術事項を適用して上記相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到することができたものである。

なお、審判請求人は、平成17年 8月 3日付け意見書において、「本願発明では、<1>第1板部材と第2板部材とを重ね溶接によって溶接接合することにより、溶接時の熱歪みによる変形(溶接部位を起点とした上部及び下部の反り返り)の問題を解消することができ・・・る点で、引用発明と大きく相違している。」と主張するが、本願発明による「重ね溶接」においても、溶接部位を起点として、第1板部材の側部は上方に膨張するとともに、第2板部材の側部は下方に膨張すること明らかであって、結局のところ、本願発明の構成の限りにおいては、上部及び下部の反り返り問題が解消することは困難なことと認められる。

6.むすび
したがって、本願発明は、上記引用例1ないし2に記載された各発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-29 
結審通知日 2005-08-30 
審決日 2005-09-12 
出願番号 特願平7-106185
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 大野 覚美
特許庁審判官 見目 省二
田々井 正吾
発明の名称 サスペンションアーム  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ